翌1月23日の日曜、ビアンバーで午前0時を迎えた詩織と朝槍は計画の最終確認をして胸を高鳴らせた。
「鮎美先生の復活、とても楽しみです」
「男社会をぶっ壊して、世界を変えていけそう。あーん、楽しみでウズウズしてきた」
朝槍が両手を握って、ヒールを履いた足をばたつかせた。
「酔うと幼稚になるのですね、朝槍先生は」
「ナユでいいよ。はしゃぐ方が楽しいじゃん。世間は同性愛をカミングアウトした政治家ってレッテルを私に貼ってくるけど、そのステレオタイプもうざいんだよね。きちっと真面目で同性愛の問題について真剣に考え、努力する女、でも、ちょっぴり不幸、そして家の中では女同士でエロいことしてんだろ、スマした顔しやがって、お前の好きなプレイは何だよ、って感じの男からの目、うざすぎ」
「男は嫌いですか?」
「まあ、嫌いだね。いなくてもいい、いや、いない方がいい。シオリンはバイってことは男も好き?」
「ええ、可愛いじゃないですか、子犬みたいで」
「……どこが? もしかして、ロリ? 小学生男子が好き?」
「子供は好きじゃないです。やっぱり性に目覚めた中学生以降が可愛いですね。こちらがチラっと胸元を見せてあげたりすると、目を泳がせたり慌てたり、とてもわかりやすくて可愛いです」
「にゃるほどぉ~……私には理解できない世界にゃぁ。ジロジロ見んな、としか思わないにゃ。ま、見たい気持ちはわかるんだけどね、私もおっぱい好きだし」
「ナユはビアンとしてネコですか? タチですか?」
「どっちでも可だよ。今のパートナーとは私がタチで、向こうがネコで固定だけど、あの子は性欲が薄くてさ。いっしょに暮らせて、ときどきチューできればいいの、パンツの中には興味ありません、みたいな感じ」
「それは、さぞかし物足りないでしょうね」
「でも、人柄は好きだから。もう5年、いっしょかな。浮気にうるさくないし。拗ねるけど、それが、また可愛いし」
「いい人そうですね」
「あーん、でも今夜は身体がウズウズして寝られなさそう! シオリ~ン、相手してよ」
「ネコで? タチで?」
「う~ん、もっと過激なのがいい。そういうの嫌い?」
「程度によります」
「SMっぽいのは?」
「私が痛いのは嫌です」
「こっちが痛い分にはOK?」
「そういうのは好きですよ」
「女王様なんだね。……それならさ、これ見てよ。読んでOKそうなら、やってほしい」
朝槍はスマートフォンのメモ帳機能に保存してあるテキスト文書を詩織に見せる。そこには望むプレイ内容を記したシナリオがあった。受け取って目を通していく詩織が、つぶやく。
「ずいぶんと変わった趣味をお持ちですね」
「過激すぎて、今のパートナーやってくれないからシオリンなら応えてくれないかなって。その代わり、シオリンが望むプレイにも何でも応じるよ。受けでも、責めでも、変態っぽいのでも」
期待感と他人に言いにくい自分の性癖をテキストという形で読んでもらっている羞恥心で朝槍は頬を赤らめつつ、一口だけカクテルを呑んだ。詩織は読み終えてスマートフォンを返した。
「この趣味についていける人は、そうそういないと思いますよ。しかも、まさか都議の朝槍先生に強姦願望と窒息趣味があるなんて……。死ぬかもしれないくらい強くされるのが望みですか……危険じゃないですか? 本当に死んでしまったら、どうするんです? 私は殺人罪で捕まるのは嫌ですよ」
「うん、そう言うと思って。こういうのも作ってある。これ読んで、サインしてよ。そしたら、万が一のときにもシオリンは安心でしょ」
朝槍がカバンからA4用紙に印刷した文書を見せる。詩織は目を通すと応える。
「ここと、ここにサインすればいいんですね?」
詩織は文書に署名する。
免責契約書
私、朝槍那由梨(以下甲)は自己の性的な興奮と満足感をえるために(牧田詩織)(以下乙)に暴行および脅迫ならびに絞首を依頼します。
前記の行為により甲が死傷した場合でも、乙にあらゆる責任を問わず、また司法当局が乙を罰することも望みません。ただし、これは自殺幇助ではなく、また殺害の依頼でもありません。あくまで性的な遊戯の一環にすぎず、法律上の放任行為とし、人権に内包される愚行権の一場合として、乙には何ら責任が無いことを確認するため、この書面を2通作成し、署名の上、双方が所持するものとします。
平成23年1月23日
甲:朝槍那由梨
乙:牧田詩織
署名が終わった文書を1通ずつカバンに入れる。
「シオリン、さっそくホテルに行かない?」
「私のマンションで殺してあげますよ」
「さらっと言った。じゃ、ここ私が払うね」
二人でビアンバーを出て、世田谷のマンションに向かう。
