本が紡ぐ”縁”    作:マヨネーズ撲滅委員長

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大学受験も無事終了したので復活です。最終更新が7月22日なので、大体5ヶ月ほど空いてしまいました……

そしてお気に入りが現在494件、評価23人といつの間にか伸びていて驚愕しています。本当にありがとうございます。

そして開幕からあれですが、謝罪を
前回の後書きに書いた通り、今回がライブ回なのは間違いないのですが。

ま  た  分  割  し  ま  す

もう恒例行事みたいになってて申し訳ないです


読書家の少年が来店しました 続

経験と言う言葉は何処まで突き詰めても曖昧だ。何せ、同じ作業をこなしたとしても本人の感性によって幾らでも塗り換わるのだから。

 

例えば、体育の授業で野球をしたとしよう。

試合をする面々の中には初心者の人もいれば、部活に所属している経験者もいる。

そんなチームで試合を行ったとして、皆が皆同じ経験値を得られるだろうか。

 

答えは否。実力者からしたら不完全燃焼だろうし、素人からすればようやく素振りを覚えたかと言ったぐらいだろう。

同じ行動を取ろうが、結局得たものは千差万別。そんな不安定なものなのだ、体験するという事は。

 

逆説的に、希望的な考察の上で語るのならば。その経験は己以外には得られない、希少な代物と取る事も可能だ。

例え得たものがバットの振り方だけだったとしても、それに付随した感動や疲労は唯一にして無二な筈だ。

 

どれだけそれが歪であろうと。懐いた心象だけは、誰にも否定できない。

つまり、今見届けている一時一瞬は間違いなく己だけのものだ。

 

「―――最後の曲は『Emotional Daybreak』でした。それじゃあ、あたし達の出番はここで終わり!次にバトンタッチしま~す!」

 

また一つ、バンドの演奏が終わりを迎えた。それを惜しむように、観客は遠慮のない拍手を浴びせにかかる。

それを姫の装いに扮したボーカルの女性は、何処までも嬉しそうな笑顔で見渡して手を振って返す。

舞台の端から端まで行き来してはしゃぐその姿は、少年のような純粋さを垣間見させた。

 

「次に演奏するバンドは~?……Roselia!」

 

大仰な身振りで舞台袖の方へと手を向ければ、次へと流れを繋ぐ面々が姿を晒す。

 

銀髪の少女を頭に、黒衣に身を染めた五人の少女達が静々と歩みを進めていた。

その内の一人は、このライブへと自分を引き込んだ張本人である今井さん。

こちらへと視線が向け、こっそりウインクをする彼女は相変わらずサービス精神旺盛だった。

 

一方で、役目は終わったと言わんばかりに、速やかに前のバンドは撤収し始める。

彼女達とすれ違う瞬間、今井さんと姫がハイタッチをしているのが見えたが、親しい関係なのだろうか。

まぁ、観客である自分にとっては些細な事。気にするだけ無駄だろう。

 

それよりも、今は眼前にいる集団に注目すべきか。

 

「こんばんわ。Roseliaです」

 

静寂。それ以外の表現方法を自分は持ち合わせていなかった。

この前にも何組か観覧したが、各々特色と呼ぶべき雰囲気を纏っていた。

序盤から騒がしいバンドもあれば、女子の可愛さを前面に出した姦しい所もあった。

 

だが彼女たち、Roseliaは。素早く楽器の最終確認を済ませて、いつ如何なる瞬間でもライブを開始できるよう手筈を整えている。

この後に待ち構える音楽に全身全霊を注がんと言わんばかりに、瞳を鋭く引き締めて。

 

それはさながら波乱を呼ぶ嵐の前兆。思わず冷や汗をかいてしまいそうな程の威圧を放っていた。

予備動作だけで既にパフォーマンスは始まっているのだ。その演奏に対しての真摯さはプロ意識を感じさせるに十分足り得た。

 

軽くメンバー紹介を終えた後で、ボーカルの少女は淡々と言葉を紡ぎだす。

只の言葉など不要と高らかに告げるように。

 

「早速だけど聴いていただくわ。カバー曲で、『Red fraction』」

 

ギター担当が奏でる音がテンポ良く会場を駆け巡る。ダークな曲調が観客の熱を最大限まで燻らせる。

それに追随するようにキーボード、ドラム、そしてベースが幾何学的な紋様を編み出していく。

場の空気が徐々に変質していく様を肌でありありと感じられた。

 

