【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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9話目を投稿します。

特別機動隊が配備されている小銃を89式にした理由と軽装甲機動車(アレ、アニメ本編6話の後部ハッチの開け方からして、コレだと思うんですが……。)を配備した理由を書いてみました。
何気に何度もナチュナルに抱き抱える姫和ちゃん。
おや、真希さんと寿々花さんが……?
おめでとう、舞衣ちゃんはあぶないおねえさんになってしまった。


一応、次回は真希さんがノロを受け入れた過去の話みたいな物を書いてみたいと思います。まだ、解明してないから大丈夫だよね?





優しさ

 

 

真希と寿々花が優と対峙する数分前。

 

南伊豆、特別祭祀機動隊仮野営地――――。

真希は野営地内を歩き、寿々花と夜見の待つ作戦室へ向かっていた。

その道中、特別祭祀機動隊仕様にされた軽装甲機動車を数両と機動隊員が持っている折曲銃床式の89式を見かけ、物も人間と同じようにその場に合わせて変わっていくものなのだろうと、ふと思ってしまった。

しかし、本来なら89式ではなくオプションパーツの豊富さと精度、自衛隊と弾薬共有可能であり、世界の軍・警察が使われている実績を持つM4が特別機動隊(STT)に配備される…………。

ハズだったが、89式の配備先を増やし量産効果による防衛費削減を狙う防衛省や財務省といった省庁の横槍、既に89式を警察の特殊部隊に配備している警察庁のお達しと刀剣類管理局に所属する機動隊員の殆どが警察関係者であること、再訓練の手間や国内の製造メーカーの保護といった理由から、特別機動隊には89式が正式配備することが決定してしまった。(その代わり、紫が軽装甲機動車を何両か配備して貰うよう取り計らえたことを親衛隊は知らない。元々、M4の配備を検討しようとしていたのは、装甲車の配備が目的であったのだから。)

そのような複雑な経緯を持つ89式だが、日本人の体格に合わせた形状と少ない反動から、銃の使用経験が無い真希も非常に的に当てやすいといった感想を抱くほどであった。

そんなことを考えながら、パイプ椅子に座る夜見と寿々花が待つ作戦室に向かい、入室する。

「遅いご到着で……。」

「そっちが早いんだ。」

寿々花の軽口に真希は軽く流し、パイプ椅子に座る。

「夜見、紫様の警護と海上保安庁に連絡は……。」

「高津学長と結芽が担当しています。それに、海上保安庁には真希さんの指示通りに海路の封鎖をして貰いました。」

「ごくろう、手間を掛けさせた。」

真希は夜見に“紫の口”から、雪那に警護を担当してもらうよう伝えていた。理由は結芽一人だけだと、政治工作といった搦め手に弱いので、そういったことに精通している雪那と鎌府の刀使が本部に残っていれば紫の警護は磐石となるからである。

あとは可奈美達が舞草と共に船を使って海上ルートから逃亡するのを阻止するため、海上保安庁にも協力の打診をして貰っていた。

「さて、始めるが……。地図から見てここに潜伏している可能性が高いと僕は思っている。」

そうして真希はテーブルの上にある南伊豆周辺の地図のとある一点に指を指す。そこは可奈美達が潜伏している廃屋だった。

「……なるほど、サービスエリアにあった戦闘の痕跡と、彼女達の移動距離から、その廃屋に潜伏しているとお考えで?」

「ああ、雨も降っていたしな、……夜見そこで頼みたいことがある。」

「何でしょう?」

「その廃屋に偵察と五人の分断目的で君の“能力”を使って欲しい。……あと、その五人の中に小さい男の子が居るから僕等が居るこのエリアまで誘導して欲しい。」

「……どうしてでしょうか?」

夜見は真希にその意図を聞いてくる。

「理由は報告の無いS装備のコンテナが2基射出されたということを聞いたことと戦闘の痕跡が有ることから、衛藤 可奈美と十条 姫和は舞草と接触していると考えていい。…そうなるとこちらの刀使の数は三人、向こうは四人で数的不利だ……。だから、衛藤 優を“保護”したあと、弟を溺愛している衛藤 可奈美にこの事件に“協力”して貰う……。そうすれば、こちらは四人、向こうは三人となりこちらが有利だ。十条 姫和と舞草の構成員を二名捕えることができるチャンスだと僕は見ている。」

