「女子高生総理・芹沢鮎美の苦悩」   作:高尾のり子

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1月3日 二十歳

 

 翌々日の1月3日、月曜日、鮎美は地元の六角市で開催される二十歳の集いへ来賓として出席していた。大きな六角市文化会館には晴れ着姿の20歳を迎えた女性たちと、主にスーツ姿の20歳の男性、そして、ごく一部に紋付き袴を着た頭の悪そうな男性たちが座っている。

「ひっこめぇ!」

 市長が祝辞を送っているのに、頭の悪そうな袴の男が野次を飛ばしていた。次の次は鮎美が話す番なので気が重い。

「………」

 成人年齢が18歳まで引き下がったちゅーのに、20歳になっても幼稚園児レベルなんやね、男って意味わからん生き物やな、女子やとヤンキー化しても、あそこまで凶暴にならんのに、ホルモンの違いなんかな、と鮎美は壇上から二つ年上の先輩たちを見下ろし生物としての男女の違いを考えていた。鮎美が通っている高校も大阪で通っていた高校もレベルは高い方なので、ヤンキーを身近に見るのは中学以来でもあった。

「……」

 鮎美が見下ろす視線と、派手な赤と金色の紋付き袴を着ている男の目線が合い、鮎美は自然に目をそらしたけれど、男は席から立ち上がると壇上へ登ってきた。

「なんだ、君はっ?!」

「オッサンは、ひっこめ言とるやろが!」

 男は鮎美へではなく市長に向かっていき、すぐに舞台袖から市の職員が出てきて、男が乱暴なことをしないように取り囲む。取り囲まれると、男は威勢を放ちながらも、席に戻っていく。その途中で、鮎美の方をチラリと見た。

「……」

 え、なんなん、そのドヤ顔、今の行為がカッコいいとでも思ってるん? うちへのアピールなん? 何を考えてるんやろ、ホンマに意味不明やわ、と鮎美は無表情を保つのに苦労しながら座り続けた。市長は気を取り直して話を続ける。

「これから社会で活躍していく皆さん。六角市と日本の…」

 民主党所属の市長はありきたりな話をしている。続く自民党県議の話も無難で平凡なものだった。

「……」

 たしかに叫びたい気持ちもわからんでもないわな、話してる方も聴衆が興味をもちそうな話題にすればええもんを、ありきたりに、しかも微妙に自分の政党へ少しだけ誘導しとるもん、けど、この程度の誘導やったら、普通の人にはわからんやろな、公約に近い話をしてるけど総選挙での公約なんか高速道路無料と沖縄基地移転以外は、普通の人は忘れてるし、もっと面白い話なら黙って聴くかもしれんけど……かといって、うちもウケ狙いで笑い取るわけにもいかんし、無難に原稿通りにしよかな、と鮎美も人前で話すことに慣れてきたとはいえ、それは多くの場合で自民党支持層だったり、駅前を通りかかった人だったりして、ぴったりと20歳のみで構成された人たちではなかった。自分より二つ年上ということは一年生が三年生に話すようなものなので、軽い緊張もある。

「続いて、参議院議員、芹沢鮎美さんより、お祝いの言葉をいただきます」

 紹介されたので鮎美はパイプ椅子から立ち上がり、一礼して演壇へ向かう。

「アユミちゃーん! パンツ見せてくれ!」

「…」

 下品な野次が飛んできたのに対しては、心の中だけで舌打ちして、鮎美はマイクを少し下に向けて設定し直す。どうしても市長や県議たちとは身長が違うので必要な処置だった。

「パンツ見せろぉ!」

「…」

 しつこいねん、ボケが、と言いたいのを我慢して、笑いを取って場の空気を変えることにした。

「えーっ、ずいぶんと酔いの回った人もおられるようで、宴もたけなわといったところでしょうか」

「「「クスっ」」」

「「「「「……………」」」」」

 笑ってくれたのは市長や県議など年配の人たちだけで、20歳の若者たちには鮎美が言ったことの可笑しさが伝わっていない。野次を飛ばしている連中は、すでに酒を飲んでいて赤い顔をしているし、今は宴会ではなく式であり、これから各自で宴会になるにせよ、気の早いことを注意するのではなく、ボケで指摘するというネタだったけれど、それは宴会慣れしている年配の人たちにしか通じず、大きく滑っていた。