「殴る蹴るは、あんまり強くしないでね。顔と手足は目立つし、お腹か背中でお願い」
「痛みは快感ですか?」
「軽く痣になるくらいまで叩いてほしいかな」
「さっき読んだシナリオでは居直り強盗に暴行され強姦されて絞殺される流れでしたが、私は男性っぽく振る舞った方がいいのですか?」
「嫌じゃなければ、そうしてほしいな」
「ビアンなのに?」
「私、歪んでてさ。ビアンなのに無理矢理男にヤられるっていう被虐が好きなんだけど、じゃあ男に頼めよ、って話なんだけど、男のフリしてる女性にヤられたいの。男が相手じゃ嫌。というか、男くらい強権的な存在に自分を蹂躙されて、死んでしまうっていう疑似体験で興奮するの」
「かなり相手を選ぶ嗜好ですね」
「ペニスバンドとか着けるのは嫌な方? バイだよね?」
「ペニバンは使ったことがありますが、男として振る舞った経験はないですね」
「嫌?」
「やってみるのも、面白そうです」
途中のオモチャ屋で、いくつか大人の玩具を買った詩織と朝槍はマンションに到着すると、お互いシャワーを浴びて身体を洗った。詩織は湯上がりの朝槍へ紙とペンを差し出した。
「さきほどの免責契約書だけでは足りないので遺書を書いてください」
「え? ……遺書? なんで?」
「万一のためですよ、万一。死の疑似体験がしたいんですよね? ギリギリまで苦しめてあげますから、プレイの一環だと思って書いてください」
「本格的だね。いいよ、書く書く」
朝槍がペンを握ったので詩織が口述する。
「言うとおりに書いてください。…。私は疲れました。しばらく旅に出ます。探さないでください。どうして、自分が産まれてきたのか、それが見つかるまで、誰にも会いたくないから。ごめんなさい。朝槍那由梨」
「……うん、書いた。……なんか、これ本当に富士の樹海にでも行きそう…」
「同性愛者の自殺は珍しいことではないですから、誰も怪しまないし、この置き手紙があれば、捜索願も出されないでしょう」
「なんかドキドキしてきた」
「じゃあ、私は着替えてきます。なるべく男っぽい強盗の服……あればいいですけれど…」
詩織は自室のクローゼットを探し、大掃除のときに着るようなジャージと女物ではあるけれど、男っぽくもある革ジャンを見つけて、ペニバンを装着してから着る。リビングに戻ると、朝槍は着て来たスーツとスカート姿になっていた。
「シオリンの家にエアガンとか武器っぽいものある?」
「包丁ならありますが、うっかり斬っても許してくれますか?」
「顔はやめてね」
「了解です」
詩織はキッチンから包丁を出してきて、それを構えた姿を鏡で確認すると、どうしてもロングヘアが女性っぽいのでゴムで束ねて後ろに流した。
「はじめましょうか」
「うん、お願い」
二人で寸劇を開始した。テキストにあった通りに、場所は詩織のマンションではなく朝槍の事務所ということでプレイが始まる。朝槍が事務所に見知らぬ男がいたという設定で声をあげる。
「っ、あなた誰?! どこから入ったの?!」
「ちっ……見つかったか……くそ、こうなったら!」
安っぽいセリフを吐いて詩織は包丁を構えて朝槍に迫る。それで、か弱い女として朝槍は悲鳴もあげられず腰が抜けて動けなくなった演技をする。
「……ひっ……や……やめてください……助けて……こ、殺さないで…」
「クク、なら、こいつをしゃぶれ」
私だったら噛み千切って通報ですね、と思いながら詩織はジャージをさげてペニバンを露出させた。朝槍は怯えた演技をしながらも、ペニバンの反対側は詩織の体内に入っているので、単に舐めるだけでなく少しでも詩織が気持ちいいように両手をそえて前後させつつ擬似的なフェラチオを行った。
「よーし、もういいだろう」
「ハァ…ハァ…ぅぅ…」
「脱げ」
詩織がスカートをたくし上げ、朝槍の下着を脱がせようとすると、シナリオ通り拒否する。
「っ、い、嫌! やめて!」
「抵抗するな!」
うっかり斬らないように包丁をもっていない方の手で朝槍の胸と腹を3発殴った。それで痛みに震え、おとなしくなり、乱暴に下着を剥ぎ取った。
「ぅぅ……ぅぅ…」
「……」
こんな安っぽい芝居なのに、こんなに濡らして、好きなことって本当に最高に感じますよね、と詩織は指先で朝槍を愛撫してから、痛くならないギリギリの乱暴さでペニバンを押し入れた。
「ううっ…」
気持ちよさそうに朝槍がうめいている。詩織は腰を振る。
「オラ、オラ、どうだ、おう」
こういう犬以下の男、あんまり楽しくないです、そろそろ首を絞めさせてもらいますね、と詩織も楽しむことにした。包丁を遠くに置いて両手で朝槍の首を絞める。
