ハンバーガーショップ。それは老若男女の休息の場であり、ジャンクなフードが絶大な人気を誇っている。
こんな場所で家族揃って食べるハンバーガーというのはもちろん家族団欒の要素の一つであり。
「……」
「……」
「〜♪」
一つであり……。
「お待たせ致しました!」
「あ、どうも……」
「わー! 美味しそう!!」
「そうだな」
……一つで、あり……。
…………どうしようか。何を話せばいいんだ?
雁夜も雁夜でこの状況に戸惑っているのが分かる。
実際俺もあんな場所で会うとは思わなかったし、そもそも俺がやろうとしていたことが全て練り直し……明日に延期となってしまったし、どうすればいいんだ?
「このビッグバンバーガーって大きくて美味しい!」
幸せそうにほっぺにケチャップ付けてバーガーを食べている桜ちゃんが羨ましい。
「それは良かったね……」
雁夜はもう少し食べてくんね? コーラ気まずそうに飲むだけじゃなくてさ。
「……雁夜、ちゃんとまともな物を食べていたんだろうな?」
「え? ああ……少なくとも、あの家にいた時よりはまともに生活をしていたさ」
「……そうか」
ちっがーう!!
こんな反抗期の時に家を出た息子が久しぶりに家に戻ってきて父親と飯食って気まずくなってるみたいな感じは求めていない!
落ち着け。そもそも俺は間桐臓硯を演じているだけで間桐臓硯ではない。
だからここでのやり取りは間桐臓硯としてではなく、間桐臓硯になった俺としてのやり方をすればいい。
桜ちゃん相手にだってずっとそうしてきたんだ。今更その相手が一人増えようが問題はない。
「話したいこともあるだろうが、まずは食べながらこの数年間の旅の土産話でも聞かせてくれ。桜もお前がどういう人間か知りたいだろうしな」
「……随分と普通そうなことを言うんだな」
「こんな所で話なんぞ出来るわけないだろうが」
「……それも、そうか」
それから雁夜はルポライターとして活動していた時の話を淡々と、しかし桜ちゃんの前では笑顔で話していた。
最初こそ言葉をずっと選びながら話しているように感じたが、数分も経てば多少は楽しそうに、バーガーにポテトを食べながら話していた。
「間桐臓硯」の前で楽しそうに話している辺り、多少は警戒を解いてくれているのだと信じたいが……。
「それで、雁夜は世界を見て回ったとな」
「そんな大層な話じゃない。ジジイのことは気に入らなかったが、結局、自分が半端者ということだけが分かっただけだった」
「それで結構。お前は魔術師としてではなく、ただの一般人としての道を選んだのだ。……否、俺のせいで選ばざるをえなかったというのが正しいか」
「何を言って……!」
雁夜が突然机をガタンと鳴らして大声寸前のように立ち上がった。
周りの客はもちろん、桜も少しだけビクッと怖がっている。
……間桐臓硯に対する怒りのせいか。
難儀だが、悠長にしてもいられない。
「雁夜、俺に対する怒りは分かるが今は静かに座っていろ」
「ッ、そういうことじゃないんだ。……頼むから、ジジイのやってきたことを、自分の責任のように抱え込まないでくれ……」
………………あれ?
いや、嬉しい言葉だけどさ、今欲しいのはそういう言葉じゃないんだよ。
「か、雁夜。別に抱え込んでいるつもりは微塵もない。寧ろ俺は今まで……」
「影武者なのかあいつが隠していた孫なのかも俺は知らない。でも、アンタは他とは違う……なんていうか、魔術師に見えない魔術師なんだ」
あ、やっぱり影武者と思ってたのか。
それはまあ知っていた。でも、そんな短時間でころっと俺をいい人だと思ってしまう?
間桐臓硯の影武者と思ってたならもっと疑ってもよくない?
単純すぎないか? 一つの会話でMAX100が好感度のゲームで50ぐらい上がった気分だぞ。
「あのな、俺は間桐の現当主、間桐臓硯本人だ。勘違いしているようだが……」
「……兄が家を出たから、ジジイがアンタを間桐臓硯として当主に立てているのか。あのジジイめ……」
「そうではなくてな?」
「いや、いいんだ。あんたには感謝してもしきれない……。だから、桜ちゃんのことや後のことは逃げた俺が責任を取る。あの時にそう決めたんだ」
ダメだこの雁夜おじさん、話を聞かねえ。
何とかして俺が間桐臓硯だってことを信じさせないと困るな……。
「雁夜おじさん、臓硯おじさんは臓硯おじさんだよ?」
「うん、桜ちゃん。大丈夫だよ、俺もちゃんと分かってるから」
分かってねえんだよ雁夜!
いやこれダメだわ。ここまで聞かないなら言葉じゃダメだ。
臓硯みたいなことはしないにしても、一芝居必要だな。
「……雁夜よ、貴様にはちと話をしなければならないようだな」
「!? ぞ、臓硯……?」
「臓硯おじさん……顔怖いよ?」
……あ、力みすぎた。
桜ちゃんまで怖がらせる気はなかったんだ。信じてくれ雁夜。
「おっと、すまなかったな桜。……さて、雁夜の部屋を整理しなければならんし、帰るか」
「そ……そう、だな……」
そんなに怖い顔したのか?
多少驚かせてやろうとはしたけど、何もそこまで……いや、桜はまだ子供だし雁夜は臓硯に対して恐怖しか感じていない。
そういうものが人を天使にも悪魔にもするものだ。
若い時の臓硯って基本仏頂面ってイメージだしな。
自分の反省をしつつ、結局急ぐように自分のバーガーを食べて三人で自宅に戻った。
桜ちゃんには部屋でゆっくりさせ、俺は雁夜を自室に呼んだ。
「……ここは、ジジイの部屋……」
「雁夜よ。俺が本物の、今までお前たちを苦しめた張本人、間桐臓硯だ」
「……もう桜ちゃんはここにはいない。そろそろ本当のことを話してくれ」
「これが事実だ」
書斎でたまたま載っていた若い頃の間桐臓硯と遠坂、アインツベルンの御三家が映っている資料を見せる。
「マキリ・ゾォルケン……!?」
次に間桐臓硯がどんどん老いていく姿の写真を、最後に雁夜のよく知る臓硯の写真を取り出した。
「そんな……どういうことだ……」
「正確には、俺は間桐臓硯があのように成り果てる前の間桐臓硯だ。もし、未来の俺が外道に成り果ててしまった時のために精神の退化魔術を自分に仕込んでいたのだ」
「……つまり、目の前にいるのは、間桐臓硯であって間桐臓硯ではないということなのか?」
よし。とりあえずこれで俺が本当に間桐臓硯なのかもしれないと思わせることには成功したはずだ。
影武者とかそういうのは面倒臭いからいっそのこと俺が間桐臓硯だということで話を進めた方が早い。
……そして、この際だ。
ほんの少し予定が早まったが、間桐雁夜を俺の協力者1として勧誘しよう。
「とはいえ、記憶の殆どは引き継いでいるから全くお前たちのことを知らないわけではない。自分が何をしでかしたのかも理解している……本来なら煮るなり焼くなり好きにしろと言いたいのだが……今は緊急事態なのだ」
「緊急事態?」
「そうだ」
俺は大きく深呼吸し、これから何を言うつもりだと唾を飲む雁夜に向かって深刻な表情を浮かべた。
「――今、アインツベルンの仕業で冬木という街が、人間が、危険に晒されている。それらを救うためにお前の力を貸してほしい」
――第四次聖杯戦争まで、約一年。