骸骨と山羊と自然科学者   作:chemin

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読んでくださっていた方はお久しぶりです。そしてごめんなさい。
いや本当色々あって、気づけば二か月半も経ってますよこれ。

もうアレなんですけど
コメント頂いた方に申し訳が立たないので...できる範囲で頑張ります


魔導王と鮮血帝7

帝国の重鎮らが戻ってからすぐの試合は、初手にロンデスが大剣の腹でエルヤーの頭を打って気絶させてしまいあっけなく終了した。

この勝ち方は先の休憩時間で暇を持て余したアインズが、伝言(メッセージ)を通して指示したものであった。武具の宣伝はもう十分にできたことと、レイナースは善戦したがエルヤーは惨敗したという印象を残せば、敗れた四騎士の体裁も保たれるだろうと配慮しての判断である。

 

 

「ふむ。今の結果でそこらのワーカーより四騎士の面々の方が優れた戦士であると証明されたかな?」

 

「...たしかにそうだね。部下へのお気遣い感謝するよゴウン殿」

 

「四騎士を代表して私からもお礼を申し上げます、魔導王陛下」

 

確認するフリをしながらそれとなく恩を着せてみると、ジルクニフもこちらの言わんとしている内容を察してくれたようだ。貴族出身で似たようなやりとりに慣れているニンブルも同じく謝意を口にする。

 

「なに、これで先ほどのレイナース殿への非礼を忘れてくれればありがたいのだが」

 

そう言っておどけるアインズは、二人が忌々しそうに目を逸らしたことに気が付かなかった。

こうして魔導王杯の初日は、一部の人間が疲労を蓄積する形で終わりを迎える。

 

 

 

 

 

 

二日目も、闘技場はかつてない程の盛況ぶりであった。

 

団体戦では初戦でワーカー同士がぶつかり合い、フォーサイトがヘビーマッシャーを下すという一幕も見られた。そのフォーサイトは続く準決勝もケガ人だらけな上メンバーを欠くオリハルコン級冒険者に辛勝し、大番狂わせを起こすことになる。

また別の山では今大会唯一のアダマンタイト級チーム”銀糸鳥”が登場し、普段は見ることのできない英雄たちの闘いは客席を大いに賑わせた。

 

 

しかしこの日も台風の目は魔導国のチームであった。

激闘の末、優勝候補筆頭の銀糸鳥をゴグン率いるチーム”五軍”が準決勝で打ち破ったのだ。メンバーは元陽光聖典の部下ばかりで統制もとれており、全員が魔法詠唱者から構成されていることでも注目を集めていた。加えて試合後にゴグンが相手に放った言葉も話題となった。

 

 

「皆様アダマンタイト級の名に恥じぬ素晴らしい強さでした。我々が勝利を収められたのは、魔導王陛下より厳しい鍛錬と身に余る強力な武具の数々を賜っていたからです。もし互いに同じ装備でもう一度戦えと言われたら、部下の命のためにお断りしなければなりません」

 

まさかの展開にどよめく闘技場に、その紳士然とした声はよく通った。

 

「強さの根源は魔導国か...」

 

妙な輝きを宿したチェインシャツを着る男が、ぼそりと呟いてから立ち上がる。

 

「私はチームのまとめ役を任されておりますフレイヴァルツと申します。ご謙遜なさらずとも、結果が全てです。与えられたものを使いこなすこともまた資質の一つでしょう。私達の完敗です」

 

そう言って握手を交わしたところで、ようやく闘技場の時間は再び動き始めた。

中には大本命の敗退に嘆く賭け狂いがいたり、五軍を『嫌味ったらしい奴』や『道具(アイテム)頼みのイカサマ集団』と罵ったりする者もいる。

しかしほとんどの観客はただ拍手を送り、目の前で生まれた新たな英雄を歓迎していた。

 

 

ちなみにこれもアインズが初日の経験を踏まえ

『勝利した場合アダマンタイト級の顔も立ててやる必要があるから、試合後は彼らに対する敬意を周りに分かりやすく示しておけ』

と前もって注意していたのが発端である。

さすがに無名のチームが冒険者の最高峰に土をつけたとなれば、帝国内で自分達は悪役のポジションにされかねない。そこで鈴木悟だった頃に昔のスポーツ特集でよく見た”リスペクト”の精神を採用したのだ。

