同1月29日土曜の午前9時過ぎ、鮎美は県の消防団が主催するイベントに参加するため京都駅からタクシーで県境を越えていた。タクシーの後部席中央に鮎美が座り、警護のため左右に男性SP、助手席には介式が座っていて、鷹姫と桧田川は後続車に分乗している。
「……す~………」
新幹線でも熟睡していた鮎美はタクシーに乗ってからも深く眠っている。介式も連続勤務による注意力低下を避けるため、今は部下に警護を任せて目を閉じていた。
「「………」」
とくに大きな危険は想定されていないけれど、二人の男性SPは鮎美が無防備なので、やや緊張している。男性を意識しないからなのか、それとも習慣なのか、眠っている鮎美は鷹姫へもたれかかるときと同じように男性SPの肩を無意識に枕にしていて、若い女性独特の香りが立ち上っているし、じわじわと姿勢が崩れてきたためにスカートの裾も乱れてきている。介式であれば黙って直したかもしれないけれど、やはり男性として勝手にスカートに触れるのは怖いので、鮎美の太腿は見ないようにして、あるはずが無いとは思っていても狙撃の可能性などを想定してみて気を紛らわせていた。
「芹沢議員、そろそろ到着します」
男性SPが嬉しかったような緊張して苦痛だったような時間を終え、イベント会場である琵琶湖に面した広い公園が見えてきたので、もたれかかってくれている鮎美を揺り起こした。
「ん~………あ、すんません」
起きた鮎美はもたれかかっていたことを謝り、めくれあがっていたスカートを座り直しつつ整えた。それから手鏡で寝癖や着乱れがないか自己チェックした。タクシーがイベント会場に到着すると、まずはSPたちが降りて安全確認し、ゆっくりと鮎美も車外へ出る。
「……」
「あ、鮎美ちゃんよ!」
「鮎美が来たぞ!」
やや離れていても人々の声は聞こえる。大勢が集まっている。主に県内の消防団員と、その家族で千人はいる。今までなら群がってきてサインや記念撮影を求められたのに、SPがついているからなのか、それとも鮎美が同性愛者だと世間に公言したからなのか、誰も近づいてはこない。
「歩いてるぞ」
「歩けるのか」
「夕べ朝ナマで、お腹、痛そうだったのに」
「朝ナマって東京で撮ってるんだろ? よく来れたな」
夏子の狙い通り、未明まで東京にいて登場したのは受けが良いようで色々言われているけれど、おおむね好意的で同性愛者を嫌うような発言は聞こえてこない。鮎美は県民たちに手を振った。
「退院おめでとう!」
「頑張ってくれや!」
「おおきに、頑張ります!」
晴々とした笑顔で返答して用意されたステージへ登り、来賓の列につく。来賓は県知事たる夏子や参議院議員としては夕べのうちに帰県していた直樹、そして数名の衆議院議員と県会議員、阪本市の市長で、だんだん見慣れた顔という気がしてくる。夏子が明るく駆け寄ってくれる。
「来てくれて、ありがとう! 夕べ、かなり痛そうだったけど、ホント大丈夫?」
「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」
二人でステージ上から開会の挨拶をすると、音だけの花火があがり、公園から見える湖上に停泊していた消防船が大きく放水して水流のアーチをつくった。真冬の陽光を反射して虹ができると観衆から拍手が起こる。イベントは無事に始まり、長年の消防団活動を勤めた人を表彰したり、放水演習を披露したりと、例年通りの流れで進んでいく。今までならステージ上でパイプ椅子に座っている鮎美へカメラを向ける者は多かったけれど、下手にパンチラを撮ってしまい怒られると怖いので撮影も控え目だった。
「………」
