113話を投稿させて頂きます。
人間だけがこの世で苦しむため、笑いを発明するほかなかったのだ。
――――ニーチェ
「くっ!……真希と舞衣達はあの“人型の荒魂”を相手にしろ。私はあの生命を模した荒魂を討伐する!!」
紫の声で我に返った舞衣と沙耶香、そして真希は紫の指示通りに動く。
そして、真希は八幡力の力で石礫を投擲して注意を向けさせると、沙耶香は夜見の真横へと移動し斬り掛かるが、夜見は先程出した赤子の荒魂を盾にして沙耶香の攻撃を防ぐと共に赤子は沙耶香に斬られたことで悲痛な産声で沙耶香を動揺させると、沙耶香の攻撃の勢いは削がれてしまう。
「……うっ!?」
それだけでなく、人の感情と温かさを理解し始めていた沙耶香にとって、赤子の荒魂の産声は心を揺らがせ、そして不安を抱かせるにへ充分であり、心を乱れさせると、沙耶香を動揺させるのには充分な声であった。
そのため、沙耶香の精神は不安定となり、早くこの地獄から抜け出したいと気が逸ってしまい、その結果、沙耶香の御刀の軌道が単調となり、攻撃一辺倒と成り果ててしまったことに沙耶香は気付かぬままであった。
そのため、薬によって反応速度が強化された夜見にとって、そんな単調過ぎる攻撃は容易く躱せるものであった。
「沙耶香ちゃん!一旦、後ろに下がって!!」
それだけでなく、沙耶香は舞衣と事前に決めていた連携、沙耶香が囮となり何合か打ち合った後に後ろに下がると沙耶香の後ろに隠れていた舞衣の居合で片を付けるという連携を沙耶香は精神が不安定になったことで忘れてしまい、ただただ気が逸る思いのままに御刀を振るっていた。
赤子が泣いている声は、人を不安にさせる効果があり、こういった精神を揺さぶる攻撃に使われれば、人は正常な判断をすることが難しくなっていくものである。そして、焦燥感と不安に駆られる感情に心が満たされ、それに心が支配されてしまえば、他者の声も聞こえにくくなるうえ、思考と視野の幅が狭まってしまう。
……そうなってしまえば、
「ぅぐっ!」
単独で突出した形となってしまう。
そんなふうに単独で突出してしまった沙耶香は、この赤子の荒魂を産み出す夜見との戦闘を早く終わらせたいという気持ちが先走ってしまったことにより、夜見に対して猛攻を続けるが、その猛攻に夜見は後ろに下がり始めたため、沙耶香は自身の猛攻に気圧されたのだろうと単調に判断すると、そのまま力押しで押し切ろうとしていた。
しかし、これは夜見が後ろに下がることで、より沙耶香を奥深くへと誘い込むことで更に沙耶香のみを突出させ、沙耶香を舞衣や真希といった他の仲間から孤立させることで各個撃破を狙った夜見の作戦であるということに沙耶香は気付かなかった。
そして、そのまま誘われていることに気付くことなく、沙耶香は更に押し切ろうと猛攻を続けると、止めを刺すべく沙耶香は大きく御刀を振り上げて、夜見に向けて力強く振り下ろそうとする。
――――しかし、沙耶香が夜見に向けて振り下ろした御刀妙法村正は何か固い物に当たったかのような音を発すると、妙法村正は夜見の身体に届くことなく、斬ることなく弾かれるのであった。
夜見は第五段階の金剛身を使って、沙耶香の渾身の一撃を防いだのだ。
沙耶香は渾身の一撃を防がれたことで、大きな間と言うべき隙が出来てしまう。その隙を突く形で夜見は、沙耶香の写シを突いたまま、沙耶香を御刀ごと片手で持ち上げると紫の方へと投げ付ける。
写シを斬られ、投げ飛ばされたことで気を失った沙耶香に紫をぶつけることで、紫の行動を阻害。こうして、残った舞衣と真希を各個撃破すべく夜見は舞衣から近付くのであった。
そのため、舞衣は夜見と真正面から対決することとなり、急に夜見の左腕が触手の様に伸び、真っ直ぐにこちらへと向かって来たことに虚を突かれた舞衣は、慌てながらも夜見の腕を弾くか、斬ることで左腕だけでも斬ろうとしていた。
