本が紡ぐ”縁”    作:マヨネーズ撲滅委員長

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いつから来店したのが古本屋だと錯覚していた?()


迷子な少女が来店しました

人間気まぐれに行動する時もあるものだ。誰しもが経験しているのでは無いだろうか?無性に何かを欲して自宅の扉を跳ね除ける勢いで飛び出す、なんて経験を。

 

それは新鮮味を無意識ながらに求めているからだろうと思っている。

変わり映えの無い、怠惰な日々に飽き飽きしている現状を打破するべく、未知なる出会いを求めて旅立つわけだ。

 

その未知が指すのは出会いであったり、発見だったりと千差万別だが、ある程度それに対する行動の方向性は決まっているものだ。

自然の絶景が見たければ山にでも登るだろうし、スイーツを求めれば都心の有名店を訪ねるのだろう。

 

これらの理論に自分を当てはめるならば、今回の目的地は本屋と言うことになる。

 

「確かここら辺にある筈だが……」

 

店内に設置されているフロアの全体図を上から下へとじっくり一瞥する。

自分がいる現在地と目的地との距離と方角を正確に把握し、そしてすぐに経路を計算する。

特別方向音痴と言うわけではないが、普段訪れない施設な上に休日故に客の数が尋常ではなく、油断すれば直ぐに人波に流されてしまいそうだった。

 

「全く、なんでここしか取り扱っていないのやら」

 

ままならぬ現状に思わず悪態をつくが、その程度で現実は微塵も揺るぎはしなかった。

 

自分は今、自宅周辺の地域で最も栄えているショッピングモールに足を運んでいた。

月末となり古本屋のバイトで給料を得た自分は、大ファンである作家の新作を買うべく本屋へ邁進していたのだ。

 

大抵一月もあれば新規で購入した本は全て読みきってしまう事も相まって、その期待度は限界値を優にぶち破る勢いだった。

労働目的からして、これが現状人生で最も楽しみにしていることと言っても過言ではない。

 

しかし本来ならばこんな突っ立っているだけでSAN値がゴリゴリ削れそうな場所など避けるはずだった。

だが、近所にある書店は全て売り切れ。在庫を確認しても再入荷待ちと、今後いつ入手できるかも確定されていない始末だった。

それを待つ精神力など持ち合わせていなかった結果、渋々在庫も潤沢であろう大手チェーン系の本屋へと行き先を変更したわけだ。

 

そんな説明染みた回想に耽りつつも、何とか最終的な最短ルートを確認し終える。このまま居座るわけにもいかないのでさっさと移動してしまうことにした。

 

思考回路と直結するようにそのまま足を運ぼうとするが、それは叶わなかった。いつのまにか横に佇んでいた人影を認識できていなかったからだ。

慌てて減速するよう心掛けたが結局間に合わず、軽い衝撃とともにぶつかってしまう。

 

「すいません」

「いえ、大丈夫です……」

 

相手側の少女も申し訳無さそうに一礼を返してくる。これがクレーマーみたいにいちゃもんをつけてくる人でなくてよかった。

相手の弱々しさに若干の申し訳なさが尾を引いたが、赤の他人にいつまでも関わるのもおかしいだろう。

 

結局それから行動を起こす事も無く、そのまま流れるように目的地へと向かうことにした。

所詮は一期一会。こんな道端で出会った程度の関係に気を遣うのも甚だ見当違いだろう。そう割り切った。

 

 

……筈だったのだ。

 

 

「ここ、どこ?」

「……ん?」

 

曲がり角を曲がれば、背後でまだ地図を見ていた筈の少女がいたり、

 

「なんだか、さっきより人が増えている気がするよぉ……」

「……あれ」

 

エスカレーターで階層を二つほど昇った先に周囲をぐるぐる見渡す、やけに見覚えのある少女がいたり、

 

「もう、お店に着いている筈なのに、どうして本屋にいるの……。ふぇぇぇ……」

「……」

 

目的地である本屋に到着したと思ったら、何故か見慣れた少女が先に到着していたり。

 

……もうあれか、これがツッコミ待ちという奴か?彼女は方向音痴なのか近道の達人なのか一瞬本気で分からなくなりそうだった。

 

だが如何せん自分は赤の他人な上に、コミュ障だ。

こんな公然の場で、最早初対面か怪しくなりつつあるが、女子に声を掛ける所業など拷問に等しい。

彼女には悪いが大人しく素通りするのが得策だろう。

そう考え、可能な限り真顔になるよう意識して彼女の横を通り過ぎようとする。しかし、それは結局悪策だったようだ。

 

「このままだと、欲しかった限定商品が売り切れちゃう……。どうしよう……」

「……大丈夫か?君、迷子になってないか?」

「ふぇ?」

 

反射的にナンパ師みたいな声かけをしてしまう。気がつけば体が動いていた。

彼女の悲痛な声は聖人でも悪人でもない自分の罪悪感を煽るにはこれ以上ない程の効果だった。

 

というか、よくよく考え直せばこの場で一時の羞恥を晒すか、家に帰って一生後悔で悶えるか。どちらを選ぶかと言われたら、当たり前だが前者に決まっていた。

どの道多少なりともガラスのハートに傷を負うことが確定していたとも言う。

我ながら面倒くさい。

 

「あなたは確か、さっきフロアマップの所でぶつかった人、ですよね?」

「ああ、あの時はすまなかったな。それで、此処に来るまで何度も見かけたものだから、つい声を掛けてしまった」

「そうですか、わざわざありがとうございます」

 

