「女子高生総理・芹沢鮎美の苦悩」   作:高尾のり子

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3月31日 新婚

 復和元年3月31日木曜朝、貴賓室で目覚めた鷹姫と鮎美は、いっしょに朝食をとると義仁に会うため出発する準備をする。外交関係の密約や他の政情を報告し、範条を公布施行するという名目だったけれど、最大事は義仁との結婚だった。

「「おはようございます」」

 麻衣子と美姫が入室して挨拶してくれたけれど、美姫の目が赤くて泣いていたような気配があったので鮎美が問う。

「ワンコ…美姫ちゃん、どないしたん?」

「はい、ぐすっ…」

「何か嫌なことでもあった? 誰かに在日やからって嫌がらせされた?」

「いえ…違います。嬉しくて…」

 美姫は早朝に届いた書類を鮎美に見せて説明する。

「こんなにすぐ帰化の申請が通って、新しい戸籍をもらえました。総理の秘書官の身分証も」

 書類には李王娘という名から日本名の鷹沢美姫となって日本国籍と戸籍が付与され、加えて総理大臣秘書官としての身分証も作成されていた。静江の秘書としての立場が曖昧だった反省もあり、昨日のうちに担当官僚へ急いでもらうよう頼んだのが奏功したようで、強引な要請をしてはいなかったけれど、官僚たちが首相案件として忖度してくれたようで仕上がってきていた。

「よかったやん」

「はい、ぐすっ…ああ、よかった……嬉しい…」

「そんなに泣くほどのことなん? それやったら、もっと早くに帰化申請したら、よかったんちゃうの?」

「ぐすっ……私の父と母は正規の結婚をしていなかったんです。父には前妻がいて離婚が成立していなかったから。そのうちに私が産まれて、婚外子として父親未定のまま……だから、こんなに早く申請が通るなんて夢みたいです。もしかしたら、却下されるかもって覚悟してたくらいだから」

「そうやってんや……いわゆる愛人の子ってやつなん?」

「はい、そうです。だから、いったい私って何なんだろうって……国籍は韓国で、韓国のことも思い入れはあるし、日本も好きで、どっちつかずで……父親も、いっしょに暮らしてるのに、法的には本当の父親じゃないみたいな扱いで……だから、私、いっそ新しい土地で頑張るって決めて犬山市のローカルアイドルを目指したんです」

「ごめんな……うちがプロパガンダに使ったから、さんざん叩かれて」

 ヨンソンミョらと作成した動画は鐘留が発信元を特定できないようにしていたけれど、ワンコが日本のアイドルであることと、ヨンソンミョも韓国でユーチューブでアイドルを目指していたことから、結局は特定されてしまい、日韓双方のネット民から叩かれていた。

「いえ、今度こそ再出発しますから」

 そう言う美姫は昨日のうちに茶色く染めていた髪もベリーショートに切ってしまい、アイドル的なフワフワとした私服ではなく、秘書官らしいパンツスーツを着ている。メイクもアイドルメイクからビジネスメイクに変えているので、これで氏名まで変わると、もう特定される心配はなさそうだった。鮎美は耳が丸出しになっている美姫のベリーショートを見て朝槍を思い出し、つい美姫の耳へ触れた。

「やんっ…、く、くすぐったいですよ。いきなり何するんですか?」

「ごめん、ごめん、つい可愛い耳やから、つい」

「もおっ…」

「芹沢総理、それはセクハラです」

 鷹姫が注意してくる。

「あなたが男性であれば問題になった行動です。慎んでください」

「…はい……」

 そう言われると反論がない。男性総理が新しい女性秘書官の耳へ、可愛いから触った、というのは国会で追及されれば痛すぎる行動だった。さらに麻衣子も言う。

「だんだんと慣れてきたけど、私にも触るよね。油断してると、さりげなく匂い嗅いできたりするし」

「……不徳のいたすところです…」

「芹沢総理、性的な欲望の対象にするのは私だけにしてください。問題になると、やっかいです」

「「「………」」」

 鷹姫からは嫉妬は感じない。本当に純粋に鮎美の保身だけを考えている顔だった。

「私一人では、ご不満ですか?」

「ううん、十分よ。ごめんなァ」

 鮎美が鷹姫に抱きついてキスをする。少しキスが巧くなってきた鷹姫も受け止め、欲望を発散してもらった。鮎美が理性的な目で美姫に言う。

「これからは愛人の子なんて言われ方のない社会にするし、安心してて」

「はい? はい、期待してます」

 意味がわからなかったけれど美姫は期待した。鮎美なら何でもやってくれそうな気がする。鮎美は貴賓室のバスルームへ向かっていく。

「うちはシャワーを浴びてくるわ。鷹姫も、あとで浴びぃ」

「はい」

 いつもは朝シャワーなどという優雅なことはしないけれど、今日は義仁に会うので身支度は重要だった。鮎美がバスルームに消えると鷹姫は美姫へ問うてみる。

「鷹沢さん、あなたの性的指向は何ですか?」

「え……? あ、はい、普通に男性を好きになりますよ。韓流スターも日本の男性も」

「女性に誘われたら、女性との性行為をしますか?」

「う~~ん……考えたことないけど、……まあ、状況によっては、ノリでやっちゃうかもしれません」

「そうですか。では一つ言っておきます。芹沢総理のご寵愛を受けるのは私だけです。あなたは誘われても断りなさい。許しません」

「……はーい…そうします…」

「大浦さん、あなたの性的指向は何ですか?」

「ガチ筋肉系だよ」

「……? それは男性のことですか?」

「うん」

「女性に誘われたら、女性との性行為をしますか?」

「しません」

「これからも、そうしてください」

「「………」」

 麻衣子と美姫は目を合わせて、しっかり予防線を張られたね、と意思疎通したし、別に鮎美と性的な仲になりたいとは一切想っていないので異議はなかった。

「鷹姫、おさきぃ」

 鮎美が裸で出てきたので鷹姫もシャワーを浴びて身支度する。きっちりと制服を着ていく。

「この制服も今日で最期ですね」

「そやね」

 いつまでも女子高生総理と秘書官ではなく、明日からはスカートスーツを着るつもりで準備もしてある。

「ほな、美姫ちゃん、大浦はん、あとよろしゅうね」

「はい、いってらっしゃいませ」

「いってらっしゃい」

 美姫と麻衣子はおいて余呉湖へ向かうため、鮎美と鷹姫は小松基地を出る。護衛は厳重で二度と由伊のように襲撃されたりしないよう装甲車が何台も同行しているし、鮎美たちが乗るのは防弾リムジンで昨日、イギリスから空輸されてきたばかりのロールスロイス社製だった。鷹姫が質感を確かめるように窓ガラスを手の甲で叩く。分厚い窓ガラスは開閉することができない固定式でロケット砲の直撃にも耐えるらしかった。

「大丈夫そうですね」

「これ、アメリカ大統領の専用車と同じやろ。めちゃ高かったやろに」

「総理の命にはかえられません。支払いも英国政府の好意で猶予してくださるそうです」

 戦車並みの防御力があるので車内は静かで外の音が入ってきにくい。小松基地を出た防弾リムジンは北陸自動車道へ入るために安宅スマートインターを通ろうとした。インター近くで減速したとき、隠れていた者が飛び出してきた。小松基地の周囲は用事なく立ち寄ることは禁止されていたけれど、インター封鎖などはしていなかったので人の出入りは可能で、待ち伏せていたらしく鮎美たちが乗る防弾リムジンに駆けてくる。何か封書をもって直訴しようとしている気配だったけれど、由伊への襲撃事件があったばかりなので、防弾リムジンの後方を走っていた装甲車上部の機銃主は接近される前に発砲していた。

 ジジッ…

 防弾リムジンの車内には発砲音は大きくは響かなかった。

「なにやろ? ぅ…」

 運転手は停車せず、むしろ加速したので鮎美と鷹姫はシートに身体を押しつけられた。防弾リムジンは高速インターのゲートバーに衝突してでも止まらずに進む。危機を脱したと確認できるまでは非常時の運転を続けた。

「なにやってんろね」

「高木さんに訊いてみます」

 鷹姫が隊長をしている高木に問い合わせると、急に防弾リムジンへ駆けよる人影があったので射殺して事なきを得た、とのことだった。

「いきなり射殺なんや」

「現状を考えれば当然かもしれません」

「そやね。また爆弾でも持ってたら大変やもん」

 鮎美たちの車列が南条サービスエリアで休憩する頃になると、鷹姫がもっている情報端末には詳細な報告があがってきた。急に駆けよってきた人影の正体は北砂夕子という天王寺星光高等学校の生徒だった17歳の女子で、手紙を鮎美へ渡そうとしていたようだった。

「………禁じている直訴を……いったい何を請願するつもりで……」

 鷹姫に送信されてきた情報には手紙の内容もあり、目を通した。読み取るに以前、鮎美と大阪で交際していた時期があり、こじれて別れたけれど、津波で母も父も喪い、困っているので助けてほしい、という内容だった。

「そういう個人的なことは……」

 これに似た請願は多い。鮎美の遠い親戚だった者や小学校、中学校の級友などで津波から助かったけれど家族と家をなくした者や、たまたま大阪におらず津波の難を逃れた者らからも、今の鮎美の地位なら助けてくれるかもしれない、と期待して手紙やメールが来る。

