「女子高生総理・芹沢鮎美の苦悩」   作:高尾のり子

50 / 91
1月28日 朝ナマ

 

 翌1月28日の金曜日、鷹姫は百色とビジネスホテルで食べ放題の朝食を摂っていた。約束して二人で食べているわけではなく、ただ時間帯が重なることと、有名すぎる女子高生議員の秘書と、有名すぎる元海上保安官のそばで食べようという者がいない上、朝のビジネスホテルはテーブルに空きが少ないので、鷹姫も百色も連泊している流れで、いつの間にか、朝食だけはともにしている。そして鮎美が都知事選を応援する予定なので、同じく畑母神を応援している百色とは朝食会議のような会話になる。

「閣下の不倫騒動は、お嬢さんのボスが派手な記者会見やってくれたおかげで下火になったぜ」

「ボス?」

「組長の方がいいか?」

「芹沢先生のことですか?」

「おうよ」

「組長……」

 鷹姫は反社会勢力よりも、幕末の剣客集団を思い出しているようで、いつもは乏しい表情を嬉しそうにしたけれど、それほど笑顔になるわけでもない。デザートのプリンとフルーツを食べ、満足して鮎美がいる議員宿舎へ顔を出した。秘書としてスケジュールを告げる。

「本日の芹沢先生のご予定ですが、午前10時より国会、予定通りであれば午後5時に終了。すぐに宿舎へ戻っていただき、お弁当を用意しておきますので召し上がっていただき、できるだけ早く仮眠してください。午後11時30分には起床していただき、テレビ局へ向かいます」

「朝ナマか……ぼんやり見てる側やと夜更かしのついでやけど、出演する方は気合い入れて仮眠せなあかんのやなぁ」

 つぶやきながら鮎美は習慣的に鷹姫のポニーテールを撫でようとしたけれど、その手を途中で止めた。もうセクハラはしない、鷹姫とは議員と秘書、そして友人という関係に留めると自戒したので、撫でたり頬擦りしたりするのは我慢した。もしも男性議員と女性秘書で同じことをやっていれば、すぐに性的関係があると周りに思われるし、もう鮎美はカミングアウトしたので人目のあるところで同性に触れるのも慎重にならなければいけないと考えている。

「私自身の行動は、どちらを優先すべきでしょうか?」

「鷹姫の? どっちって何を?」

「芹沢先生のそばで付き添うことを優先すべきか、いまだ忙しい東京事務所の電話応対を手伝うべきか、です」

「そうやね………。うちが国会に出たら、議場外にいてもらっても、……介式はんは当番なん? 非番なん?」

「当番です。すでに部屋前で待機しておられます」

「ほな、二人で稽古もできんし、事務所を手伝ってやって」

「はい」

「………」

 また鷹姫に触れたくなった。物足りない。いつもなら、胸やお尻に触ったり、うなじを舐めたりするのに、髪に触れることさえ自戒すると、物足りなくて淋しい。

「議場までお伴します」

「……うん……その前に、うちの髪の毛、ちゃんとなってる? 櫛でといてくれる?」

「はい、美しく整っていますが、ときなおした方が良いですか?」

「お願いするわ」

「わかりました」

 鷹姫が髪に触れてくれるのを、せめてもの悦びとして桧田川と三人で廊下へ出ると、介式もついてくる。国会議事堂に着くと鮎美は議場へ、介式と桧田川は議場外で待機し、鷹姫は事務所へ向かった。鮎美は隣席の翔子と私語して、昨日は思いつきにすぎなかったセクハラへ行政罰を科す法整備と、その運用に電子システムをもちいる案を話し合った。昼食時も翔子と音羽も交えて話し合ったけれど、夏子から顔を見て話したいとメールが入っていたので急いで食べ終え、国会の廊下でタブレットを持ってネット回線で県知事と対面会話する。

「いよいよ今夜だね、鮎美ちゃんの朝ナマ出演」

「あっという間でしたわ。いろいろあって」

「まだまだあるよ。アメリカのテレビ局NBCが取材させてほしいって言ってきたらしいね?」

「らしいですね。牧田はんから報告がありましたわ、今朝」

「牧田さんが条件付きでOKして、その条件が私も同席すること、だってさ」

「加賀田知事を?」

「どのみち話はセクハラ問題とかより、経済学的な連合インフレ税のことがメインになりそうだから、鮎美ちゃんじゃ知識面で不安なとこあるでしょ?」

「ありまくりですよ。うちはサラッと半年勉強しただけの小娘ですもん」

「そこで私の出番、数理経済学が専門だった私を同席させれば、なんとかなる、みたいな発想」

「さすが牧田はん、手抜かり無いわ」

「忙しい中スケジュールを空けた私にも感謝してよね。アメリカのテレビに出ても、地元には何もアピールにならないんだから」

「おおきに、ありがとうございます」

「じゃ、土曜の朝10時からある県の消防団イベントに顔を出して。私と仲良く地元愛アピールに」

「ちょっ、うち今夜、朝ナマですよ?」

「始発の新幹線で十分に間に合うよ。地元愛をアピールしておくのは大切だよ。天下国家、国際社会のことばっかり語っても、民衆はついてこない。何より、朝ナマで早朝まで東京にいたはずの鮎美ちゃんが朝10時には阪本市でのイベントに参加してくれた。これは小さなレジェンドになる。新幹線でぐっすり眠れば若いから大丈夫だよ、頑張って」