真希の作戦に、夜見は疑問を口にする。

「待ってください、どうして敵が四名だと思うんです?舞草が衛藤 可奈美と十条 姫和に協力するとは思えないのですが。」

「恩田 累のマンションから出て鎌倉から離れていることを踏まえて、舞草と何らかの方法で連絡を取り集合場所に向かっていると考えるのが自然だろう。あとは、サービスエリアで戦闘があったにも関わらずそういった報告が無いこと、S装備を使っていることから、舞草の構成員にテストか何かをさせられていたんだろう……。」

「しかし、S装備を使って二人とも処理したと考える方が妥当では?」

「元々から処理する場合だったら、南伊豆に来る前に三人を罠に嵌めて、遺体となって僕等の元に帰って来ているさ、必要ないからな。」

真希は、暗にその場合は三人を口封じで殺していると言っていた。

「……そうですね、場所もあちらの方が知っていますから、それくらいは楽にやれるでしょうね。」

夜見は真希の答えに納得し、理解した。だが、一方の寿々花は、子供を利用することに理解はしているが怪訝な表情をし、

「……手段は選ばないのですね。」

と言うしかなかった。それに真希はこう答えながら、……寿々花がそう思うのなら、勇敢な指揮官は男にしか与えられない称号なんだろうなと、心の中で真希は思っていた……。

「手段は選ばないんじゃない、選べないのさ……。」

「……でもまぁ、それしか手が無さそうですし、親衛隊だからと言って一対一なら負けないという自惚れは何の役にも立ちませんものね……。」

相手に油断せず、果断に攻め込むことが肝要。そう理解し、寿々花は真希の作戦に賛同する。

「……私もその子が傷付かずに済むなら、問題有りません。」

夜見も真希の作戦に異議を唱えることは無かった。

「そうか、二人の意見も聞けて良かった。では先ず、夜見は……。」

そのような経緯があって、夜見は五人を撹乱し、真希と寿々花は優の確保に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのため、このような戦闘が起きていた。

だが、真希は自分が異常なところに居ることに気付いていた。目の前にいる子供は親衛隊二人を相手取っているのだ。そのうえ、背を崖にして前のみ攻撃を集中させ、川で足を取らせて機動性を落とす、もしくは川に棒を当て水しぶきでこちらの視界を遮る、といった地形を上手く利用して戦っているから始末が悪い。

完全に時間稼ぎをしている。ということは、時間が過ぎればこちらが不利であることに気付いているのだ。そして、こちらの“子供の保護”という真意に気付いている。

「……僕達はただの子供を無事“保護”するという計画だったハズだけど、なんか強いし、上手くないか、……あの子?」

そうしたことから、真希は愚痴をこぼしていた。

「貴女が計画したんでしょうが!……まあ、“いつどのような行動をするか知っているみたい、”という感じがして気味が悪いですわね。」

寿々花は真希に自分の感じたことを素直に伝える。

「全くだ、……それに妙だな、あんな子供に荒魂の気配が?」

9歳の子供に荒魂の気配を感じるのだ、御前試合ではそんな気配は無かったが、何があったのだろうか?

しかし、やはり9歳の子供が荒魂の気配をさせているのは、不気味な組み合わせとしか思えなかった。

「……全くといっていい程、一撃すら与えられないですわね。」

「結構……時間が過ぎているからな、早めに片を付けないとマズイ。」

真希と寿々花が苦戦している理由は様々にある。まるで、先読みしているかのような行動もそうだが、9歳児なので斬ることと峰打ちで叩くのに躊躇うのだ。そのうえ、相手の背が低く当て辛いこと、相手は棒を使ってくるため、刀使と荒魂が主な相手である真希と寿々花はいつも通りに戦えなかった。

(こっちから、攻めない方がいいな。)