「うっ! うう!」
「死ね、オラ」
気持ちよく死になさい、と詩織は首を絞めつつ腰も振り、なるべく朝槍が長く苦しみを味わえるように頸動脈を絞めたり気管を絞めたりして、意識を朦朧とさせつつも落としきらず、殺しきらず、腰の筋トレだと思って15分も頑張った。
「ハァ! ハァ!」
「っ……」
とうとう最後に頸動脈を押さえて朝槍を昇天させてやり、息を整える。
「ハァ…ハァ……やっぱりペニバンは、あまり気持ちよくないですよ」
少しは感じたけれど満足とは程遠かった。
「しかも、こっちは寸止め気分ですし。仕方ないですね、お互い、趣味が合わないのに、ご奉仕のし合いなのですから」
そう言って詩織は朝槍と唇を重ね、大きく息を吹き込んだ。呼吸が止まっていた朝槍が息を吹き返す。
「ゴホッ! ゴホっ…ハァ…ハァ…」
「ナユ、どうでしたか?」
「ハァ………ハァ………シオリン………最高……」
うっとりと朝槍が声を漏らした。
「……最高だよ……最後、本当に殺されるのかと思った……シオリンの目……冷たくて怖くて……最高……」
「フ……」
鼻で笑った詩織はペニバンを外して革ジャンも脱いだ。冷蔵庫からお茶を出して2つのグラスに注ぎ、飲みながら朝槍にも渡した。
「ありがとう」
「……」
「次、シオリンの番、私は何すればいい?」
「もう一度、もっと本格的に殺してあげましょうか?」
「え、いいの? 2連チャン私で」
朝槍は時計を見る、そろそろ午前2時50分で二度も朝槍の好みでプレイすると、詩織に楽しんでもらう時間が無くなりそうだった。恋人関係ではないのでフェアに終えたいと想っている朝槍だったけれど、水を向けられると二度目の快感が欲しくなる。
「してくれるなら……して欲しい……いい?」
「ええ、今度こそ殺してあげます」
詩織は台所から大きなゴミ袋を複数枚出してくる。ガムテープも取りだした。
「どうするの?」
「ついてきなさい」
詩織がガムテープとゴミ袋を持って部屋を出るので、朝槍は急いでスカートの裾を直してついていく。外に出てエレベーターで駐車場へおりた。
「私、立場的に外でのプレイは避けたいんだけど」
「この時間だから大丈夫ですよ」
「……うん……それならいいけど……」
不安になったので朝槍は都議としての議員バッチを外してポケットに入れ、なるべく髪をおろして顔を隠すようにした。詩織はマイカーである大きなBMWの後部ハッチを開けた。
「このゴミ袋を全体に敷き詰めなさい」
「…うん……」
「ナユ、あなたは海と山、どちらが好きですか?」
「え………海かな。どうして?」
「あなたの死体を捨てる場所、海にしてあげますね」
「……ほ……本格的すぎ……ちょっと怖いくらい……」
「海の方が、ありがたいです。山だと掘るのが大変ですし、結局は骨が残りますから」
「………」
朝槍はゴミ袋を後部ハッチの床に敷き終わった。
「これでいい?」
「では、裸になりなさい」
「え……ここで?」
「誰もいませんよ」
「………」
朝槍は周りを見る。深夜のマンション駐車場なので、たしかに誰もいないし、監視カメラはエレベーター前と車両出入口ぐらいにしかないようで、少しの時間なら全裸になっても問題なさそうだったけれど、やはり都議として戸惑う。
「さっさと脱ぎなさい。やめますよ?」
「……誰か来たら隠してよ…」
不安そうに朝槍は衣服を脱ぐ。全裸になると冬の地下駐車場は震えるほど寒かった。
「ううぅ……どうして裸にならないといけないの?」
「死体から衣服を脱がすのは大変ですから」
「……マジ怖い……殺したりしないよね? ホントに」
「さあ、どうでしょうね?」
「………」
「背中を向けなさい」
「……こう?」
朝槍が背中を向けると、その両手首を背後でガムテープでグルグル巻きにして拘束した。
「後部ハッチへ入りなさい」
「………」
「早く。そのうち新聞配達などは来るかもしれませんよ」
「……わかったよ…」
不安そうに震えながら朝槍は後部ハッチに足を入れ、乗り込む。
「横になって寝なさい」
「………」
朝槍が横になると、詩織は足首もガムテープでグルグル巻きにした。そして、朝槍の口もガムテープで塞ぐ。
「…ううっ…」
「色々と計画が狂いますし、街中の監視カメラにも映っているでしょうけれど、あの遺書があれば、なんとかなるでしょう」
そう言いながら詩織も後部ハッチに入ってくると、朝槍に馬乗りとなった。
「うっ? ううっ! うう!」
「あ、もちろん、今さらキャンセルはできませんよ。殺しますね」
「ううう! ううう!」
朝槍が首を激しく横に振って涙を流した。