「鬼や……あんたのせいで近場に駅がのうて、京都まで乗るのに」

「その分、長く寝れると思って、京都駅から会場まではタクシーの中で寝ればいいよ。政治資金の正しい使い方」

「それは、そうかもしれんけど…」

「月曜に1ドル82.69円だったドル円相場が、この一週間でジワジワ2円も円高になってるの、知ってる?」

「一応は」

「日経平均は1260円も下がったよね」

「……うちらの記者会見のせいなんですか?」

「金1グラムの価格が4000円を突破したよ」

「各国の紙幣価値の下落を見越して?」

「そう。でも、これは私たちのせいだけじゃない。10年前に1グラム1105円だった金は着実にあがってきていた。有事の円買いと言われるほど、安定してると思われてる円に対して、金は4倍も価値をあげた。有史以来、経済的価値の象徴は金。紙幣や株は紙切れになるけど、金は永遠に金、利息も配当もつかないけど、超安定、絶対的に価値が保たれる。ある意味で連合インフレ税を脱税するなら、金だね。素早いね、超お金持ちたちはさ」

「……」

「この一週間で世界は反応した。鮎美ちゃんが開けたのはパンドラの箱かもしれないよ?」

「……。うちは、まともなこと言うたつもりです」

「そうだよ。でも、まともだからこそ、反応する。タックスヘブンの問題は世界の首脳たちにとっても悩みだった。けど、一方で首脳たちの一部や周辺もタックスヘブンを利用する側の人間だったりする。鮎美ちゃんが言ったのは、そういうこと」

「………」

「ま、これからも、お互い、協力していきましょ。じゃあね」

「はい、また」

 通信を終えた鮎美は午後の国会が終わると、議員宿舎へ戻り早々に桧田川と眠った。夕方から夜中まで眠り、テレビ局に移動する。この時点で本来なら介式は非番になるはずだったけれど、鮎美と同じタイミングで仮眠してテレビ局での警護についてくれる。どうしても男性SPではトイレや更衣室、楽屋などに出入りしにくい場面が出てくるので連続勤務してくれる。鷹姫はテレビ局への同伴よりも事務所での仕事を優先し、今はビジネスホテルで眠っていて、始発新幹線での移動から合流する予定だった。

「牧田はん、お疲れさん。少しは眠ってくれた?」

「2時間ほど」

 ずっと国際電話などの応対をしてくれている詩織は時差のおかげで24時間体制で働いてくれている。そして、今は春風会の代表として鮎美と同じく初出演のメンバーとしてテレビ局に来たのだった。控え室に入ると、本日の出演者たちと顔を合わせたものの、ゆっくりと挨拶している時間は、すでに無い。国際経済学者や共産党議員、漫画家、眼科医などで直接の面識はない人たちばかりだった。わずかに畑母神が党代表である日本一心党の元衆議院議員がつながりがないわけではないという程度だったし、その落選中の女性元議員が声をかけてくる。

「おはよう、芹沢先生」

「おはようございます。水田先生」

 事前に鮎美は水田脈実(みずたみみ)のことを詩織から聞いていた。保守的な政党である日本一心党に所属しているだけあって同性愛者に対しては寛容でないらしい。とはいえ、畑母神と鮎美が協調路線を取っているので挨拶は穏やかなものだった。鮎美と水田が何か言葉を交わす前に漫画家が話しかけてくるので応対し、挨拶を交わして一番に訊いてきたのは自分の漫画についてだった。

「鮎美ちゃんさ。ワシの漫画、読んでくれてる?」

「夕方30分ほど予習してきましたよ」

 挨拶を交わしたときに、鮎美ちゃんと呼んでいいと許可したので笑顔で答えた。漫画家として中林よしのぶはガックリと肩を落とした。

「そっか。もう漫画とか読まない世代になってきてるよね。君の歳だと」

「そう気を落とさんといてください。うちが漫画を読まんのは、自分が同性愛者やいうことが大きいですから」

「ほォ? なぜ?」

「だいたいの漫画は男女の恋愛を描きますやん。読んでもつまらんのです。中林先生も男と男の恋愛漫画を読みたいとか、描きたい思いますか?」

「そ、それは勘弁してくれ」

「ということですよ」

 定刻となったので全員がスタジオに入り着席した。スタジオ中央にテーブルがあり、それを囲んでの討論となる番組で、放送が始まり司会者が名乗る。

「司会の畑原壮一郎です」

 出演者の紹介となる。

「国際経済学が専門の桝添直樹(ますぞえなおき)氏です」

「桝添です。よろしく」

「共産党衆議院議員で弁護士の辻本瑞穂(つじもとみずほ)さんです」

「辻本です」

「漫画家、中林よしのぶ氏です」

「中林です」

「元衆議院議員の水田脈実さんです」

「水田です」

「番組後半のテーマである売春の合法化について活動されている春風会代表の牧田詩織さんです」

「牧田詩織です。よろしくお願いします」

「眼科医の可山ミカ(かやまみか)さんです」

「可山ミカです」

「史上最年少の自民党参議院議員の芹沢鮎美さんです」

「芹沢鮎美です。よろしゅうお願いします」

 本日のメインゲストに位置づけられている鮎美へ、いきなり司会者の畑原が質問してくる。

「番組前半のテーマは新しい参議院制度についてですが、今現在、ちまたで、もっとも総理大臣にしたい人ナンバーワンと言われている芹沢さんは、どうですか? 総理大臣にならないか、と、もし言われたら? なりますか?」

