なるべく調べながら書いてはいますが、元ネタと違うところあったらすみません。
あと今回は諸事情によりルビ省略させて頂きます。
<< side ドルト >>
闇妖精は歴史的勝利を収めた。
あの後法国の残り三千ほどの敵兵を百程度まで減らしたが、マーレ殿の拘束魔法であっさりと全員が止められたのは衝撃的だった。
『えいっ』
などと可愛らしい掛け声とは裏腹に、猛り狂う数千の兵を敵味方ともに怪我もなく捕縛するあの技術。仮初の力で万能感に浸っていた己が滑稽に見えてくるほど、やはり彼らはなにもかも次元が違うようだ。
興奮状態にあった精神が静まるのと同時に、空が砕け始めるのをドルトは視界の隅に捉えた。
そうして気が付くと自分たちはエイヴァーシャー大森林に戻っており、あのできごとは夢幻だったのかと疑うほどに腕力も感覚も元通りである。しかし刃にこびり付いた血や人の脂の匂いと、腕に残る数百に及ぶ肉を断った感触とが、あれは間違いなく現実であったと主張していた。
というか、実は精霊殿が目の前にいらっしゃる。
そして周りにいるはずの部下がいない。
あ、お前らなぜ遠巻きに見ている!
おいバイエルなんだその顔は。
やめろ生贄を見る目でこっちを見るんじゃない。
裏切者め、目を背けるな!
私一人で対応できるお方ではないだろうが!
......まあ立場上はどう考えても逃げられまい。
こうなれば腹をくくるしかないだろう。
「戦場にてご挨拶が遅くなり、失礼いたしました。私は第二師団団長を仰せつかっております、ドルト・ファーヴル・ブンデスと申す者。まずはなにより、マーレ殿共々、大変なご助力を頂いたこと誠に感謝申し上げます。」
「これはご丁寧にありがとうございます。しかし最初に言った通り、あなた方を助けたのはこの子らの意思です。感謝の言葉はそちらに向けてください」
失礼のないよう細心の注意を払っていく。挨拶している間何故かマーレ殿がきまり悪そうな表情をされているが、理由を尋ねるのも憚られるので追求せずにおこう。
また、腰を落ち着けて色々と詳しくお話を伺わねばならないため、一度すぐ近くの首都までご同行頂くようお願いした。
我々の救済を約束してくださった方なのだから断られることはないだろう。
そう思ってはいたが、考える素振りを見せるどころか
「え、面倒なのですぐ王様に会わせてください」
とまで言われてしまい、急いで謁見の取次ぎのため伝令を走らせることとなった。
ある部分だけは必ず王の耳に入れるよう厳命したが、ドルトの不安はこの後最悪の形で現実のものとなることを、彼はまだ知らない。
ちなみに近くで座して待たされていた法国兵の生き残りは、精霊殿に何ごとか耳打ちされてから急に慌て始め、兵の完全撤退を固く誓って神妙な面持ちで去っていった。
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英雄の凱旋。
湖のほとりは今そんな風景だった。
帰ってきた我ら第二師団を待っていたのは、狂喜乱舞する国民たち。
他の戦線に派遣されていたはずの師団も揃っている。
そしてその一番前には、マーレ殿の姉君であるアウラ殿が竜と精強な魔獣の軍勢を引き連れ、非常に達成感にあふれた晴れやかな表情で待ち構えていた。
たしかに思わぬ形だろうと大勝利を果たしたわけだが、釈然としないどころか異様なほどの熱烈な歓迎にどうすればよいか見当もつかない。たしかに長らく滅亡の危機に瀕していたので、絶え間ない戦禍の不安からやっと解放されたとあれば喜びも爆発しようもの。しかし東部に出張っていた第一・第四師団の面々が、皆一様にアウラ殿を憧れと尊敬の目で見つめているのも気になる。
とにもかくにも、まず王に謁見せねばなるまい。
ブルー・プラネットとマーレを背後にしたドルト一行が団旗を掲げて歩き始めると、民衆が割れ、目を伏せ腰を少し落とすエルフ式の礼をもって彼らを見送った。
湖から街に入り、馬に乗り換えてから30分。王の住まう非常に高い建物に到着した。
丘陵を背に周囲は大木の壁で守られ、正面には門が立ちはだかっている。ここから先は許しを得た者しか入れないため、本隊からやや遅れ帰還したばかりの第一師団エスパニ家、第四師団セリエ家の代表と合流し、しばしこの場で待たねばならない。さほど時間が経たないうちに守衛が門扉を開くと、首都防衛の任を担っていた第三師団プレミ家当主が中から飛び出て来た。
「やっと参られたか!さぞお疲れだろうが、伝令が勝報を持ってきてからずっと陛下が待ちわびておいでなのだ。そちらの方々をぜひご自分の目でご覧になりたいとのことで、そのまま陛下がいらっしゃるところまで連れてくるようにとのことらしい」
この様子ではよほど急かされたとみえる。