そして、最後に乗り上げて来たのは圧が強い歌声。

言霊が実在していると錯覚するほどの表現力が、そこにはあった。

 

歌詞はさながら、世紀末を駆け抜ける女性の生き様を体現していた。

世界の残酷さなんか知るか、私には銃がある。ならば、この地獄にも一矢抗えるだろう。

神は死んだ。さぁ、躊躇せず引き金を引け。自由を謳うならば。

 

己が機銃を携えた兵士になってしまったかのような意識の転換だった。

まるで、周囲の観客すらも敵と錯覚してしまいそうな、そんな切迫感を覚える。

荒野の如き廃退さは、一抹の寂しささえ感じさせた。

 

おおよそ高校生の少女には不相応な世界を、彼女は。いや、彼女たちは体現して見せた。

ただの音色で、四種の楽器と声帯だけで構築してみせたのだ。

今井さんが所属しているバンドの技術力を身にしみて理解した瞬間だった。

 

―――なるほど、これがRoseliaか。

 

泡沫の世界が終息する。気がつけば、元のライブ会場へと意識が回帰していた。

いや、最初から自分は一歩も動いていなかった筈だ。だからこの現状に奇妙な点など一つたりとも無い。

 

しかし、その不変の事実にすら懐疑的な思考を抱いてしまう。確かに自分たちは異世界へと迷い込んでいたのだ、と。

現実をも惑わす程の歌力があるバンド、それがRoseliaらしい。

 

「如何だったかしら?」

 

端的に投げかけられた言葉が観客の熱意を否が応でも暴走させる。誰もが胸中の感情を表に叫び続ける。

なるほど、確かに。彼女は歌姫と呼称するに相応しい存在だった。

歌声で全てを掌握して見せるのだ。人心も、世界をも。

 

はち切れんばかりの歓声に対して、彼女は薄い笑みを浮かべるがそれもすぐに消え去る。それすらも流麗さを感じさせ、気品をより高めていた。

彼女にはまだまだ事足りなかったのか、或いは演者としての性分か。さらなる一石を投じる。

 

「けれど、まだ私たちの出番は終わらないわ。次は、そうね。Roseliaのオリジナル曲を聴いていただこうかしら」

 

幻影は再来する。そう確信したファンたちはこぞって狂喜する。

そう思わせるほどの中毒性を、生憎ながら彼女たちは持ち合わせていた。

それは最早麻薬と同義だった。一度脳髄に絡みついたが最後、二度と剥がれ落ちない呪縛。

 

「熱色スターマイン」

 

曲名らしき単語をぽつりと投げかける。当然ながら、自分にとっては初耳だ。

しかし、きっとそれは空恐ろしい程の魔力で満ち溢れているのだろう。全てを惹きつけ、焚きつける。そんな力で。

その程度、周囲を鑑みれば容易に察する事ができた。できてしまった。

 

黒髪の少女がか細い指先で流麗な調べを奏でていく。静かに。ただ静寂の最中、物語は徐々に表舞台へと手向けられる。

壮大な音響を靡かせて、歌い手は一言ずつ歌詞を謳い上げていく。

 

等身大の世界がそこにはあった。これこそがRoseliaらしさだと呼称すべきなのか。

気品を感じさせる黒衣と添えられた一輪の薔薇は、触れるのを躊躇わせる孤高を秘めていて。

それでいて、調和する5人組は何一つ欠けることを良しとしない完成形であった。

 

音楽が彼女たちの特色を最大限まで引き立て、彼女たちが音楽を限界点まで底上げしていく。

迷彩の如く混沌な混じり気から排出される相乗効果は、実に魅惑的な魔性を引き出していた。

 

時には神に対し慈悲を請う修道女のように、或いは何かを嘆く人生の先導者のように。

銀髪を大いに乱しながら、音圧の段階を着実と積み重ねていく。

高校生には身に余る妖艶さに身震いするのを禁じえなかった。表情には出なかったが、両腕には無数の鳥肌ができていた。

 

怒涛の音撃が嘘のように鳴りを潜める。そして、彼女の独白が紡がれる。

それは、さながら花火が咲き誇る瀬戸際に付随する静寂のようで。

 

「頂点へ、狂い咲けっ!」

 

なればこそ、彼女の号令こそが引き金なのだろう。掌などでは優に届かぬ遥か上空、そこで一時のみ顕現する青く気高い薔薇。

 

