「女子高生総理・芹沢鮎美の苦悩」   作:高尾のり子

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6月~夏休み 同室

 静江は三人でビジネスホテルに予約を入れるとき、ごく常識的に歳の離れた自分をシングルに、秘書と議員予定者といっても、もともとは友人関係で、いまだ高校生である鷹姫と鮎美をツインの部屋にしたし、それを鷹姫も普通のことだと感じていて、何一つ特別なことは感じなかったけれど、鮎美だけは市議選の結果以上に気にしていた。静江の部屋は6階だったのでエレベーターで別れ、鷹姫と鮎美は7階で降りて廊下を進む。

「703、ここです」

 鷹姫が静江から受け取った鍵で客室の扉を開けた。

「どうぞ、芹沢先生」

「……もう、二人っきりなんやから、先生はいらんよ」

「そうですね、では早く入りなさい。芹沢」

「ぅ~……いきなり目線が上下するんやね」

 選挙戦の間に他人がいるところでは秘書として振る舞うことが板に付いてきた鷹姫が、ただの友人として呼び捨てにしてくると、鮎美は緊張しながら前から言いたかったことを言ってみる。

「二人の時は鮎美って呼んでくれへん?」

 拒否されたら悲しいし、なんとか、そう呼んでもらうための理屈もいくつか考えていたけれど、鮎美に続いて客室に入った鷹姫は頷いた。

「わかりました」

「……あっさり承知するんやね」

「何か意味のあることなのですか? 鮎美と芹沢に、どんな違いが?」

「え、えっと……それは…」

 そう呼んでほしいから、とは答えにくいので鮎美は現在の立場を利用する。

「それはな、うっかり二人っきりやないときに、芹沢って秘書が呼び捨てにしてたら周りが変に思うやん? けど、鮎美やったら周りも、ああ二人は友達やったね、と思うだけで終わるから」

「そうですか、わかりました。そういうことなら、そうします」

 鷹姫が素直に納得しているので、鮎美は荷物を置く前に問う。

「窓際と奥のベッド、どっちがええ?」

「どちらでも、かまいません」

「ほな、このまま」

 入室した順番による立ち位置で鮎美が窓際のベッドに座り、鷹姫は奥のベッドになる。

「あ~疲れたわぁ」

「ええ、本当に疲れました」

「お、お風呂、どうする? どっちが先に入る? そ、それとも、いっしょに入る?」

「お先に、どうぞ」

「う……うん……おおきに」

 うっかり口走ってしまったことを後悔しつつ鮎美はバスルームに入った。シャワーを出しながら一人言を漏らす。

「変に想われたかな……つい言ってしもた。……こんな狭いビジネスホテルの風呂に、いっしょにって……ありえへんのに……」

 制服を脱ぐのも苦労するほど狭い空間で裸になり、バスに入るとシャワーを浴びる。もう遅い時間なので髪と身体を急いで洗ったけれど、しっかりと入念に汗と垢を流した。歯を磨いて備え付けの浴衣を着て、額の汗を拭きつつ客室に戻った。

「お先です」

 鮎美の声には返事が無くて、鷹姫の寝息だけが聞こえた。見ると、制服を着たままベッドに突っ伏して寝ている。

「そらそうやな、朝一から、この時間までやもん」

 鮎美は髪を拭きつつ、ベッドに座り鷹姫の寝顔を見つめる。もう熟睡に入っているようで全身から力が抜けていた。鮎美が髪を乾かし終わっても、まだ眠っている。このまま朝まで眠ってしまいそうな様子だったので鮎美が迷う。

「お風呂に入らんと気持ち悪いやろ……どないしよ、起こすのも、かわいそうやけど、このままも、かわいそうや」

 もう日付が変わり月曜日になっている。朝になれば静江が高校まで送ってくれる予定で、その朝に余裕があるとも限らない。

「せめて靴くらい脱ぎぃや」

 鷹姫は少し休憩するつもりで横になった直後に眠ってしまったようで、靴も履いたままだったので、そっと静かに鮎美は靴を脱がせてやった。

「…………」

 学校指定の紺色の靴下が汗で湿っているのに、つい触れてしまうと鷹姫は少し足を引っ込めた。

「ごめん、くすぐったかった? …………靴下も脱がしてあげよか?」

 その問いに返事はなかったけれど、このまま寝てしまうにしても入浴するにしても脱がせておこうと想い、鮎美は両手で鷹姫の靴下をさげる。

「………」

 剣道の達人らしく鷹姫の足の裏は硬そうだけれど、指の一本一本はキレイな形をしていて、鮎美は口の中に唾液が湧いた。この足の指を吸ってみたいという衝動が脳髄の奥から湧いてきて、鮎美を突き動かそうとするけれど、かろうじで踏みとどまった。

