俺と桜(リリィ)のワクワク魔術修行一日目!
……の内容はかなりシンプルというか、時臣さんに聞かせれば酷いものとなってしまった。
まずは魔術についての知識を身につけろと言い、部屋にあった魔術本(蟲ものは全て棄てた)を渡し、俺は少し用事が出来てしまったと言い残して出てしまった。
申し訳ない気持ちは強いが、それよりも俺の魔術特訓が必要だった。
「……まず、間桐家の属性は水で特性は束縛と吸収」
この辺は臓硯の本棚にある魔術本を漁らせてもらったから確認も済んでいる。
それを理解した上で桜をどうするかはかなり問題だった。
いくら属性を無理矢理水に変えるからって虚数のことも一応調べられるように本ぐらい置いておけっての……。
これに関しては第五次ライダーがいないことが恨めしい。
「……結局、今は自分のことで精一杯ってことか」
まずは魔術回路を開く方法からやっていこう。
どうか俺の開き方は普通でありますように……。
「――我は汝、汝は我」
中二臭いが俺の体は間桐臓硯のものだ。
なら、臓硯の魔術回路は今後俺の魔術回路になるわけだからごちゃごちゃ言わずに寄越せという意味もある。
「……お、何かが流れる感覚が……」
半分冗談でやってみたこれが魔術回路を開くきっかけになったのだろうか?
だとすればラッキーだ。というか、臓硯の魔術回路自体は元々開いていたわけだから俺でも簡単に開けたのかもしれない。
「となると、最初の難題は結構簡単にクリアしたことに……っ!!!」
この瞬間、さっきまで浮かれていた俺に自惚れるなと叱るかのように激しい頭痛が襲う。
「うっ……なん、だ……!!」
激しい頭痛とともに今度は大量の他者の記憶が一気に流れ込む。
痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……!!!
ダメだ、苦し紛れだが痛みに耐えるために別のことを考えよう……そうでもしなきゃこのまま気絶してしまう……。
流れ込む記憶の中には様々な魔術の知識がある。
つまり、俺は魔術回路を開いたと同時に魔術刻印を完全に移植しようとしている途中なのだと思う。
普通魔術刻印を移植するには時間をかける必要があるが、間桐臓硯から間桐臓硯の肉体に転生した俺に移植しているためにこの作業をこのたった一日で終わらせようとしているのだろう。
だが、それに加えて、流れ込むのは臓硯の……記憶だ。
見てしまう。間桐家の、闇を。
いわくつき物件ならぬ、いわくつき魔術回路だな。
間桐臓硯の、簡単に肉体と力を……与えはしないという、のが、伝わって……。
まずい、そろそろ、体が……本格的な、SOSを出して、きた。
くそ……桜に、迷惑……かける、なあ……。
その声が聞こえたのは夕方頃だった。
すぐに帰ると言っていたおじさんの悲鳴が聞こえ、急いで駆けつけたのだ。
おじさんの声に反応した人たちが私を心配する目で見ていたけど、その目を無視しておじさんを探した。
「……臓硯おじさん!!」
見つけた時には気持ち悪い蟲に囲まれていて、倒れていた。
きっと、あの蟲に何かされたに違いない。
「……臓硯おじさんから、離れて!!」
私は近くにあった石を投げつけて追い払おうとした。
でも、それを止めるように前に男の人が立っていた。
「……なんだ、これは」
何をしているのだろうか、この人は。
早くしないと臓硯おじさんが……。
「……今、臓硯おじさんって言ったのか? あれが、爺、だというのか……!!?」
「早くしないと臓硯おじさんがあの蟲に……!!」
臓硯おじさんが死んじゃったら私は間桐の家で一人ぼっちになってしまう。
それが怖くて助けを求めた。
……なのに
「……は、はは……なんだ、これは……」
その人は笑っていた。
笑いながらその目はとても怒っていた。
どうしてそんな顔をしているのか私には分からない。
どうして……そう声に出そうとした時だった。
「こんなヤツに、怯えて、人生を奪われて……ひ、は、ははは」
いつの間にか、私の恐怖の対象は目の前の人に変わっていた。
この人は、おかしい。
「殺して、やる。こいつを殺して……殺して……!!」
男の人の前に蟲が集まる。
ダメ、本当に殺されてしまう。
なのに体が動かない。
「ひひヒ、これで……これでぇ!!」
私はただ何も出来なくて目を瞑った。
「……ひっ……」
「……確かにこんな無様な姿は一度も晒したことはなかったのう。だが、その程度で図に乗ったか? 鶴野よ」
気絶してから一時間程度経っていたのが幸いだった。
まだ体が本調子じゃないが、こんな時におちおち寝てられない。
原作において桜の調教に鶴野も関与していたのは知っていたはずだった。
それを家に誰もいなかったからと安心しきっていた結果がこのザマか。
「臓硯おじさん!」
「すまんな桜。俺はこの男に話があるから先に戻っていろ」
桜は一瞬何かを言いかけたが、桜は賢い子だった。
無言で頷いたあと、その場を離れてくれた。
鶴野がいなかった理由に関しては多分慎二を送り、今日から桜の調教を始めると聞いていたからそれまで逃げていたのだろう。
「……さて、雁夜のやつが戻ってくる目処もたった。桜を養子に迎えた今、お主は用済みということになった」
「な、に……?」
鶴野はずっと従っていた分俺に対しての恨みも強い。
だからこそ今回のようなことが起きる可能性は分かっていたはずだった。
「気が変わった、慎二と共にどこへなりとも行くがいい。だが、俺を殺すつもりならその蟲の使役の仕方を教えたのが誰だったかを理解しておけ」
というわけで、鶴野&慎二には早々に出て行ってもらう。
雁夜に比べて鶴野みたいなタイプは近くに置き続けると厄介でしかない。
雁夜は雁夜で面倒だが、扱いやすいのは事実だ。
そして、俺の知る間桐鶴野という存在なら……。
「……分かった」
「カッカッカッ。俺も大事な息子を殺さずに済みそうだ」
「……っ」
鶴野は早足で家の中に戻った。早ければ今夜にでも出ていくのだろう。
……イレギュラーな魔術回路の開き方と魔術刻印の移植でなんとか意識だけは持ってくれた。
もしあのまま戦闘になっていたら死んでいたのは俺の方だったかもしれない。
「……とりあえず、今回はなんとかなったか」
蟲たちを追い払うと今度こそ力が抜けた。
こんなところで臓硯の記憶が役に立つなんて、腹が立つ。
桜にはトラウマを植え付けてしまったかもしれない。
……臓硯が外道にならなければこんなことにはならなかったはずなのに……。
いや、蟲に魂を喰われていたなら俺だってそうなっていたかもしれないか。
「……帰ろう」
今後も臓硯に恨みを持つ人間は現れるだろう。
その憎悪を全て関係の無い俺が受け止めなければならない。
まったく酷い話だ。
「……まあ、ハッピーエンドまでの道のりが険しいほど、達成感は強いか」
それからなんとか自分の足で家まで戻ったあと、再び俺の意識は途切れてしまった。
実に散々な転生二日目の出来事だった。