骸骨と山羊と自然科学者   作:chemin

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新章突入・サブタイ通りです

先に謝っておきます。
帝国原産禿ジルさんはダシにしてうまみを引き出す以外、特に美味しい料理の仕方が分かりません。
あと今回は突貫工事かつあんまし展開ないです。


アインズの誤算
魔導王と鮮血帝1


新生エルフ王国は程なくして、自らを”かぜっち双王国”と称し、正式な立国と『アインズ・ウール・ゴウン魔導国の属国として諸国との外交に臨む準備がある』という布告を大々的に行った。

 

 

これにより、人間主体の国家は南側に大きな注意を払わねばならなくなる。

 

なぜなら今を時めく双王国は、奴隷として出回ることの多い種族が立ち上げたものなのだ。つまり既に心を折ってあるはずの森妖精(エルフ)が新たな国に希望を抱き、それに触発された多くの奴隷たちが一斉に蜂起などしようものなら、少なくない被害が出るのは確実だろう。

加えて法国に勝利して停戦協定を結ばせたという事実が何よりもまずい。

彼らは人類の守り手であり、知る人ぞ知る人間の中では武力において最強の国家である。そんな人間至上主義を声高に叫ぶ、亜人であれば女子供の虐殺も厭わないような彼らが、真っ先に双王国に対し今後一切の不干渉を明言したのだ。それはつまり、今回の騒動のきっかけになった陽王・陰王の闇妖精(ダークエルフ)が、人類全体を脅かすほどの力を秘めている可能性を示唆している。決して対岸の火事では済まされない事態だと気づく者は、しかし殊の外多くはなかった。

 

 

 

そしてそのことを正しく理解する国は、情報を集めるための労力を惜しまない。

 

もちろん優秀な鮮血帝を皇位に戴くバハルス帝国も、最優先事項として必死に情報をかき集めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<< ナザリック地下大墳墓 円卓の間 >>

 

 

「お帰りなさい!お疲れさまでしたブルーさん!」

 

「いやあ、本当にお疲れさまでした。大変でしたねぇ」

 

 

我が家に戻ってきて早々、ブルー・プラネットは二人から賑やかに迎えられた。

エイヴァーシャー大森林に出張して、しれっとクーデターをしてから一週間半。伝言(メッセージ)で連絡は密にとってはいたが、転移で実際に戻ってくることなどはしなかった。アインズには逆に一度だけこちらに来てもらったことはあったが、ウルベルトとはこうして直に顔を見ながら会話するのはなんだか久しぶりに感じる。

 

 

「どうもですアインズさん、ウルベルトさん」

 

ちなみにモモンガは、ユグドラシルで有名だった名を広めること、ナザリック内にも対外的にもトップを明確にすること、その二点のため名を”アインズ・ウール・ゴウン”に改めていた。

 

副次的に某国への()()にもなっており、シモベから反対意見もなく円満な改名である。

 

 

「ははは、やっぱりまだ慣れませんね、その呼び方」

 

「こっちも呼び慣れませんよ、アインズ様」

 

「ちょ、様づけなんてやめて下さいよウルベルトさん!」

 

 

この他愛もないやり取りが、帰ってきたという実感をもたせてくれる。

そんな中、ウルベルトの不注意でたまった油に火が点けられた。

 

 

「そういえば、むこうの森林ってこっちとなんか違いました?」

 

「あ、それは...」

 

 

アインズが気づくも、既に遅い。

 

 

 

「いやあ、よくぞ訊いてくれました!!!エイヴァーシャーたまりませんでしたよ!!また新種たくさん見つけました!この天体(ほし)が地球のように恒星を中心とした公転軌道上にある直径1万3千kmの惑星でかつ地軸が公転面に対して20度以上傾いていると仮定しても、この緯度の違いであそこまで植生は劇的に変化しないはずなんですけどねぇ!これは地理的要因だけでなく、森妖精などの魔力をもつ生物からの相互作用が間違いなく関係してると思うんですよ!!水平分布のデータはかなり溜まってきたので、できれば次は垂直分布で森林限界を...!!!」

 

 

溢れる思いを喋れる相手がいなかったのだろう。およそ十日ぶりの挨拶もそこそこに、自然科学者は堰を切ったかのように嬉々として語り始めた。

 

 