王はご自分の強さに絶対の自信をお持ちであるから、素性の知れない者を入れるような危険を顧みないのだろう。家臣としては止めるべきだろうが、どうせ我々弱者の言うことなど聞く耳を持たぬお方。それに救国の英雄でもある恩人に失礼というものだ。
「了解した。では一刻も早くお目通りを致しましょう。皆様もそれでよろしいでしょうか?」
一応精霊殿らにも確認し了承を得られたので、<清潔>で最低限身を清めてから王の間へと進む。
<< side エロフ王 >>
その王は非常に機嫌が良かった。
伝令が言うには
左右で瞳の色が異なる闇妖精の子供が二人と、人間の姿をした<大地の精霊>だと言う男が戦場に突然現れた。
少年の服装をした方の子供は、絶大な力を誇る竜や多数の強靭な魔獣を操り各地の戦闘を瞬く間に鎮圧した。その際にたくさんの兵を庇い、鼓舞しながら疾風の如く駆けまわったため、多くの者たちが感謝を示し英雄視している。
また少女の服装をした子供と精霊の方は、周囲を亜空間に引き込みその中で第二師団と協力し敵の主戦力を壊滅。こちらは支援魔法と拘束魔法を使用しただけだが、三千の兵で聖典を含む敵七千を一方的に撃破する程に強化された。
なお第二師団団長より、精霊は二人の闇妖精の主であり、不当に貶めたり軽んじたりするような言動は慎むべきだと強く要請があった。
とのことらしい。
さすがに竜を従えるのは無理だろうから、伝令を寄越したブンデスの若造は近縁種と間違えたようだな。主とかいう<大地の精霊>とやらもおそらくはったりで、実際はその子供の奴隷に違いない。
そもそもこの内容は、常識で考えればありえない。
ありえないが、自らの血を引く子供が力を覚醒させたのなら話は別だ。『左右で瞳の色が異なる』闇妖精など、その何よりの証拠であろう。母親が誰なのかは知らないが、よくも隠してくれていたものだ。
だが成功例がこうして表舞台に出てきたのだから、その成果に免じて秘匿した罪を赦し、むしろ再び王の子を産む名誉に与らせてやろうではないか。そして我が子たちの最強の部隊で世界を征服した暁には、そのまま正妃に迎えてやってもよい。
「ふっ、やはりたくさん孕ませて正解だったな。この調子でいけば世を席捲するのも容易かろう」
王が下衆で輝かしい未来に思いを馳せていると、やっと件の子らがやって来た。
いつも通りテラスで寛いでいたところへ、貴族家を代表する四人に続き小柄な闇妖精と長身の人間の男が入ってくる。
「よく来たな我が子らよ。王を待たせる罪は重いが、私は今機嫌が良いから許してやろう」
貴族のくせに弱く使えない者たちが口上を述べようとするが、遮って声をかける。普段ならば王たる我に傅く様を眺めるのも悪くないが、今はそんなものに興味はない。どちらにせよその子らが生まれた以上お前らは用済みなのだ。
ブンデス家の者が狼狽えながら何か言いたそうな顔をしているが、気にすることもなかろう。
玉座から睥睨すると子供らが不穏な気配を漂わせ始めたが、人間が小声でたしなめられやや大人しくなったようだ。
「なんだ、ずいぶんと不服そうな表情だな。まあよい、法国を退けた功績に免じて不問にしよう。...む、もしや褒美がなくて拗ねているのか?ははは、強き我の子であれば大概のものは与えてやろう。なにか望むものはあるか?」
寛大な自分に酔いしれついつい饒舌になっていく。子に抱く情愛などは欠片も感じていないが、今日は力が目覚めためでたい日なのだから大盤振る舞いしてやろう。
それに勲功には報いてやらねばな。
悦に浸っていると三人で何かを相談し始め、おもむろに人間が振り返りため息を一つついてからこちらを指さした。
「...貴様なんの真似だ」
なんとも腹立たしい。こやつは精霊を騙るばかりか、強者であり王でもある私に対して無礼が過ぎるようだ。しかしそれだけには飽き足らず、口を開きさらなる侮辱を重ねてくる。
「あなたが座っている席、王の座。それがこの子らに臨むものです」
...今しがたまで愉快な心持でいられたものを、とんだ馬鹿に水を差されてしまったな。
「おい、慈悲をかけてやっているからといって調子にのるなよ。大方貴様は精霊などではなく、そいつらの奴隷なのであろう?分をわきまえるがよい。その子らは王である私の血を引く者たち。王位の簒奪な...ど...」
それまで小さく震えて立っていた二人の闇妖精の子供が、耐えることをやめたように一歩前に踏み出した。
ただ、それだけの動作でしかなかった。
ただ、それほどの怒りに染まっていた。
愚か者に理を説こうとしていたのに、息苦しさのあまり尻すぼみに言葉が出なくなる。
喉がやけにヒリつき、冷や汗が吹き出た。
なぜこの私が恐怖を感じているのだ!?
