【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

112 / 167
刀使殺害事件特別捜査班調書 -極秘- 2Page

    

    

   

警視庁公安部 刀使殺害事件担当指揮官(48)の証言。

 

本件は捜査線上に危険なテロリスト一味が浮かび上がったことから、我が公安に引き継がれたことはご承知でしょうか?

 

……ええ、刀剣類管理局特務警備隊が行う調査には協力するようにとは上に言われていますが、我々公安の捜査方法と情報入手源の詳細につきましては秘匿させて頂きますので、全ての情報を開示することについてはご遠慮願います。

 

鑑識班と司法解剖の報告書、我々公安の地道な捜査、同盟国の情報部と組織犯罪対策部からの情報提供により、犯人は米軍基地を襲う危険な中東のテロリストの残党であると断定しました。

 

このテロリスト一味は先の国会周辺の暴動にもデモ隊に混じって参加しており、最近過激化してきているデモ隊の残党といった手合いの者達とも交流があったようです。それ故に、"仲間の仇"と称して警察や自衛隊員といった政府関係者を標的にする危険な者達です。

武器の調達は恐らく、犯行現場に残されていた薬莢と被害者の体内から摘出できた弾の施条痕から、組織犯罪対策部が追っている密売組織が取り扱っている銃器と同様の物である可能性が高いという鑑定結果からも同密売組織の関与が考えられます。

恐らく、ナイフ、9㎜を使用する拳銃といった武器を調達する費用は電子マネーが使われていると思われるため、資金から辿るという方法は断念しました。

 

ええ、電子マネーです。

ご存知かとは思われますが、昨今の電子上でのやり取りに使う電子マネーは資金洗浄、テロ資金供与にも使われている側面があり、捜査範囲が国外にまで及べば現在の警察組織の能力では詳細に追えないというのが実状であります。

そのため、資金面から辿るという方法は断念する他なかった……という事です。

 

そういった事情もあり、彼等が武器を入手したことまでは事件が発生するまで把握できませんでした。……とはいえ、武器を提供してくれた密売組織からか、それとも彼等自身が所属している組織力によって情報を入手したのかは不明ですが、このテロリスト一味は国会周辺のデモ隊に対する報復として綾小路武芸学舎の刀使科に所属する二名の刀使を待ち伏せ、不意を突いて殺害したというのが我々の見解です。

 

その殺害方法なのですが、刀使の利き腕の手首を的確に斬って攻撃と防御手段を失わせた後、頸動脈や心臓といった臓器を何度も突くという手際の良すぎる殺しを行った点、相対する相手の情報を調べ、それを基に作戦を立てられる程の手練の集団であり、加えてナイフの刺し傷の角度から考えて、小学生くらいの児童が行った可能性が高いという報告を聞いた時は戦慄致しました。

……そう考えると、我が国は子供を使うテロ行為にも対処し、対策法も考慮しなくてはならないことになるでしょう。

 

そのため、ある種特徴的なこのナイフによる殺害方法は捜査の進展のため、剣術流派に詳しい刀使の衛藤 可奈美隊員等の協力を得ました。ですが、完全に該当する剣術流派が無かったため、刀使が犯人である可能性は少ないと判断致しました。

しかし、軍隊もナイフを使っていることからもしやと思い、捜査の角度を変え、自衛隊や米軍に該当するナイフ格闘術は無いかと尋ねた結果、該当するナイフ格闘術が有るとの返答がありました。

 

とはいえ、少年兵でも不意を突けば戦闘訓練を受けた刀使を二名をも殺害せしめる事が可能であるという事実を公表することは率直に言って、更なる脅威を助長させるというのが我々の見解でもありますので、今後は刀剣類管理局にとって更に厳しい情勢下になるであろうことは容易に想像できます。それらを鑑みた場合は通常の荒魂討伐においても刀使の警護をする人員が必要不可欠であるという事は事実であり、改善すべき点であると思われます。

その点を鑑みますと、この刀使殺害事件においては各同盟国との情報組織及び、警察組織の協力は必要不可欠であると痛感しております。

 

何とも恐ろしい時代になったものです。子供も戦力化される時代としか言いようのない時代は寒気しか感じませんよ。……本当に目に見える"もの"が全て兵器や戦力として扱われる恐ろしい時代へと進むんじゃないかと。

 

……失礼、話が逸れましたな。ですが、それほどまでに我が国に入り込んだテロ組織と少年兵が紛れ込み、その少年兵でも戦闘訓練を受けた刀使を殺害せしめる程の戦闘力が発揮できるという事実には、我が国の治安を預かる警察組織の一員としましては、自衛隊並びに刀剣類管理局とも協力し、それを基に刷新、更に強固な警備体制に臨むべきであると痛感しております。

 

……『別班』ですか?