「国会議員は衆参合わせて1403名ですが、この一人一人が、いつかは自分が総理大臣になるつもりで勉強していくのが本道やと思います」

 鮎美は予想していた質問だったので落ち着いて答えたけれど、さらに追求してくる。

「今ずいぶん言葉を選んだ答えを用意されていましたが、つまり否定しない? 自分が総理になる可能性を」

「…。否定しません」

 ざわつきがスタジオに拡がった。出演者の周囲には一般視聴者が応募で50名ばかり着席している。ざわつきは好感と失笑が混じっていた。畑原は嬉しそうに笑って言う。

「芹沢さん、度胸がありますね」

「いっぺん刺されましたし」

「あの事件、あれも難しいテーマを多く含んでいて触れたいけれど、今は参議院制度に絞りますね。どうですか? 一週間、国会議員として登院した感想は?」

「すでに三年間、クジ引きで当選した先輩方が体験され、一部で正直に述べてはりますし、従来の選挙で選ばれる衆議院の先生方も本音では思てはるでしょうけど、座ってるだけというのは大いに無駄ですね。うちやったら少し制度を変えたいですわ」

「ほォ、どう変える?」

「現状は、代表質問に立つ議員と内閣のやり取りを、ただ座ってみているだけ。ひどいと野次を飛ばしますよね。むしろ、野次は議場の花とか意味不明なこと言うて。あんな風に野次を飛ばしてるくらいなら、いっそ各議員に発言の機会を一会期あたり30分までは与えると制度を変え、ただ聴いているだけでなく、どうにも言いたいことがあるなら、挙手して議長に許しを得て、言いたいことを言うべきです。そうすれば、どうせ座っているだけ、という気持ちから、何か指摘すべきことは指摘せねば、と気持ちが変わり眠気も飛ぶでしょう」

「新しい発想ですね。若干、学級会という気もしますが」

 田原が言い、桝添が付け足す。

「時間が足りないよ。国会が終わらなくなる」

「誰もが目一杯30分を使うとは限りませんし、そこは議長の差配もあるんちゃいますか。あと、制度を始めるときは10分で試験運用してもええやろし」

 鮎美の意見に辻本が頷いてくれた。

「賛成ですね。開かれた国会には、発言の機会があるべきです」

 その後も議論は鮎美を中心に展開し、前半が終わってCMを流しながらの休憩中に鮎美はトイレに立った。介式と桧田川、詩織もついてくる。

「はぁ…疲れた。後半は牧田はん中心になってくれるとええなぁ…」

「私はディレクターとの人間関係で無理に割り込んだ雑魚ですから。というか、鮎美先生を出演させるのと引き替えに出演してるくらいに思われてますよ」

「せやとしても、後半のテーマは売春合法化やん、頑張って発言してな」

「それも半分は連合インフレ税や赤ちゃん手当の話になるでしょうね」

 女子トイレに入ると介式が個室をチェックしてくれ、そこに鮎美が入って小便だけ済ませて出たのに、詩織が鮎美の手首を握って再び個室へ連れ込み、二人きりになろうとするので介式がドアを押さえて制止した。

「何をしている?」

「鮎美先生とキスしたいなって想っているだけです。中で殺したりしませんよ。ご安心ください」

「……」

 介式が詩織から鮎美へ視線を移す。キスと言われて鮎美は赤面していた。

「い、今なん? こんなせわしないトイレ休憩中に?」

「してくれないなら、私はもう仕事を投げ出しますよ。連合インフレ税の国際的な連絡、私がいなくなったら、とても困るはずです」

「……」

 鮎美が応じる目になったので詩織は介式へ涼やかに言う。

「ということです。二人きりにしてください」

「いや、私も立ち会う」

「……。いいご趣味ですこと、どうぞ中へ」

 三人で女子トイレの個室に入ると、かなり狭い。詩織はキスと言ったのに無線リモコン式のピンクローターをポケットから出した。

「鮎美先生、ショーツを膝までおろしてください」

「キスなんちゃうの?」

「今までの人生に無いほど、頑張って働いてる私にご褒美があってもいいと思いませんか?」

「……。それを……うちの中に入れる気なん?」

 去年まで電マの使い方も知らなかったけれど、スマートフォンを持つようになって大人のオモチャに対する知識も少しは得ている鮎美は楽しそうに詩織が指先で摘んでいるピンクローターが振動して快感を与えてくるものだとは、なんとなく知っていた。

「安心してください。今はクリだけです。ロストバージンは、もっと素敵な夜にしますから」

「……」

「お願いします」

「……ちょっとだけやよ」

 鮎美は諦めて膝まで下着をおろした。詩織がピンクローターを鮎美の股間へテーピングテープで固定する。

「これはリモコンで動かせます」

 そう言って詩織はリモコンを操作して微弱で振動させた。

「んっ…」

「いいところに当たっているようですね。背中を向けてください」

「…何をする気なんよ…」

 時間が無いのはわかっているので鮎美は言われる通りにしつつも不安になる。

「可愛いお尻にキスさせてください」

「……」

 鮎美は詩織へ背中を向けているので介式とは向かい合ってしまい、恥ずかしそうに目を伏せた。詩織はしゃがむと鮎美のスカートをめくり、お尻へキスしてくる。したい気持ちは、よくわかるし、鮎美も似たようなことは何度も鷹姫にしたけれど、するのと、されるのでは感覚が大きく違う。温かい詩織の唇が何度もお尻へ押しあてられる。くすぐったいのと気持ちがいいの、そして何より恥ずかしいので顔が火照って目が潤む。こんなときでも介式は詩織が不審なことをしないか、しっかりと見張っているようで視線を感じる。

