INFINITE・ROGUE   作:鉄の字

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何とか書けたので投稿します!


九話:『これから』と言う明日

 

夜のプレハブ小屋。

その中では幻徳が座布団に座りながら、愛読書である『イクササイズ 〜753のキバになる方法〜』を読んでいたが、ふと、本を閉じてちゃぶ台に置いた。

 

「………そう言えば一夏に瞬間加速(イグニッション・ブースト)のやり方を教える約束をしてたな」

 

先の試合から一夏はセシリアと箒に訓練を付けてもらっている。

訓練と言うよりはリンチに近いが。

自分も参加しようとしたが、訓練機は借りれなかったので、感覚だけでも教えようと考えていた。

 

突然の一夏の幼馴染らしい少女──凰鈴音が現れてから箒とセシリアの空気がヤバかった。

 

一夏曰く箒が引っ越した後で知り合った幼馴染らしく、所謂セカンド幼馴染とか。

もうそれはべったりと一夏にくっつき、挙句の果てには一夏の特訓にも参加する始末。

当然、箒とセシリアとの衝突は避けられず、一夏はひたすらに巻き込まれていた。

 

プレハブ小屋から出て寮に入り、一夏と箒がいる部屋へ廊下を歩く。

よくよく考えると女子しかいない寮に一人男子がいると言う状況はライオンの群れに肉を巻いた人間が突っ込むのと同じだろう。

つくづく一夏は面白い。

 

そんな事を考えて周りの注意力が散漫になっていたのか、目の前に突っ込んでくる女子に気づかなかった。

 

「ぐふ」

 

「誰よ!こんなところで標識みたいに突っ立っているバカは………ピィ!?」

 

「またその反応か」

 

腹が痛むがそんな様子を少しも見せない幻徳。

目の前には例のセカンド幼馴染の鈴音が鼻頭を摩っていた。

 

「ま、またアンタね。悪いけど構ってる暇ないの」

 

そのまま幻徳の横を通り過ぎろうとする鈴音。

普段なら見送る幻徳だったが、その時は違った。

 

鈴音の瞳に涙が溜まっていたからだ。

 

鈴音の涙を見た瞬間、幻徳は鈴音の手を掴んでいた。

 

「ちょ!何するのよ、強面!?」

 

「突然にすまない。だが、何故泣いている?」

 

「別にアンタには関係ないでしょ!!」

 

「確かに俺は他人かもしれないが、それでも友達の友達だ。話だけでも聞かせてくれないか?もしかしたら気が紛れるかもしれん」

 

「…………」

 

余程参っていたのか無言で小さく頷く鈴音。

 

一夏に教えるのはまた今度になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寮に設けられたレストルーム。

自動販売機とベンチやテーブルが並べられたそこは時間が夜だった為か人は一人もいなかった。

そこで鈴音は静かにベンチに座り、幻徳は自動販売機で飲み物を買っていた。

 

「ほら、これで落ち着け」

 

「ありがと………って熱うぅ!?」

 

手に走る缶の熱さに思わず手を離す。

床に落ちた缶には大きく『おでん』と書かれていた。

 

「誰がこんな時期におでんなんか食べるのよ!と言うか何でこの自販機、おでん売ってるのよ!」

 

「原稿用紙二十枚を書いて出した甲斐があったな」

 

「あんたかい!!」

 

「じゃあ、こっちがいいか?」

 

その手には緑茶が握られていた。

鈴音が奪うようにそれを取ったのを確認した幻徳は落ちていたおでんを拾った。

 

「普通、そっちを渡しなさいよ」

 

「心を暖かくしようと思ってな。それで何があったんだ?」

 

果たしておでんを食べ始めたコイツに相談していいのか分からないが、状況が状況だったのか鈴音はポツリと話を始めた。

 

「私ね、中学二年生で中国に帰る時に一夏に約束したの」

 

「………は………はふ」

 

「ま、『毎日、酢豚をつくってあげる』って………」

 