「..ふう...ウルベルトさん」

 

「...分かってます、すみません。今のはこの話題を振った俺が悪かった......」

 

 

こうなっては止められないということも、二人は重々承知であった。

しかし昔と同じ純粋さで譲れぬ拘りを主張するこの友人の姿が、異形へと変容した両者の心にはときどき、枯れた砂漠をものともせずに強く根付いた大樹のごとく映ることがある。

今は人を殺めることに”抵抗を感じない”自分が恐ろしい。しかし彼を見ていると、そういった歪さと向き合う勇気がもらえる気がしてくるのだ。人だろうが骸骨だろうが山羊だろうが、自分たちは自分たちであると無意識のうちに再確認させてくれる。

そのため言葉とは裏腹に、実はこの姿こそ待ちわびた友人そのものでもあった。

 

 

 

当の本人はといえば、二人が生温い視線を向けてくるのにようやく気づいたようで、高くなっていた声が徐々に低めに戻っていた。

 

 

「あ...すみません。ついいつもの悪い癖で、我を忘れてしまいました。ええと、いくつか計画と違ったところが出来ちゃったんで、修正するのに苦労しましたよ...。そうそう!デミウルゴスには筋書づくりですごく助けられました。僕もお礼は言ったんですけど、ウルベルトさんの方からも褒めといてやってください。きっとすごく喜ぶと思うんで」

 

 

 

 

 

 

「...分かりました、俺も一言添えておきます。それで..デミウルゴスといえば、ブルーさん、実験のためとか言ってあいつに森妖精(エルフ)の王様渡しましたよね?」

 

今度はウルベルトの声が低くなる。

 

 

「え?ああ、はい。ナザリックのリソースを削らずに戦力を増やすため、他種族間で遺伝の実験をしたかったそうなので。なんか王様の方も『強い子供が生まれるには~』みたいなことを言ってたときいて、デミウルゴスにも参考になるかと思い二日間だけ貸しましたね」

 

 

「私もそう聞いてますよ。おかげでずいぶん進展がありそうだって、デミウルゴスも嬉しそうでした」

 

 

裏のないブルー・プラネットとアインズの様子を見て、ウルベルトは察した。

 

(あぁ、実験の協力者だと思ってるのか...実験動物(モルモット)だとは知らなかったのか)

 

 

「いえ、ご存じないのなら一応お教えしておきますと...遺伝というより、繁殖の実験で...その、なんといいますか。うちの子は知識の共有ではなく、実際に色んな亜人とひたすら生殖行為をさせたらしいですよ」

 

 

「「えっ」」

 

瞬間、空気が凍った。

 

「いくら悪魔とはいえ、人がつくったNPCに何させてんのかと思いましたよ...」

 

 

「知らなかったとはいえ、本当にすみませんでした。あぁ..だからあんな従順になってたんですね。てっきりニューロニストのおかげかと...」

 

「いやいやブルーさん。絶対そっちもありますよ」

 

 

元は同じ男。

いくら大事なナニかを失ったとはいえ、さすがに同情や憐れみを禁じ得ない。

 

 

「...ま、まぁ、人間でもケモナー?もいるってペロロンチーノさん言ってましたし」

 

「そ、そうですね。あとは...そう!強姦罪に問われてますから、まあ色魔の天罰ってことで...」

 

((今度からもう少し優しくしてあげるよう言っとこう...))

 

自らを正当化しつつも、こっそり贖罪の気持ちは湧いてくる。

 

 

「え、あの虫ケラはどうでもいいんですよ?ただうちのデミウルゴスにはまずスマートな悪から手をつけてもらいたいので、そこだけ注意しといてくださいね」

 

しかし一人ウルベルトだけはズレていた。

 

 

 

 

漂ういたたまれない雰囲気を一掃するかのように、モモンガは突然明るく切り出した。

 

「そういえば、新しい国名はアウラとマーレが考えたんですよね?」

 

ややわざとらしいが、救いに船とばかり、ブルー・プラネットは便乗する。

 

 

「そうなんですよ!先に言っておいたので考える期間はあったんですが、わりとギリギリに決定しましてね。でも二人とも非常に納得できた名前みたいです」

 

 