うちが同性愛者やってカムアウトしても、ぜんぜん以前と変わらんにゃね、覚悟してたのに拍子抜けやわ、と鮎美は安堵していたけれど、お昼過ぎになってブラックバスの天丼を食べた後、便意を感じて桧田川の白衣の袖を黙って恥ずかしそうに引いた。それで桧田川も気づいてくれる。
「あ、お尻の穴を気持ちよくしてほしくなった?」
「ぅ~……そういう言い方、せんといてください。ドクハラですよ」
小声とはいえ言われたくないので鮎美は主治医を睨んだ。
「ごめん、ごめん。介式警部、トイレに行きます」
「了解した」
三人で公園の多目的トイレに入る。
「……寒っ……」
下着をおろしてスカートを完全にあげて処置を受けていると、寒くてお尻が凍りそうだった。
「もっと力を抜いて。掻き出しにくいから」
「そんなこと言われても寒くて。これ高齢の身体障碍者やったら命にかかわるかも。けど、予算には限りがあるし、屋外トイレまで暖房しとったら予算にもエコにも問題あるなぁ」
いつもより時間がかかっていると、となりの男子トイレから天井に反射した声が響いてくる。公園のトイレは多目的トイレが中央にあり、その左右に男女のトイレがあって高い壁はあるものの、天井付近は共通の吹き抜け空間になっているので声が響きやすかった。
「あの鮎美ってレズなんだろ?」
「「「……」」」
鮎美と桧田川、介式は簡単に声が響く構造なのだと天井を見上げた。また男の声が響いてくる。
「らしいな。可愛い顔してんのに、もったいないよな」
「ヤらしてくれねぇかな」
「チンポ突っ込んだらレズ卒業するかもよ」
「お前のチンポじゃ物足りないだろ」
「うっせー! オレの舌技は神の領域だ。豊郷小のペロリストと呼ばれた妙技、鮎美マンコに決めてやるぜ」
「お前それ給食を食べるのが早かっただけじゃん。しかも早食いしすぎて、一回死にかけたよな。食パンを一気食いして喉に詰めてさ」
「何度でも蘇るさ!」
「蘇らせてくれたのは先生のおかげだろ。あのババァ、お前の喉に手ぇ突っ込んでパンの固まり掻き出してさ。ブチューって人工呼吸して、お前の顔、あのババァの口紅まみれになって。ククク、今思うと笑えるな。あれファーストキスだろ」
「くっ……オレの黒歴史だ。どうせなら、鮎美にキスされたかった」
聴いていた鮎美が顔を伏せて右手で唇を押さえ肩を震わせたので、桧田川と介式は泣いているのかと心配したけれど、鮎美は笑いを我慢しているだけだった。
「……プフ、…アホや…クク…」
「救命処置が、とっさにできる人と、できない人の差は大きいよ。笑い事で済んでよかったよ」
小声で言いつつ桧田川は処置を再開する。男子トイレにいた男たちは小便だけのようで、女性ではありえない速さで、すぐに立ち去り静かになったけれど、今度は女子トイレから声が反射してくる。
「鮎美ちゃんってさ、高校生のくせに言うこと難しくない? セクハラ写真で訴えるのはいいとして、連邦インフル税って何あれ?」
「連合インフレ税よ。あなたインフレの意味知ってる? インフレーションの」
「知らない」
「それ知らない人に、あの仕組みを語るのは二時間かかるよ」
「ふ~ん、あれってレズと関係あるの?」
「ない!」
「赤ちゃん手当とか言ってるけど、自分がレズじゃ無意味なのにね」
「男が嫌いなのかもね。赤ちゃん手当があったら、ムカつく彼氏と暮らさなくても、自分だけでギリギリ子育てできそうだし」
「けど、保育園に入れたらもらえないんでしょ?」
「もう一人産めばいいじゃない。3年ごとに産めば9年くらい税金で暮らせるよ」
「それ国が破産しない?」
「だから連合インフレ税なの」
「イミフゥ~。それよりさ、鮎美ちゃんの恋人っているかな。今日も3人も連れてたよね。女医さんと同級生と、キツイ感じのスーツの人。あの中で、どれが本命だと思う?」
「どうかな。好みもあるけど、確率的には同級生じゃない? でも、私がレズだったら、あのキツイ感じの強そうな人かな、守ってくれそうだし。けど、女医さんもいいよね。養ってくれそう」
