骸骨と山羊と自然科学者   作:chemin

20 / 21
魔導王と鮮血帝9

アンデッドの楽団の奏でる音楽は、奏者の見た目に反して不思議な魅力を備えていた。

気分を高揚させる爽快なテンポで打ち鳴らされる打楽器に、音階豊かなハーモニーで華を添える金管楽器。そこに上品な主旋律の弦楽器が合わさって絶妙なバランスを生み出している。

聞き覚えがなくとも十分に楽しめる珍しいメロディに引き込まれ、いまだに猜疑の目を向けていた人々も徐々に平静を取り戻していった。

 

 

しかしジルクニフは違う。

 

たしかに素敵な曲だ。それは認めよう。

だがもしあいつらが吟遊詩人(バード)の能力を持ち、音自体に催眠や魅了の効果を乗せてたら?はたまた実は魔法を得意とするエルダーリッチで武器がなくとも危険な相手だったら?そんなことばかりが頭に浮かんで消えてくれない。

余計な憶測をせずに見たままを受け入れようとしたはずだったが、 染みついた習慣には抗えず、常に最悪の事態を考えてしまう自分がいる。

それも仕方ないことだろう。人は不利な状況である程、やたらと悪い未来ばかりを想像する生き物なのだ。

 

「ふぅ」

 

ジルクニフは小さく息を吐き、頭の中から不確定な情報と根拠のない仮説を追い出した。

自分がいつも通りに腹を探ろうとしても、向こうがいつも通りの相手でないのなら、過去の経験則は偏見や決めつけにつながりかねない。

 

(大丈夫だ。奴自身が安全を保障した以上、アンデッドだろうと亜人だろうと下手に暴れさせるような愚は犯さないはず...ん?)

 

そう自分に言い聞かせていると、場内をぐるっと周回した魔導国御一行が方向を転換し、転移の門を起点としてこの貴賓室の方へ真っすぐ行進し始めるのが見えた。彼らは二列で綺麗な直線を描いており、それぞれを導くのは腰を屈めたフールーダと背筋の伸びた老執事だ。

曲も終わりを迎えたらしく、やがて太鼓の音のみが一定のリズムで響くようになる。

やがて最後尾が直線の端に加わると、合図もなく全体がぴたりと止まった。そのまま列同士の距離を広げるように左右へと分かれ、数人が横並びになっても通れるくらいの幅が生まれると、そこにスケルトンが赤い絨毯を敷いていく。

仕上げに向かい合って旗を斜めに掲げれば、ものの数秒で美女と野獣と死者による花道の出来上がりである。

 

(これはさすがに読み違えようがないな)

 

細かな作法や手順は帝国式と異なるが、公の場での花道はどう解釈しても「特別な者を迎える準備」だ。

普通は貴族や英雄であったり、戦争時であれば功労者であったりする。そしてその先に皇帝として自分が座して待つわけだが、今はそんな常識を当てはめる気など毛頭ない。そもそも人間が出てくることすら期待していないからだ。

 

完成して間もなく太鼓の音が止み、一拍置いて今度は重厚でゆったりとした曲が流れだす。その出だしとほぼ同時に、複数の影が闇を抜けて真紅の道へと足を踏み入れた。

 

 

 

まず先行するのが上位者であろう二人。

顔の半分を仮面で隠した全身黒ずくめの亜人らしき山羊と、身体の周りに金の光が浮いている黒髪の青年。

 

脇を固めるのは六人、いや五人と一体と言うべきか。

純白のドレスに似つかわしくない漆黒の翼と角を生やした美女。

黒と赤のボールガウンを着た背のわりに胸が膨らんだ美少女。

青く硬質な輝きを放つ巨大な蟲のような生物。

兄妹と思わしき幼い闇妖精(ダークエルフ)の二人組。

鋼色の尻尾以外は奇妙な服の人間にしかみえない男。

 

 

悪夢だ。

 

この一言に尽きる。

それほどまでに、彼らは圧倒的なオーラを撒き散らしていた。

 

頬を伝う冷や汗をそっと拭う。

つい先ほどまで亜人やアンデッドに悩んでいた自分が滑稽に感じられる。竜が出てきても驚かないと思っていたが、こうなっては竜が出てこない方が驚きだ。恐怖に駆られ逃げだす者がいなかったのは奇跡と言えよう。

 

 