「お酒の飲める年齢になられたこと、お祝い申し上げます」

 それでも凹むことなく話は続ける。

「先輩方に壇上より、お話しさせていただくのは少し気の引けるところもありますが、どうか、最期までご静聴ください」

「アユミちゃーん、何か歌えぇ!」

「踊れぇ! ダンスしろ!」

「スカートめくってくれ!」

「…」

 たぶん、こいつら、静聴っていう言葉の意味、マジで知らんし、漢字で書けへんかも、そういう人らに、どう話すか、困りもんやな、と鮎美は高速で思考し決めた。

「前列のあたりで野次を飛ばしておられる先輩方」

 あえて鮎美が無視せず、男たちのことを口にすると、場の空気が緊張した。ここから鮎美が叱咤したり注意したりすると、当然に男たちは暴れ出すし、場合によっては鮎美に危害を加えるかもしれないので舞台袖の職員たちは、いつでも飛び出せる体勢になっていく。男たちの方も、ヤンキーらしい鋭い目つきで鮎美を見上げてきた。

「ご安心ください。実は、えらそうにしている議員も野次を飛ばします。しかも議場で」

「「「「「……………」」」」」

「本来、話し合うべき、自民と民主も、野次の飛ばし合い。品位あるべき議場でそうなのですから、二十歳の集いで遊び気分になるのを注意するのは、野暮かもしれません。案外、うまい野次を飛ばせる先輩は、議員としても立派になるかもしれませんよ。ただ、女の子に向かって、言わないでほしいことはあるので考えてください。さて、お正月の三日から…」

 そこから鮎美は原稿通りに話したけれど、もう野次は飛んでこなくなった。鮎美が言及したことで自分たちの存在が認められたと無意識に満足したのか、それとも、うまい野次を思いつけなかったので黙っていただけなのかは不明だったけれど、式典は無事に終わった。

「「お疲れ様です」」

 鷹姫と静江が労ってくれる。

「次の予定は?」

「六角市商工会青年部の新年会へ招かれています」

「ほな、行こか」

 昨日に引き続き、新年会のハシゴをして遅くなり、島には戻れずビジネスホテルに鷹姫と泊まった。二人部屋だったけれど、別々にシャワーを浴びて、テレビを見ながら、やっと寛いだ。

「今日も疲れたわぁ……」

「本当にお疲れ様です」

「お腹も空いてるのか、ふくれてるのか、わからんし」

 参加した新年会で、まったく飲食しないのも非礼なので少しは食べたり飲んだりもする。主にウーロン茶ばかりを口にして、ときどき何かを勧められて食べたけれど、相手の話を聞いたり相槌を打ったり、サインに応えたりと、忙しいので味など感じていないし、どれだけ食べたのかも覚えていない。おかげで今になっても空腹なのか、それなりに満足しているのか、わからない。

「いただいた膳があります。召し上がられますか?」

「鷹姫、二人っきりなんやし、そんな言葉遣いでなくてええよ」

「そうでしたね。鮎美、食べますか?」

「う~ん……」

「四人分もあります」

 気の利いた主催者だと会費を払った鮎美と秘書の分を膳として使い捨ての容器で渡してくれたりする。今日も一人あたり2膳ばかり頂戴し、静江は持って帰ったし、鮎美と鷹姫は素泊まりにしたビジネスホテルに持ち込んでいる。

