骸骨と山羊と自然科学者   作:chemin

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書き溜めと違うとこ増えてきたなぁ...




魔導王と鮮血帝5

_魔導王杯個人戦・一回戦_

 

 

 

アインズらが見守る前で試合開始の合図となる魔法の爆発音が一回響き、まずパルパトラの方が動いた。

 

独自に編み出したと言われる強力な二連刺突の武技<竜牙突き>を巧みに使い、初手から猛攻を仕掛けてくる。”老公”と呼ばれ齢80にもなるこの槍戦士にとって、長期戦は愚策であると判断したからだ。

<青龍牙突き><白竜牙突き>で計四度放たれた鋭い突きの内、最後の一撃がロンデスの左肩を捉えた。けたたましく硬質な金属音が鳴り響き、ロンデスがダメージを感じさせない軽やかなステップで距離をとる。

 

両者の間が元に戻り、しばらく睨み合ってから兜をしていないロンデスが口を開いた。

 

「なんとするどいつきなのだ。まどうおうよりいただいたこのよろいがなければ、あぶないところであった」

 

 

平坦で抑揚のないくせにやたらと大きな声を出す対戦相手を、パルパトラは胡散臭げに観察している。

 

「...おぬし、わさと避けなかったな?」

 

「...」

 

 

問いかけというよりも確認めいた質問に、答えはない。

主にそれとなく武具の宣伝をするよう命じられたので、彼はただ忠実に守っているだけだ。現にあれだけの突きを受けても平然と立っているため、観客の中には鎧の凄まじさに驚く者も多くいた。

 

返事の代わりにロンデスは無表情のまま、背中の大剣へと手を伸ばす。

鎧が見かけ倒しでないならば、あの見事な大剣も相当な業物に違いない。パルパトラは次の一太刀で勝負が決まることを察し、丹田に気を集中させた。

 

 

「愉快なもんしゃて。こうして新たな強者か現れよるから、戦いは止められん」

 

 

実力の底が見えないのは、おそらくそれだけ差があるからだ。遠い昔に憧れ、そして諦めたはずの”真の英雄”を目の前の男に重ねながら、余力など考えずに武技をいくつも発動した。

 

「はぁ!」

 

全盛期を彷彿とさせる俊敏な動きで、左右にフェイントをかけながら迫っていく。大剣を正眼に構えたロンデスにあと三歩ほどの距離まで詰めたとき、その姿がブレた。凡人には認識できない速度で交差した後、ドラゴンの牙から作ったパルパトラの槍が粉々に砕けていった。

 

 

「...見事でした、ご老人」

 

愛想のない男から初めて人間味のある声で話しかけられ、パルパトラはしばし呆けてから破顔した。

 

「参った!」

 

 

 

降参の意を示すため両手を掲げると、試合終了の合図となる二回の爆発音が響く。客席から惜しみない拍手が退場する両者に送られる中、一人の老人がひっそりと引退を決意していた。

 

 

 

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一方、貴賓席では。

 

 

「...若くないとはいえ、あのパルパトラ翁を圧倒するとはすごい剣士だね。それにあまり詳しくないのだが、あの装備もかなり値が張るものなんじゃないのかい?」

 

(な、なんだあの強さは!?初戦で魔導国の戦士がどれほどの実力なのか見極めるつもりが、装備まで出鱈目じゃないか!)

 

 

 

「彼は元々凡庸な戦士だったが、私自ら鍛えたからな。この程度ならば造作もないさ。それにあの装備はたしかに特別だが、我が国ではまだまだ作れるものだぞ?」

 

(この世界では40Lv.って最強クラスだもんなぁ。でも意外と反応薄いし、装備の機能性はあんまり伝わらなかったみたいだ。ならここは質より量でアピールするか!)

 

 

 

「そ、そうなのかい?つまり魔導国は魔法だけでなく、育成や武具の製造に関しても素晴らしい技術をお持ちなんだね」

 

(くそっ、あんな装備を量産できるなどまるで悪夢のようだ...。フールーダを失った今、そんな軍勢に攻められたら勝ち目など皆無だろう。そもそも一国の王が軍事関係の情報をこんな簡単にべらべらと喋るわけがない。それともなにか、この程度ならお前たちに教えても問題ないということか!)