「……うち、何を考えてるねん……変態やん……」

 脱がせた靴下をそろえて置いてから、鷹姫の足に触れていた自分の手先を唇に触れさせた。かすかに鷹姫の匂いがして、それを感じると脳が蕩けた。

「…………。なあ、制服を着たまま寝るのは苦しいやろ? 脱がせよか?」

「…ん~…」

 返事なのか、寝言なのか、肯定なのか、否定なのか、どうとでも取れる声を鷹姫が漏らしたので、鮎美は自分の疲労感は、まったく忘れてしまい、鷹姫の胸のボタンを外していく。一つ、二つ、三つ、されるがまま鷹姫は眠っている。胸元から立ち上ってくる鷹姫の匂いを嗅ぐと、鮎美は自分の頭と下腹部が異常に熱くなるのを感じた。

「ほら、袖を通し」

「……」

 鷹姫はブラウスを脱がされても目を閉じている。鮎美はブラジャーへも手を伸ばした。

「ブラも脱がせるよ」

 返事は寝息だったけれど、鷹姫を上半身裸にした。薄暗いホテルの照明の下で、鷹姫の乳首を見た鮎美は前後の見境を無くした。もう理性は消し飛び、乳首を咥えて吸った。吸いながらスカートまで脱がせていく。

「ハァ…ハァ…」

 乳首だけでなく鎖骨へも、うなじへも舌を這わせて舐め回した。塩味がしたけれど、とても甘美に感じて舐め続ける。

「ハァ…ハァ…」

「…んっ…」

 鷹姫が目を開けた。

「っ…」

 鮎美はドキリとして固まる。夢中で舐めていて、何も考えていなかった。けれど、鷹姫と目が合うと冷水を浴びせられたように固まり、そして怖くなる。

「…」

「…」

 怒鳴られるか、泣き出されるか、罵られ軽蔑されるか、それとも一言の罵倒もなく絶縁され二度と口をきいてもらえないかもしれない、悪い想像ばかり湧いてくる。

「…」

「…」

 すぐに拒絶されると怯えたのに、鷹姫が何も言わないでいると逆に希望的観測に惹かれる。鷹姫が微笑んで抱きしめてくれるかもしれない、実は鷹姫も前から想っていてくれたのかもしれない、そんな都合のいい期待もしたけれど、鷹姫の反応は鮎美の予想外だった。

「…」

 鷹姫は邪魔そうに鮎美の顔を手で押しのけると、ポンポンと頭を叩いて、一人で寝ていなさい、とばかりに鮎美へ背中を向けて寝返りして、また眠った。

「………」

 鷹姫の寝息が聞こえる。そして、鷹姫の裸の背中が見える。

「…………」

 その愛しい背中を見ていると、寄り添いたくなり鮎美は浴衣を脱いで身体をくっつけた。

「……」

 こうしてるだけで最高に幸せやから、と満足しようと考えたのに、すぐに飽き足らなくなり後ろから鷹姫のうなじや耳の匂いを嗅ぎ、さらに唇をあてる。唇をあてると、舐めたくなって、舐めた。

「…ん~…」

 鷹姫が、また寝返りして逃げる。それを追って手首を捕まえ、腕をあげさせると腋も舐めた。強い塩味がして鮎美は恍惚とする。

「…ハァ…ハァ…」

「ん~…くすぐったい……いい加減にしなさい…」

 また鷹姫が邪魔そうに鮎美の顔を押しのける。

「………」

 押しのけられて様子を見ると、鷹姫は起きたわけではなくて眠りが浅くなっただけだった。鮎美は少しだけ自重して、また鷹姫の眠りが深くなったのを感じると、唇と舌で鷹姫に触れる。何度か鷹姫は押しのけたり逃げたりしたけれど、そのうち諦めたように抵抗しなくなったので鮎美は窓の外が明るくなるまで衝動のままに過ごした。

 ピピピ! ピピ!

 鮎美のスマートフォンが鳴って欲しくなかったのにセットしていた時刻通りに無粋な音を立て、鷹姫の眠りが浅くなる。

「ん~……」

 つらそうに鷹姫は目を開け、そばにいた鮎美を見る。二人とも裸だった。

「……なぜ、あなたは裸なのですか? ………私も……」

「あ……えっと……うちは風呂揚がりで、そのまま寝てしもて。鷹姫は、うちが脱がせてあげたんよ。お風呂に入りぃって。やのに、あんたも寝てしまうし。もう時間無いし、シャワー浴びてきぃ」

「……そうですか……はい……そうします」

 まだ眠そうに鷹姫はフラフラと立ち、バスルームへ向かう。狭いバスルームに入ると、自分の身体の匂いを認識した。

「…ぅっ…臭い……夕べ、そのまま寝たとはいえ……これでは緑野が茶化すのも、わからなくもない……周りの人も不快かも……。それにしても………眠い」

 いつもなら朝稽古のために、すっきりと起きられるのに鷹姫は寝惚けた頭でシャワーを浴び、制服に着替えてから朝食のためにホテル二階のレストランへ鮎美と降りた。決めていた時間通りだったので、すぐに静江と合流してテーブルに着く。よくあるビジネスホテルの食べ放題の朝食を摂りながら、鷹姫がアクビを噛み殺しているのに静江が気づいた。