まずワーカーの少女が盛大に嘔吐した。すぐさま仲間がフォローに動き、神官の男が魔法を唱えてどうにか事なきを得る。

その気持ちは十分に理解できた。精神系の魔法を防ぐアイテムを肌身離さず身に着けている自分でさえ、彼らを見ていると鳥肌がとまらないのだ。つまりは純粋な強者のオーラだけでこれだけの威圧感を受けたということになる。いくら戦いに慣れたワーカーとはいえ、年端もいかぬ少女に耐えられるものではないだろう。

 

 

が、この際それはどうでもいい。

問題はフールーダである。

懸念していたような醜態を晒すどころか、むしろ髭をしごきながら余裕の笑みさえ浮かべているのだ。その姿は身を竦ませ彼らに怯えていた者達にとっては、さぞかし頼もしく映ったに違いない。『さすが逸脱者、あれだけのプレッシャーにも動じていない』と。

しかし表情をよくよく観察してみれば分かる。笑みの裏側にあるものが。

そこにあるのは、驚愕に畏怖。そしてなにより――恍惚。

憶測や可能性としての話ではなく、確信をもって断言できた。

相手の魔力を”視る”ことができる生まれながらの異能(タレント)で、いったい何を目にしたというのか。

答えは聞かずとも分かる。あれは魔道に生涯を捧げた老人の、今まさに本懐を遂げんとする顔だ。深淵を覗くために全てを捨て、国すらも喜んで差し出すであろう、裏切り者の目だ。

 

(じい...私を売ったこと、後悔はしていないのだな...)

 

頭では分かっていた。分かっているつもりだった。彼は人生の師や育ての親である以上に、まず一人の魔法詠唱者(マジックキャスター)なのだと。

しかしいざ目の前でそれを見せつけられると、納得することはできなかった。きっとまだ心のどこかで、希望の灯がくすぶっていたのだろう。ジルクニフはみぞおち付近に冷たいような熱いような、硬く重い何かが沈んでいくのを静かに受け入れた。

 

 

 

永遠とも思える時間の果てに、彼らが花道を抜け、立ち止まって指に何かを着けると、ようやく水中にいるような息苦しさから解放される。場内に漂う張り詰めた緊張の糸が、ぷつりと切れる寸前であった。どうやら化け物じみた力があっても、御前で威圧感を抑えるくらいの礼儀は持ち合わせているらしい。

まあそれで恐ろしさが軽減されるわけもないのだが。

 

やがて音楽も止み、痛いくらいの沈黙が訪れる。

魔導王が紹介に入るのかと思ったが、意外なことに尻尾のある奇妙な衣装の男が前に進み出て、(うやうや)しく頭を下げてから口を開いた。

 

『『これはこれは、いきなり大勢でおしかけてしまい失礼いたしました。少々皆様を驚かせてしまったようですね』』

アイテムを使わずに喋っているが、その声は距離を無視して滑らかに耳まで届く。分かりやすい煽り文句であるにもかかわらずあまりに物腰柔らかく紳士的な口調なので、ともすれば本心からの謝罪だと勘違いしてしまいそうだ。

 

『『では僭越ながら、ここからはアインズ様に代わりまして、私第七階層守護者デミウルゴスがこの八名の紹介役を務めさせて頂きます』』

 

こちらの混乱をよそに、デミウルゴスと名乗ったこの男はまず同僚であろう後ろ寄り五人の紹介から始めていった。

彼によるとあの美女や巨大青蟲は、つい今しがた歩いてきたときの順に

守護者統括、アルベド

第一・第二・第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン

第五階層守護者、コキュートス

第六階層守護者兼双王、陽王アウラ・ベラ・フィオーラと陰王マーレ・ベロ・フィオーレ

という名前で、”階層守護者”とは公爵貴族に、”守護者統括”は宰相に相当するとのことだ。闇妖精《ダークエルフ》の子供が双王であったのも驚きだが、彼らの身分も中々のインパクトであった。

 

公爵とは王位に次ぐ権力を誇る爵位であり、基本的には王の兄弟や親族などに与えられる。

それほど高貴な立場であるのに、「ゴウン」の姓を冠する者がいないのだ。少なくとも魔導王に羽や尻尾は生えていないし、素肌は確認していないが骨格は昆虫のものでもない。つまり宗家や傍流から派生した王族公爵とは違う、血縁関係なしに能力や実績で召し上げられた臣民公爵と認識すべきだろう。

家名すら持たない女が”統括”の任に就いていることからも、魔導国は階級制度が帝国と根本的に違うことが分かる。

となると、気になるのは公爵位にあたる彼らを率いている、黒ずくめの山羊と光る青年だ。

 

