命を懸けた一攫千金   作:sunlight

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『命を懸けた一攫千金』
今回は『潜伏中』というゲームです。

分かりやすく言うと幼い時に絶対に誰もが一度は遊んだ『かくれんぼ』です。
ルールはほとんど同じですが、違うところといえば決められた範囲で制限時間隠れきれば大金を受け取ることができるところと、

負ければその場でその場で見つかった代償として命を失うというものです。

このゲームでは隠れる人(ゲームの参加者)を潜伏者、見つける者を捜索者と呼び、潜伏者はエリア内を隠れ回り、捜索者は潜伏者を探し出して命を奪うというものなのです。



制限時間を隠れきれば大金、負ければその場で自分の命を失う究極の一攫千金のゲーム、隠れ切る者は現れるのか…?







潜伏者(参加者)

1、 新田将暉 (25)(男) フリーター

2、 有馬勇気 (32)(男) 奇術師

3、祝迫大地 (30) (男) 美容師見習い

4、小宮青空 (38) (男) 不動産業

5、荒川渚 (34) (女) 鮮魚店店員

6、岩尾美希 (22) (女) 浪人生

7、瀬戸里緒菜 (37) (女)無職

8、武野櫻子 (24) (女) 地下アイドル




潜伏中 〜前編〜

静寂に包まれる山奥に佇む深夜の廃病院、もう廃病院となり何十年も経っているらしく、所々壁紙は剥がれており、窓ガラスも割られた跡が何箇所も見られる。

人が誰も入らないと窓ガラスが割れたり、蜘蛛の巣だらけになると誰かが言ったが、まさにこの建物を見ればその考えが浮かぶのも当然だろう。

 

テレビでよく見るような心霊スポットの不気味な雰囲気を醸し出している。

 

だが、この不気味な古びた廃病院こそが今回のゲームの舞台なのだ。

 

 

ゲームが始まる1時間前、夜の闇に紛れるような色である黒塗りのスモークガラスのついた高級車に乗せられた8人の男女が廃病院の入り口に降ろされた。

 

アイマスクを高級車を運転していた黒のスーツを着た男がとり8人の男女の視界に不気味な廃病院が飛び込んできた。

 

「うわぁ…」

 

「何ここ…」

 

思わず不変の声を上げる一同、だがこんな場所に連れてこられてしまえばそう思うのも当然だろう。

 

全員が不気味な廃病院に見入っているとアイマスクを外した男が黒い大きなタブレットをカバンから取り出して全員に見せた。

タブレットはムービー機能になっており画面には招き猫のお面をつけた人間が立っていた。

 

『ゲーム参加者の皆さん、私の主催するゲームにようこそ…』

 

ボイスチェンジャーで声を変えているのであろう、男とも女とも似つかわしくない無機質な声がタブレットから聞こえてきた。

仮面の人物は無機質な声のまま続けた。

 

『これよりゲームを始める、ゲームのルールは事前に伝えた通りだ、制限時間は60分間、この時間を隠れきれば賞金…』

 

スーツの男が黒いアタッシュケースを取り出した。

アタッシュケースの中にはそうそうお目にかかれるほどの大金が詰まっていた。

 

『1億円を差し上げます…』

 

その途端、一斉に潜伏者たちが目を見開いて歓声をあげる。

 

 

 

『ただし… 見つかった場合はその見つかった人間の命をいただきます…』

 

「「「「っ⁉︎」」」」

 

その言葉に潜伏者たち全員がさっきの歓声をも忘れたかのように息を飲んだ。

このゲームは勝てば大金、負ければ死が待っているという究極のギャンブルなのだ。

潜伏者たちの顔が青くなったのを知ったか知らずか仮面の人物は言葉を続ける。

 

 

『ゲーム開始は今から1時間後の午前2時から午前3時までの60分間です。 1時間後にこの入り口から捜索者を2人投入する。 捜索者が潜伏者を見つけたら『目視』と宣言する。 その宣言と同時に君たちの体の中に埋め込んだ君たちを死へと誘うマイクロマシンが起動し、君たちは死に至ります』

 

 

ルール説明の最終確認が終わり、仮面の人物がタイマーを持った。

それと同時に黒いスーツの男が潜伏者の8人に時計を渡した。

タイマー機能以外の他の機能は使えないようにいじってあるデジタル時計で時間は60分間と設定されていた。

 