桧田川は処置を終えゴム手袋を外しながら小声で言う。
「自分で働け」
「「………」」
鮎美と介式は黙って多目的トイレを出て、桧田川も続いた。屋外トイレから十分に離れてから鮎美が言う。
「トイレって人の本音が聴けてオモロいわ」
「人間はトイレで物理的な排泄だけじゃなくて心からも排泄するのかもしれないね」
「ですね。さて、そろそろ、このイベントは終わりにして、次は…」
鮎美は目で鷹姫を探した。近くの屋台でタコ焼きを買っている。地域のイベントではなるべく買い食いして、とくに手作り屋台のお店にはお金を落とし、愛想良く美味しかったと言っておくよう静江から教育されているので、遊んでいるわけではなく勤めを果たしている。近づいた鮎美が入院中のように口を開ける。
「あーん」
「どうぞ」
鷹姫が爪楊枝でタコ焼きを食べさせてくれた。
「うん、美味しい! おっちゃん、めちゃ美味しいよ!」
「そうかい。ありがとうよ」
感じ良く屋台の店主と別れて、タクシーを2台呼んだ。
「鷹姫、次の予定は?」
「はい、三上市で開かれている道の駅オープン3周年記念イベントへの顔出しです。すでにオープニングセレモニーは終わっており、挨拶などはありませんが、なるべく買い食いして顔を売っておくようにとのことです。すでに石永さんたちは参加されているようです」
「政治家ってダイエット難しそうやなぁ」
「タコ焼き、まだありますよ」
「……。鷹姫が無理ないなら、食べておいて」
「はい、では、いただきます」
タクシーが来るまでに匂いの強いタコ焼きは食べ切り、三上市の道の駅に移動した。ごく普通の道の駅で、大きな駐車場とトイレ、お土産物店、レストラン、芝生広場があり、駐車場と芝生広場の一部に屋台が出ていて、地元の市議や市長も顔を出している。県のイベントよりは小ぶりなので優先順位は低く、国会議員は誰も来ておらず、落選中の石永は気さくに屋台の手伝いをしていた。
「お、芹沢先生、やっと来てくれたな」
「タオルハチマキ似合てますよ」
石永が焼いているヤキソバは美味しそうだったけれど、安価で順番待ちが出るほど人気なので、あえて売れて無さそうな屋台へ脚を運ぶ。やや高価な川魚の丸焼き屋台の売り子が頑張って声を出して集客していた。
「アユの塩焼き、いかがですか?」
「…。そっちのイワナの塩焼き、もらえますか?」
「こちらは、あと3分かかりますが、よろしいですか?」
「うん、ええよ」
鮎美がアユを避けたので桧田川が問う。
「芹沢さん、アユが嫌いなの?」
「嫌いやないけど、自分の名前が因んでるもんを食べるのは、なんか縁起が微妙ですやん。串刺しにされて丸焼きやし。料理で出たときは残さず食べますけど、あえて選ぶのはやめてます」
「ふーん、あ、私はアユの塩焼き、一つちょうだい」
「介式師範、今は非番ですか?」
「ああ、芹沢議員のトイレ以外はな」
「では、いっしょに食べませんか?」
「そうだな。芹沢議員、私が30分ほど、離れてもトイレは大丈夫だろうか?」
「はい。おおきに。けど、あんまり大きい声で言わんといてください。みんな食べ物を売ってはるんやし、なにより、うちもレディーですから」
あまり大人数で移動しているとSPのものものしさがイベントの雰囲気を壊すので別行動を取り、鮎美には桧田川と男性SP2名がついてくる。魚を食べてから会場を巡ると、静江と陽湖も来ていた。
「芹沢先生、…歩けるようになったのですね」
「シスター鮎美、元気になってくれて、本当に良かった」
静江が女性同性愛者を嫌っていることは忘れていないけれど、わずかに会話の間があったくらいで、再会に大きなぎこちなさは無かった。陽湖の方は、ずいぶん以前から告白していたので、とくに変化はなく、回復を喜んでくれている。