「お疲れみたいね。寝不足?」

「はい、夕べ、よく眠れなかったというか、変な夢を見てしまい、どうにも眠った気がしないのです」

「選挙の夢でも見たの?」

「いえ、もっと変な夢でした」

「そ、そうなんや。どんな夢を見たん?」

 鮎美もホウレン草を喉につまらせそうになりつつ飲み込み、問うた。鷹姫は記憶を手繰り寄せつつ答える。

「はっきりとは覚えていないのですが……人ほどもある大きな黒い犬のような生き物……サラサラとした毛をした耳の長い犬のような……それが、私に覆い被さってきてペロペロと舐めてくるので、人なつっこいのはいいのですが夢の中の私も眠くて眠くて仕方ないのに、しつこく舐めてくるものですから、何度も押しのけたのです。それでも、何度も舐めてくるので、しまいには眠さが勝ってしまい、もうさせるがままにしておいたのですが、どうにも眠りが浅かったというか、寝た気がしないのです」

「人間ほどある犬に、覆い被さられ舐められるねぇ。フフ」

 静江が意味ありげに微笑んで問う。

「宮本さん、欲求不満なんじゃないの?」

「そうかもしれません。かなり身体がうずきますから」

「「………」」

「このところ満足な稽古もできず運動不足ですから」

「そっちね……」

「そっちなんや……」

「他に何があるのですか?」

「ううん、何でもない。これ以上は高校生には言えないわ」

 朝食を終えて静江は二人の高校生を学校まで車で送った。

「着いたわよ。……爆睡ね」

 後部シートで鷹姫も鮎美も、ぐっすりと眠っていたので起こすのが可哀想だった。

 

 

 

 夏休みに入り、鮎美と鷹姫は朝から自民党支部で勉強していた。鮎美がタメ息をつく。

「はぁぁ……勉強勉強の日々かいな……」

「座学ばかりでは身体がなまります。鮎美も朝稽古に参加しては、どうですか?」

「あんな激しい練習の後に、しっかり勉強できる、あんたはえらいわ」

 鮎美は一切の興味が湧かない六角市道路整備計画の冊子をパラパラとめくった。大まかにでも頭に入れておけ、と言われているけれど、そもそも自動車を運転した経験がないのでピンとこない。

「まあ、学校のみんなも興味のない科目でも頑張って受験勉強してるんやから、うちも頑張らなあかんのはわかるけど」

 そう言って鮎美は興味をもっているNPO法人ライフイージスが送ってきた冊子を読む。遺伝子診断や社会の多様性について書かれている。

「……生まれつきの障碍も難しいなぁ……性同一性障碍の保険適応も……健保って、いわば公金やし……」

「芹沢先生、その分野の問題は不用意な発言は絶対にしないでくださいね」

 静江が資料を整理しつつ念押ししてくる。今は他の党員も出入りする支部にいるので、呼び方は鮎美ちゃんではなかった。

「はいはい。………けど、自民党としては多様な結婚って、どう考えてはるん?」

「なお慎重な議論を要する、よ」

「先送りかぁ……」

 もう言葉の言い回しの真意がわかるようになってきた鮎美がタバコの煙で汚れた天井を見上げていると、直樹が冷たいミルクティーのペットボトルを額に置いてきた。

「クールダウンに、どうぞ。芹沢先生」

「おおきに。雄琴先生」

「何を読んでいたんだい? 同性愛者の結婚? また、変わった分野のことを……」

「雄琴先生は、どう思う?」

「ふむ、どうでもいい」

「………。国民の代表やろ、任期中、現役の」

「したい人たちは勝手にすればいいさ。ボクには理解できないね」

「少数者の権利ってのもあるやん?」

「そういうときは憲法に立ち戻ると。結婚については、えっと、何条だったかな…」

 直樹が思い出せずにいると、鷹姫が六法全書を必要なページを開いてから渡してくれる。

「雄琴先生、どうぞ」

「ありがとう。君は優秀だね。あ、これこれ、第24条、家族生活における個人の尊厳と両性の平等、1婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。2配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。さて、この条文を素直に読めば、両性、すなわち男と女を想定しているよね、次に夫婦ともある」

「……。そういえば憲法にあるんやった……」

「そんなに残念そうな顔をするなら……そうだね、また解釈次第で、なんとか余地は作れるかもしれない。たとえば、性同一性障碍があって性転換した後なら、以前は同性であっても問題なく結婚できるだろうね。生物学的、医学的にはともかく憲法上は両性だろう」