そういってさっきと同様、申し訳なそうに謝罪する彼女。

しかし相違点を挙げるならば、その声色に若干の安堵が入り混じっているところだろうか。

とりあえず道端では人の通行の邪魔になるので脇まで移動した。

そこで運良く配置されていた地図を眺めながら彼女とちょっとした会議を開く。

 

「君が行きたい店は、ここか?」

「あ、はい。そうです」

「……ここってさっきの地図の場所から見て、ここのちょうど真反対だぞ?」

「……私、昔から道順を理解するのが苦手なんです」

「苦労してるんだな……」

「はい……」

 

そこから話は早かった。

これまで自分が辿ってきた道を逸れない様誘導しつつ、残りは事前に把握しておいた目印を当てにして進んでいった。

その迅速さに彼女は感激したように眼を輝かせる。

 

「ふぇぇ。こんなにすいすい行けるなんて、凄いですね」

「これくらい普通だ。むしろ、どうしたら自分より先に本屋に辿り着けるのかが気になるがな」

「あはは。それは気がついたらあそこにいたので、正直どうやったかは……」

「まぁ、わかっていたら苦労しないよな」

 

コミュ障を、今この瞬間だけは忘れるように意識しながら会話に勤しむ。

その甲斐もあってか、彼女とは比較的好意的な関係を築き上げていた。

 

彼女が比較的引っ込み思案な性格だったのも助長して、それなりに会話を弾ませる事が出来ていた。

テンションの落差が激しいと言葉のキャッチボールは成立しにくいと言われているが、まさに的を得ていると思う。

 

彼女---松原花音さんは、どうやら動物関係のグッズを売り出している店舗に用があったらしい。

それで意気揚々と訪れたはいいものの、即迷子の仲間入りを果たしていたらしい。

曰く本日追加の限定商品らしく、どうしても手に入れたい彼女からしたらまさに自分の存在は渡りに船だったようだ。

 

「こ、ここです!間違いないです!」

「意外と近かったな」

 

興奮気味な彼女を尻目に内心疲労からの溜息を溢す。やはり接客と違って女性と触れ合うというのは慣れないものだ。

彼女は慌てて店内へと入り、目的の品物がまだ販売しているかを確認しに行く。

一先ずこれで一段落だろう

 

今回、自分が一番に得たものはあちこち歩き回った事による疲労。これだけならば大損もいい所。

だがしかし。

 

「本当にありがとうございました!ちゃんと購入できました!」

 

彼女はクラゲらしきフォルムをしたぬいぐるみを片手に、直視するには眩しすぎる笑顔を此方へと向ける。

それは思春期の男子にとって、これまでの労力への対価としては十分すぎて。

 

「……あぁ、こちらこそ。ありがとう」

「ふふ、助けてもらったのはこっちの方なのに。何だかおかしいですね」

 

つい、礼を告げてしまうのだった。彼女との出会いが無ければこんな暖かい気持ちを感じることなどできなかったはずだから。それが何よりの対価だった。

勿論、直接理由を伝えるのは恥ずかしすぎるので口を噤んだが。

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

「……で、綺麗に話が終わればよかったんだけどな」

 

そう愚痴を呟きつつ、店頭に配置されている本を整理する。

礼儀のなってない人だと、立ち読みし終わった後乱雑に放置していくのだ。そうやって無駄に店員の仕事を増やすのは止めていただきたい。

 

彼女とちょっとした冒険を終えた翌日、再びバイト活動に精を出していた。

しかし作業している手元は緩やかで、やる気の無さがありありと滲み出ていた。

それも当然。彼女の目的を果たしてその場で別れた後に、とある事実を思い出したのだ。

 

---あれ?新作買ってなくね、と。

 

慌てて本屋まで駆け込んだが、時既に遅し。

同じ結論に至ってここまで辿り着いたであろう読者達が片っ端から買い占めていたのだ。

 

さらに一度目に本屋の前に到着した時にはまだ在庫があったという追い討ちも相まって、己の精神は完全に打ちのめされていた。

その事実こそが労働意欲を削いだ原因だったのだ。

 

「……けど、まぁいいか」

 

昨日眼に焼き付けられたあの笑顔を思い出せば、次の発売日まで何とか頑張れる、気がした。我ながら男と言うのは現金な生き物だ。

 

「ふぇぇ。ここ、どこぉ……」

「……この声は」

 

弱々しく響く声。昨日の回想から抜け出た妄想かと考えたが、どうやらそうでは無さそうだ。

 

聞き覚えのある声がする方角を向けば、そこには道の四方八方をぐるぐる見渡す空の色をした髪の少女の姿があった。

視線を携帯の画面と正面の両方を行き来しつつ、その瞳には若干の涙が溜まっていた。どうやらまた迷子になってしまったらしい。

 

「……全く、放っておけないな」

「あ!よかったぁ、知り合いに会えて。ここが何処かわからなくなっちゃって……」

 

水を得た魚のように表情を明るくさせ、自分の方へと駆け寄る彼女。

一期一会と表現した昨日の自分に、彼女との縁の強さを教えてやりたい気分だった。




主人公→最近作者すらコミュ障か疑っているが、本人はそう疑っていない模様。後日無事に新作は購入できたらしい。名前はまだ無(略)

松原花音→遠出する時に保護者が必要系女子。その後主人公のバイトが終わるまで古本屋で時間を潰して、大通りまで誘導してもらったらしい。
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