【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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100話を投稿させて頂きます。
ああ、何時の間にやら100話も続いてしまった……。100話ぐらいで終わるかなと軽い気持ちで色々と書いてたら、こうなってしまった。
此処まで読んでくださった方々には感謝しきれませぬ。

あと、9600文字くらいあるので、時間のある時に見て下さい。
あと、原作キャラが一人も出ないうえ、政治中心の話なので飛ばしてもらっても多分OKだと思います。


經世濟民(けいせいさいみん、経世済民)
中国の古典に登場する語で、文字通りには、「世よを經をさめ、民たみを濟すくふ」の意。「経国済民」(けいこくさいみん)もほぼ同義である。(Wikipediaより。)
   
    


地球という船

   

    

     

――――一方、三木はタキリヒメ派の議員と会談をしていた。

 

「……なるほど。彼女等をタキリヒメ様への謁見を申し出た訳ですか。……ですが、ご存じかと思われますがタキリヒメ様はご多忙中の身でありまして、それが通るかどうかは臣下の一人でしかない私だけの判断では……。」

 

タキリヒメ派の議員は、思わせぶりな態度で、遠回しに可奈美達をタキリヒメの側に付かせろと、三木に暗に要求していたのである。

 

「ええ、ご多忙の身なのは理解できます。……しかし、我が防衛省としましても、タキリヒメが刀剣類管理局と"共闘"することを望んでおります。それが叶えば、それこそタキリヒメが言う"荒魂と人間が共存する社会"が築き上げられる一歩となるのは間違いないことでしょう。」

 

だが、三木は可奈美達をタキリヒメ側に付かせるかどうかの回答を躱しつつ、タキリヒメが述べた"荒魂と人間が共存する社会"が叶うと言って、タキリヒメ派と刀剣類管理局をあくまで対等な"共闘"関係として、同盟を組ませようとしていた。

 

「ええ、それは間違いないでしょう。……ですが、刀剣類管理局は今も過去に問題視され、白紙となったノロの分祀体制への移行のために社の再建を推進しているそうですが、それはタキリヒメ様が考える離島に荒魂を配備し、社の数を低減することで浮いた政府予算を復興財源として使うという考え方に、反していると思うのですが?」

 

しかし、タキリヒメ派の議員は、引くこともなく今の刀剣類管理局とタキリヒメ派が組むこととなる際に発生するであろう問題点を指摘していた。

 

「……その点を考慮すれば、協力どころか足の引っ張り合いになるのは必定です。ですが、タキリヒメ様は寛容な御心をお持ちなので、そちらがノロの分祀体制を辞め、荒魂を離島に配備することに協力して下されば、話に応じるとのことです。……無論、協力した際は我々も刀剣類管理局の方針について口を挟ませてもらいますが、いかがでしょうか?」

 

そうして、タキリヒメ派の議員は刀剣類管理局とタキリヒメ派の協力体制は賛成するが、その条件として朱音の掲げるノロの分祀体制を放棄し、タキリヒメの掲げる荒魂を離島に配備することに協力すること。今後の刀剣類管理局の方針についてタキリヒメ派にも口出しする権利をよこせと要求してきたのである。

 

「……そればかりは、私の一存では決めることができません。」

 

そのため、三木は自分一人では決められないと言って、躱そうとするが、

 

「これは正当な要求であると私共は考えております。……これからタキリヒメ様と刀剣類管理局は三木一等陸佐殿の言うように協力し合うことになるのですから、我々の意向にも添ってもらわないと足並みが揃わないでしょう?」

 

タキリヒメ派の議員は三木を逃す気はないらしく、要求を呑むように強く迫っていた。

 

「……そうですね。ですが、まさかタキリヒメが市ヶ谷に居る防衛省幹部と事務官の大多数を味方にしており、既に自由に外へと出られる状態だとは思いもよりませんでしたよ。何時の間に寝返らせたんですか?」

 

後に三木と甲斐が調べて分かったことだが、市ヶ谷の事務官と防衛省幹部は既にタキリヒメ側に付いていたと知り、それ故に国会周辺の暴動に突然現れることができたのだと理解することができた。

 

「彼等も国を想ってのことでしょう。彼等を責めるのは筋違いというものです。それに、甲斐陸将補はかなり強引なやり方をする御方と聞き及んでおります。それ故に敵も多いということはご存知でしょう?」

