INFINITE・ROGUE   作:鉄の字

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ひ、一段落ついた………


十七話:始まりと言う突然

IS学園、アリーナに現れた紫の戦士──仮面ライダーローグ。

姿が変わる、正しく変身した幻徳に一夏達は空いた口が閉じない。

 

しかし、ブラッドスタークは違った。

 

「ハハハ………遂に………遂に、変身したかぁぁあああ!!!」

 

例え仮面に覆われ顔が分からなくてもその声で狂ったように喜んでいるのが分かる。

 

「やはりお前は最高だな!」

 

「………」

 

歓喜のブラッドスタークに幻徳──否、ローグは答えない。

 

己の手を握ったり開いたりして感覚を確かめている。

そのローグにビートルスマッシュが手に持った槍を突き出した。

 

「ハァッ!!」

 

ビートルスマッシュの攻撃を掻い潜り放たれたカウンターの一撃がビートルスマッシュの腹に深々と突き刺さる。

 

おもわず体をくの字に曲げ顎を前に突き出してしまうビートルスマッシュ。

そのビートルスマッシュのこめかみへ拳を振り下ろした。

 

脳が破裂するのではないかと思う一撃でビートルスマッシュは地面へと倒れる。

そのビートルスマッシュを一瞥すると拳銃──ネビュラスチームガンを取り出しクロコダイルクラックフルボトルを装填する。

 

『クロコダイル!』

 

そして、無慈悲に引き金を引いた。

 

『ファンキーブレイク!クロコダイル!』

 

銃口に集まった光のエネルギーが爆ぜ、ビートルスマッシュが吹き飛ばされた。

あまりの勢いに地面を削りながら壁に激突。

更に爆発を上げた。

 

剣──スチームブレードで網を切り裂き、ネットスマッシュへ突き進む。

その途中でネビュラスチームガンとスチームブレードを合体させる。

 

『ライフルモード!ファンキー!』

 

また新たに網を放つネットスマッシュ。

迫る網に対してローグは足を先にしてスライディングし、避ける。

そして、滑ったまま銃口をネットスマッシュへ。

 

『ファンキーショット!クロコダイル!』

 

先程とは比べ物にならない光量が下からネットスマッシュを襲い、膨大なエネルギーによって突き上げられた。

空中で大爆発を起こし、地面へと叩きつけられる。

 

巻き起こる炎の先には陽炎に揺らめくローグの姿。

その姿は正に暴力の化身だった。

 

「瞬く間にスマッシュ二体を地に伏せさせるとは!データー以上の力だな!」

 

ブレードスマッシュが動く。

ブレードスマッシュがまるで武芸者の如く間合いへと入り、その六振りの剣で見事な剣舞を魅せる。

六本の腕が互いに邪魔せず絶え間ない斬撃をローグを襲う。

 

しかし、ローグは何食わぬ様子で立っているだけだった。

そのアーマーに傷は付かず、ローグ自身に何の痛みも無い。

 

「…………」

 

迫ってくる二振りの剣を拳に装備されたクローで殴りつける。

突然の反撃によろめいたブレードスマッシュは剣舞を止めてしまう。

 

その一瞬を逃さず暴力は動き出す。

 

「ッラァ!!」

 

その黒くも絢爛な鎧に白い拳を叩き付ける。

更によろめいたブレードスマッシュにローグは突き進みながら左右の拳を叩き込む。

 

ブレードスマッシュは体中を轟く衝撃に何度もくの字に曲げながら後ろへ下がっていく。

 

「ォォォラアア!!!」

 

そして、最後の拳がブレードスマッシュに当る。

その瞬間に肩、肘、手首を連動させて内側に捻り込むことで、ダメージの増大、そして、拳のクローにより更にダメージを増幅させていた。

 

アリーナの壁まで追い込まれ、片膝をつくブレードスマッシュ。

 

止めとローグは黄色いレンチを押し込もうとする。

 

「幻徳!」

 

「一夏………お前………」

 

声をかけられ、振り返ると一夏がいた。

その手には部分展開した雪片が握られている。

 

「訳分からない力に振り回されているアイツには一発ぶん殴らないと気が済まない。だから、俺にもやらせてくれ!」

 

そう言い頭を勢いよく下げる一夏。

その様子を見て、暫く黙っていたローグは一夏に声をかけた。

 