「思い返せば、俺もデミウルゴスのときは悩みましたねぇ。『名は体を表す』って諺もあるくらいですから。時間をかけた分愛着もわくし、ギルメンの呼び名が入っていればシモベたちも無碍にはしないだろうし、今回はいい実例になったんじゃないですか?」

 

 

「たしかにそうですね!それにしても国名をきいたときは驚きましたよ。ぶくぶく茶釜さんのあだ名は、ブルーさんが二人に教えてあげたんですか?」

 

 

ぶくぶく茶釜のリアルでの職業である声優。

業界の中で活動するにあたってお気に入りの名義が風海久美、通称”かぜっち”であった。

 

「言い出したのは僕ですけど、アウラもマーレも知ってたみたいですね」

 

 

ユーザーネームと違いあまり印象は強くないが、アインズ・ウール・ゴウンの数少ない女性メンバーからはこのあだ名で呼ばれていた。その会話を第六階層でよく耳にしていた階層守護者の双子は、朧気に”かぜっち”という尊い呼称を脳裏に刻んでいたのである。

 

 

「最初は”ぶくぶく茶釜様王国”にしようとしてたらしいんです。でも、どうしてもナザリックでない場所にその名を使うのが抵抗あるって、すごく悩んでました。(あやか)りたいけど不敬じゃないか...そうゆう二つの気持ちで板挟みになってたので、妥協案として言ってみたら、まぁ気に入ってしまい...」

 

 

「なるほど。なら二人もその名に恥じないよう頑張ってくれるでしょう」

 

「俺は頑張りすぎないかって方が心配だけどなぁ...」

 

 

ウルベルトの言も尤もだ。しかしこの世界を征服すると決意した以上は、やらねばならない。ゲームのように、敵を倒してハイ終了、とはいかないのだから。

そのために征服後の安定した統治と国民感情、それにパワーバランスを踏まえた外交下地を準備する必要もある。

誰もが

『アインズ・ウール・ゴウン万歳!!!』

と叫びたくなるように、毒のごとく甘い絶望に浸けてやらないと。

 

 

 

「そこはホワイト企業目指してこっちが頑張りましょう!というわけで、ブルーさんの布石が生んだ波紋が残っているうちに次のステップに入りましょうか。今度は私の出番なので、元営業職の腕の見せ所ですね」

 

 

「おお、アインズさん上手いこと言いますね。布石の生んだ波紋、ときましたか。案の定帝国は大慌てで双王国の内情を探ろうとしてますから、たしかに今週末あたりが焦れてきてちょうど良さそうですね」

 

 

「頼みますよ、アインズさん。帝国を抱き込めればアゼルリシア山脈を境界線にして右側は攻略済みになりますからね。それに俺も王国の貴族で最高に面白い奴を見つけたので、早く諸国の皆様にお披露目したいですからね」

 

 

楽し気に笑う骸骨魔王につられて、山羊悪魔も愉し気に嗤う。

 

しばしとりとめもなく雑談に興じ、区切りがついた頃アインズはナーベラルとニグンを自室に呼び寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<< アインズ私室 >>

 

 

「ナーベラル・ガンマ御身の前に」

 

「ニグン・グリッド・ルーイン御身の前に」

 

 

相も変わらず呼び出しから到着までにかかる時間が馬鹿みたいに早い。

そしてなぜか執務机の右側に、アルベドが当たり前のような顔をして控えているのも解せない。

 

 

「う、うむ。よく来たな二人とも。今日お前たちを呼んだのは他でもない。実は例の帝国関係の計画をそろそろ始動することにしたのだ」

 

ナーベラル、ニグンの両名には事前に各自の役割を説明し、準備をさせてある。どうやらそれが生殺しのような気分にさせたようで、アインズの始動宣言についにこの時が来たかと武者震いする有様だ。

 

 

「おお!!ついに至高の御方々のお役に立てるときがきたのですね!」

 

「罪深き我ら元陽光聖典の隊員一同、一命を賭して必ずや至高の御方のご満足頂ける結果をお持ち致します!」

 

 

やる気があるのはとても良いことだ。しかし膝をつき頭を下げたまま健気に喋るのはやめてほしい。

油断して忘れていたが、シモベという存在は二度『面を上げよ』と命じるまでは低頭した状態を保とうとする。かつてただの一社会人だったアインズにとっては、強制しているような罪悪感と、単純な面倒さのダブルパンチであった。