「……そうは言いますが、貴方方も国会周辺の暴動を扇動したということをお忘れですか?」

 

三木は、どうにかこちらが優位になるよう中谷と官房長官との間で密談を行っていた内容を公開するぞとタキリヒメ派の議員を脅すが、

 

「……自衛隊と政府側からそのような話があったと私は伺っておりますが、タキリヒメ様はその話を聞く前に人命を尊重すべきであると命じられました。ですが、大将の剣は敵に振るうことではないとお考えであらせられるタキリヒメ様御自らが前線へと向かわねばならなかったのは、至らぬ臣下である私の落ち度であり、心苦しいことではありました。……ですが、私はタキリヒメ様のご裁量に一つも落ち度は無いと理解しております。」

 

タキリヒメ派の議員は、タキリヒメが国会周辺の暴動の扇動を知らないまま総理の救援に向かったと説明していた。

無論、タキリヒメは中谷と官房長官が国会周辺の暴動の扇動を行っている事は知っていたのだが、タキリヒメ派の議員は何食わぬ顔でその事実を隠すのであった。

 

「なら、タキリヒメは二十年前の大荒魂の片割れということについては貴方はどう思うのですか?」

 

三木は、それならばとタキリヒメが二十年前の大荒魂の片割れであるという事実はどう思うのかと尋ね、少しでもこちらが優位に立とうとするものの、

 

「……すみませんが私は神奈川出身ではありませんし、その当時の私は年齢が一桁ぐらいだったので、余りそれについての記憶が曖昧なのですよ。……ですので、私が二十年前のことで何かを言うことはできません。……それに、」

 

タキリヒメ派の議員は、親の地盤を受け継いだ二世議員であり、二十年前の大災厄については何も知らないと言って一蹴したうえ、一呼吸置くと、

 

「私は何があろうとタキリヒメ様の御意向に添う積もりです。父から政治の地盤を受け継ぎ、この国の議員になったときから、私は経済が鈍化したこの国をもう一度復興させると誓いましたが、末端の議員でしかなかった私は何時までも芽が出ないことに腐っていました。……そんなときにタキリヒメ様が現れ、私にその胸襟を開いて下さいました。……減税、公共事業の拡大に止まらず、荒魂を離島に配備するという開闢的な発想をするこの方なら、更なる増税やノロの分祀体制を敷こうという古い考え方しかしない国の重鎮達よりも確実に、この国を復興させて下さると、この行き詰った国を再生して下さると強く抱かせてくれました。」

 

タキリヒメ派の議員は、自らの考えを打ち明けたタキリヒメに共感し、心服していると告白し、

 

「そのうえ、知名度も無く、与党に所属しても組織の末端で腐っていただけの私に、当初は与党側のスパイとして接触したにも関わらず、私をタキリヒメ様の側近の一人として受け入れて下さった懐の深さに感銘を受けました。故に、私の願いは唯一つ、タキリヒメ様が創る未来を私も望んでいるということです。」

 

タキリヒメに心酔していると答えていた。

元々彼は与党最大勢力の政党に所属しており、知名度の無い末端の議員として在籍するのみであった。

そんな一大組織の末端の一人として、活躍することもなく日陰者としての日々を過ごしていた彼は、父の地盤を引き継いだときから抱いていたこの国をもう一度、経済大国として復活させるという夢を叶えることを殆ど諦めかけていた。

そんな中で彼は与党幹部の命令で、当初は与党側のスパイとしてタキリヒメに接触していたのだが、その際にタキリヒメが語る政策(荒魂を離島に配備することで、減税と公共事業の拡大を行うといったもの。)を聞いている内に彼は自らの夢を叶えるため、何時しかタキリヒメの側に寝返り、タキリヒメの懐の深さに心酔することとなったのである。

 

「故に私は、タキリヒメ様をこの国のトップにするためなら、如何なることも行う所存です。……貴方がタキリヒメ様に害を為すのであれば、私がその害を受けましょう。それだけで、この国をもう一度経済大国へと復活させるという私の夢をタキリヒメ様が私の代わりに必ず叶えて下さることでしょう。」

 

タキリヒメ派の議員は、続けてタキリヒメに対する全幅の信頼と忠誠を述べていた。……タキリヒメこそが、この国を治めるべき指導者の器を持つ者であると。

 

