【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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刀使殺害事件特別捜査班調書 -極秘- 3Page

  

   

特務警備隊所属第二席此花 寿々花

 

……ええ、甲斐陸将補からその工作作戦は聞いております。

それに、あなたの顔を見ていると、嘗ての母校の人間を殺したことに加担したこと、嘗てお世話になったであろう学長に対して迷惑を掛けたことに罪悪感を一つも感じないのか?と訴えたそうにしているのは解りますわ。

 

それに対する答えはハッキリ言いますと、一つも罪悪感を感じませんわ。

 

この身を荒魂に宿すという禁忌を犯した私に、今更道徳とか人間性とかいうご高説を垂れ流してどうなるというのも本音ですし。……それに、何処までもお手伝いすると約束したあの人を一人にしておく訳にはいきませんもの。

 

京都にある此花家は代々折神家に仕えており、私はその此花家の一員でありました。

そういった事情もありまして、私のためにハリアーや高級車で送迎する手配を整えてくれたり、今も刀使として御刀を振るい続ける私を理解してくれた家族には今も大変感謝しております。

……今も御刀を振るい続ける私を理解してくれたというのは、一定の富裕層の中には、御刀に選ばれた孤児を養子にして援助することで、自分の愛娘の代わりに送るといったことをしているそうですが、自分の実力でどうにかしたいと思った私はそのようなことを致したくなかったので、両親を何とか説得し、綾小路武芸学舎へ入学、その後も私は刀使として御刀を振るい続けることができたという意味ですわ。

 

そんな中、私はノロを受け入れ、折神家親衛隊に配属されることが決まったときは、今まで育ててくれた家族に恩返しができると思い、無垢な子供の様に素直に喜んだものですわ………。

 

そのため、忠誠を誓うのは折神家であり、紫様と朱音様でありましたわ。

 

ですが、そんな私にも地べたを這わせるかの様な屈辱的な思いを抱かせる出来事がありましたの。

それは、折神家御前試合という晴れの舞台で、私は真希さんという御人に二度も敗れるということがあり、それが屈辱だったというだけですわ。

 

……その後の私は、大会に二度も敗れたこと、私が遣う鞍馬流に縁ある薄緑に真希さんが選ばれたこともあって、真希さんを一方的にライバル視しておりました。

そのような理由もありまして、私は事ある毎に真希さんに勝負を挑みましたわ。……縁日での催しでどれほど多く勝てたかといった下らないことばかりしておりましたけれど、一つも真希さんには勝てませんでした。

ですが、それらの思い出は、今となっては私と真希さんとの良い思い出であったと私は記憶しております。

 

そして、あなたもご存知かと思われますが、真希さんはこの後も荒魂討伐の作戦に数多く参加し、ご活躍なされました。

その結果として、ご自身よりも年齢が上のSTT隊員達を何の不満も抱かせることなく、ご指示通りに動かせる人気とそれを基としたカリスマ性を持つに至りましたわ。

 

折神家御前試合を二連覇し、数多くの作戦に参加したという確かな実績。

その後は、親衛隊第一席として数多くの作戦指揮を成功へと導いた確かな手腕。

そして、大の大人であるSTT隊員を指揮することができる高いカリスマ性。

 

……真希さんのそういった部分、私が一生を賭けても得られない部分に惹かれたというのもありますが、やはり真希さんがあのとき、STT隊員の隊長格の人達に述べた事が最大の要因でしょうね。

 

『――――そして、この身体の中にノロを投与し、自身の力へと変える投薬を受けたが、その技術はまだ確実な安全性を確保できていない。そのため、全ての刀使に投与することはできないが、僕がこの技術の"礎"となり、やがて安全性が確保されれば、僕等の後に続く全ての特祭隊隊員達の負担が減ることになるのは確実だ。……僕は後の刀使達のために、自分が信ずる"誇りある勝利"に殉ずるために、このノロのアンプルによる強化を受けた。……この話を聞いた君達が僕のこの行為を悪と断じ、僕の元から離れ、告発することは一向に構わない。ここで白黒を付けておきたい。』