「…んっ……く、くすぐったいって…」

「大好きですよ、鮎美先生」

「お尻に話しかけんといてよ。…ひゃうっ?!」

 鮎美はお尻を舐められて身もだえした。唇より温かい舌がお尻を舐め回してくる感触は何倍も艶めかしくて性感を刺激されたくないのに高まってしまう。さらに詩織の舌が割れ目の奥まで入ってくる。

「…ハァ…い、嫌よ、そんな奥まで舐めんといて…」

「芹沢議員は行為を嫌がっている。やめなければ強制わいせつとみなす」

「鮎美先生、ご褒美ください」

「……」

 鮎美は強くは拒否しない。それで詩織は調子に乗る。

「もっと脚を開いて、お尻を突き出してください」

「……そんなカッコ嫌よ…」

「ご褒美をくれないご主人様へお仕えするのは辞めますよ? 私がジェトロへ勤めていたときの同僚が今はIMFにいるのです。明日にも連絡が入ります。私は仕事を辞めるとき、引き継ぎなんて一切しませんから」

「「………」」

 海外経験のある詩織の人脈は大きく鮎美の計画に役立っていて、もともと野党の一年生議員にすぎない鮎美が何を言い出しても絵空事にしかならないはずが、外圧に弱いという日本の特徴を利用して外から変えようとしているので、もはや詩織は欠かせない存在になりつつある。鮎美がクリストファー・コロンブスなら、理論を補完してくれる夏子が羅針盤、そして詩織は帆船だった。

「私にご褒美をくださるなら、お尻を突き出して、ご自分の両手で広げてください」

「………丁寧に言うてくれてるけど、それ、ほぼ命令やん…」

「芹沢議員、ご命令いただければ、今すぐ、この女を逮捕する」

「鮎美先生、どうします?」

「芹沢議員、どうする?」

「……うちは…」

 二人に迫られて鮎美は恥ずかしさで涙を流しながら、お尻を突き出して自分で広げた。すぐに詩織が触れてくる。桧田川がゴム手袋で触れてくるのとは、まったく違う感覚だった。優しくても医療処置でしかない桧田川の触れ方と、優しくても性的欲望に溢れた詩織の触れ方では、受け取る側の感触も恥ずかしさも別格だった。そして、詩織の舌が鮎美の中に入ってきた。

「っ?! そ、そんな中に……汚いって…」

「フフ、毎日、桧田川先生から調教されてるだけあって敏感になってますね」

 詩織は舌先を鮎美へ出入りさせつつ妖しく言った。

「ちょ、調教なんか、されてへんし…」

「私の舌を吸ってきますよ。鮎美先生のお尻の穴がキュキュゥって」

 詩織がリモコンのスイッチを入れた。それで前後から刺激され、鮎美は意に反して高まる。どうしようもなく感じてしまい、上半身がふらつくと介式の胸へ倒れ込んでしまった。

「っ…す、すんません。わざとやなくて…」

「……」

 介式は無表情のまま、鮎美の両肩を握って支えてくれた。おかげで、まるで介式まで協力して鮎美を攻めているような体勢になる。

「…ハァ……ぅ…ハァ……んっ……も、もう立ってられへんのよ…ハァ…詩織はん、かんにんして…」

「フフフ、では仕上げに入ります」

 詩織はポケットから二つめのピンクローターを出すと、鮎美のお尻へ入れ込んだ。

「んぅ……何を入れたのん?」

「前に貼りつけたものと同じですよ」

「ハァ…ハァ…これ以上、うちに何を…」

 個室の外から桧田川の声が響いてくる。

「いつまでキスしてるの? もうCMが終わったって、スタッフの人が焦ってるよ!」

「すみません! 鮎美先生の具合が悪いみたいで、あと少しかかります!」

 平然と詩織は嘘を叫んだ。

「私が診た方がいい?!」

「いえ! あと少し休めば大丈夫そうです!」

「じゃあ、そう言ってくるね!」

 桧田川が遠ざかっていく。

「鮎美先生、この前、ジェンダーがどうのと変なことを言って腋を処理していませんでしたよね。退院して、ちゃんとキレイにしましたか?」

「……まだよ。……このままにしてみよ、思てるし」

「はぁぁ……」

 詩織が大袈裟にタメ息をついた。

「失望します。がっかりです。残念です。悲しいです。上半身を脱がせたくなくなります」

「……毛が生えるのは自然なことやん」

「もし、宮本さんがヒゲを伸ばしたら、どう感じますか?」

「「………」」

 鮎美と介式が立派なヒゲをたくわえた鷹姫の顔を想像した。もともとポニーテールが髷のようなので、ヒゲが加わると、いよいよ武士に見えてくる。日本刀がよく似合う美青年が想像された。

「……それは、見とうないかも」

 鮎美は同性愛者なので、やはり男性化されると萎える。一部の同性愛者には異性装した同性が好きだ、という性癖があるのは知っているけれど、やっぱり鮎美は女子としての鷹姫が好きだった。詩織もバイセクシャルではあっても、何でもいいわけでもなかった。

