【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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 衛藤 優

9歳の可愛らしい容姿の小学4年生。可奈美の弟。
よく可奈美に可愛がられていたため、可奈美を大切な家族の一人としており、可奈美の助けになろうと努力している。
感情の起伏は少なく、大人しい子だが、理不尽な事には声を荒げて抵抗することがある。身長は益子 薫より低い。




胎動編
切っ先が向かう先


 ―――母が死んだ―――

 

私は葬式の時は泣かなかったが、時間が経つにつれ、その事実に打ちのめされ、一人縁側で声を押し殺し泣いていた。

少し、外に目を向けるとそこには、母と一緒に過ごした思い出がある庭があった。私はいつも母に剣術に勝てなかったこと、一緒に遊んで貰えたことを一つ一つ思い出し、更に目に涙を溢れさせていった。

ただ辛く、苦しかった。大好きだった母はもうこの世に居ないという事実に打ちのめされていた。

「ねーちゃ」

声が聞こえた―――

弟の声が聞こえた。いつも自分の跡に子犬の様に付いて来て、自分の言う事を素直に聞いてくれる大事な弟。

でも、今は傍に居て欲しくなかったからその声に応えなかった。“自分はお姉ちゃんだから、泣いている所を見られたくない。”という理由だったから傍に近付いて欲しくなかった。

「……うるさい、あっち行って。」

冷たく酷い言葉を浴びせる。大事な弟じゃないのかというぐらい。

「ねーちゃ、苦しそう……。」

私はこの時、正常じゃなかったのだろう、近付いてくる足音と共に、私の心は辛苦から憤怒へと変わっていった。だからだろうか、私が次に吐いた言葉が暴言に近い言葉だったのが、

「うるさい……とにかく、どっか向こうへ行って!!!」

弟は、言葉を詰まらせると足音が遠くに離れて行くのが聞こえた。その音と共に私の心は次第に憤怒から罪悪感に変わって行った。そして、私は一人になり孤独を感じていた。

「………ごめん……ごめんね。」

私は誰も居ない所で、誰も聞いていない謝罪を呟いていた。この後、心の整理がついたら弟にちゃんと謝ろうと思った。ただ一言、酷い事言ってごめんと……そうしたら、また一緒にいられると、元通りになると信じて。

 

 

 

 

 

 ―――そんな未来を見ていた。―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数年後、可奈美は人々を脅かす荒魂から守る“刀使”となり、美濃関学院中等部の二年生となっていた。

折神家主催の御前試合に参加する代表を決める学内選抜試合に優勝した可奈美は、美濃関学院の代表の一人として、同じ代表の柳瀬舞衣と共に、御前試合のある鎌倉行きの新幹線がある駅前にいた。

「いい?優ちゃん、美炎ちゃん達に付いて行けば大丈夫だから。あと、忘れ物は無い?」

可奈美は御前試合に付いて来ると言って聞かない弟の衛藤 優に迷子にならないよう、心配でそう何度も言いつける。しかし、このやりとりはけっこう長く続いているため、見送りに来た学友達からは過保護だなぁ……とか思われていたが、当の可奈美はそのことに気付いていない。

「うん、分かった。」

弟の優も抑揚の無い返事で無表情で返す。

「可奈美は降りる駅、間違えないでね。」

可奈美は思いもしなかった学友の攻撃に驚くが、姉としての最低限の威厳を失わないために、頭を使って必死に反論する。

「だ、だ大丈夫だよ、舞衣ちゃんが居るから。」

「いや、それはどうかと思うけど……。」

しかし、至極真っ当な答えが返って来たため、沈黙するしか無かった。ふと、視線を隣に向けると、舞衣が執事の柴田と何か話していた。

「あの大人しかった舞衣お嬢様が美濃関学院の代表なられるとは……。」

「し…柴田さんやめてください…ハズカシイ。」

「本当にご立派になられました……。」

そんなやりとりをしている内に時間が過ぎてしまい、可奈美達が乗る新幹線がもうすぐ発車することを告げるアナウンスが流れ、二人は少し慌てて新幹線に乗り込ん……

「優ちゃーーーーん!ちゃんとお姉ちゃん達の言う事、聞くんだよーーーーーー!!」

で居らず、可奈美だけ弟の優に大きい声で手を振りながらそう言っていた。それに気付いた舞衣は可奈美の袖を少し引っ張って促し、ようやく二人は列車に乗って行った。

「最後まで、騒がしかったね。」

「可奈美、本当に大丈夫かな?」

美濃関学院の学友達はそう呟いていた。

「えと……鎌倉まで、お姉ちゃん達のお世話になります。」

と、会釈した優にそう言われ、美濃関学院の学友達は良い子だなぁとか思っていたが、同時に剣術バカの可奈美の弟とは思えないなぁ……とか、とても失礼な事を思っていた。

 

 

 

 

翌日……美炎達は優の面倒を見ながら鎌倉へ向かう新幹線に乗っていた。

美炎は、可奈美が御前試合に向かう前日に優が御前試合に行くと言って聞かないから、鎌倉に着くまで面倒を見て欲しいと頼まれていたり、向かう直前になってもあれだけ心配するのだから優はきっと、手の掛かる子なのだろうと思っていた。

しかし、優は新幹線の窓をぼんやり見ていたりして、大人しくしていたため、その道中は何事もなく、穏やかなものであった。

「優くんは今年で何年生になったの?」

その後、美炎を除く彼女達は話題が無くなると、次の話題を可奈美の弟の優にし、優を質問攻めしていた。

「えっと…よ……四年生です……」

「優くんは何で御前試合に行きたかったの?剣術が好きとかかな?」

「うん…その、可奈ねーちゃんは一人にすると、心配だから……。」

そのとき、一番心配かけている子が言うことかと、美炎達全員が心の中でそう思っていた。かなりのお姉ちゃんっ子なのだろう。

「あ、えっと、優くんは好きな子とかいるの?」

「えっ……ええと……。」

そんな話を振られたため、少し困惑した顔で答えていた。その仕草が可愛らしかったのだろうか、優にお菓子とジュースをあげたり、少し体を密着させたりして照れている仕草を見て、楽しんでいた。美炎は、優がオモチャにされて大変そうだなぁと、そう思っていた。しかし、それを止める術を持っていないため、どうしようかと悩んでいた。この時、何故かちぃ姉ぇがここに居たら、苦労しながらも優を弄ぶのを止めさせてくれるだろうと思ってしまい、そう考えると“姉”って大変なんだなぁと思い、今更ながら優のお守りをするのが、少し不安になってしまった。

「いいなぁ、私もこんな弟が欲しかった。」

「ウチの妹や弟は生意気だし。」

「可奈美が過保護になる理由が分かるわ。」

新幹線内にて、そんな他愛もないことをしている内に鎌倉に到着。美炎と優達は御前試合へと向かうのであった。

 


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