 

今でも一字一句間違える事無く覚えております。

 

私は、そのとき顔を青ざめる気持ちでしたが、STT隊員の隊長格の人達は、その侠気という部分に惚れたらしく、否定することもなく皆賛同し、真希さんに変わらぬ忠誠を誓っていましたわ。……確か、そのときのSTT隊員の隊長格の人達は、刀使の娘達はただでさえ危険な荒魂達と戦うという過酷な任務を背負わされているというのに、真希さんは後の特祭隊隊員達のために、危険な行為であると承知の上でノロを体内に入れるという選択を行って、必死に努力しているのに大の大人達がそれを補佐しなくてどうする?といったことを述べていたと思いますわ。……私には理解できませんが。

申し訳ありません。真希さん以外の人が話した内容は、余り記憶していませんので。

 

ですが、その一連を見て聞いた私は、真希さんは難なくSTT隊員達を掌握したと理解し、真希さんに対して「貴女の作戦勝ちですわね。」といったことを述べると、

 

『……寿々花、何の話をしているんだ?』

 

と大真面目に返してきたのですわ。

 

『ああっ!……済まない寿々花。君達にも迷惑を掛けるところだった。』

 

……そして、真希さんが私にこう謝罪したとき、全てを理解しました。

真希さんはSTTという部隊を掌握するために、STT隊員の隊長格である彼等に御自身の秘密を話すことで説得したのではなく、ただ単純にこれから共に戦ってくれる仲間である彼等に隠し事をすべきではないと思ったからだという、それだけのことだったらしいです。

私は、その事実が公になるだけで子犬のように怯えていたというのに……。あの人はそんなことで怯える人ではなかった。

 

……あの行動は全て、御自身の信ずる"誇りある勝利"のために行動しているに過ぎなかったということですわ。

そして、私は理解しました。

 

……そんなこと、御前試合にて2年連続準優勝でしかなく、鞍馬流に縁のある薄緑の所有者になれなかったうえ、多大なるカリスマ性を持ち合わせていない私には出来ないということを。

 

ですが私は運の悪いことに、名家の生まれという部分からか、生来の性格の悪さなのかは私でも定かではありませんが、プライドだけは高かったので、それを受け入れるのに私は大変苦労致しました。

 

ですが、相反しておりますが不思議なことに親衛隊を率い、第一席と名乗るのに相応しいのは真希さんであるべきだと強く思いましたわ。……とすれば、落第した親衛隊の第二席を預かる私はどのように振る舞うべきか考えましたわ。

 

すると、真希さんが苦手とすること、それを考えた際、真希さんのある言葉を思い出しました。

 

『政治向けのイベントには、僕は気乗りしない。』

 

……この言葉にピンと来ましたわ。それと同時にある有名な独裁者が述べた言葉を思い出すほどに。

 

――――正直者の外交官など、乾いた水や木でできた鉄のようなものだ。

 

という言葉を。

 

そうして、私は真希さんを有名にすることで組織を纏めようと考えました。

 

先ずは、刀使全員の名前を憶えさせたり、人を育てるという楽しさと素晴らしさを教えたことで、真希さんは親衛隊の人気ナンバー1と呼ばれるようになりました。

 

そんな訳でして、今の真希さんは私好みであると言えますわね。

 

それに、あなたは政治や外交というものがどういうものであると思いますか?

私は、政事(まつりごと)という物は裏切りや工作、政争といった汚濁という穢れの中に真実を見出す物であると考えております。……それ故に、私はそういった方面で活躍すべきでない真希さんを補佐することを誓いました。

それに、特別祭祀機動隊に所属する刀使は、年若い娘が荒魂との戦闘を前提とする職種であり、その性質上、武闘派的な考えが多いというのが特徴ですわ。

 

そんな武闘派の多い組織で裏切りを得意とする人。例えば、松永久秀や本多正純の様な人物がリーダーになってしまうと、誰からも信用されることはなく、その組織から除け者に扱われるのがオチですわ。

