骸骨と山羊と自然科学者   作:chemin

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NPC随一の知恵者たちによる、ナザリック伝統の「超絶勘違い」が今始まる...


勘違いの始まり

<<デミウルゴス side>>

 

 

赤いスーツを流麗に着こなした悪魔は、底のない悲しみに暮れていた。

 

先ほど伝えられた至高の御方による玉座の間への招集の時間までにはまだ余裕があるが、どうしても確かめなければならないことがあるとアルベドとプレアデス達には早めに来てもらうよう求めていた。そして彼女らの顔を目にした瞬間、これ以上ないくらいの最悪の想像が膨らんでいく。

 

 

そう、至高の御方々の頂点に座しておられるモモンガ様が今このナザリックにおられるのに、彼女らは一様に絶望を色濃くその顔に宿しているのだ。

 

考えられることはただ一つ。

 

 

「率直にお尋ねします。我が主ウルベルト様と第六階層に参られていたブルー・プラネット様、お二方はお隠れになられてしまったのですか?」

 

その問いかけに複数の肩がびくりと反応する。

 

「...申し訳ありませんがお二方につきましては他の者にお話しすることをモモンガ様より禁じられていますので、お答えすることはできません」

 

代表してユリが述べるが、身体の強張り、声の震え、なにより耐えきれずうっすらと目に浮かぶ涙がすべてを物語っていた。

 

「...そうですか」

 

 

 

天を仰いだデミウルゴスは、先刻第七階層に訪れた創造主から放たれた衝撃の内容が頭をよぎった。

 

 

『おお、懐かしいなデミウルゴス。いやーせっかくモモンガさんがギルドを維持して守ってきてくれたのに、もう見れなくなるかと思うと寂しいなあ...。俺にもっと(リアルでの)力があればユグドラシルやナザリックの(サービス終了に伴う)消滅を防げたんだが。俺(のアバター)が消えてもこいつら(の外装データ)だけでも残せねえかな...次(のユグドラシルⅡ)の世界に引っ越すとか...あ、そうだ。ブルー・プラネットさんに連絡しねえと』

 

 

 

 

 

 

そう呟いて去っていった主。

 

一騎当千の猛者ばかり集うこのナザリックにて最強の魔法詠唱者(マジックキャスター)であるウルベルト様ですら抗えない世界の崩壊。そして「俺が消えても」とおっしゃられてからしばらくして、本当にその存在を感じられなくなったという事実。

さらに未だこのナザリックは消滅していない。それどころか表層部の偵察の様子をきく限り、今はヘルヘイムと異なる場所に拠点が移動してしまっているようだ。

 

その明晰な頭脳は一つの真理に辿りつく。

 

 

この多種多様な防壁で守られた巨大な地下大墳墓を異界にまるごと転移させるなど、いくら至高のお力をもってしても容易なことではないだろう。そんな神代の魔法をこの短時間で行使できるような存在。それは我が創造主をおいて他におるまい。しかし本来の許容量を超える桁外れな規模と尋常ならざる魔力を消費するため、ウルベルト様自らに加えてブルー・プラネット様までもがその身を犠牲にされたのでは...

 

おそらくモモンガ様だけはナザリックに必要だと判断なさって、残されていかれたのでしょう。

デミウルゴスは己の無力と罪深さを呪った。

 

 

「我々は至高の御方々の慈悲によって永らえているのですね」

ぽつりと溢された呟きに、答えはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<ウルベルト side>>

 

 

『ではお二方、打ち合わせ通りお願いしますね』

 

<集団伝言>でこちらに念を押してからモモンガさんが玉座へ歩み寄った。こうしてみると装備も相まって完全に魔王だなあの人...

 

 

 

先ほど周辺探索の後でそれぞれの結果を持ち寄ったら、ブルー・プラネットさんが恐ろしく情熱的にここの自然について語りだした。「もう壮齢の木本植物の樹皮におけるヘミセルロースの割合が地球と全然違くて感動だよ!」とか「極相種は気候的に天然もので安定してるけどちょいちょい林冠ギャップがまとまってできてるから中世レベルの木材を使う文明があるとみて間違いないね!」とか、正直ほとんど意味が分からなかったけれど、かいつまんで訊くにとにかくここは限りなく高い確率で現実なんだそうだ。だったら最初からそう言ってくれ、ブルー・プラネットさん...

