「女子高生総理・芹沢鮎美の苦悩」   作:高尾のり子

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6月 応援

 日曜日の朝、鮎美と鷹姫は知らないオジサンを応援するために、六角市内にあるコンビニ跡地に来ていた。知らないオジサンの名は、鈴木義則という平凡な名で、本当に知らなかったけれど、そういえば道路に立っている看板には、たまに同じ名が書かれていたような気もする。いずれにしても全国に何人かいそうな名前で、立派な人もいれば平凡な人もいて、中には前科者もいるかもしれないけれど、ここにいる鈴木は自民党会派の市議を3期務めているものの、今回の選挙は危ぶまれていた。

「あのオっちゃん、なんで選挙が危ういんやったっけ?」

 鮎美が小声で鷹姫の耳元へ問う。二人は短期賃貸されている元コンビニ建物の奥の奥へ隠されるように椅子を用意してもらい、出番を待っていた。

「たしか、割の良い地域商品券を奥さんと、その友人らが入手しやすいよう便宜をはかった疑いをもたれていると………誰かが話しているのを聴きました」

「せこい疑惑やなぁ……」

 鮎美は余計な雑念は忘れることして手にしている原稿を何度も読み直すことに専念する。原稿は党が選んだ女性秘書が準備したもので、女子高生なら鈴木を、どう応援するかを考えて書かれたものだった。

「うちの言葉は一つもないのに……うちの口で言うわけか……」

「少しならアレンジしてもいいのよ」

 声をかけてきたのは秘書の石永静江だった。六角市を含めた県内の衆議院議員選挙区第9区から選出されている石永隆也の妹で35歳、英語と料理を得意とする才媛で人当たりもよく、最年少参議院議員となる予定の鮎美を補佐するにたる人物と目されていた。議員秘書らしくグレーのパンツスーツを着ているし、化粧も派手すぎず地味すぎない。

「そう言われても、うちには何も……この文章で完璧やと思います」

「頑張ってね。これが芹沢鮎美の初陣でもあるんだから」

「「初陣……」」

 鮎美と鷹姫が、また少し緊張した。定刻が近づいてくると、どんどん人が外に集まっているのを気配で感じる。元コンビニの駐車場は車と人でいっぱいの様子だった。静江が様子を見てから戻ってくる。

「鈴木先生の出陣式に来たというより、鮎美ちゃん…芹沢先生を見に来たって人が多いわね。やっぱり」

「芹沢と市議選には直接の関係は無いはずではないのですか?」

 鷹姫の問いに静江は注意から入る。

「呼び捨てにする癖、直しなさいね。二人っきりのときは、いいとしても公の場では芹沢先生、最低でも芹沢さんに」

「はい、すみません。芹沢先生と市議選には関係が無いはずでは?」

 先生をつけられて鮎美が恥ずかしくなる。

「鷹姫に、そう呼ばれるのは……っていうか、そもそも女子高生に先生をつけるのは、おかしゅーないですか? うちは、普通の呼ばれ方がええですわ」

「そうね、クジ引き議員の一部は、同じようなことを言って先生をつけられるのを避けてるけれど、党としては選出された以上、自覚を持って勉強し、先生と呼ばれて気後れしないほど国民の代表たる意識をもって。という意味で原則、先生をつけるよう指導しているわ」

「「…………」」

 そう言われると二人の女子高生に反論はなかった。

「で、鈴木先生の市議選と芹沢先生には直接の関係は無いけど、公の場に芹沢鮎美が顔を出すのは、これが初めてになるの。鈴木先生の人望だと今回はせいぜい100人も来ないから初陣には、ちょうどいいかと設定したのだけれど、やっぱり珍しいからかな、300人くらい集まってる。報道陣も多いし。報道関係は明らかに芹沢鮎美が狙いね」

「「報道……」」

「クジ引き議員は、その任期が始まるまで原則として取材を自粛することになっているけれど、選挙活動は公の場だから。でも、何か質問されても答えなくていいわよ。あと、出番が終わったら、即退場して移動だから、それも打ち合わせ通りに」

