ロンダルキアの悪魔王   作:刺身798円

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 □■

 

 シモンの爪とムーンブルク女王の杖が交錯し、アトラスがこん棒で敵味方の区別を付けず二人纏めて叩き潰そうとする。

 

 【シモン様っっ!!】

 

 悪魔神官が声を張り上げる。

 シモンとムーンブルク女王は共に引いてアトラスの致死のこん棒の一撃を避ける。

 

 【敵が階下に向かう素振りを見せたら命懸けで体を張れ!イオナズンは敵に直撃させずに爆風だけを当てるように打ち込め!!】

 

 シモンの指示が飛ぶ。

 

 ーーーまずいまずいまずいまずい!!!

 

 シモンは焦る。

 ムーンブルク女王はすでに杖を媒介にせず自在に空間に反射板を展開し、彼女自身が被弾しない光球(イオナズン)すら弾き返している。圧倒的有利で始まったはずの戦局がなぜこんなことに?

 

 【イオナズンはもう使用するな!敵を階下に向かわせないことに専念し、体を張って敵を止めろ!】

 

 指示を出すシモンもすでに前線に出ていて、自身も命を懸けざるをえないことを理解していた。

 

 以前に書いた通り、バズズにとってこの戦局は三つのうちでも最も確実に勝利しないといけない局面である。にも関わらず敵はしぶとく戦い、攻撃を避けつづけ、あまつさえ援護の呪文を弾き返して来ている。弾かれた光球はしばしば悪魔神官やベリアルに直撃している。生命力が高くとも魔力の低いアトラスは、いつまでもイオナズンを喰らって立ち続けられるわけでもない。そして最悪なのが、アトラスを近接戦で援護しなくてはいけなくなったことである。

 

 アトラスは巨大な力を誇るが、弱点も多い。呪文に弱く、知能が低いため搦め手が使えず、小回りが利かない。そして最大の弱点は、下手な共闘をするとアトラスの攻撃に味方も巻き込まれることである。ゆえに今まではシモンは、距離を離して呪文の援護に専念していた。

 

 戦闘は続いている。

 アトラスの力任せの攻撃に悪魔神官が巻き込まれ、ハーゴン神殿の床のしみになっている。五体の悪魔神官はすでに二体まで数を減らし、肝心の女王はアトラスの攻撃を躱し続けている。敵は当たれば一撃で潰せるだろうが、いつになっても当たらないのである。ムーンブルク女王もシモンも共に必死である。

 

 ーーー………っ使うしかないのか?くそっ!!

 

 アトラスの同士討ちを避けながら女王を仕留めることはリスクが高すぎ、確実性に欠ける。自身が先にアトラスに潰される可能性を否定できない。

 シモンは切り札である自爆呪文(メガンテ)の使用を視野に入れはじめていた。

 

 □■

 

 サマルトリア王とバズズの戦いはすでに一方的であり、勝敗は決したといってもいい状況だった。ちからのたての補助を失ったサマルトリア王は、しぶとく戦うも魔力が尽き、回復もままならない。

 

 「ああああぁぁっっ!!」

 【おっと!】

 

 サマルトリア王は破れかぶれにバズズに突っ掛かるが、まるで当たらない。擦れ違いざまにバズズに足に爪を突き立てられる。バズズはバランスを失い倒れ込むサマルトリア王に追撃の爪撃を喰らわせようとする。バズズの爪を必死に剣で防ぐサマルトリア王の腹にバズズは蹴りを入れる。サマルトリア王は雪原を血を吐きながら転がっていく。

 

 ーーーもう俺に勝ち目はない。他の二人の状況はわからんが………。しかしもう俺には二人に托すしかできない。

 

 敵は強く、自身にはもう勝ち目のない状況。サマルトリア王は内心で覚悟を決めて自爆呪文(メガンテ)の使用を決心する。そんなサマルトリア王をバズズは冷静に見ていた。

 

 バズズは用心深かった。バズズは自身に切り札として自爆呪文(メガンテ)がある。ゆえに追い詰めた相手の切り札を警戒していた。そしてたまたまサマルトリア王の切り札もバズズと同じ自爆呪文(メガンテ)だった。

 バズズは冷静に、冷酷に、サマルトリア王を観察していた。

 

 □■

 

 【フン、ヌゥゥン!】

 「はあぁっっ!!」

 