『その時計は1時間後に起動する。 今から1時間で君たちはこの廃病院の中のどこかに隠れて下さい、1時間後に捜索者が貴方たちを探しに行きます』

 

 

仮面の人物がそう言うとモニターがぷつり切れた。

 

潜伏者の全員がその言葉を待ってましたかのように廃病院に入りそれぞれに散る。

 

 

この廃病院は地上6階、地下1階の全7フロアとなっている。

何十年も使われていないとはいえ、深夜という時間帯もあり隠れる箇所はいっぱいあった。

 

地下1Fは主に発電室と倉庫、霊安室が置かれている。

1Fは受付から診察室、レントゲン室など1番部屋が多いフロアだ。

2Fは手術室から売店、薬局が置かれている。

3Fは泌尿器科、つまり外科の病室だ。

4Fは産婦人科、つまり内科の病室だ。

5Fは小児科、つまり子供達が入院する病室だ。

6Fは治療病棟、つまり結核などの患者が入院する病室も。

 

ただ金と命のためにそれぞれ散らばる8人の潜伏者たち…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ゲーム開始 1分前〜

 

 

ゲーム開始の1分前になった、いよいよゲームが始まる。

彼らはB1Fに新田、有馬、荒川の3人、2Fに岩尾の1人、3Fに小宮、祝迫、武野3人、4Fに瀬戸の1人それぞれ身を潜めた。

 

黒と赤のジャケットを着た捜索者が彼らの潜む廃病院の入り口に立ちゲーム開始の合図を待つ。

 

 

潜伏者たちがそれぞれの隠れ場所に身を潜めたころ、スタートまでテンカウントが始まった。

 

 

10、9、8、7、6、5、4、3、2、1………、0

 

 

 

 

「スタート」

 

 

 

 

 

誰かがそう呟いた。

それと同時に探索者たちが廃病院の入り口から入ってくる。

捜索者の数は2人だ。

捜索者の右腕には音が常時なるアラームがつけられており潜伏者たちはその音で捜索者たちの居場所を推測することができる。

 

 

コツ… コツ… コツ…

ピリリ…! ピリリ……!

 

捜索者たちの不吉な足音と不気味なアラームを深夜の廃病院に響かせながら二手に分かれて捜索を開始する。

地下に1人、もう1人は階段から上のフロアに向かった。

 

 

 

 

 

 

ーB1Fー

 

地下に向かった捜索者、このフロアには新田、有馬、荒川が潜んでいる。

コツ、コツと音を立てて捜索者が階段を降りてくる。

廃病院であるため通常より音が伝わりやすいのか、アラームの音もはっきり聞こえてくる。

 

捜索者は階段の正面にある霊安室のドアに向かった。。

この部屋には新田と有馬が潜んでいる。

 

新田は霊安室の白いベッドの下に、有馬は霊安室の蝋燭の立ててある棚の裏に隠れている。

 

「来た… 来た…!」

 

「ヤベェ……!」

 

音と足音を聞き2人に緊張が走る。

 

 

がちゃん……!

 

 

捜索者は霊安室の扉を開けてゆっくりと2人の隠れる霊安室に入って来た。

懐中電灯を照らしながら周囲を見渡す。

2人がゴクリと唾を飲み込む。

 

捜索者は霊安室のベッドをめくったり予備のナース服が入ってあるロッカーを開けたりしたが見つからないらしく、軽く舌打ちをする。

 

その音が2人を更に焦らせた。

ここも見つかるのは時間の問題だ。

「ヤバい……! ここももう少しで見つかっちゃう……」

 

「それなら相手を先に見つけさせれば……!」

 

隠れ場所が推測されるにつれて慌てる新田を尻目に有馬は新田を先に見つけさせるという考えを思いついた。

新田が見つかればまさか同じ部屋に2人はいないだろうと考える心理作戦を使おうとしたのだ。

自分の身を守るために新田を犠牲にしようとするために有馬は早速行動に移す。

 

 

「な、何か物を投げてベッドの下に当てて、ベッドの下に何かがいると思わせれば……!」

 

 

有馬はそう独り言を呟くと、廃病院に転がっていた小さな石をぽいっとベッドに向かってを投げた。

 

 

カンッ!

