INFINITE・ROGUE   作:鉄の字

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六話:音速と言うビジョン

 

「俺は、打鉄で行く」

 

「何言ってるんだ、幻徳?」

 

時は流れ一週間後。

 

遂に始まろうとしている幻徳対セシリアの勝負。

ピットには千冬や山田先生、一夏、箒が集まっていた。

 

打鉄を纏った幻徳は試合開始までの間、指を広げたり、脚を動かしたり、夜叉の構えなどをして少しでもISの操作に慣れようとしていた。

 

見ている視界は360度分かり、重鈍に見える装甲は動く者の動きを阻害しない。

手に付けられた装甲はIS専用の装備を使う為に肥大化されているが指を動かしてもラグが無い。

 

やはり、そういう所を見ると素晴らしいパワースーツだと思う。

 

「もうすぐだけど、大丈夫か?」

 

「あぁ、この日のために痛みに耐える特訓を重ねてきた。特にジープに轢かれかけた時は死ぬかと思ったな」

 

「いや、どんな特訓してるんだよ………」

 

心配そうに声をかける一夏だが、平常運転な幻徳にそんな気持ちも萎える。

 

「しかし、氷室。お前の体は中々に鍛えられているが、昔、何かやっていたのか?」

 

箒の指摘する様にタイトなISスーツを纏った幻徳の肉体は無駄な肉は無く、引き締まった筋肉をしている。

これはダンベルを上げ下げして作り上げる筋肉ではなく、何か戦闘や激しい打ち合いによって鍛えられた筋肉である。

 

「いや、俺は十歳より前の記憶が無いから、何をしていたのか覚えてない」

 

「え………?」

 

「そう、なのか………?」

 

流れる水のようにあっさりと言う幻徳。

不意をつかれた一夏と箒は息を飲み、どう声をかければいいか分からなかった。

 

それを察したのか幻徳は手をプラプラと振った。

 

「別に下手に慰めなくていい。寧ろ今まで通り接してくれれば助かる」

 

「あ、氷室君!もうそろそろ時間ですよ!」

 

「分かりました。今行きます」

 

打鉄を纏った脚で歩きながら、IS専用のカタパルトへ足を乗せる。

 

試合まで秒読み。

気持ちを切り替えていると難しい顔をしていた一夏から声をかけられる。

 

「幻徳!」

 

「何だ?」

 

一夏は握り拳をこちらへ向ける。

 

「負けるなよ」

 

勝たなくてもいい。

だけど負けて欲しくもない。

意地がある男の子の面倒な精神である。

 

こういう時、何と言うのか………

 

幻徳は握り拳に親指を立てる。

 

「I'll be back」

 

「いや、それ最終的に溶鉱炉に落ちるからな!?そして、無駄に発音良いな!?」

 

「鍛えてま──」

 

敬礼のようなポーズをとろうとした瞬間、カタパルトが起動し幻徳はアリーナの中へと放り出された。

 

「幻徳ぅぅぅううう!?!?」

 

「不安だ………はげしく不安だ………」

 

カタパルトの先に消えて行った幻徳へ手を伸ばす一夏と顔を青ざめながらぼそぼそ呟く箒だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──すから」

 

「いや、何を言いたいのですの?」

 

ピットが出たと言うより放り出された幻徳は打鉄のスラスターを吹かしながらセシリアの近くまで上がっていく。

 

「チャンスを上げますわ」

 

「Chance?」

 

「無駄に発音良いですわね。私が一方的な勝利を得るのは自明の理。ボロボロで惨めな姿を晒したくなければ、ここで謝ることで許してあげないこともなくってよ」

 

「オルコットさん、先に言っておく事がある」

 

「何ですの?謝るのであれば早くなさい」

 

フフン、と鼻で笑うセシリアを無視して幻徳は声を紡ぐ。

 

「君は確かにエリートだ。努力に努力を重ね、他者を下に見るほどの実力と権利を持っていると思う。対して俺はど素人だ。ISも今乗っているのが初めて。どれだけ足掻いても逆立ちしても君には勝てないだろう。だから──」