……ですので、私の様な汚濁な振る舞いをする人はリーダーに相応しくないというのが、私の考えであります。

 

その後は、真希さんが如何に素晴らしいかを鎌府と防衛省内に広めるといった内部工作と宣伝を私が主導したりしました。

……それだけでなく、今回の一件、私の母校である綾小路の刀使が殺害されたことについては私も一枚嚙んでおります。

 

?……あなたは母校の人間が犠牲となったことについて心が痛まないのか?と仰りたそうですが、私は真希さんが前線に居ることで味方の士気を大いに上げ、結芽は敵部隊の突破及び、我が親衛隊の切り札的存在。そして、真希さんから任せられた後方を私と夜見さんが担当し、夜見さんがあらゆる方法で情報を得ると同時に私は宣伝工作や敵対している部署に内部協力者を作ったり、こちら側のスパイにしたりといったところですわ。

 

そんなことをして、心が痛まないのかと言いたげですが、あなたはご存知でしょう?刀剣類管理局の現状を………。

 

4ヶ月前の刀剣類管理局は折神紫体制に対抗する舞草という組織と内輪揉めをしておりました。そして、今現在も朱音様を排除しようと試みているのは、旧主流派であった折神 紫派……所謂、変革派と呼ばれていた人達が結月学長を次期局長へと推しており、反体制派と対立しているという状況は、4ヵ月前の状況と何ら変わりありません。

 

そのうえ、安価な労働力を求め、移民の流入を推進していった結果、中東の過激派も移民として紛れ込み、女子教育を施す刀使の存在を目の敵にすることは必然。

国内でジハードが起きる可能性が高くなるでしょう。

それと、ジハードに協力する可能性の高い中東の国の諜報部といった勢力と隠世技術の独占を企む他国の干渉及び政治工作。……それだけでなく、舞草の保守派が私と真希さんのことを排斥しようと試みようとした結果、敵性勢力に情報を流した形跡があり、刀剣類管理局は様々な勢力に内部工作や外敵の脅威に晒されているという常に内憂外患を抱えている状況ですわ。

 

政治工作が得意な高津 雪那学長が居ないうえ、刀剣類管理局が内部分裂寸前という状況下で政治的な能力が高いタキリヒメと相争うのは好ましくありません。

だからこそ、今や刀剣類管理局の体制に反する活動を行っている変革派を排除することで刀剣類管理局は一つに纏まるべきですし、テロ組織や他国の介入から刀剣類管理局を守るためには無人機の配備とSTT隊員の非正規戦といったことに対処する能力の向上は必要不可欠であると考えております。

……そのためには、先ず変革派に属する綾小路所属の刀使をテロリストらしき者達等によって殺害されたことで、変革派に持ち上げられている結月学長を局長へと推そうとする声を減少させるか、或いは学長の地位を追いやるかで変革派の勢いを失わせる必要がありました。

 

それに、そうすれば防衛省と協力体制を敷いて、戦力が整っている刀剣類管理局。未だに刀使といった正面戦力を確保していないがために刀剣類管理局との対話に応じるタキリヒメ派。……もしもあなたが変革派の人間なら、どちらを攻撃しますか?

 

それ故に、変革派に属する綾小路の刀使をテロリストらしき者達によって始末し、戦力を失わせるといったやり方で追い詰めるだけ追い詰めて暴発させることで変革派を消滅させる必要がありました。

 

それだけでなく、ノロのアンプルを知っているイチキシマヒメの所在が不明なのは憂慮すべきことであり、何としてもイチキシマヒメを始末しなければならなかったがために、綾小路武芸学舎内を調べる必要がありました。

 

ですが、簡単に内部に潜入できなかったため、綾小路武芸学舎に属する刀使が犠牲になった事件が起こし、その捜査の事情聴取として堂々とスペクトラムファインダー等を所持した刀剣類管理局の調査員及び警察官を綾小路武芸学舎内部に送り込むことができました。

