骸骨と山羊と自然科学者   作:chemin

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ブルー・プラネットさんとその作成NPC(オリキャラ)についての捏造回です。
Web版ではコキュートスの作成者はブルー・プラネットさんらしいですが、書籍準拠なため本作では武人武御雷さんのままです。今後余裕があればそこらへんの絡みも書きたいですね...

実は設定の箇条書きとかで済まそうと思ったんですが、読んでてつまらなそうなので物語調にしました。原作知識浅いのでどこか矛盾あったらごめんなさい。


骸骨と山羊と...?

<<第六階層・森林部>>

 

 

(やっぱり設定的にも最深部にいるかんじかな...)

 

 

 

移動の融通が利かない自作NPCである森林部の領域守護者に会うため、ブルー・プラネットは密生する大樹の間を慣れた様子で進んでいた。ここらに生えている樹木は、外装データはあまり人気がないため単価が安く、どこぞの巨大図書館の蔵書同様に悪ノリして大量購入をしたものだ。懐かしの記憶が次々と脳裏によみがえるが、森祭司(ドルイド)の職業のおかげか凹凸の激しい森においてもその足運びには一切の淀みがない。

 

 

ちなみにやや後方からは、階層守護者として同行を願い出たアウラが魔獣を引き連れ追従している。

ぶくぶく茶釜さんとはこの階層で作業をするにあたり会話する機会も多かったし、お互いの素材集めに協力したり『闇森妖精(ダークエルフ)には星空と雄大な森!』という共通のコンセプトの下かなり白熱して全体の構想を練ったものだ。よってNPCの中でもこの姉弟には思い入れが強い。

 

 

しかし

「さすが100Lv.で野伏(レンジャー)もってると身のこなしが違うなあ。種族も闇森妖精(ダークエルフ)で森とは相性がいいし、やっぱりこの階層にはフィオーレ姉弟が最もふさわしいね」

とおだてたつもりで話しかけてからは、どこか動きがぎこちなくなってしまった。

 

(植物の引き立て役みたいな扱いに守護者としてのプライドが納得いかないのかな?)

 

 

が、相好を崩し嬉しそうな様子を見るに気分を害してはいないみたいだ。たとえ子供相手だろうと女心は分からないな...と困惑するブルー・プラネットに反して、一方でアウラは喜びのあまり身体に余計な力が入るのを抑えられずにいた。

 

 

 

 

まだモモンガたちに自覚はないが、NPCという存在はギルメンから褒められると危険薬物もかくやといわんばかりの喜悦を見せる。異業種ぞろいであるのに沈静化の兆しもないのは謎であるが、アウラとて『そうあれ』と造られた部分を創造主ととりわけ仲の良い御方から全面的に肯定されれば喜びも一入だった。今頃外壁の隠蔽作業をしているであろう弟にも、あとでお褒めの言葉を頂いたのを自慢してやろうと思うとニヤつきが止まらない。

 

 

 

余談だが、アウラが大きな優越感に浸っていられたのは弟にモモンガから至宝の指輪を下賜されたことを恍惚とした表情で語られるまでである。

 

 

 

 

しばらくすると神木として設置した一際目を引く大樹へと辿りついた。

 

(たしか”集会”はいつもこの辺って設定のはずだけど)

 

「おーいサカキー。いるかー?」

 

 

樹齢が百年を超えると精霊が宿り、千年を超えると神が宿る。この神木はそんな南部の言い伝えを参考に、現存する日本最後の国指定保全林である屋久島特有の杉をイメージしてこの森の心臓として植えたものだ。かの有名な杉は木片を科学的に調査したところ樹齢は四千年だったらしいが、直径から逆算すると七千年だともいわれている。そんな神が宿る木の分身設定となるNPCだから名前はサカキ。我ながら安直なネーミングセンスだがモモンガさんに比べればマシか、と自分を庇っていると、正面の奥からこれもまた巨大な木が二本の足でこちらに歩み寄って来るのが見えた。

 

 

「ここにおりますぞ我が主よ。む...しかしその闇森妖精(ダークエルフ)も一緒とは、集会でもなさるのか」

 

 

重々しくゆったりとしたその足どりと口調、当時脳内で思い描いていた姿そのままで動き出していることに新鮮な感動を得る。慎重で温和な性格だが怒ると地の果てまで復讐しに行く執念深さ、そして長く生きてるからほとんど個人の名前を覚えないって設定もしたかと記憶を手繰る。

 

 