 

不意にこの手順を簡略化する手段を閃き、矛盾がないよう考えながら言葉を紡ぐ。

 

 

「面を上げよ」

 

予想通り一度目では上げない。ここからが勝負だ。

 

「お前たちは今後ナザリックの外へ出ることもあれば、外からの訪問者を迎えることもある」

 

二度目がないことに微塵も動揺が表れないが、始めてしまったものは押し通すしかない。

 

 

「その際こうして頭を下げる度、お前たちはどこに潜んでいるか分からぬ敵に隙を晒すことになる」

 

僅かではあるが、ここで初めて肩が震えるのが見えた。今まで微笑を浮かべて見ているだけだったアルベドも、アインズに向き直り口を開こうとする。

しかしそれを手で制し、なおも続けていく。

 

 

「臣下の礼を止めよとは言わぬ。むしろそれほどの忠義を示してくれてとても嬉しく思うが、私は形式だけに固執して真に大切なものを見失うべきではないと考えている」

 

相手の頭に沁みこませるために、一息の間をとる。

 

「礼をすることがお前たちの危険に繋がるならば、それは私の望むところではない。私が望むのはナザリックの皆の安全と幸福だ。それを妨げるものは例えお前たち自身であっても許さない」

 

アルベドは意思を汲み取ってくれたらしく、目を伏せ佇まいを戻した。

 

 

「よって今この時から特別な命令がない限り、玉座の間以外の全ての場所において一度の許可で顔を上げてほしい。これはあくまで私からのお願いであり、命令ではない」

 

そう、命令ではない。

この一言のせいで二人はまだ低頭したままだが、ここが重要だ。

 

 

「私はお前たちの忠義を、形としての礼ではなく心の在り様に求める。お前たちの誇りを、跪くのではなくその足で毅然と立つことで示すように求める。それでも形に拘りたいと言うのであれば止めはしない、二度目を待って伏せているがよい」

 

かなり昔に読んだ小説に出て来る台詞を引用し、どうにかそれっぽいかんじにまとめられた。と思う。

 

今さらだけど、儀礼の通則も知らない無作法者と呆れられたらどうしよう...

言い終えてから不安に苛まれたが、ナーベラルに続きニグンも立ち上がってくれたので、狙い通りにことを運べたようだと安堵する。

 

 

「アインズ様のお望みとあらば如何様にも」

 

「至高の御方の意を汲めず、申し訳ありませんでした」

 

 

(やっと分かってくれたか!よーしこれで手間が一つ減るぞ!そうだ、二人にも話を通しておかないと)

嘘はついてないので、彼女らを騙したことにはならないはず。

 

「それでは守護者統括として、先程のお言葉をシモベたちに通達して参りますがよろしいでしょうか?」

 

アルベドが気を利かせてくれたので、許可を与える。

 

「よかろう、頼んだぞアルベドよ。よし、では改めて、ナーベラル・ガンマよ!」

 

「ハッ!」

 

「これより我がアインズ・ウール・ゴウンの先触れとして使者団を率いてバハルス帝国へと向かい、魔導王が会談を申し込む旨、しかと伝えて来るのだ!」

 

「ご命令、承りました」

 

 

「次に、ニグン・グリッド・ルーイン!」

 

「ハッ!」

 

「お前の名は既に過去のもの。これよりお前は...ニグン、二軍か..戦力的には四軍、いや五軍くらいか...?よし!お前は今後"ゴグン・ファーム"と名乗るがよい。部下たちも全員名を変えて使者団に加わり、ナーベラルと一般メイドの護衛及び各種の雑務や事務的な作業を行うのだ」

 

「この命に代えようとも遂行してみせます!」

 

 

(なんとかなった...よな?)

 

 

こうしてアインズの見せ場が始まる。

 

 

 

ちなみに、後日シモベたちの間で『一礼入魂』という言葉が大流行するのは、また別のお話である。




毎度ミスが多くてすみません。
ペリさん 様
スペッキオ 様
対艦ヘリ骸龍 様
誤字脱字報告ありがとうございました。非常に助かります。

特にスペッキオ 様
小粋な一言もありがとうございました笑 とりあえず始めてしまったものは仕方ないので、ウダウダ言ってないでさっさと書いて完結させます。はい。

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