INFINITE・ROGUE   作:鉄の字

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十二話:『氷室幻徳』と言う『カイ』

時は光陰矢の如し。

皆が未確認ISがアリーナを襲撃した事は過去の事となり始めた頃。

その日、皆は自身のISスーツは何がいいかカタログを見ながら雑談していた。

 

そんな時、一人のクラスメイトがこんな言葉を出して、話題が一気に変わる。

 

「あ、そういえば今日から転校生が来るんだってさー」

 

「この学園は何かイベントがある度に転校生が来るのか?」

 

「もはやジンクスを超えて確信だな」

 

一夏の隣で手を組みながら頷く箒に周りの生徒も同じようにウンウン、と頷いていた。

 

「では転校生を迎える為に全員で輪になって回って踊るか」

 

「転校生が怖がるから却下ですわ」

 

「む………」

 

幻徳の申し出をセシリアが華麗に断った。

段々とクラスの皆が幻徳の扱いが分かってきた様である。

嬉しいのやら悲しいのやら。

 

「座れ!SHRの時間だぞ!」

 

そこへチャイムがなり鬼教官こと織斑千冬が教室に入って来た。

 

「ではSHRを始める。少し噂になっているがこのクラスに転校生が二人来ることになった。うち一名が手続きで遅れているので、先ずは一人、紹介する。入って来い」

 

教室のドアが開き入って来たのは銀髪の少女だった。

赤い瞳に左眼に眼帯を付け、小柄な体に腰まで伸ばした銀髪を揺らしながら教卓まで歩く。

 

「……………」

 

「………挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

「ここではそう呼ぶな。私はもうお前の教官ではないし、お前は学生だ。私の事は先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

この氷のような表情をする少女から教官と呼ばれる千冬。

一体、この先生は過去に何をやっていたのだろうか?

そんなクラスの心中を無視し、ラウラは口を開いた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

あまりにも簡素過ぎる自己紹介にクラスが沈黙に包まれた。

 

どこかで聞いたことがある自己紹介に幻徳は『やはりインドダンスじゃないと駄目か』と頬杖をつきながら眺めていると、幻徳とラウラの視線が合う。

 

大体の一般人であれば強面である幻徳の顔を見れば誰でも死を悟り念仏を唱えてしまう。

だが、ラウラの様子は違った。

 

まるで幽霊でも見たかのような目でヨロヨロと幻徳の近くまで寄ってくる。

先程の態度から一転したラウラに千冬含め全員が戸惑いを隠せない。

 

「やはり………やはりそうだったんだな………」

 

そして、次の行動で全員の目が点になる。

 

「生きてたんだな!カイ!」

 

「む?」

 

何とラウラはその小さな体を幻徳の体へと埋めるように抱きしめていたのだ。

突然のハグに周りのクラスメイトは一気にヒソヒソ話をする。

 

「え?………ボーデヴィッヒさんと氷室君って知り合いなの?」

 

「………でも幻徳さんは記憶無いって言ってましたわ」

 

「………だが、これで『お前なんか知らない』って言ってしまったら、あの転校生は悲しむのでは………」

 

「………だ、大丈夫だって。幻徳だぜ?しっかりとその場の空気読む男だと俺は信じて──」

 

「すまん、俺は氷室幻徳で、カイではない。そして、君の事を全く知らないのだが?」

 

((((ダイレクトに行きやがったぁぁぁああああ!!!!))))

 

クラス全員が口をあんぐりと開けながら胸の中でそう叫んでいた。

当然の如く、ラウラはショックを受けた顔になる。

 

「な………!?そ、そんな事は無い!データを見ても私の幼馴染のカイだ!お前はいつも明るく、皆の為に楽しそうに笑っていた、私の知っているカイだ!」

 

その瞬間、クラス全員の心の中は『そんな笑顔の氷室幻徳は見たくない』である。

全員、無表情の強面な幻徳に慣れたために笑顔のこの男を想像できなかった。

 

尚も首を傾げる幻徳にラウラは『お前は……』と言葉を紡ぐ。

 

「時に手が折れるドッキリやったり、フィジットキューブなる物で上官をイラつかせたり、初めて見た私を年下扱いしたり、話のオチを思いつかなかったり、量産型で熱くなったり、施設の自動販売機におでんを入れる為に原稿用紙二十枚書いたり、友好の証とか言ってインドダンスを踊ったりしていたじゃないか!!」