「ほな同性愛者は?」

「9条と同じく強引に解釈して、第二項の配偶者の選択に関して個人の尊厳と両性の本質的平等を謳っているところから、二人の個々人の尊厳によって選択することは自由で、どうせ本質的に平等なんだから異性だろうと同性だろうと、いいんじゃないか? って風に考える手もあるかな」

「なるほど……」

 鮎美が感心していると静江が怒る。

「雄琴先生、9条解釈を強引とか言わないでください。あと、解釈次第で憲法なんか、どうとでもなるって思考を勉強中の芹沢先生に吹き込まないでください」

「ごめんごめん」

 直樹は笑顔で謝り、両手をあげて降参というポーズをとったけれど、笑顔から真顔になると断言する。

「どのみちボクに言わせれば、異常性愛者なんて、すべて滅するべきだね」

「「………」」

 その発言で鮎美と静江は彼の妹が小児性愛者に惨殺されたことを思い出したけれど、鷹姫は知らず、話題に興味が無さそうに与えられた資料をめくっている。県北部のダム建設についての資料で、こちらへも興味はもっていないものの与えられた課題なので理解に努めている様子だった。直樹は話を続けている。

「小児性愛だろうと、同性愛だろうと、そんな気持ちの悪い連中はジェノサイドしてやりたいね」

「雄琴先生、言葉は選びましょう」

「ああ、そうだね。人権ってことを考えるなら、せめて治療として、そういう頭のいかれた連中の脳の、その部分だけ重粒子線で焼いてやればいい。癌治療みたいにね。いっそ保険適応してやれば、そういう犯罪者を捜査し収監し処罰する経費も浮くし、被害者も出ない。最高じゃないか」

「……。せやけど、ロリコンと同性愛は別の問題やないですか?」

 鮎美が恐る恐る問うと、直樹は微笑してから室内の照明をすべて消した。おかげで窓から入ってくる外の日差しだけになり、室内の雰囲気が変わり怪談話でもするような気配で直樹は中央に座った。

「これはアメリカで起こった同性愛者による犯罪の話だよ」

「「………」」

 静江と鮎美が聞きたいような、聞きたくないような顔で黙って傾聴し、鷹姫も暗くて資料が読めなくなったので諦めて直樹を見る。

「飽食のロバートと逮捕後に呼ばれるようになったロバート・エリクソンは主にネバネバダ州で殺人を繰り返した。手口は、こうだ。海外派兵されていた海兵隊員の帰還時期を狙って基地の近くを車で通りかかる。何度か通れば必ずといっていいほど、帰宅の足を求めてヒッチハイクする男性隊員がいる。治安がいいとはいいにくいアメリカであっても、女性は用心するものの、男性はヒッチハイクをするのに、さほど用心しない。まして、海兵隊員だ。それなりの屈強さはあるし武器の扱いにも慣れてる上、近接格闘術だって習ってる。ヒッチハイク狙いの強盗だって、わざわざ狩りにくい獲物は狙わないだろうし、国家に貢献した帰還後だからね、親切にしてもらうことを期待したとしても、そう彼を責められはしないさ。むしろ、哀れな被害者になる」

「「「…………」」」

「ロバートは拾った男性を助手席に座らせて車を走らせながら、こう勧める。後部シートにマーケットで買ったビールがある好きなだけ呑んでくれ、と。たいていの被害者は、なんて親切な紳士なんだと喜んでビールを口にした。中には、どうして、そこまで親切にしてくれるんだ? と慎重な質問をした男もいた。そういう男にロバートは言った。私の甥はベトナムから帰ってビールを呑むことができなかった。アーリントンの墓石にビールをかけるより、お前さんに呑んでもらう方が、よっぽど嬉しいさ、と。ここまで言われると99%の被害者候補はビールを口にした。わずかに被害をまぬがれ、無事に目的地でおろしてもらった者は、たった3人。宗教的理由で、どうにも飲酒ができない者と体質的にアルコールを受け付けない者だけだった」

「……ビールに何か入ってたん?」

 鮎美が焦れて話の先を促した。

「よく効く睡眠薬がね。こうした犯罪に使われるので最近では手に入りにくいけれど、当時は簡単に処方されていた。本国に帰還した兵士だ、戦地と違い安心しているさ。ビールを呑んで眠くなっても、それは疲れだと思ったろう。けれど、目が覚めたときは手錠と鎖で自由を奪われた状態で車は森の中だ。そして、ロバートは自らの歪んだ性欲を満たした」

「「「………」」」

 鮎美と静江は、ここまで聞いたので最後まで聞いておきたくて黙り、鷹姫は暗さに目が慣れてきたのでダム建設の資料をめくった。

「飽食のロバートは同性愛者であり食人鬼だった。カニバリズムと言った方がわかりやすいかな。彼の脳内では食欲と性欲の区別が曖昧だったのか、混同されているのか、哀れな被害者は動けぬまま、その肉を食いちぎられ、失血死するまで苦しんだそうだよ、そのときのことをロバートは自供するとき喜々として語ったそうだ。屈強な隊員が泣き叫んで母さん、母さんと助けを求める瞬間が最高だとね」