「……貴方も思っているはずだ。この国は確実に斜陽へと向かっていると。だからこそ貴方方は行動を起こした。違いますか?」

 

そして、タキリヒメ派の議員は三木に、甲斐と中谷、それに官房長官は、自衛隊と警察の権限拡大とそれに伴う刀剣類管理局を隠れ蓑とした新たな諜報機関を創設するために国会周辺の暴動を扇動し、利用したのではないかと問い詰められるのであった。

 

「……私はそのようなことは初耳でありますが、それを画策した者はこう答えるでしょう。……仕方のないことであると、理想のみでは為し得ないこともある。それはタキリヒメのために身を削る思いで働く貴方であれば理解できる話であると思いますが?」

 

しかし、三木は何食わぬ顔で、理想のためには手を穢す必要が有ると答えていた。

 

三木は甲斐と中谷、官房長官と同様に、この非軍事と軍事が曖昧となった世界情勢において、自衛隊と警察の治安維持組織の強化と新たな諜報機関といった安全保障の充実は必要不可欠であると考えており、そのためならば暴動を起こした人間が幾ら犠牲になっても構わないと考えていた。

そのため三木は、トーマスと優が関東8区の暴動の主犯格を殺害し、その報復としての国会周辺で暴動を起こさせることを誘発させると、無用な諍いを起こすだけの総理を暴徒と化したデモ隊に始末してもらい、それを理由にデモ隊の排除と国家に仇なす獅子身中の虫を排除するべく、非軍事と軍事が曖昧となった戦争に対応した新たな安全保障政策の確立を目論んでいたのである。

 

「……ええ、ですが私の理想と全てを捧げるに足る。忠節を尽くすに相応しい人に出会えました。それが全てです。……ですが、たかが銃弾の一発でも大災厄以上に社会を激変させる力を持つ。それなのに、貴方方は国防を預かる身でありながら、その一発を誘った。」

 

だが、タキリヒメ派の議員は返す刀で三木や甲斐、中谷と官房長官を非難していた。

……どういった理由があるにせよ、自衛隊幹部と内閣閣僚が手を組んで、総理を殺害するように仕向けたのはどう言おうが完全なクーデターであり、甲斐や中谷、それに官房長官と三木も白色テロを行うテロリストであるとタキリヒメ派の議員は問い詰めていた。

 

「……もう一度言いますが、仕方のないことであると私は考えております。民間人なのか、それともテロリストなのか曖昧な戦場に対応する国家へと変貌を遂げなければ、スペンサーの適者生存の理論の通りであるなら淘汰されるのは我が国であるのは必定です。」

 

しかし、三木は引き下がることはなく、『強い者が生き延びたのではない。変化に適応したものが生き延びたのだ。』ということを述べたとされるスペンサーの適者生存論を語りつつ、軍事と非軍事が曖昧となった超限戦とハイブリッド戦略が主な戦争となりつつある現代において、それに対応した安全保障政策や戦略の研究は必要なことであり、そのためなら、国防意識を高め、それに対応した国家を創ることは急務であると三木は述べると、

 

「そのうえ、沖縄でのS装備のデータを得ようとしたDARPAの事件と舞草での米国の動き、更には群馬山中の例を挙げれば、公的機関である刀剣類管理局も彼等のような闇に潜む勢力と相対しなければならなくなるのは必然です。……しかし、それを暴くには爆発させねばならない。」

 

三木は、これからの刀剣類管理局は、舞草の援助をしていた米国や大国の意思によって踊らされたイスラム教の過激派といった闇に潜む存在を認識してもらわなければならないと語っていた。

 

「軍事力……いや、防衛力を使ってですか?ですが、私は思うのですよ。」

 

タキリヒメ派の議員は、わざと軍事力と言って、それを防衛力と言い直していた。

理由は、陸自の一等陸佐である三木に、今の国は軍事力という言い方を防衛力と変えられている事情を想起させる狙いがあったからである。

 

「私はタキリヒメ様と出会った瞬間思ったのです。この国は防衛組織を国軍ではなく自衛隊という名称でラッピングすることによって、この国は軍隊が存在しないということで平和を遵守しているとし、その言葉遊びのつじつま合わせのために何時までも国軍扱いしない。……それと同様に、不思議な力が使えるだけの石ころを神性を帯びた金属であるとし、それを主成分とした御刀も穢れを持つ荒魂という化け物を払うために創られた神剣であるとラッピングすることで、荒魂を斬ることは当然の事だとしたのではないかと。」