「そういうことなんですよ。性的指向、以後の問題です」

「…う~ん……」

「あんな腋を堂々と見せられると、すごく引くんです。女の子って感じがしないじゃないですか」

「………」

「羞恥心を無くした女の子なんて、知性を無くした人間、鼻を無くしたゾウ、首が短いキリンです」

「「………」」

「鮎美先生には、しっかり羞恥心を思い出してもらいます。さ、ショーツをあげてください」

「……」

 言われるとおりに鮎美は下着を直した。

「では、スタジオに戻ります」

「っ、なっ? まさか、このまま?!」

 思わず大きな声をあげてしまい鮎美は口を押さえた。女子トイレには鮎美たちしかいない気配だったけれど、聴かれたら議員として困るので小声になる。

「まさか、このまま生放送に出演しろなんて言わんよね?」

「言います」

「……」

「さあ、行きますよ」

「……嫌よ」

 無線リモコンで操作されるピンクローターを前に貼りつけられ、後ろに挿入された状態で全国に流れる生放送に出演するなど、とてもできない。トイレの個室内で詩織に舐められるくらいなら、嫌と言いつつも許容範囲だったけれど、今度こそ本当に嫌だった。

「絶対、嫌やし」

「ご褒美をくれないなら何もかも投げ出します」

「……」

 鮎美が困っていると、介式が黙っていられず口を開いた。

「これではセクハラではないか?」

「いいえ、これはセクトレです」

「「セクトレ?」」

「取引ですよ。セクシャルトレード。世界を救う大事業には犠牲がつきもの、それにバレなきゃ鮎美先生もハラハラドキドキで気持ちいい、私も楽しい、いいことだらけです」

「………うちが嫌がってるのに無理強いすんの? うちのこと愛してくれてるんちゃうの?」

「愛していますよ、とっても」

「けど、これやと、ただ欲望の対象にしてるだけやん。そんなん愛ちゃうよ」

「哲学的なことを言いますね。鮎美先生は聖書を読んだことがありますか?」

「一応、そういう学校に行ってるから、パラパラっと全体の100分の1ほど」

「私は一度だけすべて読みました。そして、あの本のどこかにあります。神は愛」

「……そやから?」

「神はいると思いますか?」

「………どちらかといえば、おらんと思うよ」

「ではイコールで結ばれる存在も不存在なのでしょう」

「…………」

「男女の夫婦にしても同じです。お互いの欲望にとって望ましい関係であるうちは、いっしょにいますが、そうでなくなれば彼らも離婚しています」

「……そうかもしれんけど……」

「欧州で暮らして感じましたが、私には仏教の説く愛別離苦や諦観の方が説得力を感じますね。ハルマゲドン後の復活と楽園など、ただの願望にすぎません」

「………」

「そして、私は願望に忠実です。鮎美先生の可愛く悶える姿が見たいです」

「………嫌よ……」

「お仕事、辞めさせてもらいますよ?」

「……ううっ……そうやって、自分の欲望を押し通すんや……うち、本気で嫌やし、怖いわ。こんなん着けられてテレビに出るの、嫌よ。かんにんしてよ」

 鮎美は悲しくなって涙を零した。もう鷹姫へ性的な接触はしないと自戒していくなら、これからは詩織との性的関係も年齢差はあっても悪くないと想っていたのに、穏やかに求められるのでなく、こんな風に迫られるのは悲しい。なのに詩織は自分が不可欠な存在となっていることを利用してくる。

「そろそろ戻らないと本当に、みなさんが困りますから、覚悟を決めてください」

「……うち、もしバレたら自殺するしな。生きていけへんから、ホンマに死ぬし」

「バレないように楽しみましょう。二人で」

 そう言った詩織は介式の不快極まりない顔を流し目で見た。警護対象が目前で性的虐待を受けているのに何もできない。単純な襲撃者なら撃退するのに、介式には立ち入れない鮎美たちの事情があり、どうにも口出しできない。そして詩織は警察組織の一つの先鋭であるSPを無力化していることにも悦びを感じているような顔をしている。

「そろそろ戻りますよ」

「「………」」

 詩織に続いて鮎美と介式も女子トイレを出るとスタジオに戻った。すでにCMは終わっていて、かなり迷惑なほど離席していたので畑原が言ってくる。

「ああ、やっと戻ってきてくれましたか。具合でも良くないですか?」

「はい…ちょっと…」

 鮎美は顔を伏せて言う。トイレの個室内にいるときは、それほどでもなかった羞恥心が明るいスタジオで大勢に囲まれると、枯れ野へ火を放ったように燃え上がってくる。なのに詩織はリモコンを操作して気の休まる間もないほど頻繁に刺激してくる。介式は心配そうについてきたけれど、テレビカメラの被写界に入る前には足を止め、他のスタッフたちと同じ位置で待つ。後半の議題は売春合法化だったけれど、詩織の読み通り連合インフレ税や赤ちゃん手当など、どうしても話題の中心は鮎美になる。

「…ハァ…」

 つらそうに鮎美が熱い吐息を漏らす向かいで水田が発言している。

「赤ちゃん手当というのは一見素晴らしいと思いますよ、私も。けれど、やっぱり無責任なセックスを助長すると考えるのです。そのあたり芹沢さんは、どう考えておられます?」

「…ハァ…んっ…」

 鮎美が言い返そうとするタイミングで詩織が振動を強めてくるので思考力が無くなる。詩織はリモコンでは攻めておいて、議論ではフォローに回る。

「その点、私も秘書という立場でよく鮎美先生のお考えを聴いているのですが、若年層の雇用が安定しない中、責任が取れる世帯収入がある世帯がどれだけあるのか。大企業の利益を増大する中、被用者の所得は減り続けている。ここを是正すると同時に、より動物的な観点から助けが必要だと考えるわけです」

