ロンダルキアの悪魔王   作:刺身798円

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終 裏

□□

 

 「闘うべきではない!もう奴らに力は残されていない!俺の仲間のサマルトリア王とムーンブルク女王も奴らに倒された。これ以上闘っても、ろくなことにならない。奴らだって闘うほどに学習する!追い詰めるほどに強くなり、なり振りかまわなくなる!サマルトリア王国の一件を忘れたのか!」

 「しかし、王よ。」

 「あなたが以前奴らを滅ぼすべきだとおっしゃられたはずでは?」

 「あなた方英雄は人々のために闘うことこそが本懐なのでは?」

 

 ローレシア王城の会議場で会議は迷走していた。

 状況は以前とは違う。以前は敵の姿が見えなかったためローレシア国民はローレシア王が王国を離れることを嫌ったが、今は敵の正体もわかり、敵の王もすでに討ち取った後である。ローレシア王国民の多くは手痛い反撃を受けた今度こそは、真っ先にロンダルキアの残党処理を主張した。

 

 「サマルトリア王国民の歎きとあなたの亡くされた同胞の恨みを晴らすためにあなたは闘うべきです。」

 「あなたは人類の最強の矛です。あなたが闘わねば一体誰が闘うと?」

 「邪悪なロンダルキアの魔物共を殲滅できるのはあなただけなのです。」

 

 ローレシア王は困惑する。彼の意見はまるで取り入れられない。

 たとえ仮にここで彼がロンダルキアの残党を殲滅できたとして、奴らを少しでも取り逃せば再度危険に晒されるのはローレシア国民の彼らであるはずなのに?

 すでに一度奴らの反撃を受け、サマルトリア王国は壊滅の憂き目を見たはずなのに?

 

 「あなたは闘わなければいけない!

 「あなたは正義の味方だ!あなたは邪悪な魔物を倒さなければならない!

 「我々の英雄として、あなたは闘うべきだ!

 

 なぜならばあなたは聖霊様に祝福されているのだから

 

 

 

 ーーーお前は祝福されているのではなく、呪われているんだ。

 

 ローレシア王はここで初めて、バズズの言葉の真意を理解した。

 彼は強すぎて、彼らはたった三人であらゆる苦難を乗り越えてきた。彼らはたった三人であらゆる敵を葬ってきた。

 人々は英雄に依存し、束縛している。

 英雄は人々が困難に陥る度に、人々の総意という得体の知れない力、あるいは呪いに突き動かされて戦いの場に駆り出されることとなるのだろう。

 

 英雄は人々の力である。

 しかしそれは人々が自身で勝ち取って得た力ではなく、行使に抑制があるものでもなく、人々の己の力を高めるものでもない。ただ無責任に、人々を野次馬にさせるだけのものであった。自分たちを脅かす敵を打倒しろという無責任な外野からの野次。

 ローレシア国民はサマルトリア王国の滅亡を教訓にせず、英雄を無条件に自身達を庇護する巨大な力としか認識しない。ロンダルキアの最後の王バズズを討ち取った。そして目の前にあるロンダルキアの残党という恐怖から逃れるためだけに力を行使しようとしている。彼らはロンダルキアの残党を恐れ、サマルトリア王国を教訓にする。あつものに懲りてなますを吹くようにロンダルキア滅亡を高らかに叫ぶ。

 

 しかしそれは偽りの教訓である。本質を履き違えている。

 彼らが得た教訓、奴らは生かしておいては危険だから処分しろ。しかし真実は逆で敵を処分しようと行動して追い詰めたから敵はより危険になったのだ。

 

 ーーー不死は悪魔ですら忌み嫌う呪いだ。

 

 ローレシア王が存在する限り、茶番は続く。

 人々が一度彼に困難を押し付けうまくいってしまえば、何度でもそれが繰り返されることとなるだろう。そして行為はどんどんエスカレートして、えげつなくなっていく。バズズの言葉は案外と的を射ていた。

 英雄は何度でも困難の度に戦いの場に駆り出され、束縛され、依存され、いつしか人間同士の戦いの場にも駆り出されることとなるのかもしれない。

 

 ドラクエの語られない幕間では、勇者が立つ戦場が存在しないだけだといいのだが。

 

 □□

 

 ローレシア王は、人々に強制されロンダルキアへと旅立ち、そして音沙汰がなくなった。

 彼は終りのない不毛な争いと、いつまでも彼に頼り切る人類を予感し、失踪を選択した。

 

 人々は恐怖し、おののいたが彼らを脅かす勢力が無かったためじきに忘れ去られて行った。ロンダルキアは恐怖の代名詞として語られ、人々が進攻することも無かった。人も獣も一時の安息を愉しむのだ。

 

 音沙汰のないローレシア王のその後を知るものは、いない。

                                   裏 終


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