サン・ジェルマンを名乗る者   作:アグナ

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転生系の物語は良く見るが、転生について真面目に考える主人公はいねえなという思いつきで書きなぐった一作。

尚、続くか不明。

……だって、私、ありふれた職業で世界最強は一回流し読みした程度しか知らないから!!(ニワカ発言)

しかもまだ完結してなかった頃に……。



露命浬

「博士、本当にこんなところに聖棺なんかが?」

 

「ああ、ワシが生涯に誇れるだろう大発見じゃよ! 今に見ていろよ、ジャパニーズ!!」

 

 中天より降り注ぐ暑い日差しの中、エジプトのある遺跡発掘団に彼は同行していた。黒髪に東洋風の顔立ち、特にこれと入って特徴は無いが、ただ一つ西洋人のような蒼い瞳だけが彼を特徴の無い人間であることを否定するかのように輝いている。

 

聖棺(アーク)、聖書の神々を崇める連中に由縁の品だが、なんてピラミットのお隣で発見されるのかねえ」

 

「ハッハッハ! だからこその大発見だ!! 言っておくがファラオやそれに類する王族家系のミイラを収めた棺と言うわけではないぞ、その辺りは確認済みだ」

 

「そうかい……じゃ、期待せずに検分するさね」

 

 アジア系の人間だろうに妙に流暢な現地の言語を博士と呼ばされた男と交わす。博士の方は特にそれを気に留める様子はない。というのもこの少年とも言える男は業界では曰くつきの人物であった。「魔法使い」「超能力者」「大教授」「フリーメイソン」。そういった様々なオカルト方面で曰くのある人物で、語学達者で考古学に限らず神話、魔術、宗教、歴史……そういった神秘やオカルト方面に傾注している人物として「業界」では有名な話だ。

 

「ボスッ! 戻ってきましたか」

 

「おお、すまんね。何分砂漠は広くて街まで……」

 

「それどころじゃございません!!」

 

「なに?」

 

 少年を伴って調査チームのキャンプに帰還した博士に血相を変えて飛びつく調査チームの一人として派遣された調査員。そんな様子に博士は訝しげに目を細め、問う。

 

「何があったのだ?」

 

「墓荒らしの連中です! どうやら我々がこの地を調査しているを裏の筋で嗅ぎつけたようで……」

 

「チッ、歴史の価値を知らん金の亡者どもめ……それで!? 遺跡は! 出土品は!?」

 

 墓荒らしというのは考古学者にとってそのままの意味ではない。墓荒らしといえば金品を目当てに死者の墓を荒らし、そこに備えられる遺留品等を盗む不貞な輩のことであるが考古学者の言う墓荒らしというのは稀少な遺跡や歴史的建造物から出土した品を盗む盗賊団のことである。国が主導する、或いは権威ある学門が主導する調査団ならばともかく、数十人単位の私的チームがよくターゲットにされやすく、護衛を伴っていても襲われるケースは珍しくない。

 

「今のところ被害は。ただ護衛連中が応戦中ですが、かなり手こずっている……もしかしたらゲリラ崩れの」

 

 調査員が言ったその瞬間であった。ダダッと響き渡る発砲音、それが断続ではなく連続して響き渡る。機関銃かアサルトライフルか。それも一つ、二つで無いところ、もしかしたら相当数での襲撃なのかもしれない。

 

「ぬう。調査員を下げろ、命には代えられん。それから護衛チームに調査地の一時放棄を連絡しろ。……撤退だ!」

 

「しかしッ!!」

 

「命には代えられんと言った!!」

 

 反論を許さない一喝。それで調査員は苦虫を噛む様な苦渋の表情を浮かべたのみ、了解と返して大声で怒鳴りながらキャンプ地に引き返していく。

 

「すまないの。どうやら例の品を見せることはできそうに……」

 

「なら俺が行こう」

 

 は? と博士が反応するよりも早く……瞬間、少年は駆け出していた。

 

「ま、待て―――ミスタ、(カイリ)!」

 

 博士が止まるよう叫ぶが砂漠の、現地民さえ歩くのに苦労する砂地を軽やかに駆け抜けながら浬と呼ばれた少年の背中は呆気なく小さくなっていった。

 

 

 

 

「―――その後、華麗に盗賊団と切った張ったをしたっていうのが今回の俺の春休みだ」

 