「動物的というと?」

 畑原が鋭く問うてくれるので詩織は話を進めやすい。

「動物、とくに哺乳類、その一生を観察しているとき、どこで一番助けてあげたくなるか、どこで助けが必要か、これは妊娠中と子育て期なのです。妊娠中、メスはエサも取りに行けません。ここのフォローをオスが行う場合と、そうでない場合があります。この部分のフォローを公、種集団全体でやってしまおうというわけです」

 詩織の発言へ中林が口を挟んでくる。

「待って待って。動物論よしとしよう。人と動物の違い、そこに人情がある。けど、一方でヒトも動物だ。進化とか、弱肉強食、優勝劣敗ということを考えたとき、マルクス主義のような極度な平等化は、どうなんだろうな? と立ち止まって考えることも必要じゃないか?」

「いいえ、むしろ立ち止まるべきは資本主義社会、偏った極度な競争社会です」

「ハァ…っ…」

 せめて鮎美は賛同を示すように頷いておくけれど、前後のピンクローターが攻め続けてくるので、今にも喘ぎそうで額に浮いた汗をハンカチで拭った。詩織はリモコンを操作しながら真面目な顔で語り続ける。

「今の日本社会で子供を産み育てられる世帯というのは非常に限られてきます。これだけでも集団としての総数が減るという問題があることは、すでに認識されていますが、再生産を行う世帯の性質が非常に一様になってくるというのも問題です」

「っ…ハァ…」

「一様というと? …芹沢さん、大丈夫? やっぱり具合悪いかな。ドクターいたよね。診てあげて。で、一様というと?」

 畑原は番組に影響がでないよう議論を進めながら桧田川へ手招きした。それで桧田川は鮎美に近づいて診るけれど、トイレの個室内では詩織と鮎美がキスしたくらいとしか認識していない桧田川の問診へ、鮎美が、大丈夫です、と答えると聴診器をあてるわけにもいかないので、それでスタッフたちと同じところへ戻る。詩織はリモコンを操作しながら議論を続ける。

「食える職業に就いている人だけ、あと、ごく一部の才能があって運もあった成功者だけが子供を産み育てられる経済力をえるわけです。これが繰り返されると、クジャクの尾羽が美しくなるように、この能力が秀でていくという進化圧をかけることができますし、それは一つ肯定されることです。けれど、この一つの肯定のために他はほぼすべて否定されてしまいます。一つと言いましたが、才能があって運もあった成功者の子が、また成功するということは今の社会、ほぼ無いですよね。漫画家の子が、また漫画家になって成功している例、私は知りません。ありますか、中林先生?」

「いやぁ、ワシらは他の先生方には、あんまり干渉せんし付き合いも薄いから。それにアニメ化されたヒット作を出したような漫画家でもね、ずっと食えてるかというと、食えてないというのが実体だよ。漫画家なんてのはヤクザな仕事で、使い捨ての消耗品みたいなもんだよ。漫画家で安定して子育てしたなんてのは、ほんの一握り。あとは転職して、たぶん、まあ、それほど望むような仕事には就けてないだろう」

「歌手の子が歌手、ダンサーの子がダンサーというのも、成功例は希有です。けれど、この二代目が保護されていれば、三代目で、また面白い作品なり素晴らしい歌声などを発揮するかもしれない。なのに、安定して再生産できるのはコツコツ働く正社員型の人間ばかり。このタイプの人間ばかりになったとき、その社会は多様性を失い、とてもモロくなります。大きな変化が外部環境にあったとき、それについていけず、受け止める幅としての多様性がなく、ポキッと折れてしまいます。それこそ巨大化しすぎた恐竜のように」

 詩織へ畑原が突っ込む。

「ってことは、つまり役に立たないことをしてる人間にも子供を産ませようと? その性質を残してもらおうと?」

「そうです。今は役に立たなくても、何か変化があったとき、それは役立つかもしれません。もっと単純に早く走る能力というのは動物の中では、それなりに役立つ大切な能力ですが、この能力で今の社会で食べていける人はオリンピックに出られるような、ごく一部の層ですよね。この層が王族のように一夫多妻でドンドン子供を産めば、それは一つの進化の方向性になりえますが、実際には一夫一婦の国が多く、また多子であっても、せいぜい10人を超えません。なのに、オリンピックに出られなかった層、各国の候補選手レベルの層は、かなり脚が早いのに十分な経済力をえられず再生産できないなら、そもそも種全体の中で脚が早いという層は消失していくでしょう。これでいいのか? というわけです」

 中林が言ってくる。

「牧田さんは売春合法化が持論らしいけど、一夫多妻制も否定しない?」

「むしろ肯定します」

「おお! 珍しいね、女性なのに。けど、一夫多妻制は実は男性に不利なんだ。これ、あんまり知られてないけどね。力のあるオスが複数のメスをえるとさ、あぶれるオスが絶対いるんだ。女だってさ年収3000万円の旦那の第二婦人か、年収200万の男を独占するか、と問われたとき恋も愛もねぇ、お金だ、となるわけだ」

「男性の魅力はお金だけではありませんよね。ハンサムな顔立ち、素敵な仕草、不思議とときめく匂い、足の速さでもいいですし、ダンスの巧さ、私を軽々と持ち上げてくれる筋力というのも魅力です。でも、これらの魅力は現代社会では評価されにくいものです。そこに赤ちゃん手当があれば、女性は魅力的と感じる男性と子供をつくることができます」

