【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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95話を投稿させて頂きます。

そして、何時かは分かりませんが何処の世界でも、"子供"を働かせ、それが差別是正になるという奇妙な世界になっていく様な気がするんですよね。tatararako的には………。
   
   


誰かのために、踊ると誓う人達。

   

   

  

総理の失言から数日後。

 

『――――今朝頃から国会周辺に集まっている群衆は、総理自身の警護に刀使を付かせたことに対する詳細な理由と鎌倉特別危険廃棄物漏出問題の全貌を公表すること。更には特措法の廃止を訴え、大規模な抗議デモを行っております。』

 

鎌倉からの出来事から続く政治的な混乱に不満が爆発した国民は国会周辺に集まり、報道は大規模というものの、実際は規模の小さいデモ活動であった。

 

「刀使の軍事利用に繋がる特措法に反対ーーーー!!」

「総理は鎌倉での出来事を隠すなーーーー!!」

「これ以上の政府の横暴を許すなーーーー!!」

 

国会周辺に集まる今は規模の小さいデモ活動はそう言って、現政権を批判するような内容が書かれている横断幕や看板を掲げ、昔日の安保闘争を思い起こさせるような抗議活動をしていた。

……ただ、その昔日の安保闘争と違う点は、横断幕や看板に中国語やロシア語が混じっているという何故か多言語であること。そして、明らかに日本国籍以外の者も混じっていたこと。彼らは刀使の軍事利用の反対、鎌倉特別危険廃棄物漏出問題の全ての公表といったことを今も国会周辺で叫んでいた。

 

……しかし、本気でこのデモ活動をすれば、刀使が政治利用されることがないと本気で信じている者も居たのは事実ではあるのだが、実際のデモ参加者の大半は、総理が決定した自衛隊の治安出動によって、自衛隊と暴徒達との間で銃撃戦となり、市街戦へと発展したことにより、街が破壊され、物流が停止したことが原因で経済の混乱が生じ、失業をした者が現れ始めていた。

 

その失業した者達は今も再就職先が無いことと、与党を声高に批判する野党や報道各局といったマスメディアも自分達の窮状になど興味が無いのか、己の利権拡大のために野党の支持者やスポンサーの意向通りに刀剣類管理局と政府のどうでもいい批判ばかりしていたこと、そのうえ現政権は社会保障費やら子育て支援、荒魂対策の予算確保の名目で重税を今も強いていることから、窮屈で嫌な世の中になったと感じ、自分の意見が反映されない与党にも野党にも支持することができなくなり、遂にはこの社会は自分のことになんか興味が無いのだろうと思い込み始め、社会に疎外されているように感じ、この世には味方など居ないうえ、全てが敵に見え始めていた。

 

そんな状況下に在った人達は内に溜め込んだ不満を訴えられる場所を求め、ただただ"怒り"の感情に流されるまま、暴走するかのように暴力という目に見える形で訴えようとしていた。……実際は、そんな本音を抱えている者達が大半であり、国会周辺のデモに参加しているのであった。

 

その光景が映されていて、国民は不満を抱えている状況であるかのように報じるテレビという電子製品を眺めていた和樹は、

 

まともな職を得られず、親から刀使だった妹と比べられる日々。

親への仕送りのために日本へと外国人実習生として働いたミンの末路。

 

といったことをつぶさに思い出しながら、和樹はぼそりと呟いた。

 

「……テレビに"自分"が………“僕達”が映っている。」

 

自身の身体に荒魂を注入し、それが定着するまでの間に"痛み"と"渇き"に呑まれることが無いように縛られていた和樹は、死んだ目でテレビを眺めながら、そんなことを呟いていた…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、刀剣類管理局本部にある部屋で西田は国会周辺のデモ騒ぎが報じられているテレビを意味深な表情で眺めていた。

彼が此処に居る理由は、防衛省の指令により、刀剣類管理局本部に戦術データリンクを導入するべくRecs(基幹連隊指揮統制システム)等の運用実績が有る第二師団所属の西田達に白羽の矢が当たった訳であり、その導入を進めるため、荒魂対策の研修のために長期出向していた。

 