「一夏、アレは恐らくISの上にスマッシュが覆っているのだと思う。俺がスマッシュの部分を破壊する。お前はその刀でISを斬ってくれ」

 

「ああ!分かった!」

 

そして、一夏はローグの横に並ぶ。

 

「幻徳、お前さっき汚れ役だって言ってたよな?お前がそれで傷付くのなら俺はお前を護る。俺にとって強さのあり所はそこだからな」

 

「それが、お前の求める強さか…………甘い。だが、それがいい」

 

「何の話だよ?」

 

「こっちの話だ」

 

「じゃあ──」

 

「ああ──」

 

片や姉の力を引き継いだ白の刀を持つ男。

片や暴力と悪をその身に宿した紫の仮面の戦士。

その二人が一直線に並んだ。

 

「「──征くぞ」」

 

先にローグが走る。

そして、黄色いレンチを勢いよく押し込んだ。

 

『クラックアップフィニッシュ!』

 

「ハァァァァ…………!」

 

クロコダイルクラックフルボトルに赤い罅が入り、エネルギーが拳に溜まる。

 

「オォラァァッッッ!!!」

 

紫のエネルギーを纏った拳が無抵抗のブレードスマッシュに深々と突き刺さる。

ブレードスマッシュの鎧に罅が入る。

 

「帰って来い………ボーデヴィッヒさん…………いや、ラウラ!!」

 

更に足を地面に踏み込む。

すると、ブレードスマッシュの鎧が砕け、中からあの黒いISの腹部が見えた。

 

「一夏!!」

 

「うぉぉぉおおお!!!」

 

そこへ一夏の零落白夜により光を纏った雪片を地面と垂直に切り落とす。

 

ISが裂け、そこから気を失ったラウラが零れ落ちた。

その拍子に眼帯が外れ、僅かに開かれた左の瞳は美しい金色だった。

 

ローグはラウラを優しく抱き留めた。

 

「一夏、この子を頼む」

 

「おう」

 

ラウラを一夏に託し、ローグは歩く。

 

「……………」

 

『クラックアップフィニッシュ!』

 

もう一度、レンチを捻る。

一瞬、複眼が光ったかと思うとローグは走り出した。

向かう先はブラッドスターク。

 

そして、地面を強く蹴り、空へ向けて高く飛び上がった。

 

「ヌゥウァァアア…………!」

 

脚部に装着された鋭利な刃──クランチャーエッジがエネルギーの牙『クランチャーファング』を展開させ、両足で鰐の様に挟む──否、噛み付く。

 

「グッ………!?」

 

そして、デスロールの如く右回転、左回転。

相手の抵抗を許さず、肉を喰い千切る。

 

「ドラァァッ!!」

 

「グォォォオオ!?!?」

 

もう一度捻ると同時にブラッドスタークは吹き飛ばされ、アリーナの壁へ叩きつけられた。

 

「………グッ………ッアアァ………」

 

壁を伝い、よろめきながら立ち上がる。

至る所から煙が上がり、そのダメージは決して少なくはない。

 

「………成程な。その女が本来ウチに来るはずだった欠陥品か。それにしても瞳が『金』か………厄介な………いや、寧ろ目覚めていない今がチャンスか?」

 

「どういう意味だ?」

 

「いや、こっちの話さ………悪いが今日はここまでにしようか………あー、そうだ」

 

白い何も彫られてないフルボトルをビートルスマッシュ、ネットスマッシュ、ブレードスマッシュに向けるとそれぞれのスマッシュから成分らしき物が抜かれていき、白いフルボトルに吸い込まれていく。

 

すると、白いフルボトルは膨らみ蜘蛛の巣の様なレリーフが彫られたフルボトルに変わった。

そして、それを三つローグへと投げ渡すと、頭の一本角から黒煙を出した。

 

「これをやるよ。そのお嬢ちゃんの近くに置いてた方がいいぜ………じゃあ、またな!Ciao!」

 

「おい、待てと…………駄目か」

 

今度こそ仕留めようと走りかけたローグだが、黒煙が晴れた先には誰もいなかった。

 

ローグはスクラッシュドライバーからクロコダイルクラックフルボトルを抜き取る。

するとアーマーが霧散し、幻徳の姿へと戻った。

 