「「はい」」

 秘書というより教育係兼世話係をしてくれている静江に緊張した返事をしていると、外で鈴木の演説が始まった。

「皆様方には早朝よりお集まりいただき、この鈴木…」

 マイクで話している声なので建物内まで響いてくる。予定では最初に鈴木が挨拶し、さらに県議と商工会議所の役員、鈴木が住んでいる地域の自治会長が話し、そして鮎美の番となり、その次は農協の役員が話して応援演説は終わり、最期に再び鈴木がマイクを握って感謝と抱負を述べ、そのまま選挙カーに移乗して選挙運動に出発する、という流れになっている。

「県議会議員の…」

 外では県議が挨拶と演説をはじめ、そろそろ鮎美の出番が近いので静江が促す。

「芹沢先生、そろそろ定位置に」

「…っ………」

 鮎美は立とうとしたけれど、膝が震えて椅子から立てなかった。

「…あ……あかん……脚に力が……」

「芹沢先生、深呼吸して。大丈夫、原稿を読むだけ。周りなんて気にしなくていいの」

 静江は優しく鮎美の背中を撫でる。その背中は汗で濡れてブラジャーが透けそうなほどだった。時間が迫ってくるけれど、静江は慌てない。

「大丈夫、大丈夫、カチコチに緊張してたって、みんな最初は同じなんだから。鈴木先生だって12年前の出陣式はかみまくりだったし、今回もかんでるし。私のお兄ちゃんだって初演説のときは農協と農業の発音がぐちゃぐちゃになったり、北朝鮮を知多挑戦とか言ってたもん。知多半島はミサイル撃たないって、みんなクスクス笑ってたよ。それでも、みんな拍手して、とりあえず出発すれば、それでいいのよ」

「……で……でも……」

 完全に鮎美は怖じ気づいてしまい、椅子に座ったまま腰が抜けている様子だったので静江は抱きしめてみる。

「私が支えていてあげるから、ゆっくり立てみて」

「…っ……っ……無理……うち、もう無理……」

「鮎美ちゃん……」

 もう時間がない、さすがに静江が困ってしまった。代わって鷹姫が鮎美の前に立つ。

「石永さん、どいてください」

「宮本さん、どうするの?」

 静江の問いには、鷹姫の手刀が答えた。

 ベシッ!

 鮎美は脳天を打ち据えられた。

「しっかりなさい! ここまで来て泣き言を漏らして、どうなります!」

「ぅぅ……痛い……めっちゃ痛い……」

「痛いようにしたのです。目が覚めましたか?」

 頭蓋骨と手の衝突だったので鷹姫も痛かったけれど、それは顔に出さない。

「立ちなさい!」

 バン!

 今度は鮎美の背中を叩き、それでヨロヨロと鮎美が立ち上がると、お尻も叩いた。

「腰が引けています! もっと堂々と!!」

「…ぅぅ……鬼や……」

 ようやく鮎美は自分の脚で真っ直ぐに立った。

「歩いてみなさい」

「………」

 もう震えは止まり、鮎美は普通に歩けた。静江が落ちていた原稿を渡してくれる。

「読むだけですよ、頑張って」

「はい…」

「「行きましょう、芹沢先生」」

 静江と鷹姫が左右に立ち、鮎美を守るようにしてコンビニ建物を出た。ちょうど地域の自治会長が応援演説をしているところだったけれど、そもそも運悪く偶然に選挙の年に自治会長に当たってしまっただけの初老の元サラリーマンは用意してきた原稿を棒読みしていたので、聴衆も飽きてきていて一斉に鮎美へ注目してくる。その視線を静江は遮るように歩いて鮎美へ囁く。

「周りは見なくていいですよ。順番が来たら原稿を読むだけ。読んだら一礼して、あとは車で移動。それだけ、それだけです」

「……」

 鮎美は小さく頷いて、予行演習のときに決められていた立ち位置まで歩き、立ち止まると聴衆は見ずに少し上を向いて視線を固定した。静江と鷹姫は左右に立つ。

「制服が初々しいのう」

 誰かが囁いている。鮎美と鷹姫は学校の制服姿だった。聴衆たちは多くが平服で、演説した関係者などはスーツ姿、選挙の運動員たちはおそろいのオレンジ色の上着を羽織っている。もともと誰も聴いていなかった自治会長の演説は続いているものの、私語が飛び交う。