「際限がない……」

 鷹姫にさえ同じような請願が来ていて、まったく覚えていない剣道合宿でいっしょになった他校生や、過去の対戦相手から来ているらしい。それらは他の国民からの請願と同じ扱いとしていて、他の被災者と平等な取り扱いしかしていない。特別扱いは不平等だったし、きりがないので秘書官のレベルにさえ届かず、発足したばかりの復興庁が担当し、他の被災者と同じ扱いしかできないという返答をしていてくれる。

「……せっかく助かっていた命を……愚かな……」

 ただの級友ではなく、交際関係にあったことで夕子は強い期待をしたらしく、担当課からの返答に不満をもち、直訴に来たのだと思われた。鮎美の動向は極秘ではあるけれど、だいたい小松基地にいることが公然の事実だったし、本日は昼過ぎに義仁と範条の残りすべてを公布し即日施行するので、鮎美が小松基地から出ることは少し賢い者なら予想できたのかもしれない。鮎美の車に駆けより、顔を見せれば、鮎美も反応したかもしれない。けれど、現状は厳しく、たとえ若い女子に見えても、何を持っているかわからず、由伊への襲撃事件もあった直後なので鮎美の護衛にあたるゲイツは迷わず発砲したのだった。

「鮎美が気づく前にことが済んでよかった……けれど、これを知れば、また深く悲しまれてしまう……」

 自分に置き換えてみても、古い知人が自分を頼って直訴に来て射殺されたと知れば悲しいし、まして鮎美の交際相手だったとなると、やっと詩織の死から立ち直ってくれているのに、また沈んでしまうかもしれない。これから義仁と会う今、絶対に避けたかったので鷹姫は高木と話し合い、ちょうど夕子が未成年ということもあって、発表せず名前も記録から伏せていくことにした。その方向で進めたとき、鮎美がサービスエリアの多目的トイレから戻ってきた。女子トイレにゲイツは入れないし、最高レベルの警戒をしているので鮎美は用を足すときでも8名のゲイツといっしょだった。男性への羞恥心は少ないとはいえ、さすがに排泄行為のとき近くに人がいるのは恥ずかしいらしく少し赤面した顔をしている。

「鷹姫、さっきの襲撃の詳細わかった?」

「単独犯によるもので、ささいなことです。お忘れください」

「アホな奴もおるもんやね」

 鮎美が詳細を知ることはなく、防弾リムジンは北陸自動車道を進み、余呉湖湖畔に到着した。琵琶湖と違い、対岸が見える小さな湖で、ほぼ円形だった。人家が少なく護衛もしやすい。鮎美たちが泊まる国民休暇村施設は余呉湖に面し、背後は山なので、とても静かだった。

「すぐそこが賤ヶ岳やね」

「はい。秀吉と勝家が戦った地です」

「ここで陛下と会うことにした理由は、それ?」

「いえ、中間地点であることと、この余呉湖には天女降臨伝説があります」

「天女?」

「はい、天女が降り立ち、水浴びをしていたところ通りかかった男が羽衣を手にし、困った天女は男と結婚し、その子孫が菅原道真公となったという伝説がある地です」

「………困ったから男と結婚て……道真公のオヤジさんもエロいなぁ……」

「天女伝説がある地で、陛下とお結びになられるのが良いかと想っております」

「……う~ん………やや不遜な気もするけど、………まあ静かやし、ええかな」

「不遜さをカバーするためにも、他にも伝承があります」

「どんな?」

「すぐ近くの山中に在原という里があります。そこは在原業平が辿り着き、晩年に暮らしたという伝承があるのです」

「伊勢物語の?」

「はい」

「で、どういう関係が?」

「清和天皇は藤原高子を女御として迎え、のちに皇太后としますが、高子は入内する前、在原業平と恋人関係にあったとされているのです。日本の文化では妃の処女性について寛容な部分があり、以前に恋人がいてもよしとされることもありました。そういうことです」

「ああ、つまり、詩織はんと結婚したと宣言した、うちでもOKやと?」

「はい」

「不遜に不遜を重ねてる気がするけど」

「これからする鮎美の提案こそ不遜すぎます」

「OKしてくれはるとええけどね」

「………」

 鷹姫は湖畔を見つめ、残雪があるのに気づいた。もう三月も末だというのに雪が残っている。余呉湖周辺は県内で有名な豪雪地帯であり真冬には2メートル降ることもある。その雪が日陰には残っていたし、山のおかげで日陰が多い。

「キレイなとこやね」

「忘れては夢かとぞ思ふ思ひきや雪踏み分けて君を見むとは」

「………意味は?」

「ふと忘れて夢なのではないかと思います、思いもしませんでした、雪を踏み分けて、あなた様にお目にかかることになろうとは、です。おそらく、この状況で出る可能性が一番高い歌です。覚えておいてください。全体としては出家した高貴の人に以前仕えていた者が雪を踏み分けて会いに行き、懐かしむのですが、都での仕事があり、泣く泣く帰らねばなりません。恋の歌ではありませんが、出家ではなく出世しすぎて総理大臣と天皇では結婚しにくいことと、出家という世俗を超えていくことを、同性愛者という手の届きにくい存在にかけていわれる可能性もあり、また、お互いに仕事のためには京と小松へ帰らねばならぬ身ですから、よく合います。そしてこれは伊勢物語に出てくる歌です」

「……懐かしいわぁ……」

「なにがですか?」

「センター古文の出題傾向とか解説されてるみたいやなって」

「………まじめに言っているのですよ。あ…」

 鷹姫は美姫から電話を受け、韓国の趙舜臣が演説を配信していると知らされ、タブレット端末で配信動画を見ることにした。生放送での配信であり、趙舜臣がアップで映っている。涼しげな切れ長の目をした美男子で軍人にしては珍しい長髪だった。階級章が昇進を自ら決定したのか、鷹姫にも鮎美にも詳しくはわからないけれど少将くらいに見える。

「いい体格をしています……オリンピック候補だっただけのことはあるのでしょう」

「そうなんや? なんの競技で?」

「たしか、乗馬と射撃だったはずです」

「まあ、軍人やと射撃練習は有利やわな」

 演説が始まった。日本語と英語の字幕が入る。

「日本軍ならびに北部朝鮮の兵士に告ぐ! 我々は大韓民国! いわゆる朝鮮戦争と呼ばれた朝鮮統一戦争の休戦協定が偽りのものであることは、誰の目にも明らかである!」

「そやね」

「核攻撃されましたから」

「なぜならば、協定は大韓民国を騙る売国奴によって結ばれたからだ!」

「そういう言い方もあるかもしれんね、李承晩大統領は協定を不服として調印式に参加してはらへんし」

「米ソの都合で、とりあえずの終了なのですから、朝鮮民族としては不服でしょう。関ヶ原の合戦をやらずに終えるようなものです」

「我々は些かも戦いの目的を見失ってはいない。それは間もなく実証されるであろう。私は日々思い続けた。朝鮮民族の統一国権確立を信じ、戦いの業火に焼かれていった者達のことを」

「いつまでも民族分断なんは気の毒やね」

「大国の都合とはいえ、不憫なものです」

「そして今また、敢えてその火中に飛び入らんとする若者のことを!」

「まだ、やる気なんや」

「不屈の精神は立派なものです」

「朝鮮民族の心からの希求である統一国権成立に対し、日本がその卑劣な軍事力を行使して、望まれしその芽を摘み取ろうとしている意図を、証明するに足る事実を私は存じておる」

「うちら日本は関係ないやろ、アホか」

「言いがかりです」

「見よ、これが我々の戦果だ!」

「「…………」」

 アップで映っていた趙舜臣からカメラが引くと、趙舜臣の背後に核爆弾が映った。鮎美が金正忠から受け取ったけれど、由伊を人質とされたので、やむをえずに対馬とともに引き渡した核爆弾だったし、さらに背後には羅老号というロケットまで映る。対馬から半島へ運び込んだようだった。羅老宇宙センターは日本が種子島宇宙センターをなるべく赤道に近い位置へ造ったように朝鮮半島の最南部にあるので対馬からの搬入は速かった。

「この核兵器は核攻撃を目的として開発されたものである」

「そのまんまやん。それ試作品やけどな」

「直訳ですから、おかしく感じるのではないでしょうか、韓国語では、それなりの響きがある言い回しなのかもしれません」

「平和憲法違反のこの核兵器が、秘かに北部朝鮮から運ばれていた事実をもってしても、呪わしき日本の悪意を否定できうる者がおろうか!」

「まあ、善意で取り寄せたわけやないよ。撃つ気はなかったけど、お守りに」

「くっ…趙舜臣、李舜臣の亡霊が!」

 呪わしきという言い方を鮎美は聞き流したけれど、鷹姫は鮎美を侮辱されたように感じて怒り、吐き捨てるように言った。

「省みよう。なぜ朝鮮統一戦争が勃発したのかを! なぜ我らが大韓民国とともにあるのかを! 我々は58年間待った。もはや、我が軍団に躊躇いの吐息を漏らす者はおらん。今、真の若人の熱き血潮を我が血として、ここに私は改めて日本軍に対し、宣戦を布告するものである」