「いや、アウラは散歩に付き合ってもらってるだけなんだ。集会はやらないよ」

 

 

言葉を交わしながらちらりとアウラを見やると、あからさまに不服そうな顔をしている。アウラからすればぶくぶく茶釜から授かったこの名を同じシモベから呼ばれないこともそうだが、なにより至高の御方を前にして歩きながら話しかけるという無礼な振る舞いが許しがたい。『そうあれ』と定められた姿でも、失礼だと思ってしまうのだから仕方のないことだ。

 

 

「サカキ、この子はアウラだ。ちゃんと名前で呼んであげてほしい」

 

 

注意しても軽く頭を揺らす程度なので、説得は早々に諦め改めて相手の全身を観察する。

サカキは植物系の精霊ではドライアードやトレント類の最上位にあたるエントという種族だ。レベルは75だが防御力のわりに攻撃力は非常に低く、一対一の直接戦闘ではプレアデスに負けるだろう。しかし専門は精霊種特有のスキルを用いて底上げされた足止めのトラップや各種状態異常とデバフ攻撃の嵐なので、こういった見通しの悪い場所での集団戦闘ではかなりの曲者である。

 

あの有名な1500人侵攻の際は、サカキ隊の足止め兼デバフをしている間にアウラのバフをかけまくった魔獣やマーレの範囲魔法コンボでそれなりに削ったくらいだ。フレンドリーファイアが有効な今はできない戦略だが、高い防御力にものをいわせ囮にしている隙にサカキごと攻撃をぶち込むのも効果があった。というのも例えば1時間に一回使えるスキル<精霊の根(エレメンタリールート)>は『行動阻害に対する完全耐性を有している相手でも5秒間地上に拘束できる』というものなので、マーレの地属性の魔法を確実に当てるのに相性が抜群だからだ。

 

 

 

 

 

「まあ、とりあえず元気そうでなによりだ。サカキはサイズ的にも速度的にも移動が不自由だから玉座の間でのあいさつに来れなかったし、今日はせっかくだから顔を見ておこうと思ってね」

 

 

「ううむ...この身体は気に入っておるが、〈真祖の大地精霊(トゥルー・ガイア・エレメンタル)〉殿を歩かせたとならば詫びねばなりますまい。主のように人や麒麟になれるのならばよいのだが...」

 

 

 

(うん?)

穏やかな会話の中で、何か聞き逃してはならない発言があった気がする。

 

「えっと、人や麒麟になれるっていうのは...?」

 

「何を仰る。主は地と木と水の精霊を司る神祖でありましょうぞ。生けとし生ける万物のものたちの声をきくため、現身のお姿をおもちのはず」

 

 

真祖の大地精霊(トゥルー・ガイア・エレメンタル)〉とは、ブルー・プラネットの特殊職業である。バフとデバフや防御強化に必要な特殊スキルなどを極めるため、土系・植物系・水系の精霊種族をそれぞれ上位種が取得できるまで15レベルずつ上げていったら選択可能になっていた。強キャラを育てるためには職業レベルを優先させ、種族レベル0も珍しくないという常識をことごとく無視した蛮行ともいえる。しかし結果としてモモンガのようにロマンビルドでありながら、サポート役としては優れた力を発揮する癖のあるプレイヤーに仕上がったのだった。

 

 

 

神が宿っている設定なはずのサカキがこちらに従順なのは、ギルメンということだけでなく精霊種としての格の問題なのかもしれない。ウルベルトいわくガイアとはギリシャ神話では大地の神らしい。

 

(人や麒麟...たしかにユグドラシル時代はフレーバーテキストでそんなこと書いてあったな)

 

 

現在アバターとしての彼の見た目は、端的に表現するならば「人型の霧」だ。

二足歩行で腕もあるし、頭部には口のような部分も見受けられる。きっとゲームの性質上、装備を反映させるには人型が便利なのだろう。外装は課金である程度いじれるとはいえ、はっきりとした人や麒麟になれるのは種族設定にある説明文の中でのみの話なはず。

 

 

 

 

そう、人や麒麟になるなんてあくまでゲーム内での設定なはず。

 

(えっ)

 

しかし自分が麒麟になることを想像した次の瞬間に、いとも簡単にそれは起こった。淡い光に包まれたかと思うと、急に手足の感覚が変わり今はとても頑丈そうな四本の脚で地に立っているのだ。目線は2m半ほどまで高くなり、頭には神聖な角の重みを感じる。

 

 

