本が紡ぐ”縁”    作:マヨネーズ撲滅委員長

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えー、あけおめことよろです()

受験終わったのにこの有様で申し訳ないです。約四ヶ月も間が空くとは自分でも思ってなかったです……
想像以上にライブの描写に苦戦していました。複数バンドを出すと表現が難しいと学習しました()

お気に入り572件・評価28人&総合評価4桁越えと色々驚きです。本当にありがとうございます


読書家の少年が来店しました 続々

「さあ、今度はあたし達『ハロー、ハッピーワールド!』の出番ね!」

 

もう何度目かもわからないし数えるのも止めてしまったが、またもや顔見知りが舞台に登場していた。

それはライブ開始前に絡んできた二人組の片割れである金髪の少女。

笑顔をという言葉をやけに意識している、奇抜な存在だ。

 

勿論、誰かを笑顔にしよう志すのは素晴らしいと思うが、彼女のは何処か一線を越えた何かが秘められている気がするのだ。

普通、そんな絵空事なんて遅くても小学生ぐらいで卒業する。後々にそれを思い描いたとしても口にする人はまずいまい。

今までに居ただろうか。私があなたを笑顔にするなどと宣う人間を、親しい仲以外で見た事があっただろうか。

 

けれど、彼女はその行いを成している。己の常識を嘲笑うかのように奇想天外な事を始めようとしている。

その得体の知れなさが、妙に好奇心と猜疑心を煽るのだ。

 

「何が起こってもやる事はいつもと変わらないわ!―――世界を笑顔に!ハッピー!ラッキー!スマイル!イエーイ!」

 

独特な感性をしたその掛け声に観客はこれまた満面の笑顔で応じる。それが当然と言わんばかりに。

これまでに曲で感動したり発狂に近い盛り上がりを見せた事はあっても、観客を前座だけで笑わせるなんてなかったというのに。

自分にとっての非常識が次々と現実へと移し出されていた。否が応でも歌い手である彼女を注視させられてしまっていた。

 

「『えがおのオーケストラっ!』」

 

派手な衣装をくるりと翻し、高らかに宣言するその姿は些か眩しすぎた。

開幕の号令を聞き届けたDJが奏で始める。熊としての巨躯を感じさせない機敏さで操作する姿は見ていて―――熊?

 

目元を拭うが視覚で得られる情報に違えは無く、本当にDJは熊だった。

ボーカルに意識を割いていた所為だが、一度でも認識してしまえばその異形は主張の強い存在として忘れられないだろう。

 

「……嘘だろ?」

 

呆然と口から零れ落ちた言葉は華やかに飛び交う演奏の音で掻き消えてしまう。

ドラムが刻む音に揃えて、賑やかに奏でられる歌は底無しに明るかった。

 

想像外にも程がある。着ぐるみがバンドをやるなんて狂気の所業をよく実行に移したものだ。

改めて注意しながら目視しすれば、稼動区域の範囲が狭い着ぐるみでは僅かな動作でも手一杯のようだ。

中に入っている人間の苦労が見るからに伝わってきた。

 

このバンドはゲテモノを入れなければ気が済まないのだろうか。

 

「これでまた沢山笑顔が増えたわね!けれど、まだまだ足りないわっ!」

 

一曲目を演じ終えても、彼女はまだまだ事足りないらしい。

満足げな笑顔を誰よりも浮かべつつ、それでも満ち足りてないと宣う姿は触れ難い存在に思えた。

 

「行くわよ〜?『いーあるふぁんくらぶ』!」

 

銅鑼のような音と共に楽器の音色が一斉に走り出す。

リズミカルに弾かれる音はドラムから響いていて、中華風の音声に程良いアクセントを加えていた。

 

ボーカロイドの部類であるこの楽曲は、とにかくわちゃもちゃしていた。

羅列している言葉は一見意味を汲み取りずらいものばかり。

しかし、不思議と異国的な趣を感じられて面白い一曲に仕上がっていた。

 

時には手拍子でリズミカルに奏で、時には高らかなジャンプで型破りな展開で魅せる。

バンドというよりはマーチと表現すべきな、まさに魅せる音楽だった。

 

「ありがとう~!また一緒に笑顔になりましょう!」

 

そう高らかに宣いながら、彼女は部屋の限りまで届けと言わんばかりに手を振る。

観客もそれに呼応するように笑顔を共に手を振り返す。

 

今回のライブにおいて、後にも先にも興奮と荘厳さではなく笑顔と多彩さで会場を彩ったのはこのバンドだけではないだろうか。

そう思わせる程の強烈な個性が『ハロー、ハッピーワールド!』にはあった。

そんな音楽を目撃した自分はただ感極まるでもなく、満面の笑みを浮かべるでもなく。ただ、呆然と佇むだけだった。

 

そんな間抜けな自分があちら側からは目立ってみえたのだろうか。一瞬の最中、黄金色に眩い瞳と視線が重なった。

口元は三日月の如く緩い曲線を描いていたが、その瞳だけは質が少しばかり異なって見えた。

まるで幾重にも張られた障壁を容易くすり抜けてくる様な。そんな奇怪な感触を覚えた。

高みから見透かされたような落ち着かなさに思わず身震いをする。

 

結局そこから何か行動を起こすでもなくそのまま退場していったのは幸運と捉えるべきなのだろうか。

永遠に思えた瞬きだったが、ただの奇天烈集団では無いことを本能で察した瞬間だった。

 

 