「なんで、こっちに来るねん?!」

「………この生放送を金正忠も見ているとしたら……」

 鮎美と鷹姫は核爆弾が遠隔で起爆できることを思い出していた。

「かりそめの平和への囁きに惑わされることなく、繰り返し心に聞こえてくる祖国の名誉のために、ジー…」

 画面が真っ白に輝き、次の瞬間に真っ黒になった。鮎美と鷹姫の脳裏に起爆スイッチを握った金正忠が満面の笑みでスイッチを押しているだろう光景が広がる。

「………怖っ………一歩間違ったら、うちが、ああなってたかも…」

「趙舜臣……戦場でなく、このような策略で最期を迎えるとは……不本意だったでしょう……」

 しばらくすると畑母神から電話が入り、核爆発は観測されず趙舜臣は生死不明、もともと羅老号は1号と2号が打ち上げに失敗しており、3号機は未完成だったので脅威ではなかったけれど、これで完全に脅威が消えたことと、趙舜臣の演説開始と同時に対馬へ配備されていた15両の自走砲から壱岐島へ砲撃があったものの、短時間で終わったと報告された。さらに新屋からも報告が入り、福井県の芦原温泉にある観光案内センターで人質を取るテロがあり、韓国人と思われるテロリスト2名が係員を人質にして、壱岐島からの日本人退去と領有権を要求する事件があったけれど、傷心旅行で居合わせた介式と前田が取り押さえて事無きをえたし、テロリストは銃や爆弾はもっておらず包丁と手斧だけでの犯行だったと報告された。

「同じパターンで壱岐島まで狙うんや……」

「一度は成功しましたし、核兵器とロケットが自分たちにあると見せつければ、こちらが脅威に感じて譲歩させやすいと見込んだのでしょう」

「策としては、ええね。うちらにはN友の会と、ロシアがついてるけど、壱岐島も攻め取れるかと思ったんやろ」

「……卑怯です」

「策とは、そういうもんよ。うちも対馬に罠を仕掛けたし」

「八岐大蛇の故事を思い出します」

 鮎美は対馬の住民に退去してもらうとき、家の前にビールや日本酒、焼酎などのアルコール飲料を置いてもらい韓国語で、個人の財産には手をつけないでください、お願いします、とメモを貼りつけるように依頼していたので、だいたいの住民が実行していてくれる。

「うまくいけば、あの酒類は家を荒らさんといてください、というお願いの対価やと思い込んで、勝手に呑むやろ。そしたら、調印書違反の個人の財産に手をつけたことになるし、ついでに酔っぱらってくれたら最高や」

「素晴らしい策だと思います………なぜ、芹沢総理の策は素晴らしいと感じるのに、趙舜臣や金正忠の策は卑怯だと感じるのでしょう……」

「そんなん、自分らの立場でいくらでも変わるやろ。韓国の立場で見たら、日本なんて難民船は追い返して転覆させるわ、裏で金正忠から核兵器もらうわ、ロケット砲を贈るわ、最悪やん。あのロケット砲、きっと韓国軍に向けられるよ。うちが韓国軍兵士やったら芹沢鮎美なんか百万回強姦して一万回殺したいと思うわ」

「………身辺警護を強化させます」

「もう十分やって。けど、長距離ミサイルはどうなんやろ、ここ?」

「もはや北朝鮮にはミサイルが無いと思われますし、韓国も同様ですが、中国軍にはありますので念のため、ミサイル防衛は展開されております」

「うちと陛下が移動するし、わざわざ余呉湖付近にも?」

「いえ、もともと山の向こうは敦賀で原発が林立しており、明後日から燃料節約のために発電もおこなわれますので、この付近にもミサイル防衛は展開されていました。それも選択肢に入れた理由です」

「鷹姫は優秀やね。おおきに」

 鮎美は愛しげに鷹姫の髪先を指で撫でた。もうポニーテールにはしていないけれど、日本人形のような髪型も可愛くて好きだった。

「間もなく陛下がお着きになられます」

「あ、車列が見えてきたね」

 見通しがよいので湖岸の道路を走ってくる車列が見える。やはり義仁が乗る皇宮車両も前後に装甲車が多数ついている。離れた上空をヘリさえ飛んでいた。鮎美たちの前に皇宮車両が停車し、義仁がおりてきた。

「由伊を助けてくれて、ありがとう。鮎美さん」

 開口一番に義仁は襲撃事件解決の礼を言った。

「いえ、うちは情けなくも、すべての要求を飲むと決めただけで、ホンマに頑張らはったのは現場に駆けつけ、調印書を渡して犯人グループを説得して、自ら代わりの人質にまでならはった新屋先生です」

「鮎美さんの決断があってこそです」

 福井県に近い余呉湖は、まだ寒いので施設に入る。警備は鷹姫と宮内庁職員が話し合っており、陸軍が施設周辺、ゲイツが施設敷地内、皇宮警察が施設内を担当するので、屋内に入るとものものしさが減り、長年皇族の警備をしてきた皇宮警察は気の休まる雰囲気を保ってくれる。

「陛下、芹沢総理、こちらへどうぞ」

 鷹姫が宿泊予定の部屋へ案内する。国民休暇村なのでグレードの高い部屋でも、ただの落ち着いた和室にすぎなかったけれど、もともと皇室は地方に出たときでも、それほど豪華な部屋に泊まっているわけではないので、警戒が厳重であること以外は、日常的な雰囲気だったし、皇宮警察は室内の安全を事前に確認していたので三人だけとしてくれる。眺望がよくて余呉湖が見渡せる窓際の安楽椅子へ義仁と鮎美を案内し、コーヒーテーブルを挟んで対面してもらう。鷹姫はそばの畳に正座して、二人へお茶を淹れたし、二人から勧められたので三人で飲む。

「ほな…いえ、では、これまでの政情を以前に報告させていただきました続きから述べます」

「うん、聴こう」

 鮎美が内政や外交、とくに北朝鮮から譲り受けた核兵器のことや密約、ロシアとの関係など報告すべきことを述べていくし、鷹姫はそばで資料などを呈示する。いろいろと説明していくと、それだけで3時間かかった。

「勝手に核兵器なんか入れて、すみませんでした。そのせいで由伊様が襲撃されることになったようなもんですし」

「過ぎたことです。むしろ、鮎美さんの頑張りがなければ、中国とも、どうなっていたか」

 政情報告が終わると、やや遅い昼食を三人で食べる。もともとの予定では、ここで鮎美と義仁を二人きりにする予定だったけれど、予定を変えて鷹姫も陪席した。余呉湖で獲れたワカサギの天ぷらや敦賀湾からの刺身などを食べて歓談し、かねやの湖北店から取り寄せた糸切りクッキーとシャーベットのデザートを楽しんだ後に、鮎美が切り出す。

「うちとの結婚を求めてくださる陛下のお気持ちは、ありがたく想っております」

「「………」」

 義仁が続きを待ち、鷹姫は目を伏せて静かにする。

「そこで、お願いがあります」

「うん、何だろうか? 私にかなえられることなら、かなえてあげたい」

 立場上、なかなか何もしてあげることができない義仁は15歳の男として恋している相手からのお願いに前向きだった。鮎美が穏やかに言う。

「では、うちを側室としてお迎えください」

「………」

 義仁が目を丸くする。意外すぎて、どういう意図なのか、わからない。

「ソクシツというのは、あの側室のことかな? 正室、側室、という」

「はい、そうです」

「………鮎美さんは、いつも面白いことを言い出すけれど……これは、また……。では、正室は、どうなるのかな?」

「正室には、良家の上品で控え目で、この人こそが皇后たるべき、と国民みなさんが想うような人を公募……公募はなんですから、宮内庁の方で、しかるべき方法で探してください。うちは陛下より三つ年上ですが、皇后様には同い歳か、年下がよいかもしれませんので数年後に」

「……う~ん……一夫一婦制を天皇がやめると?」

 三人だけなので義仁は天皇然とした振る舞いから、少し気を許して、そして鮎美からの提案が意外すぎたので、人間らしく腕組みして考え込む。鮎美は迷い無く答える。

「はい」

「一夫多婦は人倫にもとる、と昭和天皇がおっしゃって、なさったことであるのに? そもそも、あなたは女性であるし、その立場で言うのですか?」

「昭和天皇はお若い頃、キリスト教下の西洋王室や西欧風の考えに触れられ、また、長い武家政権下で女性の地位が低下した中で妾という不遇な地位が民間にあることを憂いての決断やと思いますし、それは当時の状況にかなうと思います。けれど、今の状況には一夫多婦が必要です。皇統の存続、とくに男系での存続に。そして、女の気持ちとしても一夫多婦の方が救われます。妻が三人いれば、もしも自分が不妊症やったり、たまたま女児ばかり生まれたとしても、感じる圧力は3分の1で済みますし。統計上、女子の約5%が不妊症ですが、一夫二婦なら子が生まれない可能性は0.25%まで低下し、一夫三婦なら0.0125%となります。また、男児を授かる可能性は、ほぼ2分の1ですから、たまたま女児ばかり産むことはあっても3人が生涯に7人を産み、21人の子をなせば、それこそ隕石が落ちてくる確率ほどまで男子が産まれない可能性は減ります。けれど、一夫一婦で、たった一人しかおられない天皇陛下へ嫁ぐのは、女として恐ろしすぎます。健康やったとしてもプレッシャーで不妊症になりそうです」

「………たしかに……母も、私が産まれる前……かなり悩んでおられたそうだけど……」

「あとは公務による負担も減るかと思います。三人で分担すれば、ご正室の体調がすぐれないときや妊娠育児中、他の者が公務にあたれます」

「それも、そうだけど……」

「こちらを見てください」

 鮎美は作成した範条を見せた。そこには結婚について同性婚も含め、一夫多婦も可能とする。かなり自由度の高い条文があった。

「昭和天皇の御世には、一夫一婦で国民に範を示されることが大切やったと思います。けれど、より価値観が多様化した今日、そして皇統存続の危機にさいして、天皇陛下が一夫多婦とされることに国民は安堵し、また多様な価値観の受容につながると思っております。うちが同性愛者なのは、ご承知でしょうし。うちを救っていただけると助かります」