「………ねえ、浬くん。それって何処までが創作」

 

「完璧に事実だ」

 

 えー、と洩らすのは俺こと浬……露命浬(ろめいかいり)の友人、南雲ハジメである。素晴らしい夏休みの思い出を徹頭徹尾、一つ足りとして創作を含まずに語ったにも関わらず残念ながら親愛なるオタク仲間は信じてくれなかったようだ。

 

「いや、だって銃火器武装した盗賊団に日本の学生が大立ち回りしたっていうことからして信じられないし……というか前提として何で遺跡調査団にただの一学生が同行できるのさ?」

 

「そこはそれ、俺の人徳と隠された立場がだな……」

 

「はいはい、中二乙」

 

「……少しは信じてみないかい? 友よ」

 

 二人の関係はハジメがいたクラスに転校してきた今年からだが、オタク趣味を蔑視しないことや、同年代からして浮くような言動……変わり者であったことが幸いし、クラスメイトからいじめ同然の嫌がらせを受けるハジメにして唯一友人と呼べるクラスメイトであった。

 

「つーか、いつも通りの針の筵か。やれやれ、理解されない趣味を持った人間は辛いねえ」

 

「あはははは……」

 

 ふと、浬がチラリと横目を向けるとそこには浬たちを……というよりハジメを睨み付ける三人の男子が居た。件の男子以外にもクラスメイトの大半が、侮蔑や睨み、時たま舌打ちまでしている。……というのも両親がその手のサブカルチャーに関わる人間であることとハジメ自身、その手のジャンルに理解を持つオタクであることが要因になっている。最もクラスメイトたちからの嫌がらせの最大の要因となっているのは別にあるのだが。

 

「戦いは数だよアニキ! っていう諺があるが、アレだな。弱い奴を複数で取り囲んで虐めるのはまた違う話だわな」

 

「……えっと、浬。それは諺じゃないんじゃ……」

 

 某日本一有名なロボットモノの名言を口ずさみながらフンと鼻を鳴らす浬に困った顔をするハジメ。この変人だが頼れる友人はこのように思ったことや主張をバッサリ口にする性格の持ち主なので、同じオタクであっても虐められることはない。それどころかオタクに珍しい体育系の人間で荒事にも馴れているため普段ハジメを虐める中心的三人も彼が居るときには絡んでこないのだ。風除けとして頼ってばっかりのハジメとしては心苦しいが、本人は同族よしみと笑って受け入れているので、やはり数少ないハジメの友人であり同じ趣味を語り合える友であった。

 

「と、俺の武勇伝は何処まで話したっけか? ……あ、アレ話したか? ロスに言った時に闇呪術宗教名乗って麻薬を神仏の贈り物として崇拝する裏組織とドンパチした話」

 

「い、いやあ、聞いてないけど……」

 

「おお! そうか、アレはだな―――」

 

 ……時たま。いや、かなりの頻度で中二病設定のような話を語る変人ではあるが。

 

「南雲くんに露命くん、おはよう! 今日も朝から楽しそうだね」

 

「いや、そのえっと……おはよう白崎さん」

 

「やあ女神嬢。今日も日陰者に日輪の笑顔を振りまいてくれるとは、君はなんて聖人なんだ……」

 

「え? 女神? 聖人って……えっと?」

 

「あー、気にしなくていいよ。白崎さん、いつもの病気だと思うから」

 

「ハッハッハ、人を病人呼ばわりとは貴様、同じ黒き歴史を辿ったものとして―――」

 

「うわあああ! ちょっと人を君の病気に巻き込まないでくれ!!」

 

「え? 病気? 浬くん病気なの!? 大丈夫!!?」

 

「いや、白崎さん、病気って言うのはね……」

 

「おお死よ。死の幕引きこそ唯一の救い、この開いた傷口。蝕まれた心臓を見るが良い!」

 

「何時に無くテンション高いね君は!?」

 

 思春期の病を本当の病と勘違いしたクラスメイトにしてこの学校の二大女神として知られる白崎香織はワタワタと慌てだし、変人たる友人は妙に渋い声で両手を構え、どこぞの作品のだろう詠唱を開始している。天然でボケる白崎とふざけているのかわざとなのか判別のつき難い友人に思わず似合わぬツッコミを入れるハジメ。

 

「頭痛くない? 熱は無い? ……ああ、南雲くんもうつってない?」

 