「泣くほど嬉しいんですね。よかったです」
「ううう! ううう! うっ?!」
朝槍は首を片手で絞められる。もう片方の手で詩織は股間に触ってやった。
「せめて最期も気持ちよくなりなさい」
「ううっうぐうう」
もがいて朝槍は逃げようとしたけれど、手足は動かせず馬乗りになられていて抵抗の術がない。詩織は握力だけでなく体重もかけて首を絞める。股間を触っている方の手が朝槍の小水で濡れた。
「他人様の車の中に粗相をして、まあ、死ねば色々と出てくるのでゴミ袋を敷いておきましたから安心なさい」
「ううっ…………」
「さようなら、ナユ」
「っ……」
朝槍が絶望の涙を流しガタガタと震えながら意識を失った。詩織はタメ息を吐く。
「はぁぁ……ダメですよね、やっぱり……都内の監視カメラの数……お互いのスケジュール……ビアンバーでの目撃者……もう、バレバレです」
詩織は名残惜しそうに、ぐったりと動かない朝槍の頬を撫で、口に貼ったガムテープを剥がすとキスをする。意識を失っている相手に舌をからめ、無抵抗な胸を揉み、股間の奥へ指を入れ、いよいよ朝槍が冷たくなりそうだったので胸部を叩き、息を吹き込んだ。
「ゴホっ…ヒュッ…ゴホ! …ハァ………ハァ…」
「おはようございます、朝槍先生」
「…こッ…殺さないで……嫌…」
「もう終わりますか?」
「うん! 終わり! もう終わり! だから殺さないで!」
「死を感じて、生きてるって実感しますよね。服を着て車の中を片付けてください」
そう言われても恐怖と寒さで朝槍はガタガタと震えていて、服を着ることさえままならないので詩織が車内を片付け、風邪を引かれる前に朝槍を室内に戻すことにした。
「どうせ、すぐにお風呂に入れるので、そのまま来なさい」
「っ…でも…」
「早く」
「………」
朝槍は震える両手で衣服を抱きしめて身体の前を隠しながらエレベーターに乗る。駐車場のある地下階から高層階を目指したけれど、1階でドアが開き男性が一人、乗ってくる。ドアが開く前に詩織は背中で朝槍を隠したけれど、完全に隠しきれるものでもないし、ガタガタと裸で震えている朝槍の姿に乗ってきた男性は驚き問う。
「…ど…どうしたんですか?」
「はい、妹が、すぐそこで襲われてしまいました」
詩織は平然と嘘を語る。
「っ…け、警察には?」
「妹は来月、結婚する予定なので、このまま黙って泣き寝入りした方がよいかと思っていますが、本人が落ち着いてから考えさせます。お気遣いありがとうございます。今夜のことは他言無用に願いますよ」
「は…はい…」
男性は低層階の住人だったらしく、すぐにおりた。それ以上は他人に出会うことなく詩織の部屋に戻れ、朝槍はバスルームで身体を温めてもらった。
「飲みなさい。風邪を引かないように」
「…はい…ありがとう…」
風呂上がりに、さらに温かい漢方茶を飲ませると、詩織は要求する。
「そろそろ私が楽しむ番にしてもらえますか?」
「え…ええ……何でもする……どうすればいい?」
「まずは私の下半身の性感帯を覚えてください」
「うん、どこ?」
「関節の内側が感じます。膝の裏、股関節の前、足指のまた。クリ派ですが、中も感じます。中は奥より少し手前の前方。お尻の穴に舌を入れられるのも好きなので嫌でなければお願いします」
「けっこう普通なんだ……おっぱいは?」
「今は下半身だけで感じさせてください」
そう言って詩織は下半身裸になりベッドへ寝転がった。
「私がイってしまって眠ったら叩き起こしてください。ナユが寝たら殺します」
「ぅ、うん……たっぷりしてもらったから、ちゃんとお返しするよ」
朝槍は緊張しつつも、舐め始めると詩織が身もだえして快感に踊るので、それを同性愛者として可愛らしく想い、眠気も覚えず朝7時まで続けた。おかげで、すっかり詩織のどこを、どう舐めると敏感に反応するのか覚えた。ベッドの上で朝食を摂り、二人でシャワーを浴びると、詩織が言う。
「これから事務所から鮎美先生へ報告するので、ついてきてください」
「え……っと……はい」
朝槍は脳内で今日の予定を振り返ったけれど、どれもキャンセル可能なものだったので一方的な求めに応じた。二人で鮎美と石永が兼用で使っている東京事務所へ出向く。詩織が顔を出すと、先に出勤していた男性秘書と職員たちが起立して頭を下げる。
「「「おはようございます」」」
「おはようございます。鮎美先生へ報告があるので、しばらく入らないでください。朝槍先生は、こちらへ」
「お邪魔します」
二人で事務所の奥にある執務室に入ると、詩織はロッカーを開けて鮎美の予備の制服と靴、靴下を出した。
