骸骨と山羊と自然科学者   作:chemin

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書き溜めなので連続投稿
転移前ラスト~転移まで


骸骨と山羊と自然科学者2

 

玉座の間に到着すると、メイドや家令が整列する前で力強く仁王立ちする貴族のような二人が目に入った。

 

 

「すみませんお待たせしてしまって」

 

なんだかんだ自分が最後だったことを少々意外に感じながら、仲間のもとへ歩み寄る。すると二人は互いに頷きあってから真剣な声音で話しかけてきた。

 

「モモンガさん」

 

「は、はい」

 

先ほどまでとは違うその様子に、何かやらかしたかと不安がよぎる。

 

「確認したのは第六階層までだけですが、記憶の限り俺やブループラネットさんが引退したときと一切変わりありませんでした。」

 

「え、ええ。どこにも手を加えていませんよ」

 

何か頼まれごとをしていたのを自分は忘れていただろうか?

そんなことはないはずだが...

 

 

 

ぐるぐると記憶を辿っていると急に二人が頭を下げた。

「「モモンガさん、本当にありがとうございます」」

 

「え?」

 

怒られると思っていたため、突然の感謝の言葉に面食らってしまう。

 

 

「ログイン履歴を見ました。長い間、モモンガさんがお一人でナザリックの維持をしてくれていたんですね。でなければ今頃デミウルゴスと会えないどころかこの大墳墓ごとなくなっていました」

 

「僕も、最初あの星空と森林がまだあることを当然のように思ってました。でもウルベルトさんに言われて気づいたんです。自分は作っただけで、今なおそこにあるのはひとえにモモンガさんのおかげなのだと。環境は維持することこそ難しいと知っていたはずなのに...自然科学者失格ですね」

 

あ、だからさっき慌ててたのか。

 

「いえいえ!そんな、ギルマスとして最低限のことしかしてませんから」

 

 

この期に及んで謙遜するモモンガに、ウルベルトがしびれを切らす。きっと数少ない信頼できる人を長く放っておいた、そんな自分に対しての苛立ちもあるのだろう。

 

 

「そんなことはないですよ。それができる人なんてそうそういません。俺はあのクソみたいなリアルで、ゴミのような社会体制とそれをつくった奴らをずっと憎んできました。だからモモンガさんのように本当の理解力と思いやりをもってる人はそうと分かるんです」

 

 

私も好きでやってましたから...

私にはこれしかできませんでしたから...

 

そんな言葉が喉まで出かかる

 

 

 

「モモンガさん」

 

しかしブルー・プラネットが優しく語りかける。

 

「本当はすごく謝りたいんです。でもウルベルトさんがそうするとモモンガさんに余計気を遣わせてしまうって。だからせめて感謝くらいは受け取ってください」

 

 

目が熱く、頬が冷たく感じる。

きっとリアルの世界では、ヘッドギアなしではいられないくらい酷い顔をしているだろう。

 

誰かに感謝されたくてやってきたわけじゃない。思い出の場所を失いたくなかった。そしていつかまた皆でここで楽しく遊びたかった、それだけだった。

 

 

しかし全てではないが、この時たしかにその努力が報われた気がした。

 

 

「...では、どういたしまして」

 

震える声を必死に抑えながら、なんとか返事をした。

 

 

 

 

 

 

その後玉座付近に控えるNPCで賑わう。

 

「おい真なる無(ギンヌン・ガガブ)もってるぞ」

 

「これ絶対タブラさんですよね...」

 

「しかも設定すごく長いですよ」

 

「うわあ...賢妻設定あるのにビッチは酷い」

 

「よし、ギルマス。いたずらの礼にここ『意外とツンデレである』に変えてやりましょう」

 

「え!?いや、さすがにそれはまずいのでは」

 

「大丈夫ですよ、たしか彼はギャップ萌えでしたから。健全なギャップになったと思えば納得してくれるでしょう」

 

「まあ、それなら......よし、これでOKです」

 