「どうしよかな…」

 鮎美は女子らしくウエストを気にして、お腹を撫でた。鷹姫はすでに1膳に手をつけ半分まで食べている。

「食べないと無駄になりますし、私一人で4人分は苦しいです。手伝ってください」

「そやね。ほな、一ついただくわ」

 生温かくなった刺身と、冷たくなって湿った天ぷらなどを食べて夕食にする。テレビが鮎美の顔を映した。

「前列のあたりで野次を飛ばしておられる先輩方」

「あ、うちや」

 本日のニュースとして二十歳の集いの模様を流している。

「ご安心ください。実は、えらそうにしている議員も野次を飛ばします。しかも議場で」

 鮎美の映像を見ながらニュースキャスターが隣りにいるコメンテーターに意見を求める。

「毎年各地で荒れる成人式…、いえ、間違いました。二十歳の集いですが、この六角市で行われた式典会場には参議院議員として最年少の18歳で就任した芹沢氏が壇上に立ったようですが、どう思われますか?」

「面白い子…、と言うと失礼かもしれませんが、魅力的な人ですね。彼女から見ると二十歳は先輩なのに、うまく受け流していて。しかも、彼女なりの政治批判もある。これは国会が始まるのが楽しみになりますね」

「一部情報では24日から始まる第177通常国会の開会式で総理の施政方針演説などに続き、彼女が登壇して弔辞を述べるそうですが、ありえるでしょうか?」

「彼女は癌で亡くなった西村議員の後釜という形で少し早めに議員擬制されましたからね。現職の国会議員が亡くなった場合、通例では選挙区のライバルなどが弔辞を述べるものですが、現状の参議院選出制度ではライバルは存在しないので、同時期に議員である雄琴議員か、後釜となる彼女かの、どちらかとなるでしょう」

「次のニュースをお伝えします」

 ニュースが変わったので鮎美が問う。

「うちが登壇するなんて話あるんや。けど、うちか、雄琴はんが登壇するのって、全国ニュースのコメントで触れるようなことなん?」

「……どうでしょう……わかりません。弔辞は当然ですが…」

「西村先生、在任中の死亡やもんなぁ…」

 鮎美と鷹姫が故人を思い出しながら食事を終えると、鮎美のスマートフォンが鳴った。着信表示は静江になっている。

「もしもし、うちよ」

「緊急で伝えたいことがあると、民主党の細野議員が連絡してきました」

「細野先生が? うちに……何を?」

「芹沢先生へ直接にお話したいとのことです。先生の番号を教えてほしいと言われ、躊躇していると細野先生の番号をこちらに教えてくださいました。至急、連絡がほしいそうです。芹沢先生の番号を知られたくなければ、ホテルからかけるか、宮本さんに持たせている携帯からかけてみてください」

「わかりました。電話してみますわ」

「結果と内容は伝えてください。お兄ちゃんと寝ないで待っていますから」

「……心配せんでも、民主に移籍したりしませんから」

 至急と言われているので、鮎美は迷わず自分のスマートフォンで静江から聞いた番号へかけた。

「もしもし、細野です」

「こんばんわ。芹沢鮎美です」

「ああ、ありがとう! 伝えたいことがあるんだ!」

「はい、何でしょう」

「明日、発売される週刊紙に、芹沢さんと私の写真が載るらしい」

「……あの新幹線で撮られたやつですか?」

「おそらくそうだ。それ以外にない」

「そ……それで、どうすれば、いいんですか?」

「動揺せず、落ち着いて、何もなかった、男女の関係ではない、ただ自民から民主へ移籍しないかと、持ちかけられた。そう平然と答えてほしい。それが真実だし、私も、そう答える」

「わかりました」

「頼むよ。お互い、痛くもない腹を探られたくないだろう」

「はい。……どんな記事が書かれるんですか? うちと先生が不倫したとか?」

「わからない。かろうじで知人から伝わってきた情報なんだ。どうせ、写真は加工しないまでも、うまく編集して何かあった風な記事に仕上げて曖昧に名誉毀損にならない程度にあることないこと書くだろう。ヤツらは、そういう人種だ。場合によっては名誉毀損の裁判覚悟で、でっちあげた話でも書く。とくに芹沢さんは注目されてるから売れるだろう」