しかし、江仁屋離島で行われた陸海空の三自衛隊による統合運用力の強化と島嶼部の奪還の強化を主目的とした訓練と同時に行われた高機動パワードスーツの運用試験。現政権が強行採決で通した特措法。……そして、江仁屋離島での運用試験で使われた高機動パワードスーツと同型の物を使って鎮圧した関東8区での暴動騒ぎからの国会周辺でのデモ騒ぎ。

 

これらを通して見た西田は、何らかの思惑が有って国会周辺のデモ騒ぎまで持って行こうとした者が居るのだと推測していた。そして、推測通りであれば、それを仕組んだ者は大事(おおごと)にしたい筈であり、となれば国会周辺で起きているデモ活動の数は日に日に増えることは予想できる。もし、国会周辺で起きているデモ騒ぎが大群衆ともなれば、警備に当たる刀使に被害が出るかもしれない。

 

(それ以前に、これは犯罪だ……。)

 

それに、刀使に被害が及ぶような事態は避けたかった。

 

……とはいえ、西田も何処から仕組まれていたものなのかは分からないが、理由はどうあれ国民を犠牲にする行為は到底許される事ではないとも考えていた。彼はそこまで考えると、悲惨な結果を防ぐために本部に居る寿々花にあることを嘆願するため、彼女の居る部屋へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな寿々花は西田が探しているとは露知らず、誰かと通話していた。

 

――――それも、折神家支給の携帯端末ではなく、民間市場に出回っている携帯端末で。

 

「……報告を。」

 

そうして寿々花は、綾小路武芸学舎に送ったスパイの仲介人の報告を聞いていた。

なお、そのスパイも表向きは刀剣類管理局と繋がりの有る者ではないとするために、此花家と縁故の有る私立探偵等(その私立探偵の出自も元警官が多いが、中には前科の有る者も居る。)であるのだが、それを悟らせないようにするために数回の仲介人を通じて指令と資金を送っている。そのため、綾小路武芸学舎学長である結月は今もそのことには気付いてはいないと思うが……と、寿々花は内心呟いていたが、不安もあった。

 

何故なら、綾小路武芸学舎学長である結月は、紫が率いていた特務隊の副隊長として活躍していた猛者であるため、脅威であると捉えていたからである。

故に、寿々花は細心の注意を払ってはいるものの、安心はできなかったのである。

 

『――――はい。お嬢様のご指示通り、綾小路武芸学舎に所属する研究所と病院等を調べてみたのですが、医薬品といった物の注文数がここ最近増えたといったことはありませんでした。』

「……となると、研究所に怪しい動きは無かったと?」

 

紫から、綾小路武芸学舎学長の結月も大荒魂に操られていた紫の指示の下でノロの力を使った様々な実験を行っていたということを知った寿々花は、もしかしたら夜見を匿っているか捕らえているのが結月ではないかと思い、綾小路武芸学舎を内偵していたのであった。それに、寿々花の推測通りなら、夜見を匿うか監禁するためには紫のように医療設備といった物が有る場所が必要である。とすれば、綾小路武芸学舎預かりの研究所が怪しいと睨んで、医療品の注文と研究所が使う電力が増えていないかを調べていたが、結果は何も変わっておらず、其処に夜見が居るという可能性が低いという返答が返ってきたことに落胆していた。

 

『ええ、ですが彼等はここ最近妙に警備が厳重になったとのことで、深くまでは調べられなかったそうです。もう少し深く当たってみれば何か出てくるかも知れないと仰っておりましたが、……続けさせますか?』

「…………分かりましたわ。続けるように伝えて下さい。」

 

仲介人からそう言われた寿々花は、警備が厳重になったということに引っ掛かり、綾小路武芸学舎を密かに内偵しているスパイに続けるようにと伝えるように言うのであった。

 

『分かりました。お嬢様、吉報をお待ち下さい。』

「ええ、彼らにもよろしくとお伝え下さい。」

 

寿々花はそう言うと、通話を切り、落胆の表情を浮かべていた。

理由は、数カ月もの時間を費やして綾小路武芸学舎を内偵していたが、新たなノロの実験をしていたということと、夜見やイチキシマヒメ等を匿っているという証拠を掴めずにいたことである。

 