 

 

「⁉︎」

 

「えっ⁉︎」

 

 

小石は見事にベッドの脚に命中して音がなる。

いきなりの音に捜索者は音のした方を見て、新田も思わず声をあげた。

 

 

「……!」

 

 

新田は『しまった!』と思い口を手で塞ぐが捜索者はその声を聞き逃さなかった。

そして、今の声と音が聞こえた霊安室のベッドへと向かった。

 

 

コツ…! コツ…!

 

ピリリ…! ピリリ…!

 

 

新田に忍び寄る死神の足音、アラーム音は今の自分の心臓が動いているのを確かめる心電図モニターの音のように聞こえた。

この音が止まればきっと自分は次の瞬間生きていないだろう。

 

このゲームでは自分はどうしても勝たないといけないんだ。

 

新田は地方から都会に出て来てビッグな人物になるという典型的な田舎者らしい考えをもった人間で、出てきたは良いがそう上手くいくはずもなくフリーター生活を余儀なくしていた。

フリーターとしての生活は苦しく、母親が仕送りをしていたお金もあってなんとか生活ができていた。

しかし、その母親が過労で入院したのだ。

 

新田は母親の入院費のためにゲームに参加したのだ。

 

ここて見つかっては母親に何1つ親孝行出来ぬままだ。

 

絶体絶命の状況だ。

 

新田は奇跡を信じて目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『新田将暉、目視』

 

「っ⁉︎」

 

新田がその声に驚いて目を開けるとそこには黒と赤のジャケットを着た薄笑いの仮面を着けた人物がベッドの下を覗き込み自分を見ていた。

 

悲しいことに現実は非情であった。

 

新田は逃げようとベッドの下から素早く這い出た次の瞬間!

 

「うっ! ああっ! ねこら……!」

 

途端に身体に力が入らなくなり全身が紫色になっていき、身体中から気持ちの悪い色の体液が出てきた。

口からは気持ちの悪い赤色になった自分の血らしきものが出てくるし視界も真っ赤になったと思ったら何も見えなくなった。

 

「ああっ……! 助けて……! たすけ……!」

 

新田の身体がボコボコ膨れ上がってきた、まるで全身が身体中で内出血を起こしたかのように、新田は助けを乞うが捜索者はそれを無言で見ているだけ、新田の胸部が勢いよく膨れ上がった。 それが合図となったかのように……!

 

バン……!

 

 

まるで心臓が大爆発を起こしたかのような小さな音の後、新田は身体中血だらけのままばたりと霊安室のベッドの上に倒れた。

倒れた新田の身体は元は人間だったか疑わしいものになっており、所々死んだばかりで痙攣しながら悶える黒い塊になっていた。

 

 

 

死んだ人を寝かしておく霊安室には綺麗な死体が普通は置かれるのだが今の新田の身体はそれと真逆の状態だった。

新田が死んだのを見届けると捜索者は有馬の思惑通りに霊安室の扉を開けて部屋を出ていった。

 

 

 

「はぁ〜…!」

 

 

 

有馬は捜索者が出ていったのを見てふうと息を吐く。

霊安室には新田の血生臭い匂いが立ち込め始めていたが、そんな事を言っている場合ではない。

 

有馬はもう塊となった新田の死体を見つめた。

 

 

直接殺したのは運営の方だとしてもきっかけを作ったのは何しろ自分なのだ。

人を1人殺した事に対する罪悪感はあるがそれでも有馬は死にたくなかった。

 

 

「悪く思うなよ。 俺だって… 死にたくないんだよ…」

 

有馬は暗闇の中でそう呟いた。

 

 

 

有馬は親友に騙されてサラ金の連帯保証人となったのだ、奇術師と言う不安定な役職のため払えるわけもなく、毎日彼らのストレス解消用のサンドバッグになっている。

このゲームに勝てればようやくそんな生活から解放される。

こんなところで死ぬなんて冗談じゃない。

 

 

有馬は新田を殺した罪悪感を拭い去るようにそう思いなおし、霊安室の部屋の蝋燭棚に身を潜めた。

 

 

 

 

ー残り時間 52分24秒 新田将暉 失格 残り7人ー

 

 

 

 

 

 

ー3F 病室ー

 

一方、3Fでは1番奥にある裕福層の人間が入院するであろう特別室の病室のソファーの裏に隠れている武野が動き出していた。

 

「ここは見つかる……! 場所をかえましょう…!」

 

ゲームが始まってまだ10分も経っていないが移動を開始する。

エレベーターホールから階段へは通じているので、そこから上の階に移動する。

捜索者たちは下のフロアから調べていくと思ったのか上のフロアに移動する。

 

「ちょっと1番上の6Fに移動をしよう…」

 

この廃病院の最上階である6Fに向かう武野、5Fから6Fに通じる階段を音を立てないようにゆっくりと慎重に登っていく。

 

 

 

リ……! ピリリ……!