まだ幼い子供たちが放つこの殺気はなんなんだ...!?
何が起きているのか理解できず、頭が真っ白になり、急に手足が強張るのが分かる。
身の竦む己を他所に、人間がメッセージで誰かと連絡をとっているらしい。
「はあ...なんかレベルは60ちょっとあるらしいんですが、スピード重視の紙装甲らしく、スキルで怯ませてすぐ殺せるそうです。というかもうさっきからずっと二人が爆発寸前なので、諸々の聴取は後回しでそちらにお任せしますね。とりあえず受け入れ準備できたら言ってください。...よし、じゃあアウラよろしく。殺しちゃだめだよ」
子供が纏うには禍々しすぎる雰囲気のせいで、その場の誰も石化したようにピクリともしない。そんな中、合図とともに少年風の闇森妖精が前に進み出てきた。
「...あんたはこれからナザリックで教育を受けるから、詳しくはちゃんとそこで勉強しときなよ。でもその前に、すごく大事なことを今ここで二つだけ教えてあげる」
ただでさえ闇よりなお一層濃い殺気がさらに強まり、それだけで心臓を握りつぶせるほどの質量をもって身を覆う。
こ、こんな力があっていいわけがない。
こんなおぞましいもの我の子などではない。
おそらくこの世のものですらない。
(これは残忍な神が悪戯で造った化け物だ)
死神の足音が忍び寄る中、誰にも知られず王は限りなく正解に近い答えに辿りついていた。
「一つは至高の御方のお一人でいらっしゃるブルー・プラネット様に、二度と失礼なこと言わないこと」
こちらに歩み寄りながら腰にかけた鞭を振るってきた。咄嗟に避けようとするも、見えない何かに腰と足首を掴まれているらしく身動きがとれない。
焦る間もなく、たったの一撃で右脚の膝から先を奪われた。
「ぐぅぅうううあああ!!!!」
強者ゆえに長く味わうことのなかった苦痛に、情けない悲鳴が勝手に出てくる。
「もう一つ、アタシとマーレを創造してくださったのはぶくぶく茶釜様っていう強くて素敵な御方なの!次アタシたちを『我が子』なんて呼んだら、切り刻んでフェンたちの餌にするよ」
なおも収まらぬ怒りの矛は、今度は左腕を標的にした。鞭が巻きつき激しい痺れをもたらすと、根元からまるごと乱暴にもぎ取られる。
「か...はっ...!」
「あ、クアドラシルありがとう。もう離していいよ」
もはや呼吸すらままならぬ。いつの間にか身体を抑える力がなくなっているが、逃げる体力も気力もない。
「あの、おじさん!」
うずくまり傷口をふさごうと試みていると、拙さの残る声が頭上から響く。
(そ、そうだ!あのオドオドしていた少女なら、強く脅せばあるいは...!)
と一縷の望みをかけて顔を上げたとき、脆弱な王は希望を抱いたことを激しく後悔した。
そこには杖を振りかぶった、瞳に光のない悪魔がいたからだ。
「その、僕もすっごく怒ってます!たくさん反省してください!」
魔法を補助するための道具は、使用者によって用途も効果も変わる。いたいけな少女が用いた杖は、ただの殴打で王の右腕を不自然な方向に曲げた。
(私は、どこで間違ったのだ...)
あまりの出血に痛覚が鈍っていたのは不幸中の幸いといえる。
ドルトと目が合ったのを最後に、意識はそこで途絶えた。
色々削ったので、変なところたくさんありそう...
とりあえず今週も頑張って生きましょう。
月曜は本当にしんどいです。