 

 

 

しかし楽しい時間もその終わりを告げようとしていた。

 

23:59:03’

 

「あ、もう残り1分切りましたね」

 

「もうそんな時間ですか...」

 

 

旧交を温め孤独感はかなり薄れてきたとはいえ、やはり寂しさは残る。

 

 

「ごほん。親愛なるギルドマスター殿、改めて我らの拠り所を守ってくれたこと礼を言わせて頂きます。世界征服は叶いませんでしたが、楽しい時間を過ごせました。我らは世界の崩壊に伴い消滅すれど、また次のユグドラシルの世で相まみえましょう」

 

「(おおー、さすがウルベルトさん)僕ももし来世があれば、今度はより美しく失われた自然を復活させましょう」

 

 

次回の約束。

久しくなかった別れ方に、再び気分が高まるのを感じる。

 

「そうですね!たとえこの世界がなくなっても、必ずや我らがナザリックを次の世界で復活させましょう!」

 

「「モモンガさん、素になってます」」

 

 

実現できるだろうか。

いや、きっとしてみせる。

今日の思い出があれば頑張れる。

 

「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」

 

「「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!」」

 

 

そうして強制ログアウト______

 

 

 

 

____されなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2時間後

<ナザリック地下大墳墓・表層部>

 

各階層に異常がないという報告を受け、モモンガはアルベドとアウラを連れて外部の様子を窺いに出ていた。

 

 

 

___

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現段階での三人の推測は、なんらかの原因でゲームの世界、もっといえば電脳空間内が現実のものとして機能したか、あるいは別のサーバーに拉致され囚われてしまったというものだった。

 

コンソールも出ないし画面表示もおかしい。

電脳法で厳しく規制されているはずの完全な五感の再現や、突然動き出したNPCの表情や複雑な会話の発現など数々の異常事態に当初三人は混乱を極めた。

 

しかしある程度感情が昂ると、急に抑制される感覚がある。この謎の鎮静化に助けられながらどうしようか相談していると、玉座の間に居合わせたNPC達がそろいもそろって悲壮な表情をしていることに気づいた。特にアルベドなどは涙をこぼしながら、何かを耐えるように噛みしめた唇から血がにじんでいた。

 

 

自我が芽生えたのか実は「中」に人が入っているのかよく分からないが、とりあず自分達三人の存在は他のNPCには内密にするよう言ったところ、メイド達はこの世の終わりを目の前にしたかのような絶望的な雰囲気を漂わせた。

 

 

 

残念ながら二人は女性の扱いに不慣れなため、縋るような視線を受け唯一既婚者であるブルー・プラネットがアルベドに向かって口を開く。仕事柄富裕層と話すことも多かった彼は、とりあえず品がある初対面の妙齢な女性相手として接することにした。

 

 

「そんなに悲しそうなお顔をなさらないでください。せっかくお美しいのにもったいないですよ。そしてお辛そうなところ大変申し訳ありませんが、私共も今非常に困っているのでいくつかご質問をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 

なんだか紳士的な警察官のようだと場違いな感想をモモンガが抱いていると、アルベドが悲鳴のような声をあげ慌てて答えた。

 

 

 

「お心遣い頂いた上に身に余るお言葉、誠にありがとうございます!しかし私共は至高の御方々の忠実なるシモベ!そのようなおっしゃり方をなさらず、ただご命令くだされば死すら喜んで従います!」

 

 

 

場が凍った。

実際に凍ったのは三人だけで、他のNPCはアルベドの必死な様相に跪いたまま「全く同感です」みたいな表情をしている。

 

 

いちはやく復活したモモンガは問いかける

「お前たちはナザリック内を自由に移動できるか?」

 

「はい、モモンガ様」

 

よかった、普通の会話もできるんだな。

 

 