鎌府女学院学長の雪那と同じくノロの実験を行う結月が綾小路武芸学舎学長であり、その綾小路の刀使である歩が大した理由もなく優の居る区画に足を運ぶという不可解な行動をしているといったことが報告されている以上、本部の留守を任されている寿々花としては綾小路武芸学舎は旧折神 紫派の総本山ではないかと疑っていたのである。

 

(……ですけど、刀剣類管理局に対する風当たりが強い昨今の情勢下を考えれば、下手に強行手段に出て政府野党の話のネタ作りに協力する事態になることは避けたいですし、……そう考えますと夜見さんの能力(ちから)は大変助けられましたわね。)

 

夜見のことを考えていたせいか、今まで夜見の小型の荒魂達を出す事で探索といったことが出来る能力のお陰で、多くの情報を入手することができ、それによって刀剣類管理局の親衛隊は大きく助けられたことを思い出していた。

……そう考えると、やはり刀剣類管理局と特別祭祀機動隊には、諜報活動といった分野では他の組織と比べると貧弱であると言わざるを得なかったと寿々花は心の中で呟いていた。

 

そもそもからして刀剣類管理局に所属する特別祭祀機動隊自体が年若い少女を中心とした荒魂退治を専門とした組織であり、自由や博愛を大切にするというモットーを掲げた平和国家である日本にはそぐわないという理由で破防法といったスパイを防止する法案が通りにくい国内状況も合わさって、諜報といった分野に弱いのは致し方が無い部分が強かったのは事実だったが、寿々花が実家の力を借りて私立探偵といった者をスパイにしたり、夜見の能力と雪那の人脈のお陰でそういった分野にもそれなりには強かった時期もあった。

……しかし、夜見と雪那が行方不明となった現在、諜報手段がスパイぐらいしかない限られた状況においては綾小路武芸学舎に対する内偵が余り進まなかったのである。

 

そのうえ、真希には伝えていないが、自衛隊といった防衛省の最近の動きも気になっていたため、綾小路武芸学舎を内偵する人員も多くは割けなかった。

なお、真希に防衛省が怪しいということを伝えなかった理由は、刀使とSTT隊員といった特祭隊の隊員等の離職率の増加によって戦力が低下した現在の刀剣類管理局の状態で昨今増加した荒魂事件に対処するのは至難であり、自衛隊といった他組織の協力は必要不可欠であった。そんな理由もあって腹芸ができない真希に自衛隊が怪しい行動をしているといったことは伝えてなかったのである。

 

そして寿々花は、獅童 真希という人物には前回・前々回の御前試合で優勝という実績があり、その実績を以て折神家親衛隊の第一席として就任。その後も異性同性問わずに人気があるカリスマ性と年上のSTT隊員等に指示を出しても不満が出ないことから、親衛隊のリーダーは真希がふさわしいと考えていた。そのため、自身は裏方、つまりは情報収集や政治交渉で活躍しようと考えたのである。

 

そういった寿々花の考えもあり、寿々花は紫の政治活動にも同行していたのであった。

そのうえ、寿々花が真希に好意を抱いていたこともそうなのだが、そういった輝かしい経歴によってカリスマ性を得た者がリーダーになった場合は、そのリーダーが合法非合法を問わない手段を使えば嫌われてしまうこと(例えば、善良さで好感と支持を得ていた委員長がタバコのポイ捨てをしているといった悪い事に繋がるような行動を見かけられたら、その善良さで好感と支持を得た委員長はその次の日には支持されなくなることと一緒である。)になるのは理解していたため(しかし、寿々花としても親衛隊第一席である真希が、荒魂を自身の身体に入れたのはマイナスであったが、それは折神家の指令によってであり、且つ後の刀使達の負担を減らすためでもあったと釈明させ、それを宣伝すれば真希のカリスマ性が陰ることはないだろうと判断していた。)、寿々花は真希が、自身が行っているスパイを使って情報を収集させるようなことはやらせたくなかったのである。

 

そんなこともあって、真希が荒魂討伐のため関東中を飛び回っている間、寿々花は紫の政治活動への同行時やパーティー等で得た人脈、スパイといった合法非合法を問わない方法で多くの情報を集めていた。

 

(……敵が後ろにも前にも居るというのは、中々に厄介ですわね。)

 