今回の被害者である綾小路の刀使がよく口に出していたと?……はあ、それは週刊誌とかを読んで騒いでいただけでは?

 

一時期、どっかの記者が自衛隊の非公然組織である闇の組織を暴いたっていう記事があったんですよ。まあ、記事内容は別班は武蔵機関とも小金井機関とも呼ばれていたとかいう内容でして、そのうえ何処かで聞いたことがある与太話程度の代物なうえ、匿名ばかりで妄想のかたまりという外部の評価を受けたり、もしくはネットに転がっている与太話を拾ったようなものばかりでしたから、流石に私の部下がこう言っていましたよ。

 

まるで、中学生が思い付いた空想上の話しみたいだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸上自衛隊陸上幕僚監部指揮通信システム情報部部長 甲斐 志郎陸将補の証言。

 

何の用かね?こう見えて私は国家の治安を預かる身である以上、多忙であるのでね。手短に頼みたい。

 

……別班。そうか、綾小路の生徒がそう漏らしたと?君はその存在を信じているのか?ならば、そのうえで尋ねたい。君は何が聴きたい?

 

朱音局長代理が今回の事件。

いや、何なら国会で騒ぐ野党や警視庁のように我々等の不祥事と呼んでも良いが、現役の刀使二名が荒魂でもないただの人間に殺害された事態をひどく憂慮なされていることは私も承知している。

 

総理の要請に応じた朱音局長代理が特別調査委員会を設置し、徹底した真相究明を命じた事も……だ。

 

だが、そのうえで君に問いたい。

 

仮に、綾小路の生徒が危惧した通りに『別班』なるものが存在したとして、そういった部署が彼女等の殺害に関与したとしよう。その場合、私がそれらを率いていた場合。私なら対抗勢力を潰すために動かすだろう。

 

……例えば、旧折神 紫派の残党を潰すことで刀剣類管理局を一纏めにし、タキリヒメ派に対抗するためといったふうにね。

 

私にとってみれば、旧折神 紫派はもはや反体制派であり、防衛省と刀剣類管理局の協力体制は20年前以上の大災厄を防ぐという観点からもそうだが、エネルギー問題解決のために隠世関連技術を狙う各国と今度起きうるであろう刀使等を狙ったテロ対策や工作活動のことを鑑みれば、刀剣類管理局内部にカウンターテロ……まあ、解り易く言えば、やられたらやりかえすのがアンチテロであり、やられる前にやるのがカウンターテロであるという解釈で頼みたい。

我が国の政治屋連中は未だにアンチテロとカウンターテロの区別をすることなく纏めて対テロと述べるほど疎い以上、国家の治安を預かる警察、自衛隊、……そして刀剣類管理局が三位一体となって国内外の問題に対処せねばならないというのが防衛大臣と私、そして君の上司に当たる人物も了承済みの事であると君には理解してもらいたい。

 

……君の想像通り、仮に秘密諜報部隊なる『別班』と呼ばれるものが存在し、その部隊がカンパニーの連中と半ば荒魂と化した者と一緒に非合法活動を行っていたとしたら、私は本部直属の特別遊撃隊付きになっていない綾小路の生徒を標的に選ぶだろう。

その理由は、旧折神 紫派の人間が綾小路に集結しつつある状況下においては、綾小路武芸学舎が反体制派の総本山となりつつあるのは明白であり、綾小路の生徒がただの人間に殺されるという不祥事を起こしてしまえば、綾小路武芸学舎の学長である相楽 結月氏の責任の追及と発言力を削ぐことで反体制派の勢力を弱らせることができ、荒魂討伐の現場に自衛隊といった実力組織を加えることで今後起こるであろう過激派によるジハードと称するテロ活動と各国による工作活動等に対する対抗策の構築が主な理由として行うだろう。

 

綾小路学長の結月氏は君も知っているとは思うが、20年前の相模湾岸大災厄時においては特務隊の副隊長を務めていたこともあって彼女の発言力は伍箇伝内では一際大きかった。その発言力を削ぐことで、今後起こりうるであろうタキリヒメとの対決を考えれば、何かと暗躍し、刀剣類管理局の活動を阻害しようとするソフィア嬢を始末することは重要課題であると私は受け止めている。

 

……まあ、君の言う通り、その者のお陰で防衛省と刀剣類管理局は協力体制を築くことができた。

その結果は君も知っての通り、我々自衛隊にも荒魂討伐に協力するということで荒魂対策の予算が計上され、荒魂討伐の現場を戦車、航空機、特科部隊の慣熟訓練とドローンといった無人機の運用法を構築する"演習場"として使うことができた。

……そう考えれば、この絵図を描いた我々自衛隊のことを悪辣非道な何かに君は見えることだろう。

 

重ねて尋ねるが、君はそんな我々を"悪"と簡単に断ずることができるかね?