 ローレシア王とベリアルの戦いは、徹頭徹尾ローレシア王が優勢だった。引きながら戦うベリアルはドンドン階上に押しやられ、すでに三階層。これ以上相手を通すわけにはいかない。攻撃を捌きながら自身に回復魔法をかけつづけていたために魔力も著しく減衰している。ベリアルの内包する魔力は莫大なはずだったのだが。

 

 ーーーこの辺りが死に場所か。

 

 ベリアルは戦いながらそうごちる。すでに一度死んでいた彼は、二度の蘇生が起きるなどという奇跡は夢にも思っていない。敵は一度倒したはずのベリアルが二度と迷い出て来ないように完封なきまでに死体を破壊し尽くすだろう。

 

 ローレシア王は必殺の横薙ぎを使わない。普通に戦って圧倒できることと、敵が専守防衛の為に必殺の一撃でも決殺ができないためだ。必殺の横薙ぎは魔法力こそ消費しないが、全身の筋肉を限界まで酷使するために多用すると筋繊維が裂けはじめる。いわゆる筋肉痛である。それだけならまだいいのだが、下手をすれば筋断裂をおこして、甚だ先の戦闘が不利になる。

 

 そして、先に述べた通りに全力戦闘を控えてなおもローレシア王はベリアルを圧倒する。ベリアルの曲がった槍は、ローレシア王の苛烈な剣激を受けてすでに折れていた。

 

 ベリアルは絶望的な戦いを前に、ただ不敵に笑う。

 

 □■

 

 シモンの爪の攻撃を、ムーンブルク女王はいかづちのつえで防ぐ。至近距離でシモンは甘い息を吐き、必死な女王は舌を噛み切り意識を保つ。そこへ迫り来るアトラスの横薙ぎ、女王は前転で躱し、シモンはかすっただけで壁まで吹き飛ばされる。隙を見て階下に向かう階段へ走る女王。叫ぶシモン。

 

 【命を張って止めろおおぉぉぉっっ!!敵を絶対に階下に行かせるなああぁぁ!!】

 

 女王の前に最後の悪魔神官が道をふさぐ。悪魔神官は鉄球を振り回し、女王は迂回する。

 

 【アアアアァァッッ!!】

 

 体から血を流したシモンが痛む体に鞭を撃って最高速で女王に迫る。それら一切の状況を無視してアトラスのこん棒が振るわれる。

 

 【グペッッ!!】

 

 女王とシモンは避け、身体能力の低い悪魔神官が巻き込まれて血霞に消える。

 一向に好転しない状況を前に、シモンはすでに自身の命を使って確実に仕留める覚悟を決めていた。

 

 ーーーバズズ様バズズ様バズズ様っっ!!

 

 シモンはムーンブルク女王に飛び付いて四肢を絡ませる。

 膨れ上がる魔力、暴走する生命。デビルロード(シモン)必殺の切り札自爆呪文(メガンテ)

 ハーゴン神殿の四階で凶悪な爆弾が炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 ーーー危なかった。上手くいった。

 

 ムーンブルク女王は安堵する。女王は爆弾が炸裂した後も健在であった。

 女王は自身の魔力を敵のメガンテの波長に合わせてやり過ごした。いわゆる遮断魔法(マホステ)である。先だって、すでに一度サマルトリア王国で別のデビルロードの自爆という近しい魔法を見ていたことが、彼女に敵の自爆をやり過ごすことを可能にした。

 

 そしてシモンの切り札であっただろう必死の自爆をやり過ごして、女王は僅かに安堵した。安堵してしまった。これまでの戦いがあまりに集中が必要で、神経を擦り減らすものだった。ゆえに自爆をやり過ごした直後に一瞬、彼女は気を緩めてしまっていた。

 

 【ウガアアアァァァッッ!!】

 

 爆弾に巻き込まれて左下肢部と脇腹の消滅したアトラスが痛みに耐えかねて、こん棒を滅法に振り回す。

 

 「あ………

 

 痛恨の一撃。

 女王はアトラスのこん棒を頭部に受けて床を転がり、動かなくなった。

 

 □■

 

 バズズは冷静にサマルトリア王を見ながら、思考する。

 

 ーーー敵は満身創痍。戦いは今現在俺が圧倒的に優位だ。切り札があるならなんであれそろそろ使用して然るべきタイミングと言えるだろう。敵に切り札がなければ俺の優位は揺るがない。逆に、敵が切り札を隠し持ちそれが強力なものであるのならば俺は今の優位をゆるぎない勝利に変えるための札を切るべきだろう。