 

 

 

「技術力には自信を持っているとも。今後友好的な関係が築ければ、君たちにはもっと素晴らしいものも準備できるぞジルクニフ殿」

 

(お、喰いついてきたぞ!なんかすごい顔してるけど、誰かの育成に苦労してるんだろうか...?でも一度にたくさんの商品を紹介しすぎると逆に良くないって教わったし、ここは『契約すれば会員特典つきますよ』ってかんじだけ匂わせておこうかな)

 

 

「...ふふっ、なるほど」

(やはり更に厄介な隠し玉を持っていると見た方が良さそうだ。フールーダだけでは飽き足らず、これ以上私から何を奪おうと言うのだ魔導王...!まさか...国そのものか?『素晴らしいもの』とは属国の席です、なんてことはないよな..?)

 

 

「...ふふふ分かってくれて嬉しいよ」

(『なるほど』っていうことは、『仲良くすればメリットありますよ』ってのを察してくれたんだよな...?ならプレゼン第一段階成功だな!)

 

 

 

魔導王と鮮血帝が、しっかりすれ違っていた。

 

 

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その後の第二試合レイナース対モブルットは、颯爽とルパンダイブしたモブルットが渾身の平手打ちをくらい、とどめに股間を槍の柄頭で潰され再起不能。勝利したレイナースはロンデスとの二回戦が決定した。

 

第三試合ブレイン対モブテルは、開始5秒でブレインが軽く斬撃を飛ばしてモブテルを気絶させ終了。

 

第四試合ドルト対モブンは、こちらも手刀の一撃で10秒もかからずにドルトが勝利した。その結果、ドルトは二回戦でブレインと当たることとなる。

 

 

 

こうして健闘むなしく、モブトリオは散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_魔導王杯個人戦・二回戦_

 

 

試合はいよいよ二回戦へと入っていく。

 

第一試合はロンデス対レイナースで、勝者が特別シードであるエルヤーとの準決勝へと進むことができる。

ちなみにもう一人のシードは武王で、こちらはブレイン対ドルトの勝者と戦う予定となっていた。

 

 

 

初戦と異なり本気のオーラを放って登場した四騎士の紅一点に、ワンサイドゲームばかりで刺激の足りなかった観衆は大いに声援を送った。続いて姿を見せたロンデスに罵声こそ浴びせないものの、どちらがアウェーなのかは歴然としている。

 

 

「あなた魔導国のお方よね?」

 

そんな周囲には目もくれず、レイナースは穂先を下に向け、敵意がないことを表しながら優雅に尋ねた。

 

「...」

 

「そんなに警戒しないでくださるかしら。四騎士なんて大層な肩書をつけられているけれど、今は一人の女としてあなたに訊いておきたいことがあるのよ」

 

「...」

 

「...」

 

 

顔の左半分だけでも十分に妖艶さを醸し出せる自負があったが、ロンデスの目を見る限り効果はなかったらしい。無表情が崩れないことに自尊心を傷つけられつつ、レイナースは単刀直入に切り出した。

 

 

「はぁ...はっきり申し上げますわね。私はとある魔物を殺したとき顔の右半分に呪いを受けました。それをどうにか解呪したいのです」

 

「...呪い、ですか」

 

 

”呪い”と聞くとロンデスも他人事ではない。どこぞの大魔王の好奇心からくる実験のせいで、呪われた装備をずっと身に着けているのだ。また当人たちは知らぬことだが、レイナースとロンデスは同じカースド・ナイトの職業をとっている言わば同業者。ロンデスはなんとなく親近感を抱くと、なぜか急に心臓が強く脈打ったのを不思議に思った。

 

 

「そうです。とても醜いのでご覧に入れることはできませんが、これは何をしても治せないのです。しかし魔導国はその名の通り、帝国などよりずっと魔法に優れた国と聞きます。もし治療法をご存知ならば、どうか私を救って頂けないでしょうか!お礼はいくらでもお支払い致します!」