優にはそんな気持ちがあった。理由はこの二人にも“小型の荒魂みたいなことをする能力がある”という警戒をしていた。おおよそ、荒魂の力によるドーピングみたいなものではなかろうかと思っていたため、迂闊に向かっていってそれを使われると厄介なので、防御に徹していた。それに無理に倒す必要がない、待っていれば可奈美達が必ず助けに来てくれると信じていた。

(あのときのように、きっと助けに来てくれる。僕は知っている。だって、一番強い刀使だから。)

だからこそ、どんなことがあってもあのときのように助けてくれると信じられる。そして、可奈美は自分のために強い刀使になってくれると言ってくれた、だから優はどんな目に合っても……。

「怨まないよ。」

優は自分の決意を小声で言っていた。そして、長い攻防戦は一人の女性の声によって終わる。

「優ちゃん!助けに来たよ!!」

可奈美達がこちらに来たのである。

(しまった!!)

真希は優と可奈美達が合流する前に捕えたかったが、時間切れとなり一気に形勢不利となってしまった。それにより、真希は一瞬動揺し、動きが少し鈍ってしまった。

「真希さん!!」

その声に反応し、嫌な予感がした方を振り向くと、優が鉄の棒をこちらに向けて投げていた。

「ちっ、」

真希は舌打ちしながら、なんとか御刀薄緑で防ぐ。

(重い…!!)

意外に質量はあるのか、弾くのに苦労してしまった。その隙に優の接近を許してしまい、正面に対する防御をするが、拳大の石を側頭部に受けてしまい写シが剥がれ、真希は一瞬気を失ってしまう。そこに優は真希にとどめの一撃を与えるべく、そこらへんにあった拳大の石を拾って、大きく振りかぶるが……。

「優ちゃん、逃げるよ!!」

可奈美にそう言われた優は真希に興味を無くしたのか石をそこらへんに投げ捨てたあと、突然姫和が現れ、優を抱えて迅移を発動し森の中へ移動。それを見届けた可奈美は八幡力で持っているのか、優の鉄の棒をその手に持ち、一緒に森の中へと撤退していった。

「……してやられましたわね。」

流石に一人で立ち向かえば、負けるのは確実なので追わず、真希の方に近付き手を差し出す。しかし、手で遮られると。

「……真希さん?」

「寿々花、少し遠いが綾小路に応援を要請しよう。あと、夜見にも撤退の指示を。」

南伊豆の管轄は美濃関だが、今回は鎌府は本部の守りをする必要があり、美濃関の生徒も捕えなければいけないため、それらを鑑みて綾小路に応援を要請しようとしていた。

「……分かりましたわ。」

真希の指示を聞き、肯定する寿々花。

「……大変なことになった、寿々花。」

そして、真希は寿々花にあることを伝える。

「あの子供は、……僕達と同じだ。」

「!!」

それだけで、寿々花は真希が何を伝えようとしているか分かった。あの子供はノロを使って身体の強化がされていると……。

「ということは、つまり。」

「舞草だろうな。」

そう言って、真希は自分の力で立ち上がると、あの子供を強化したのは舞草だと確信してしまった。

「舞草は……必ず……潰す。」

真希という彼女は様々な顔を持っている。

一つは、異性同性問わずに人気があり、刀使の憧れの存在として希望を与える顔――――。

一つは、良く女性を口説くようなことを言っては寿々花に叱られる童のような顔――――。

一つは、仲間思いで面倒見が良いため、結局は親衛隊のまとめ役をするときの真剣な顔――――。

 

そして、最後の顔は……獰猛な獣のように獲物を必ず仕留めるという獅子の顔――――。

今の獅童 真希の顔は獅子の顔をし、舞草を必ず潰すと決意していた。ノロを人体に投与する技術を外に広めるべきではないと思いながら。もし、広がれば確実に少年兵が増えることは間違い無いのだから。

「寿々花、力を貸してくれ、これ以上あのような子供を創ってはいけない。」

そして今の真希は勘違いしていた。優をノロを使って強化したのは舞草であると。しかし、そのような結論に至るのは仕方が無いことである。そのような施設と技術を持てるのは折神家か鎌府、舞草しか考えられないのだから……。