 

そして、タキリヒメ派の議員は、荒魂を穢れを持つ怪異、あるいは妖怪、物の怪、悪霊等として扱うことで、討伐すべき存在であると認識させると同時に、刀使が神剣である御刀で穢れを持つ荒魂を斬って祓うのは当然のことであるということを植え付けることで年端の行かない少女達が荒魂を斬り殺すことに正当性を与えたのではないかと。

 

「そう思った私は、刀使の養成学校の総称である伍箇伝というのは、年若い子供に神聖な御刀を付け加えることで刀使にさせ、荒魂を"殺す"、いや、"祓い鎮める"と言い換えることで生き物を殺しているという自覚を子供達が抱かないようにし、そうすることで伍箇伝が敷くカリキュラムという物に従うことで荒魂と戦うことに忌避感を持たない刀使が製造され、それを社会に出荷する製造工場でしかないと思えなくなったんですよ。それに、刀使達が着る制服があのように目立つ色彩の異様な物となっている理由は、ヒロイックな気分に酔いしれさせるためにあのようなデザインになっているのでは?と勘繰っております。」

 

それ故に、タキリヒメと出会ったことで刀使が御刀を使って荒魂を討伐し、祓い清めるという考え方に疑問を抱いたタキリヒメ派の議員は、伍箇伝のことを年若い少女を荒魂を討伐する大事な役目を背負った者としてラッピングし、荒魂を討伐する武器として出荷する製造工場ではないかと三木に問うのであった。

 

「……そこまでの考えに至った私は、最早形骸化しつつあり、古くカビの生えたこの国の憲法と共に発展が遅れたこの国をその古臭い考えから脱却し、穢れを持つ荒魂でも精進すれば、この国を導く者になれるという開闢的な国へと変貌すれば、群馬山中と関東8区の暴動といった如何なる侵略をも跳ね返せる強固な国に変えることが出来ると私は考えております。」

 

そうして、タキリヒメ派の議員は、三木と官房長官等が望む戦争放棄等を謳っているが、非軍事と軍事の境目が曖昧となった新たな世界において、カビが生えるぐらいに時代遅れとなっている平和憲法の改憲をすべきであるという発言をしつつ、それと同時に荒魂も国の発展に貢献することができる新たな国家体制へと移行することで、如何なる国のどの様な形の侵略でも跳ね返せる発展を遂げる強固な国を創り上げるべきだと説いていた。

そうすることで、新たな国家態勢によって新たな脅威に対応するという三木と官房長官等の目的は達成できると、暗にタキリヒメ派の議員は三木を説得しようとしていた。

 

「……そこまで考えているのなら、何故荒魂の下ではなく、自分の力でやろうとしなかったのですか?」

 

タキリヒメ派の議員の話を聞いた三木は、疑問に思ったことをぶつけるのであった。

何故、自分の力でやろうとしないのか?荒魂に支配されたままで良いのかと。

 

「残念ながら、私には指導者としての"器"が無いことに気付いたのです。そのうえ、その才にも恵まれない凡才であることに。……だからこそ、私は求めたのです。理想を具現化する存在。私が仕えるべき理想の王。私の心血と命を捧げるに相応しい英雄に出逢えることを……。」

 

三木に荒魂に支配されているだけではないのかと問い詰められたタキリヒメ派の議員は、返す刀で自らの思いを語っていた。

 

――――自分には、指導者としての才覚も、この国を統べるだけの器量も無い。

 

そのことに気付いたタキリヒメ派の議員は、自身が仕えるべき"理想の王"を求めたのである。

 

「……そんなとき、タキリヒメ様に出逢ったとき、御伽噺を読む歳でもないのにアヴァロンからアーサー王が何時かは帰還する話を思い出したり、無神論者の私がキリストの再臨というものを信じてしまうほどの感動を覚えました!……私の理想が具現化したと。彼女こそが私が仕える"理想の王"であると。彼女こそがこの国を私以上の真の変革の道を、いや、経済だけでなく、真の経世済民をもたらしてくれると確信しております!!」