「…んぅ…」

 とうとう鮎美が絶頂してしまい、身震いしつつヨロめく。

「…ハァ…ぐすっ…」

 全国に放送されている番組中に性的な絶頂を迎えてしまい、泣きそうになった。少し詩織がリモコンで攻めるのを止めてくれる。水田が挙手して発言した。

「芹沢先生がいる前で言うのは気が引けますが、ちょうど赤ちゃん手当の話になったので言いますけれど、LGBLの方々というのは、やはり生産性に欠けると思うわけですよ」

「……」

 鮎美はぼんやりと聞き流したけれど、畑原が意見を求めてくる。

「今、水田さんが言ったこと、芹沢さんは当事者の立場で、どう思います?」

「…ハァ…ただの役割の違いやと思います。…すべての男女が結婚すべき、と考えるのも間違っているように。また、望んでも子供ができない不妊症の夫婦がいるように、社会の中で、すべての個体が子育てを行わなくても、それぞれに分業して何らか社会に寄与できればよいし、まったく寄与できない障碍者も、その存在を否定されるべきでないと考えます。っ…、それゆえ合計特殊出生率を維持しようと思えば、健康に出産できる夫婦は4人、5人と産んでいただくのが望ましいですし、それをサポートしようと思ったら産まない層の人間が別の働きをして社会を維持し、赤ちゃん手当の財源になればよいかと思います」

 ずっと思い悩んできたことへの答えの一つなので鮎美は一息に話したし、途中で詩織に攻められても耐えた。

「芹沢さん、そう言ってるけど、水田さん、どう?」

「けれどね、トランスジェンダーなんかも、いろいろあって、トイレの問題もあるじゃないですか。学校に男子トイレ、女子トイレだけじゃなくて、そういう子たちのトイレも作ろう、それを無駄とは言わないけれど、生産性が落ちることにつながるわけですよ。男は男に産まれたら、ずっと男でいればいいわけで、女は女、そう割り切っていくべきというのが道徳だと考えますよ」

「芹沢さん、どう?」

「うちが東北新幹線や水俣病のことを、よく勉強せんと勝手なイメージでしゃべったら見当違いのことを言うかもしれんように、よく知らんことを適当に言うたら、こんなもんかと思います」

「っ、それは私が不勉強ってこと?!」

 水田が怒ったので鮎美は、うっかり思ったまま言ってしまったことに気づいた。注意力が散漫になっているのは詩織のせいなので一睨みしてから、水田に謝る。

「すいません。……言い過ぎました。ただ、トイレの問題、多目的トイレや、誰でもトイレ、身障者トイレなんかは、きわめて必要度の高いものです。たまたま自分が健康やからといって、いつか世話になるかもしれん…ハァっ…。うち自身も刺されて、やや不自由があって、初めて思い知るわけですよ。多目的トイレが一つでは長く塞がってるとき、とても困る。トイレを失敗するとね、ものすごく悲しいんですよ。これ、体験したもんでないとわからん思います。まして中学生、小学生やったらクラスでからかわれるし、不登校になると思いますよ」

「ウンコ、シッコってのはギャグマンガの基本ネタだからな。どんな美少女でも漏らしたらクラス内でのポジション激変するから」

「……」

 鮎美が冷たく睨むと、中林は目をそらして口を慎んだ。

「別にトランスジェンダーに限らず多目的トイレは、もっと多く作られるべきです。今は健康な人も病気や事故で不自由になるかもしれんでしょ。いっそ、トイレを男女別に作るのはやめて全部個室にしたらええとも思います。小さいコンビニなんかやと、そうですやん。覗きなんかの問題は実は同性愛者の痴漢が存在することを思ったら、個室の上下をしっかり封鎖することで解決しますし」

「ごめん、睨まれたばっかで悪いけど、もう一回。男はさ、小便は立ってしたい生き物なんだ。全部、個室になったら悲しいぜ」

「立って…ですか……」

 鮎美には兄弟もいないので感覚がわからない。思い出す姿といえば、父の玄次郎が釣りの途中で琵琶湖に立ちションしている背中だった。

「それって重要なことなんですか? 男の人にとって」

「かなりね。ああ、男だ、ワシは男なんだ、と思うから。とくに外ですると、たまらんな」

「外で…」

 鮎美は山頂で我慢できずに排泄したことを思い出した。たまらなく恥ずかしい思い出でしかないけれど、おそらく陽湖と自分の胸の内だけで外部に漏れることはないと考えている。中林が真面目な顔で続ける。

「あと個室の上下を完全に封鎖するというのも覗き対策にはいいけど、安全な日本だから言えることで海外なんかだと、テロの関係もあって扉は、かなり小さい。足元と立てば顔も見えるくらいの扉なんだ。男のワシで男子トイレでも、ちょっと最初は抵抗あるくらい外から丸見えだから、海外旅行だと、なるべくホテルの部屋で済ませてたよ、大は」