「あれが参議院のか」

「誰がやっても同じかもしれんけど、あれは…」

「大阪の子らしいで」

「あの制服は、どこの高校や?」

「ほれ、あれ、あの、私立の…えっと…」

「琵琶湖姉妹学園やろ。元シスター系で共学になった」

「そうそう、それ」

「役には立たんでも、自民のアイドルには使えるかもな」

「可愛らしい顔してはるし」

「アイドルに使えるなら、中年のおばはんにクジが当たるより良いかもな」

「たしかに。この地区も有名になるし」

「有名になってから、おかしなことしよると困りもんやぞ」

 口々に鮎美を見た感想を漏らしているけれど、鮎美は脳内で原稿を繰り返して聴かないことにする。

「次は参議院議員候補予定者の芹沢鮎美さんが鈴木先生のために駆けつけてくださいました。どうぞ、お願いします」

 順番が来て、まだ少し脳天が痛かった鮎美は緊張すること無く一礼してマイクを受け取った。

「はじめまして。ご紹介にあずかりました芹沢鮎美です」

 第一声から、うまく滑り出してくれたので静江は安堵したし、鷹姫も無表情のまま内心で微笑んだ。

「私が初めて鈴木先生にお会いしたのは忘れもしない。私の当選を祝って、わざわざ鬼々島まで駆けつけてくださったときのことです」

 忘れるどころか、知らんちゅーねん、と鮎美は何度原稿を読んでも思ったことを反芻した。たしかに、あの日、多数の自民党関係者が島に上陸していたので、その中に鈴木が居たのかもしれないけれど、まったく覚えていない。嘘はつきたくないのに、と思いつつも原稿を読み進める。

「鈴木先生の穏やかな人柄と揺るぎない信念を感じ…」

 鈴木はんはともかく久野先生と竹村先生は初対面でもオーラ感じたかも、と一介の市議と両院議長の差を思い返しつつ、鮎美は原稿を読み終える。

「鈴木先生のご健闘を心より祈念いたします。……」

 最期まで一言一句変えずに読み切った鮎美は物足りなさを感じて続けた。

「今日は用意された原稿を読むのが精一杯でしたけれど、いずれ自分の言葉で皆様に話したいと思います。そして、せっかく応援したんやから鈴木先生には、ぜひ当選してほしいですから! 皆さん清き一票をお願いします! うちも初めての投票を鈴木先生にさせてもらいます!」

 少なくとも鮎美自身の言葉が入った演説に対して、拍手が起こった。聴衆も慣れない演説を女子高生がやりきったことに心から拍手を送ったし、党関係者も安堵とともに大きな拍手をしている。鮎美は一礼してさがった。さがると、すぐに静江が手を引いて鮎美を車へ乗せる。

「芹沢さん、一言…」

 狙っていた報道関係者がマイクを向けてくるけれど、静江が強引に手を引くのでレポーターにぶつかってしまい、謝る。

「うっ、す、すんません。急ぎますんで」

「一言だけ今のお気持ちを…」

 まだ向けられてくるマイクを鷹姫が間合いに踏み込んで背中で遮った。鮎美と鷹姫が乗用車の後部席に乗り、静江が運転席へ急いで回る。静江にまで報道陣がカメラとマイクを向けているけれど、現職代議士の妹として慣れた対応で答える。