「鮎美さんを……私が救うとは?」

「はい、個人としても公人としても、救っていただきたいのです。陛下の側室となることで」

「説明してもらえるかな?」

「はい、まず公人として、いずれ総理大臣の任期が終われば、うちは訴追される可能性もあります。とくに北朝鮮へは武器を渡していますし、独断で核兵器も受け取りました。さらに閣僚の一部と協調したとはいえ、尖閣諸島へロケットで使用済み核燃料を撃ち込み、それこそ人類が次の種へと進化をしているかもしれないくらい長期に渡って人が上陸することができないようにしました。他にもロシアへ譲歩した条件、韓国難民の追い返しでの転覆沈没、九州地方の救助活動を早めに切り上げ沖縄防御に回したこと、いろいろありすぎ、ヘタをすれば東条英機を超える戦犯とされるかもしれません」

「……。すべて鮎美さんは日本のためにしたことなのに?」

「そう考えない自由もあって、国民の誰かが、訴追することは可能です。うちとしては、できる限りのことをしたつもりですが、あとから、いろいろ言われる可能性は多く、十年二十年と裁判に悩まされるかもしれません。それがために独裁者は、独裁者をやめられない、ということもありますが、うちが側室とはいえ、皇族となってしまえば、いよいよ訴追は難しくなります」

「なるほど……たしかに……本当に、あなたは色々考えますね。けれど、それならいっそ正室がよくないですか? 私は、鮎美さんが好きだ。そういう意味でも正室が相当では?」

 義仁の15歳らしい気持ちの誠実さを感じて鮎美はありがたくて微笑み、一礼してから続ける。

「もう一つ、うちを個人として救っていただきたいのです。うちを側室とし、鷹姫を典侍とすることで」

「ないしのすけ? というと、あの典侍のことかな?」

「はい、皇室にあって天皇に仕え、剣璽を守り、ときに子を授かる典侍として鷹姫をお迎えください」

「いきなり一夫二婦とするのですか……それも、あなたの友人を……それは淋しくはないかもしれないけれど…」

 民間から嫁いだ母が、かつての交友関係とも気軽に会えなくなったことで受けたダメージも大きいだろうと義仁も慮ってはいた。産まれた頃から皇族であるというのと、民間人から皇族になるというのは環境の激変もあって心理的負担は重い。かつての平安貴族の娘であれば、すでに貴族として産まれ、そこから妃になるので素直に喜べるかもしれないけれど、気楽な民間人から、なにもかも窮屈な皇族になるというのは、義仁や由伊にも想像できない心地だろうと思いはする。

「「陛下、お願いいたします」」

 鮎美は頭をさげ、鷹姫も畏れ多くて畳に平伏し、さらに鮎美が頼む。

「そして、どうか許していただきたいのですが、私と鷹姫が同性婚することを、お許しください」

「……鮎美さんと、宮本さんが?」

「「はい」」

「………つまり……私と鮎美さんが結婚し、さらに私と宮本さんも結婚し、そうしておいて鮎美さんと宮本さんも結婚するということですか?」

「そういうことです」

「…………多様というか……めちゃくちゃというか……」

「うちは鷹姫のことが好きです。やはり同性愛者なので男性を尊敬して慕うことはできても、女として好きにはなれません。陛下のお気持ちには応えたいのですが、この先ずっと、自分の性的指向を抑えて生きていくとなると、どこかで心に変調をきたすと思います」

「……宮本さんは、どう想っているのかな? この形を?」

「御意のままに」

 鷹姫は平伏したまま答えているし、どっちの、どういう御意なのか、わからないので鮎美が説明する。

「鷹姫は、うちと陛下が結婚することを何よりも望んでくれています。もともと無性愛者で、男性にも女性にも興味は抱かず、ただ子供はつくって次の世代につなげたいという想いはもっています。うちも、子供をつくることは考えてきませんでしたけれど、うちを好きでいてくださる陛下とのお子なら、皇統のためにも、個人的にも授かりたいと想います。また、実際少なくない同性愛者が異性と結婚していたりもしますし、それでなんとかやっていることもあります。おそらく隠れてパートナーと会うのかもしれませんが」

「………」

 義仁が悩む。まず鮎美のことが好きというのは変わらないけれど、女性として鷹姫を見たとき、魅力的な部分もある人だと想うし、上下関係を重んじて、その中で生きることをよしとしている風なので、むしろ皇室には向いた性格かもしれない、その二人を娶ることに男性心理として、とくに抵抗はない。また、皇統の存続に一夫多婦を要するというのも数学的に理解できるし、もはや不可避と思われる上、女性が受けるプレッシャーを想うと、その方がよいと判断できる。

「……鮎美さんと宮本さんも結婚……」

 そして、鮎美と鷹姫まで結婚してしまうというのは理解しにくいけれど、お互いに慰め合う時間がほしいのだと思えば、そういうことがあっても男として、さほど抵抗はない。

「たしかに鮎美さんは同性愛者なのでしょうから、そういう気持ちも大切でしょう。けれど、私が二人を娶り、三人で同居すれば、わざわざ同性婚という形をとらなくても、お好きなようにされれば、よいのでは? 私は咎めません」

「陛下がお咎めにならずとも、世間が騒ぐでしょう。あのレズビアンだった芹沢鮎美が陛下と結婚した。しかも親友と同時に。なにかあるに違いない、と勘ぐられますし、また、同性愛者たちからは、裏切り者と思われるかもしれませんし、やっぱり芹沢鮎美は、もともと同性愛者ではなかったとか、皇族になりたかった出世の亡者なのだろうと言われるかもしれません。そして何より私の夢として同性婚を実現させたいですし、自分もしたいのです。当初から、そう発表すれば、隠れて皇居で鷹姫と会うより、ずっと気持ちが楽ですし、それは鷹姫も同じです。私の生まれ持ったサガも、いっしょに受け入れてください。お願いします」

「………」

 義仁にも、鮎美へ性的指向を曲げて結婚してほしいと求めている負い目はあるし、それが楽になる。不貞のようでいて、鮎美と鷹姫が何をしようとも絶対に妊娠したりしないし、できるのは義仁との子に決まっている。もしかしたら、記録に残らないだけで、かつての皇族や貴族のうちにも、そういう性的指向に産まれ、女同士御簾のうちで慰め合っていたかもしれない。少なくとも絶対あってはならない妃が王以外の子を宿すということは生物学的にない。あとは、そういう関係を国民が、どう感じるか、だった。

「私はいいとして、国民は、どう感じるだろうか? 一夫多婦も同性婚も」

「かつて日本は性に寛容な国でした。必ずしも一夫一婦に縛られることなく妻問婚もあり、後三条天皇以前は、それが普通でした。卑弥呼や推古天皇、斉明天皇、持統天皇、元明天皇と、古代には母系社会の影響も残り、女性指導者も多かったのですが、中国からの男系継承文化が入り、まず天皇家が男系となっていき、さらに武家も真似て男系を重んじました」

 鮎美は鷹姫から得た知識で義仁を説得しようとする。義仁も15歳にして育った環境から、それらの女帝は自然と知っていたし、平安文化にも明るい。

「その歴史上の文化と継承の変化はいいとしても、その変化の中で妾は不遇な地位におかれるようになり、そのことを憂いてくださった昭和天皇が一夫一婦を範として国民に示され、キリスト教の影響もあって男女の一夫一婦こそが理想の夫婦像なのだ、と定着しています。それでも、人のサガは抑えきることができませんから、愛人というものが存在し実に不遇な地位におかれています。婚外子の問題も深刻です。そして同性愛も、もともとの日本の文化では寛容に受け入れられていたものが、キリスト教の呪わしき影響によって、絶対禁忌の間違ったもの、汚く穢らわしいもの、神の意志に背いたもの、自然の摂理に反したもの、とされていきます。本来、ヒト以外の種にも自然の摂理によって一定数、同性愛的行動を示す個体が現れるにもかかわらず、不寛容な唯一絶対を設定された神が、そう述べていると、どうせろくでもない預言者の妄想に過ぎない妄言が、異性愛者が多数を占めるということもあって、定着してしまいます」

「……鮎美さん…」

 義仁は鮎美が語りながら涙ぐむので、深く同情した。義仁にも同性愛指向はないので、その感覚や苦悩は理解できない。けれど、とても苦労してきたのだとは感じられる。普通の異性愛者が普通に喜びとする性行為が、それ自体が異常なもので禁忌であるとされること、こうして結婚にさいしても大きく問題となることが、苦しいのだとわかる。