「うん、おおきに。この通りよ。飛んだり跳ねたりはできんけどね」
また大人数で移動することになったけれど、陽湖と静江は物腰が柔らかいので、人が寄ってくる。鮎美へ次々と声をかけてきた。
「芹沢さん、サインください」
「いっしょに写真を撮ってもいいですか?」
「夕べテレビに出てましたよね」
一人一人へ丁寧に対応しているうちに日が傾き、タクシーに乗ると疲労感を覚えて、すぐに眠った。
「芹沢議員、港に到着しました」
「あ……また、すんません」
鮎美は再びもたれかかっていた男性SPに謝り、連絡船で自宅へ19日ぶりに帰る。連絡船で同乗した島民や、島の港ですれ違った島民たちは、みな一様に鮎美の回復を祝ってくれたし、表面的には政治活動の内容や鮎美の性的指向については何も触れてこなかった。介式たちSPは自宅前まで警護して言う。
「私たちは近くの宿泊施設を探す。この島の状況からして夜間警備の必要度は低いと判断されるが、芹沢議員が望まれるのであれば、玄関前へ一人、歩哨に立つ」
「この寒いのに、そんな気の毒なことさせられませんよ。どの道、犯人も捕まってますし、もう連絡船が無いんで、この島に出入りできるのは漁船をもってるもんだけです」
「そうか。では、明日朝9時をもって警護を終了する予定であったが、現時刻をもって終了する」
「え……終わりなんですか?」
「終わりだ」
「そうですか。長いこと、ありがとうございました」
自然と鮎美は握手するために右手を出したけれど、介式は一瞬迷い、鮎美が手を引こうとしたものの、その前に握手してくれた。介式と握手を終えると、鮎美は2名の男性SPとも握手を交わした。そして、気づく。
「あ、宿泊施設って……もう予約されてます?」
「いや、これから探す」
「………。鷹姫、あるの? この島にホテルとか」
「ホテルはありませんが、民宿なら2件あります。ですが、予約は食料品仕入れの関係で1週間前までの受付と聞いたことがあります。素泊まりでも当日夜で受けてくれるか、どうか……民宿といっても、本当に普通の民家ですから」
「「「………」」」
東京とは宿泊施設の整備が、まるで違う離島の状況にSPたちは、やや困惑した。いろいろな地域の要人を警護した経験はあるけれど、ここまで特殊な環境は無かった。直線距離なら、ほんの数キロ先にビジネスホテルはあるのに、そこへは船でないと行けない。その困惑は大阪で育った鮎美も理解できるので介式たちのために考える。
「うちの家は桧田川先生に泊まってもらうし……」
「剣道場でよければ、私のところへ泊まってください。何人でも大丈夫です」
「すまない。お願いする」
「介式師範、今から非番になるのでしたら、稽古をつけていただけませんか?」
「ああ、いいぞ。望むところだ」
「道具はすべてそろっています」
かなり合宿気分で鷹姫たちが立ち去り、鮎美と陽湖、桧田川が芹沢家に入る。
「ただいまー」
「ただいま帰りました」
「お邪魔しまーす」
「やっと帰ってきたな」
玄次郎が嬉しそうに居間から言い、美恋がエプロン姿で台所から出てくる。
「おかえりなさい。鮎美」
「母さん、父さん、心配かけて、ごめんな。まだ飛んだり跳ねたりはできんけど、元気になったよ」
「ああ、よかった。本当によかった。……抱きしめてあげたいけど、……」
美恋は自分の下腹部を撫でた。それで鮎美も思い出す。
「妊娠、どうなん?」
「昨日、確定されたの。まだ小さい小さい影だけど、超音波検査にも映ってくれて」
「よかったやん! おめでとう!」
「おめでとうございます」
初診した門外の医師として桧田川も祝った。五人でのめでたい夕食となり、政治や宗教、性的指向の話は一切せずに、産まれてくる弟か、妹の名前や鮎美と何歳違いになるのか、といった話題で穏やかに時間が流れ、入浴後に鮎美が一人で自室にいるとき、玄次郎がノックして入ってきた。