「「…………」」

 鮎美と静江は気分が悪くなり、鷹姫は県北部にダムは要らないような気がしたけれど、それは個人の見解として言わないことにして、次に新幹線新駅の資料を開いている。

「実に三百人以上の被害者を生んだ連続殺人事件の発覚が、あまりにも遅れたのはロバートが肉をすべて食べてしまい、骨を焼いていたこともあるけれど、帰還したはずの海兵隊員が帰宅しなくても誘拐されたとは考えず、戦地での体験から精神的に病み、次の勤務を恐れて逃げたのではないか、と考えられたためで、まさか性犯罪の犠牲になっているとは家族も捜査当局も考えなかったからだ」

「そろそろ…」

 静江が夏休みの怪談話の雰囲気から本来の業務に戻ろうとしたけれど、直樹は続ける。

「この話には、まだ続きがあってね。当然、ロバートは極刑に処されることになった。薬物による安楽死という手ぬるい方法で。けど、問題なのは、そこじゃない。ネバネバダ州には死刑囚へ最期の晩餐を選ぶ権利が与えられていた。何でも好きな物を最期に喰わせてやろうというフザけた法律があってね。普通、それらは巨大なハンバーガーだったり、ワインとステーキだったり、山盛りのフライドチキンだったり、ピザやポテトだったりしたさ。好物を頼むわけだ。そして、ロバートが頼んだのも、彼の好物だった。当局が、どうやって、それを用意したのかは謎だけれど、やはり彼にも、その法律が適応され、望む肉を与えられてから、安楽死したそうだよ。享年54歳。奪った人命の数は三百余、だいたい20代の筋肉質な男性だった」

 直樹が話を終え、照明をつけた。

「さて、少数者の権利だか何だか知らないけど、多数の被害者を生む異常性愛者に、どんな権利があるっていうのか、まったくボクにはわからないね。ヤツらは駆除すべき害虫だよ」

「「「………」」」

「とくに許し難いのはヤツらは人の善意につけ込むところさ。このロバートは甥の話を作って帰還兵の同情と油断を誘った。うちの妹だって車イスの娘が入れるトイレを探しているから近くにあれば案内してほしいと言われて、わざわざ等身大の子供のリアルな人形と車イスまで後部シートに載せていれば信じてしまうさ。そうやって他人の善意を踏みにじって自分の欲望を満たす、もはや人の皮をかぶった悪魔だよ」

「……………」

 鮎美が青ざめて視線を彷徨わせると、静江は意図して話を変える。

「雄琴先生、そろそろ勉強に戻らせてもらいますね」

「あ……ああ、すまない。……つい長話を」

 やや我を忘れていた直樹は短く謝った。静江が鮎美の前にダム建設についての資料を置き、簡単に概要を説明する。それで鮎美も気を取り直し、内容を把握すると率直につぶやいた。

「……このダム、やっぱり要らんのちゃう?」

「芹沢先生」

 静江が怖い顔で微笑しているので、鮎美は意見を変える。

「はい。どうぞ建設してください。めちゃ役に立つと思います」

「ははは、すっかり教育されてるね。けど、議論を深めておかないと、ただのイエスマンでは困ることもあるよ。正直、ボクも、このダムの必要性は疑問視している」

「雄琴先生、また、そうやって…」

「たしかに水害対策は必要だろうけど、もっとも危険なのは下流の低地に住んでいる500世帯だろう。その500世帯二千数百人のために、260億円のダムが建設される。1世帯あたり5200万円も投下されるなら、いっそ移住させるべきだよ、ダムが建設される山村を移住させるよりね」

「もう山村の移住は終わっていますから」

「今さら止められない、ってやつだね。たしか、新幹線の新駅も用地買収は終わってたっけ?」

「はい、すべての地主から土地を買い上げています」

「これも今さら、やめられないだろうね。井伊市の方では、党の一部まで反対を公言してるけど」

「え? 自民党やのに、反対してはるんですか? おおっぴらに?」

「井伊市には東海道新幹線開業の頃から駅があるのは知ってるよね」

「はい、一応」

「その井伊駅から40キロ京都よりに新駅を造れば、当然に井伊駅の乗降客は少し減る。六角市から東京へ行く人は今まで通り井伊駅を使ってくれるだろうけど、新駅ができる三上市の人は当然として県南部の何割かは井伊駅ではなく新駅を使うだろう。これは井伊市にとっては損失だ。だから、自民党議員が反対したとしても党員も市民も頷いてくれる。党本部も仕方ないな、って顔して黙認さ」