「まず一夫多婦ですが、人類は一夫一婦と一夫多婦の併存が、もっとも平均的な社会のありようです。ある程度の競争と富の偏在があり、富めるオスが数体のメスを養います。これは自然の摂理にかなったことで、自然界の哺乳類でも、よく見かけられますし、むしろスタンダードです。そして私たちと同じ霊長類でも、一夫一婦や一夫多婦の種もいれば、チンパンジーなどは多夫多婦です。多夫一婦となることもあり、これは人類では極端に食糧事情が悪いときに、そのようになるようです。それらをふまえて、いまだ人類も進化の途上にあります。そもそも進化に終わりはありません。これから人類が、どう変化していくか、それらは一人一人の自由な選択にゆだねられるべきであって、一夫一婦のみが正義であると押しつけることは、間違っています。進化の過程に生殖活動というのは、きわめて重要な影響をもちます。ゆえに、その選択は自然な人々の心に任せるのがよく、一夫一婦を尊重したい者は、その方向性で生きていけばよいのであって、そうでない者を批難し誹謗中傷することは大きな間違いです。人の幸せは、それぞれであるのですから、かりに文句を言える立場の者がいるとしたら、唯一当事者である既存のパートナーです。法も律令も規則も大衆も、他人の自由に口出しすべきでないのです。そうして、一人一人の自由な選択があって進化していきます。わざわざ一夫一婦しかダメだ、とたまたま今現在は多数派である人々が、それ以外を望む人々にまで強制するのは、まさに人倫にもとります」

「………けれど、一夫多婦を認めたとき、昭和天皇が心配されたように、妾のような可哀想なことにならないだろうか?」

「むしろ、現状を維持する方が可哀想です。これだけ女性の権利と、人権の平等意識が普及した現在であれば、逆に国家が一夫多婦などを認めてしまい、それぞれの配偶者は平等だ、平等に扱わねばならない、とイスラームのように宣言する方が、よい方向にいきます。現状では婚外子は法的に差別されています。法的に差別されるということは、国家が差別を肯定しているということです。たまたま前妻がいる人と結ばれたから愛人と呼ばれ、さらには何の罪もなく元気に産まれてきただけなのに、愛人の子、不貞の子と呼ばれる、人は産まれながらにして平等であるという原則に外れています。法律婚の保護という原則に目を奪われ、肝心の平等を忘れるという本末転倒ぶりは罪刑法定主義でも見られた思考硬直の極みです」

「……とは、いっても前妻と、その子供たちの立場は?」

「平等です」

「では、離婚ということは、どう考えるのだろうか?」

「結婚が当事者の合意のみによって成立している以上、合意が崩れたのですから、ただちに不成立となります」

「それでは安易な離婚が増えないだろうか?」

「現状でも4組に1組が離婚していますし、平安時代の妻問婚では、そもそも夫の訪れがなくなれば、離婚です」

「そうなると、子供の養育に不安がでるだろうに?」

「大半の人は一夫一婦を守るでしょうし、子供に対する社会保障を、すべての子の平等という観点で充実させれば問題ありません。また、離婚後には子供を養育しない側の配偶者に税をかせば、養育費の代理徴収ができます。これまでの法律や裁判では、なかなか離婚は成立しないのに、なかなか養育費は取れないという本末転倒が見られました。これは畑母神先生も苦労されていたことなのですが、ずっと別居し、すでに子も大人になっているような場合でも、離婚調停や裁判が長引き、次のパートナーとの結婚に支障が出て、あげくに選挙では愛人がいると流言される有様です。けれど、本当の意味では離婚は片方の宣言や申請で成立しているはずなのです。すでに片方がノーと言った結婚は、もはや結婚ではありません。そうして離婚手続きを簡便にする一方で、養育費は容易にえられるよう住民基本台帳とリンクさせた税と同じ徴収システムをつくります。これで離婚の問題を解決しつつ、一夫多婦も認めるのですから、離婚が減る可能性もあります」

「まあ…たしかに……。けれど、子の平等、妻の平等を言う、あなたが自分を側室とし、さらに宮本さんを典侍とするのは、言行不一致ではありませんか?」

「それを言い出すと天皇陛下と国民が平等でない、という平等絶対主義のようなことになりますし、うちの側室、鷹姫の典侍というのは役職名のようなもので、本質的には平等です。課長と係長がいて、課長が上ですが、二人の人権は平等というのと同じことです」

「うん………」

 頷いたものの義仁は悩む。鮎美が社会にもたらそうとしている変革は大きすぎる。すぐには肯定できないけれど、皇統の存続と皇妃の負担軽減に一夫多婦が要るというのは頷けるし、天皇だけが一夫多婦で、他の国民は一夫一婦を続けよ、というのも言い難い。

「もう少し言わせていただけば、まず一夫一婦制は生殖活動の共産主義化です。本来、生き物は競争します。競争の結果、より多数の子を残すことで進化していきます。ところが一夫一婦を強制してしまうと、競争が抑止され、まるで共産主義のようになり、この結果、少子化が起こってきます。世界の少子化が生じている国は厳格な一夫一婦を敷いている国に、ほぼ一致します。他の経済発展などの要因があるとしても、単純に10組の夫婦のうち1組は男女どちらかが原因で不妊であるということを考えると、不妊の原因となっていない方のパートナーから見れば、機会の損失でもあります」

「……子をつくるだけが夫婦の愛でもないでしょう?」

「クスっ……そう言っていただけると、同性婚に根拠がいただけ嬉しいものです」

 鮎美が我が意を得たりと微笑む。惚れた女の笑顔は男心に響いた。鮎美は横髪を耳にかけてから続ける。

「一夫一婦が進化論的な共産主義強制である反面、一夫一婦は富みの面で資本主義のように格差の固定と拡大を産みます。たとえば年収1000万円の男性が二人の妻をもてば500万円ずつ、その子に投資されると期待できますが、一夫一婦では独占されます。この独占を必ずしも正義であると主張し続けることは難しいと考えますし、分割される方が富みの平等化につながります。重い相続税や累進課税で是正もできますが、人の本能を考えれば、競争と競争の結果としての果実の所有量の違いはあるべきですし、その差を認めるのであれば、一夫多婦によって多くの子を残す機会も認めるべきです。それが自然の摂理です。これまではキリスト教の影響によって、その摂理に逆らったため、たまたま少し時間的に遅れて二番目の配偶者となった者が愛人と呼ばれて差別され、何らの罪もない子が婚外子、不貞の子とされ、法律からも理不尽な扱いを受けています。私の秘書で、やはり愛人の子であった者がいるのですが、ずっと同居している父と、本当は親子であるのに、法的には親子とされず、いったい自分とは何なのか、悩んでいた者もおります。こういった子にも光を当てるべきです。逆に、たまたま先に結婚していたというだけで、もう気持ちがお互いに離れているのに嫌がらせ的に離婚しない者もおり、このような既得権の固定化は間違っています。これらの理不尽と固定化をやめ、より自由な形にすれば、少子化問題も解決に近づきますし、ヒトの進化も自然の摂理にのっていきます」

「鮎美さんは、進化の話が好きなのですね。その進化において、同性愛は、どう考えておられるのですか?」

「同性愛者の存在、同性愛者もまた自然の摂理によって産まれてきます。これまで差別しても差別しても、ときには虐殺さえしているのに、ずっと自然の摂理によって誕生してきています。さんざんに同性愛を否定しているキリスト教やイスラム社会でも、その数が減っているというデータは見かけません。単純に2000年程度でヒトの形質が変わらないだけかもしれませんが、同性愛指向の個体が少数でも産まれてくるというのは動かない事実です。要らないもの、不要なものであるなら、とうに退化して消え去っていそうなものなのに、切っても切っても伸びてくる髪の毛のように、存在し続けています。眉毛や睫毛などは切らずとも一定まで伸びれば自然と止まるのに、ヒトの髪の毛は伸び続けます。ゴリラやチンパンジーは美容室にも理容にも行かないのに、ほどほどで止まっていますが、ヒトだけは伸び続けます。この理由、これが果たす役割、それを人類はいまだ説明できていませんが、それでも自然の摂理として伸びているのです。説明できないからといって、自然の摂理に逆らった存在と決めつけることは実に愚かです。この愚かさの是正と、同性愛者の解放、愛人と婚外子への救い、これができるのは陛下のみです。何度でも言いますが、日本は性に寛容な社会でした。キリスト教が入ってくるまで、衆道は一つの道として存在していました。明治期にも、わずかな期間だけ同性愛は違法とされただけで実質は取締りされず空文化しており、すぐに条文から除かれました。そうして、現在までは消極的に個人の自由とされてきましたが、もはや人倫にもとる同性愛者への冷遇、条文としては存在しないかのような扱いを改め、たしかに私たち同性愛者は存在し生きているのだと、そうお認めいただき、私たちを救ってください」

「……同性愛者ではない、私が、ですか?」

「はい。昭和天皇の影響が絶大であったように、やはり天皇陛下の動向は国民に大きく影響します。国民だけでなく全世界にも。世界最古の王朝が、その王が、同性愛を寛容に認めるということは、むしろ本人が異性愛者であるだけに大きな意味をもちます。歴史上、王や皇帝本人、徳川将軍などが同性愛者であったことは、見受けられますが、異性愛者である陛下が、うちの存在を認めてくださり、鷹姫との同性婚を寛容に許してくださるなら、これは人類史上の革命です。ただただ一夫一婦制こそが人の生き方の真実であって、それ以外は非道だ、と排斥されてしまうことこそ今や非道であると、陛下が多様な結婚観を受容してくださることは、多くの同性愛者の光となり永遠に輝きます。我が国は寛容をもって始まり、中国に習い、欧米に習い、そうして進んできましたが、より一歩世界に先んじて進むべきときです。もはや私たちの前に道はなく、私たちのあとに道ができるのです。同性愛者であっても異性と結婚し、それでいて、ときには同性のパートナーとも過ごすことがあってよい、そういう寛容な社会もあると」

