遂に仮面ライダーローグへと変身です!
突如変異したIS。
その攻撃により、元々少なかった白式のエネルギーは尽き、一夏から白式が消えた。
だが、一夏はそれは関係ない。
今、この男は激しい怒りに駆られていた。
あの剣の技は千冬が一夏に教えた『真剣』の技。
いつか道場で持った『真剣』。
それは人を殺す為に作り出された存在。
竹刀とは違う重さが腕を襲い、構えを取ろうにも刃が持ち上がらない。
『重いか?これが人の命を絶つ武器の重さだ。この重さを振るうことがどういう意味か考えろ』
その人を試す煌めきに冷や汗が流れ、心臓がうるさい程に脈打つ。
千冬は厳しくも優しく、いつもと違う表情を浮かべていた。
『それが強さと言うものだ』
それ故に少しでも千冬の力になりたくて、強さを追い求めていた。
あのISが見せた技は千冬の技。
千冬だけの技である。
それを軽率に扱うISに、そしてその強さに振り回されるラウラに怒りを覚えた。
ISを纏ってない状態で殴りつけようと走りかけたが、箒にそれをビンタにより窘められる。
このまま待っていたら教師部隊が対処するだろう。
一夏が危険を犯す必要はない。
しかし、これは一夏が『やらなきゃいけない』のではない。
一夏が『やりたいからやる』ことなのだ。
ここで引いたら自分で無くなる。
そのような感じがしていた。
そこでシャルルのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡからエネルギーを白式へ移し、白式を限定的に展開してワンオフアビリティーである零落白夜を使用できるようにしている最中だった。
「アレ、動かないよな?」
「多分、攻撃してくるのに対してカウンターを入れてくると思う。でも、凄く的確に鋭くブレードを振るうから容易には近づけないよね」
「一夏………」
心配そうな瞳で一夏を見る箒。
「大丈夫だ。俺は必ず勝って帰る。じゃないとシャルルに女装させられるしな!」
茶化すように言う一夏に周りの空気は和らぐがそれを裂くように電子音が鳴り響く。
『デビルスチーム!』
それは煙を纏ったエネルギー弾だった。
まるで蛇のような軌道を描きながら黒いISに着弾。
ISは黒煙に包まれ苦しむかのように手を振りながら抵抗するが、やがて全身を包まれる。
大量の煙が晴れるとそこに立っていたのは先程の姿とは違う存在だった。
重厚な鎧を纏った黒い騎士。
まるで阿修羅のように六本の腕があり、それぞれ細身の剣を持っている。
「なっ!?また姿が変わった!?」
「いや違うよ、一夏。正確には誰かが変えたんだ」
「これがISとスマッシュの融合か。実験大成功ってやつだな」
静まり返ったアリーナの中に突如響く人の声。
アリーナの壁にもたれ掛かりながらブラッドスタークは片手を上げ、さも知り合いに会ったかのようなトーンで話す。
「よぉ、久しぶりだな、織斑一夏。相変わらず雪片を大事にしているな」
「ブラッドスターク………!」
「それって話にあった謎のパワースーツを着た人………」
シャルルが事前に集めていたデータを思い出すとブラッドスタークは嬉しそうに一夏とシャルルに向け両手の人差し指を向けた。
「ビンゴ!一度会っただけなのに覚えてくれて嬉しいぜ。今日はウチの兵器を紹介しようと思ってな」
言い終わると同時にブラッドスタークのすぐ隣の壁が砕け吹き飛ばされた。
そこから現れたのは異形の怪物が二体。
一体はカブトムシの様な一本角を持った怪物。
もう一体は蜘蛛の巣の様な模様が彫られた怪物だった。
「こいつらは『スマッシュ』。人間にネビュラガスを注入する事で生まれる怪物だ」
「ネビュラガス………?いや、お前、それよりも………!」
『人間に』
ブラッドスタークが放ったそのワードに一夏は過剰に反応する。
「人体実験したのか………!?」
「まぁ、その場で作ったから人体実験とは言わねぇよ」
「だとしても人を巻き込んだのは一緒だろうが!!」
「役に立たない女尊男卑に染まった連中をこうして役立てているんだ。寧ろ感謝して欲しいけどねぇ………」
「テメェ………!」
一夏の怒声も飄々と躱し、更に人体実験を肯定する発言にその場にいた一夏達は怒りに満ちる。
だが、ブラッドスタークはそんな中でも楽しそうに笑う。
「俺はゲームメーカーだからな。常に楽しいゲームを用意するのが仕事さ」
「人を傷付けるゲームなどノーセンキューだがな」
そのブラッドスタークを一蹴するように声が遮る。
いつの間にか一夏達の横には幻徳が何食わぬ顔で立っていた。
「幻徳!?お前、どこから入ったんだ!?アリーナは閉鎖されてるだろ!」
「壁が降りてくる直前に偶然持っていた弾丸を跳ね返すフライパンを挟んで、その間を通ってここまで来た」
「何だ、そのバトルロイヤルでありそうなフライパンは………」
「まぁ、それはさておき。また厄介なことになっているな」
スマッシュと化したISへ体を向ける幻徳。
このまま突撃してスマッシュごとラウラやスマッシュになった人を殺すのではないか、と考えた一夏は幻徳の肩を掴んだ。
「幻徳、ラウラは………!」
「安心しろ、一夏」
幻徳は肩に置かれた手を優しく振り払った。
「ボーデヴィッヒさんは俺が助ける」
「……お前、それは………」
前に言った信念に反するのではないだろうか?