 

タキリヒメ派の議員は、尚もタキリヒメの素晴らしさを熱く語り、味方になるよう説得するのであった。

 

「……確かに、それはそれで素晴らしいかもしれませんが、私は自衛隊に入るときに国の内外に迫る脅威から祖国を防衛すると誓った身です。刀剣類管理局と共に荒魂討伐をすることもある自衛隊の一員である一等陸尉の私にとってみれば、"荒魂"であるタキリヒメは我が祖国を捻じ曲げようと活動する侵略者としてしか認識できません。」

 

しかし、三木は、自身が国の内外に有る脅威から祖国を防衛する任を任されている自衛隊に所属する自衛官の一人であり、その自衛隊は現在に至るまで、刀剣類管理局と共に荒魂討伐をしてきた関係にあることを理由にタキリヒメ側に付くことを拒否するのであった。

 

「ですが、我が国は欲望に駆られた移民の盲流を安価な労働力として利用しようとし、それを支持した者達は"寛容"の仮面を被り、彼等を人柱とした茫漠たる発展の幻想を見せることで、我々は多国籍の人々が集まって起こる暴動を危惧することすらできず、それと共に本来備わっていた危機を捉える感覚を失ってしまいました。……無論、それだけでなく人々は欲望に駆られた移民と同じ幻を見て、此処が安住の地だと思い込みましたが、その荒んだ教理を受け入れた結果どうなったでしょうか?外国人労働者と偽り、入国してきた過激派が起こした群馬山中。多国籍の者も混じって参加していた関東8区と国会周辺による暴動。同じ欲望に赴くまま動いたがためにこうなってしまったのではないかと。」

 

そのうえで、移民を使い勝手の良い安価な労働力として無責任に受け入れ続けたがために、その移民は馴染めない土地と人間関係に孤独を感じ、賃金が低く過酷な労働環境によって不満が蓄積された結果、荒魂のように暴れ、暴動が起きたにも関わらず、誰もその責任を取らないという自身の考えを三木は述べると、

 

「であるなら、荒魂を受け入れるという思想へと進めば、今は国会周辺で暴れたこともあって消極的ではありますが、やがては外国人労働者を拡充しなくてはならなくなるという思想へと行き着くのは明白。荒魂と人間の融和を訴える貴方達にとってはその声を無視することができない。……貴方はお気付きの筈だ。寛容さを訴える者達は、移民を安価な労働力としか見ていない他者に寛容さだけを求める者達でしかないということに。」

 

寛容さを求める者達の大多数の本質は、他者に寛容さを求める者達でしかないと三木は語っていた。

 

「……とすれば、彼らがその醜く荒んだ主体性無き迎合と無責任でしかない教理を信じれば信じるほど、その飽くなき欲望に身を任せ、そして資本に踊らされ、遂には保身が処世の術として残る社会になるだけであり、そうした我が祖国の国民は醜く歪んだ己の姿に気付くことすらなく、いや恥じることもなく目を閉じるのみとなり、その劣った姿のまま緩慢な壊死を迎えさせることは私は願っておりません。」

 

そうして三木は、他者に寛容さを求める者ばかりとなった社会は、他人に厄介事を押し付け、自らは甘い汁だけを啜るだけの醜く劣った者となり果てても、その者達は自身の醜く劣った姿に気付くこともなく壊死するのみであり、三木はそうなることを望んでいないと述べると、

 

「……我が国は、刀剣を持つ武士階級の人間が自らの意思を通す幕府を開いたり、新しい国を創る維新を主導したりしてきました。それは常に刀と共に新たな時代を築き上げてきたということでもあります。現に銃を国旗のシンボルとして使う国も確かに存在するのですから、我が国だけではありません。……それを照らし合わせれば、夢幻でしかない平和国家から卒業し、自主独立と主体性を持つ強靭な国家へと変貌したという意志を言葉だけでなく、自衛隊が新たな時代の象徴の犠牲として堅強な国軍に変わると同時に、国民自身もまた同じように堅強になるという意識へと誘導することで、心技体の全てを自身の強力な武器へと変えられるほどに強靭な意志を持つ強く逞しい国と国民に変化すべきであると考えております。……ですので、私はタキリヒメではなく、人の意志によって国は形作られるべきであると考えているのです。」

 

