転生したら間桐臓硯だった男の話   作:鯵〆鯖

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準備期間 後編

 間桐雁夜に持ちかけた協力。

 それと同時に俺はこれから起こるであろう第四次聖杯戦争の惨劇を伝えなければならなかった。

 

 まず第三次聖杯戦争で何が起こったのか。

 アインツベルンが召喚した英霊とその影響。

 もし今回の聖杯戦争で勝利者が出た場合、どうなるのか。

 

 それらを一通り伝えた上で俺は問いかけた。

 

「雁夜。これはスケールを大きくすれば冬木を、目の前のことなら貴様が未だに好んでいる遠坂の嫁と娘を救う戦いになる。非常に難しいが、俺に協力をしてくれないか?」

 

 と。

 ヒーロー気取りをするにはあまりにも背負うものが大きすぎるお願いをした。

 

「そんな……そこまで分かっているなら警察に通報してしまえば……」

「信じると思うか? 仮に信じたとしても魔術師に関わった一般人の末路というのはあまりにも悲惨なものだぞ」

「そ、それも、そうか……。なら……頼りたくはないが、時臣たちを利用するのも一つの手じゃないのか? 間桐と遠坂は桜ちゃんを養子に出せるくらいには関係は良好だと思っているが」

「その気持ちも分かるが、アインツベルンがそう簡単に諦めるとは思わん。何よりお前が魔術師を嫌うように、魔術師も魔術師を信頼しているわけではない」

 

 遠坂時臣への相談。告げ口。

 懸念すべき点は多数ある。

 遠坂特有のうっかりや言峰の存在、しっかりと解体出来るかどうかの不安等々……。

 

 ……といっても、そんなことも言い訳にしかすぎない。

 正直、迷っている部分が自分にはある。

 第四次聖杯戦争前に全ての事を終わらせた場合、衛宮士郎という人間は誕生しなくなるし、セイバーはずっと答えを得られずに聖杯戦争を繰り返す。

 でも、そんな理由で、今を生きる人たちを俺は見殺しにするのか……?

 

 やれないわけではない。

 事前の避難勧告や魔術での洗脳を使えば被害を最小限に抑えた冬木の災害に出来るだろう。

 だが、これは頭の中で考えた「こうなったらいいな」にすぎない。

 最悪の想定を全く考えず、それの対処法も知らず、果たして衛宮士郎の誕生を願ってもよいのだろうか?

 そもそも衛宮士郎だって元がどういう家庭だったのかは定かじゃないが、また違った幸せか何かを掴んでいた可能性だってある。

 

 ……ああクソ、まだ時間はある。とりあえずはやれることは全部やっておくしかない。

 

「……ジジイに考えがあって、その最悪の事態を防ぐ方法もあるっていうなら、俺はジジイに託す以外の方法がない。だが、そこまで考えがあるなら、俺に何を手伝わせる気だ?」

「……ああ、そうだ。ルポライターをやっていたのだろう? その腕を見込んで今回の聖杯戦争に参加する者たちにスマホでメッセージを送ってほしいのだ」

「…………スマホ?」

 

「え?」

「え?」

 

 俺、何かおかしなこと言ったか?

 ただ携帯で……あ。

 そういえば第四次聖杯戦争の時代にそんなものは普及されてないし、あったとしてもメアドとかSNSとか時臣は持っていないし使えないんだよな。

 スマホの話なんてすることなかったが、いざこうしてみると現代っ子の癖が完全に抜け切っていないな。

 

「コホン! ……兎に角だ、一人を想定していても協力者が二人、三人と増えていけば成功する確率は高くなる。雁夜は聖杯戦争の参加者が判明した後にその執筆スキルを存分に活かして敵をこの家に誘導してもらいたい」

「俺の腕を、か……。だが桜ちゃんはどうなる」

「桜に関しては貴様の家に泊まらせればいいだろう」

「家……あ……」

 