途端に片膝を付いた。

それもそのはず、ローグへと変身する前の彼は死に体と変わりなかったのだからだ。

 

「幻徳!」

 

「一夏か………あの子は………?」

 

「大丈夫だ。ただ気絶しているだけだ」

 

「そうか………殴らなくていいのか?」

 

「あんな弱々しい目をされたら殴りたいものもしたくなくなる」

 

「まぁ、そうだな………それよりも」

 

「あぁ………」

 

二人は地面に大きく大の字になった。

土に汚れようがそんなの構わない。

 

「「疲れた………」」

 

そんな呑気な気の抜けた声が二人の口から漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは突然に告げられた。

 

『別部隊に転属、だと?』

 

『おう、どうやらそうなったらしい。まぁ、中佐とかの上官には嫌われていたしな』

 

後頭部を掻きながらにしし、と笑うカイ。

私にはその笑顔は裏があるように見えた。

 

『大丈夫だって。別に今生の別れじゃないんだ。ドイツにいればきっとまた会えるさ』

 

心配な顔をしているのか、私の頭の上に頭を置いて安心させるように撫でた。

 

違う。

会える、会えないの違いじゃない。

私はまだこの胸の想いを伝えてない。

 

言うんだ。

言うんだ、私!

 

『そ、そうだな………それにお前は世界を一つにするんだからな』

 

『ああ、頑張るぜ。愛と平和の為にな!』

 

結局、私はこの想いを奴に伝える事ができなかった。

そして、それが私とカイの最期の会話だった。

 

 

 

その数週間後、私宛に手紙が届いた。

 

『カイが死んだ………!?』

 

手紙にはカイが交通事故で死亡した事が書かれていた。

 

信じられなかった。

つい前に私に笑顔を振りまいていたアイツが死んだなんて。

 

その手紙には告別式の詳細が載っていたが私は破り捨てた。

 

アイツが死んだ?

 

違う!

アイツは帰ってくる!

きっと、『ただいま』って言って帰ってくるのだ!

 

だから、私は待つのだ。

 

私は最弱のままでいられない。

最弱のままでアイツのいた場所を守れない。

 

私は力を手に入れるから、帰って来てくれ。

私はいつまでもお前を待っている。

 

だから、だから────!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウラが目を開けると紙と石膏ボードの天井だった。

意識がまだふわふわしているのか暫くぽーっと見つめていた。

 

よくよく今までの事を思い出してみると死んだ筈の幼馴染に会った事から始まって、幼馴染に拒絶され、力を求めた結果、気づいたら現在に至っている。

 

「まるで夢みたいだな………」

 

「ところがどっこい。夢じゃありません」

 

「ヌォッ!?」

 

突然、カーテンのシャーって鳴るアレがシャーって鳴って現れたのは最早ミイラと言っては過言ではない程に包帯を巻いた幻徳だった。

 

「か、カイ!?………いや、今は氷室幻徳、か………」

 

「ああ、因みに今俺を倒してもメダルは出て来ないぞ」

 

「………意味が分からんぞ」

 

「む、そうか」

 

暫くお互い見つめ合っていると、幻徳は突然に包帯塗れの頭を下げた。

 

「すまなかった」

 

「ど、どうしたんだ、急に………」

 

「今までの俺には殆ど記憶は無かった。だけど、一つだけ虚ろなものが頭の中にあった」

 

それはブラッドスタークに人体実験している記憶ではなく、感覚のようなものだった。

 

「誰かが待っていてくれている、と言う不確かな物だ。それが記憶が蘇った事で君だと分かった。君はずっと待っていてくれたのに、俺は君を傷つけた。もう一度言う、すまなかった」

 

「いいんだ、お前は記憶を失っていたんだから………私は………お前が帰ってくる場所を守る為に力を求めていた。最弱のままではいられなかった」

 

ただ、一人の男の為に彼女は力を求めていたのだ。

それが意味無いと、カイは戻って来ないと知っていた筈なのに、ただ貪欲に、ただ猛烈に、彼女は力を欲していた。

 

「男性操縦者としてお前の顔があった時、私の努力が報われたと思っていた………だけど、お前は記憶がなく、氷室幻徳として生きていて………私は………私の………力の意味はなんだったのだろうか………」

 