 

君も知っているとは思うが、我が国を取り巻く情勢は決して良いとは言えないのが実状だ。

それは、我が国の公的機関である刀剣類管理局、それに所属し国家公務員として扱われる刀使も、君がよく知っているあの子供達も場合によってはテロといったものの危険に巻き込まれる可能性があるのだ。

 

君は群馬山中におけるイスラム過激派によるテロ行為を知っているだろう?それだけでなく、安アパートに移民と偽り、我が国に入り込み潜伏するテロリスト。デモ活動に紛れ込む敵国工作員と反体制派。それに、同盟国ですら我が国の反体制派であった舞草に潜水艦だけでなく工作員を送り込むといった対外工作支援。……考えれば考えるほどキリがない。

そして、これからは我が国内に難民と偽り入国したり、日本社会という環境に馴染めずジハードというものに参加する外国人労働者や留学生といったイスラム過激派のテロ行為は激しさを増す一方であるのは明白であり、それらを今も援助している工作機関はこぞって過激派を支援することだろう。そうなれば、その対策を講じる必然性が出てくるのは君でも理解できることだろう?

 

それらを我々が仕組んだかのように君は感じるだろうが、私は国防のため、テロ対策のために、ただこの状況を利用しているに過ぎない。

 

私が陸将補になる前から、刀剣類管理局に対する諸外国の対外工作は酷かったと聞いている。

例えば、警察や自衛隊、政府の内部情報を得るために年端の行かない子供達でもある刀使といった伍箇伝入学者に対してハニートラップやらを仕掛けて内部情報提供者に変えるといった工作とその国にとって都合の悪い内閣の支持率を下げるべく、特祭隊隊員等を自殺させようとしたりといった事はまだ可愛い方だ。

私が見知った中で最悪だと思ったのは、北の国といった第三国による者達が刀使と御刀を拉致し、それらを獲得するというものだ。

 

……もし、第三国による拉致が成功していたら君はその子をどうやって救出する?君が特撮物の安っぽいヒーロー物の恰好をするか、漫画本に出てくる超能力でも得て救出するかね?

まあ、君がそんな現実的視野から遠く離れた狂った思考の持ち主ではないことは解っている積もりだ。

 

それ故に、国家の防衛を預かる身の私としては、刀剣類管理局に諜報組織とSTT隊員に対テロ能力を付加させることは必要不可欠なことであり、急務な事であったのだ。

……しかし、警察の一部組織でしかなかった刀剣類管理局に軍用車輛であり、12.7mm重機関銃M2を搭載可能な軽装甲機動車を配備するだけでも様々な部署から非難が来たものだ。……例えば、『警察を軍事組織に変える積もりか?』といったものだな。

 

無論、『子供達が通う伍箇伝を監督する刀剣類管理局に軍事能力を保有させることは戦争行為である。』といった声が上がったことはあった。……だが、それは朱音局長代理が指揮していた舞草にも言えることではないかね?

 

舞草は米国から潜水艦や工作員といった戦力を供与され、刀使を組織の戦闘員にしたり、とある少女の名前を変えて諜報員に仕立て上げたりしたのではないのかね?

君はそれに対して一つぐらいは義憤や狂気を感じなかったかね?それとも、君の世界の中ではそれが常識なのか?

 

それとも、御刀という物を通して超人的な力を発揮する刀使を見て現実ではないアニメという娯楽作品か何かだと、現実に生きている者には関係無いと思い込むことで何も感じなかったのかね?

 

それか君は、刀使として在籍する娘の中に好きな娘が居て、その娘が自分好みの服に着替えてくれた様を見ることで、それで現実から目を背けることで何も感じなかった……いや、この残酷で不条理な物しか無い世界から逃れることができたかね?