マッキィィィ(ミズガルズ)―――パァァァンチ(ヴォルスング・サガ)!」

 

「大丈夫だって白崎さん、病気っていうのはただの比喩で……っていうか何時までふざけているのさ浬!」

 

「酷い中傷だな卿。私は常に全力だと言うのに。何故なら―――私は全てを愛し」

 

「いつまでやってんのよ、そこ」

 

 ポカリと芝居がかった声で叫ぼうとした浬の頭を叩く女子生徒。大した威力ではないはずだが浬は「うおおおお!? これが女神の抱擁!?」と地面をゴロゴロと転がっている。……学生服が埃塗れになっているぞとハジメは内心呆れたため息を付いた。

 

「おはよう。南雲君、毎日大変ね……うん、色々な意味で」

 

「あは、あははははははは……」

 

 ハジメに同情の目を向けた後、地べたを転がる馬鹿を半眼で見る少女。名を八重樫雫という。白崎香織の親友であり、長身に加え、長い黒髪をポニーテールに纏め上げた目つきの鋭い少女……何処となく癒されるような笑顔を振りまく美少女である白崎と対をなす大人の女性……所謂カッコいい系の雰囲気を纏っているのが彼女だ。因みに二大女神のもう片翼。……どういうわけか、浬と気さくな仲である。

 

「香織、また彼らに世話を焼いているのか? そんな変人達に毎日……やはり君は優しいね」

 

「全くだぜ。やる気の無い陰キャと理解不能な変人、気にするだけ無駄だと思うけどな」

 

 続いて現れたのは二組の男子生徒、天之河光輝に坂上龍太郎だ。前者は容姿端麗、文武両道の完璧超人。後者は典型的な運動系。龍太郎の言動が攻撃的なのは学校に来ても寝てばかりのハジメが気に入らないのと単純に彼がクラスで最も嫌うだろう浬がいるからだろう。何でも体育の授業で何かあったとか。

 

「おっと一瞬で人が集まってきた。モテモテだねえ、友よ」

 

「僕が目当てじゃないのは明らかだと思うけど、分かっていっているよね浬」

 

 ハジメにだけ聞こえる声の大きさで言う浬にハジメはため息を洩らしながら応える。

 

「むう、俺が言っているのはそっちじゃなく……まあいいか、鈍感も朴念仁も主人公の特権さ!」

 

「主人公って、何言っているのさ。大体、虐められっ子が主人公って。そんなネット小説のテンプレじゃあるまいし……」

 

「いやいや、分からんよ。実は俺……転生者なんだ」

 

「いいから、そういうの」

 

 キリッと突然に真面目顔でいけしゃしゃあ言う友人に再びため息が漏れる。遺跡探索やら闇組織やらどうもこの友人は虚言癖、もとい中二病の牢獄から抜け出せていないらしい。

 

「ん? 何話しているの?」

 

「え? い、いやあ、少しゲームの話をね」

 

 と、二人でこそこそやっているのを目に留めた白崎が小首を傾げながら問いかけてくる。そのまま伝えるにはアレな内容だけにハジメは僅かに吃りつつ、適当に言葉を濁す。……話題に入り込むためハジメの机に白崎が乗り出したため気後れたというのもあるが。

 

「やれやれ、香織。優しいのは良い美点だと思うけど無理して彼らばかりに構なくても良いと思うよ? 君だって他にも―――」

 

「え? 別に私は南雲君たちと話したいから話してるだけだけど?」

 

 忠告か或いは別の意図か、いつものイケメン面の笑顔で忠言する光輝。しかし、その忠言は天然気質の女神の言葉でバッサリ切られる。カチン、と僅かに固まるイケメン。クラスの何処かから吹くような音が聞こえる。ハジメはただでさえ身が狭い上、二大女神の片翼に目を向けられると言うことでさらに嫉妬を買う現状に我知らず息を吐く。

 

 ハジメが虐められる要因。オタク趣味もそうだが、一番はこの女神と称される美少女に陰キャの身の上で目を掛けられていることにある。勿論、悪目立ちする友人も一因ではあるが、やはり虐めの大部分は彼女と言う存在に目を掛けられるハジメに嫉妬した人間が、というのが一番だ。現に男子生徒らが射殺すようにハジメを見ている。

 