一夏はそう言おうとしたが、幻徳はすかさず声を被せる。
「アレはどう見てもISによる暴走だ。ここで行うのはISの破壊とボーデヴィッヒさんの救助だ」
それはラウラは被害者であり、原因はISにあると見ていた。
つまり、武力を行使すべきなのはIS。
幻徳はそう言いたいのである。
「だが、お前はエネルギーが無い。今、デュノアから移してもらっているがブレードくらいしか展開できない。相手は三体。いくら何でもきついんじゃないか?」
「ぐっ………確かに………!」
「まぁ、安心しろ」
そう言うと幻徳は歩き始める。
一夏は再度止めようとするが、肩越しにこちらを見る幻徳の表情を見た瞬間、動きを止めてしまう。
その表情は無表情だったのに、どこか笑っているようにも見えた。
「こういう汚れ役に向いているのは俺だ」
怪人三体にブラッドスターク。
前に戦った相手とは違う。
勝てる可能性は非常に低かった。
だが、低いだけでゼロなわけではない。
懐から取り出したのは黄色いレンチが付いた水色の機械。
それを丹田へ強く押し付ける。
『スクラッシュドライバー!』
野太い声と共に帯が伸び、腰へ巻かれる。
「お?それを使うか。はてさて、今のお前に使えるのかな?」
煽る様でどこか期待する様に促すブラッドスターク。
この機械がボトルの力を増幅させるのならば勝機はあるはず。
幻徳は紫のフルボトルを万力の間へ入れる。
『クロコダイル!』
そして、意を決して黄色いレンチを握り締め、下ろした。
万力が紫のフルボトルを挟み込み、表面に赤い罅が入る。
しかし──
「グッ………ガァッ………!?」
突然、ベルト──スクラッシュドライバーから紫電が幻徳の体を焼き尽くすように走り、幻徳の口から苦悶の声が上がる。
「ゥグ………やはりビリビリがきたか………」
堪らずアリーナの地面へ倒れ込むと、紫のフルボトルがスクラッシュドライバーから零れ落ちた。
「無理か………期待した分、がっかりだぜ。もういい、処分だな」
その様子を眺めていたブラッドスタークは心底落胆したようにそう言う。
すると待っていたと言わんばかりにカブトムシの様なスマッシュ──ビートルスマッシュと蜘蛛の巣の模様が彫られたスマッシュ──ネットスマッシュが倒れた幻徳に襲いかかる。
先ず、ビートルスマッシュは手に持った角のような槍で幻徳の横腹を突く。
「ガバッ」
すかさずネットスマッシュが手の平にある穴から網を射出し、幻徳へ絡み付かせる。
ネットスマッシュはそれを勢いよく振り回した。
地面へと叩きつけたかと思えば、次は壁へと叩きつける。
そして、それを何度も繰り返すとビートルスマッシュへと向け放り投げる。
ビートルスマッシュは野球のバットの様に槍で幻徳をぶん殴った。
「グァッ」
白いIS学園の制服は土と血で汚れ、幻徳はボロ雑巾になりながら黒い騎士のスマッシュ──ブレードスマッシュの足下へ転がされる。
ブレードスマッシュは何の躊躇いもなく、その大きな手で幻徳の首を掴むと締めながら持ち上げる。
「ボーデヴィッヒ………さん………」
首をギリギリと絞め、幻徳の体から酸素を奪っていく。
血が止まり頭に送る血液が無くなる事で意識がフワフワと消えてしまいそうになっていく。
一夏とシャルル、箒が何かを叫んでいるがよく分からない。
これが、人を殺した罪だろうか?
それとも、あの時、ラウラを悲しませた罪だろうか?