「…………」

「和をもって尊しとなす、その和を陛下と、うち、鷹姫、三人の輪で、国民への範として示してください。お願いします」

「お願いします」

 鮎美と鷹姫が頼み込み、義仁は考え込む。そして微笑した。

「わかりました。こういう鮎美さんを好きになったのだから、同性愛であることも、あなたの一部であるし、それが求める宮本さんもまた、あなたと同じく愛おしい。好きな人の求めに応じましょう」

「っ! ヤッタ!」

「恐悦至極に存じます」

 対照的な二人の反応を義仁は楽しく想った。三人の気持ちが決まると、次は宮内庁への説得だった。当然、大きく驚かれ、猛反対されるけれど、鮎美と義仁が説明していくと、まずは一夫多婦が皇統の存続に要ることは、すぐに理解された。それは宮内庁の方でも内々に考えていたことでもあったし、保守論客からもときおり出る提案だったので、このさい導入することになる。そして言われる。

「二人の妻が同居して仲良く過ごされているというだけで、わざわざ同性婚をされなくてもよいのではないですか。いっしょに過ごされる時間を大切にできるよう我々も取り計らいますから」

 暗に同性愛的な行為は密室でおこなえば干渉しないと提案されたけれど、それも鮎美は義仁を説得したのと同じ論法で語り、宮内庁を悩ませた。悩み抜く宮内庁ではあったけれど、同行させている宮内庁病院の医師に、ともかくも鮎美と鷹姫が健康な女性であるのか診たいと言われ、二人とも素直に応じた。一人ずつ別室で全身を診察され、とくに鮎美は下腹部を刺された事件があるので入念に調べられたけれど、桧田川の治療が完璧であったことで傷跡はなく、さらに同行していた桧田川も刺し傷が子宮に達しておらず妊娠に何ら問題がないと説明した。鷹姫の方は、よく鍛えられた健康な身体で妊娠するのに理想的だった。そうなると、宮内庁の方でも18歳という若い二人の子宮がえがたい存在に考えられてくる。どうしても晩婚化しつつあった皇室において、これから長い出産適齢期がある鮎美と鷹姫は貴重だったし、また義仁の想いもある。歴史上、適切な配偶者を捜そうとして天皇の想いを無視した結果、失敗した例もあり、せっかくの当事者の意志と、この機会を逃してしまうと、これから先また何年か、十何年か、義仁と由伊しか皇族がいないという不安定な時期を過ごさねばならない。万一のことがあっては国体に関わる問題で、いっそ、とにかく鮎美でもいいし、鷹姫でもいいので男児を産んでくれれば、これに勝ることはなかった。そして、鮎美が側室であり、鷹姫が典侍となり、正室は他に探すというのも宮内庁に希望をもたせたし、同性婚するがゆえ鮎美も鷹姫も男性には一切の興味をもたないので、もっともあってはならない英国王室も悩ませた妃の浮気ということは起こりえないこともプラス要素となり、三人の意向は通った。

「天候も良くてよかった」

「はい、陛下」

 義仁と鷹姫が空を見上げた。これから範条の公布をおこなう鮎美は書面に目を通している。余呉湖湖畔に出て、天女が羽衣をかけたという伝説がある衣掛柳という大木と鏡のように静かな湖面を背景にして範条公布施行、そして三人の婚約を発表し始めた。斉藤が撮り、まず鮎美と鷹姫が分担して条文を読み上げる。

 

 国民の生き方

109日本国民たる要件は律条で定めます。

110国民は基本的に人権をもっています。

111人権に基づく自由と権利は維持する努力をし、また濫用してはなりません。

112何人も公共の福祉に反しない限り、居住と移転の自由を有します。

113何人も公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由を有します。

114何人も外国に移住し、または日本国籍を離脱する自由を有します。

115学問は自由です。

116宗教は自由です。ただし公共の福祉に反してはなりません。また、過去に殺人もしくは大量虐殺等の悪行をおこなった宗教は自由を有しません。

117日本国は神道を大切にしますが、他の宗教を尊重します。

118何人も未成年者に対し、宗教上の行為、祝典、儀式、行事に参加することを強制してはなりません。ただし、婚礼、葬儀、習俗としての祝い事、地域の伝統行事は、この限りではありません。

119何人も何人かを宗教に勧誘するときは、それを明示しなければなりません。

120宗教勧誘に関することは律条にて定めます。

121教育機関は未成年者に対し、特定の宗教について教え込んではなりません。これは親子から同意がとれている場合でも適応されます。

122何人も奴隷的拘束を受けず、犯罪による処罰を除いては意に反する苦役に服されません。

123思想は自由です。

124何人も公共の福祉と個人の尊厳に反しない限り、集会、結社、言論、出版、発信、表現等の自由を有します。

125犯罪の捜査と国防による場合を除いては検閲は禁じられ、通信の秘密は守られなくてはなりません。

126婚姻は自由です。婚姻は当事者の合意のみに基づいて成立します。ゆえに男女の一夫一婦であれ、同性婚であれ、または一夫多婦、多夫一婦、多夫多婦であっても成立します。ただし、各配偶者の平等、すべての子の平等、相互の協力が実現されなければならず、社会福祉の充実は子供すべてが平等であるという原則と、人が我が子によくしたいと想う本能の平衡をとり律条にて定めます。

127何人も公共の福祉に反しない限り、婚姻、恋愛、性行為、性的指向、性的趣味等の自由を有します。配偶者の選択、離婚、婚姻、家族、生活に関するその他の事項について律条は個人の尊厳と自由、人類の進化の可能性に立脚して制定されなければなりません。

128食は自由です。絶滅危惧種、もしくはヒト、その他食用とすることが不適切である合理的理由がある場合を除き、日本国民は食の自由を有します。

129何人も人類の進化の可能性を追求しています。

130日本国民は公共の福祉に反しない限り、生命、自由、幸福追求の権利を有し、統治においても尊重されます。

131日本国民はすべて律のもとに平等です。人種、信条、性別、障碍、性的指向、身分、門地によって政治的経済的社会的に差別されません。

132公務員を選定し、または選出されることは日本国民の権利です。

133公務員は日本国全体の奉仕者です。

134選挙における投票は自由かつ秘密は守られなければなりません。

135何人も損害の救済、公務員の罷免、範条、律条、国令、規則、命令等の廃止または改正等を平穏に請願する権利を有します。

136何人も前条の請願をしたために差別待遇を受けません。

137何人も公務員の不律行為により、損害を受けたときは国または公共団体に賠償を求められます。

138日本国民は律条の定めるところにより、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有します。

139日本国は国民の生活について福祉、社会保障、公衆衛生の向上に努めます。

140日本国民は律条の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有します。

141日本国民は律条の定めるところにより、子供たちに普通教育を受けさせる義務があります。とくに親は強く義務を負い、また義務教育は無償とします。

142日本国民は勤労の権利を有し、義務があります。

143賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、律条にて定めます。ただし、大きな格差があってはいけません。

144子供を酷使してはなりません。

145勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動をする権利は保障されます。また、律条もしくは法律の条文を悪用し、勤労者保護の本旨に背く雇用契約以外の契約も実体として雇用性があるときは勤労者としての権利を有します。ただし、勤労者の勤務態度や業務遂行等に雇用契約の本旨に背くものがあるときは、雇用者は裁量をもって契約を解除できます。

146財産権は保障されます。

147財産権は公共の福祉にかなうように律条で定めます。

148私有財産は正当な補償のもとに公共のために用いることができ、この事務には土地処分委員が関わります。

149日本国民および一定の滞在者には、律条の定めるところにより、納税の義務があります。

150何人も、律条の定める手続きによらなければ、その生命もしくは自由を奪われ、またはその他の刑罰にかせられることはありません。

151何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪われません。

152何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する機関が発し、かつ理由となっている犯罪を明示した令状によらなければ逮捕されません。

153何人も、理由を直ちに告げられ、かつ、ただちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留または拘禁されません。

154何人も、正当な理由がなければ拘禁されず、要求があれば理由は直ちに本人および弁護人に公開のうえ示されます。

155何人も、逮捕された場合を除いては、住居、書類、所持品について捜索、侵入、押収を受けることがない権利を有し、正当な理由に基づいて発せられ、かつ捜索する場所および押収する物を明示する令状がなければ、侵されません。

156捜査または押収は権限を有する機関が発する個別の令状によりおこないます。

157公務員による拷問を禁じます。

158道理にかなう正当な理由がなければ、残虐な刑罰はかされません。

159すべて刑事事件においては、被告人は公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有します。

160刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられ、かつ公費で自己のために強制的手続きにより証人を求める権利を有します。

161刑事被告人は、いかなる場合も資格を有する弁護人を依頼することができます。被告人が自ら依頼できないときは日本国が与えます。

162何人も、自己に不利益な供述を強要されません。

163拷問、強制、脅迫、不当に長く抑留もしくは拘禁された後での自白は証拠とできません。

164何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白のみである場合は有罪とされません。

165何人も、実行の時に適法であった行為または既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われません。ただし、きわめて非道もしくは律条または法律から逃れることを意図し常人が強い嫌悪の念を抱くような行為があり、これを裁判しないことが著しく道理に反するときは、裁判員が11名以上出席する裁判において3分の2以上の決議をえたときは相当の刑罰をかすことができます。

166何人も、抑留または拘禁された後、律条の定めるところにより、日本国に補償を求めることができます。

 