寿々花が母校である綾小路もそうだが、防衛省の動きにも注意を払わなければならない状況に毒づき。今度真希が甲斐と会談する際の話す内容を考え、話す内容を記載した書類を作成しようとしていたとき、扉を叩くノック音が寿々花の居る部屋に響いたため、「入ってください。」と言って部屋をノックしていた者に入室を許可した。すると、入室してきたのが件の防衛省から長期出向で刀剣類管理局に来た西田が入室してきたので、寿々花は防衛省のことを警戒すべきだと考えていたときにタイミング良く防衛省の人間が現れたことに少し驚いていた。

 

「突然申し訳ありません。少しお話したいことがありまして……。」

「……要件は何でしょうか?」

 

神妙な顔をした西田に話したいことがあると言われた寿々花は態度を一変させ、何か大事な要件だろうと思い、息を整え、集中して聞くことにした。

 

「……先程、総理の意向によって取り決められた総理の警護に刀使を使うことが決まりましたね。」

「ええ、それが何か?」

「昨今の情勢下を考えますと、刀使のみではなくSTT隊員といった他の特祭隊の隊員を警護に加えるべきであると愚考しておるのですが、寿々花さんはいかがお考えでしょうか。」

「……ええ、群馬山中での件と国内に武装勢力がどれほど隠れ潜んでいるのか判明しない以上、それが良いのですが。……西田さん達はそれでよろしくて?」

 

寿々花は他の特祭隊の隊員を警護に加えるべきだということは、刀剣類管理局に出向し、特祭隊の隊員として扱われている西田達も含まれる可能性もあることを暗に示唆していた。

 

「無論、そのつもりで来ました。皆、私の考えに賛同しております。刀使ばかりに矢面に立たせるのはどうか、と言っておりますので、我々も使ってください。……それに、刀剣類管理局が使う独自の戦術データリンクが形になってきましたので、実用テストも兼ねて新型S装備の配備も可能です。そうすれば、刀使が受ける損害も減らせるはずです。私達は陸自の第二師団第25普通科連隊に所属しており、その際には普通科の隊員間で情報のやり取りができる戦術データリンクの運用試験にて学んでおり、一般の隊員にも劣らない能力を保有していると自負しております。ですので、その点についてもご考慮頂ければ幸いです。」

 

つまり、西田は総理の警護に戦術データリンクの実用テストを名目として、総理の警護を担当する者達に新型S装備を配備させ、損耗率を可能な限り減らそうとし、そのうえでRecs等で戦術データリンクを使ったことがあるため、自分達も刀使のバックアップか肉壁ぐらいはさせて欲しいと懇願していたのである。

 

「………分かりました。朱音様に報告してからで宜しいでしょうか?」

 

西田の決意を聞いた寿々花は、自分一人の裁量で決められることではないため、局長代理である朱音に話してそれが決定されてからにしてほしいと返答していた。

 

「……分かりました。宜しくお願いします。」

「ええ、少しお待ちになってください。多分、その話しは通ると思いますので。……それと、命を懸けてくださって、ありがとうございます。」

 

寿々花が長期出向で来た身である西田にそう言って、礼をすると、西田も頭を下げてから、退室するのであった………。

これで、大人達の都合によって踊らされる彼女達に犠牲が出ることもなく、少しでも負担が減ることを望みながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市ヶ谷防衛大臣執務室――――。

長期出向で送り出した自衛官等と寿々花がそんなことを考えていることも露知らず、防衛大臣である中谷と官房長官、タキリヒメ派に属する議員の三人は密談を行っていた。

 

「総理の殺害予告を理由に、総理の警護を刀使のみとしているのは、昨今の情勢下を鑑みるに私としては些か弱いと思うのです。そちらで総理を説得し、刀使だけでなく他の特祭隊隊員にも警備を加えるべきだと思われるのですが、お二人はいかがお考えでしょうか?」

 

その内容は、総理の殺害予告を契機とした総理自身の警護に刀使が付くだけでは、不十分として近代兵器で刀使を支援するSTT(特別機動隊)隊員等も総理の警備に加えるべきであるとタキリヒメ派の議員は提案していた。

 

「……そう『市ヶ谷の姫』がお考えであるのなら、そちらが総理を説得すれば良いだけではないのかね?」

 