「たぁっ!!」
裂帛の気迫の声と共に、舞衣の剣の軌跡は美しい弧の一閃を描くが、舞衣の放った渾身の刃は夜見に届くことは無かった。
何故なら、第五段階の金剛身によって刃は阻まれたからである。
そして、舞衣の第二撃が来る前に、振り抜いてしまったことで伸びきっていた舞衣の腕を先程触手の様に伸ばしていた腕で抑えることで舞衣の第二撃を防いでいた。そのうえ夜見の右腕、御刀を持つ右腕はフリーであったために容易く舞衣の写シを何度も突いて剥がそうとする。
「うっ……ぐぅっ!!」
舞衣は夜見の攻撃を何度も受けたが、気を失うことなく写シが剥がれるのを堪えていた。
そうこうしている内に真希が舞衣の援護へと向かうが、夜見の触手の様に伸びた右腕は、御刀を変幻自在な動きをしながら迫るため、真希は容易に夜見に近付くことができなかった。
それに、夜見は第五段階の八幡力を使っているのか、真希の鋭く重い一撃も難なく受け止め、第五段階の八幡力を使える真希に対しても力負けしなかった。
真希と夜見が打ち合っているのを見た舞衣は、その隙に夜見に一撃だけでも加えるか、金剛身と八幡力を同時に使えないことを知っていたがために、金剛身を使わせることで斬り結んでいる真希の援護をしようとし、夜見に突きを放つのであった。……しかし、夜見は舞衣の突きを金剛身を使うことなく身体で受け止めていた。
「!……抜けないっ!」
舞衣は、夜見の肉を裂く感触を御刀孫六兼元を通じて感じていたが、今の夜見を市街へと向かわせないようにするのが先決であると判断し、罪悪感を堪えながら、どうにか意識を強く持って、必死に夜見を止めることを優先して行動していた。
……八幡力と金剛身を同時に使えないことを知っていたが故に、舞衣は夜見に金剛身を使わせるために斬り掛かったのだが、まさか金剛身も写シも使わずに身体で受け止めるとは思わなかったため、舞衣は驚愕していた。
そして、舞衣は知らないことだが、夜見は荒魂だけでなく薬によって痛覚を遮断されているために金剛身も写シも使わずに身体で舞衣の突きを受け止めることができたのだ。
「切っているのか!」
真希は、夜見が第五段階の八幡力と金剛身を使っていること、S装備を装着していることから一年以上前の事件にて騒がしたあの珠鋼搭載型のS装備を装着しているのだろうと判断し、舞衣の攻撃は珠鋼搭載型のS装備に搭載されている機能、自動制御で第五段階の金剛身が発動され、弾かれると思っていた。そして、発動さえしてしまえば、八幡力と金剛身を同時に使用することはできないという隙を突くように真希は第五段階の八幡力の力を加えた力強く、そして鋭い一撃を夜見に与えて、制圧しようとしていた。
しかし、金剛身は発動することなく、夜見は己の身体で舞衣の一撃を止めていた。
つまり、夜見が着用するS装備は着用している者をサポートする機能、第五段階の八幡力と金剛身を自動制御で発動する機能が切られているのだろうことが分かった。
そして、舞衣と真希の連携を凌いだ夜見は、舞衣に頭突きを食らわせ、御刀から手を離させると同時に昏倒させ、そのまま八幡力で跳躍で真希から離れると、紫の許へと向かおうとした。
「ユカリサマの……名を名前を騙るニセ偽偽物めえええぇぇぇ!!」
「紫様っ!!」
そうして、夜見は孫六兼元を引き抜いて真希に投げると、雄叫びを上げながら紫に迫って行くのであった。
夜見が雄叫びを上げながら紫に迫って行く姿を見た真希は援護に向かおうとするが、今の舞衣の置かれている状況が見えてしまったため、中断する。
舞衣は今、頭突きを食らったことで御刀孫六兼元を手許から失っており、そのうえ夜見は何時出したのか赤子の荒魂を出しており、その赤子の荒魂が御刀を手に持たず、気を失っている舞衣に少しずつ近付いているのである。
(……紫様。すみません!!)