 諸事

167日本国の財政を処理する権限は総理大臣と財務大臣が連帯して行使します。

168日本国の支出および債務の負担は総理大臣と財務大臣が連帯して行使します。

169総理大臣は予算を作成し国会に報告しなければなりません。

170予見し難い事態に対して総理大臣と財務大臣は予備費を設けます。

171予備費の支出について国会に報告しなければなりません。

172日本国の支出入の決算は、すべて毎年度会計検査院が検査し、国会に報告しなければなりません。

173会計検査院については律条で定めます。

174総理大臣は国会と国民に対し、年一回以上で定期に財政状況について報告しなければなりません。

175地方の自治は国全体の統治と平衡を保ちながらおこなわれます。

176地方自治については律条で定めます。

177地方公共団体の長、議会を置いたときの議員は住民が直接に選挙します。

178諸々の状態によっては小規模な地方公共団体に議会を置かないこともできますが、県には必ず設置を要します。

179地方公共団体は財産を管理し、事務を処理し、行政を執行する権限を有します。また律条の範囲で地方令を制定できます。ただし、議会のない地方公共団体が地方令を制定するには属する地域を選挙区とする地方議員および国会議員の承認を要します。

180一つの地方公共団体のみに適用される特別律は律条の定めるところにより、その地方公共団体の住民投票において過半数の同意をえなければ、国会は制定することができません。

181天皇の権限と行為については、これまでの伝統を重んじることとします。

182天皇が著しく幼年である等の道理にかなう正当な理由があるときは摂政を置くことができますが、摂政の選出は皇統にある者を優先します。

183皇室の財産は日本国が預かり管理します。皇室典範は天皇と大臣、両議院の総意によって形成されます。

184天皇は自らの健康状態など抜き差しならない理由において、他に皇位継承者があるとき、譲位されます。

185国民の3分の2および国会の4分の3が願うときで、他の皇位継承者があるとき、天皇は譲位されます。

186この範条の改正には両議院の総議員の3分の2以上の賛成により、国民投票において過半数の賛成を要します。ただし、多数者が少数者の権利を制限するような改正は、その少数者の存在が明白かつ切迫した公共の福祉にとっての害悪でない限り、おこなえません。

187前条の改正があったときは、天皇が公布します。

188この範条は国と国民の規範であって、この条理と道理に反する律条、国令、その他の国務についての行為は効力を有しません。

189日本国が締結した条約および確立された国際法規には誠実な姿勢で臨みます。

190この範条は非常なる危難において公布施行されましたので、十分な実施には時間を要し、それまでは大日本国憲法および日本国憲法下で制定された各種の法律で、この範条と道理に反しない条文、処分については有効とします。また経済的な影響の大きい改変については12年をかけて調整します。かつ、条文の細部における文言の変更、順番の入れ替えは本旨を変更しない範囲で総理大臣が国務大臣の過半数の賛成をえてできることとします。

 復和元年3月31日公布施行

 

 鮎美と鷹姫による読み上げが終わると、義仁が公布を宣言する。

「朕と総理大臣、国民みなのもとに、真日本国範条を公布し、これを本日より施行するものなり」

 やや古風に言った義仁は続ける。

「かの3月11日の人の身の無力さを痛感する巨大なる大震災から、はや20日。この間に朕と国民が経験したことは言葉に尽くしがたく。また隣国との争い、不和も続いており、家を追われた人々のことを思うと、痛恨の極みであります。家族を亡くした人、それに朕も含まれます。ここから立ち直り、また国民に笑顔が戻るには大変な労苦が要るでしょう。けれど、挫けず前に進んでください」

 少し義仁は間をおいた。

「この危難のときにおいて、いささか珍妙にも聴こえるかもしれませんが、朕は一人の男子として、素晴らしく奮闘する芹沢鮎美さんの姿を見続け、この人を伴侶に迎えたいと想っています」

 また、間をおき、国民の反応を想像する。災害時に不謹慎という声もあるだろうし、皇統の存続について考えている者は安堵してくれるかもしれない、国民一人一人も災害時に失うばかりでなく得がたい出会いを見つけた者もいて共感してくれているかもしれない。そばに立つ鮎美を見ると、緊張した顔で頷いてくれた。鮎美とは身長差が3センチあって義仁の方が高い。いずれ二十歳になる頃には頭一つの差になりそうだった。今は15歳と18歳なので並ぶと、二人とも若さが目立つし、結ばれたというなら、それは朗報に聴こえたろうけれど、鮎美が同性愛者であると言ったことを忘れていない者もいるはずだった。

「朕の求めに鮎美さんは悩まれた。彼女は彼女と同じ女性を愛するサガに生まれたゆえ、男を慕うことはあっても愛せはしないと。それでもおして求める朕に、いよいよ鮎美さんは奇想天外なる案をくれました。蓬莱の玉の枝か、龍の首の珠をもってきてほしいと言ったなよ竹のかぐや姫を思わせるような難問奇問でありました。それでも鮎美さんの目指す社会の理想像に共感し、ここに朕は彼女が望む側室としての結びを約したことを国民に伝えます」

 おそらく聴いている国民の方も、義仁が鮎美の口から側室と聴いたときと同じ疑問を抱いていると感じられた。いきなり側室と言われても、頭が疑問符でいっぱいになる。けれど、記憶力のいい者なら範条の126で結婚が驚くほど自由にされていたことを思い出すはずだった。

「かの昭和天皇は一人の男子が、一人の女子と愛し合う姿をもって国民へよしとされました。多くの人々にそれが合うでしょう。けれど、朕の母のような立場にある女性は男児をえられるまで、その悩みは深いものです。必ずや男児を産まねばならないという重責を感じ、心の病となるほどに。本来、学問のうえでは男児が産まれぬことの責任は一切女性にないにも関わらず、責めるような風潮が古来から残っており、いまだ続き母を悩ませました。いっときは表に立てぬほどであったと聴きます」

 自分が産まれる前のことでも、少し調べれば知ることができるので義仁は母のことを庇う。生物学的には、むしろ男性から提供される精子によって男女が決まるけれど、昔から女腹などと言って母親の方を責める流れにあるし、男性とて提供する精子を選べるわけもないので、誰の責任でもない、ただ確率の問題に過ぎない。

「このような悩みに朕の愛する人をおとしたくはなく、また、鮎美さんからの提案もあり、こちらにおられる宮本鷹姫さんを朕の典侍として結ぶことも同時に約しております」

 ないしのすけ、って何? と国民の大半が思っているのが感じられるので、もちろん説明しておく。氏名を天皇から口にされた鷹姫は二人より一歩引いて直立していたけれど、身長は義仁より2センチほど高い。映りとして義仁より高い位置に頭があることを気にして、片膝をついて畏まり頭もたれた。典侍が何かを知っている保守的な者や古典に明るい者は、この鷹姫の様子に人選の妙を感じている。

「典侍とは、もう耳慣れぬ言葉になったでしょうが、明治天皇と皇后の間には子がなく、柳原愛子なる典侍が産んだ男児が大正天皇となっており、皇后を助けるもの、そして剣璽を守るもので、鷹姫にふさわしい役目とみています」

 そう言われると、国民も妾に類するものだとわかるし、いきなり二人も娶るのに違和感を覚える者と、喫緊の課題である皇統存続に本気で取り組むのだと理解する者にわかれる。

「大正天皇と昭和天皇は一人の女性を愛することを選ばれましたが、朕は鮎美さんと鷹姫をふくめ、今一人の正室を考えております。これも鮎美さんの案で、自ら自分のような者では国民が納得すまいと、身を引かれ側室を望まれたゆえです」

 鮎美が同性愛者であることを忘れていない者は、いっそ鷹姫が正室でもいいのに、と考えたりもしている気配も感じるけれど、義仁は続ける。

「くわえて現世のおもしろきかな、人のさまざまたるや、一つの考えにおさまらず、男であり男と結びたき者、女であり女と添いたき者、これらの人々も昔々より存じられ、今にいたっても強く愛を結んでいるようです」

 やや遠回しに言ってから本題に入る。

「鮎美さんと鷹姫も、その範疇に入るようで、朕との結びとともに、二人も結び夫婦と同じ絆をつくることも宣じます」

「鷹姫」

 鮎美が片膝をついている鷹姫へ立つように促した。恭しく立った鷹姫は頭をたれ気味にして義仁よりも鮎美よりも低い目線でカメラを見る。一瞬だけ見て、すぐに視線を落とした。そんな鷹姫の手を鮎美が握り、カメラに向かって契る。

「鷹姫と、うちは結婚します。そして、陛下とうちも、また同時に、陛下と鷹姫も。今この瞬間より、日本は同性婚を認める国となりました。っ…」

 そう言うと、鮎美は感情が高ぶって涙を零した。嬉しい。律令や法律、憲法より、この国では征夷大将軍の頃から、天皇に認められることの方が大きい。あのマッカーサーでさえ、天皇の存在には敬意を払ったし、足利将軍を蹴り出した信長も重んじている。さらに現代では全世界へ与える影響も大きいはずだった。尖閣諸島や竹島など小さな島々を取り合うことは歴史の常だけれど、同性愛と同性婚を人類最古の王朝の王が異性愛者であるにもかかわらず存在を認め、自身のそばにおくとしたことは、きっと人類史に残るし、千年先でも語られる。今とうとう夢がかなった心地で鮎美は涙が止まらなくなり、それでも喉に力を入れて言う。