(おお、本当になれるんだ...!麒麟は東洋では神聖視されることもある生き物だったけど、西洋寄りのユニコーンでなくこっちを採用するとか運営もよくやったもんだよ)

 

 

変化が起きてもあまり驚きがないことに違和感をもちつつ首が回る範囲で興味深く初めての身体を観察していると、アウラが興奮気味で近づいてきた。

 

 

「ブルー・プラネット様すごいです!!こんなに角も毛並みも立派で美しい麒麟のお姿なんて、私初めて見ました!色も金・銀・黒でとてもおきれいですし、なにより大きくてかっこいいです!!」

 

 

...うん、まあこういうレアな動物ともなれば本職である魔獣使いの血が騒ぐのだろう。わあ~、などと年相応に声を出しながら凝視されると、さすがにこちらも恥ずかしい。けれども子供の好奇心は心ゆくまで満たしてやるのが大人の務めだ。

 

 

「じゃあ次は人になってみるか」

 

 

そろそろ満足しただろうと見切りをつけ、先ほどと同じ要領で人になるイメージを固める。またも淡い光に包まれ、今度は長年を共にした馴染み深い感覚が訪れた。

 

 

「ふむ...ふむ...そういえばわしも主の仮のお姿は初めて見ますのう」

 

 

アイテムで鏡を取り出し確認すると、人の姿はどうやら二十歳前後で神秘的かつ中性的な面持ちの青年のようだった。不思議なことに美形と思えば忘れられないほどの美形だが、凡庸と思えば記憶に残らないほど凡庸な顔に見えてしまう。体は銀に近い色白で透きとおった肌に髪の毛と瞳は闇のような黒、さらにわずかながら周囲に金色の光が浮いているのがちらほらと目に入る。人の形でありながら、一目でただの人間ではないと分かる状態だ。ちなみに装備は麒麟の時のみしまわれるようだが、人型の状態では自動的に標準設定したセットが換装されるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

一通り吟味したら知らない自分の発掘はこれくらいで後回しにして、そろそろ今日の本題を片付けようと元の人型の霧状に戻る。

 

 

「なんか脱線してしまってごめんね。さて、実はサカキにお願いがあるんだ」

言いながら数種類の種子を差し出した。

 

 

「ナザリックの現状はきいてるね?今この世界には僕たちには分からないことばかりだ。だからこの森林部では、こちらで採取したあらゆる種類の動植物の育成と分析をしてほしい。各種必ず育成段階に魔法を行使するものとしないものとで分けて経過観察し、細かく報告すること。観察項目はあとでリスト化したものを渡すけど、思いつくことがあればどんどん提案してくれるとうれしい。...ここまでで質問は?」

 

 

いけないいけない、つい自然科学関係の話になると熱が入りすぎてしまう。いっきにまくし立てすぎたかと一呼吸おいて間をとったが、老熟なエントはよく理解できているようだ。

 

「ふむ、数にもよろうがそれにはいささか人手が足らんようじゃのう、主よ。それに森の在り方に関わるならば”集会”を開く必要がある」

 

 

森の意思を決める”集会”はエントの風習だ。

想定していた内容に笑みがこぼれる。

『説明に先回って質問できるのはいい生徒の証拠』

昔やまいこさんと交わした教育談義をふと思い出しながら説明する。

 

 

「うん、それは分かってる。だから動物部門はこのアウラ、植物部門はサカキが担当責任者として互いに協力しながら現場監督をしてもらい、全体の指揮は僕がとる予定でいる。そしてサカキのところは持ち回りで一般メイドが手伝ってくれるし、植物を植える場所は森林外部の闘技場付近に準備しておいた」

 

 

アウラには事前に説明してあるので取り乱すことはない。もうすっかり準備万端で完全にやる気でいることが伝わったのか、大木は口元に生えた苔をまるで髭のようにさすりながら愉快そうに笑いだした。

 

「ふむ、ふむ。では童の相手は任されましたぞ」

 

 

 

思わぬ収穫もあった第六階層訪問は、こうして無事にその目的が達成された。

 

 

 

 

 

 

 




縄文杉はホントに樹齢七千年説があるそうです。すごい

今回の『最後の国指定保全林』とかサカキやブルー・プラネットさんの種族・スキル・ギルメンとの関係等はほぼ捏造です。人化や麒麟化がお気に召さない方は、まあ自分も勝手に頭に浮かんできただけなのでどうしようもない、とだけ...


そろそろブルー・プラネットさん呼びが長くて面倒だし、一人称「僕」の違和感すごいので次回幕間で補完します。

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