 

 

それからは、たくさん話し合った。

 

モモンガさんはわざわざ荒んだ生まれ故郷に帰る意思はないこと

ブルー・プラネットさんが実は奥さんを肺がんで亡くしていたこと

自身も奥さんも愛してやまなかった自然がここにあること

俺もあの世界に未練は毛ほどもないこと

ならば三人でこの世界で力を合わせて生きていこうということ

ではまず我が家となったナザリックで皆と顔合わせすること

もはや宗教の教祖扱いなので今後は基本上位者ロールすること

あとNPCの性格は設定通りなので配慮することなど

 

 

 

 

 

結果、差し当たって「まずはNPC達を一堂に会し、挨拶しよう!」ってことになったわけだが。

 

 

とりあえず皆を集めさせようとアルベドを部屋に呼んで指示を出すと

『ついに皆にお話しになられるのですね...。承知いたしました、移動可能な全ての守護者と高位のシモベを大至急招集いたします」

と何か勘違いしたらしく、またまた沈痛な面持ちで足早に去っていった。

 

 

 

 

そして現在。プレアデスがなぜか既に全員すすり泣いている。

どうしたんだお前達...

 

 

 

 

「面を上げよ」

よく通る俺らに向けるのとは違った威厳のある低い声と、突然吹き昇る黒いオーラに少し驚く。

 

『え、なんで絶望のオーラ出してるんですか』

 

『わ、わざとじゃないんです!すごい見た目の異形種が何百とこっちを一斉に見上げてきたので、なんか勝手に...』

 

ああ...うん、まあ気持ちは分かるよモモンガさん。

さてアルベドが恥ずかしいほど素敵な口上を述べ終わったので、いよいいよここから重大発表だ。

 

 

 

「うむ、忙しいなか皆の者よく集まってくれた。礼を言う」

 

すかさず何か言おうとする守護者統括を手で制す。

「しかしこの場で二つほど、急ぎお前達に知らせなければならぬことがある」

 

死角に隠れているため見えないが、その言葉に緊張感が強まったのを感じる。

 

「まず先ほどの調査で判明したことだが、我々はこのナザリック地下大墳墓ごと以前までいたユグドラシルとは異なる世界へと渡ってきてしまったようだ」

 

今度は動揺の気配がする。

 

 

『ウルベルトさん、なんかデミウルゴスが死にそうな顔で”やはりそうでしたか...”とか言ってるんですけど』

 

『おお、さすがデミウルゴス!もう分かってたとは設定通り頭いいんだなあ』

 

『いやいや、モモンガさんは死にそうな顔って言ってますよ...?』

 

 

「よって今より、安全を図るためにこの世界のあらゆる情報の収集、および同じく転移した者がいないかの捜索を最優先事項として行動する。異議のあるものは忌憚なく申せ」

 

かっこよすぎませんかモモンガさん。もう魔王でいいんじゃないですか。

 

 

「我らシモベに異を唱える者などおりません。ご心算のほど、承りました」

 

 

「よし。ではもう一つ。実はこの異変に先立ち二人の我が友がこのナザリックへと帰ってきてくれていたのだ。わがままな私からの切なる願いだ、どうか快く迎えてやってほしい」

 

 

お、ついに出番か。

 

『ではどうぞ』

 

ギルマスに促されずっとかけ続けていた<完全不可知化>を意を決して解除すると、一抹の不安をかかえ袖口から隣のブループラネットさんと共に玉座の少し前まで進んでいく。

 

 

姿を現した瞬間から、至る所で息をのみざわめく音がする。

 

 

「あー...とりあえず皆、ただいま」

上位者ロールの約束だったが、俺らを見た途端なぜか皆がえらく号泣し始めたため当たり障りのないことしか言えなくなる。

 

「えっと...しばらく留守にしてすまなかった。できることなら我々二人もこれから君達と一緒にここで暮らしたいんだけど、いいかな?」

 

 

涙を流してはいるものの、雰囲気としてはどうやら喜んでくれているようだ。

 

ふとアルベドと目が合うと、わたわたと涙をぬぐった。

 

「べ、別にうれしくて泣いてなどおりません!...こほん、失礼いたしました。シモベ一同を代表しお二方のご帰還を心よりお祝い申し上げます」

 

 

言い終わるや否や大地が揺れるほどの歓喜の雄叫びが眼下より放たれた。

 

 

一際デミウルゴスは独りで落として上げた(セルフマッチポンプの)効果で声が大きくなっていたが、誰も誤解なく真実を教えてくれる存在は残念ながらどこにもいなかった。

 

 

『..完全不可知化ずっとしてたから、いなくなったと思われてたパターンですかねこれは』

 

『奇遇ですねブルー・プラネットさん、俺も今全く同じこと思いました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<アルベド side>>

 

 

(まさか、そのようなことが...)

