今回の主題:「だが男だ」
前王の退位。
そして異例ながらお二人の新王の即位。
法国から来た終戦協定を締結するという返答と共に、衝撃的な報せがエルフの国に広まっていた。
もちろん唐突な話で戸惑う国民も多い。しかしブルー・プラネットが恐れていた新王への混乱や反発は一切なく、むしろ先の大戦の英雄による統治に喜ぶ者が圧倒的に多数であった。
エロフの王が遺した唯一の功績は『あまりに国民から嫌われすぎていたため、いなくなっても誰も悲しまない。それどころか王の暴挙のせいで国民のまとまりが強く、滅茶苦茶ナザリックが乗っ取りやすかった』ことだとすらいえる。
竜並みに強い魔獣を百以上も従え、快活で華やかな姉君の陽王アウラ・ベラ・フィオーラ様。
逸脱級の魔法を使いこなし、控えめながらも包容力のある弟君(?)のマーレ・ベロ・フィオーレ様。
このエイヴァーシャー大森林では、最近この二人の話題でもちきりだ。
ちなみにマーレの服装について揶揄した者は、翌日には必ず神隠しに遭ったかのように忽然と消えていなくなるため、現在は決して触れてはならない暗黙の聖域とされている。
当然ながら『王の四肢をもいで拉致をした』などと、野蛮で残酷な真実も語られてはいない。
その現場に居合わせていた親衛隊や貴族たちなどは、ドルトを除いてウルベルトに記憶をいじってもらってある。
あくまで『王座の簒奪』ではなく『王位の譲渡』であったと認識してもらわねば。
それに自分たちが見てない間にまたギルメンを貶めるような会話があったら、まず間違いなくあの双子を筆頭に発言者をいじめるだろう。もちろんR15的な意味で。
そこで再発防止のためにも、ドルトだけは記憶をそのまま残しておくことにしたのだ。
そして数日経った今日、アウラとマーレは前王の頃より立派に装飾されたテラスから、足元に押し寄せる群衆に向けて言葉をかけている。
総人口の8割以上という驚異の人数が固唾をのんでこちらを見上げているが、アウラに緊張している様子はない。
「こほん、皆さん今日はよく来てくれました!アタシの名前はアウラです。これから大事なことを話すから、ちゃんと聞いててください!」
今回もアイテムのおかげで、豆粒にしか見えない距離にいても元気な声がよく聞こえてくる。
(喋り方がいつもと少し違うのは、王の役になりきってるからかな?だとしたらさすが茶釜さんのNPCってところか)
ブルー・プラネットはテラスから遠く離れたところで、聴衆に紛れて様子見をしていた。
「まずこの国は、今後”アインズ・ウール・ゴウン魔導国”の領地となります!」
冒頭からいきなりの『知らない他国の領地化』発言に大きなざわめきが生まれる。
すると今度はマーレが一歩前に出てきた。
「えっと、”アインズ・ウール・ゴウン魔導国”っていうのは、ブルー・プラネット様を含めた至高の3人の方々が治められている国です。ぼ、僕たちはそこから来たので、もしお姉ちゃんと二人で王様になるなら、こ、この国も魔導国の支配下じゃないとおかしいと思います!」
こちらは緊張気味なマーレが話し始めると、なぜか周りが急に静かになった。
一部鼻血を出している男性がいるが、見なかったことにしよう。
(たしかにマーレは天使のように可愛い。だが男だ。)
「属国ってことになるんだけど、魔導国は全ての種族に平等だから奴隷になんてしません。むしろ
「そ、それに!僕やお姉ちゃんより強い方がたくさんいらっしゃるので、万が一のときも森の魔物や人間から守ってもらえるから安心じゃないでしょうか...」
明るいアウラが前向きなメリットを提示し、
弱気なマーレが不安な部分をつっつく。
不信で否定的だった雰囲気が、どっちつかずの状態にまでもってこれた。
(うんうん、上手に誘導できてるね。まあこっちはいくつも
煮え切らない様子に焦れたフリをして、アウラが声を張り上げた。
「あのさ、属国になったら酷いことされるかもとか疑ってんのなら、もう少しちゃんと考えてよね。そのつもりがあるならこんな回りくどいことせず、最初から戦争ふっかけてるっての。そもそもアタシたちの属国にならずにまた人間が攻めてきたら、自分たちだけで生き残れるの?」
(あ、素に戻ってる...)