「………はふ………はふ………」

 

「私にとっては一世一代の大告白だったの!」

 

「………ハチッ………」

 

「それなのにアイツ!タダ飯を食わせて貰える程度にしか覚えてなかったのよ!」

 

「………ハチィッ………」

 

「本当にムカつく………ってアンタもムカつくわ!さっきからハフハフ言いながら食べてんじゃないわよ!そんな厳つい顔して猫舌なんかい!猫舌なら冷めるまで待ちなさいよ!聞く気あるの!?」

 

「安心、しろ、ちゃんと、聞いて、いる、ぞ?」

 

「その顔で口を窄めながら食べているのはシュールに見えるんだけど!?」

 

『いいから口の中の物を飲み込みなさいよ!』と言う怒鳴り声を受け、時間をかけてゆっくりと口の中の大根を飲み込んだ。

そして、一息つき話をする。

 

「それで『毎日、酢豚を作る』だったか?中国にそんな言葉あったか?」

 

「私のオリジナルよ!ほら日本にはあるでしょ!………その………味噌汁、が………」

 

「『毎日、味噌汁を作る』か?要するに結婚願望だろ。中学二年生でそれは飛び過ぎではないか?」

 

「食いつくところはそこじゃないでしょ!?要するに好きって伝えたかったの!」

 

「ふむ、ならばもう少し分かりやすく言えば良かったんじゃないのか?あの一夏だぞ。捻って出した言葉だとアイツは必ず勘違いするだろう」

 

「うっ………確かに………」

 

「まぁ、考えに考え抜いた結果が仇になったな」

 

「そうかもしれない、けど…………でも、私の数年間、何だったんだろう………」

 

さっきまでの勢いはどこかへ。

どんどんと萎んでいく鈴音。

乾いていた涙もまた溢れてきていた。

 

「俺には十歳から前の記憶が無い」

 

「………え?」

 

突然のカミングアウトに猫のような目を丸く鈴音だったが気にせず幻徳は続ける。

 

「だけど育ての親はこう言ってくれた。『前までの記憶が消えたのなら、その記憶の分だけ前を向いて歩け』とな。過ぎた数年間を後悔するよりも、今、一夏といるこれからを大事にすればいいじゃないか」

 

「一夏といるこれから………か」

 

幻徳の言葉を反芻するように何度も呟く鈴音は『よし!』と大きく気合いの声を出すと立ち上がった。

 

「相談に乗ってくれてありがとう。お陰で気が晴れたわ」

 

「それは良かった。初日からモヤモヤしてたらこれからの学園生活、過しにくいからな。こんな俺で良かったらいつでも相談に乗るぞ?皆の愛と平和の為ならな」

 

真顔で言う幻徳に鈴音は思わず吹き出し笑ってしまう。

 

「アンタの顔で愛と平和を言われても笑うだけよ!でも、まるでヒーロー………仮面ライダーみたいね」

 

「仮面ライダー?」

 

「そ、仮面ライダー。世界中で活動していて人類の平和と自由の為に戦うヒーローだって。まぁ、都市伝説らしいけどね」

 

「ほぉ、仮面のバイク乗りなら交通規則のヘルメット着用してないが、大丈夫なのか?」

 

「気にするところはそこなのね………」

 

ガクッと肩を落とす鈴音を見てもう大丈夫だろうと判断した幻徳はベンチから立ち上がった。

 

「では、俺は家に戻ろう。また明日、凰さん」

 

「鈴、よ」

 

「ん?」

 

「鈴って呼んでちょうだい。私も幻徳って呼ぶから」

 

「そうか………ならこれからよろしく頼む、鈴」

 

「えぇ、幻徳!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………仮面ライダー」

 

広がる空に浮かぶ星を眺めながらゆっくりと手を伸ばす幻徳。

 

「ヒーロー………俺には遠い存在だ………」

 

伸ばした手で星を掴むように握り締める。

 

「俺が為そうとしているのは………ヒーローの敵となることだからな………」

 

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