「え~……ほな、県全体の発展とかは?」

「市議は市の発展を考えるけれど、県議や衆議院議員には県内で分轄された選挙区があって一番に考えるのは選挙区の利益になるんだよ。だから井伊市を選挙区にもつ議員は新駅建設に積極的でないし、三上市を選挙区にもつ議員は血眼になって建設しようとする。結果、自民党議員であっても井伊市に基盤がある人は新駅反対だし、逆に民主党議員であっても三上市に基盤がある人は新駅に賛成したりする。一本気な共産党だけは三上市から立候補していても新駅反対だったりするけど、当選しなかったりする」

「……。県全体として必要か、不要かを考えんの?」

「実は、それを考えるのに、もっとも適した選挙区をもっているのは県知事とボクら参議院議員さ。知事もボクらも県全体を一つの選挙区としている」

「選挙区かぁ……まあ民意の反映ちゃー反映なんかなぁ……」

「それでもボクは井伊市民だからね。ちょっと北部よりになる。六角市は、だいたい中央だから芹沢鮎美の見解は下手をしたら県政の分水嶺になるかもしれないね」

「うっ……プレッシャーを…」

「実際、ボクのところにも知事選に向けて反対派からのアプローチが多い。民主党も含めてね」

「そうなんや? 会わはるん? そういう人らと」

「ボクは任期中だからね、面談を求められれば党や意見の異なる人たちとも時間の許す限り会わないと」

「うちにも、いろいろ陳情くるし……任期が始まったら、もっと容赦ないんか……」

「そうだよ、おかげで、たまに、いろいろな問題が、どうでもよくなることがある」

「雄琴はん……それを言ーたら、おしまいやん」

「ああ、だから気をつけてるよ。ちなみに井伊市民として新駅の欠点を教えておくならば、まず井伊駅と違い新駅は在来のローカル線に接続しない。新駅と在来駅は500メートルも離れていて歩くには、きつい。おまけに京都より以西へ行くなら、京都か新大阪で乗り換えることになるから、今まで通りの在来線で行っても、たいして時間は変わらない。なのに、建設費は330億円と同規模の平均的な新幹線駅の2.6倍を計上してる。おまけに請願駅だからJRは一円も出さないし、JRとしては採算性を疑問視しているのかもしれない。さて、それでも造るのか、しかも県全体の借金で、となる」

「つまり、反対なんやね。県の北部は」

「けど、北部は北部でダムを造ってもらう予定だ」

「………お金の引っ張り合いやん。しかも一部の利益のための」

「政治の本質は予算の引っ張り合いだよ」

「……………やばい……うちも、いろいろな問題が、どうでもよくなって……」

「雄琴先生! 芹沢先生のやる気を奪うならポスター貼りでもしてきてください!」

 静江が直樹を追い出して、しばらく勉強させて昼過ぎになると車で市内の料理店に移動した。

「今日は、お兄ちゃんがおごってくれるって」

「合法的な範囲で?」

「鮎美ちゃん、発言は軽いのに、そこは気にするのね」

「お金の問題って一番失敗しそうですやん」

「いい心がけね。金と女、これが一番失敗するから、まあ鮎美ちゃんが女で失敗することはないとして、変な男と付き合うのはやめてね」

「…はい…」

「石永さん、私まで連れてこられても……」

 鷹姫は料理店が市内の有名店で高そうだったので戸惑っている。

「あ、今回は気にしないで。普通、議員同士が会食するとき、秘書は同席しないけど、私とお兄ちゃんの関係もあるし、宮本さんは鮎美ちゃんとも友達だから、こういう店の雰囲気も知っておいて。これも勉強」

「はい」

 三人が話していると、静江の兄も入店してきた。若い衆議院議員らしく青みがかったスーツを着ていて逞しい体格と日焼けした顔をしている兄の石永は2期目の二世議員で父は大臣まで務めている。

「やあ、芹沢さん。久しぶりに、お会いできて嬉しいよ」

「こちらこそ、本日はお招きに預かり光栄です。石永先生におかれては、ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます」

 鮎美が挨拶し、鷹姫も頭を下げると、石永は気さくに笑った。

「ちゃんとした挨拶も大事だけど、そうかしこまらないで気楽にしてくれていいよ」

「そう言うてくれはるんでしたら、そうさせてもらいます」

 もう何度も会っている仲なので鮎美も緊張せず、予約していた個室に入って会食する。琵琶牛のランチコースを食べながら、石永が言う。

「芹沢さんは危機管理については、どこまで考えたことがあるかな?」

「危機管理ですか……」

 あまり知識のない分野だった。静江が兄に言っておく。

「男って、すぐ自分が得意な話にもっていこうとする。お兄ちゃん、地元市民への報告会でも防衛と危機管理の話ばっかりで、もっと市民生活にそくした話をしなさいって御蘇松知事にも怒られてたでしょ」