三木は続けて、刀剣を持つ武士階級の人間が幕府を開いたり、維新を起こしたりして新たな時代を創ったように、平和憲法を破棄し、自衛隊を国軍へと変えることで新たな時代の象徴として変化を促した後、強い主体性と自主独立を国民自身が求めるように誘導し、その強い国民と共に新たな国家へと変化すべきであると三木は返答し、タキリヒメ派の議員に変化を荒魂であるタキリヒメが主導するべきではないと返していた。

 

「そうですか、どうあってもタキリヒメ様が統治することは望まないと。……ですが、今まで米国に守ってもらっているだけのぬるま湯に浸かるだけだった愚民自身がそれを望むと本気で思っているのですか?自ら何かを為そうともしない愚民を監督すべく、私はタキリヒメ様の強い御力で愚民も国民も纏めてこの国を支配すべきであると私は考えています。今更恥じることですか?他者に助けてもらうことは?」

 

しかし、タキリヒメ派の議員は尚も食い下がり、三木を説こうとしていた。

 

「私のことを荒魂に平伏す人間とお思いでしょうが、誰が私のことを批判できるのでしょうか?在日米軍といった他国の人間が血を流し、外国人労働者といった他国の人間を使い捨てるように利用するが、その対価だけは掠め取るという状況に何も言わないこの国の人達が?……そして、その者達に頼り切っているこの国の現実から目を逸らし続け、人権や寛容さ、平等は尊い物であると吹聴することで自分は善人であると思い込もうとする偽善者に、余所の国の人間の代価という生き血を啜って生きる人間達にタキリヒメ様の臣下である私を糾弾する権利があると思いますか?」

 

怪異の荒魂であるタキリヒメに頼るのが悪いことであるというなら、在日米軍や外国人労働者といった他国の人間が犠牲となり、その犠牲の対価を掠め取ることで経済的発展を遂げているうえ、この国の他者に頼り切っている現実から目を背けるために、人権や寛容さ、平等を吹聴することでそういった者達とは違うと思い込み続けている偽善者達は、その自らが他者に甘えている現状を打破してから初めてタキリヒメに頼る自分を糾弾しろと強く述べていた。

 

「他国の人間が得た代価を掠め取っている同じムジナの穴でしかないこの国の人間に糾弾されたぐらい何だと言うのです?私は、タキリヒメ様に付き従うことに私は何の恥も感じておりません!!……三木さんと私は、この国を何らかの形で揺さぶらなければならないことと自らの思想に純粋でなければならないという点では共通しています。その点だけでも互いに協力し合い、この国に真の経世済民と変革の風を起こそうではありませんか!?」

 

そして、タキリヒメ派の議員は、尚も三木を説得しようとしていた。

だが――――、

 

「……私を評価してくださるのはありがたいですが、私の気持ちは変わりません。」

 

三木は短くそう答えるのみであった。

 

「……そうですか、私は残念でしかありませんが、タキリヒメ様は彼女等との謁見を望まれております。」

 

三木の短い返答に落胆しながらも、タキリヒメ派の議員は可奈美達との謁見をタキリヒメ自身も望まれていると答えるのであった。

 

こうして、可奈美達刀剣類管理局には、再び面会が可能となったのであった。

そして、この地球という船は荒魂や国内と国外の勢力が創る荒波によって何処へ向かうのだろうか?

 

――――そうして、この地球という船が荒波に転覆することなく着いた先にはどんな世界が待っているのだろうか?

   

   

   




   
   
『刀使の起源は社に務める巫女さんだったそうだね。荒魂を斬る以上、その巫女としての務めも君達はちゃんと受け継いでいかないといけないってことさ。』
アニメ本編 第9話 ファインマンこと、フリードマンの台詞から。


一番好きな時代劇、『御家人斬九郎』が再放送されていることに喜ぶワイ。Amazonの時代劇専門チャンネルでも放映されてるけど、それでも大喜びのワイ。
やっぱし、世界の渡辺謙の演技は素晴らしいの一言に尽きますね。
あとは、『柳生十兵衛七番勝負』のNHK時代劇シリーズを一気に視聴できたことも感謝しております。剣術でぶつかり合うシーンは見どころ満載過ぎる!!

刀使ノ巫女で可奈美ちゃんみたいに剣術が好きになったら観てみよう。
    
     
    

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