だが、官房長官は表情を変えずに、タキリヒメ派の議員に自分達でやれば良いのでは?と返していた。

そう返答されたタキリヒメ派の議員は表情を変えることなく淡々と理由を述べていた。

 

「……確かに、我々が総理に一言伝えるだけで良い話かもしれませんが、現総理は20年前の相模湾岸大災厄のことを未だに覚えていらっしゃるので、タキリヒメ様を支持している我々では説得に応じて下さるかどうかといったところですので、となれば私共よりも信頼の厚い官房長官殿であれば……。」

「なるほど。我々だと、説得に応じやすいという算段か。」

 

タキリヒメ派の議員は、総理が20年前の相模湾岸大災厄の悲惨さを知る者であり、その元凶ともいえる大荒魂の分身であるタキリヒメを支持する派閥に居る議員が説得するよりも、総理が最も信頼している官房長官が説得した方が話が通しやすいということを官房長官と中谷に説明していた。

 

「ええ、荒魂が現れることもなく、年若い少女でもある刀使を前面に出して、大人はその子供達の後ろに隠れるというのは、今の総理と政権与党にとってもマイナスにしかならないでしょう。……次の選挙で大敗を喫してしまうのは避けたい筈ですしね。」

 

それを聞いた官房長官は、確かにタキリヒメ派の議員が説得するよりも自身が説得した方が良さそうであり、官房長官が属する政権与党にも悪い話ではないと思っていた。

しかし、あることに気付いた官房長官はタキリヒメ派の議員にあることを問うのであった。

 

「……そうだな。私からそう話せば総理も納得するだろう。……しかし、荒魂が現れることもなくと言うが、荒魂が何処に現れるか分からん以上、そうした措置は別段可笑しな話ではなかろう?それに、そう都合良く現れるかね?荒魂を操ることなどできないのだから。」

 

そのため、官房長官はタキリヒメ派の議員の腹の中を探るかのように尋ねていた。

 

「ええ、そうでしょうね。……しかし、何事も無く終わるのは、それはそれで、印象が悪い。だからこそ、貴方方は関東一円に集まるようにしたのでは?それに、荒魂を操れることができるのなら、誰が操ったのか、立証できないのでは?」

 

官房長官の問い掛けにタキリヒメ派の議員は、半ば荒魂と化している優とタキリヒメの反応を利用して、荒魂を引き寄せていること、タキリヒメは支配下にある荒魂を操ることができると暗に話していた。

 

「……何の話かは分からないが、君の言う通り、荒魂が人を殺害した場合はその荒魂を討伐するのが一般的な見解だ。もし、君の飛躍した妄想が現実となったら、誰かが荒魂を操って人を殺した場合、どのように立証すれば良いのだろうな?荒魂は人語を喋れないし人権も無いのだから、裁判も受けれんだろうしな。君も弁護士だったから、そう思うだろう?」

 

タキリヒメ派の議員の話から、タキリヒメは支配下にある荒魂を操ることができるのだと理解した官房長官は、タキリヒメが支配下にある荒魂を使って総理を襲撃したとしても、タキリヒメが行ったということを立証できないため、咎めることは不可能だと暗に話し、彼等を促すように話していた。

 

「……なるほど、それは確かに難しそうですね。私としましてはそうならないことを祈るばかりですが……。それで、どう致します?総理に進言して頂けますか?」

 

タキリヒメ派の議員は意味深にそう言うだけであり、協力するかどうかという意味も兼ねて、総理に特祭隊の隊員も加えるよう進言するか尋ねていた。

 

「ええ、お引き受けましょう。と言いたいところですが、私が言わなくても刀剣類管理局側からもそのような嘆願が来ているので、問題無くそのようになるでしょう。」

「……それはそれは、管理局も大変人道的で素晴らしいことですね。」

 

このように、タキリヒメ派と政権与党側は腹の探り合いをしつつ、官房長官とタキリヒメ派の議員の両名は誰にも気付かれることなく協力していた。その証拠にタキリヒメ派は総理の警備状況という情報を官房長官から得ることができたのだから………。

 

 

 

 

――――こうして、荒魂と人間は総理の暗殺という奇妙な関係で、協力し合うのであった。

   

   

   




   
   
こうして、タキリヒメ派と政府与党は一時的とはいえ協力し合うのでした。
次回、総理死すの予定。
  
  

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