「裸になって、これに着替えなさい」
「…え……これって……芹沢先生の…?」
「二度、言わせないでください」
「は…はい…」
もう一晩で人間関係が決まってきたので、朝槍は従うことを選んだ。裸になって鮎美の物を身につける。高校を卒業して久しいので、かなり恥ずかしかった。詩織が持参したカバンから黒髪ロングのウィッグを出した。
「これをかぶりなさい」
「はい」
朝槍はショートヘアなのでネットで地毛を押さえると、ウィッグをかぶる。
「せっかく議員バッチもあるのですから、付け替えなさい」
「…はい」
素直に朝槍は都議としての議員バッチを自分の服から外して、鮎美の制服につけた。
「フフ…」
詩織が満足そうに微笑み、朝槍はプレイが続いていて、何を求められているか、だいたいわかった。
「シオリンは芹沢先生が好きなの?」
「でなければ、秘書なんて面倒な仕事を私がすると思いますか?」
「…ううん…」
「ナユ、関西弁で喋ってみてください」
「……なんでやねん…」
「………他には?」
「おおきに。うちが芹沢鮎美どす」
「……やっぱり、これはネイティブでないと無理ですね。関西弁は諦めます」
二人とも関東人が無理して真似する関西弁に寒気を覚えていた。詩織は執務机の椅子に座って足を組み、肘掛けに頬杖をつくと、冷たく見下した目で朝槍を見て言う。
「鮎美、そこに跪いて私の足を舐めなさい」
「……。はい、牧田様」
やりたいプレイは理解できたので敬称もつけた。
「詩織様と言いなさい」
「はい、詩織様。お足を舐めさせていただきます」
普段は秘書として頭を下げている相手を逆に跪かせてみたい、コスプレでもいいから、という衝動は人間として朝槍も理解できた。少なくとも自分の死ぬ寸前まで絞首されたいという願望よりは普遍的な気もするし、絞首には懲りた。今まで頼んだ誰よりも詩織は本気で殺意を込めて首を絞めてきたし、もしかしたら朝槍が死んでしまったら、それはそれで動揺もせずに海へ捨てられていた気さえする。なので、もう詩織には従っておきたかった。両手で靴を脱がせ、足の指を吸い、指のまたに舌を入れた。
「…ハァ……ハァ…」
「私の足を舐めながら、鮎美はオナニーなさい」
「はい、詩織様。鮎美はいやらしく詩織様の前でオナニーいたします」
朝槍も興奮してきて、セリフも熱っぽくなる。これから明日には全国に向けて大切な記者会見をするというのに、そして18歳の鮎美本人とは良好な関係を築いていかなければならないのに、本人の知らぬ間に制服を借りて淫らなことをしている自分たちの状況に強く興奮して止まらなくなる。今日は自民党大会が朝から開かれていて石永なども出席しているはずで、この事務所で隣室には職員もいるのにという背徳感は、性的な少数者として社会の多数派からは蔑視されているけれど、その蔑視する彼らを欺いている気持ちとあいまって二人を酔わせていく。
「さて、そろそろ本当に報告します」
「ぇ…何を……?」
「あなたは黙って私を舐め続けなさい。イかせる勢いで」
そう言った詩織は下半身裸になると、パソコンを起動させて病院にいる鮎美と映像付きの通信を始めるために陽湖へ連絡を取った。
「月谷さん、鮎美先生の、ご様子は?」
「はい、お元気です」
陽湖はタブレット端末で応答しているので手に持って、こちらを見てくる映像が送られてくる。詩織は上半身だけを送信しているので下半身がどうなっているかは、陽湖にはわからないし、陽湖の下半身も詩織からは不明なものの、何一つやましいことはない敬虔な顔をしている。
「鮎美先生に報告したいことがあります。お互いの顔を見て話せるようにしてもらえますか?」
「わかりました。お待ちください」
陽湖はタブレットを通信状態のまま病室に持ち込み、鮎美のベッドを起こして、対面して話せるようテーブルにタブレットを固定してくれた。
「牧田さん、見えてますか?」
「はい、ありがとうございます。すみませんが、月谷さんは席を外してください」
「わかりました」
陽湖が病室を出て行こうとすると、鮎美が止める。
「陽湖ちゃんも、いっしょでええよ。もう明日にはわかることやし。陽湖ちゃん、まだ誰にも言わんといてな。聴くだけ、聴いておいて」
「…はい……」
「牧田はん、状況はどないですか?」
「昨夜、畑母神先生と会談し、若干の修正を飲むことで協力を約束してくださいました。他の賛同者も…」
詩織は真面目な声で報告していくけれど、下半身は朝槍に舐めさせている。催促するように脚を開くので、朝槍は股間に吸いついた。
「芸能人も7名、アイドルが5名、女性ニュースキャスターも2名が賛同してくれています」