「すいません。次の会場へ急いでおりますので失礼します」

 出陣式の時間帯は本当に予定が押しているので静江は車を出す。少し走ってから、やっと安心のタメ息を漏らした。

「はぁぁ…初陣、無事終了ね。お疲れ様、鮎美ちゃん」

「あれで、よかったんやろか……」

「上出来よ。リップサービスも良かったし、堂々としていたわ」

「そっか……へへ…」

 鮎美も成功を実感して気の抜けた声で笑った。

「この調子なら立派な女子高生議員になりそうよ。弁も立ちそう」

「うちは口から生まれてきたと、よう言われますから」

「調子に乗りやすいのね。一時は、どうなることかと思ったけれど、宮本さんの存在も精神安定剤になってくれて、よかったわ」

「あれは痛かったわ……めちゃ思いっきり叩いたやん」

「腑抜けていたからです」

 鷹姫が言い、ちょうど信号で停車したので静江もハンドルを離して、物真似をして鮎美の先刻の様子を思い出させる。

「…あ……あかん……脚に力が…………で……でも………っ……っ……無理……うち、もう無理……」

「ちょっ、静江はんっ! やめてや!」

 鮎美が真っ赤になり、ずっと無表情だった鷹姫が失笑する。

「…くすっ…クスクス…フフ」

「う~! 笑わんといてよ! 鷹姫のアホ!」

「失礼いたしました。芹沢先生、クス…」

「く~っ…」

 鮎美が呻りながら鷹姫の腕をつかんで揺すっている。もう信号が青に変わったので静江はバックミラー越しに二人を見て言った。

「その様子なら次は平気そうね。原稿はある?」

「あります! あと、さっきのは忘れてくださいよ! もう物真似やめてや!」

「フフ。それは無理かな。お兄ちゃんの知多挑戦も、私の持ちネタだから」

「う~ッ……」

 恥ずかしくて呻っている鮎美を乗せて静江は5キロほど走り、鬼々島に近い地域の市街地にある会場で駐まった。そこでも市議選立候補者の出陣式が行われていて、また閉店したコンビニ跡だったけれど、建設会社の資材置き場も隣接していて、そこも駐車場として利用されており、今度は千人を超える人が集まっている。そのうちの半数は鬼々島の島民が舟で渡ってきているようだった。鮎美も知っている顔が多いし、鷹姫は生まれた時から島民なので、ほぼ全員の顔を知っている。三人が乗った車が近づくと拍手と文句で迎えられた。

「やっと、おでましか」

「なんで鈴木のとことフタマタがけなんじゃ」

「鈴木が危ないで使われたんやろ」

「ワシらの芹沢を勝手に回しおって」

「鮎美ちゃん、がんばってね!」

「コラコラ、芹沢先生って言わな」

「急げよ、茶谷先生が出発できんじゃろが」

 口々に色々と言われている中、鮎美は用意されているマイクの前まで急いだ。すぐに原稿を取り出して読み上げる。鈴木の時と同じく静江が用意したものだったけれど、鬼々島に近い地区の立候補者は元島民で三男だったので市街地に家を買った茶谷弘幸という男で52歳で2期務め、3期目を目指しており、原稿の内容もそれにそくしたものに変わっている。それを読み上げた鮎美は最期に一瞬だけ迷ったけれど、今回は自分の言葉を一切付け加えずに一礼して終わった。

「ま、無難に終えよったな」

「上等上等、あんなもんじゃろ」

「宮本の娘を秘書にしたらしいな」

「お友達内閣じゃな。ははは」

「あの子ならボディーガードには役立つかもしれんが、愛想のない子じゃからな」

「どうせクジが当たるなら大阪から来た子より、島の子に当たりゃよかったに」

 また色々なことを言われているけれど、鮎美は茶谷と握手しているので気づいていない。鷹姫は聴こえていたけれど、愛想のない子と言われるのには慣れきっているので何とも思わず、無表情で拍手している。司会進行役がマイクを握った。

「茶谷先生が出発されます! 皆さん、お見送りのほど、よろしくお願いします!」

 鮎美との握手を終えた茶谷が選挙カーの助手席に乗り込むと、ウグイス嬢が連呼を始める。

「茶谷弘幸でございます。茶谷弘幸、これから出発いたします。みなさま方の温かい声援をいただき、茶谷弘幸はこれからの選挙戦を戦い抜きます。茶谷弘幸、茶谷弘幸でございます」

 ゆっくりと選挙カーが動き出し、茶谷は助手席の窓から身を乗り出して会場にいる支持者たちへ手を振り去っていった。次の瞬間には、ここにも待ち伏せていた多数の報道陣が鮎美を囲んでくる。

