「女子高生総理・芹沢鮎美の苦悩」   作:高尾のり子

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9月 目隠し

 

 三上市にある御蘇松の選挙事務所から鮎美は井伊駅へ、静江の運転で送ってもらっていた。

「ごめんな、静江はん。うちの都合で振り回して」

「それが秘書ですから」

 静江は朝も始発に鷹姫を乗せるために早朝から動いていたし、今は夜遅い。明日の朝は月曜日になるので鮎美と鷹姫は井伊駅から在来線で六角駅へ行き、もっとも多くの生徒たちが通学に利用しているのと同じ路線バスで登校する予定だった。

「鷹姫は、あと40分で井伊駅に着くみたいやけど、うちらは?」

「30分くらいでしょう」

「よかった。おおきにな」

「いえ……」

「長い一日やったなぁ」

「……そうですね」

 鷹姫を見送ってから静江の発言で気分を害し、出陣式に行かないと言い出したので静江が土下座して、その場を納め、それから大勢の前で演説した後は売春を合法化したいという団体の陳情を聴き、さらに予定外だったけれど御蘇松の選挙カーに乗って県内を回った。

「もう朝のことが、ずいぶん前のことに感じるわ」

「…はい……あの…」

 静江が何か言いにくそうにしているので鮎美は、なんとなく予感した。

「また、何か、うちに仕事が?」

「明日も選挙カーに乗ってほしいと依頼されています」

「明日は学校やで?」

「学校を休んでいただくと評判にかかわるので午後3時から、すぐに、と。その時間に学園前へ到着するようなルートで走るので、校門前からお願いしたいとのことです」

「………こき使うなぁ……」

「申し訳ありません。………でも、日当は出ますよ」

「………。一つ条件あるわ」

「伝えてみます。どのような条件ですか?」

「御蘇松先生と運転手以外は、同乗するのは女の人だけにして。今日も身体を触られたりして、めちゃムカついてん。なんで真剣な選挙活動中に、あんなことするヤツおんねん! ホンマ腹立つわ!」

「申し訳ありません」

「いや、静江はんが悪いわけやないし」

「運動員の中には臨時雇いのアルバイトなどもいて規範意識が低いこともあるのです。そのバイトの応募も、市議や県議の子息などでニートや引きこもりというか、失業中の者を紹介であてていることもありまして……。仕事としては投票日までの、ごく短期なので人材の確保が難しいのです。本当に、申し訳ありません」

「バイトやったんか………まあ、うちもバイトみたいなもんやけど……それなら、それで真剣にやらんかいや……ああ、疲れた」

「短い時間ですが、車中で仮眠されては? 休むのも議員の仕事ですから」

「うん、おおきに」

 鮎美は目を閉じて井伊駅までの時間を少しだけ眠った。目を開けたときには井伊駅のロータリーに停車していて、新幹線が到着する3分前だった。

「おおきにな。あとはタクシー呼ぶわ」

「いえ、先生をお一人にするのは時刻的にも立場的にもできません」

「……そっか……窮屈な身分になったなぁ……」

「夜の駅前に18歳の女子高生が一人、他の生徒でも避けた方がいいことですよ」

「たしかに……」

「宮本さんと合流したら、旅館まで送ります」

「ごめんな、静江はん」

「お気になさらず」

「………あと、土下座させてから、すごい他人行儀になってしもたけど……ごめんな」

「…………」

「もう、前の静江はんには戻ってくれへんの?」

 鮎美が悲しそうに問うと、静江は以前のように微笑んで言う。

「戻ってもいいんだけどね。戻ると、つい年下相手に色々言いたくなって、また怒らせると怖いから。とりあえず選挙中は下手に出ておくわ」

「………ホンマに選挙第一なんやねぇ……」

「この知事選の他、いくつかの首長選挙が秋の総選挙へ響いてきますから」

「そういうもんなんや。あ、もう時間やし改札に行くわ」

 鮎美は車を降りて改札に向かった。ちょうど新幹線が到着したタイミングで続々と人が出てくる。日曜なので観光客とビジネス客が半々くらいで、鮎美は自分が注目されるのではないかと思ったけれど、みんな自分の帰宅や荷物のことを気にしていて、鮎美に気づいたのは、ほんの数人だったし、気づいても何も言わずに通り過ぎていく。ただ一人、鷹姫だけは立ち止まって言ってくる。