「そんなに……おおきにな、牧田はん」
「感謝してくださるなら、せめて詩織と呼んでください」
しおらしく求める下では、勝手に本人の制服を使ってコスプレさせて舐めさせている。舐めている朝槍は涼しい顔で会話されているのが悔しくなり、なんとしても喘ぎ声をあげさせてやろうと頑張る気になった。わざわざ下半身の性感帯をすべて正直に教えておいて、この状況に持ち込んだ詩織を通信中に絶頂させたくて舌と両手を使う。けれど、詩織は高まらず沈んだ声で言う。
「鮎美先生、報告の途中なのですが、どうしても気になるので言わせてください」
「うん、ええよ。何?」
「ずっと入浴できなかったこともあるでしょうが、かなり無駄毛が目立っていますよ」
パソコン画面に映る鮎美の腋には黒い毛が生えていて、詩織は見たくないのに目がいってしまい、言うまいと思ったけれど気になって忠告していた。
「ああ、これ? あえて伸ばしてみたんよ」
鮎美が腕をあげて見せてくれるけれど、詩織は目をそらした。
「女やからって腋は剃るもんっていう固定観念もまたジェンダーにとらわれてる気がせん?」
「そんなフェミニズムをこじらせて頭が腐った女みたいなこと言わないでください。とても見苦しいです! 鮎美先生の可愛さが半減、いえ、激減、いえ、可愛さあまって醜さ100倍です。今すぐ殺したいくらい見苦しいです!」
「そ…そこまで言わんでも……そんな拒絶反応でるんや……」
「激萎えです! 東京で評判の良い脱毛がありますから案内しますよ」
「う~ん……女に腋毛あったら、そんなにあかん?」
「ダメダメです! 女の子は女の子らしく! 男は男らしくするから魅力的なんです!」
「バイに言われると説得力めちゃあるなぁ」
「報告に戻ります。見苦しいですから腕はあげないでください」
「はい」
再び報告を始めたし、朝槍も頑張ったけれど、一度萎えた詩織の興奮はもどらず通信は終わってしまった。
「………」
詩織が不満そうに黙っているので、朝槍は頑張り続ける。それでも詩織は高まらず椅子から立ち上がった。
「一度、気分を変えましょう」
「はい、どうするのですか、詩織様」
「その下僕キャラは、もういいです。本来のナユに戻ってください」
「うん、じゃあ。で、どうするの?」
「これを、お互いに入れます」
詩織がカバンから無線式リモコンバイブを二つ出した。
「今から、これを入れたまま、お互いにリモコンを交換して過ごします」
「リモコン交換かぁ……」
朝槍も使用したことはあるので渡されたバイブを自分に入れて脱落しないように下着を穿いた。
「ナユ、ウィッグとネットを外してコートを着て、ついてきなさい」
「はい。……でも、…私が都議ってこと、忘れないでね」
コートを着れば見えないけれど、鮎美の制服を着たまま事務所から出た。詩織はスマートフォンで何かを検索している。
「今日一番、都内で人が集まるところは……ここですね」
「……秋葉原……ねぇ、……私、都議なんだけど…」
秋葉原では本日から二年七ヶ月ぶりに歩行者天国が再開していた。
「秋葉原なら、コスプレしていても大丈夫でしょう。それに、あなたはカムアウトしているし、朝槍都議だとバレても、鮎美ちゃんのファンです、と言えば通りますよ」
「う~ん……ギリギリありかなぁ……でも、追悼の…」
「歩行者天国が歩行者の地獄になった場所ですが、もう忌明けでしょう。きっと、お祭り騒ぎですよ」
「あんまりバイブのスイッチ入れないでよ」
諦めて秋葉原に移動すると、予想通り多くの人が集まっていて賑やかだった。
「ウィッグをかぶってコートを脱ぎなさい」
「……はーい…」
コスプレを再開しても、もっと派手なコスプレをしている者が何人も徘徊しているので、それほど目立たない。詩織と朝槍も徘徊しながら、ときどきリモコンでお互いのバイブを動かして、その反応を楽しむというデートを続けていた。そのうちに興奮してきたし、制服と議員バッチという組み合わせにテレビ局のレポーターが目をつけて声をかけてきた。
「それは、もしかして芹沢議員のコスプレですか?」
「え…あ、はい…」
朝槍は覚悟を決めた。今はレポーターも気づいていなくても、この映像を見た者の中には朝槍都議だと気づく知り合いや支持者がいるに違いないとわかる。都議として問題ないように笑顔で堂々と答える。
「鮎美ちゃんのファンなんです! 秋葉原での事件みたいに、鮎美ちゃんも刺されてしまって心配でしたけど、今日、退院するらしいから! 鮎美ちゃ~ん! 大好き! 早く元気になってぇ! 悲しい事件から立ち直ろうよ!」