少々粗野にはなったが、その言葉を機に至る所から声が上がった。
「私は属国化に賛成です!強くお優しいお二方についていきます!」
「俺も賛成です!アインズ・ウール・ゴウン魔導国は素晴らしい国だときいたことがあります!」
「わたしも!」「自分もだ!」という発言が次々に湧き出る。
そしてマーレの後ろからドルトが歩み出てきた。
「このドルト・ファーヴル・ブンデス、貴族や軍の代表として、また一人の国を想う民として言わせて頂きたい!」
全員の目がマーレの横に動く。
「悪しき王からの脱却、法国からの救済...これらの大恩を鑑みれば、属国化はむしろこちらから願い出るべきこと。それをわざわざお二方から申し出て頂いているのに、ご厚意に疑念で返すとは失礼ではないだろうか!アインズ・ウール・ゴウン魔導国の詳細についてならば私が既に聞き及んでいる!私が責任をもって諸君の安全を保障しよう!」
元より信頼の厚い男からの確信をもった宣言が、揺れ動く民意にとどめをさした。
戦場で肩を並べたバイエルたちから賛同の歓声が上がり、やがては万雷の拍手が響き渡る。
「あれ、さっき叫んでたのって、最近神隠しに遭って消えてた奴らじゃ...?」
誰かの呟きは、鳴りやまぬ手を叩く音に埋もれていった。
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ここは法都にある神殿の一室。
そこには神官長として国に奉仕する聖職者たちが、一様に渋面をつくって座していた。
「それで、火滅聖典は手も足も出なかったのだな?」
「はい。隊長自らその場に居合わせたらしく、生存者全員の証言とも矛盾はありません」
「まあ
「かの森は広く魔物も多い。たしかに強大な力をもつ精霊がいても不思議はないな。それにあの愚か者を誅したという噂もあるのだから、停戦は致し方ないこと」
質問した神官長の眉間の皺が深くなる。しかしこの話には続きがあった。
「とにかく憂慮すべき緊急の案件、勝手ながら私の判断で急ぎ土の巫女姫に第八位階の監視魔法で探らせておりました」
「うむ、先の報告が事実ならば由々しき事態。その判断は正しかろう」
「その通りじゃな。して、結果はどうであった?」
「......」
珍しく言い淀む男に、他の面々も訝しむ。
「どうしたのだ。まさか監視を妨害されたのか?」
「ふん、よもや第八位階を防がれることなどあるまい。儀式にでも失敗したか?」
各々が推測を口にする中、ようやく真実が告げられた。
「...いえ、儀式は成功し、魔法も正常に発動いたしました」
「ならばなにを...」
「それが罠でした」
男は遮って断言した。
何を言っているのか分からない。
皆そんな表情をしている。
「火滅聖典隊長の言う人間の男を模した精霊を見つけたと思ったら、彼はしっかりとこちらを見てこう告げたそうです。
『虐殺をよしとする大義などない。お前たちは神意を騙り我らを攻撃した。待っていろ、名を変えた我らの友がお前たちを裁きに行く』と」
「...ますます意味が分からん。偉大なる六大神の中に精霊はいなかったはず。何故神意に触れる?」
「待て、今『裁きに行く』と申したな。つまり敵対するということか?」
森に現れた精霊ごときが、何の権利があって神を冒涜するか。部屋の中は敵愾心と異端者への怒りに溢れてゆくが、次の一言で水を打ったように静まり返った。
「巫女姫の話では、その隣にスルシャーナ様と思わしき
短いって楽ですね。
次章入る前に次は幕間差し込みます。
bomb様 誤字脱字報告ありがとうございます!