【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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刀使ノ巫女を見ていて、
結芽ちゃんに優しかったり。
プロフィールで好きなもの・ことが誇りある勝利なのに何故、ノロを受け入れたのか?
力なき正義は無力とか言っちゃうところ。
というのを鑑みて、真希さんがノロを受け入れた理由って、こんな目に遭ったからじゃないか?と思い、勝手に執筆しました。

かなり、ショッキングな内容が含まれますので、御注意を。





閑話;ノロを受け入れた人の話

真希は優との戦闘のあと、夜の森を歩きながら仮野営地へと向かい、歩きながら真希は過去を思い出していた。

自分がノロを受け入れ、親衛隊に入る切っ掛けとなった、事件のことを……。

自分が始めて、荒魂と化した人と戦ったあのときのことを……。

 

 

 

 

 

 

大会二連覇し、あのときの僕は舞い上がっていたのかも知れない。

かつての自分を見てみると、ハッキリ言って視野狭窄に陥っているとしか思えなかった、恥ずかしいことに……。あのときの僕は若く、刀使としての誇りを十二分に抱いていた。しかし、あの事件が僕を変えていった。変わらないのは自分が持つ御刀薄緑くらいなものだった。

(どうしようか……。)

僕はこの時、迷いがあった。親衛隊に入るには強化薬の投与が必要らしく、それに戸惑いがあった。あのときの僕は青く、刀使に誇りを持っていた。それ故に少しだけ考える時間が欲しいと言って、少しだけ時間を貰っていた。だからこそ、僕は外の景色を見て回れば何か掴めるかも知れないと思い、外出していた。

そうして、あのときの僕は平城学館の制服を身に纏い、外の空気を吸いながら特に意味も無くぶらついていた。公園のベンチで一人座っている御老人、誰かを待っているのか煙草を吹かせながらブランコに座るサラリーマン、犬と散歩中の女性、お腹が大きくなっている妻と同行している夫を見かけていく。そして、登校中だろうか小学生の児童が「あっ、刀使さんだ!」と言って手を振っていたので僕も微笑みながら手を振って返していた。そうすると、小学生の児童達は「頑張って~!」といった黄色い声援をしてくれた。その声を受け僕は思った。

(やっぱり……、辞めて置こう。)

親衛隊に入るのは辞退しようと……、僕はああいう子供達とこのような平和な風景を守るのも刀使としての使命だと再認識したのだ。そして、それに相応しい人間にもなろうとあの子供達に僕にも誓った……。

 

 

 

 

 

その後、事件が起きた。小学校にて荒魂と化した人が現れたという報告があり、事実、スペクトラムファインダーに反応があった。そこへ僕は一人だけ走って向かっていた。

(急がないと……!)

不運にも、刀使が到着するには時間が掛かるので、たまたま近くに居た僕が一人で現場に急行していた。僕は手を振って応援してくれた子供達を思い出しては急いで走っていた。迅移を使って、現場に急行するということも考えたが、神力の消費を抑えるため、結局は走って行くことになった。

現場に到着した僕はバリケードテープで規制線を張って立ち入らないようにしていた制服の警官に、特別祭祀機動隊の身分証明書を見せ中に入れてもらい、現場の指揮官にどのような状況か教えて貰っていた。

「状況はどうなっているんです?」

そう聞かれた現場指揮官らしき壮年の男性はこちらに気付くと、親切に教えてくれた。

「ああ、平城学館の刀使か助かる。今、応援の刀使は此方に向かっている途中で、荒魂は警官を負傷させ、銃を複数所持しているという極めて危険な状況であり、小学校内に立て籠もっていて荒魂の数と何処に居るか判らないから君は此処で待「女の子を!早く救急車を!!」判った!その子は他の奴が運んで行くからお前は既に避難している人達を守れ!!」