カメラに向かって手を振る朝槍の近くで、詩織は他人のフリをしてリモコンのスイッチを入れている。しばらくして、朝槍がよろよろと歩き、恨みがましい目をして言ってくる。
「あのタイミングでスイッチを入れるとか、鬼すぎ」
「では、仕返しをしたいですか?」
「したい!」
「明日、私も春風会の代表として記者会見に立つ予定ですよね?」
「……まさか…」
「私の発言中、どうぞ、お好きにしてください」
「……」
「これから東京駅に鮎美先生を迎えに行きますから、コートを着てください。ウィッグも取って」
「………本人の前に、この制服で出ろってこと……」
「コートを脱がなければ、わかりませんよ。スリルがあって楽しいでしょう」
「……否定はしないけど……すっごい火遊びするんだ……絶対、マスコミも来るのに……もし、バレたら私たちの活動が、ふざけたものだって世間に思われる可能性も……」
「人間なんて上着を脱いで、下着も脱げば、誰もが裸です。神は裸に人間を造り、悪魔が服を着せてきた。服はみんな悪魔の小道具ですよ」
「……シオリンは、もしかして露出が趣味?」
「いいえ、バレないところで、とっても悪いことをするのが趣味です」
そう微笑んだ詩織と朝槍は東京駅へ行くと、まだ予定時刻には時間があるのに報道陣が集まっていて新幹線のホームには規制線がしかれていた。詩織は議院記章を着けているし、朝槍は都議の中では有名な方なので、規制線の外にいた記者やカメラマンたちは避けてくれ、二人は関係者として規制線の中に入った。朝槍がつぶやく。
「すごい注目……こんなにカメラが…」
コートの中に女子高生の制服を着ている朝槍は絶対にバレたくないので襟元まで、しっかりとチャックがあがっているか7度目の確認をした。そんな姿を見て、詩織がポケットの中でリモコンのスイッチを入れてくるので、仕返しもする。二人で平静な顔を装いつつ、多数のマスコミに囲まれてスイッチの入れ合いをして鮎美たちが到着するのを待った。
「17番ホームに新大阪発、東京行き、のぞみ23号が到着します」
「「………」」
どの車両に鮎美が乗っているかは、詩織もマスコミたちも知っている。新幹線が停車すると、駅の職員が車イスで乗り降りするための補助板を車両とホームの間に渡し、車イスに乗った鮎美が鷹姫に押してもらって降車してくる。一斉にフラッシュが焚かれ、笑顔で応える鮎美は上半身は制服だったけれど、スカートは制服ではなく黒の足首まで長さのあるロングスカートだった。
「芹沢議員! お怪我の具合は?」
記者の一人が質問を投げかける。
「上々です」
鮎美は答えるけれど、鷹姫は車イスを押してホームを進み、あまり質問を受けないうちにエレベーターへ向かう。詩織と朝槍も会釈して続き、他には介式と5人の男性SP、そして主治医として桧田川がついてきている。駅構内に入ると、鮎美は車イスのまま、障碍者向けトイレに運んでもらい、穏やかな声で言った。
「うちが、このトイレを使うことになるなんてなぁ……自分には無関係のことやと思てたけど、これが無かったら、うちも困るし、他にも困る人が大勢いるんやな……ホンマに当事者になって体験せんとわからんわ」
新幹線の中のトイレでは狭いので東京駅に着いてから桧田川の処置を受けるつもりで広い障碍者向けトイレに入った鮎美は振り返って、鷹姫と詩織、介式まで入ってきていたので問う。
「あの……なんで、こんなに大勢、入ってきたん?」
「これも警護です。ご理解ください」
介式は短く答えた。広い障碍者向けトイレといっても、鮎美の他に、桧田川、鷹姫、介式、詩織の合計5人もいると、やや狭く感じる。朝槍と男性SPたちは遠慮したようだった。
「鷹姫は車イスを押してくれて、おおきにやけど、できれば出ていってほしいわ」
「私も介式師範を見習って要人警護のイロハを学びたいと思っています。介式師範たちSPは数ヶ月で離れていく予定ですが、私はずっと芹沢先生を守りますから」
「………。おおきに…けど。………。牧田はんは、なんで?」
「見たかったからです」
「出ていけ」
「やっぱりダメですか」
諦めて詩織が障碍者向けトイレを出ていく。
「……鷹姫は、……見習いたいんや?」
「はい」
「………。介式はん、トイレの警護って重要なん?」
「はい、きわめて重要です。入室前に安全確認しましたが、可能な限り警護対象と離れないことが求められます。通常の女子トイレでも、できる限り離れませんから、同性の私が選ばれています」
「…まあ……介式はんは仕事やもんな……ある意味、桧田川先生と、いっしょで…」
それでも鷹姫に見られるのは嫌だったのに、鷹姫が断られる前に言ってくる。