暗くなっていく意識の先に何かが映った。
満天の星空の下。
そこはドイツの軍の施設だった。
そこの屋上で彼女は泣いていた。
『お前は………醜く見えないのか!?私を!この金色の瞳に染まった私を!』
ISの登場により軍の体制も大きく変わっていた。
ラウラは女性と言うこともあり擬似的なハイパーセンサーを搭載した瞳の移植手術を受けた。
しかし、失敗する事の無い手術は失敗する。
右目の瞳は金色に染まり、オンオフの効かない状態へとなってしまった。
そして、己が劣等種になり下がってしまった事を強く俺に当たっていた。
俺は彼女の苦しみは分かる。
俺と彼女は人造的に作られた試験管によりベビー。
鉄の子宮から生まれた存在だ。
同じ時に生まれ、同じ時を共にしてきた。
だが、彼女の苦しみを解消する方法は知らない。
『なぁ、ラウラ。前に言ってたよな。『星は綺麗だな』って』
だけど、彼女を笑顔にする方法はあった。
『知ってるか!あの天の光はすべて星だ!でもその星を全て手に入れるのは俺だ!そうすればお前にこんな綺麗な光をあげれるからな!』
両手を大きく広げ己の野望を楽しそうに話す俺。
そして、高らかに笑いながらラウラの方へ顔を向ける。
『それに、世界が一つになって平和になれば、お前の綺麗な瞳を軽蔑する奴なんていなくなるだろ?』
彼女は一瞬キョトンとした表情をしたが、直ぐに吹き出し笑ってくれた。
『お前は………馬鹿だな………』
そして、俺はラウラの頬に触れる。
『ああ、馬鹿だよ。馬鹿じゃなければこんな事言わねぇよ』
『確かに馬鹿だが………やはりお前は私のヒーローだ………待っているぞ。お前が全てを手にする時を』
「あぁ………待っていたのは君だったのか………」
スマッシュと化したラウラの頬に手を当てる。
硬く無機質な肌触りがする怪物の頬だ。
「………ずっと待っていてくれたんだな………」
しかし、幻徳にはあの時、ラウラに触った暖かい頬に感じていた。
「………もう少し待っていてくれないか?………まだ、歩みを止めるわけにはいかないんだ」
果たすべき夢の為に歩みは止めてはいけない。
まだ、君を笑顔にする世界を作れてないから。
その思いが通じたのか、ブレードスマッシュは幻徳の首から手を離した。
「オイオイ、スマッシュになったら意思疎通は不可能に近いんだがなぁ………」
後頭部を掻きながら信じられないものを見た容子のブラッドスターク。
それを他所に幻徳は血混じりの咳をしながらヨロヨロと立ち上がる。
ふと、視線を下に向けるとあの紫のフルボトルが。
幻徳が元いた所に戻ってきたのか、それともフルボトル自身が来たのか分からないが、幻徳はそれを拾う。
「ほぉ、その怪我でまだ立てるのか。倒れて死ねば楽なものを。頑張ってもスマッシュに全員、殺られる。止めるなんか言わずにとっとと楽になれ」
もはや死体と変わりない状態だった。
粉々に粉砕された脚で立つのは辛かった。
折れた除骨が肺に突き刺さり、呼吸がしにくい。
臓器は破裂して痛みに意識を持っていかれそうになる。
もはや立っているのは奇跡だった。
「言いたいのはそれだけか?」
「ん?」
だが、その瞳だけは熱く眼目の敵へと向けられていた。
「例えどんなに傷つけられようと、どんなに挫折を突きつけられようと………それが俺の信念を変える理由にはならない」
血反吐を吐きながらも口を止めない。
「俺は俺なりに信念を貫く。これは俺が判断した事だ。誰が決めた事でもない、だれにも文句を言われない、俺だけの決定だ。だから殺す。だから力を振るう。だから───」
細長いフルボトル──クロコダイルクラックフルボトルのキャップを合わせる。
ボトルに赤いヒビが全体に広がり、危険な雰囲気を醸し出した。
『デンジャー!』
「───お前達をこの場で倒す」
敵に宣言と同時に目を閉じながらおどろおどろしい音を鳴らすフルボトルを持った左手を大きく掲げる。
深く大きく息を吐きながらフルボトルをスクラッシュドライバーの万力の間へ突き刺した。
『クロコダイル!!』
スクラッシュドライバーから映し出される鰐の顎のホログラム。
そして、目の前の敵を必ず倒す決心を表すかのように目を大きく開けた。
そして、唱える。
コンマ一秒前の自分から『変わる』言葉を。
「………変身」
紡がれた言葉と共に掴んだレンチを押し込んだ。
『割れる!喰われる!砕け散る!』
スクラッシュドライバーから響く野太い声と共にビーカーが幻徳の周りに形成され、毒々しい紫の液体が注入される。
突如、鰐の顎が出現し、それを割った。
液体が辺りに飛び散るが、その中にいた幻徳の姿は変わっていた。
紫と黒を基調とした刺々しい装甲。
それに反し、顔部分だけは黒いのっぺらぼうだった。
しかし、顔の両側にある牙によりそれは砕くように喰われる。
黒い仮面は白いヒビが入ると共に一部が砕け散り、水色の複眼が現れた。
『クロコダイル・イン・ローグ!オォォラァァア!!』
そこに立つのは暴力を纏った紫の戦士。
「俺は………ローグ………」
己は悪だ。
だが、彼女にとって自分はヒーローだった。
ヒーローと悪。
矛盾を抱えた存在である自分。
ならば今はこう名乗ろう。
「仮面ライダーローグ」
仮面の戦士となった悪は己の夢の為にその力を振るう。