111話を投稿させて頂きます。
御刀と刀使が神聖なもので、ノロや荒魂が神様扱いであることが正しくて、過去から引き継がれたものが素晴らしいなら、アヘンを『神の薬』として扱っても何の問題無いよなぁ?
という思考から、神という修飾を施せば、本当に荒魂は神様で刀使は神聖なるものなのか?という考えに行き着きました。
時は戻り、丹沢山周辺にて荒魂の群れが出現する数週間前のこと――――。
赤子の荒魂を使役し、腹の中から這いずり出る様に改造した夜見のことを聞いたソフィアはスレイドに改造した箇所はそれだけかと尋ねていた。
「……しかし、スレイド博士。新しいノロと人体の融合実験とはそれだけなのですか?」
「フフフフフフ、無論、それだけではない。……私は悩んだよ。悩んだ。私は知っての通り刀使の強化に使えるノロのアンプルを完成させるために、子供にノロを注入させたんだ。だから、この世界の中では子供に荒魂を注入させる技術においてはボクは一番の腕を持つと自負しているよ。……けどね。」
自分は、子供に荒魂を注入させて強化させるという技術の腕は一番であると自負していると述べるスレイドは、何か苦々しい事を思い出したのか、珍しく渋い顔をしていた。
「……けどね。けどね。流石の私でも荒魂を注入して体の改造を行うには、なるべく若い方が良いんだ。若くて柔軟性の有る脳がある程度はノロに適応してくれるからね。でも、それでもやはりというか何というか、子供でもやはり、荒魂が持つ負の影響で身体がダメになったり、もしくはノロを注入する量が多すぎると荒魂化する傾向が見られてね。そういった側面をどうにかできないものかと考えていたものだよ。ホントホント、こればかりは悩んだよ。」
スレイドは自身が行っていたノロと人を融合させ、強化・進化する研究で難儀していたことがあったと告白していた。
それは、若くて柔軟性の有る脳の適応力から、それに適している子供を使って実験をしていたのだが、それでも荒魂化や負の影響によって苦痛に耐えられず死去する者や暴走する者が後を絶たず、精神面と肉体面において安定化させることが非常に難しかったと答えていた。
「……だけど、だけど『暴力も愛情表現の一種』と考えている静くんの話を聞いてピンッ!と閃いたんだ!!正に、これが神の天啓であり、恩寵であったんだと思ったよ。苦痛が心地よいと思うようにすれば、ノロの負の影響による暴走、抗いがたい飢えと渇き、ノロが身体に侵食される際に生ずる痛みといった負の影響を克服できると!」
しかし、スレイドは静の発言を聴いて、行動を見て荒魂による負の影響を克服する方法が閃いたと答えていた。
「それで夜見くんに入れるノロのアンプルにコレを混ぜてみたんだ!!!」
あるものをノロのアンプルに混入し、夜見の身体の中に注入したと答えていた。
…………それは、
「ヘロイン、マリファナ、アンフェタミン、……まあ、所謂麻薬という物を混ぜてみたんだ。」
麻薬といった薬だった。
脳に作用し、多幸感や幻覚などをもたらし、最終的には身体を壊す薬である。
「このノロのアンプルは荒魂の元となっているノロが使われていることは分かるね?そして、その荒魂が何て呼ばれているか知っているかい?……荒ぶる神だよ!荒ぶる神!!それで、ヘロインの元となり、昔は神の薬と呼ばれたアヘン……つまりは麻薬と混ぜれば人体と荒魂のが融合する際に生ずる負の影響、苦痛を緩和させることができるんじゃないかと思った訳だっ!!!」
古来、いや、6000年以上前の地球で最古の文明と呼ばれるシュメール人の時代、その時代からある植物が発見されたのである。
それはケシ(芥子)と呼ばれる植物の一種で、この植物から得られる乳液には、身体の痛みを消し去る力があった。それが分かった古代の人々はこの乳液を乾燥させたものを強力な鎮痛剤、薬として使われていた。
そのため古代の人々はケシのことを「喜びをもたらす植物」という意味のフル・ギルと名付けていた。何故、「喜びをもたらす植物」と呼ばれたかと言われれば、それはこの薬を使用した者が眠気に誘われ、幻想が見え、痛みが消えただけに止まらず、気分が上向きになり、多幸感になれたため、ケシの事を「喜びをもたらす植物」と名付けられたのである。……そして、この「喜びをもたらす植物」は、現在ではアヘンとも呼ばれ、危険な薬である麻薬と言われる代物となるのであった。