「かの上杉謙信も厠で絶命しましたが、脳梗塞説、心筋梗塞説の他に暗殺説もあります。安全に見えて、もっとも危険なのかもしれません」
「そうらしいけど……暗殺って時代でも……まあ、うちも刺されたけど……」
「そろそろお腹がはってるでしょ? 立ってパンツ脱いで」
桧田川がゴム手袋をしている。
「う~………せめて鷹姫には……」
桧田川と介式は業務なので諦めがつくけれど、どうにも鷹姫に見られるのは嫌だった。そして鷹姫に出ていってもらうよう説得する方法を閃いた。
「鷹姫、あんたが先に、うちと同じ処置を受けいよ」
「……なぜですか?」
「このトイレは初めて使うやん? 安全か、どうか、さきに、あんたが毒味役になり」
「………便座に座ればよろしいですか?」
「ちゃうよ。桧田川先生、どんな処置か説明したって」
「はいはい。ま、見られたくないよね、友達にはさ」
桧田川が小声で鷹姫に処置内容を説明すると、鷹姫は戸惑う。
「…そ……それは……」
「ほら、さきに。鷹姫が身をもって安全確認してや」
「………。室内は安全なようですから……わざわざ私が処置を受けなくても……」
「やってみな、わからんかもよ」
「……」
「鷹姫、うちも見られとうないし、出ていって。介式はんが警護してくれはる期間中に、うちも普通にトイレできるようになるはずやし。お願い、出ていって」
「はい」
鷹姫も出ていった。
「じゃ、自分でスカートをあげててね」
桧田川はゴム手袋で処置を始めた。終わると、カテーテルを接続している小型のパックも交換する。パックは鮎美が歩行しても座っていても尿を貯めてくれるように、ふくらはぎの下部にサポーターで支持されていて、それを他人に見られないためのロングスカートだった。
「もういいよ。終了」
「おおきに」
桧田川から処置を受けることには慣れてしまったので平静に鮎美は鏡を見て衣服を整えてから車イスに座った。桧田川が車イスを押してくれ、介式が油断なく扉を開けて先に出て安全を確認する。外には男性SPもいるので何の危険もなく、ただマスコミが再びフラッシュを焚いてきたので不快だったものの、鮎美は笑顔をつくった。
「芹沢議員、刺されたことで障害は残るのですか?!」
「……」
残らない予定だったけれど、そう答えると不治の障碍者と自分を離断するような気がして答える気にならなかった。秘書しか護衛がいないときと違い、体格のいい男性SPたちが円陣で守ってくれるのでマスコミは近づけず、桧田川に代わって鷹姫が早いペースで車イスを押してくれるので、東京駅構内を進み、外のロータリーで待ってくれていた自民党の車両に乗り込む。乗り込むときは一時的に自分の脚で立って歩いた。その姿を目が眩むほどフラッシュを連発して撮影されたので、車が走り出してからタメ息をついた。
「これ、うちが治らん障碍やったらキレたかもしれんわ。どんだけ人を晒しもんにするねん」
鮎美の言葉を聞いて桧田川もタメ息をつく。
「他人の不幸は面白いんだよ。救いようのない人のサガでね。私が婚期を逃してるのも、看護婦たち、裏でコソコソ言ってるから」
「女医さんって恵まれた感じしますけど?」
「そう見えるでしょうけど、かなり生きにくいよ」
桧田川が女医の苦労を語っているうちに、自民党大会が開かれている会場に到着した。再び車イスに乗せてもらい、鷹姫に押してもらって会場に入ると、万雷の拍手で迎えられた。ステージ上で他の国会議員たちと合流する。鷹姫は記念撮影のために押していくべきステージ上の位置を事前に教えられていたので、そこに車イスを停めると、ステージをおりる。鮎美はステージの中央、谷柿の隣りに配置されていた。谷柿が笑顔で全体へ叫ぶ。
「芹沢先生が復活してくださいました!!」
「……」
うちはイエスか、と突っ込みたいのを我慢して笑顔で手を振る。大きな声は出せないので、せめて笑顔だけは全力でつくる。
「芹沢先生の復活は、我が自民党復活の象徴です!! みなさん、万歳三唱でしめましょう!」
もう大会のプログラムは、ほぼ終了していて、あとは万歳三唱しつつ記念撮影するという段取りだけだった。
「「「「「万歳! 万歳! 万歳!」」」」」
鮎美も大きく手を振るのは腹部の傷に悪いので、ゆっくりと低めに万歳して会場の雰囲気に気持ちを合わせていく。総選挙で大敗した自民党は復活を狙い、朝からの党大会で気運を盛り上げていたようでテンションの高さに入場したときは引いたけれど、鮎美も盛り上がりに合わせ、ゆっくりと車イスから立ち上がった。鮎美が立つと、また大きな拍手と万歳が続く、党大会は谷柿の願い通り成功裏に終わった。