 

 

『『と、まあここまでは前座のようなものですね』』

 

自身も公爵と同等の階層守護者であろうに、男はこともなげにそう言い放った。

しかも、なぜか心底嬉しそうに。

前座扱いされた他の五人も、『当然だ』と言わんばかりの表情でいる。

 

『『ご紹介しましょう。皆様、どうぞ至高の御方々をその目に映せる栄誉に感謝してください』』

 

(ああ、そういうことか)

このとき、ようやくジルクニフは気が付いた。

 

 

『『善と悪を統べる災厄の王、ウルベルト・アレイン・オードル災王陛下』』

名前を呼ばれ、先行していた二人の内、黒ずくめの山羊の方が一歩踏み出す。

 

(そういうことなんだな、じい)

フールーダの熱い視線を向ける相手。

 

 

『『天と地を統べる星の王、ブルー・プラネット星王陛下』』

続いてもう片方の光を纏った青年も前に出る。

 

(良い置き土産をくれたものだ)

この二人こそが、超越した魔力の持ち主ということ。

 

 

『『そして生と死を統べる魔道の王、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下を含めた御三方こそが、私どもの絶対にして至高なる支配者なのです』』

 

三人の王が、あらゆる種族を束ねる国。それが魔導国。

歪な構造をした化け物国家が、表舞台に躍り出た瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<< side アインズ >>

 

~数日後 ・ ナザリック地下大墳墓の円卓の間にて~

 

 

 

 

 

円卓の間。

ユグドラシル最盛期には喧噪の絶えないギルド憩いの場となり、メンバーが櫛の歯が欠けるように引退していった最後の数年間は、空席ばかりで孤独の象徴だった場所。

現在この部屋にはギルメン三人に加え、第四・第八を除く各階層守護者とプレアデス、そしてパンドラズ・アクターがいた。

先日バハルス帝国皇帝との会談が終わったので、今日はその報告会が開かれているのだ。

 

 

今回帝国と魔導国との間で締結された条約で主だったものは三つ。

 

・魔導国は古来よりアゼルリシア山脈からトブの大森林にかけての土地を固有の領土としており、帝国はその立場を全面的に支持するものである

 

・魔導国と帝国は互いの領地に大使を常駐させる

 

・両国間で正式に貿易を開始するとともに、魔導国からは試験的にアンデッドの労働力を1年間無料で貸し与えする

 

 

これらの成立により、

魔導国は国際的に”国”としての地位を確立し、

近隣に友好国を得て、

人間とそれ以外の種を親和させるための温床を作ったことになるわけだ。

 

 

 

 

 

「ふむ、とりあえず我々の要望がほとんどそのまま通ったようですね」

 

資料を読み終え、ウルベルトがふうっと息を吐いた。

ブルー・プラネットも紙の束を円卓に置いて、背もたれに身体を預ける。

 

「ちょっと威圧しすぎたので警戒されたかなと思ってましたが...そこらへんは大丈夫だったんですか?」

 

「主張した領土は帝国の管理が行き届いてない場所だったので、細かい境界線の取り決めを残してすんなりと合意を得られたぞ。あとは、まあ想定はしていたがアンデッドの労働力はけっこう渋られたな。しかし『フールーダ殿に死霊術を指導し帝国のために尽力して頂く』という条件を出したら、急に話が進んだのだ。まあ彼はこのナザリックにおいてはアルベドのような存在だし、失うのが惜しかったのだろう」

 

「ああ、そういうことですか」

 

 

アインズの説明でブルー・プラネットは納得したように頷き、アルベドとデミウルゴスは意地の悪い笑みを浮かべた。

 

実はブルー・プラネットらは当然のことながら、アインズも直接フールーダと会話したことはない。

彼はナーベラルを挟んでしかやり取りをしておらず、『デスナイトを無限に作成し使役できる』という情報を与えると強い興味を示し、こちらに協力的になったという程度の認識である。従ってアインズの中での評価は”魔法への興味が非常に強い老人”であって、まさか心の底から祖国を売ってまでこちらに寝返りはしなかろうと考えていたのだ。

また彼が歴代皇帝の育ての親だとも聞き、多少好き勝手に行動したところで、お咎めを受けたりジルクニフとの仲が険悪になるとも思えなかった。

 

 

 

 

「あ、あの、アインズ様!し、質問してもよろしいでしょうか?」

 

会話が一段落したところで、マーレが両手で杖を抱えもじもじしながら急に声を張り上げた。

 

「もちろんだとも。気になったところを放置しないのは良いことだ」

(きたか...!頼む、どうか答えられる質問であってくれ!)