「男の人って小は平気で外でするのに、大は見られるの嫌なんですか?」

「あれはカッコ悪いからな」

「小はカッコいいつもりなんですか?」

「うむ、堂々たるものだ」

 桝添が鮎美へ言う。

「男全部がそうじゃないよ。都会育ちだと立ちションに躊躇いあるから」

「男性の羞恥心も多様なんですね。…っ!」

 しばらく攻めてこなかった詩織が、いきなりリモコンを前後とも最大にしたので鮎美は座ったまま前屈みになり身もだえした。

「っ…ハァ…っ…」

 畑原と中林が心配する。

「芹沢さん、大丈夫? 痛みますか?」

「刺されても出演してくれるなんて、いい度胸してるけど、無理はしないでくれよ」

「は…はい…平気です…」

 そこから15分間、番組が終了するまで、ずっと最大のまま刺激されたので鮎美は放送が終了した瞬間、テーブルに突っ伏した。

「…ハァ……ハァ……」

「お疲れ様です」

 白々しく詩織が言ってくる。介式と桧田川も近づいてきて介抱してくれた。あまり他の出演者と会話して気づかれたくないので、すぐにテレビ局を出る。地元へ戻るために東京駅に行く鮎美と介式、桧田川たちと、東京に残る詩織は別々のタクシーに乗るけれど、別れる前に詩織がリモコンを渡してくれる。

「ご褒美をくださったお礼に、これは差し上げますね。ご愛用ください」

「……」

 鮎美が黙り、桧田川が驚く。

「あ! 様子がおかしいと思ったら、こんなイタズラしてたの?!」

「私がプレゼントした物を宮本さんと使われるのは悲しいですけれど、向こうで淋しいとき、私を想って使ってください。何も知らない月谷さんにでも頼んでスイッチを操作してもらえば、楽しめますよ。あの誰よりも敬虔な信徒さんに、それと知らせず刺激してもらうのは背徳の極み、神への挑戦だと想いませんか?」

「……ろくなこと考えんなぁ……」

「フフ、仕事は真面目にしますよ。IMFが反応してくれれば、いよいよ日本政府も芹沢鮎美を無視できない。今週、10兆円の女と言われた芹沢鮎美は来月には100兆ドルの女、そして、すぐ世界のアユミです」

「…そんなお笑い芸人みたいな…」

 鮎美がリモコンを受け取らずにいると、詩織はスカートのポケットに押し込んできた。

「では、また来週」

「…仕事、頼むわ…」

 詩織と別れて東京駅に着いた鮎美は桧田川と多目的トイレに入る。介式もいっしょに入ってきたし、長距離移動なので連絡を受けた男性SPも2名、トイレ外で合流し待機している。鮎美は鷹姫と合流する前にピンクローターを身から外しておきたかった。

「…う~……このテープ、なかなか剥がれへん。桧田川先生、悪いけど剥がしてもらえますか?」

「あらあら、こんなテープで貼られて」

「これ、どういうテープなんです?」

「捻挫とかしたときテーピングするテープだから粘着力は強いし、汗にも強いよ。粘液にも強かったみたいだね」

「………」

「人体に使用する物としてはナイスチョイスだから、肌にも優しいし固定力も高くて牧田さん、よく考えてくれてるね。毛も剃ってあるから剥がすとき、抜けて痛くないし」

 桧田川は丁寧な手つきでテープを剥がしてくれた。そして珍しそうにピンクローターを見つめる。

「ネットで見たことはあるけど、こういう物なんだ。これってリモコンで動くの?」

「はい」

「ちょっと貸して」

「どうぞ」

 鮎美はポケットにあったリモコン2つを桧田川へ渡した。

「これがスイッチかな」

 桧田川が操作すると摘んでいるピンクローターが振動した。

「うわぁぁ……ブルブルする……初めて見た。この振動が気持ちいいんだ?」

「……」

 鮎美がノーコメントでいると、つい好奇心で桧田川は、もう一つのリモコンも操作した。

「っ…ちょ、やめてくださいよ! それ、まだ、うちに入ってるんやから!」

「クス、今、ビクってなった。可愛い。面白い!」

 同性愛指向はないのに、つい楽しくて桧田川は何度か遊んでからゴム手袋をつけた。

「名残惜しいけど、取り出してあげるよ」

「すんません」

 鮎美は恥ずかしそうに前屈みになる。今までの医療行為と違い、大人のオモチャを体内から出されるのは、とても恥ずかしかった。いっそ捨てようかと思うものの、駅のトイレに捨てるのは憚られ、ビニール袋に入れてからカバンに収めた。多目的トイレを出ると、始発時刻も近づき、鷹姫も制服姿で現れる。

「おはようございます」

「おはようさん」

「「おはよう」」

 桧田川だけでなく介式も今はトイレ内以外は非番となり緊張が解けているので挨拶してくれる。警護は男性SP2名が行ってくれている。人の少ない早朝の東京駅だったけれど、始発に乗る乗客はそれなりにいて新幹線ホームには列もできている。鮎美たちは指定席なので、ゆっくりと乗車した。鮎美は鷹姫に隣りへ座って欲しかったけれど、警護のしやすさから男性SPが隣りへ座ったし、前後も介式と男性SPだった。行きが6名のSPに囲まれていたことを思うと、ものものしさは減った。

「……はぁ……やっと一週間が終わるって気分やわ……。地元か……カムアウトして一週間……東京では思ったより反応なかったけど……田舎では、どうかな……」

「「「「「……………」」」」」

 男性SPはもちろんのこと、介式や桧田川、鷹姫も、どう言っていいか、わからない。

「まあ、悩んだって仕方ない。出たとこ勝負や。寝て体力温存しとこ。どうせショック受けること、なんべんか誰か言いよるやろ。いちいち気せんと忘れたるわ」

 そう言いながら目を閉じて、京都駅まで眠った。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。