それで、イチキシマヒメの反応が出ればそれはそれで良かったのですが、反応はゼロ。ですが、これではっきりとした事が分かりました。

 

綾小路武芸学舎内に居ないとすれば、変革派に所属する一部の者がイチキシマヒメを結月学長に知らせず独断で匿っているであろうことが分かりました。

 

これで、イチキシマヒメを匿っている場所さえ分かれば、後は結月学長に変革派の一部の者が暴走していると教えることができ、綾小路武芸学舎と変革派の分断が生じ、更に戦力を失った変革派の掃除ができますわ。

 

そういった訳ですので私は、真希さんの副官でもある第二席として、代々折神家に仕えていた名家の生まれであることを利用し、パーティや会合等で人脈を築き、政治的な立場を確立。縁故の有る人達に恩を売ってスパイとして起用したり、弱みを握ってスパイにさせたりといったことで、真希さん達の居る刀剣類管理局を親衛隊と共にあらゆる手段で御守り致しました。

 

そう、"あらゆる手段"で………。

 

もし仮に、今まで誇りある勝利を信条とする真希さんが政治工作といった汚濁の振る舞いをすれば、支持を失い、味方の士気は大いに損なうことになるのは目に見えております。ですので、真希さんが政治に興味が無いのは私にとって最良の思考であったと私は常々思っておりますの。

……ですが、今後の防衛省との付き合い方を考えれば、そういったものに真希さんは出向かねばならなくなります。ならば、私がその筋書きを書き、私が真希さんの支持を集める内部工作の一手を担うべきであるとも考えましたわ。

 

そうして、私の助言によって人を育てる等といった事を憶え、私の筋書きと内部工作のお陰でご活躍なされる真希さんを見ていると……私の中で何かが激しく燃え上がる。いえ、心地の良い高揚感が、いえ、私の中でナニかが満たされていくのを感じました。

 

私の演出と脚本力で真希さんが活躍される。……あなたならお分かりでしょう?これが何かを創作するという喜びであるということに。

 

此処まで来て、私達のお話を聞いたあなたなら分かるお話だと思いますが、違いますか?

 

私が創り上げた第一席の真希さんと私が陰ながら守り続けてきた刀剣類管理局が存在し続けられるのなら、私はどんな手段でも行使しますわ。

そのためなら、結月学長を追い落とすぐらいで刀剣類管理局が一つに纏まり、事件を詳細に調べるという名目で綾小路の内部を警察や特別警備隊の調査員が堂々と調べることができる状況に持って行けるのなら、母校である綾小路の刀使を犠牲にすることは仕方の無い事だと思いますわ。

 

……無論、私が真希さんの副官で居るために、代々折神家にお仕えしてきた名家のご令嬢であり続ける必要性が有るのなら、それを演じ続けようとも思います。

 

この世界は、親の辿った道に沿って生きるのが自然という考えが浸透しているようなので、殊の外簡単に家を大事にする世間知らずなご令嬢と、そう思わせることができました。

 

ハハハ、貴女は地獄に落ちた方が良さそうですね。とあなたは言いたそうですが。

 

私は元からこの世は"地獄"だったと思っておりましたし、その"地獄"の管理は悪魔が行うべきであると考えておりますので、我々の頭上に居るだけの神様は何かしらの御神託でも述べて頂ければ良いというのが私の考えでありますわ。

 

…………そういう訳ですので、あなたには厳正且つ、誠実であり読み応えの有る調査報告書を期待しておりますわ。

……でなければ、分かりますわよね?あなたにも、年老いた母か、連れ添う伴侶、もしくは愛すべき娘か息子が居る家族が居るでしょう?

    

   

     




    
    
これにて、本調査は終了となる。

この後、綾小路武芸学舎は刀使を二名も死なせてしまったことでマスコミから厳しい追及を受け、結月学長はその対応に追われたことにより、伍箇伝内における自身の発言力が低下することとなる。
それだけでなく、通常の荒魂討伐時にも、対テロ能力を向上させたSTT隊員を同伴させることが決定された。
     
     

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