「………」

「私も前科があるから……、細野また不倫か?!と疑問符で終わるくらいは書かれるかもしれない」

「………」

「どうか、動揺しないで、しっかり答えてほしい。お互いの名誉のために」

「わかりました。情報ありがとうございます。この番号、うちのスマフォですから、また何かあれば、よろしくお願いします」

「わかった。では」

 短いけれど重要な電話を終え、すぐに鮎美は静江にかけて、たまたま新幹線で隣りにいた細野と会話したこと、その様子を記者に盗撮され、それが記事になるらしいことを伝えた。

「…そうですか、お兄ちゃんと対策を立てます。けれど、細野先生のおっしゃる通り、お二人が冷静に否定すれば一週間もしないうちに鎮火できると思いますから、どうか落ち着いてください。あと、これからは男性と隣席するのは気をつけてください。いつでも狙われていると思ってください」

「はい、すんません。あと、別の件で訊きたいことがあるんですけど、ええですか?」

「どうぞ」

「さっきニュースで、うちが国会の開会式で登壇して弔辞を読むかも、ってことが言われてたんですけど、それってニュースになるほど重要なことなんですか?」

「とても重要です。どちらかといえば、栄誉なことです。実は私たちが水面下で動いていて、本人には黙っていました」

「……静江はん、知ってたんや」

「今も、その件で自民と民主で取り合いです。芹沢先生になるか、雄琴先生になるか、多数決なら民主が勝ちますが、民主の中にも雄琴先生をコウモリと言って嫌う先生方もいますし、西村先生の最期を看取ったのも、葬儀に参列したのも芹沢先生ですから、私たちが勝つ公算は高いのです。けれど、ご本人は決定するまで、この件については知らぬ顔をしてください」

「……わかりました……ホンマに、いろいろあるんですね……。それほど、栄誉なことなんですか?」

「普通、一年生議員は登壇する機会が、ほとんどなく国会は終わってしまいます。まして開会式は天皇臨席のもと、両院の議員が参議院に集まって開催されるものです。亡くなった西村先生には悪いですが、これほどの幸運、めったとないことです」

「……そうですか…」

「芹沢先生は本当に強運です。これからも、どうか宜しくお願いします」

「……」

 うちを幸運の女神か、商売繁盛の恵比寿さんみたいに言われてもなぁ、と鮎美は答えに困りつつ電話を終えた。

 

 

 

 翌1月4日の朝、鮎美と鷹姫は午前に新年の挨拶回りを予定していたけれど、週刊紙の件があり支部に顔を出して会議を開いていた。会議には石永と静江、男性秘書たち、県議が2名、市議が5名ばかり駆けつけているし、詩織も東京からネット回線で参加していた。

「すでに、外には報道関係者が集まっています」

 静江が外の様子を報告してくれる。鮎美は黙って週刊紙の記事がコピーされたものを忌々しそうに睨んでいた。

 細野議員また不倫か?! 今度は18歳を喰う?!

 最年少議員芹沢鮎美は魔性の魅力?! 細野だけじゃない?!

 京都駅で熱い抱擁?! 雄琴議員と三角関係?! 

 民主の口説きに鮎美ちゃん笑顔でバストタッチ!!

 制服からのパンチラ7連発、袋とじ!

 女子高生議員は日本再生の光りか、亡国の兆しか?!

 週刊紙の表紙に書かれた見出しは、ほぼ鮎美に関わることばかりで今週号は完全に鮎美特集だった。

 クシャクシャ…

 鮎美が手元のコピー用紙を右手で握ってグシャグシャにしている。

「………」

 今にも爆発しそうな怒りを自制しているのが、誰の目にも明らかだったので男性たちは声をかけにくく、静江が恐る恐る言う。

「せ、芹沢先生……対策を考えるためにも、記事にあることを……一つ一つ検証させてください」

「…………」

 鮎美が黙って頷きながらボールペンを折った。

 ベキッ…

 プラスティック製とはいえ、それなりの太さのあるボールペンだったのに折ってしまう握力を見て、男性たちは鮎美が中学剣道で大阪代表になったことを思い出した。

「で、では、細野議員との間にあった事実関係ですが、たまたま新幹線に乗り合わせ、となりだったので会話を始め、細野議員から民主党に来て欲しいと誘われたけれど、断った、と。これでよろしいですね?」