 

 

名指しで訊かれた以上、二人に援護を頼むのも難しい。

存在しないはずの心臓が大きく跳ねたが、それを表面には出さず先を促す。

 

 

「えっと、その、なんでフールーダっていう人は許してもらえたんでしょう?いくらナザリックで例えるとアルベドさんや僕達くらい偉くても、至高の御方々に隠れて敵と仲良くしたらいけないと思うんですけど...」

 

「ム、タシカニソノトオリダ」

 

「言われてみれば、そうでありんすねぇ...」

 

 

 

(せ、セーフ!これならきちんと教えられる)

アインズはほっと胸をなでおろし、他の守護者達も見渡しながら諭すように答える。

 

 

「マーレの疑問ももっともだ。しかし人間は忠義だけでなく、損得で物事を判断する生き物なのだ。この場合は、優秀な魔法詠唱者(マジックキャスター)の我がままな振る舞いを罰するより、技術をもらってそれを活用する方のメリットが大きいと踏んだのだろう」

 

 

「ナルホド。忠誠心ノ強い我々ニハ理解デキヌ思考デスガ、人間ニトッテハ利益ノ方ガ大切トイウコトデショウカ」

 

「下賤な人間風情では、ちっぽけな欲に目がくらむというわけでありんすねぇ。たしかにナザリックで至高の御方々に仕えている妾達には到底理解できない価値観でありんしょう」

 

「まあ、そういうことだ。マーレも納得できたか?」

 

「は、はい!教えてくださってありがとうございます!僕達には分からない人間のこともちゃんと計算してるなんて、さすがはアインズ様です!」

 

わりと単純なことなので簡潔に説明してやると、コキュートス、シャルティア、マーレはすんなり納得してくれたようだった。

 

 

 

 

しかしアインズの説明会は往々にして、ここからが本番である。

 

 

「ふっふっふっ。君達、アインズ様のお考えが本当にそれだけだと思っているのかい?」

 

「えっ」

 

今回も御多分に漏れず、デミウルゴスが不敵な笑みと共に爆弾のスイッチをオンにした。

 

 

「そうね。ええ、もちろん?アインズ様だけでなく、至高の御方々がなされることは全て策謀に満ちていらっしゃるわけだけど」

 

お約束と言わんばかりに、アルベドもその爆弾に火薬をたっぷり足していく。淡々と喋っているようで、しきりにチラチラとこちらを見てくるのはなぜだろうか。

 

 

『アインズさん、この流れはマズイやつですよ』

 

『え、本当に深い意味あるパターンなんですか?』

 

『いやいや!ないですよ深い意味なんて!』

 

心配したウルベルトとブルー・プラネットが《伝言(メッセージ)》をとばしてきたが、心当たりのないアインズは困惑するばかりだ。

 

 

『これどうしましょう...』

 

『と、とりあえずなんとかごまかしますから、フォローお願いします』

 

『分かりました。俺もできる限りカバーしますので、頑張ってください』

 

二人には急いでそれだけ伝え、咳払いを一つしてからデミウルゴスとアルベドに向き直った。

 

 

「やはりナザリックが誇る智者の二人だ。しっかりと私の策を見抜いていたようだな」

 

「とんでもございません。ウルベルト様の御計画をも見据えた深謀の一手、このデミウルゴス感服するばかりでございます」

 

『えっ?』

 

思わぬ飛び火を受けたウルベルトの声が頭の中に響く。

舐めていた。この爆弾は予想以上に被害の範囲が広そうだ。

 

「そ、そうか。そこまで知られてしまっていては仕方がないな」

 

「アインズ様。各守護者の今後の動きにも関係してくることですので、ここはしっかりご説明なさった方がよろしいかと」

 

 

アルベドがそう進言すると、真意を汲み取れなかったと悔しがる他の守護者の目の色が変わった。その視線はアインズただ一人に向けられているが、今度は名前をあげられたウルベルトにも責任を分散させられるかもしれない。

 

『ウルベルトさ『アインズさん、すみませんが俺は力になれそうにないです』

 

しかしその思惑は無残にも食い気味に打ち消される。

孤立無援だ、と思いきや、救いの手は意外なところから伸ばされた。

 

 

「デミウルゴス、アルベド。すまないが僕はこの件にあまり関わっていないから、恥ずかしながらアインズさんの意図がよく理解できてないんだ。よければよく知らない者にも分かりやすく、君達の考察を教えてもらえないかな?」