入れ替わりに新たな5人組が姿を現し始める。その中にはいつもお世話になっているパン屋の長女も加算されていた。

彼女に自分が今日ここに訪れている事は伝えていないから、きっと気づく事はないだろう。

普段読書にしか興味を示さない自分が、まさかライブに来るとは思うまい。

 

「こんにちわ~!私たち、『Poppin'Party』です!」

 

底無しに明るい声がそれなりの広さはあるライブ会場全体に響き渡る。

両手を交差するという、勢揃いでポーズを決める姿は女子高生特有の雰囲気があった。

 

そこ等ではお目にかかれない、独特な髪形をした少女がバンドメンバーを次々と紹介していく。

『Roselia』のような荘厳さは持ち合わせず、『Afterglow』みたいに王道らしさも無い。

だからと言って『ハロー、ハッピーワールド!』のような騒がしくもなく、『Pastel*Palettes』のような可憐さも無い。

普通。高校生として等身大と表現すべきバンドだった。

 

「さっそく曲を演奏しちゃいまーす!……『Alchemy』」

 

あれ程ふわふわしていた筈の気配が急速に涼やかになった。

先程目撃していた人物とは別物に錯覚してしまいそうな程の急変だった。

ボーカルの生み出す空気に追随するかの如く、他の面々の眼差しが一新されていく。

 

青い衣装を身に纏うギタリストが開幕を静穏に飾る。妙に郷愁感のあるメロディが感傷を燻り、肺一杯に満ちていく。

 

その歌詞は過去の自分を嘆くようだった。人生は有限であるが故に、後悔と退廃の連続であると。

非常な現実に挫けた過去を哀れみながらも、そこから未だに抜け出せない現在。

そして、未来向かってちょっと気弱な宣言と共に踏み出していくと。いつまでもうじうじしていられないと決意表明するのだ。

不思議と、最後にはギターの音色に新たな感情が含まれたような気がした。そう易々と変化する筈が無いのに。

 

「そのまま次に行っちゃいたいと思います!……オリジナルで、『ティアドロップス』!」

 

観客の熱気を一瞬たりとも醒まさないようにと、彼女たちは流れるように演奏を重ねる。

ギターとベースの主張の激しい音と、ピアノとドラムのリズミカルな音が一気に畳み掛けてくる。

 

一曲目とは打って変わり、疾走感のあるカッコいい曲だった。

観客がリズムに乗りやすいようにキーボード担当が手拍子で場を盛り上げ、ベースがリズムの基盤を着実と固めていく。

ドラムも笑顔で連打の応酬を叩ききり、二人のギターが阿吽の呼吸で曲を繋ぎとめていく。

 

気がつけば、あっという間に曲の終盤まで駆け抜けていた。

あれ程主張していたはずの楽器も一旦鳴りを潜めている。

となれば、必然に中央に注目は集まっていった。そうして、期待が極限まで底上げされたところで。

 

「この手を離さない」

 

MCをしている時の印象が嘘の様な、凛々しい決め台詞と共に右手を突き出す。

再び楽器の音響が高鳴るのと、観客の歓声が沸き上がるのは同時だった。

オールマイティーなパフォーマンスを提供するのがこのバンドの特色らしかった。

 

「これで今日のライブは終わりです!またライブに来てくださいね~!」

 

彼女の元気溌剌な大声がライブ終了を告げる言葉となった。

 

観客は楽しい一時との別れを惜しむが、きっと演者の方もそれは一緒なのだろう。退場する時に皆が皆、同様の表情を浮かべていたからだ。

実際、この『Poppin'Party』の面々も、失敗しなかった安堵がありつつも終幕を嘆いていた。まだまだ続けばいいのにと言わんばかりに。

 

そうして会場は余りある熱気以外は開始前と変わりない状態に戻ってしまった。

人が去り、静けさを取り戻したステージは余計に際立って見えた。

今この瞬間に一つの芸術が終わりを迎えたのだ。

 

 

……いろいろ述べるべきなのだろう。何せ今回は同級生に招かれたのだから、それに報いるような反応を見せなくてはいけないのだろう。

知り合いも沢山参加していた。その誰もが演奏に対して真摯に向き合い、一種の作品として完成させていた。

その努力に敬意を払うのならば、せめて労いの言葉でも投げかけておかなければいけないと理論では納得できる。

 

「まぁ、良いライブでは(・・)あったな」

 

けれど、総体的な感想はそれだけだった。

その一言を誰に伝えるでもなく、どちらかと言えば再確認するように呟いた。

 

感動を共有するのに必死な観客達の間を掻き分け、最後列のそのまた奥へと歩を進める。

扉を開けた時に叩きつけられるひんやりとした風にも、ただただ濃密な闇を晒す夜空にも何か思うこともなく。

 

 

誰よりも早く、自分はライブ会場から姿を消した。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

―――後から思えば、この段階であの時(・・・)から成長していたならば良かったのだ。そうすれば一番乗りで退出するなんて行動を取ることもなかった。

 

 

 

「……あいつは。ふふ、なるほどなるほど~?」

 

「まーた、私が有効に使い潰してあげるよ。私は搾りかすもしっかり使うエコな女子だから、ね~?」

 

 

 

―――そうすれば、再び目を付けられることもなかったのだ。きっと。




次回からようやく次の章です。ライブ描写で時間引っ張りすぎましたね()

あ、多分どうでもいいと思いますが、今日誕生日です(誰得)
だから頑張って投稿を間に合わせたという、どうでもいい事情があったりなかったり……

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