 

 

至高の御方々が帰還を宣言なさってから自室にお戻りになられたのち、残ったシモベたちはいまだ冷めやらぬ興奮の渦の中にいた。それらが静まるのを見計らい、デミウルゴスが自らの推測を語って聞かせたのである。

 

 

迫る世界の崩壊

 

それを察知し戻られたかの方々

 

命を賭しての転移魔法

 

 

 

アルベドも異変が起きる前後に玉座での最後を匂わせる会話を間近で聞いていたためおよそ同じように考えていたが、ウルベルトの言葉は知らないため驚愕はあった。加えてこの緊急時に高レベルのシモベ達を一か所に集めるという危険を冒すなど、至高の御方に関するとても重要な話であることは明らかだ。聞きたくはないが、御方の訃報を知らせるためだろう...とプレアデス一同と共に覚悟さえしたのに。

 

 

 

そして今初めてそれらを知ったほとんどのシモベ達はその偉大なる御業に感動し、同時に主を犠牲に生きながらえたかもしれない恐怖に怯えた。忠誠心と天井知らずの高評価が独り歩きする中、何も知らないモモンガ達にとってなによりの誤算だったのは宝物殿から連れてきたパンドラズ・アクターの存在であった。

 

 

彼が(知る者はいないが)珍しく端的に自己紹介を終えると、仰々しく自らの造物主が宝物殿にて語りかけてきたことをそのまま伝えてしまったのだ。加えて宝物殿からの移動を可能にするためリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを貸し与えていたことも災いする。

 

 

守護者統括として彼の能力を知るアルベドの俊秀な頭脳はすぐにひらめいた。

 

 

「至高の41人の方々の容姿と八割の能力を行使できるというパンドラズ・アクターは、その頂点におられるモモンガ様が唯一お造りになられた存在。おそらく潜在的に全ての至高の御方々となんらかのつながりをもっているのだわ」

 

 

その言葉にはっと全員が珍妙な卵頭を凝視する。

 

 

「その指輪を授けられたこと、モモンガ様の『わがままな私』というお言葉は、そのつながりを用いてお二方を引き留められたという証左。しかし戻られたのがお二方だけということは、よほどのエネルギーを消費するか世界級クラスのアイテムが必要なのかもしれないわね...」

 

 

ならば己の創造主もあるいは再び...とあらゆるシモベの瞳に希望の光が灯り始めるのを見届け、玉座より数段下のやや高い位置からアルベドは告げる。

 

 

「守護者統括として命じます。これより緊急時におけるパンドラズ・アクターの安全は至高の御方々に準ずるものとし、全てのシモベにおいて最優先事項として徹底させなさい!またウルベルト様とブルー・プラネット様はお力を使い果たされたのかとてもお疲れのご様子でした。つまり今こそ慈悲に縋るだけの役立たずではなく、創造主に恥じない優秀なシモベとしてお役に立つとき!各自与えられた仕事を完璧以上にこなし、新たな世界を至高の御方々に献上するのです!」

 

 

あたりが帰還の儀のときと同等の熱を帯び始め、ここにシモベ達による世界規模でのありがた迷惑が幕を開けた。

 

 

(泣いてるところ見られてしまったかしら...で、でも!ウルベルト様は『世界征服は叶いませんでしたが』と仰ってらしたから、言われずともきちんとお三方の御意思を理解し指示を出した私の評価が上がることは間違いないわ。あとはちょっと恥ずかしいけどそれとなくアピールしていけば、褒めて頂ける上に...もしかしたら!くふー!!」

 

 

「アルベド、ほとんど声に出ていますよ...」

 

「ぐぬぬ、そ、そうはさせないでありんす!!」

 

「ソレハ不敬デハ...」

 

「はあ...」

 

残念ながらツンデレでも淫魔の本能はそのままだった。

 

 

 

 

 

 

             

       

   

 

 

その頃、モモンガの部屋にて

 

「あの、やっぱり宗教団体...」

 

「「違います」」

 

 

 

 

 

 

 




<完全不可知化>は至高の気配を感じなくなるって設定です。
感知に優れたシモベも、存在は認識できてもギルメンかどうかは分からないってかんじで。

林冠ギャップ:木が倒れて光が差し込むところ。ゴブリンあたりが木を伐ったときにできたと仮定してます。村落までの距離とかテキトーでごめんなさい。
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