舞衣の危機を見てしまった真希は、舞衣を見捨てることは出来ず、紫を後回しにして、舞衣の救援を優先して向かうのであった。
そのため、紫は夜見と一対一で、且つ起き上がったものの写シが張れないほどまで衰弱した沙耶香を守りながら戦わねばならないので身動きがあまり取れない状況で戦わなければならなかった。
そうして紫は、二度ぐらい夜見と打ち合うと、一瞬の隙を捉え、夜見の顔面に覆われているノロに御刀の斬撃を加えることに成功する。しかし、夜見の額を狙った一撃であったが、夜見はすんでのところで躱し、代わりに顔を覆うノロが剥がれ、夜見の顔を拝むことができた。
「あ……ア、ああ………アアア……。」
涙と鼻水を滝のように流し、接点の無い瞳をさせながら嗤うという夜見の表情を紫は見ることになる。
そして、紫に見せた夜見の表情は重度の、そして命の灯がもう長くはない末期の薬物中毒者特有の表情であったことを紫は知る由はなかった。
何も知らぬことは最も幸福である。
西洋の諺にて『知らぬが仏』と同様の諺である。……しかし、本当に幸福なのだろうか?あるいは仏のように澄んだ心に昇華するのだろうか?
その証拠に、夜見の表情を見た紫はたじろいでしまう。
ノロのアンプルによって、夜見はこのような姿になったのだと。
そのノロのアンプルを完成させたのも投与させたのも、紫であるのだと。
それだけでなく、そのノロのアンプルを親衛隊に投与することにしたのは自分であると。
そして、それらを思い出すと紫は、夜見に対して罪悪感を起こし、迷いを生じさせると、紫の平常心は崩されていった。
紫の平常心が崩されれば、紫の心技体は乱れ、紫が持つ御刀の太刀筋は鋭さを失い、二天一流が描く切っ先にも迷いが生じてしまう。
太刀筋に鋭さが失えば失う程、切っ先にも迷いや躊躇いが生じれば生じる程、薬で反応速度が上昇している夜見には通じにくくなるのである。
そのため、紫の二天一流による二つの刀の攻撃を夜見は躱すことができたのであった。
そして、紫の躊躇いがちな攻撃は、強化された夜見に対して、隙を提供するだけのものになったのである。
(……動きが読み辛いっ!!)
珠鋼搭載型のS装備の恩恵により、第五段階の八幡力と金剛身が使用することも厄介だが、それだけでなく、夜見は手足が自由自在に伸びることで身長の縮尺が自由に伸び縮みもできるのである。
とすればどうなるか?夜見の手足が伸びれば伸びるほど間合いが変わり、攻撃可能範囲を自由に変えることができるだけでなく、移動中に都市伝説のスレンダーマンの様に手足を長くしたり、元の手足の長さに戻るという急に身長が伸び縮みすることで紫の遠近感を狂わせると同時に、上下に揺れながら動くとしか言いようのない奇妙な動きに流石の紫も捉えることができなかった。
「くっ!」
そのうえ、急に左足だけを長い触手のように急に伸ばした反動だけで、迅移を使ったのではないかと錯覚するほどの速度を得ると同時に突き技を紫に対して放っていた。
……これが、先程エレンと薫に接近する際に、迅移と見間違える程の速度でこちらに接近することができたマジックの種であった。
単に後ろ足となる部分だけを伸ばし、そのバネの力を八幡力も加えて利用することで速度を上げていたに過ぎないという単純な物であったが、相手が対面していれば夜見の伸びた後ろ足が有る背後まで見えないがために、迅移と見間違える程の速度で急速に接近することができると思わせる詐術的な技でもあった。
そして、薫に対して行っていた時は、まだ荒魂と薬で強化され、伸び縮み可能な手足となった身体に馴れていなかったため、薫への攻撃をエレンが金剛身で遮ることができたが、可奈美達との戦闘によって徐々にその強化された身体に慣れ始めることができた。
その結果、移動と同時に手足を伸ばしたり、縮ませたりするという相手の遠近感を狂わせ、奇妙な動きで翻弄するということが可能となり、タイミングを合わせて手足を伸ばすことで更に速い突きを放てる様になったのである――――。