 

その瞬間、クラス全員の心の中は『間違いない。それは氷室幻徳だ』である。

対して幻徳はこのIS学園ではやった事あるが、この少女が共にいた記憶が無いので変わらず頭の上にはてなマークを浮かべていた。

 

「む………む?」

 

「ラウラ、席につけ。今はまだSHRだ」

 

「っ………ハッ!………カイ、また後で来るぞ………!」

 

ラウラはその長い銀髪を翻し席につく。

それと同時に山田先生が一人の生徒を連れて教室に入って来た。

 

「織斑先生、すみません!もう一人の転校生を連れてきました!」

 

「あぁ、山田先生、迷惑をかけてすまない。ではデュノア、自己紹介しろ」

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。よろしくお願いします」

 

その金髪の人物は線が細い──

 

「「…………男?」」

 

──男子だった。

 

「はい。僕と同じ境遇の人が二人いるということで本国から転入を──」

 

瞬間、音響兵器と化したクラスメイトの喜びの叫びにより遮られた。

 

(ふむ、140dBか。飛行機レベルだな)

 

騒音機を片手に耳栓をした幻徳だったが、その思考の隅ではラウラの事を考えていた。

 

 

 

 

 

──何故、彼女は自分をカイと呼ぶ?

 

──自分の本当の名はカイなのか?

 

──俺は………何者なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休憩時間。

ラウラに校舎裏へ呼び出された幻徳。

普段なら『オラ飛んでみろよ、と言われても大丈夫なように財布には諭吉しか入れてない』と考えるのだが、状況が状況なので真面目にしようと思っていた。

 

そして、ラウラが振り向いたと思うと、先程と同じように抱き締めてきたのだ。

 

「カイだ………この匂いは間違いなくカイだ………」

 

(言い逃れ………できない………)

 

男女が校舎裏で二人っきり。

何も起こらない筈もなく………

 

まぁ、何も起こってはないが、間違いなく誰かに見られたら社会的に抹消される可能性は大である。

 

幻徳はラウラの肩に優しく触れて軽く押しながら離れさせる。

幻徳に離れさせられ不安そうな顔をするラウラへ幻徳はゆっくりと自身の事を話すことにした。

 

「ボーデヴィッヒさん、聞いてくれ。俺は君の事を知らない。いや、覚えてないんだ。俺は十歳よりも前の記憶が無いんだ」

 

幻徳の言葉にラウラはその表情に影を落とした。

 

「じゃあ本当に忘れたのか………共に訓練したあの日も」

 

「………」

 

「………ずっと………支給されたレーションがマズいと愚痴を言い合ってた筈だ」

 

「………」

 

「………共にライフルのゼロインをした事も………」

 

「………」

 

「………料理番の時に一緒に作った事も………」

 

「………」

 

沈黙は肯定となる。

共にカイと呼ばれる自分と過ごした思い出を語るラウラは次第に眼帯に隠されていない瞳に涙を溜めていく。

 

「あの………星空の下で語り合った時も………」

 

「………星………空………?」

 

その瞬間、幻徳の視界が一瞬だけ別の光景に切り替わった。

 

 

 

 

 

 

星が散りばめられた満天の星空の下。

 

 

何かの建物の屋上で幻徳は笑っていた。

 

 

何かを喋っていた。

 

 

 

 

 

そして、目の前にはラウラが笑っていた。

 

 

 

 

 

 

「………っ!」

 

視界は現実に切り替わる。

今の光景は一体何だ?

 

記憶に無いのに知っている。

そんな矛盾が幻徳を襲う。

まるで他人の記憶を覗いているようで自分が自分でいなくなってしまう感覚に陥る。

 

「………そう、か………!」

 

トンッ、と体を押され、ラウラは脇を通り過ぎて行った。

 

「………!」

 

走り去っていく彼女に無意識に幻徳は手を伸ばしていた。

何故、自分は彼女に手を伸ばしたのかわからない。

 

ただ、彼女には泣いて欲しくなかった。

 

「……………」

 

だが幻徳が今できるのは伸ばした手を握り締める事だけだった。

 

 

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