「ハーハッハッハッハ!! 残念だったなイケメン! 女神の慈愛は遍く全てに降り注がれる……君のような踏み台気質のバッタモンイケメンが女神の目線を釘付けにするなんて百年早い! 素晴らしきかな無自覚な制裁! イケメンは総じて滅ぶべし! 万歳、万歳、おお万歳―――!!」

 

「うるさい、変人」

 

「ぐはあ!?」

 

 怖いものなしに煽りだす、いつも間にか復活した浬。親友である光輝を馬鹿にする言動に龍太郎は青筋を浮かべて食って掛かろうとするがそれよりも早く八重樫の肘打ちを喰らい、再び地面に伏す。心なしかゴキ、という嫌な音が聞こえた気がする。気のせいであればいいが、浬の顔がだんだん青褪めている。

 

 そんな茶番ばかりをやっているとあっとういう間に時間は過ぎ、ガラガラと教師が入出する。ざわざわとしていた生徒たちはそれを合図に各々の席に戻っていく。

 

「またね、南雲君」

 

「うん、また後で、白崎さん」

 

「ほら何時までやられた振り? さっさと自分の席に戻りなさい」

 

「ふふ、流石は八重樫雫。容赦が無い……」

 

 南雲らの集まりもそれを気に解散。小さく手を振り、白崎は自分の席へ。八重樫はため息を一つ吐き、目下に倒れる浬に声を掛け、応じる浬はけろりと立ち上がり元の席に帰っていく……。

 

………

…………

……………。

 

―――時に皆様は転生と言う概念をご存知だろうか?

 

 

 

 何らかの不幸により死んだ人間が死後に蘇えるというアレである。日本ならば仏教の輪廻転生で親しい概念だろう。仏教において現世は人間に課せられた最大の苦しみ、四苦八苦である。つまりは転生とは何度も現世の苦しみを体験する仏教において最大の苦しみなのだ。そうして何度も何度も現世に死んで蘇えりを繰り返す永劫のループを輪廻転生といい、これを脱することを解脱と呼ぶ。これが仏教における輪廻転生の概念である。

 

 仏教以外にも転生の概念は様々なある。例えば、オカルト的側面の転生とは人が前世を思い出すことを指す。仏教における輪廻転生では原則、次なる生では前世の記憶を思い出すかは瑣末な問題として扱われる。何故なら仏教における究極的目標はループから抜け出す解脱であるためだ。しかしオカルトは元よりそうではない。摩訶不思議な現象を追求することこそオカルトであり、そこにロマンを見出すが目的である。だからこそ転生した回数とそこから抜け出すことを目標とする仏教とは違い、オカルトでは前世の記憶に転生を見出す 

 

 とはいえ、転生など所詮は人が未だ開拓できない魂の領域、在るが無いとされる今だ手の届かぬ超常の話である。出来るアプローチは精々、書物を漁り過去と記憶を比べ真贋を問うことぐらい。誰が転生するのか、条件は、法則はというのは殆ど未知領域の話だ。一説には高位の霊能力者・魔術師は独自で転生を行なえるという説があるが、実話かどうかは不明である。

 

 このように転生から出た話、教え、概念は様々ある。あげた二つの例以外にも転生に関する話は各地で見られる。仏教発祥のインドは勿論、ギリシア、ケルト、中国と概念分布は広い。北欧の黄昏の館に関する神話も一種の転生と含めれば概念分布範囲はさらに広がる。カルマ、スカラベ、立川流にドルイド。魔術や呪術と絡めれば話はもはや収集がつかなくなるだろう。

 

 さて、本題に入ろう。転生と、こうして長々と語ったからには当然理由がある。まあ、察しのいいものならば既に気付いているだろうが、俺は転生の当事者である。前世で死に、今を蘇った実例。リアルサン・ジェルマン伯爵……というには過度だろうが、実例は非常に少ない転生を実際に体験した人物として稀少なのは間違いないだろう。

 

「と言っても神様にあった覚えも無ければ転生する要因も見当たらないんだがねえ」

 

 前世を含めれば勉強済みの授業を適当にこなしながら浬は改めて思う。転生といえば前世のネット小説で流行ったサブカルチャーを想起するため、もしや異世界か、非日常かと当初は警戒したが、ここには魔法も超能力も無く、いたって普通の、それこそ前世と変わらない日常があった。

 