「……」

 また鮎美が黙って頷いた。県議の一人が言ってくる。

「この写真からして、かなり親密そうに見えるし、二人の距離が近いが、通路越しではないのか?」

 表紙をめくって1ページ目の写真は細野と鮎美の写真で、鮎美が席を移動して細野と密談しているときのもので、細野は自分の党へ鮎美を勧誘したいし、鮎美も訊きたいことがあったので、二人とも笑顔で見合っているように見えなくもない写真だった。動画か、高速連写で撮っていたものを、なるべく二人に性的関係があるかのように見える表情を抜き出して編集していた。ご丁寧に細野が不倫したときに撮られた以前の写真まで対比として載せていて、読者へ印象操作している。鮎美が県議を睨んだ。

「親密? 先生らかて、他党の議員と会話するとき愛想笑いの一つくらいしはりますよね?」

「う、うむ。まあ、そうだが距離がだな…」

「新幹線の席は、こういう距離やん」

「……通路越しではなかったのかね? 満席なら仕方ないが、宮本君といっしょだったなら、指定席は二人席になりやすいはずだが」

「党を移る移らんちゅー話をするんですから、密談になって当然ですやん」

「まさか移る気かっ?!」

「………。ご希望なら、そうしましょか」

 心外なことを問われて鮎美は心にないことを言い返した。

「なっ……なんだと?!」

「両先生とも、落ち着いてください」

 石永が仲裁する。

「芹沢先生、お怒りはわかります。ですが、私たちの質問は、後で行う記者会見の予行演習だと思ってください。苛立ちにまかせて感情を見せれば、むこうの思うツボです。あいつらはね、芹沢先生が自民に残ってくださっていることが気に入らないんですよ。できれば、潰したいと思うほどに」

 兄に続いて静江が言う。

「いっそ感情をみせるなら怒りではなくて、傷ついたという顔をしてください。こんな記事を書かれて、どれだけ傷ついたか、その方が出版社への反撃になりますから」

「被害者になれてか?! うちは負け犬かっ?!」

 鮎美が机を叩いて怒鳴った。激しい剣幕で、この場にいる一同が黙り、ネット回線の向こうにいる詩織が冷静に言ってくる。

「女の涙は最強の武器ですよ、鮎美先生」

「うちは、そんな勝ち方しとうない!!」

「では、まず落ち着いてください。どのみち潔白なのですから」

 詩織に続き、鷹姫が言ってくる。

「牧田さんの言うとおりです。ここは落ち着いて、かつ迅速に対策を決めなければ、会議が長引いて小田原評定となれば余計な疑いを持たれます」

「……そやね」

 少し鮎美が落ち着いたので静江が事実確認を続ける。

「この写真を撮られた後、宮本さんが盗撮に気づき、取り押さえたものの、記者であったため解放した。つまり、この場には二人きりではなく秘書の宮本さんもいっしょだった、不倫などではない、と、これで細野先生との件は、無難に流せると思います」

「………」

 鮎美が黙って頷く。

「では、次に雄琴先生との京都での件ですが、これの説明をしていただけますか?」

 細野との写真の次項には直樹との写真が掲載されていて、京都駅のホームで鮎美が直樹に抱きしめられている写真だった。

「……こんなときから、狙って……」

「雄琴とは、どういう関係なんだ?! 今でもつながっているのか?」

 また県議が詰問してきた。もう鮎美は冷静に答える。

「この写真を撮られた日、うちは参議院議長の竹村先生と会談してから、京都で当時は衆議院議長の久野先生とも会談して、さらに共産党の破志本先生とも会談して、疲れてヘトヘトやったんです。それで京都駅のホームで立ったまま寝そうになって、線路に落ちそうになったところを雄琴はんが助けてくれはったんです。やましいこともないし、この当時は雄琴はんも自民です。あと、その場には共産党の西沢先生もいてくれはりました。この写真、どうせ編集でカットしたんやろけど、すぐそばに西沢先生が立ってはるはずです」