そのため夜見の突きを見た紫は、御前試合で見せた姫和の『ひとつの太刀』を想起させる程の凄まじいものであった。
大荒魂と分離したことで龍眼を失った紫は、姫和の『ひとつの太刀』と同等の速さである夜見の突きをまともに受け、写シの上とはいえ、肋骨が折れる感触と御刀に突かれた感覚を受け、紫は写シを一回分失う。
それだけでなく、夜見の突きを受けてしまったことで吹き飛ばされてしまった紫は、何とか写シを再度張り直すものの、樹木にぶつかってしまったことで、背骨が折れる感触を受けると再度張り直した写シも使い切ってしまい、起き上がることもままならない程に体力を消耗してしまっていた。
「寿々花!増援を寄こしてくれ!!」
『……既に予備部隊を含めた米村 孝子の部隊もそちらへ向かうよう指示しております。』
「よくやってくれた!!」
力を失い、片膝を付く紫の姿、気を失い倒れたままの薫とエレン、それに舞衣と姫和という状況を見た真希は、赤子の荒魂といった事を考慮すれば形勢はこちらが圧倒的に不利であることは明白であるため、大声で寿々花に増援を送るようにと叫ぶと、既に寿々花は即応部隊を整えていたようであり、救援に向かわせている最中であると返答していた。
とはいえ、作戦指揮権を預かる真希に無断で寿々花が勝手に予備の部隊と米村 孝子の部隊を動かしたというのは、寿々花の性格を考えたら確認はするものであるだろうと真希は考え、疑問に思った。
それに、米村 孝子の部隊はタキリヒメの警護を担当している部隊の筈である。
この時期に市ヶ谷の警護をする部隊を薄くするのは、タキリヒメの身が危うくなるということでもあるため、市ヶ谷周辺の警護を任されている米村 孝子の部隊を動かすべきではないということは寿々花は重々理解している筈なのに……と真希はそこまで考えるが、直情径行気味である自分よりも冷静な判断が下せる寿々花が、何故このような事をしたのかは不明ではあるものの、増援を要請した自分がその増援を却下する訳にもいかなかったし、それに危機的状況であり、救援を欲していたことは間違い無いため、特に咎めることもせず、今は仲間を疑うべきではないだろうと思考を切り替えると、急な要請に応えてくれた寿々花を称賛していた。
とはいえ、疑問に思うことはあれど迅移を使って、急いで紫の許へと向かうのであった。
(……可哀想だが、斬り伏せる!!)
そう思いながら真希は、そのまま夜見の背後を斬ろうとするが赤子の荒魂が真希の行動を遮るように夜見の前に躍り出て来た。
「…邪魔だ!!」
しかし真希は、そう短く切り捨てると何事もなかったかのように赤子の荒魂を難なく斬り伏せる。
……だが、罪悪感を感じることなく斬ることはできなかったのだろう。その証拠に真希は罪悪感を打ち消そうとしたのか大声で叫び、赤子の荒魂がノロへと還る瞬間を横目で見てしまっていたのだ。
(……済まない。)
荒魂は生命を模しただけの存在である。
……だが、例えそうだとしても、赤子の荒魂に対して真希は謝罪をしていた。いや、謝罪しなければならないと思った。
もしかしたら、この赤子の荒魂は夜見が産み出したものではなく逃げ遅れた登山客の女性が荒魂化させられ、そこから産み出されたものである可能性も考えられる以上、助けられなかった命に対して謝罪すべきだろうと真希は考えた。この作戦の指揮権を預かる立場上、赤子の荒魂に対して謝罪したり、涙を流したりして部隊の士気を下げる様な発言をする訳にはいかないので、心の中で謝罪するに留めた。
……しかし、まだ夜見の間合いの外であるからと、夜見から目を離したことが勝負の分かれ道であった。
何故なら、既に夜見の御刀が真希に迫っていたからである。
真希は、夜見が手足を伸ばせることを忘れていたため、真希は写シの上ではあるが、左腕の手首から先を失ってしまう。しかし、写シのお陰で実体にダメージは無かったが、両手が使える夜見の力に負け、圧され始める。
(ぐっ!……圧される!!)