「お前は黙ってろ」

 石永が妹にヘッドロックをかけた。

「「……」」

 鮎美と鷹姫が驚いていると、静江はヘッドロックから抜けるために肘打ちを兄のわき腹に入れた。

「ぐふっ……く! やるな。飯時に腹を狙うとは」

「フフフ、先に仕掛けたのは、そっちよ」

 静江と石永がプロレスの構えを取ったので、ますます鮎美と鷹姫が驚く。それに気づいて静江が構えを解いた。

「お兄ちゃんのバカ。二人があきれてるでしょ」

「すまない。つい…」

「ごめんね、お兄ちゃんプロレスバカだから」

「お前もだろ」

 どういう兄妹関係なのか、だいたいわかったので鮎美は気楽に座り直した。そして話題を戻す。

「えっと、危機管理の話でしたよね。石永先生」

「ああ」

「付き合わなくていいわよ。知多半島はミサイル撃たないし」

「お前、家に帰ったら絞めるからな」

「フフン。できるかしらね」

「仲のええ兄妹で、よろしいですね」

「……美味しい……」

 話の流れとは、まったく別に鷹姫は一口食べた琵琶牛のしぐれ煮が美味しすぎて思わずつぶやいていた。それで静江が冷静になる。

「ごめん、ごめん、まあ、今日の目的はお兄ちゃんと鮎美ちゃんの親善だから気楽でいいんだけど、あんまりハメを外しすぎるのもよくないね。どうぞ、お兄ちゃんの政治的見解ってやつを披露してくださいな」

「まったく、お前は……。まあ、けど、芹沢さんの評判もいいし、うまく教育役をしてくれてるみたいだな。ありがとう、静江」

 石永も気を取り直して語る。

「国において、もっとも大切なことの一つは危機管理なんだ。日本を取り巻く環境の中で、懸念すべきことは何だと思う?」

「えっと……北朝鮮問題なんかですか」

「そう。他には?」

「他……と、言われても……」

「君たち高校生は、あまり知らされていないけれど、中国やロシアも十分に脅威だよ」

「そうなんですか……」

「宮本さんは剣道が強いんだって?」

「はい」

「せやから、謙遜とか覚えいて!」

「ははは。面白いね。つっこみのタイミングが、さすが大阪出身」

「そんなんで誉められても嬉しいぃないです。鷹姫の剣道は本物やけど」

「では、宮本さんは戦いの観点から、現在の日米、ロシア、中国、韓国、北朝鮮、台湾、東南アジアの関係を、どう感じる?」

「…………」

 鷹姫が黙って考え込み、答える。

「攻め入るべき大義名分のない竦み状態です」

「ほお、さすが」

 石永の目が鮎美より鷹姫に興味をもった。

「では、現状の打開策は?」

「………。打開のために動くより、静を保ち現状を維持しつつ、兵と刀を鍛えるべき時期です」

「うむ、いいね。宮本さん、いいよ」

「宮本さん、それお兄ちゃんの前ではいいけど、よそで言わないでね。自衛隊は兵じゃないからね」

 静江は抑えるけれど、兄は言ってみたいことを言った。

「自民党の中でも極端な意見にはなるけれど、個人的には日本も核武装すべきではないかと考えているんだ」

「………」

「核って……」

「お二人は、どう思う?」

「……………」

 鷹姫が考え込む間に鮎美が答える。

「それは、ありえんでしょ」

「なぜ?」

「なんでって……無茶というか、無理っちゅーか……9条もあるし」

「もし、9条がなければ?」

「う~……それでも……広島長崎のこともあるし……」

「むしろ、その二度の体験こそが、二度と撃たれたくないという核武装への動機にならないかな? 今だって日本を、東京を、狙っているミサイルはある」

「……それは、……」

「単純な話だよ。向こうが真剣を持っているのに、こちらが竹刀では勝負にならない」

「せやからって……」

 鮎美の反応が、ごく普通の女子高生の範囲で予想内だったので石永は鷹姫に期待した。

「宮本さんは、どう考える?」

「いくつもの条件がありますが、日本も核を持つべきでしょう」

「おお…」

「「え~…」」

 石永が嬉しそうに、鮎美と静江が嫌そうに声をあげた。石永が先を促す。

「その条件とは?」

「あくまで核は最期の最期、進退窮まったときの最終手段として秘密裏に用意しておくべきであり、それを国際社会に公言すべきではありません」

「だが、公言しなければ核の抑止力は期待できないが?」

「不甲斐ない話ですがアメリカの核の傘を期待しておけば良いでしょう。ただし、この期待が裏切られた場合の備えとして持っておくのです。ゆえに、秘密裏に持つべきであって、公言しては国際社会から蒙る批難と圧力によって、かえって国を損ねるでしょう。また、世界が求める潮流として核不拡散の方針がありますが、唯一の被爆国である日本が核をもつことは核不拡散の道を完全に閉ざします。他の小国たちは、被爆国の日本でさえ持ったのだから我々も、と続いてしまうでしょう。これは世界全体の利益を損ね、危険性を高めます」