 転生した自分自身にも特別な能力は特に無く、しいて言えば前世の記憶ぐらいか。初めの頃はそれになれず今と過去とで差違に悩まされたが今は二度目の学生生活も見知らぬ顔の身内にも馴れた。とはいえ、浬自身、ただただ日常を送っていたわけではない。

 

「ここ数年、色々回ったがやっぱり手がかりは何処にもなし。大体、転生なんて荒唐無稽すぎてね」

 

 転生してすぐ、浬はその原因を求めた。魔術、呪術、神話、超能力、オカルト。荒唐無稽なジャンルに一つでも転生に関するものがあれば飛び込んだし、前世も含めれば立派な大人である浬は子供に見合わぬ行動力で調べまわった。前世では踏み込まなかった法治の外、所謂アウトローの領域にも踏み入った。しかし手がかりは何処にもなかった。神なる存在の実在も、転生者に関する話も、世界の何処にも見当たらない。長年掛けて手に入れたのは己が都市伝説化するという現状と、裏社会での一定地位のみ。

 

「ま、それも前世から見たらチートとか荒唐無稽の一つか」

 

 世界中、色々な場所に立場に国に立ち入った所為か、何時の間にやら自分には色々な曰くと権力が身についていた。今では国内の暴力団、ヤクザは勿論、国外のマフィアにも何人か友人と伝手がある程だ。無論、国家権力に対してもいくらか融通が利く。

 

「学生生活がつまらない、退屈だっていうのはウソになる。大人になってから子供に戻りたいと思ったことは一度ぐらいじゃないし、転生って言うのも悪くない」

 

 もとより惰性で生きてきた。このスペシャルステージ自体には不平も不満も無いのだ。在るとしたら―――それは気持ち悪さだ。原因が分からない、原理が分からない、由縁が分からない。何より、前世の記憶の存在は自分の存在を壊していくのだ。

 

 そもそも自分は実在したのか、この記憶は本当なのか、今の現状は脳か何かの影響で見ている幻覚なのが、一体全体自分は誰で、何者なのか。考えれば考えるほど答えは出ず、逆に自分が狂人の類なのではと自己意識が崩壊する感覚に陥る。今世での異常な行動力の原因の一つは自己を守るための焦燥、というのもあった。

 

「馬鹿やるのも楽しいが、やっぱり一番はこれだ」

 

 友人との学生生活、二度目の生による利点、約束されているだろう将来。全て魅力的であるが、それ以上に優る浬の行動原理。即ち、転生した謎を解くこと。もしかしたらこれは運命とさえいえない偶然かつ偶発的に起きた原因の無いまぐれなのかもしれない。それならそれでいいが、そうならそうである裏付けが欲しい。ともかく浬は転生に対して理由を問いたいのだ。その時こそ、浬は安心して第二の生を歩めるのだから。

 

 ―――キーンコーンカーンコーン。

 

「おっと、授業も終わりか」

 

 起立、気を付け、礼。授業終わりの儀式を終え、各々が休み時間に突入するクラスメイト達。時刻は十二時半ば。昼休みの時間である。……ふと、目を向けるとせっせと簡易食料、ゼリー状のそれを口にするハジメが眼に止まる。アレが昼食と言うのだから相変らずな奴である。

 

「やれやれ……」

 

 成長盛りの高校生に有るまじき食事の取り方に浬は呆れ、世話を焼こうと声を掛けに向うが……

 

「っと、白崎さんか………おお、青い青い」

 

 それより先にハジメのその不摂生な食事を目に留めた白崎がハジメに言い寄る。やいよやいよと話した果てにどうやら一緒に食事を取る事にしたようだ。灰色の青春を過ごした身として些か眩しい。……ふと、視線を感じて見ると、そこにはこちらに目を向ける八重樫が目に入った。身振り手振りで邪魔しない意を伝えると苦笑いが返ってくる。全く、友人思いのお人よしなことだ。―――異変が起きたのは直後であった。

 

「うん?………ッ!?」

 

 足元。見たことの無い魔法陣が光り輝いている。世に出ている魔術資料や論文、一般公開されていない遺跡を巡った浬をして見覚えの無い魔法陣である。それは教室内全域を覆い、光で包んでいる。

 

「………!」

 

 修羅場慣れしている浬は流石の反応で教室から逃げ出そうと行動するが、遅い。浬は、クラスメイトらはその光に包まれて―――その日、ある学校のクラスは神隠しのように行方知らずとなった。

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