 

 

「⁉︎」

 

 

 

自分の考えでは聞こえないはずの音が聞こえてきた、この近くに捜索者がいると言う事だ。

思わず6Fへの階段の踊り場で足を止める。

 

 

「嘘でしょ…? これ、何処から聞こえるの…? 6F? それとも5F?」

 

 

武野は慌てて耳を澄ましたが音は同じように聞こえる。

それが余計に彼女を慌てさせた。

 

ピリリ……! ピリリ……!

 

 

 

「近づいてくる……!」

 

 

 

武野はどんどん自分に近づいてくる音を聞き、ほとんど自分の直感を頼りで最上階の6Fに移動する。

 

 

「こんなところで死ぬわけにはいかないのよ…!」

 

 

武野は心の中で呟いた。

 

武野の職業は地下アイドルだ。

アイドルといえば中々華やかな世界の人間だと思うが彼女はそうではない。

武野はアイドルグループ【shooting stars】と言うグループ名で活動をしている。

だが、地下アイドルは表の華やかな世界のアイドルたちとは違い、ギャラはファンが来ないと一切もらえないし、交通費さえももらえない。

それで、アイドルグループのメンバーは生活が苦しくなり、生活費のために地下アイドルたちは枕営業をすることも珍しくなかった。

 

武野もその1人だったが、彼女がこのゲームに参加したのは彼女のグループを存続させるためだ。

武野のグループは全員20代半ばを迎えている。

一般的にはかなり若いがアイドルたちで売れるのはやはり10代の方であり、20代半ばの武野たちよりアイドルオタクの人間たちは10代のまだ若い人間の方にいくのだ。

地下アイドルはテレビには出ないので、事務所はアイドルたちの歌う会場を取るだけでも大変なのだ。

その為に人気のないグループは解散させられる、武野のグループもそうなったのだ。

 

【shooting stars】のグループのリーダーでもある武野は、なんとしても隠れ切り、賞金でグループを存続させアイドル活動を続けたかった。

仲間のためにも自分のためにも……!

 

 

 

 

 

武野は懐中電灯の明かりを頼りに覚悟を決めて6Fに駆け上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『武野櫻子 目視』

 

「……あ」

 

 

 

一瞬の出来事だった。

 

武野が階段を駆け上がった後、そこには6Fの捜索を終えて階段を降りようとしていた捜索者がいたのだ。

そこで、武野が飛び出して運悪く鉢合わせたのだ。

 

捜索者の『目視』の声の後、武野は地下アイドルとは思えないほど真っ暗な廃病院の床をのたうち回り運命や捜索者やこのゲーム参加した己を呪いながら死んだ。

 

 

捜索者は武野の死体を一瞥すると『ここにはもう用はない』と言いたげに下のフロアの捜索に向かった。

 

 

ー残り時間 50分32秒 武野 櫻子 失格 残り6人ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲームが始まって10分で早くも2人が失格となり命を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーB1Fー

 

その頃、地下1Fでは新田を見つけた捜索者が引き続き捜索を進めていた。

 

発電室は異常なしだったらしく発電室のドアを開け、隣の倉庫に向かう。

向かう先にはB1Fに隠れている最後の1人、荒川が隠れている。

この廃病院のB1Fには倉庫が3つあり、その倉庫の中の1番奥に荒川が隠れている。

 

B1Fの1番奥の倉庫の中で、ガラクタの奥の段ボール箱を頭に被り身を潜めている、荒川。

 

 

「音がこっちに近づいてくる……! 真っ先にここに捜索者が突進してきそう……!」

 

 

荒川のその1人事に『正解だ』と言わんばかりに捜索者のアラーム音が近づいてくる。

その音が荒川をあせらせる。

 

 

ガサガサ! ドゴン! ジャラジャラ……!