「うむ………たしかに……」

「ゆえに核武装は秘密裏に、そして同時に兵を鍛え、覚悟を高め、いざ危難のとき我らは核が無くとも、その武威にいささかの衰えもなく、いかなる脅しにも怯みはしないと見せつけておくことが抑止力になります。なまくらな真剣より、気の籠もった竹刀。そして隠し持った脇差し、その二段構えです」

「……素晴らしい! 女性とは思えないほど……よく考えて……」

 石永が感動して言い募る。

「宮本さん、私の秘書にならないか? 君は素晴らしいよ。ぜひ、私のところに来てほしい!」

「え……」

「なっ?! ちょっ! あかん! あきませんよ!」

 鮎美が鷹姫を両腕で抱きしめて言う。

「鷹姫は、うちの秘書です! 絶対あきません!」

「お兄ちゃん……何を言い出してるのよ……冗談はやめて」

「本気で言ってる。宮本さんの見識、これは希有だ。実に貴重だ。旧軍士官の心意気…いや、武士の魂を感じた! ぜひ、私のところで秘書をやってほしい。今の二倍、いや三倍の給料を出そう」

「三倍……」

「っ! イヤや! 鷹姫、行かんといて! うちの秘書でおってよ!」

 鮎美が涙を流して懇願するので静江が怒った。

「お兄ちゃん! いい加減にしなさい!」

「静江、お前…」

「鮎美ちゃんが泣いてるでしょ! バカっ!!」

「………すまない……つい興奮して……」

「本当にバカなんだから」

「いや……けど、今の高校生で……ここまで考えてる子は、なかなか……。惜しいな……。私はいつでも歓迎だから、気が変わったら来てほしい」

「お兄ちゃん!」

「ああ、わかった、わかった。すまなかった。ごめん、芹沢さん。秘書を盗ったりしないから、もう泣かないでくれよ」

「…ぐすっ…」

 鮎美は濡れた目で石永を睨みつつ、まだ鷹姫を抱いたまま離さない。

「危機管理に話を戻そう」

「「「………」」」

「戦後、日本は危機管理について考えてこなかった。国家に危難あるとき、どう対応するか、そのマニュアルさえない。もし東京へ核ミサイルが飛んできたら、どうなると思う?」

「「「…………」」」

「こういったことを平時から、ちゃんと考えておきたいわけだ」

「………うちは、秘書を盗られんように考えておきます。ぐすっ…」

「嫌われたわね」

「すまなかった。静江、あとフォロー頼む」

 もう居心地が悪くなったのと、次の予定があるので石永は退席し、女三人だけでデザートを食べてから店を出た。まだ鮎美は鷹姫に腕をからめて抱いていた。

「芹沢先生、そろそろ離してください。外に出ると暑苦しいです」

「盗られたら、イヤやもん!」

「芹沢先生……」

「芹沢先生、もうお兄ちゃんも行ったから。あと人目もありますから」

「…ぐすっ…」

 鼻を啜りながら鮎美は抱いていた腕を離したけれど、右手で鷹姫の手を握った。その様子を見て静江は午後からの勉強を諦めた。

「今日は、もう島に戻る?」

「「………」」

 無言だったけれど、ほぼ肯定だった。

「じゃ、送るわ」

「ありがとうございます」

「…おおきに…」

 港まで送ってもらう間に鮎美も落ち着いた。夕方前なので定時の連絡船を待ち、1時間以上も手をつないでいた鷹姫が汗ばんだ手を離して欲しくて言う。

「そろそろ、いいですか。鮎美」

 二人きりなので、そう呼んだ。

「……ごめん……おおきに……」

 それでも名残惜しく手を離した。鷹姫がつぶやく。

「………あんなに泣くなんて……」

「……ずっと、うちの秘書でおってよ」

「………」

「鷹姫……」

 不安そうに呼ばれると、鷹姫は微笑した。

「わかりました。そこまで言われるのも秘書冥利に尽きることでしょう」

 そう言って武士が主君に忠誠を誓うように鮎美の前に膝を着いて見上げた。

「二君にまみえることなく、お仕えしましょう。我が忠誠は、すべて、あなたに」

「っ……」

 あまりに嬉しくて鮎美は抱きついた。

「鷹姫! 鷹姫! 大好きやよ!」

「お気持ちわかりました」

 鷹姫も抱き返して、島に戻ってからも二人で過ごすために、島の大山に登って語り合った。とりとめもないことを話して、その最期に鮎美は勇気を出して問うた。

「鷹姫は同性愛って、どう思う?」

「……。なお慎重な議論を要する、です」

「うっ…いや、そういう党としての見解やなくて。鷹姫、個人の。個人的な見解として、どう思うかなって聞きたいの」

「私の………」

 少し考え、すぐに答える。

「人の道に外れた愚かな行為です」

「っ…」

 訊かなければ良かったと、強く後悔した。

 

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