「ただいま、戻りました」

「おかえりなさい。優勝やったんやね」

 一目見て、結果はわかった。今朝、渡したトロフィーをまた持って帰ってきている。あまり笑顔を見せない鷹姫が誇らしげに微笑んだ。

「はい、勝ちました」

「おめでとう」

「ありがとう」

「……よかったぁ…」

 鮎美が嬉しくて涙を滲ませるので、鷹姫は防具の入ったカバンを置いて、鮎美の頭を撫でた。

「鮎美が泣かなくても」

「嬉し涙は女の愛敬や」

 そう言って鮎美は大きくて重い防具の入ったカバンを持ってやり、車に戻った。静江も優勝を察して祝ってくれる。

「おめでとう、宮本さん。常勝不敗ね」

「ありがとうございます」

 すぐに静江は車を走らせて駅から5分ほどにある料理旅館の前に車を駐めた。一日5組限定の格式ある料理旅館タカ井は井伊市でも昔から有名で、その店構えも藩屋敷のようで、ここへ宿泊すると聞いて鷹姫は戸惑った。予約を入れた静江が手続きをして戻ってくると問う。

「あの、石永さん。経費で出るのは一泊1万円までではないのですか? それに、私は今日は党の仕事をしていませんから、経費支給の対象にならないと思います」

「ああ、それは大丈夫よ。差額は芹沢先生がもってくれるそうよ。あと、今から芹沢先生に付き添ってくれるのが、宮本さんの仕事って考えれば、支給対象で通るわ」

「そうなのですか……」

「私は家が近いから帰るし、あとはよろしくね。それと、遅い時間だから本来なら厨房も閉まって松花堂弁当くらいになるところだったんだけど、宿泊者の名前に芹沢鮎美があったから特別に遅くまで待ってくれていて、ちゃんとした会席料理を出してくれるそうだから、そのお礼は二人で礼儀正しく言っておいてね。もしかしたら、写真撮影を依頼されるかもしれないから、そこまではOKしてあげて。サインはアイドルじゃないからって、お断りして」

「はい……」

「じゃあね」

 静江は車で帰り、鷹姫と鮎美は女将が案内してくれる。

「こちらへ、どうぞ」

「おおきに。遅い時間に、ごめんな」

「お仕事、お疲れ様です。3時頃、前の通りを選挙カーで通られましたよね。元気なお声が響いてきましたよ」

「……そう言われると……なんや恥ずかしいですわ……」

 鮎美と鷹姫が案内された部屋は12畳の広い和室で奥には専用の露天風呂もあり、一泊一人5万円だった。テーブルには料理の一部が用意されていて、前菜や食前酒代わりの煎茶が並んでいる。女将が部屋の説明の後に訊いてくる。

「お食事になさいますか? 先にお風呂になさいますか?」

「鷹姫、お腹空いてるやんね? 汗もかいたけど、あんまり厨房に待ってもらうのも悪いし、ご飯が先でもええ?」

「はい……あの…、芹沢先生、ここの差額は、いくらに…」

「気にせんでええよ」

「ですが…」

「ま、応援に行けんかった、お詫びというか、優勝のお祝いというか、そんな感じやから気にせんといて。な?」

「………はい……ありがとうございます」

 二人が着席すると、食べるペースに合わせて料理が運ばれてくる。前菜からして凝った和食でウニの仙台味噌和えや、カラスミと紀州梅の巻物、刺身になると大トロや手長エビが見たこともないような切り方と飾り方で出てくる。

「めちゃ美味しいわ」

「は…はい…」

「やっぱ、ご飯って、親しい人と、ゆっくり食べるもんやね。何回も高い店で会食したけど、半分政治の話しながらやと美味しさも半減やもんな」

「…そ……そうかもしれません…」

 天ぷらは揚げたての物が二度に分けて配膳され、肉は琵琶牛のヒレステーキだったし、さらに、香ばしいハモとウナギの白焼きまで出てくる。戸惑っていた鷹姫も若さゆえの食欲と、あまりに美味しい食事に感動して食べ続けた。

「うち、これは苦手やわ」

 鮎美がフナを米で漬け込んだ伝統的な熟鮨が出てきて困った顔をしている。鷹姫は美味しそうに食べてから問う。

「鮒鮨は島でも造っていますが、お食べにならないのですか?」

「父さんは喜んで食べてるけど、うちと母さんは苦手やねん」

「……自家製のものは材料費と手間だけで済みますが、市場に出回っているものは、とても高価ですよ。食べないと、もったいない」

「もったいない……もったいないかァ、今は嫌なフレーズに聞こえるなぁ」

「県知事選の相手候補のキャッチフレーズですね。ダムと新駅で数百億の投資になるのが、もったいない、と言っていました」

「自民党のオっちゃんらは、もったいないババァとか、悪口を言うてるけど、たしかに費用対効果を考えると、わからんでもないねん。とはいえ、数十年前から動かしてきた計画を、にわかに思いつきで中止するのも、どうかな、とも思うし。東海道新幹線かって建設時は無用の長物って言う反対派もおったけど、おかげで東京日帰りできて今ではJRのドル箱路線やし、ダムかって50年100年に一度の水害とか、アホみたいにデカい琵琶湖やけど、20年前には日照りで、すごい渇水になったらしいし」