現場指揮官と話している最中に、若い警官が小さい女の子を抱えていた。既にその女の子の血は乾いているのか黒くなっていたが、意識は辛うじて保っていた。

「いいえ!!病院まで!病院まで連れて。」

若い警官は少しパニックになっているようだった。無理も無いあんな光景を見れば誰だってそうなる。

「大丈夫だ、大丈夫だ!!他の奴に任せろ!!」

壮年の現場指揮官は若い警官を大声で叱責していた。それだけで今の状況がどれほど危険な状況か僕には分かった。そのとき、銃声が二度か三度くらい鳴る。それに、僕は応援してくれた子供達を思い出しスイッチが入ったのか、それとも頭に血が上ったのか、無謀にも小学校内に入ろうとした。

「すいません、突入します!」

「あっ、おい!!」

現場指揮官の声を無視し、僕は小学校内に入って行った。あのときは浅はかで青かったと思う、スペクトラムファインダーがあれば直ぐ見つかると思っていた。しかし、

(……何処に居るか分からない。)

完全に失念していたのである。スペクトラムファインダーはこの当時、おおまかな位置しか示さないのである。故に、僕は広い校内を当ても無く探していたのだ。

そして、僕は広い校内を散策するハメに遭い、転がっていて起きない用務員の中年の男性、怯えて竦んでいる児童達、……そして、誰の血か判らない黒い血溜り、この児童達が健やかに育つべく建てられた神聖な学び舎は地獄のような場所に変わっていた。そして、その証拠に至る所に赤黒い血の様なものが壁にべったりと付いていて、時折鳴る銃声に悲鳴と怒号が聴こえていた。

そんな状況下であるというのに、荒魂を見つけられず、僕は未だに彷徨っていた。理由は勝手に突入したことによって、荒魂の特徴を聞いていなかったこと、更に無線を持っていなかったので自分が居る所が分からないという間抜け過ぎることが原因であった。そのうえ、頭を冷やし冷静になって考えてみると、荒魂が既に避難している人達の方へ向かうか、小学校の外に出てしまえば、更に犠牲者が増えるということを今更気付いてしまった。そのため僕は来た道を戻るという二度手間のようなことをしていた。その道中、制服の警官二人組みと出会う。

「!……平城の刀使か。」

180cmくらいの長身が特徴の男性警官の一人が僕に気付き、胸倉を掴み壁に押し付けた。

「何を……。」

「お前、何ゾンビのように彷徨っているんだ!?」

「荒魂を殲滅に……。」

「何言ってやがる!訓練を思い出せ俺達を殺す気か!?俺達を殺す気か!!」

それを言われ、僕は頷くしか無かった。言われてみれば援護も無く突っ込めば、銃を持った荒魂に不意を突かれ僕が負傷か死亡してしまえば最悪の事態に元通りになってしまう。それに、僕が進んだ方向が荒魂の居る所と逆方向であれば、警官達もただでは済まないのだ。そして、銃声が鳴り僕と警官の二人はハッとする。

「良いな……持ち場に戻れ、既に避難している人達を最優先に守れ、自分の仕事をするんだ。」

僕を壁に押し付けている警官はゆっくりと落ち着かせるようにそう言うが、その警官の相棒、色黒が特徴の男が驚くべきことを言ってきたのだ。

「いや、相棒このままその刀使さんも連れて行こう。」

「何言ってやがる、お前も可笑しくなったのか!?」

「違う落ち着け、応援の刀使と機動隊員が到着して既に避難している人達を守っているから、外に出る問題も無いってことさ。」

「……やっとか、銃声からして近くに居るだろうからこのまま進もう。」

僕はこのときにやっと、援護を受けながら進むべき方向を得たのだった。

 

僕達は進んで行った、無線連絡に導かれ――――。

僕達は進んで行った、荒魂を斬って鎮めるために――――。

僕達は進んで行った、元は白い壁だったのに、今は赤黒いナニかが点々と染まっていて、ナニかが倒れて動かない廊下を通って――――。

 