「日本国民である同性愛者の方々、今日から婚姻届を受け付けます。いまだコンピューターシステムは対応できず、男と男、女と女の戸籍で入力すればエラーを出すでしょうが、書面、紙の婚姻届へ受付印を押してもらうことで、今日から有効であったとします。システム改修には数ヶ月を要するかもしれませんが、それまで婚姻届の控えは大切にもっていてください。今日が、みんなの結婚記念日です!」

 鮎美の耳には全国の同性愛者からの歓声が聞こえた。少なくとも300万人はいる。けれど、大多数は強い違和感と権力の乱用を覚えているだろうことも察している。

「人は本来、男と女が愛し合い、動物は本来、雄と雌が生殖する、それが自然の摂理だ、とお考えになっている方々には、大きな違和感があることと思います。また、一人の男が複数の妻をもつこと等も。さきほど公布施行した範条があっても、これからも大半の方々は男女の一夫一婦を大切にしていかれると思います。けれど、そうでない形があることを否定しないでください。自分たちと違う者を否定し、排斥するのではなく、違う者もいる、それはそれでよし、みながいっしょではないと。また、同性愛者は自然の摂理によって産まれてきています。趣味でも道楽でもなく、生まれつきそういう指向なのです。これはヒト、ホモサピエンスだけに限らず、他の種にも見られる現象です。そういう層が個体集団の中に出現することの優位性は未解明ですが、退化もせず、廃れもせずに残っているあたり、盲腸や親知らずより意味があるのでしょう。人も生き物の一種です。これからも進化していきます。日本人という個体集団は天皇をいただき、性に寛容な社会を築いてきましたし、これからもそうです。そして、何の罪もなく産まれてきたはずなのに、愛人の子などと言われて、まともな扱いがされない人もいますが、この人倫にもとる状況も今解放します。子はみな本質的に平等です。そして結婚は当事者の合意によって成立しているのですから、合意が消失したとき同時に消失します。ゆえに、あらゆる離婚届は片方の配偶者の意志で有効となります。ただし、財産分与と子が大人になるまでの養育費については税と同じ手続きで配分されるようにします。愛人の子も、ホモやレズと蔑まれてきた人も、もう胸を張って生きてください。多数者が少数者を排斥する社会にはしません。さまざまな人がいる、自分と違う人がいる、それは、それでいい、そういう生き方もある、みんなが色々な生き方を試し、次の進化のステージへ向かうのです。みんなが同じであることを強制する社会が和の国ではありません。それぞれに違う、けれど、和をもって尊しとする、つまり尊重する、そういうことです」

 配信が終わると、鮎美たちは予定通りに3人で過ごし、同室で夜を迎えた。また明日からは忙しい日々が続くはずで、今も各大臣たちは所管業務に精励してくれているけれど、今夜だけは鮎美たちに連絡や報告をしないようにしてくれていた。その静かな時間が流れて、もう24時前という頃になって、もともと義仁に仕えている宮内庁の女性職員が遠慮しながらも至急の用件ということでドアをノックしてきたので鷹姫は浴衣を羽織り、用件を聴くと、畑母神から鮎美の許可がほしいということだったので、鷹姫が廊下で畑母神に電話をかけ、内容を聴いてから部屋に戻って鮎美へ奏上する。

「畑母神元帥より報告と許可を願うとのことです」

「うん、どんな?」

「衛星写真で判断するところ、対馬にいる韓国軍兵士の一部が酒に酔い、個人の住宅なども荒らしているようです。趙舜臣が指揮を執っていたうちは秩序があったのですが、それが乱れ、また私たち日本が陛下の婚約発表などをしたため、すぐに対馬を奪還しにくる可能性は無いと考え、油断しているようです。今こそ攻撃の絶好機である、とのこと。また、無線傍受による解析では、趙舜臣は右腕を失い、背中に火傷を負ったものの生存しており指揮を飛ばし始めているとのこと。今夜、今こそが千載一遇のチャンスなので、陛下との初夜を不粋にも邪魔する非礼をお許しいただき、また、対馬奪還作戦の発動許可を、ぜひともいただきたいとのことです」

「……趙舜臣……生きてたんや……あんな近くで爆発したのに?」

「私も同じ疑問を抱いたのですが、畑母神元帥によれば、核爆弾は核反応を起こさせるために通常火薬を装填されており、通常火薬の爆発による破壊力は周囲を破壊する目的で設計されているわけではないので、いびつな爆発をしたりし、そばにいても運が良ければ助かるとのこと」

「……運が悪いのか、運がええのか……」

「対馬奪還作戦の発動許可を願います」

「………。あれって竹島も、ついでに奪還する気よね?」

「はい。そのプランもあり、その作戦でいきたいとのことです」

「うちは、別のプランを提案しといたやん?」

「はい、竹島へは攻撃するものの、そこそこの攻撃にとどめ、上陸を断念して退却してみせると。その結果、竹島に争いがあることは認知され続けるも、韓国側にも一勝させ、国内のテロへの動機をさげるとともに、竹島を守護していた部隊長が台頭し、趙舜臣とは別の派閥が産まれれば、分裂させられるかもしれない、そのために畑母神元帥は声を大にして、その部隊長を敵ながらあっぱれ現代のナポレオンと誉め称えてみせる、という策でしたが……畑母神元帥は2島とも取り返したいようでしたし、そういう演技は苦手というか、乗り気でない感じです」

「趙舜臣が生きてた以上、そっちのプランがええよ。竹島を取ると、めちゃテロしてきそうやし。ロシアと南太平洋に進出する方が大事よ」

「ご賢察ですが、趙舜臣を討ち取ることができれば、問題ないのではありませんか? 二度と対馬へ砲撃させないため、朝鮮半島南部海岸も攻撃する予定であり、そこに趙舜臣もおりますから」

「う~ん………」

「他にも何か?」

「……なんとなく……こうやって自分は結婚して布団の上で、幸せにいるくせに、前線の兵士には攻撃命令を出すって……為政者として最低ちゃうかなって……」

 まだ庶民感覚を失っていなかった鮎美は自分を客観視して悩む。義仁もこれまでの天皇たちが仁をもって治めてきた観点から悩む。

「そう言われると鮎美さんの気持ちは理解できる………勝てる戦とはいえ……」

「畑母神先生は、こっちの兵士の戦死者数、どう予想してはったっけ?」

「作戦通りなら10から20、悪くしても100、快勝であれば5以下ということもある、と」

「……作戦成功でも数人は亡くならはる……奥さんもいるやろに……」

「鮎美さんが話し合いで解決できないものだろうか?」

「それは無理やと思うし、もう日本政府としては朝鮮半島にある唯一の正統な政府は金正忠政権ということにして、南部には武装勢力がいるだけという見解やし」

「その武装勢力を一掃する好機です」

「「…………」」

 鮎美と義仁は迷っている。

「うちは自分は安全なとこにいながら、他人には命がけで戦って来いって言いにくいわ」

 これまでの戦闘は防御的だったので、たとえ奪還でも鮎美は攻撃命令を迷う。自分で否定したけれど、しっかり憲法9条で育った世代なので心理的抵抗感があった。対馬から追われた住民へも大阪や名古屋などの津波で無人となった土地へ移住してもらえばいい気もしてくる。同性婚制度の成就という最大の政治的目標を達成したことで鮎美は気持ちが萎え気味だった。

「鮎美さんの優しさは素敵だ」

「おおきに。やっぱり攻撃は中止で…」

「なりません!」

「「………」」

「対馬には潜ませた伏兵も命令を待っています! 対馬の住民も故郷を取り戻してほしいはず!」

「「………」」

「私たちとて必ず安全なところにいるわけではありません。この名誉の負傷も、鮎美が刺されたことも、私たちが命がけで立ってきた証拠です」

 鷹姫は肩を押さえて言った。鷹姫の背中には小さな傷痕がある。鮎美をミサイルの破片から守ったときのものだった。超長距離攻撃のある現代戦で、前線が危険で後方が安全などということはないと、その傷痕で語っているし、政治家として立つ鮎美が狙われる立場であることも命をかけている証拠だった。

「そもそも対馬は古事記にある大八洲の一つです。それに、ここで黙って対馬を盗むのを見逃せば、由伊様を狙ったようなテロが再び起きる可能性をより強めてしまいます」

「「………」」

「防人に命をかけよと言う私たちも命がけです」

 そう言って鷹姫は左手で自分の下腹部、右手で鮎美の下腹部に触れた。

「妊娠出産が命がけなのは神代のイザナミも私たちも同じこと、私の母とて妊娠中に身罷っております」

「……そやったね。鷹姫の言う通りやわ。よう言うてや」

「鷹姫は、きっと歴史に残る典侍になるだろう」

「いえ、私など末席を汚すだけです」

「うちと陛下の代わりに、鷹姫の気合いで全軍に活を入れたって。攻撃開始よ」

「はい!」

 鷹姫は畑母神へ発動許可を電話で知らせると、制服に着替え、斉藤に頼んで配信する動画を撮ってもらう。撮影のために用意させた和室には掛け軸があり、威風凛々と墨書されていたので背景とし、この場には無いけれど、心で剣璽を感じて把持して告げる。

「陛下と総理大臣に代わって告げます! 大八洲が一つ対馬を取り戻すのです! 速きこと風の如く! 静かなること林の如く! 猛ること炎の如く! 不動なること山の如く! もって日本国が尚武の志を! 世々限りなく万世に轟かせなさい!!」

 鷹姫の短くも気合いの漲った咆吼で、日本軍は対馬と竹島の奪還に出動した。

 

 

 


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