「あのときは島から本土まで歩いて渡れるようになるのではないかと言われるほどだったそうです」

「琵琶湖から始まる淀川水系のおかげで大阪府民も潤ってるし、全国的に見ても渇水の心配が少ないのは、めちゃありがたいことやしな。それに、うちは大阪で育て、鷹姫は琵琶湖の鬼々島で育って、別々なようやけど、ずっと淀川の水でつながっておったんやね。和歌みたいにロマンティックやと思わん? ……」

 鮎美が嬉しそうに、そして少し頬を赤らめて言ったけれど、鷹姫はよく味わった鮒鮨を飲み込んだだけだった。

「美味しい……島とは少し漬け方が違うのでしょうか……風味が違う……」

「どっちが好みなん?」

「難しいです。食べ慣れた島のものも美味しいですし、こちらのお店のも味わい深いです」

「ふーん……」

 鮎美はお皿ごと持ち上げて少し匂いを嗅いだけれど、食べたく無さそうに皿を置いた。

「もったいないの一言で公共投資を削るのもなぁ……そら、福祉予算や教育へ回すのも悪くないけど、公共投資かって、そこで働く建設業従事者から、材料屋さんまで二重三重に潤うわけやし」

「難しいですね」

「あかん! 忘れよ! 明日の朝までは忘れるねん! 鷹姫、これ食べてくれる?」

「はい、喜んでいただきます」

 鮒鮨を鷹姫に食べてもらい、シメにご飯と郷里の漬け物が出てきて、最後にデザートの宮崎県産カボスのシャーベットを運んできたのは仲居ではなく板長と女将だった。

「芹沢先生のお口に合いましたでしょうか?」

「これ以上ないほど美味しかったですわ」

「そう言っていただけると、幸いです」

「遅い時間に、ごめんな」

「いえ。あの…よろしければ記念撮影をさせていただいても、よろしいでしょうか?」

「はい、喜んで」

 美味しい物を食べた余韻で鮎美はこころよく記念撮影に応じた。並んで撮影すると板長の衣服からは魚の匂いがしたけれど、それは嫌な匂いではなくて新鮮な食材の香りだったので鮎美は、いつも以上の笑顔で写真を撮られた。

「お疲れでしょうから、すぐに布団を用意します。お風呂は用意できておりますから、どうぞ」

「おおきに、ありがとうな」

「遅い時間に、お食事をご用意いただき、ありがとうございました。ごちそうさまです」

 鮎美と鷹姫が礼を言い、すぐに布団が2組敷かれると、二人きりになった。

「……」

 鮎美が何を言うべきか迷い、黙ってしまうと鷹姫が言ってくる。

「お風呂、お先に、どうぞ」

「せ…、せっかくやし、二人で入ろ! な! 十分、広いやん!」

 和室に隣接した露天風呂は2人以上で入っても十分に余裕があり、むしろ複数人で入ることを想定した設計だった。そして、この部屋専用なので鮎美と鷹姫だけで入れる。

「……」

 鷹姫が広さを確かめるように外の露天風呂を見ていると、鮎美は焦って言い募る。

「い、いろいろ鷹姫には話もしたいし! きょ、今日の選挙戦のこともそうやし、面談した団体とか、いろいろ! 秘書として伝えておきたいこともあるんよ!」

 業務にかこつけると、鷹姫が秘書として問うてくる。

「出陣式は無事に終えられたそうですが、面談は、どうでしたか?」

「あ、うん。えっと…」

 やや話しにくい陳情内容なので鮎美は話を少しぼやかす。

「視覚障碍者の人とか来てはってな。目が見えないと、いろいろ苦労するみたいな、そんな話とか」

「視覚障碍者ですか、たしかに東京駅でも見かけましたが、苦労しておられる様子でした。助けてあげたいと思ったのですが、私も乗り換えで時間が無くて、おそらく通り過ぎる誰も彼もが、同じでしょう。みな忙しそうでした」

「そうなんや……あ、そや、ええこと思いついた」

 今夜のチャンスを逃したくない鮎美は策を弄した。備え付けの浴衣の帯を手にすると、鷹姫に言う。

「視覚障碍者の苦労を体験してみて、どんな感じか、うちに言うてみてよ。そのために鷹姫に目隠しして、お風呂に入ってもらうんよ。もちろん、うちが手助けするから」

「目隠しして、お風呂ですか……」

「お願いやから、やってみて」

「そう言われるのでしたら」

 鷹姫は帯を受け取って、立ったまま目隠しするようにキュッと後頭部で結んだ。剣道の防具を着け慣れているので結ぶ動作も様になっているけれど、やはり視界がゼロになると何もできずに困る。