そして、色黒の警官が一人の少女に寄り添って泣く女性が居ることに気付き、避難させるために話してかけていた。

「大丈夫ですか?」

その女性はすすり泣きながら、こちらに答えていた。

「この娘……意識が…………目がぁ……。」

「分かった、その娘はこっちで助けますから、早く避難してください。」

色黒の警官にそう言われた女性は、悲痛な表情しながら避難していった。

「…報告、報告。幼い少女が5-4教室手前で倒れています。」

色黒の警官は無線で報告し、その娘を救助しようとしていた。

《荒魂と接触したか?》

「いいえ、まだ生徒は学校内に残っている模様。」

《…荒魂を鎮圧することを最優先にしろ、これ以上野放しにするな。》

しかし、非情な答えが返ってきたことに僕は怒りを感じた。しかし、後になって考えてみたらこの判断は間違っていないと思うようになっていった。二次被害を防ぐため、荒魂の鎮圧を最優先しただけなのだから。

「…了解、行くぞ。」

色黒の警官は暗い顔をしながらも先に進むことを決意したようだった。

そして、僕達が進んだところに音楽を聴きながら廊下を進む児童が居て、その生徒が進む廊下の先に銃口が生えたように現れた。それに気付いた長身の警官は駆ける。

銃声が鳴り、長身の警官は倒れてしまう。僕がその生徒を引きずるように迅移を使って安全な所まで移動し、色黒の警官が援護射撃をした頃には既に荒魂は姿を消していた。

一撃だった――――。

一撃で全てが変わり――――、

一撃で僕を叱咤してくれた“人”は“肉塊”となり――――、

一撃で僕を呆然とさせていた――――。

「……相棒はもう駄目だ……、無線はお前が使ってくれ。」

色黒の警官が血で濡れている無線を渡す。頭でそれが最善の行動だと理解しているが、心がそれを許してくれなかった。しかし、僕はそれを受け取り、使う選択をしたのだ。きっと、彼もそれを望んでいる。

「あいつなら許してくれる、……行こう、荒魂はあっちに行った。」

そうして、僕は彼の無線を装備し、彼を置いて行った。何故か僕はこのとき、彼から「自分の仕事をするんだ。」という声援を受けたような気がした……。

足音と時折聞こえる銃声から、荒魂は図書室に居ることが分かった僕達はそこへ向かっていた。

「いた、……あそこだ。」

黒い野球帽を深く被っていて、荒魂化している部分が多く、黒いトレンチコートを羽織っているため、姿は良く分からないが、もう手遅れだというのが良く分かる。

「……おれが囮になる、一気に片を付けてくれ。」

色黒の男の判断に僕は頷いた。図書室の中には逃げ遅れた生徒が居て、銃口がその生徒達に向けられていて人質になっていたのだ。そのため、迅速に鎮圧しなければならなかった。

色黒の警官が全力疾走し荒魂が注意をそちらに向けている間に、僕が迅移を使って距離を詰め、荒魂を斬って祓うという作戦で行くことにした。

「俺の合図に合わせてくれ……3。」

僕は一呼吸する。

「2…。」

僕は御刀薄緑を抜刀する。

「1…。」

僕は息を吐き、決心する。

「GO!!」

色黒の警官の大きな声と動きに合わせ、僕も動く。作戦通り、色黒の警官に注意が向いているのか、荒魂は色黒の警官に撃ち続ける。

 

そして、僕は迅移を使って一気に距離を詰め、死んでしまった長身の警官を思い出しながら、薄緑を振り下ろして――――――――。

 

 

 

 

 