この作戦はしばらくしてから、フレイヴァルツ自身が吟遊詩人(バード)としてゴグンを認める歌を作るという思いがけない成果を上げる。

やがて個人戦から積み重ねてきた強さの証明とちょっとした()()()のおかげで、帝都で魔導国の戦士がアダマンタイト級並みの人気を誇るようになるまでさほど時間はかからなかった。

 

 

 

余談だが、この日から帝城では厚めの鉄板と、ポーションや頭髪に効くとされる薬の発注数が増えたという。

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えた最終日。

 

午前中の団体戦ではまず三位決定戦を無難に銀糸鳥が制したが、決勝で奇妙な出来事が起きた。開始早々フォーサイトの魔法詠唱者(マジックキャスター)であろう少女が、客席のある箇所を見た途端に嘔吐したのだ。

獅子のごとき心(ライオンズ・ハート)でなんとか持ち直すも、少女は眼前の敵など目に入っていないかのようにただ一点を見つめている。どうにか補助魔法だけ唱えさせたが、これでは勝負にもならない。

終始ブーイングに晒されながら、残りの三人は精一杯あがいてみせた。

結果は当然、五軍の完勝であった。

 

 

午後に行われた個人戦はそれ以上の盛り上がりを見せた。

 

 

準決勝となる一試合目は、片やかの有名な王国戦士長と互角にやり合った実績を持つブレイン・アングラウス、片や重爆と天賦を破り快進撃を続ける大剣使いのロンデス。

この試合ではとにかく激しい武技の応酬が繰り広げられた。細い刀が一撃の重さを生み出せば、分厚い大剣は取り回しの悪さを補う。見た目に派手さこそないものの、いくつも重ねられた武技が息つく暇もなく乱発されていく。

そんな玄人好みの争闘に決着をもたらしたのはブレインの奥義《秘剣虎落笛》だった。これは本来ならば待ち一辺倒の技だが、レベルの上昇により《縮地》に似た姿勢を崩さない移動手段の上乗せを可能としていたため、《神域》を維持したまま間合いを詰めるという離れ業を成し遂げたのだ。

ロンデスも人間形態のままでは対応しきれず、首筋に刃を寸止めされたところで降参することになった。

 

 

 

それから一刻おいて決勝が行われたが、こちらは手に汗握る接戦とはならなかった。

序盤から武王が王者らしからぬ積極さで攻勢に出ていくと、防戦一方のブレインが抵抗むなしく力尽きた()()()()()()からだ。

しかしいつも通りの公開処刑に近い蹂躙劇とまではいかなかったが、久しぶりに闘技場最強を垣間見た客は皆一様に大興奮であった。

 

一対一で武王に敵う者などいない。

 

さすがの魔導国も基礎能力が違う亜人相手では歯が立たないのだろう。

 

これが人々とジルクニフが出した結論だった。

バジウッドやニンブルでさえ、ブレインの負けっぷりに僅かな違和感を覚えるものの、連戦による疲労だろうと自らを納得させてしまう。それほどまでに武王を名乗るゴ・ギンへの信頼は厚いのだ。

 

 

そういった熱狂の余韻はともかくとして、魔導王杯はこれにて終了となる。

あとはもう表彰を見て両陛下の挨拶を聞いたら各々が帰路へとつくだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時は誰もがそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

景品の贈呈が終わり皇帝の挨拶がなされている間、オスクは興行主用の特別席で寛いでいた。

 

「ブレイン、ロンデス、ゴグン。あの三人を見た感想を聞かせてくれ」

 

背もたれに身体を預け、首だけを少し回して尋ねる。

 

「超級にやばい。武王は逃げれば大丈夫だけど、あいつらからは逃げるのも無理。ドルトって森妖精(エルフ)も同じ」

 

背後に控えるラビットマン、通称”首狩り兎”が悩む素振りもなく答えた。

 

「ではあちらは?」

 

「あっちも超級にやばい。見てるだけで鳥肌が止まらない」

 

彼らの視線の先には、貴賓室のテラス部分から挨拶する鮮血帝―――ではなく、その後ろに座るアインズがいた。

 