 

それは優しげに微笑む、ブルー・プラネットであった。

 

『ブルーさん!ありがとうございます!』

 

『俺からもお礼を言わせてください。助かりました』

 

『いえいえ、ここで無知を晒しても一番傷が浅いのは僕ですからね。これくらいなら失望されることもないでしょうし』

 

 

渡りに船とばかりに、アインズはこの援護射撃に便乗することにした。

 

「だそうだ。ブルーさんだけでなく守護者にも理解できるよう丁寧に!そう、なるべく丁寧に説明するのだぞ!」

 

「はっ!承知いたしました」

 

どうにか説明責任を逃れ、答え合わせをするフリをして耳をそばだてる。

デミウルゴスは守護者に向かって、人差し指を立てながら話し始めた。

 

「いいですか?ナーベラルの報告を聞くに、まずアインズ様はフールーダという人間を完璧に懐柔なされています」

 

(え?そうなの?)

前提から想像と違っている。

 

「しかし大切なのは、あの人間が担う役割です」

 

「それって一番すごい魔法詠唱者(マジックキャスター)ってこと?」

 

「それもありますね、アウラ。しかし今回魔導王杯におけるアインズ様の最後に行われた挨拶で、さらに重要な役割を負うことになったのですよ」

 

 

(つ、ついていけない。最後の挨拶って、あの転移を手伝ってもらったっていう設定で出てきたときだよな?)

平静を装ってはいるものの、アインズの頭の中では守護者同様にハテナマークが乱れ飛ぶ。

デミウルゴスはマーレやシャルティアがまだピンときていないことを見て取ると、一層笑みを深めて続けた。

 

 

「それは”魔導国に対する抑止力”です」

 

「あ、あんなに弱い人が、僕達への抑止力、ですか?」

 

第六位階の魔法が扱えるだけの雑魚風情がなぜ自分達の抑止力なのかと、マーレ以外も首をかしげる。

 

「厳密には、そう思い込ませたのです。なぜなら人間は、そこまで正確に強さを量ることができませんからね。おそらくは我々の威圧を受けてもなお、『魔導国の連中はとんでもなく強い』という程度の認識しか持っていないでしょう。従って、アインズ様があの老人に敬意を払う言動をなされば...」

 

「『魔導国ハフールーダ二一目置イテイル』ト受ケ取ラレルトイウコトカ。シカモ四騎士ヤ冒険者ハ魔導王杯デ敗レテシマッテイルノデ、抑止力ニハナラナイ。武王モ亜人ナノダカラ、完全ニハ信用デキナイダロウ」

 

唸るようなコキュートスの言葉に、首をかしげていた者達がハッとなった。

 

「分かったかしら?つまり皇帝が国内の不安を治めるためには、あの人間の威光に頼るしかないのよ。そう...たとえ魔導国の従順な駒だと分かっていても、ね」

 

 

アルベドのまとめを受けて、円卓の間が感嘆のため息に包まれる。そしてすぐにシモベ達は爛々とした目で、アインズの神算鬼謀をこれでもかというほどに称賛し始めた。

 

(ええ...幹部の引き抜きで印象悪くしないよう気を遣っただけなのに...ていうかフールーダさん、本気で寝返るつもりだったの?ってことは俺、知らないうちに『そっちの弱み握ってるぞ』って脅してたのか...。会談のとき名前を出した途端に話し合いがスムーズになったのって、そういうこと?)

 

混乱しながらもなんとか賛美の嵐を捌いていると、デミウルゴスがさらに付け加えた。

 

「ですのでこれからあの人間には、強者として警戒し敬意を払っているかのように振舞ってください。それがアインズ様の御意思です。よろしいですね?」

 

守護者に混ざりブルー・プラネットも頷く。

 

「ありがとうデミウルゴス。さすが、僕より全然頭良いね」

 

ついでに評価のハードルを下げるためのジャブも打っていた。しかしその一発は、意味ありげな笑みとともにあっさりと躱される。

 

「ふふふ、御冗談を。ブルー・プラネット様も本当はご存知だったのでしょう?それでもシモベのために愚者をも演じてくださるとは...このデミウルゴス、ブルー・プラネット様の御慈悲に感激の念が絶えません」

 

 

(((...やばい)))

 

 

こうして無事(?)会議は終了した。




お待たせした分は文字数でチャラに...(小声)

フールーダさんって、けっこう政治的な利用ができるそうですよね。
そしてこの章もやっと終わりだ...!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。