ピットに戻って来た幻徳。
待っていたのは詰め寄ってくる一夏だった。
「幻徳、アレはやり過ぎだぞ!」
「アレ、とはどれの事を指すんだ?」
一夏の凄まじい剣幕などに怖気付かず、幻徳は純粋に聞き返す。
「惚けるんじゃねぇよ!あの試合全部だよ!」
「おい、一夏!やめろ!」
まだ打鉄を纏った幻徳の胸倉を掴む一夏。
後ろにいた箒が思わず一夏の手を握り、離させる。
「それしか方法が無かった。勝つにはそれしか無かったんだ」
「だけど………!アレは勝ちとか負けとかそんなのじゃない………!アレは暴力だ!単なる暴力だぞ!」
一夏の脳裏に蘇るのは銃口を向けた幻徳と顔を恐怖で染めたセシリアだった。
確かにエリートとか、代表候補とか人を下に見るいけ好かない女子だろう。
だが、それでも一夏の中の何かが幻徳の戦い方を拒んでいた。
力とはそう言う物じゃない。
決して人を怖がらせる物では無いのだ。
「ならば教えてくれ。暴力じゃない綺麗な勝ち方を」
「っ………あぁ、見せてやるよ!お前との勝負でな!」
一夏は声を荒らげながら自分のピットへと向かう。
幻徳と一夏がすれ違う時、幻徳は一夏に呼びかける。
「一夏、俺は人と感覚がズレているのは分かっている。どうもこうなると合理的に進めてしまうからな。今更、何言われようが罵られようが仕方の無い事だと思っている。だけど──」
幻徳は一度目を閉じる。
育ての親に拾われ、世界中を周り目にしたのは美しい景色、暖かい人々だけでは無かった。
地獄。
この世とは思えない苦しみに溢れた殺伐した場所。
自分に手を伸ばし、死していく人を、自分はただ呆然と立っていただけだった。
これを変えなくては。
その為には何があろうと容赦してはいけない。
「──これが俺だ」
その行為が『悪』と呼ばれようとも。
夢の為に
「…………」
暫く見詰め合う二人。
そんな中、ピットの出入口が開き、千冬と山田先生が入って来た。
「話は終わったか?そんな話を折るようで悪いが幻徳、お前は試合に出られない」
「「「はい?」」」
「理由は………」
千冬は幻徳のISスーツを掴み、捲りあげる。
ISスーツの下にあった幻徳の体を見た瞬間、一夏達は小さく悲鳴をあげる。
「これだ。そんな痣だらけの体でもう一度試合が出来るわけないだろ」
幻徳の上半身には至る所に紫の痣が出来ており、見ているだけでも痛々しい。
二度に渡る
「げ、幻徳、大丈夫か!?」
「ん………ぉおう?」
「気づいてなかったのかよ!?」
「あぁ、ここまで来るまで特に痛くは待て自覚すると急に痛くなってきたもう凄く骨に響く痛みで今にも意識が飛びそういたたたたたたたたたた」
「駄目じゃん!?」
「早く保健室に行け、馬鹿者が」
さっきの空気は何だったのやら。
フラフラと山田先生に肩を貸してもらいながら幻徳は保健室へと向かった。
☆
湿布を貼ってもらいアリーナに戻ると一夏対セシリアの試合が始まっていた。
最初はセシリアが優勢で武器がブレードしかなかった一夏は徐々に追い詰められていく。
しかし、そこで一夏のISが変化──一次移行をした事で形勢が逆転する。
全ての射出装置を切り捨てる。
そして、隠し玉であるミサイルさえも凌いだ一夏が光纏う刀がセシリアを斬ろうとした時、エネルギーが切れセシリアの勝利。
呆気ない幕切れとなった。
「わぁー、イッチー凄かったねぇ〜。もう少しで勝てたけどなー」
「………護る、か………」
手放しで拍手をする本音に対して幻徳は一夏が言った言葉を思い出していた。
先程、自分は一夏に問うた。
『綺麗な勝ち方を教えてくれ』と。
綺麗とは程遠い、しかも負けである。
だが、目を惹かれる物があった。
「ヒムヒム?」
「………やっと、見つけた………」
「え?」
ボソリと呟く幻徳。
その表情はいつも通り全く変わらない無表情だった。
しかし、何かしなくてはいけない、何かやらなくてはいけない。
そう言う使命を帯びたモノが顔に現れているように見える。
そして、幻徳が何を考えているのか。
本音には全く分からなかった。
☆
(マジ辛たん)
ボロボロになった体を引き摺りながらプレハブ小屋へと帰ろうとする。
心無しかその足取りは軽い。
引きずっているけど。
「氷室さん!」
背中に声を受け振り返ると、そこには息を切らしているセシリアがいた。
「どうした、セシリアさん?」
「その……申し訳ございませんでした………男だからという理由で酷いことを言ってしまいました………」
どうやらセシリアは以前の事を反省しているようだった。
「……………」
無言を貫く幻徳。
その様子を見て内心、セシリアは沈んでいた。
許してもらえないのは当たり前だ。
自分は取り返しのつかない事をした。
当然と言えば当然だ。
しかし、返ってきた言葉は意外だった。
「ん?オルコットさんは俺に何か酷いこと言ったか?」
「………自覚してなかったのですね………」
「ああ」
よくよく思い出すと幻徳は容器を振りまくっていたり、フィジットキューブを弄ったり、量産型について熱く語ってたりしていた。
元より幻徳はセシリアの発言は気にしてなかったのだろう。
寧ろ幻徳はあの試合で酷いことをした方なのでは、と考えていた。
「だが、仲良くなろうと言うのなら、先ずはこれだな」
手の平をセシリアに差し出す。
幻徳の意図が分かったセシリアはその手を握った。
「改めて俺は氷室幻徳。尊敬する人はベア・グリルス。真似したい技はかめはめ波だ。よろしく頼む、オルコットさん………いや、セシリア」
「イギリスの代表候補生、セシリア・オルコットですわ!よろしくお願いします、幻徳さん!」
硬く握手を交わす二人を沈みかける夕日が優しく照らしていた。
一夏は短いながらも幻徳の良い所を知っているし、どこかで幻徳を助けたいと思っています。幻徳は幻徳で己の進む道へと歩いているだけです。
なので、二人の関係は変わったものの、表では全く変わりません。
『あれ?これギャグ無くなるんじゃない?』と思われた方、安心してください。
寧ろいつも通りです。