 

 

そもそも今回秘密裏に魔導国と協力していたのには二つの理由がある。

一つは用意された剣闘士が上物だったこと。最近世間を賑わせている双王国の元師団長に、魔導国の使節団を護衛する騎士達、そして王国では知る者ぞ知る剣豪ブレイン・アングラウス。これだけ国際色豊かで話題性のあるラインナップは滅多に揃えることができない。

 

顔の向きを変え、フィールド上に並ぶ三位以内の入賞者達とその手にあるものを改めて観察する。

彼らが持つ景品、それこそが首を縦に振ったもう一つの要因である。

特に優勝者に与えられる武具と同クラスを入手するのは、この血生臭い稼業で儲けている自身でさえ極めて困難だ。初めて現物を見せられた際、当然コレクター魂をくすぐられ即座に買い取りを申し出たが、売り物ではないとにべもなく断られてしまった。

となるともう魔導王杯を開催し、子飼いの八代目武王ゴ・ギンに実力で勝ちとってもらう他に道はない。

そう、提案を聞いてしまった時点で結論など最初から決められていたのだ。

 

 

 

「なんにせよゴ・ギンが勝ち、見事な剣を獲得してくれたのだから私は満足だが...しかし魔導王陛下はこのような催しを開いて、一体何をしたかったのだろうな」

 

「単にお祭り好きなだけではないのですか?」

 

品の良い老執事が現れ淹れたての紅茶をきれいな所作で手元に置いた。優雅に立ち昇る湯気が鼻に深い香りを運んでくるが、オスクの表情は晴れない。

 

「違うな、むしろ逆だ。あちらの剣闘士は礼節をわきまえている。それに天賦との試合、あれは森妖精(エルフ)を虐げている個人に対する報復というより、ただ圧倒することが目的のようだった。普通はエルヤー・ウズルスが弱いと感じるだろうが、勘の鋭い奴ならレイナース殿への政治的な配慮だと気づくはずだ」

 

「つまり旦那様のお見立てでは、魔導王陛下は真剣勝負よりも外交を優先するお方だと」

 

「うむ。だからこそ、わざわざ他国にまで来て高価な武器をばら撒く理由が分からんのだが...」

 

「銀糸鳥と武王倒して名前を売りたかったとか」

 

「かもしれんな」

 

首狩り兎の意見も一理あるが、銀糸鳥の参加は後から決まったことだ。武王にしても、結局負けてしまっては元も子もない。

 

 

『『では続いてアインズ・ウール・ゴウン魔導国、アインズ・ウール・ゴウン魔導王よりご挨拶を賜ります』』

 

思案に耽りかけた意識が司会のこの一言で現実に引き戻される。

 

「どうせ予定は全て消化されたのだから悩んでいても仕方がない、御本人が最後に何を語るのか聞いてみようじゃないか」

 

主催者の挨拶はプログラムでも全体の締めくくりとして位置付けられており、閉会宣言の役割を持つ。いつもは既に解散状態の客席も、さすがに自国の皇帝と他国の王からのお言葉があるとなっては無礼のないよう静かに座っているしかない。

それに相手は謎多き国の王様だ。どんな人なのか興味もある。

 

 

『『私はアインズ・ウール・ゴウン魔導王である。と言っても、バハルス帝国の民は私のことを詳しくは知らないだろう』』

 

マジックアイテムを通して流れてきた声は低く威厳のある男性のそれだった。怪しい仮面や漆黒のマントと合わさって、とても口にはできないが魔王のような印象を受ける。

 

『『せっかくこうして諸君と会えたのだ、ぜひ我が国のことを紹介させてほしい』』

 

ついにその神秘のベールを脱ぐとあって、その言葉はさらに耳目を集める。

 

 

そしてアインズが指を鳴らした瞬間、オスクはフィールド上に闇の塊が渦を巻き始めるのを見た。

 

 




誤字報告で「...」を全て「…」に修正する意見を頂きました。
しかし個人的に現状でも見やすいので、適用は見送っています。
同じご指摘が増えたらまた考えますのでご理解のほどよろしくお願いします。


あとは前書きでもご報告したように、できる範囲でやってくつもりです。

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