「まだ起きてるか?」
「まあね。何?」
「いきなり兄弟ができること、本音では、どう思っている?」
「率直な質問やね」
鮎美は、よく国会周辺で自分が言われることを父へ返した。
「ええことやと思うよ。めでたいやん。うちが抱っこしてたら、うちの子供に見えるかもしれんくらい歳が離れてそうやけど」
「あきれていないか? 年甲斐もないと」
「別に。……経済的には大丈夫なん?」
「ああ、鮎美が大学に行かないことが確定したから、問題ない」
「それならええやん」
「さらに、あと一人、二人、産ませようと考えていると言ったら?」
「え……? 今から三人目とか考えてんの? ………父さん、赤ちゃん手当て狙い? あれ、すぐには実現せんよ。月曜には今年度予算案が衆議院の予算委員会で審議入りするし、そんな一朝一夕に変わるもんやないから、あんまり期待されても……」
「そうじゃないさ。オレの狙いはな、子育ての忙しさだ」
「忙しさ?」
「母さんはヒマになりすぎた。島にはパート先もないし、鮎美も親離れして、やることが本当になくなってしまった。おかげで誘われて教会に行くようになって影響を受けたけど、子供が産まれてみろ、おっぱいだ夜泣きだと、忙しくて礼拝どころじゃない。で、3歳くらいになった頃、また一発やって妊娠させれば大忙しで宗教参加は育休が続く。そのうち忘れるだろう、という作戦だ」
「………」
鮎美が親指を立てて、にっこりと笑顔になった。
「父さん、ナイス。その作戦イケてる!」
「だろ。明日の日曜礼拝だって、この寒いのに船で出かけるのは胎児に悪いと言ったら、自宅礼拝で済ませるそうだし」
「ええね。ええ作戦やわ」
「それに鮎美が結婚するつもりがないことを気にすることは無くなる」
「あ……そっか……そういうことも……。おおきに、父さん」
「あとは、一応、鮎美に断っておくが、鮎美が大学に行くことにそなえて学資保険や貯金を500万ほどしていた。他に結婚するときの資金として200万くらい用意していたが、これを下の子に使っていってもいいか?」
「うん、ええよ。うちは、もう大丈夫やし。気にせんと、しっかり育ててやって」
「そうか。鯉次郎も喜ぶぞ」
「その名はやめてやり。湖恋(ここ)なら、ええけど」
「それはキラキラネームっぽくないか。まあ、いい。おやすみ」
「おやすみ」
鮎美は長かった土曜日が終わると思い、布団へ入って目を閉じたけれどスマートフォンが鳴ってメールが届いたので読む。鐘留からだった。
今まで、さんざんアタシのおっぱいもお尻も触ったよね。
ずっと同性愛だってこと隠して。
体育の後に、アタシの汗を舐めたこともあるよね、ヘンタイ!
で、東京から帰ってきたくせに一言もなし?
駄犬警部のことも調べてあげたのにお礼も無いし!
アタシを手下とか思ってる?
アタシは人にナメられるの超嫌い!
アタシを軽く見たこと後悔させてやる。
今すぐお金いっぱい持って謝りに来たら許してあげるけど、じゃなきゃ週刊紙に何もかも喋ってやる。
読み終わった鮎美は、すぐに電話をかけた。
「…………出てくれへんの……」
電源は入っているようだけれど、受話してくれない。
「……カネちゃん…………今すぐって……無理なん、わかってるやろ……」
鮎美は時刻を見た。あと数分で日付が変わる。
「………けど、カネちゃん、言い出したら……ホンマにやるかも……うちが悪いし……忙しくて、忘れて、一言もなし……お礼も……忘れて……怒るの当たり前やん……」
鮎美は布団の中で頭を抱えて悩んだ。そして結論は60秒で出した。
ごめんなさい。今すぐ行くし、待ってて。
そうメールを送信して制服に着替えて、家族や陽湖、桧田川たちに気づかれないよう書き置きだけして家を出た。