 

 

興味をもたれたと感じるや否や、その細い希望の光をこじ開けようと懇願する。

しかし非情にも、ここで試合開始の音が鳴った。

 

 

「...魔導王陛下ならば間違いなく完全な解呪が可能でしょう」

 

 

大剣の切っ先を斜め下に向けた脇構えの姿勢をとり、ロンデスははっきりと告げる。

 

「では」

「恩恵に与る価値があるか、ご自身で陛下に示されよ」

 

 

戦闘の意志を見せる彼の言わんとすることを、レイナースは的確に理解した。

つまりこの男に勝たなければならないのだろう。

あの魔導王に気に入られるためには。

 

 

「...分かりました。全力でいかせて頂きます」

 

 

歩兵が扱うような槍を腰だめに構え、間合いを測りながら振り上げを牽制する。命のやりとりが始まれば、余計な考えは頭から自然と抜けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先に動いたのはロンデスだった。

 

いくら6尺ほどの大剣といえども槍のリーチには敵わない。従って、長物と切り結ぶときは懐に潜り込むのは定石だ。

下段から振り上げに見せかけ、突き出された穂先を剣の腹で滑らせて避ける。間髪入れずがら空きの右足を蹴りで払おうとするが、それを読んでいたレイナースは素早く足を引き、同時に左手を押し出し柄で強打を返した。

 

 

柄を右肘で受け間合いの外に弾かれたロンデスは、視線だけを一瞬貴賓席に向ける。本気で戦っていないのは魔導王陛下たちには確実にバレているだろうが、どうにかこの女性の長所を披露させてあげたい。どうしてこのような気持ちになるのか今はまだ考えないようにしているが、彼女に協力してやらねば必ず後悔することだけは断言できるのだ。

 

 

ロンデスが悩んでいる間も、相手はいくつも武技を使い、身軽に跳躍し、持ち手をずらし間合いを錯覚させながら上手く攻めてくる。そのことごとくを成人男性ほどもある大剣で危なげなく捌くが、傍目にはレイナースが圧倒しているように見えるはずだ。

 

 

 

「出し惜しみしない方が賢明ですよ」

 

 

「いやみ!です!か!」

 

 

しかし四騎士最大の破壊力を誇る重爆の連撃もなんのその。かえって涼しそうに挑発ともとれるお節介をされる始末だが、レイナースはこの発言に怒りよりも恐怖を感じていた。

 

それは目の前の敵に打ち勝てない恐怖。

そして解呪の希望の道が遠ざかる恐怖。

 

 

焦りは力みを生じさせ、力みは硬直となる。

ロンデスはそれを見逃さず、決意と共に蹴りを見舞った。

 

 

 

「ぐぅ!」

 

 

血を吐きつつなんとか立ち上がりかけたところで、槍を踏まれ喉に刃が添えられる。

武器(エモノ)を取り返そうともがくが、直後に爆発音が二回響いたためもはや無様な敗北は覆しようがないのだろう。

 

 

「...」

(興行主に無理を通して出場したのに...)

 

失意の沼に溺れかけ視界が暗くなっていく彼女に、頭上から希望の糸をそっと垂らす者がいた。

 

 

「...貴女は強い。この魔導王杯が終わったら、陛下に謁見の許しを請うてみましょう」

 

 

女は顔を上げ、おそるおそるその糸を手繰って沼から這い出る。男は髪が乱れて膿が露わになった女の、汚いはずの顔にこぼれる涙を優しく慰るように拭った。

 




亭々弧月 様
アークメイツ 様
誤字脱字報告ありがとうございまいた。二回読み返しても全く気づいてないところでした。

また別の方に前話の「召喚」は「召還」ではないか?とご指摘を受けましたが、調べてみたら「召喚=呼び寄せる」で「召還=呼び戻す」でしたので、そのままとさせて頂きました。
細かい定義が曖昧なので、勉強になって助かります。

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