 

 

 

試合開始のブザーが鳴り響く。

 

 

 

「──君を殺すつもりで戦わせてもらう」

 

 

 

刹那、幻徳の姿が消えた。

 

 

 

「っ!?」

 

反射的に何かセシリアは言おうとした。

だが、それは叶わなかった。

 

打鉄を纏った幻徳の手がセシリアの顔面を掴んでいたからだ。

 

高速を超えた音となった幻徳は構わずそのままブースターを吹かせ、掴んだセシリアをアリーナのバリアへと突っ込んだ。

 

「キャァァァアアア!!?!?」

 

周りに衝撃と轟音を響かせる。

 

吶喊した付近にいた生徒達は驚きに腰を抜かせ悲鳴をあげ、逃げ出す生徒もいた。

アリーナのバリアは決して破れることはない。

しかし、あまりにも突然の事に我を忘れてしまった。

 

音速で叩き付けられたセシリアのブルー・ティアーズは決して無視出来ないダメージを負う。

 

体勢を整えるよりも前に幻徳は左手に武器を喚びだす。

 

それはIS専用のマグナム弾を使ったハンドガン。

稲妻よりも速く、戦車のキャタピラのように正確にセシリアのこめかみに当てると──

 

「…………」

 

──迷わず引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「…………」」」」

 

開始して僅か数秒。

幻徳の容赦ない戦法にピットにいた全員、開いた口が塞がらなかった。

 

「ち、千冬姉………あれは………」

 

「織斑先生だ。まさか瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使うとはな」

 

「お、教えて欲しいとは言われましたけど、まさか普通に使うなんて………!」

 

瞬間加速(イグニッション・ブースト)とはISのスラスターから発生するエネルギーを取り込んでそれを爆発的に放出することによって行う超高速移動である。

勿論、感覚を伝えるだけで使えるようなものでは無い。

 

千冬は眉を顰め、山田先生はあわあわと震えていた。

 

だが、千冬はそこに注目を向けていなかった。

 

(何故簡単に人を撃てた?)

 

本来なら人を銃で撃つのは抵抗がある。

それがISに護られているとはいえ、普通の人であるなら変わらない。

 

(氷室………お前はどんな旅をしていたのだ?)

 

モニター越しに幻徳を見詰める千冬。

モニターではシールドに押し付けられたセシリアに動きがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クッ………ブルー・ティアーズ!」

 

セシリアのISのスカート部分が分離され幻徳の四方八方を包囲する。

 

「…………」

 

それをISのセンサーで感知した幻徳。

またも打鉄のスラスター部分に火が灯る。

 

幻徳は掴んだまま音速へ入り、シールドの傍を飛ぶ。

 

セシリアの顔はシールドにめり込んだまま引っ張られシールドを削り、その勢いに抵抗することが出来ずおろし器の如くシールドエネルギーが削られていく。

 

「…………ッッッ!?!?」

 

声を上げる暇すら無く、セシリアは隕石のように地面へと叩き付けられた。

 

土煙が上がり、観客からは何も見えない。

だが、ブザーがならない事は試合は続いている事である。

 

やがて土煙が晴れ、そこにあるのは圧倒的暴君と弱者だった。

 

普通に立つ幻徳と地面に付すセシリア。

 

「………」

 

自分の左脚辺りに倒れ伏すセシリアを一瞥すると、右手に持った装填済みのハンドガンを向ける。

 

「ぁ………ぁあ………!」

 

ISには絶対防御がある。

しかし、それすらも忘れさせるほどに幻徳の瞳には何も映っていなかった。

それがセシリアの恐怖を増幅させる。

 

「…………」

 

引き金に指をかけ、引く。

 

 

 

 

 

『試合終了!勝者──セシリア・オルコット!』

 

 

 

 

 

「…………流石にエネルギーが切れるか」

 

 

 

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