涙を流す彼女に幻徳は彼女の前に立つと、その小さな体を抱き締めた。

こんなに小さな体なのに、彼女は何と重たい物を背負って今まで生きてきたのだろうか。

そう思うと、幻徳の胸の中は引き裂かれそうだった。

 

「俺はカイではない。だけど、今は俺をカイだと思って全てを吐き出していい。胸を貸すだけなら俺なんかでもできる。俺では君の悲しみを消すことなどできないから」

 

「………そんな………私は………私は………カイ………カイ………!」

 

幻徳の胸の中でラウラの嗚咽が聞こえる。

小さい声だったが、幻徳には大きく心に響いていた。

 

彼女が泣くのは辛かった。

だが、こうして彼女が次に笑えるのであれば。

彼女が明日に向かえるのであれば。

 

そんな彼女が泣き止むまで幻徳は頭を撫でながら空いた手で背中を優しく摩り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない、涙で汚してしまったな」

 

「これくらい何ともない。また辛くなったら貸してやる。クラスメイトの愛と平和の為にな」

 

「愛と………平和………」

 

それは最後にカイと話した中で出てきた言葉。

 

『愛と平和』

 

世界を一つにする野望とは無関係な言葉を掲げていたカイは何かある事にそれを出していた。

 

「なんだ………何も変わってなかったんだな………」

 

あの時、心の中で夢物語だ、と嘲笑した言葉。

しかし、今、この胸を叩いている。

 

例え、記憶を失っても。

例え、人が変わっても。

例え、過去と決別しても。

 

変わらない物がこの男に残っていたんだ。

 

「改めて俺は氷室幻徳だ。最近ハマってる食べ物は十分どん兵衛。好きなラーメンの麺の硬さはバリカタだ」

 

「ああ、私はラウラ・ボーデヴィッヒ。よろしく頼む、『カイ』」

 

彼は最後まで変わってなかった。

なら、わざわざ名前を変える必要は無い。

 

「ああ、よろしく………む?」

 

彼女は変わらずこの首を傾げる男に愛おしい名で呼ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、幻徳は松葉杖を突きながら教室へ入った。

全員、『回復早っ!?』とか『ヤミー!?』とか『オイエージ!』とか叫んでいたが何とか躱しつつ、席につく。

 

「皆さん………おはようございます………」

 

チャイムが鳴り教室に入ってきた山田先生はどこか覇気がない。

 

「えーと、今日は皆さんに転校生を紹介します………紹介と言うか紹介は終わっているんですが………じゃあ、入ってください………」

 

端切れが悪い山田先生は教室の出入口に手を向けると、一人の女子が入って来る。

それはつい最近、転校してきたシャルル。

だが、今は髪をリボンで結び、ズボンだったのがスカートへと変わっている。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

「えー、デュノア君はデュノアさんでした………うぅ………寮の部屋割りが………」

 

クラスが驚愕の声に包まれる中、こんな声があがる。

 

「あれー、じゃあ、イッチーは同室だから知ってたんだ〜」

 

「あれ?確か昨日って男子が大浴場使ってたわよね!?」

 

突如、教室の壁が吹き飛んだ。

何と鈴音がその顔に怒りを込めながら甲龍を纏い現れた。

 

「一夏ァァァァァァアア!!」

 

その背中に無双的なパワーを乗せながら、肩の衝撃砲が放たれる。

 

(あ、俺、死んだわぁ)

 

そして、一夏の後ろにいる巻き添えを喰らうだろう幻徳は──

 

(コップのフチ子さん、全種類集めたかったな)

 

──何か悔やんでいた。

 

しかし、それは一夏と幻徳にその衝撃が来ることは無かった。

目の前にはシュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラが防いでいたのだ。

 

「すまん、ラウラ。助かった──むぐ」

 

『始まりはいつも突然』とどこかの歌の歌詞がある。

そう突然に幻徳はラウラに唇を奪われたのだ。

 

「カイ!お前を私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!」

 

「「「「えぇぇぇえええええ!?!?!?」」」」

 

叫び声が轟く一年一組。

そして、幻徳は無表情の顔を全く変えず──

 

「ふむ、だが、日本は十五歳の結婚は駄目らしいからな。後、三年待ってくれ」

 

──やんわりと後へと回していた。

 

 


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