あの惨劇から数日後、僕は休暇を貰い、あの惨劇の場所へと向かっていた。今回は御刀を持っていない。

理由は……色々ある。小学校の担任が僕を見かけて近寄ってくる。

「ああ、どうもあの時は助けて頂きありがとうございます。」

「……はい。」

定例通りの言葉に僕は気の抜けたような返事をする。

そうして、僕は担任の案内のもと、廊下を歩く。

今では、あの惨劇が無かったかのように生徒達が普通に教室に居て、普通に授業を受けていた。あの惨劇は何かの夢であったかのように……。

僕はその白い廊下を歩いているときに、音楽の授業があるのか合唱の歌が聞こえていた。

みんな生きているから、嬉しいし笑う。トンボも蛙も命有るものは友達だという歌詞だった。……今の僕には、その歌が僕を責めているような気がした。

「皆、貴女には感謝しています。本当に、本当にありがとうございます。」

「……はい。」

僕には、それだけしか答えられなかった。そして、目的地である、荒魂を討った場所である図書室に到着していた。

そこで、僕は、思い出していた。

荒魂を斬った時のことを……。あのとき、薄緑を振り下ろしたあと、残っていたのは刀使の僕と幼い男の子だけだった。

たぶん、荒魂化した人というのはこの子なのだろう。……その証拠に、その男の子の周りはノロが飛び散っていた。

振り下ろしたあとの記憶が無い、……本当にこの子なのか?間違いじゃないのか?一瞬だけ思ったが、色黒の警官の声で僕は真実を知る。

「良くやった!荒魂を討ちたお……。」

沈黙がこの図書室を支配していた。そして、幼い少女が僕を化け物のように見ていたのが真実であり、間違いの無い事実だった。

「……報告、……報告。荒魂を鎮圧しました……。」

震えた声で、搾り出す声で僕は報告した。

泣くこともなく、現実を直視することが出来ず、固まって動揺するだけだった。そして、自分の薄緑を見ると、ノロがべったりと張り付いているハズなのに、そのノロが赤黒く血のように見えてしまった。そして、今の薄緑が恐ろしく見えてしまった、神聖なる武器ではなく、ただの殺人道具に思えて仕方なかった。

そうして、僕は薄緑を平城学館に預けここに居た。

今の僕は薄緑を持たずにその場所に居たのだ。

何でここに来たのか僕にも分からない。……贖罪しに来たのか、それとも懺悔に来たのか。……誰が許してくれるんだろう。

「……私ね、教師辞めようと思うんです。」

案内してくれた担任が突然このようなことを言ってきたことに、僕は驚く。

「……この子、いじめを受けてたみたいで、……私、見てみぬふりをしてたんです。……この怪我は天罰だったのかも知れません。そして、私がちゃんと見ていればこんな事にならなかったんじゃないか?……今はそう思えて仕方ないんです。」

担任は腕の怪我を見せてくれた。僕は、ただ黙って聞いていた。懺悔を聞いているようだった。

「……ですので、貴女だけ悪いんじゃないと……思います。私はこれぐらいしかできませんが……。」

「ならば、辞めない方が良い。……今度はそういった子供達を増やさないようにして下さい。」

僕には、それだけしか答えることができず、図書室から退室する。

……僕はこの惨劇で失った、

 

一人の戦友も――――。

一つの誇りも――――。

一度の誓いも――――。

 

全て失ったように感じた。だからこそ、僕は決意した。

犠牲者の弔いか、死んだ戦友の為か、あの男の子の為か、……理由は色々ある。そして、いつも通り平城学館に来て、いろは学長に相談をしてもらった。

「どうしたん、真希ちゃん?急に相談なんて……。」

いろは学長は優しく微笑みながら、聞いてくれた。その声が僕を不思議なほど落ち着かせてくれていた。

「学長、……お話が、紫様に連絡したいのですが。」

そして、僕は紫様と出会い、ノロを受け入れることにした。荒魂となっても悔いは無い、それ相応の事をしてきたのだから。

理由は色々ある……。

力無き正義はただの無力。

毒には、毒を。

力でなければ守れないものがある。

そして、何時かこの実験が人とノロを分離することが出来る技術の礎となればと思いながら。……ああいった子供達が救われる場所が有ります様にと願いながら、僕は親衛隊に入隊し、ノロを受け入れた。

その後の僕は、親衛隊の戦友に恵まれ、親衛隊の誇りを得て、新しい誓いを持てた。

 

 

ここは、残忍で理不尽な世界――――。でも、僕はそこで今も戦い続けている。

 

 

 

 




姫和ちゃんは荒魂と化した“人”はとか、だが少し前私の母の時代までは珍しい事じゃなかったとしか言ってないので、女子供が荒魂化したこともあったんじゃないかな?と思いました。だとすれば、昔の刀使さん達はかなり大変だったんじゃあ……。


次回はできたら、オリジナル刀使を出せたらな、と思います。



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