「それに昔の人はお酒や菓子に麻薬を混ぜて飲んだり食べたりしたこともあるそうだよ?……トロイのヘレネ戦争に疲れたギリシャの戦士達もネペンテというワインに溶かしたものを振る舞ったという話から、ノロのアンプルに麻薬を混合させるという発想を得たんだ。……あっ!言い忘れたけどネペンテの主な原料は、アヘンだから、何も間違っていないよ!!アハ、アハハハハハハ!!!」
しかし、やがて危険な薬であるアヘンと呼ばれるようになる代物を古代の人々は『神から与えられた薬』であると認識し、紀元前数世紀頃まで使われていた。
……だが、使用していく内にアヘンを大量に摂取し続けていると使用するのが辞められなくなるうえ、一度に摂取し過ぎると死んでしまうことが分かったのである。しかし、数々の病気を治すため、眠るときの睡眠剤、又はお菓子に練り込んで食べることで気分を落ち着けたりもしていたため、アヘンを使うことを中止することを古代の人々はしなかったのである。
そのため、その後もアヘンは全世界へと広まっていき、娯楽の一種として使われていった。そんな世界だからこそ、16世紀にはアヘンとブランデーを混ぜて調合した薬「ローダナム」が流行ったりもしたのである。
しかし、時は1840年、イギリスと中国との間に起きた『神から与えられた薬』であるアヘンから名前を取ったアヘン戦争にて、中国は敗北。その結果は、アヘン輸入のための港を多く解放させられ、アヘンの輸入量は増加。中国国内のアヘン中毒者は増加する一方であった。
だが、それだけに留まらず、1848年のアメリカのカリフォルニア州にて金が大量に発掘されることが分かったことで金を採掘しようとする人々が大量に押し寄せて来たのである。……そして、その中には7万人もの中国人がアメリカへと渡り、その中国人の中にアヘン中毒者が多く居たのである。これにより、アメリカでも多くの人がアヘンを吸引するようになり、アメリカのほぼ全ての主要都市でアヘン中毒者が続出してしまった。
……そのため、世界でアヘンが流行したことによって、アヘンは社会に破滅をもたらすと考えられるようになったのである。
こうして、『神から与えられた薬』と言われたアヘンは『社会に破滅をもたらす』というふうに認識が変わって行くのであった。
しかし、アヘンには強い鎮痛効果があり、優秀な薬としても使えるのは事実であった。
そこで科学者達は鎮痛効果を残しながらもアヘンの中毒性は無くせないものかと考えたのである。
その結果、アヘンに存在する鎮痛効果のある物質だけを取り出すことで中毒性を消すことが出来ると考え、それを取り出すことに成功したのである。
こうして、その物質をモルヒネと名付けたのである。
……しかし、モルヒネもアヘンの6倍も効果が強く、短時間で高い高揚感を得たものの、副作用は一切消えず、モルヒネ中毒という言葉が出来るほどにアヘンよりも高い依存性を示したのである。結局のところ、アヘン中毒を防ぐために作られたモルヒネは、ただアヘンの効果を強めただけという形で終わったのであった。
だが、科学者達は諦めることをせず、どうすれば依存性の無い鎮痛剤を作れるかを考えた。
そうして次に科学者達が考えたのは、モルヒネを基に他の化学物質を合成し、その成分を化学反応によって少し別の物質に変えれば良いだけなのでは?というものだった。
こうして、完成した新たな鎮痛剤は、モルヒネの5倍は効果があるものとなったが、この薬を犬に投与すると、犬は激しく興奮し飛び回り、その後酷く具合いを悪くし、死にそうな状態になったことが確認され、薬は処分されることになったが、ある製薬会社がこの薬に目を付けることで話は変わってしまう。
モルヒネの5倍も効果があるのであれば、使用量は少量で済むはず。
使う量もほんの少しであれば、中毒になる可能性も低くなるという考えのもと、ヘロインという名前の新薬として販売されることとなる。
……4週間と少人数の試験だけで、問題は無いとしていたが。
そうして結果は、ヘロインはすぐに十数件の中毒例と数件の乳幼児の死亡例が出た後も、ニューヨークの20万人もの人がヘロイン中毒者となり、ヘロインは現在ではキングオブドラッグと呼ばれる程の危険な麻薬となってしまったのである。
……そのため、モルヒネ中毒者を更に凶悪なヘロイン中毒者に変えてしまっただけという結果はモルヒネのときと変わらない結果となってしまったのである。
しかし、その後も研究者は諦めず、ヘロインに代わる新薬を作ったものの、新しい依存症が生まれ、薬物治療施設が多く開設されるのであった。
人というものは、悪い事をしながらつい良い事もし、良い事をしながらそれと気付かず悪い事もするものなのであろうか?