「どうなん? 何か見える?」

「いえ、何も」

「ほな、この状態で…ぬ…脱がせるよ」

「脱ぐくらいは自分でできそうです」

「うっかり転んだら、危ないやん! うちが脱がせてあげるよ!」

「そうですか、ありがとうございます」

「ほな、脱がせるしな」

 鮎美は鷹姫へ近寄る。目隠しで何も見えない鷹姫を脱がせるために胸元のボタンを外す作業は、とっさに言い出したことだったけれど、想像以上に鮎美を興奮させた。いつもは遠慮して見つめることを控えている鷹姫の唇や頬、鼻梁を、どれだけ見つめても視線に勘づかれることがないので、見たいだけ見られるし、ボタンを外していくと鷹姫の匂いが拡がってくる。始発で東京まで日帰りの大会出場をしてきた鷹姫の身体は、いつもより匂いが強くて鮎美は見えていないのをいいことに、顔を近づけて嗅いだ。鷹姫の身体からはトマトと肉を煮込んだような匂いがして、鮎美は満腹なのに口の中に唾液が湧いた。

「………息がくすぐったいです……どうして、そんなに近づくのですか」

「ごめん、ごめん。ハァ…ちょっとボタンが爪の先に、引っかかって」

 すべてのボタンを外してブラウスを脱がせる。そうやって鷹姫を上半身ブラジャーだけの姿にすると、鮎美は全身の血が騒いで叫びそうなほど興奮した。

「ぶ…ブラも、外すよ…ハァ…」

「はい……」

 ブラジャーも外すと、鷹姫の乳首に吸いつきたくて鮎美は口を手で押さえて我慢した。そして、吸ったり舐めたりする代わりに鷹姫の腋の匂いを嗅ぐ。さっきより強い匂いで、煮込まれたトマトと肉へタンポポの汁とヒメジオンの茎の香りを足したような濃い匂いがした。

「…ハァ…ハァ…」

「くすぐったいです。匂いを嗅ぐのは、やめてください」

 見えていなくても気配で十分に伝わっているようで鷹姫が一歩さがった。その動きでプルンと乳房が揺れて、もう鮎美は理性が消し飛びそうになったけれど、かろうじで踏み留まった。

「スカートを脱がせるしな」

「…はい…、いえ、やはり自分で脱ぎます。そのくらいできそうですから」

 鷹姫が自分の手でスカートのチャックをおろそうとすると、鮎美は手首を握って止めた。

「あかんて、自分の手も満足に動かせん障碍者の気分を知ってほしいねん。せやから、手も縛るしな」

「手まで……」

 鷹姫は手首を握られたまま腕をあげさせられ、後頭部へ回されると目隠ししても余っている帯で頭部に固定されるように結ばれた。さらに反対の手首も同じように頭部に結びつけられて、両手の自由を完全に奪われた。鷹姫の両腋がよく見えるようになって、生えそろった毛が鮎美には美しく見えたし、汗の匂いが拡がって、わざわざ嗅がなくても十分に感じられる。

「どうなん? 目も見えず、手も動かせん気分は? ハァ…」

「……とても不自由で不安です」

 声を出すと鷹姫の乳首が揺れる。それを摘みたくて吸いたくて、けれど、その前にスカートを脱がせることにした。チャックをおろし、ホックを外して、ゆっくり丁寧に足元までさげる。すらりと美しく、それでいて大腿四頭筋が力強そうな鷹姫の脚がすべて見えるようになった。鮎美は内腿を舐め回したくなったけれど、それも今は我慢する。

「ショーツも脱がせるよ」

「………」

 鷹姫は返事をしなかったけれど、拒否もしなかった。

「…ハァ…」

「………」

 鷹姫はショーツをおろされ裸にされた。あとは靴下だけになる。

「…ハァ…」

「………」

「…ハァ…靴下、脱がせるから、バランス取れるように抱きしめるよ」

 鮎美が口実をつくって鷹姫の腰回りを片手で抱いた。鮎美はしゃがんで鷹姫の靴下へ手を伸ばしつつ、下腹部へ頬をあてるようにしている。

「こっちの足をあげて」

「……やはりバランスが取りにくいです。このように抱かれるより、座らせてもらえませんか?」

 鷹姫は視界が無く、しかも両腕を大きく挙げさせられたまま固定されているので、どうにもバランスが悪くて不安定だった。

「そうやね、ほな、ゆっくり座らせてあげる」

 鮎美は裸にした鷹姫のお尻をつかんで布団の上に座らせた。

「座ってるのも、腕あげたままやと、しんどいやろ。寝てしまい」

「……はい…」

「寝かせるな」

 裸の背中を抱いて、ゆっくりと布団に寝かせた。

「楽になった?」

「………はい……」

「ほな、靴下を脱がせるよ」

 今度こそ、靴下を脱がせる。とうとう帯とポニーテールにしている髪ゴム以外は、すべて裸にした。それで、もう我慢できなくなって鮎美は舌を鷹姫の肌に近づけながら言う。

「くすぐったいけど、我慢してな」

「っ…」

 鷹姫はお臍を舐められて身をよじる。

「な…何をするのですか?」

「ちょっと舐めたかってん、ごめん」

「ふざけないでください。いつも、犬みたいに私を舐めて」

 ついつい勉強中や休憩中に静江などがいないとき、そっと鷹姫のうなじや耳を舐めたことが何度かある、その度に迷惑そうにされたけれど、やめられずにいる。今回もやめられそうになかったし、今回は鷹姫が抵抗できない。何も見えないし、手も動かせず、布団に寝ていることしかできない。