「……そういうことならば……。加賀田知事とも、親しいのかね?」

「この写真は……」

 細野や雄琴との写真よりスペースは小さいけれど、夏子との写真には、やましいことがあった。皇居の地下駐車場で夏子と出会って談笑しているところを撮られた写真で、オレンジ色のドレスを着ている夏子の胸に鮎美が手で触れている瞬間だった。ドレスを誉めるときに触ったのだったけれど、実は触りたくて乳房に触った写真なので鮎美としては、やましい。少し鮎美の目が泳いだ。

「親しいということはないですけど……このときは、ドレスが可愛いね、って……新年で二人とも、浮かれてましたし……ちょっとしたスキンシップです」

「あまり民主の者と接触するのは、好ましくないぞ」

「はい、今後注意します」

 やましい気持ちに県議は欠片も気づかなかったけれど、詩織が核心をえぐってくる。

「思いっきり胸に触ってますね。これ、芹沢先生が男だったら辞職コースですよ」

「………」

「女同士で良かったですねぇ」

「次の袋とじですが」

 静江も県議と同じく知事へのスキンシップは重要視していないので、バストタッチという表現は細野か、雄琴と何かあったように演出するための悪質な編集だと思っているし、編集側も鮎美が同性愛者だとは気づいていない。詩織の発言は無視され、静江が話を進める。

「ご本人を前にして、下着の写真は、あまり男性方に見ていただきたくないので、私たちで検証していきます」

 袋とじページには7枚のパンチラ写真があった。どれも制服のスカートから見える下着の写真だったけれど、鮎美ではない写真が混ざっていた。

「この3枚以外は、すべて芹沢先生ではないと思いますが、どうですか?」

「制服からして、ちゃう学校のやん」

「逆に言えば、この3枚は鮎美先生なのですか?」

 詩織の問いに鮎美は嫌そうに頷く。

「そや」

 鮎美のパンチラ写真は知事選の応援でステージのパイプ椅子に座ったときなどで顔も写っていて正真正銘、本人のものだった。

「他の4枚は地下アイドルか、ローカルアイドルかもしれませんね。鮎美先生の方が可愛いですよ。とりあえずパンチラ7連発という見出しは嘘ではない、週刊紙のやりそうなことですね」

「どっちにしても盗撮やん。腹立つわ」

「さすがに記者会見で袋とじについての質問は大手新聞社からは無いかと思いますが、ゴシップ誌から問われたら………お兄ちゃん、どう思う?」

「うーん……そこは感情を少し出して、この前みたいに、ノーコメント! と一喝しても悪い風には報道されないだろう。いや、悪質な編集をされると、細野先生との関係にノーコメントと答えている風に映像化される可能性もあるなぁ……やはり、無難に、袋とじの内容についてはお答えできません、と言って恥ずかしそうに顔を伏せるとかで、いいんじゃないか?」

「男が喜びそうな反応ね………お兄ちゃんの発想、オヤジだよ」

「お前が、どう思うって言うから考えたんだろ!」

「はいはい。芹沢先生、この前みたいにノーコメントと切り捨てる感じなのは今回は控えてください。演技は必要ないですけど、丁寧に、そして袋とじの話だと主語をはっきりさせて、袋とじ記事の内容についてはお答えできません、とか、そんな風に」

「はい、そうしますわ」

「だいたいの対策が決まりましたので二、三回の予行演習をしてから記者会見を開きます。みなさんが記者として質問役、芹沢先生は不快な質問にも冷静に答える訓練だと思って頑張ってください」

 静江が取り仕切り支部内で予行演習が始まった。

 

 

 

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