楽器の音が、客の絶叫が、何もかもが臨界を優に越え、破裂した。多種多様な音が過激に飛び交い、男女双方の客が等しく頬を紅潮させる。

輝かしいステージと暗闇で群がる観客席のコントラストがやけに印象的だった。

 

火花は、やがて儚く枯れ落ちる。そして去り際に切なさと高鳴りを残していくのだ。一瞬の余興ではあったが、間違えなく目撃者の心象に深く刻まれた光景であった。

流石に疲労の色を淡く面に滲ませながらも、彼女は満足げに笑って見せた。その数秒だけは、年相応の少女に見合ったもののように思えた。

 

「ありがとう。次は、Afterglowよ」

 

また舞台は塗り変わっていく。青薔薇の花弁が舞い散る夜空から、郷愁を彷彿とさせる夕暮れへと逆行していく。

 

今度の奏者はやけに見覚えのある少女だった。

 

髪の一房ばかりを紅色に染め上げ、勝気に引き上げられた眦。奇しくも銀髪の歌姫と同じ、確固とした信念を読み取れる視線だった。

間違いない。時折、自分のバイト先を訪れる彼女に相違なかった。

話には聞いていたとは言え、こうして彼女の歌声を聞き届ける場に巡り会えたのも奇縁故か。

 

平常通りの仏頂面で彼女は言葉を連ねていく。それすらも億劫と言わんばかりに。

 

「いつも通りに、あたし達は歌うだけ。『カルマ』」

 

郷愁に似た切なさをキーボードの音色が誘い出す。

健気にキーボードへと視線を送る少女を励ますかのように周囲のメンバーは微笑みと共に見守る。

その仲間意識から起因する温もりはロックとは矛盾している気がしたが、これも彼女達だからこそなのだろう。

 

曲は有名なバンドの楽曲のカバーだったからか、容易く歌詞の意味が浸透してきた。

メロディーは本家より大分アレンジが加えられているが、それもまた味となって個性へと変じていた。

 

歌い上げるのは怠惰な日常に心を腐らせた餓鬼のようで、世の摂理を捉えた気になった青年のようだった。

 

僕らは幾度と出会いを繰り返す。際限なく重ねていけば、いつかは人生に理由ができるかもしれない。

無垢が穢れ、未知が爛れていっても。僕らは出会って一緒になるのだと。

 

他種の楽器による奏でが同時に鳴り止み、また苛烈に弾け出す。幼馴染だからか、阿吽の呼吸となって音楽を作り上げていた。

ドラムは荒々しく滾り、キーボードは純朴に音を主張し、ベースは華やかに魅せて、二対のギターは比翼の如く背を託し合っていた。

 

Roseliaが世界を塗り替えるのなら、Afterglowは人に訴えかけるのだろう。

選び抜かれた歌詞はどこまでも生々しく、さながら彼女の号哭。だからこそ、胸中に響くのだろう。青臭さが抜けない、我が侭染みた台詞が。

 

何処までも彼女らしい、音楽だった。

 

「今度は、オリジナルで。『True color』」

 

余韻に浸る事すらも許さずに、彼女は続けざま次なる楽曲へと手を染める。その瞳が寂寥からか、切なげに揺れていた。

 

割れ物に触れるかの如く丁寧に述べられていく言葉は、彼女たちだけのものだ。

借り物ではなく、等身大の感性と主張が入り混じっている、彼女自身から生まれ落ちた言葉だった。

 

やけに熱が篭もっている様子と彼女自身の性格からして、歌詞に実体験を練りこんだのだろう。

だとしたら、そこに偽装といった不純物は微塵もある筈がなく、不器用ながら赤裸々に紡いでいくだけだった。

 

彼女は人と向き合う事は他の誰よりも怖がる臆病者の癖して、根底にある信念だけは何があっても曲げない頑固者だから。

いざと言う場面で彼女は、何処までも青春とロックに殉じて見せるのだ。

それが自分には遥か遠くに佇む、尊い光のように思えた。触れようと愚鈍な行いを示せば、即座に焼き爛れて墜ちてしまうような―――

 

「これであたし達の曲は終わり。……ありがとう」

 

ふとした拍子に我に返れば、既に彼女のライブは完結していた。

 