「良いですわよ、何処までもお手伝いしますわ。」

寿々花は、真希の言葉の真意を理解していた。子供をあのように強化して、これ以上少年兵が増えることを防ぐために舞草を壊滅させるのだと。そして、寿々花もそれに協力することを誓った。

 

 

そして、この二人は同時刻、紫に向けて元気に刃を向ける12歳の燕 結芽が居た事を知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、同時刻、刀剣類管理局本部内の一室では――――。

「ええと…糸見…沙耶香ちゃん?……ちょっと、いいですか…?」

舞衣は沙耶香から可奈美が無事であるかどうか聞くために来ていた。あれから上達した自分と一緒に戦うといういつかの約束を守るため……。

「?」

このあと、舞衣は沙耶香から可奈美の近況を聞き、安堵したのか、

「可奈美ちゃん、あれから無事なのね!…良かったぁ…!」

「……」

舞衣を見て、沙耶香は不思議に思っていた。何故、この人は他人のことをそこまで気にするのだろうかと……

「あっ、ごめんね?沙耶香ちゃんの前でこんな事言ったら駄目だね。」

「別に勝てなかった事は事実だもの……。」

「さ、沙耶香ちゃん鎌府だよね?寮に帰らないの?」

「この部屋から出るなと、命令を受けているから。」

「…え?高津学長に……?」

舞衣にそう聞かれ、頷く沙耶香。そして、暫しの静寂が訪れるが。

(あっ、ほっぺたケガしてる。)

舞衣は知らないが、その傷は雪那が誤って付けた傷である。

「……ちょっと、ごめんね。」

舞衣は、優しく微笑みながら、いかにも子供っぽい絆創膏を沙耶香の頬の傷に付ける。

「えっ……?」

「ん…これでよし……と、子供っぽいのでごめんね。上の妹がこれ…好きだから。」

舞衣は何故か沙耶香のことを妹と同じ様に可愛がってしまった。人恋しさ故か、自分なりの癒しを求めたからか……。

「……別に…気にしない。」

沙耶香は素っ気無く返す。

「そうだ、沙耶香ちゃんは甘いもの好き?」

「……うん、好き。」

「良かったら、これを食べてくれると嬉しいな。」

そう言って、舞衣は“荒魂を斬りまくった手”で作ったクッキーを差し出す。

「?……良いの?」

「良いよ、ちょっと落ち着こうとしてたら、作りすぎちゃって。」

荒魂を斬りまくったことに、なにかの癒しを求めたのか多く作りすぎてしまったクッキーではあるが……。

「じゃあ、見つかると怒られちゃうし、もう行くね。……可奈美ちゃんのこと教えてくれてありがとう!また、勝負してあげてね?」

そう言って、舞衣は退室しようとするが……

「あっ、出来たらその前に私とも勝負してね。」

本来の舞衣はこんなことは言わなかっただろう。しかし、今の彼女は荒魂を残忍なくらい斬ることができる狂気の部分と他人を気遣うという優しさを持つ、アンバランスな人間となっていた。

舞衣はそれだけ言うと、退室した。

「あっ、クッキー。」

沙耶香はそれを見ると、袋を開け、一つクッキーを手に取りサクッと音をさせながら食べる。

(……おいしい、……それに、暖かい。……)

そして、沙耶香は舞衣から何か心が温かくなるようなモノを与えてくれたように感じていた。しかし、沙耶香は知らない。

……沙耶香から癒しを得た舞衣はこの後、沙耶香に見せた微笑みをしながら荒魂を斬り刻んでいったことに。沙耶香は知らない、舞衣にそんな一面が生まれていることを……。

 

 

 

 

 

朝となり、南伊豆山中の特別祭祀機動隊仮野営地では、来客が来ていた。

「そこで、止まれ。ここは現在、特別災害予想区域となっているため一般人の通行は……。」

「怪しい者じゃ、ございマセーーン。通りすがりの刀使デス。」

エレンが単身、仮野営地に現れ潜入しようとしていた。

この先には、残酷で不条理な物しか無いという事実に気付かず、無垢な少女のまま向かっていく。

 

 


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