「本当に視覚障碍者の体験なのですか? ふざけているだけではないですか?」

「……えっと……、視覚障碍者が、人なつっこい犬に、なつかれたときの対応を考える訓練ってことで、よろしく」

 そう言って、もう鮎美は遠慮無く鷹姫を舐め始める。頬を舐めて、うなじを舐めて、乳首を吸って、腋を舐めた。

「…く…くすぐったいですから……やめてください……コラ、やめなさい。……犬に言っても……犬なら……お座り!」

「……。ワン♪」

 鷹姫が思いつきで命令し、鮎美は従いたくなったので、その場にお座りした。

「よし、いい子ですね」

「……ハァ……ハァ…」

「………。もう飼い主のところへ帰りなさい」

「キュ~ん……」

 悲しそうに鳴いて、また鷹姫を舐める。より犬のように頬をペロペロと舐めて、唇まで舐めて、どさくさ紛れにキスもした。

「コ、コラ、もう! お座り!」

「ワン♪」

 素直に従うけれど、お座りするのは5秒だけで、すぐに鷹姫を舐めにかかる。もう我慢のない犬程度にしか思考力がない風に振る舞っている。

「ああ、もう……」

 とうとう鷹姫の方が諦めてくれたので思う存分に舐めた。

「……そんなに舐めて……鮎美……お腹を壊しますよ……」

「ワン♪ ワン♪」

「………いつまで犬なのですか……」

「ワン♪」

「……………そろそろお風呂に入りたいです。……それに、トイレも」

 入浴前に裸にされて鷹姫は生理現象を覚えてきていた。

「もう犬はやめて、そろそろ帯を解いてください。トイレへ行きたいです」

「………。うちが介護してあげるよ」

「そ……それは嫌です!」

「ええから、ええから」

「よくないです! 嫌です!」

「障碍者やったら、他人の世話にならんとトイレも行けんやろ。そういう体験やねん」

「………」

 鮎美は犬でいるのをやめて鷹姫を客室のトイレに導いた。いつも顔を赤くしたりすることの少ない鷹姫が頬を染めて恥じらっている姿は鮎美の脳裏に強く残った。トイレから出て鷹姫が疲れた声で願う。

「もう腕がつらいです。どうか、両手を解いてください。手は使いませんから」

「そうやね」

 ずっと腕をあげていたので血行が悪くなってきている。鮎美は手首を縛っていた帯を解いた。

「はぁぁ……」

 鷹姫が弱気なタメ息をついている姿も珍しかった。実直に手は使わずダラリと下げて、そのまま畳へ座り込んでいる。

「そろそろ、お風呂に入れてあげよか」

「……はい……お願いします…」

「うちも裸になろ」

 鮎美は制服と下着、靴下を脱いで鷹姫の分も片付けると、入浴の準備をしてから、もう少し犬になりたくなった。浴衣の帯は、もう一本あるので、それを首輪のように自分の首へ巻いてから、反対の端を鷹姫の手首へ巻きながら言う。

「うちは盲導犬な。うちが引っぱる方に歩いて」

「…はい………色々なことを思いつきますね……」

 もう鷹姫は疲れ切った声で答えたけれど、素直に従ってくれる。鮎美は四つん這いになって、ゆっくりと部屋の中を歩き回る。鷹姫は何も見えないので引かれるまま、そろそろと歩いている。いつも凛として背筋を伸ばしている鷹姫が今は腰が引けて一歩一歩恐る恐る歩いているので、それが可愛らしくて鮎美は引くのをやめて、鷹姫の足元に伏せると、足の甲を舐めた。

「ワン♪」

「……どういう意味のある行為ですか?」

「舐めたかっただけ」

「…………盲導犬、失格ですよ。そんなところに顔をやって危ないです。蹴ってしまうかもしれませんよ」

「ワン♪」

「…………まだ、お風呂に着かないのですか?」

「あと3周したらワン」

「……はぁぁ……視覚障碍者にとっての100メートルというのは、とてつもなく長いのですね……」

 鮎美は12畳ある和室を3周してから露天風呂へ通じる戸の前に四つん這いで立った。

「ワン♪ ワン♪」

「ここを開けろ、と?」

「ワン♪」

 犬語で心が通じて嬉しかった。鷹姫が手探りで戸を開けた。そのまま露天風呂に出る。

「…うっ…膝が痛いわ…」

 四つん這いで石畳の上を歩くと、膝が痛かった。

「もう犬はやめては、どうですか?」

「……そうやね。このままやと帯も濡れてしまうし」

 鮎美は立ち上がって首輪にしていた帯を解き、鷹姫の目隠しにしている帯も解きながら言う。

「まだ目は開けたらあかんよ。手も使えん障碍者のままな。うちが手で手を引いてあげるから安心して歩き」

「……はい…」

 鮎美は向かい合って鷹姫の両手を持ち、後ろ歩きで洗い場に近づく。洗い場には高齢者が利用することも想定したようで背もたれのある浴場椅子が置いてあり、ちょうどよいので使うことにした。

