続くかは未定
身軽さを追求した軽鎧が耳障りな音をたてる。
それでも駆ける。親とはぐれた子供のように。
血の不快な臭いが鼻を突き、地に横たわる死体を烏たちが啄む。
頭に浮かんだ嫌な考えを振り払い駆ける。
「■■■■■ス!」
自身の半身と呼べる者の名を叫ぶ。
まだ恩を返せていない。
まだ貴方に受けた恩を返しきれていないのです。
「ア■■■ウス!」
周りに厳しく、己にも厳しかった騎士。
モルガンの計略によって産まれた彼女を自らの娘として育て、一人前の騎士に育ててくれた。
円卓の摩擦を諌め、諸侯の交渉に赴き、騎士たる模範を示した彼。
『騎士ではなく戦士でしかない』
彼の口癖だった。
そんなことはないと誰もが首を振った。
王たる私が女であると公表したとき、彼は民一人一人に頭を下げて回った。
カリバーンを引き抜いたとき、女を捨て男性として生きる他なかった私に別の道を示してくれた。
延々と横たわる死体を避け、彼を探す。
彼は防衛戦であれば無敗だった。
ならば今回も生きているはず、生きていてくれるはずです。
蛮族の侵攻を阻む為に単騎で向かった彼を無理矢理にでも引き留めておけば良かったかもしれない。
円卓の皆が出払っていたとはいえ、なんて愚かしいことをしてしまったのだ私は。
「アル■■ウス!」
伝令が魔術によって操られ間違った情報を伝えてきたのだとマーリンに伝えられたときは、自らの愚行を呪った。
いや、私は舞い上がっていた。
まだ私がカリバーンを引き抜いて間もない頃に彼と出会い、今日まで一介の戦士ーー騎士として仕えてくれた彼が以前から推薦していた円卓に加わると言ってくれたことに。
円卓の皆も喜んで賛同してくれた。
彼のための鎧を作り、ベディヴィエールに私の寝室へ運ばせ、彼がこれを身に纏う日を夢見ていた。
全て私の怠惰だ。
出払っていた円卓の皆をまとめ、軍を整えカムランへとたどり着いたときには全てが終わっていた。
目の前に広がる死屍累々。
大地は血に汚れ、噎せ返るような悪臭が立ち込めていた。
「ッ!アルトリウス!」
丘の上にようやく彼の姿を見つけた。
血に足を取られながらも駆け上がった。
だが、彼の後ろ姿が近付くにつれその足も徐々に遅くなる。
背中に突き刺さった無数の剣。左腕は盾を握りしめたまま地面に転がっている。
剣槍を地に突き刺し、不動の体勢のまま彼はーー
「こ、このままだと風邪を引いてしまいます。さぁ、迎えも用意していますから共にキャメロットへ帰りましょう」
頬を濡らしながら彼に触れ、理解したくない事実を悟ってしまう。
彼はもうーー
重く垂れ込めた雲の切れ目から延びた光が二人を照らす。
絵画のように美しくも悲しい情景に物々しい鎧に身を包んだ騎士は膝を突き、空へと慟哭を上げた。
黒騎士は二人を目に焼き付け、弓の騎士は静かに拳を握り締め大地に血の滴を落とし、双子の騎士の兄は悔しさに拳を地に叩き付け、妹は信じられないとばかりに立ち尽くす。
太陽の騎士は額に皺を寄せて目を剃らし、黒鉄の騎士は痛ましげに彼の前に膝を突き涙を溢す王を見つめていた。
後に狼騎士と呼ばれる戦士は最後を王に看取られ、その生涯を終えた。
「……ふぅ、こんなものかな?」
「フォウ」
「……正史よりもかけ離れたこの歴史が、剪定事象で消されないための最後の手さ。それに彼にはまだやるべきことがあるからね」
花の魔術師は暗躍する。
彼の死後を預け、未来を掴むための戦いに備えて。
「サーヴァント、ランサー。真名アルトリウスだ。貴殿が俺のマスターか?」