 

もしも、それが事実だとしてだ。そんな現実から目を背ける君に一つだけ許可を与えよう。

国家の安寧のために刀使を政治利用でも何でもする私のことを非難したければすれば良い。それで、この世界に在る子供が親を殺したり、親が子供を処分したり、子供同士でも殺し合う地獄のような狂った世の中が変わるのなら、それで良いと私は常々考えている。

 

それに、この綾小路の刀使……いや、高価値目標と推測される織田 ソフィアのグループに所属する綾小路の刀使の殺害事件の事については、君の所属する特務警備隊の上司も承認している工作活動だ。

……後で聞いてみると良い。

 

しかし、獅童 真希君は良い部下を持っておるな。

それ故に、後ろ暗いことばかりをし、人望も若さも失った老人は必要であるならば、真希君を局長に据えたいと思っているのだ。

 

最初は、私も柳生新陰流を嗜んでいたこともあって、自らの社会的地位を盤石にし、立場の向上のために衛藤 可奈美隊員を局長へと推そうとしたのを放棄するぐらいにな。

 

 

……その衛藤隊員の弟君についてはどう思うか?か。

君は妙なことを聞くな?既にSTT隊員を何名も死傷させた彼の処遇については決まっていると思うが?

まあ、心証については幾らかは話せるとも。

 

そうだな。半ば荒魂化した事から、御刀以外の物理的な攻撃は有効打とならず、狙撃銃を渡して狙撃のテストを行うと、特殊な訓練を受けている訳でもないのに、900ヤードでの狙撃命中率は100%、1000ヤードでも90%以上の狙撃命中率をはじき出した。その事からも非常に優秀な兵士になれるかもしれんが、所詮は大荒魂が持つ龍眼の力のお陰でしかない。

だが、荒魂を注入すれば子供でも容易く特殊部隊の隊員レベルの狙撃能力を発揮するという事実と御刀以外の物理的な攻撃は有効打にならないのは御刀を装備できない我々にとっては厄介だ。これが刀使殺害事件の容疑者となっている抵抗勢力等に漏れれば、どうなるか君でも分かるだろう?

 

半ば荒魂と化した子供達が世界中で増えることになるかもしれんのだ。

 

それだけは、何としてでも阻止せねばならん。

 

故に彼の生死は問わないし、非合法活動で充分にこちらの役に立ってもらってから、敵対勢力が彼の少年を殺してくれればありがたい。……荒魂化した人間が暴れて、野垂れ死んだだけだと公式発表するだけだからな。

 

ん?彼の少年を失うのは、損失が大き過ぎるのではないのかと君は思ったのだろうか?

 

その懸念は安心してくれたまえ、敵対勢力が彼の少年を殺した事実をタギツヒメが知れば、我々に対して協力的になるだろう?……仇討ちはしたいだろうしな。

 

それに、君は彼の少年をどう思う?

 

思想も背景も無いまま、所かまわずに暴力を振り回すだけしか脳が無い狂犬は、結局は誰にも理解される事も無く、何処かで野垂れ死ぬのが道理なのだ。

 

良いかね?獲物を追い詰めることしか芸の無い狼は、狩りが終われば不要となるのだ。

童話で常に悪役にされる狼と同様に、その役目が終われば、最後は猟師に銃で撃ち殺されたり、腹を切開され石を詰め込まれ溺死させられたり、釜茹でにされ豚の三兄弟のエサにされる。

 

童話の悪役は、そんな末路しかない。

 

『憲法違反の組織』だの、『給料ドロボウ』だの、『反戦平和』と騒がれていた一時期に我々が映画や漫画といった創作物に悪役として扱われていたものと同じようなものだ。

 

軍事アレルギーと言えば、君なら分かる話しだろう?我々とこの国はそれに何時までも苛まれることだろう……。

 

それにだ、荒魂というのは、

 

繋がる輪から外れた孤独な存在であり、

自らの一部を奪った人間への復讐に駆り立てられ、

その孤独と復讐心を元にした怒りを唯一の武器にして、

世に現れ、人々を脅かす怪異と呼ばれる。

 

人間も斬れる真剣……いや、神剣たる御刀によって討伐される異形の存在。

 

そういった存在らしい。ならば君にも分かることだろう?

 

今まで、復讐に駆り立てられ、御刀を握ったまま突き進んだ者。誰にも理解されることはないと解りながらも大騒ぎする者。国会周辺にて荒魂パーカーを羽織り、自爆した者達を見て来た君ならば答えられるだろう。

 

……手足が二本付いていようが関係無く、我々の尺度では測れない異形の存在は居るということに。

 

そして、荒魂はどのような"姿"と“形”をしているかを。

 

そう考えれば、君達が考える境界線なぞ、直ぐに壊れるということも分かるだろう。

君達は正義ヅラをしていようがしていまいが、常に薄氷の上に立っているということを忘れないことだ。

    

   

    


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。