 

 

 

捜索者は1番手前の扉を開けて中の物を片っ端から動かして潜伏者を探しているようだ。

荒川は体を硬くして目を瞑った。

 

 

バタン!

 

 

ドアの閉まる音が聞こえた。

恐らく潜伏者がこの部屋にいないのだろうと判断したのだ。

そうなると次の倉庫の探索に捜索者は必然的にはいる。

荒川が隠れているのは捜索者が探索しているその倉庫のすぐ隣の倉庫だ。

 

壁一枚しか隔たりがない隣の部屋からまた、物を片っ端から動かして潜伏者を探しているのだろう音が聞こえる。

 

 

荒川の足は震えて、心臓も破裂しそうなほどうるさく起動している。

この部屋でもあの捜索者は物を片っ端から動かして潜伏者を探そうとするだろう。

そうなれば自分は絶対に見つかってしまう。

 

 

「に、逃げなきゃ……!」

 

 

荒川はこのままここにいると見つかると判断し、捜索者がこの部屋の隣の倉庫の探索に気を取られているすきに逃げ出そうとする。

 

 

「怯えている場合じゃない……! あの子のためにも絶対に隠れ切らなきゃいけないんだ…………!」

 

 

荒川は一児のシングルマザーだった。

以前、自分が騙された結婚詐欺師との間に出来た子供であり、自分が身ごもった時にその男に『結婚しよう』と言った時にその男が結婚詐欺師だと判明したのだ。

結婚詐欺師の男は逮捕されお金は取り敢えずは戻って来たが子供はどうしようもなかった。

その男と結婚するために子供の育児のために勤めていた会社は退職したために、子供を養うために小さな鮮魚店に雇ってもらったが、その給料は微々たるもので自分と子供の生活費で消える。

自分を騙した結婚詐欺師に対しては恨みはあるが、子供には何の罪もない。

子供を養うためにもこの廃病院での命を懸けたゲームに勝たなければならなかった。

 

「私が死んだら…… あの子は一人ぼっちになってしまう…」

 

そう呟くとそっと段ボール箱をとり、音を立てないように慎重にガラクタの山の中から這い出てくる。

 

隣の倉庫ではまだ、探索がされているらしく乱雑に物を片っ端から動かしている音が聞こえてくる。

 

倉庫の入り口に来て、おそるおそる廊下を顔だけ出して様子を伺うと、荒川の顔が恐怖から絶望に変わった。

隣の倉庫には物がたくさんあったらしく潜伏者を探すために物を片っ端から動かしたため廊下は倉庫に入っていたのだろう物がたくさん転がっていた。

手前の倉庫の前の廊下も同じようになっていた。

小さいものだけではなく、ブラウン管のテレビや使い古されたテレビなども乱雑に廊下に出されていた。

無理すれば通れなくはないが、その前に絶対に捜索者に見つかってしまうだろう。

 

 

荒川があまりの状況に呆然としていると……

 

 

 

バタン!

 

 

「あ……!」

 

 

『荒川渚 目視』

 

ドアが閉まったと同時に無機質な声と赤と黒のジャケットが目に飛び込んできた。

 

その声が耳に届いたと同時に、自分の体から赤黒い血が噴水のように吹き出て意識が朦朧としてきた。

荒川はもうすぐ死ぬというのに死が怖くなかった、それは、頭の中には子供のことしかなかったからだ。

 

荒川は血だらけになりながら廃病院の床を這いずりながら廃病院を出ようとする。

 

「かぁっ……えら……なきゃ……… あの子が……待ってる……から……!」

 

 

 

しかし、現実は非情なもので自分の視界が真っ暗になっていった。

それが、何を意味するのかは分かっている。

それでも、あの子のために帰りたかった。

 

 

「ああっ………」

 

 

その声を最後に荒川は動かなくなった。

 

 

嗅いだだけで胸の悪くなる血生臭い匂いが廊下に立ち込めるなか捜索者は残りの潜伏者を探しに向かった。

 

 

 

ー残り時間 46分58秒 荒川渚 失格 残り5人ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続々と捜索者に見つかり潜伏者たちが命を落としていく、残り時間隠れ切り賞金1億円を手に入れる者は現れるのだろうか……




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