INFINITE・ROGUE   作:鉄の字

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第一章
一話:氷室幻徳と言う男


思えば俺の夢は果てしない道だろう。

それも夜の様に暗くて何も見えない道だ。

 

でも。

それでも。

 

どこかで待っている君を。

何も思い出せないけど、きっと笑っている君に会うために。

 

俺は──氷室 幻徳は歩みを止めてはいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは静寂に包まれた教室。

並べられた席に生徒は座っているにも関わらず口を開かなかった。

その視線の先は教卓に立っている一人の少年だった。

 

首を隠すほどに無作法に伸ばされた黒髪に十五歳とは思えない成熟した顔付き。

ただならぬ凄みを纏う少年に隣に立つ女性教師は唾をゴクリと飲み込む。

 

塵が落ちた音さえ響きそうな静けさの中、少年は口を開いた。

 

「氷室 幻徳。好きな食べ物は人間が食える物。嫌いな食べ物は人間が食えない物。一年間、よろしく頼む」

 

少年──氷室 幻徳は簡素で素っ気ない自己紹介をする。

その場にいる誰もが幻徳の強面の顔に半分恐怖、半分好奇心と言った視線を送る。

 

しかし、そんな視線を受けても幻徳は狼狽えない。

例え、幻徳から見た目の前の光景は余りにも異質だったとしても。

 

幻徳と一名を除いた全てが女性。

 

そう、ここは女性だけしか扱えない兵器IS──インフィニット・ストラトスを学ぶ学校、IS学園なのだからだ。

 

並の男なら緊張で心臓が張り裂けそうになっているだろう。

だが、幻徳は違った。

 

 

 

 

 

 

(お腹、痛い)

 

 

 

 

 

 

今、絶賛腹下り中。

腹を蠢く不快感に眉間の皺を更に深くする幻徳に巨乳な女性教師は『ヒッ!』と悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

何故、男である幻徳がIS学園にいるのか?

単純明快、男である筈なのにISを動かしたからだ。

 

しかし、女しか扱えない兵器を男、それも二人が起動させた事は世界を大きく揺るがした。

 

一人は織斑一夏。

そして、もう一人は氷室幻徳。

 

だが、世界は幻徳よりも一夏に注目していた。

 

ブリュンヒルデと名高い織斑千冬の弟である織斑一夏と違い幻徳は戸籍も無ければ親もいない風来坊であるからだ。

 

とある事情より十歳から前の記憶が無い幻徳は育ての親と共に世界を転々と旅していた。

色々な国を旅していた幻徳だが、突如ISを使用した紛争に巻き込まれてしまう。

 

逃げている最中に撃墜されたISが目の前に墜落。

そのISの脇を通り逃げようと、触れた途端に何故かISが装着されていた。

 

直ぐに外して逃げれば良かったのだろうが不特定多数に見られてたが為に直ぐに政府へと召し上げられ、IS学園へと放り込まれたのだ。

 

てっきり根無し草の自分ならモルモットにされるかと思っていたが、何の陰謀が働いたのか五体満足で入学している。

それを幸いと見るべきか、これからの三年間女子だらけの学園で暮らすのを不幸と見るべきか。

 

何にせよ、これから三年間のことに目を向けなくては行けない。

 

思考の海から浮上した目の前の景色は、この一年一組の担任であり織斑一夏の姉である織斑千冬が弟に出席簿でブン殴っている割と面白い光景だった。

 

(織斑一夏………面白そうだな………)

 

とりあえず、目の前で頭をさすっている少年と一緒なら退屈はしないだろう。

幻徳は胸に湧く高鳴りを感じながらそう考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イケメンな一夏の挨拶による歓喜な叫びやブリュンヒルデの挨拶による百合百合した叫びなど、他のクラスの心配にならないかと思える程の騒がしさをした一年一組のHRが終わる。

各々隣人と他愛ない話をしているが、その話題の的は席の最前列に座る二人の男だった。

 

一年一組の女子に加え、他のクラスからも一目見ようと廊下から二人を見詰めていた。

 

居心地悪そうに感じている一夏は堪らず隣の席の幻徳に話しかける。

 

「氷室幻徳、だよな?俺は織斑一夏。よろしくな。一夏って呼んでくれ」

 

「先程紹介したが氷室幻徳だ。どうせ男子が二人しかいない学園生活だし、仲良くしよう。俺の事も幻徳で構わない」

 

挨拶をする一夏に挨拶で返し握手する為に手を差し出す幻徳。

同じ男、強面だが割と良い奴だと分かった事に感動し、強めに固く握手する一夏。

 

 

 

 

その瞬間、ポキリと言う軽い音と共に幻徳の手が腕から外れた。

 

 

 

 

「折れたーーー!?!?」

 

「安心しろ、手はある」

 

外れた手をブルブル震えさせながら叫ぶ一夏に幻徳は表情を変えず何も異変の無い手を見せた。

よく見ると一夏が握る手はプラスチックで出来た偽物だった。

 

「ちょっとしたジョークだ」

 

「無表情でやられるとただ単に怖いんだけど!?」

 

「そうか………それだとこっちも駄目になるな」

 

「何かすっごい禍々しい手を取り出してる!?」

 

「今なら鷹、虎、飛蝗を模したメダルの玩具も付いてくるぞ」

 

「いや、要らねぇよ!」

 

先程の緊張はどこへ行ったのやら。

漫才を始める二人だけの空気に周りの女子達は入れずにいたが、その中で一人だけがズンズンと二人に近づく。

 

「一夏」

 

「え………?箒?箒なのか?」

 

「あ、ああ………久しぶりだな」

 

その近づいて来た人物を見た一夏は目を丸くした。

その人物は長い髪をポニーテールにした少女で頬を少し赤らめている。

 

「その、少しいいか?」

 

「おう、俺も積もる話があるからな。幻徳、悪いけど席を外すな」

 

「あぁ、行ってこい」

 

見た感じだと久しく会ってなかった友人に偶然遭遇した、と言った感じだろう。

そして、箒と呼ばれた少女のあの表情はきっと………

 

一夏と箒の関係を推測した幻徳はどこか微笑ましく思っていた。

尚、幻徳の顔は無表情から崩れない。

 

 

 

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