「ではアルベドは各階層守護者のもとに赴き異常事態がないか調査したのち直ちに警戒態勢を整えるよう伝えよ。それが終わったら表層部にアルベドとアウラは完全装備で待機。他の者は第九階層の警備にあたれ。そしてこの場へは許可を出すまで入ることを禁じる」

 

「「ご命令承りました」」

 

アルベドとプレアデスを代表したセバスの声がきれいに重なる。

 

 

「それでは御前を失礼いたします」

と、ぞろぞろと優雅な動きで扉の向こうに消えていく影たちを見送ってからやっと一息つく。

 

 

 

「.........モモンガさんナイス」

 

「...次は頼みますよウルベルトさん」

 

そしてブルー・プラネットが重々しく呟く。

 

 

「......アインズ・ウール・ゴウンって、宗教団体でしたっけ?」

 

 

「「違います」」

 

 

ここでもきれいに声が重なった。

 

 

 

 

 

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__

___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

集団飛行(マスフライ)>の魔法で上空を翔けながら、同時にやや疲れたように<集団伝言(マスメッセージ)>で情報を共有する。

 

モモンガはギルマスであり唯一ずっとナザリックに居続けたメンバーなため、自我があると仮定してもNPCの好感度が高く急に攻撃されることはないと判断し一人だけ他の者にも姿を見せることにしていた。

ちなみにウルベルトはかなり前から<完全不可知化(パーフェクトアンノウブル)>で自分とブルー・プラネットの姿を隠しつつモモンガに同行し、直接戦闘スキルの低いブルー・プラネットは周辺にスキル発動のための種を蒔いている。

 

 

 

ちなみにモモンガは他のプレイヤーと友好的に接触しようという目的で、見た目の美しいアルベドと警戒心を緩めるかわいい子供のアウラを選んだつもりだった。しかし完全装備の命を受けたアルベドは、外敵の急襲を想定する主が索敵に優れたアウラと防御に長けた自分にその身を預けてくださったのだとすぐに理解し、アウラにもその旨を伝えていた。

 

 

結果として怪しげな全身鎧の悪魔と大量の屈強な使役獣を従えたダークエルフの少女が意気込んで周囲をピリピリと警戒し、その中心で骸骨が項垂れながらの散策となっている。

 

 

 

 

 

 

 

そんなギルマスを尻目に、地上ではブルー・プラネットが戦慄していた。

 

 

現実的に考えて、ありえない

 

 

 

彼はここが現実を模した電脳空間上のどこかだと予想していた。

電脳法を無視し、革新的な技術を秘密裏に駆使し、貧困層の労働者を用いた大企業の人体実験か狂った金持ちの新たな娯楽なのではあたりをつけていた。

 

 

 

しかし、本当の本当に、ここは現実であるようだ。

 

 

ゲームのシステム上不可欠な行動選択のプロセスがことごとく排除され、アバターに選んだ種族がもつ特有の、本来なら人にはないはずの感覚がある。これらはいくら技術革新が起き脳科学が発達した現代においても、人体にかなりの負荷がかかり必ずストレスを感じるはずだ。なのにそれもない。

 

 

 

なにより、、、、

 

高校地学・生物の教員免許をもち、自然科学者としてフィールドワークや数々の文献を読み漁ってきた自分にはわかる。

 

 

この自然は生きている

 

 

土壌中の微生物やpH値、植生に枝付きや葉の形状葉脈のランダムさ、樹病まである。さらにはおびただしい数と種類の虫や小動物、肉食性の第二次消費者、極めつきはそれらが純然たる食物網を築き上げていることだ。こんな規模でこんな複雑な生態系は、プログラミングで人為的につくれるレベルじゃない。

 

求めていた風景にぞわりと鳥肌がたつ。

同じく自然を愛した今は亡き妻に見せてやりたいと思った。

 

 

 

 

 

 




ナザリックにはツンデレ要素が足りない(確信
食物ピラミッドは再現がわりと簡単だけど、食物網は専門知識無いと本当にムリ
あと電子空間のなんたらは独自解釈です

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