紅の少女は満足げに役目を終えた。背後に悔いは一片たりとも置き去っていないと言わんばかりに、軽やかな足取りだった。

他のAfterglowの面々も既に舞台裏へと移動し始めている有様だった。

らしくない感傷に浸っていたからか、その程度の事実にすら気づけていなかった。

 

結局、粋がっていただけで自分もまた青臭い少年に過ぎないということだろうか。

 

終までライブを集中して見届ける事ができなかった事を申し訳なく思うべきか、結局自分がいる事に気づかなかった彼女の鈍感さに呆れるべきか。

まぁ、演者としては緊張もするのだから仕方の無いことだろう。結局、その願望は高望みに過ぎない。

 

ライブとは、刹那を駆け抜けるものだと。少なくとも自分は捉えている。

ならば、次の演奏へと目を向けるべきだろう。だから、自分は迷いを乱雑に投げ捨てる。これは、不要だ。

 

次の来訪者は、アイドルグループだった。少々露出の派手な衣装を身に纏いつつも、それを恥じる事のない堂々とした登場だった。

桃色のツインテールを慌ただしく揺らしながら、ボーカルの少女は健気な笑みを浮かべる。

 

しかもただのコスプレ集団では無いらしく、この組の出番となった途端スタッフらしき人物がカメラを回し始めたのだ。

恐らく、商業的な意図の上で結成されたバンドなのだろう。

別に否定する気は無いが、これまでとは一線を画するのはまず間違いないだろう。

 

「次は私たち、Pastel*Palettesの出番でーす!皆さん、しゅわしゅわする準備は出来ていますかー?」

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

 

自分には意味が解釈しきれない音頭に、観客はこれまでで随一の歓声を返す。

容赦ない声援に思わず耳元を押さえ込むが、彼女は糧になったと言わんばかりにより一層笑みを深めていた。

と言うか、観客の変貌が酷すぎやしないだろうか。一瞬、別会場に迷い込んだかと錯覚するほどだった。

 

「それでは聴いてください。『しゅわりん☆どり~みん』!」

 

タイトルからして現代の俗世にどっぷり浸かったような感じだった。そういった方面の知識が皆無な身からしたら戸惑いしかなかった。

 

題名から感じた直感は的を得ていたようで、女子の若さを全面に押し出したような楽曲だった。

コールアンドレスポンスを多用して観客を積極的に沸かせ、女子特有の可憐さをこれでもかとアピールしていく。

今時の流行に疎い自分でも、これがアイドルかと理解せしめる程のカラフル具合だった。

と言うよりも、観客のガチ具合に軽く引き気味だった。いや、だから変貌しすぎだ。

 

ボーカルの声は穢れを知らない透き通った声色で、不思議と好感の持てるバンドだ。

顔の偏差値の高さは折り紙付きのようで、様々なタイプの美女が集っていた。

その内のギター担当が先程カフェで絡んできた人物である事には若干面食らったが。

なるほど、そういう事情ならあの発言も頷けるというものだ。

 

……ただ、自分を見つけた途端にこちらに堂々とウインクするのは止めて頂きたい。ファンにこれでもかと言うほど睨まれる様になってしまったではないか。

うん、初対面の時から思ってはいたんだ。あの子、やっぱり空気読めないタイプだ。

 

そんなファンからの精神的な集中攻撃を受けているとは、流石に彼女たちは気づいていないだろう。

いや、ベース担当の少女は何か達観した表情でこちらを一瞬見ていたが、恐らく普段からフォローに回る側なのだろう。

……いつもお疲れ様ですと、同じ被害者として心の底からそう思った。

 

「今聴いていただいたのは、Pastel*Palettesで『しゅわりん☆どり~みん』でした。どうでしたか~?」

『サイコーーーー!』

 

曲終わりにもしっかりタイトルを説明する辺り、流石は抜かりない。

そして、大音量の歓声にもいい加減慣れてきた頃合だ。いや、慣れでもしないと鼓膜が破れてしまう。

彼女に釣られて嫉妬も霧散してくれたので、こちらも大助かりだ。

 

「このまま次の曲に行っちゃいたいと思いま~す。カバー曲で、『ドリームパレード』!」

 

軽やかなメロディーがステージ上を彩る。文字通り、パレードで演奏されていそうな華やかさがあった。

オリジナル曲に比べて客への投げかけは減ってしまったものの、女子特有の甘さは健在で、何処までも可愛かった。

 

歌詞は勇気が出ない子の背中を押す応援ソングのようで、元気付けてくれるような音楽だった。夢を見る事を諦めないで、一緒にやればできるよ、と。

ニコニコと心の底から楽しんでいるのが分かる笑顔で、歌い手は桃色の髪をゆらり、ゆらりと揺らす。

 

そして、その微笑みに全力で答えると言わんばかりに全力でペンライトを振る観客。

……いや何処から取り出したの、それ?