「背もたれのある椅子があるから、そこに座らせてあげるな」

「はい…」

「ゆっくり、お尻をおろすんよ」

 鷹姫の裸のお尻を両手で包みながら、ゆっくりと座面の方へさげていく。

「そう、そこそこ。背もたれもあるから楽にしてみ」

「はい……はぁぁ…」

 無事に座れたというだけで大きく安心する。

「ほな、身体を洗ってあげるな」

「……はい……お願いします」

 まだ目を閉じているし、両手も使えないつもりでいるので鷹姫は素直に全身を手洗いされた。鮎美自身も手早く身体を洗うと、シャワーで流した。

「髪は、あとで洗うわ。湯船に入ろ。立たせるし、うちの手を握って」

「はい」

 両手を握ってもらい誘導される。畳だけの和室内と違い、どういう物があるか、まったく知らない露天風呂を移動するのは、かなりお互いに神経を使った。

「そこ、大きな石が階段になってるから、30センチほど足をあげて大きく一歩」

「は、はい…」

「そうそう。あと、もう一段あるんよ」

「はい」

「ええよ。次はお湯の中になるけど、深さ20センチくらいで石段があるから、そこへ一歩」

「はい……こう、ですか?」

「うん、いいよ。次の一歩は深いけど、それで湯船の底やから」

「はい……………はぁぁ…」

 やっと湯船に浸かって足のやり場に神経を使わなくて済むとなると、深いタメ息が漏れた。鮎美も誘導が思ったより大変だったので息をつく。

「はぁ……けっこう介護役も大変やね」

「………疲れました……まだ、目を開けてはいけませんか?」

「うん、布団に戻るまで頑張って」

「……はい…」

「ゆっくり身体を、こっちに預けて。楽な姿勢で支えてあげるし。うちらだけの湯船やから髪を浸けてもええやろ」

 鷹姫の背後に回って頭を抱くようにして身体を湯に浮かせる。

「どんな感じ? 目が見えんで、お風呂に浸かってるのは」

「……気持ちいいような……不安なような……」

「この体勢って不安?」

「いえ……湯船の広さも不明ですし、五里霧中………いったい、どんなところに自分がいるのか、和室からチラっと見ただけですから、………けれど、本当の視覚障碍者は、まったく何も予備知識なく、チラっと見るなんてこともできずに駅や入浴施設に行くのですから、本当に大変ですね。………胸を揉むの、やめてください」

「ごめんごめん、つい柔らかそうで」

「……はぁぁ……」

 また鷹姫が弱気なタメ息をついている。そろそろ二人とも熱くなってきたので鮎美が誘導する。

「髪の毛、洗ってあげるわ」

「…はい……お願いします…」

「こっちに、おいで」

 また手を引いて浴場椅子まで案内する。座らせるときに今度はお尻ではなくて股間に触れたまま導いた。

「あの……あまり身体に触らないでください」

「触らんかったら誘導できんやん? 痛かった?」

「……痛くはありませんけれど……」

「ほな、髪の毛、洗ってあげるな。ジッとしててな」

「…はい……」

 鮎美はポニーテールにしている髪ゴムを丁寧に抜き取ると無くさないように自分の手首に巻いて、鷹姫の髪を自分の髪を洗う何倍も気を遣って優しく洗う。

「キレイな髪やね……って言ってあげたいけど、めちゃ枝毛あるやん。剣道ばっかりで、ぜんぜん気を遣ってないんちゃう? リンスしてる?」

「…いいえ…、洗う…だけです…」

「やっぱりか。ま、それが鷹姫らしくて、カッコいいかもしれんけど。美容室も行かんと自分で切ってるんやもんなぁ……ワイルドやわぁ」

「………………っ…」

「ごめん、痛かった?」

 鮎美は鷹姫が表情を曇らせたので、髪を痛く引いてしまったのかと思ったけれど、鷹姫は否定する。

「…いえ…」

「痛かったら、言うてな」

 より慎重に鮎美は髪を洗っていく。優しく頭皮も指先で撫でて洗う。

「……っ……っ……」

「ごめん、痛い?」

「…いえ…っ……っ……っ…」

「鷹姫………」

「痛くないです……っ…っ……っ…」

 痛くないと言うけれど、鷹姫は目を閉じたままの瞼から次々と涙を零している。その涙は止まる気配が無くて、もう肩を震わせ、顔を歪めて号泣のような泣き方をしている。声だけは押し殺しているのが余計に痛々しかった。