……こうやって、神の薬と呼ばれたアヘンは多大な悪影響を及ぼしたのであった。
「それに面白いよねぇ。時代が時代なら、ノロのアンプルもアヘンと一緒で"神の薬"と呼ばれたかも知れないのにねえ?もしくは、モルヒネと同じように呼ばれている神性な珠鋼と同等の扱いをされたかもしれないのにねえ?」
そして、スレイドはこうも述べる。
神性を帯びた稀少金属と呼ばれる珠鋼。それを精製すれば産まれるノロとそれが結合すれば産まれる荒魂という関係は、神薬と呼ばれたアヘンと人間の歴史、そして使用量が増えれば、人扱いされなくなることと似ているのでは無いかと?
「でもこれ、面白いと思わない?アヘンとノロを混ぜれば神の細胞と神の薬のハイブリットって事になるしね。イヒッ、ヒヒヒヒヒヒッ、ヒヒヒヒヒヒヒ!!」
このスレイドの発言は、嘗て、古代エジプトの女神であるイシスは、太陽神ラーの頭痛を治すためにアヘンを用いていたと云われ、ケシもギリシャ神話に登場する農業と豊穣の女神デメテルのそのものを表し、彼女の絵には豊穣を象徴する麦の穂と共にケシの花が描かれ、古代ギリシアではしばしばアヘンは眠りの神Hypnos、夢の神Morpheus、夜の神Nyx、死の神Thanatosに例えられていたことと、アヘンからモルヒネを分離するのに成功した科学者が「夢のように痛みを取り除いてくれる」ことから、ギリシア神話に登場する夢の神モルペウス神にちなみモルフィウムと名付けられたことをもじっての発言であった。
「それにだ。この国の刀使さんは巫女であって、その神道には大麻が使われていたそうじゃないか。それに、大正五年に神宮奉斎会本部が発行した『神宮大麻と国民性』によると「大麻は之を仰ぎ崇敬の念を致すべき御神徳の標章」であるとされているらしいじゃないか?それに、家庭においても大麻を奉安し、朝夕家族で拝むことは子供たちの教育上も多大な効果があるとしてたそうじゃないか?……だったら、巫女さんに神の薬を飲ませるのは悪い事じゃあない筈だよねえ?古来の刀使の在り方を復活させるから社を再建させまくっているそうだから、僕も古来のやり方を復活させようと奮闘している人間の一人だと言えるね!!今度、朱音とかいう人に聞いてみたいねえ!!」
そうして、古来からの方法が正しいのであれば、自分も正しいはずだとスレイドは興奮気味に主張していた。
「それに、夜見くんの様な人体と荒魂を融合させ、身体能力や特殊能力を大幅に向上させた刀使のことを『冥加刀使』と呼ぶそうじゃないか?冥加というのは神仏から受ける恩恵の意味らしいから、『神の薬』と『神の力を持つ珠鋼』を組み合わせてあげた方が最も神仏からの恩恵を受けた真の冥加刀使、神の御使いとして相応しい姿になったと言えるんじゃないかねぇ?……このジョーク、面白いと思わない?」
神の薬である麻薬。神性なる珠鋼を搭載したS装備。各地の杜に奉られるノロ、荒魂を自身の力にすることで神仏から受ける恩恵という意味を持つ冥加から採られた冥加刀使という存在。
それら全てを組み合わせた夜見は、最も神仏の恩恵を受けた存在だと言えるのではないかと。スレイドはそう述べるのであった。
「フフフフ、つまりは夜見にそれを処方したということですね。」
「ああ、そうだよ。神の薬の恩恵のお陰で彼女は覚醒作用を受けるから集中力が高まると同時に、疲れを感じさせない持久力、反応速度の向上によって瞬発力と敵の攻撃を躱すことは容易となり、そして多大なる多幸感によって痛覚を感じにくくなったから生半可な攻撃では倒れないし、それに最大の問題であった荒魂に対する苦痛も感じにくくなっているよ。」