 

ともかく、これこそアイドルのあるべき姿だと言い切れる理想形がそこにはあった。

それが大元が商いによるものだとしても、誰かが楽しめるのなら素晴らしいものだと思う。

 

「ありがとうございました~!Pastel*Palettesでした~!」

 

大満足だったのか、ボーカルは観客以上に興奮した様子で拳をきゅっと握る。

そういった仕草を隠せていない所を見るに、彼女もまだまだだという事か。

 

「ふぅ、最後までうまく行った……。これは練習の成果がしっかり出ている証拠かも……!」

「……彩ちゃん?よそ見していると危な―――」

「ひゃっ!?」

 

ベース担当の少女が引き止める隙も無く、身近にいたメンバーですらそうなのだから観客は傍観する他無かった。

 

その事件は起こってしまった。足元への注意が散漫だったのか、それはもう典型の如き華麗な転倒だった。

機材に接続されたコード類を根こそぎ引っ張っていく所は、一周回って笑えてきそうだった。

……いや、少なくとも舞台裏のスタッフにとっては笑えないにも程があるだろうけど。

 

ドラムの子も顔を真っ青に変じさせて、―――怪我人そっちのけで機材の方に駆け寄る。

その労わる姿はは素人目から見ても無駄の無いもので、その方面の知識があるのが窺えた。

その対応が地味に刺さったのか、ボーカル担当の少女が涙目から号泣へとレベルアップしたのはご愛嬌とするべきだろうか。いや、それでいいのか学生さん。

 

だが心優しいメンバーもいたようで、キーボード担当が慌ててボーカルの子を慰めに行ってた。

……あれも知り合いな気がするのは自分の見間違いだろうか。見間違いでは無ければ、某自分のバイト先に道場破りしに来た少女にそっくりだ。

まぁ、そんな奇抜な人物は知る限り若宮さんしかいないが、まさかアイドルだったとは。

 

自分は学校でボッチの筈なのにピンポイントな所で知り合い多すぎじゃないだろうか。

 

「……これは整備するのに少し時間かかりそうですね」

「みたいね。何とか短時間で直せそう?この後も演奏を控えてる方がいるでしょうし……」

「はい。損傷とかは無さそうなので、また一から接続し直せばどうにかなりそうっす」

 

やけに落ち着いたべーシストが懇切丁寧に纏めにかかる。遅れてスタッフらしき人たちが機材の再チェックに加わり始めるが、僅かばかり時間がかかりそうだ。

その中にいた女性スタッフがとてつもなく申し訳無さそうに観客に告げる。

 

「すみませーん。五分ほどでまた再開するのでそれまでお待ちください!」

 

正直、原因は号泣している彼女ただ一人だからとばっちりな印象を否めないが、運営側としては対応せざるを得ない事態なのだろう。

彼女にも悪気が無いのはわかるが、もし自分がやらかしたら羞恥心で引き篭もるまである。

実際、ボーカルの人物はこれでもかというぐらい、顔を真っ青に染め上げて頭を下げ続けていた。

ここまで来ると逆に可哀想になってくる。ファンから励ましの声が上がるほどだった。

 

結局、そのままPastel*Palettesの出番は歯切れの悪い終わり方を迎えた。

この騒動に対して動乱の一つでも起こるかと思ったが、案外動揺は少ないようだ。

何故か、やっぱりとかそういった類の表情をしている者ばかりだった。

 

中でも、『丸山とちった』と未知の言葉を零すのは妙に印象に残ったが、これはどういう意味なのだろうか。

唐突に与えられた猶予の間に、そんな事をずっと考えたが分かる訳も無く。

 

結局、機材の復旧が終わり、そのまま次のバンドへと演奏は移ろいていくのだった。




全世界の丸山ファンの皆さん。分割に『丸山とちった』使ってすみませんでした。これしか手が無かった()

次回で流石にライブ回は終わります。いや、やるやる詐欺じゃないよ?

後、メリクリ!
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