「芹沢さん、高校生で議員となられること、どう思われますか?」

「今の気持ちを一言お願いします!」

「なぜ、所属政党に自民党を選ばれたのですか?」

 矢継ぎ早の質問攻めに鮎美は打ち合わせ通り、別の原稿を出して答える。

「私、芹沢鮎美はこの度、参議院議員候補予定者に選出されました。このことに最初は大きく戸惑い、どうすべきか深く考え、思い悩みました。あまりに若すぎるのではないか、これは皆さんもご心配される通りです。けれど、与えられた機会に背を向け、逃げ出すことも最善とは思えず、どこまで国民全体のため役立つことができるかはわかりませんが全力で務めていきたいと考え、お受けいたしております。これから学ぶことは山積しており軽々ご質問などには答えられませんこと、お詫び申し上げます」

 鮎美が一礼すると、静江と鷹姫が守るように左右から報道陣との間に入る。その鷹姫にもマイクが向けられた。

「秘書に指名された芹沢さんのご友人ですか?」

「………」

 何も答えなくていいと静江から指導されている鷹姫は剣道試合で相手を見据えるように構えた。その隙のない、そして動じない態度で鷹姫の経歴を思い出した別のレポーターが横から質問してくる。

「剣道の全国大会で優勝された宮本鷹姫さんですよね?」

「………」

 また鷹姫が相手を見据えているけれど、急いで静江が対応する。

「彼女もまだ勉強中ですから。これから他の候補者の事務所へも回りますので。もう失礼いたします」

 取材を打ち切って再び車に乗った。移動する車内で、やっと鮎美も鷹姫も安心して息をつく。

「はぁぁ…」

「ふー…」

「お疲れ様。まあ、あの人たちも今日のところは、あれで記事が書けるでしょう」

「疲れたわぁ」

 ぐったりと鮎美が隣にいる鷹姫へ身をもたれさせる。鷹姫も鮎美の方へ重心をよせて答える。

「…ええ……疲れました……私は何もしていないのに」

「宮本さんは役立ってるよ。いい感じに」

「……そうですか……」

「二人ともお疲れみたいだから、ちょっと休憩しましょう。どうせ、今のタイミングだと、どの事務所に顔を出しても候補者は出払っているから、お昼前後に回ることにして」

「あと7件か……自民党の候補は、全部回らないと、あかんのや……」

「お兄ちゃんや雄琴先生は無所属の候補のところへも顔を出してるよ」

「「………」」

「とりあえず、鮎美ちゃんは自民だけでいいから頑張って」

 そう言った静江はドライブスルーのあるコーヒー店で三人分の飲み物を買い、ショッピングセンターの立体駐車場で人目と日差しを避けて休憩させてくれた。

「そういえば、鮎美ちゃん、二回目は原稿通りで、ぜんぜんアレンジしなかったね。どうして?」

 静江がアイスコーヒーをストローで吸いながら訊いてきた。鮎美はアイスミルクティーを味わってから答える。

「なんとなく……っていうか、とっさに鈴木はんのときと同じことを言いそうになったんやけど、うちは鈴木はんに投票するって言うてしもたから、同じことは言えんと思て」

「あ~……なるほどぉ……」

 冷たい物を飲んだせいか、静江は少し頭を押さえてから鮎美に言っておく。

「鮎美ちゃんが誰に投票するのかは、もう言わない方がいいよ」

「そうなんや?」

「うん、一応ね、票割りでは鬼々島の住民は全員が茶谷先生に投票することになってるから」

「「………」」

「宮本さんも、まだ聞いてなかったみたいね」

「はい……」

「静江はん、投票って自由なんちゃうの?」

「自由だよ。だから、たぶん鬼々島の人も1割くらいは革新系に入れてるんじゃないかな。でも9割は自民。だから自民も鬼々島の地域振興には本気でかかる」

「……もちつ、もたれつなんや……」

「ともかく鮎美ちゃんは茶谷先生に入れるような顔しておいて。鈴木先生に会うことがあったら鈴木先生に入れるような顔もして」

「………またフタマタ………はぁぁ……自民同士やん」

「六角市は市長が民主党で自民もつらいからピリピリしてるの。いろいろ言動には気をつけてね」

「…はーい……」

 重い返事をして鮎美は目を閉じた。お昼時になって他の自民党候補者へ挨拶と激励をすべく選挙事務所を回り、本日のノルマを果たすと、ぐったりと疲れた。

 

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