それを聞いたソフィアは、麻薬によって無理矢理覚醒させられているため、集中力が増したことで敵の挙動をよく見ることができ、その集中力と反応速度の向上により、敵の攻撃を容易に躱すことができるうえ、疲れ知らずの持久力により、戦闘継続時間がS装備以上に飛躍的に延びただけに止まらず、精神は多大な多幸感に支配されているため、痛覚や疲労は感じにくくなっているため、どれだけ負傷しても戦闘を継続することが可能であるということを理解すると、凄まじい強化を施したものだとソフィアはスレイドに感心していた。
これらに加えて、卵細胞と血を代償にして、赤子の荒魂も召喚してくると解れば刀使達はどのように思うだろうかと、どのような顔をして、どのように自身の"獣性"を曝け出すのだろうかとソフィアは愉しみであった。
「……ですが神の薬と荒魂との融合だけではなさそうですが?」
「ああ、それももちろん今から話すよ。」
しかし、夜見の強化はこれだけではないだろうと思い、スレイドから更に聞き出そうとしていた………。
時は戻り、夜見が自身の腹を切って、その腹の中から"赤子の荒魂"を這い出して来たとき、可奈美達は刻が止まったかのようにピクリとも身動きができなかった。
夜見の腹の中から赤子の荒魂が出てきた。
つまりは、今まで相手にしていたのは夜見が産み出したものであることが今になって分かったのだ。……その事実だけで、親に愛されたという記憶を持つ可奈美達の精神を大いに揺らがせ、彼女達の精神の均衡を崩すには充分な効果であった。
そのうえ、
『全部隊に通達。全部隊に通達。赤子の荒魂は死体であっても積極的に人に取り憑き、強制的に人を荒魂化させている模様。注意されたし。』
今頃になって、赤子の荒魂のもう一つの特性である生者や死体であれども人に取り憑くことさえできれば、その者を荒魂化した人間として動かせることができるということが判明したのである。
つまりは、荒魂に対して対抗手段を持たない力の無い一般市民に近付けばどれほど危険な事であるか、そして市街地に入ってしまえばどうなることか……。
とすれば、何としてでもこの赤子の荒魂は討伐しなければならないということであり、夜見を止めなければならなかった。
「紫様!紫様!!人型の荒魂は目標の荒魂ではないです!!皐月さんです!!!」
そのため、可奈美は錯乱気味ではあったが紫に援護を求めていた。
紫の言葉なら、夜見も制止するだろうと踏んで。………しかし、
「……紫様。…ゆ、ゆか、ユカリサマ、ゆかり様、……紫様。」
紫の名前に反応したのか、夜見は壊れたラジオのように『紫様』と何度も名前を呼びながら、レコードプレーヤーのように首を何度も何度も回していた。
夜見のその異様な姿と人外な行動に誰もが恐れ慄き、可奈美達ですら夜見はもう人ではないのではないだろうかという疑念を抱かせるには充分な程の行動であった。
……そして、
「……そうでした。そうでした高津学長誠に申し訳ありません。私は刀剣類管理局に囚われの身となっている紫様をお救いするという重要な任務がありました。」
可奈美と姫和を捕獲するという命令を忘れたのか、それともその命令に矛盾を感じ、直ぐに自分の都合の良い様に改変した命令である刀剣類管理局に囚われている紫を救出するという妄言を吐露していた。
「そのためにはあぁア、邪魔な管理局の犬である刀使を排除せねば!せねば!!」
突如、真っ直ぐに可奈美達の方へと向かって行くのであった。
その突然すぎる行動に可奈美達は驚くものの、直ぐにその体勢を立て直すと、先ずは薫が刀身の長い祢々切丸の第五段階の八幡力による振り下ろしで牽制しようとするが、覚醒作用のある麻薬によって反応速度が恐ろしく上昇している夜見は、それを難なく躱し、一気に薫に詰め寄る。
しかし、薫と夜見の間に入ったエレンが夜見の行動を抑えようとするものの、夜見の腕が伸び、エレンの御刀を掴むとそのままエレンごと放り投げるのであった。
投げ飛ばされたエレンは咄嗟に金剛身を張ったことにより、樹木にぶつかっても無事であったが、薫との間に距離ができてしまったうえ、姫和と可奈美は新たに現れた赤子の荒魂の相手をしている最中であった。