「……鷹姫………ごめん…」

 鮎美は深く自省した。調子に乗りすぎたし、鷹姫の気持ちを考えていなかった。この露天風呂付きの客室なら、誰にも邪魔されることもなく好きなだけ好きなように鷹姫と過ごせると思って予約した。けれど、鷹姫に何か同意をえたわけではない。あまり細かいことを気にせず無頓着な鷹姫なら、なし崩し的に身体を擦り寄せても受け入れてくれるかもしれないという淡い期待で、ここまで振る舞ったけれど、鷹姫の立場で考えてみれば、これはセクハラだったしパワハラだった。

「…っ……っ……ぅぅっ…」

「鷹姫………ごめん……もう、せんから…」

 対等な友人だったのは少し前までのことで、今は議員と秘書という主従関係に近いような労働契約があり、鷹姫の家は貧しくて月給30万円、卒業すれば50万円というのは願ってもないことだったし、鷹姫が家計へ給料を入れたおかげで、おさがりばかり着ていた妹たちは初めて新品の衣服や靴を市街地へ出て買ってもらい、とても喜んでいた。

「…っ……っ……ぅっ……っ…ぅっ…」

「そんなに泣かんでよ……うちが悪かったから…」

 絶対に辞めたくない仕事、その上司からの理不尽な要求、少し考えればわかることだったのに、鮎美は自身の悪行から目をそらして考えないようにしていた。このくらいなら受け入れてくれる、このくらいなら大丈夫、という考え方で人倫の彼岸を渡っていた。けれど、鷹姫の涙を見て、どれだけ自分がひどいセクハラをしたのか、自覚していく。もし、同じように逆らえない関係で助けも呼べない密室に自分が連れ込まれ、意味不明な理屈で目隠しされたり両手を縛られたりして、身体を誰かに舐め回されたら、泣くほど嫌だと、すぐにわかる。

「…っ……ぅーっ……っ…」

 まだ鷹姫は指示された通り、目を閉じて、両手も使わず、泣いている。丸くなって肩を震わせて、閉じた瞼から大粒の涙を次々と零して泣いている。鷹姫の喉が震えていて、嗚咽を抑え込んでいるのが、よくわかった。

「鷹姫………。……ごめん……泡だけ、流すよ」

 シャンプーの泡がついたまま泣いているのも、あわれなのでシャワーで髪を流した。

「……っ……っ……」

「鷹姫、……もう目を開けてもええよ。手も使ってくれてええから。うちがホンマに悪かった。二度とせんから、許して」

「…っ……っ…」

 鷹姫が手を使って涙を拭いた。それでも、まだ涙が溢れてくる。少し目を開けて、鮎美に背中を向けて泣き出した。

「…ぅっ…くっ……こっちを見ないでください…」

「うん……ごめん…」

 鮎美も自省と自己嫌悪と淋しさで胸が痛くなって泣きそうになる。結局、受け入れてくれない、それが当たり前、もし自分が男だったら、男で議員で鷹姫が秘書だったら、今夜は想い出に残る夜になったかもしれない、許嫁がいても絶対ではないし中学生にすぎない、けれど、現実は二人とも女だった。身を切られるほど切ない。わかっていたことなのに、なぜか、何度も希望を抱いてしまう。鷹姫が離れていかないのは秘書として働こうという意志があるからで、けっして性的なパートナーにはなりえないのに、そばにいてくれるから、つい期待している。

「……鷹姫……ずっと、そうしてると身体が冷えるよ。お湯に入ろ」

「…はい……ぐすっ……取り乱して、すみませんでした」

「鷹姫、そんな謝らんでよ。……悪いのは、うちやから」

 再び二人で露天風呂に浸かった。もう鷹姫は自分で足元を見ているので、かなり離れて湯に浸かる。

「…っ…っ…」

「……鷹姫……」

「…っ…」

 まだ泣いている背中が痛々しくて、抱きしめたいけれど、それが一番悪いことなのだと自分を戒めると、いっそ死にたくなってくる。もし鷹姫が泣かなかったら、布団に戻った後、何をするつもりでいたか、ほのかに想っていて具体的には考えないようにしていたけれど、押し倒して抱きしめてキスをして舐め回して指を挿入したかもしれない、きっと、そうした。鷹姫が嫌がったら卑怯にも金銭や立場を道具に使ったかもしれない。どうしても欲しかったし、手に入れたかった。