 いくら葵さん好きーな雁夜とはいえ、間桐の家に戻ってきた当初は家賃もしっかりと払っている家があったはずだ。

 その間の避難場所さえ決めておけば二人が死なずに済むし、衛宮切嗣に脅されて鶴野みたいになることもない……はず。

 

 何が原因で桜ちゃんが黒桜化するか分からないため、虚数の制御が完成するまでは極力負の感情を与えないようにしなければならない。

 

「それで、協力してくれるのか?」

「……桜ちゃんを助けると誓ったんだ。その為なら何だってしてやるし、この街だって守ってやる」

 

 よし。これで雁夜からの協力は得ることが出来た。

 「間桐臓硯が第四次聖杯戦争に参加する」という事態がどれだけの歴史改変に繋がるのか分からない間は俺の知る原作通りのマスターたちが参加することを願うしかない。

 特に注意すべきはアインツベルン。

 切嗣をマスターにするか、アイリスフィールをマスターにするか、別の第三者をマスターにするかによってどうするべきかが変わってくる。

 あいつらどの世界線でも大体やらかすしな。

 

 ……致命的うっかり遠坂とクソ外道&性格に難アリ間桐と反則アインツベルン。

 どうしてFate世界の御三家はロクなのがいないのだろうか。

 どうせ根源に至りかけても抑止力に消されるだけなのに。

 

「……あ、それで思い出した」

「? 何がだ?」

「雁夜、これ」

 

 元臓硯の机の中から各種教科書を用意する。

 雁夜おじさんは可哀想ではあるが、いつまでも人妻に執着して最終的に思考がバグる男だということも間違いではない。

 

 というわけでだ。

 

「お前用の道徳の教科書とサルでも分かる人の気持ち講座だ。遠坂の嫁のストーカーにならんよう俺がしっかりと教えてやる」

「…………道、徳…………」

 

 なんだその「お前が? 俺に? 道徳?」みたいな顔は。

 バカにしてるのか。

 

「……たしかに。たしかに……確かに! 俺は誰もが認める外道だった。だった!! だがな? お前も性格に難があるのは理解しろ。お前そのうち他人に利用されて時臣を倒すことも出来ず遠坂葵の首を絞めて何も救えず守れず無様に死ぬかもしれんからな?」

「……嫌に具体的だが、俺はジジイみたいな外道じゃない! そんなことするわけないだろ!!」

 

 あーいいね若いって。

 俺も若いけど。

 

「コホン! ……実は雁夜にはもう一つ頼みたいことがある」

「……なんだ」

 

 ここに来てすぐに直面した問題の一つ。

 さっさと解決しなければならない問題の一つだ。

 

「…………桜の学校だが、どこに入れようか迷っている。雁夜、桜が通うに適した学校を見つけろ」

「そうか。学校…………は?」

「だから、学校だ。学校。スクール」

「いや、英語で言わなくてもいい。……待て、話のスケールがさっきと違いすぎて待て、一回落ち着かせてくれ」

 

 一度部屋から出て、深呼吸の音が聞こえた後、再びこの部屋に戻ってきた。

 

「……学校、だぁ? 俺としてもジジイ一人に任せるのは不安だが、どうしてそんな深刻な顔で話す」

「深刻だからだ。遠坂から逃げて甘やかされていいご身分とかいう悪評がご近所様からつけられないよう、遠坂の娘と同レベルで違う学校に入れさせなければならない。……が、ここで問題が起きた」

「……問題」

「そうだ」

 

 俺が定期的に外に出る理由。

 見落としていた俺に足りない知識。

 それはまさにこれだった。

 

「……過去の記憶が混ざったのが理由か、俺はこの土地の地理が全くもってさっぱり分からんのだ」

 

 それを聞いた雁夜はというと……。

 

「………………」

 

 それはそれは、とても困惑した、やっぱりこいつは間桐臓硯ではないなというような顔をしていた。


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