そのため薫は、この強化された夜見と一対一で戦うことになる。
「んなろっ!!」
そのため、薫は祢々切丸を振り回して、夜見をどうにか近付けないようにするが、薬によって反応速度と身体能力が上昇している夜見は薫の攻撃をいとも簡単に躱しながら、御刀を手に持つ右手を紫に取り憑いていた大荒魂と同じく、触手の様に伸ばすことで更にその突きの速度を上げ、その速すぎる速度に対応できなかった薫は写シを突かれ、残り一回となってしまった。
「ぐっ!!?」
しかし、残り一回の写シを再度張り直すものの、第五段階の八幡力の力が上乗せされた夜見の突きによって、吹き飛ばされている最中に樹木にぶつかってしまったことにより、写シの上とはいえ背骨が折れる感触を受けたため、残り一回の写シも使い切ってしまう。
「ねねっ!!」
薫が倒れたことで、声を上げながら近寄るねね。
「薫っ!!」
写シを使い切ってしまったことにより、気絶してしまった薫を救援するため薫の元へ迅移を使って急いで向かうのであった。
だが、その薫の元へと救援に向かった行動によって、エレンは夜見に対して攻撃のチャンスを与えてしまった。
夜見はエレンが薫の元へと向かったその隙を突いて、エレンに接近するのであった。
エレンは、荒魂化し触手の様に伸びる両手足とノロで覆われているがために表情も顔も見えないという人外染みた容姿に加え、自身の腹を掻っ切って、対峙した者に対してトラウマを植え付けるかのように創られた赤子の荒魂を召喚するだけでなく、首が車輪の様に回るという行動をする夜見の変わり果てた姿を間近で見ることとなったエレンは、自分もノロが体内に入り込んでしまえば、こうなるのだろうかと考えるだけで身震いしそうになった。
しかし、近くで気絶している薫を見捨てることができなかったエレンは必死で目を覚まして欲しいと念じながら、薫に呼び掛けるのであった。
「薫っ!薫っ!!生きてまマスか、薫っ!!?」
しかし、どんなにエレンが必死で呼び掛けても薫は返答が無かったため、長年連れ添ってきた相方は気絶していると判断し、この人外の様に変わり果てた夜見を一人で倒さねばならないのかと不安に駆られてしまった。
そして、エレンは不安に駆られると次の不安に駆られるのである。それは、自身が敗北した時は赤子の荒魂に襲われ、赤子の荒魂の能力である人の死体であっても人に取り憑き、荒魂化した人間として操られ、今の夜見の様に変わり果てた姿となるのではないかという新たな不安に駆り立てられたのである。
…………腹の中から赤子の荒魂を産み出す化け物に変えられるのではないと。
こうして、新たな命を育めないと知り、孤独となった荒魂が一人ではないと証明するために赤子の姿と声に酷似した荒魂を創り、人と荒魂が一つになり易くなったことを見せることで、その荒魂の孤独感を癒せればという思いから始まった研究。
その成果は、割腹による自傷で腹に穴を空けると赤子の荒魂が這い出て来るうえ、異形としか言いようがない程に変わり果てた姿に恐怖と畏怖を感じさせ、赤子の荒魂も人間の赤子の声と姿に酷似しているうえ、人の死体であっても取り憑いて荒魂化した人間へと変えてしまうため、荒魂の脅威から人々を守ることを使命とされ、年若い娘しかなれない刀使にとってみれば、人々を守るためにこの赤子に酷似した荒魂を討伐しなければならないという刀使にとって最も天敵となる荒魂を産み出したとしか見れない程に醜悪な結果を齎したのであった。
組み合わせで
きみのかんがえたさいきょうとじをつくろう
髙橋龍也氏のツイッターより。
という主の御言葉を受けた迷える子羊たるtatararakoは、
アヘン(神の薬)+神性なる珠鋼を搭載したS装備(神具)+最もノロに侵食された刀使(御神体)
という最も神々しい組み合わせによって、神の御言葉を述べる巫女として相応しい御姿になった夜見氏が御生誕致しました。