 

 バズズは状況を冷静に俯瞰する。サマルトリア王は体中に傷を負ってろくに動けない状況。確実に仕留めておきたいが、手負いの獣が恐ろしいことを彼の多くの経験から理解していた。ゆえに彼は安全に始末するために切り札を切る。

 

 バズズは咆哮する。

 ロンダルキアの悪魔王の咆哮に、雪原に隠れていた部下が駆けつける。

 

 【バズズ様、いかようになさいますか?】

 

 メローネがバズズの脇に立ち、バズズに指示をこう。

 

 【悪魔神官とブリザードを奴の周囲に遠巻きに展開しろ。遠距離から死呪(ザラキ)爆裂魔法(イオナズン)を打ち込み続けろ。魔力を惜しむな。総攻撃だ(やれ)。】

 

 サマルトリア王は突如現れ自身の周囲を囲む魔物達に戦慄して目を見開く。

 

 ーーーザラキ…ザラキ…ザラキ…ザラキ

 ーーーイオナズン…イオナズン…イオナズン…イオナズン

 

 雪原に容赦のない爆撃と死の呪いが飛び交い、サマルトリア王は跡形もなく消滅した。

 

 □■

 

 【グッウッ………】

 

 ローレシア王のいなづまのけんがベリアルの腹部に深々と突き刺さる。ローレシア王の剣激はベリアルの鋼鉄の皮膚をたやすく突き破り、傷だらけのベリアルの腹部より命が少しずつ外へ漏れ出て消えていく。

 ベリアルの槍は折れた上に散々にひん曲がり、体内に内包していた莫大な魔力もそのほとんどを失っていた。

 

 ーーー………ここまでか。ふむ、ならば腐れ縁のバズズのために最後に一仕事するか。

 

 ベリアルは終わりを悟り、最後の悪あがきを試みる。

 腹部に刺さっている敵のいなづまのけんを掴み、残された全魔力を展開する。

 

 「何のつもりだ?」

 【いやなに。ただ負けるのが癪でな。最後にプレゼントだ。つまらないものだが是非もらってくれ。】

 

 

 

 ベリアルは攻撃と呪文の同時行動が可能である。それは彼の他の存在にはほとんど不可能な技能である。なぜ普通はそれが不可能なのか?

 シンプルに難易度が高すぎるのである。呪文の制御には緻密な計算と魔力の制御が必要であり、行動を起こしながらの呪文は非常に扱いが難しく暴発しやすい。しかし彼の非常に高い知能がそれを可能にしていた。

 それは二回行動と呼ばれる特性で、彼が本気を出せば魔法と魔法の二回行動、同時に魔法を二つ展開することすら可能であった。バズズも二回行動が可能ではあったが、それは純粋な速度に因るもの。ベリアルとバズズの二回行動はまったく別のものだった。

 そして二回行動の特徴は、二つの行動を並行して同時に行うことである。

 

 ベリアルは前面に火炎魔法(ベギラマ)爆裂魔法(イオナズン)を展開し、同時に体内で地獄の炎を練り上げる。

 限界を無視した()()()()、どうせこれが最期である。

 ベリアルの脳が悲鳴を上げて血管が切れ、鼻から止めどなく血を垂れ流す。

 

 「貴様っっ!!」

 【遅い!】

 

 ローレシア王が剣を引き抜き、全力で防御に回る。

 ベリアルの体内より出でた地獄の業火が爆裂火球を固定(コーティング)する。二人の眼前で火球と光球は地獄の業火に晒されて、熔けて混ざり合う。莫大なエネルギー体はどんどん収縮し、地獄の赤黒い炎は温度を上げて青黒く変化していく。

 

 青黒く輝く地獄の太陽は周囲に火花を散らし、際限なく肥大したエネルギーは空間を歪ませる。

 

 【喰らいな。】

 

 ジゴスパークとマダンテの中間に位置する即席の業炎魔法。最上位悪魔が残されたありったけの魔力と生命力を込めて造り出す地獄の太陽。

 地獄の太陽は飛び散って、周囲に地獄の炎波を幾度となく撒き散らす。

 限界を超えたベリアルの必殺の切り札は二人の中間地点で破裂した。

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