「……うちは……最低やね……。議員どころか……生きてる資格もないわ……」

「…っ…ぅっ…」

「どんなに謝っても許されへんと思うけど、ホンマに、ごめん。この上は、どうしてくれてもええよ。鷹姫の気の済むようにして」

「…ぐすっ……泣いたりして、申し訳ありませんでした。どうか、忘れてください」

 こちらを向いた鷹姫が申し訳なさそうに頭を下げたので鮎美は驚く。

「っ、そんなっ、鷹姫! 謝るのは、うちの方やから!」

「もう大丈夫です。続きをなさってください」

 そう言った鷹姫は伏せていた目を、また完全に閉じた。

「……鷹姫…」

「どうぞ」

「…………」

 鮎美の腹中に自省したはずなのに邪悪な欲望が湧いてくる。ここまで覚悟しているなら、もう据え膳同様に食べてしまいたくなる。蹂躙して、うまくすれば快楽を覚えてくれるかもしれない。そんな歪んだ想いにかられた。

「……あかん。……ちゃうやろ。……そんなん、あかん……」

 それでも、さっきの鷹姫の涙を想い出すと、もう欲望のままに振る舞うことはできなかった。

「もう、やめよ。もう、ええんよ。ごめんな、ホンマに、ごめん。そんなに無理して受け入れてくれんでええんよ。な、鷹姫」

「………」

「鷹姫が泣くほど嫌なこと、うちはできんから。もうせぇへんから安心して。ごめんな、鷹姫」

「……鮎美……本当に、そんなに謝らないでください。突然に泣き出したりした私が悪いのです。ご心配をかけて、すみません」

「…鷹姫……謝るのは、うちの方やって。いっそ、殴ってくれても、竹刀でシバキ倒してくれてもええから」

「鮎美………、どうして……そこまで……。……聴いてください。私は、みなが言う空気を読むといったことが、とても苦手です。ノリというのも、よくわかりません。今の場合、ただ髪を洗ってもらっただけなのに、泣き出した私が変なだけではないですか?」

「……鷹姫?」

「言いたくはなかったのですが、やはり聴いてください。私が泣いたのは、つい母のことを想い出してしまったからです」

「……お母さんの? ……って、亡くならはった?」

「はい、母が事故で亡くなる前の晩、まだ幼かった私の髪をお風呂で洗ってくれていたのです。母は妊娠していて、すぐに妹ができるはずでしたから、明日からはタカちゃんが自分一人で洗いなさいね、と言って。それが母について覚えている最期のことです。翌日、急に陣痛が来た母は小さな舟で本土へ渡って病院へ行こうとしたのですが、無謀な運転をしていた水上バイクに衝突され、それがもとで母も妹も喪いました。鮎美に髪を洗ってもらっていて、そのことを想い出してしまい、どうにも泣けてきて……すみません。ですから、誤解されているようですけれど、私が泣いたのは視覚障碍者や肢体不自由者の真似をするのが嫌だからではありません」

「……鷹姫……」

「もう大丈夫です。髪を洗われる以外は……。ですから、続けてください」

「そうやったんや……お母さんの……気の毒に……。その水上バイク、ひどいわ……」

「母の死は無駄ではありません。それ以後、鬼々島の周辺での水上バイク、ジェットスキーの航行は全面的に禁止されましたから。私は母を誇りに思っています。他の島民も、漁網を荒らす彼らに迷惑していましたから、母と妹の存在は無駄ではないのです」

「……そうやね……島の役に立って……」

 それでも生きていて欲しかったんやろ、せやから泣いたんやろ、と鮎美は同情の涙を浮かべて、瞬きで払った。

「鷹姫、もう十分に勉強になったから、目を開けてくれてええよ。ホンマに、もう十分やから」

「はい、では」

 目を開けた鷹姫は気丈に顔を引き締めている。悲しくても本当に母親を誇りに想っている顔だった。

「ええお母さんやったんやね」

「はい、だから私は母が見守ってくれていると想い、それに恥じない生き方をしたいのです。剣道で成績を残すこともそうですし、都会から来た鮎美には、おかしく感じられて変に思うかもしれませんが、許嫁を受け入れることもまた母がしたように子をなし、順調に次の世代につなげていくという、人としての基本的な役割を果たしたいからです」

「っ…り…立派な心がけやね…」

 鮎美は平静をよそおって答えたけれど、すぐに胸が締めつけられ、頭をハンマーで叩かれ続けているような苦痛を覚えて、涙が出てきた。さっきまでの鷹姫と同じように涙が止まらなくなって、どんなに手で拭いても溢れてくる。

「鮎美……そんなに泣かないでください。もう昔のことですから」

「ぅっ…ぅっ…うちは………、……うちは、こういう話に弱いねん。……ごめん、先に揚がって。こっちを見んといて」

「はい、失礼します」

 鷹姫が揚がるまでに、声をあげて泣いてしまいそうで鮎美は湯の中に潜った。お湯の中で大泣きして、その涙が止まるまで、かなりの時間がかかった。

 

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