真希も第五段階の八幡力を使用できるが、夜見が荒魂の力と薬によって疲れが生じないために普段以上の力が出たこと、そのうえ、真希の左腕の手首から先が失っていることで両手で御刀を持つことができなかったことも起因していた。
そのため、真希は再度写シを張り直すことで御刀を両手で持つことでどうにか押し返すと鍔迫り合いに持ち込むのであった。しかし、写シを再度張り直したことで真希が使用可能な写シの回数は、一回のみとなってしまったのである。
そして、夜見は急に飛び上がると、真希の頭上で振り下ろす形で迫って来るのであった。
それを見た真希は、空中では自由に動けないと思い、チャンスだと思ったために空中に居る夜見に一撃を与えようとする。
――――しかし、夜見はそれを見越していたのか、足を触手の様に伸ばして、地面にぶつけて軌道を変えることで真希の一撃を躱すのであった。
そうして真希の一撃は空振りに終わったことで隙だらけとなり、その隙を突く形で夜見は真希の写シを斬るのであった。
「ぐはっ!!」
そうして、真希は転げ回りながらも、写シを張れない程に体力を消耗していても尚、どうにか立ち上がろうとしていた。
「こっちだよ!私の捕獲任務は!?」
真希達が倒れたことに可奈美は、どうにか真希達に危害が襲われないようにするため、囮となるべく斬り掛かるのであった。
だが、写シを斬られたことと、赤子の荒魂を相手にしたことで心身の消耗が激しかった可奈美は、最短で蹴りを付けるべく夜見に対して大きく振り被りながら斬り掛かる。
可奈美の大きく振り被る所作を見た夜見は、気持ちが逸り、渾身の一撃で早期に片を付けようとしたのだろうと分析したのか、袈裟斬りで応じようとしていた。……しかし、可奈美の狙いは力押しでは無かった。御刀同士がぶつかる音を鳴らせると、そのまま、寿々花が得意とする御刀を巻き上げる技を使って、夜見の右腕を斬るのであった。
これで、夜見は右腕を失うことで御刀という攻撃手段を失い、殺すことなく夜見を捕らえることができると思っていた。
――――しかし、
「なっ!?」
夜見は臆することなく可奈美に接近すると、残った左腕で御刀千鳥を掴むとノロの力で無理矢理御刀の力を引き出したのである。
そうして、夜見は斬られたままの右腕で可奈美の右胸を殴りつけた。
「ぐっ!?」
写シの上とはいえ、右胸を殴りつけられ、右の肋骨が折れる感触がするのは不快であり、可奈美の心身を更に摩耗させるには充分な効果を発揮していた。その証拠に、可奈美は吹き飛ばされると同時に写シは解けてしまう。
「!」
それだけでなく、夜見は写シを張っていない可奈美に止めを刺すべく、夜見は斬られた右腕を伸ばして御刀に巻きつけて持つと、可奈美に対して御刀を振り下ろそうとしていた。
夜見が自分に向けて御刀を振り下ろそうとしているのを見た可奈美は写シを張り直し、鍔迫り合いに持ち込もうとするものの、第五段階の八幡力の力に敵う訳もなく後ろへと吹き飛ばされると、写シが解けてしまう。……そのため、可奈美は写シを張る力も無い程に消耗しているのか再度写シを張ることはなかった。
舞衣も姫和も倒れ、沙耶香と紫、それに真希と可奈美はどうにか立ち上がろうとするものの、写シを二回も斬られたことで体力の消耗が激しく、立ち上がるのも困難だという状況となったことにねねは呆然としていた。
……このままだと、倒れている薫とエレンも何れは!
「ね……ねね…」
そして、ねねは気絶をしている薫を見て決意する。
「ねね…ね!」
嘗ての姿へと戻ることに。
「――――!!!」
大きな雄叫びと共に、嘗ての姿、巨大な鵺のような姿となることに。
そして、雄叫びに反応してか、薫は目を覚ましてしまう。
「…ね……ねね……。」
薫はねねが嘗ての姿に戻ったことを咎めようと、立ち上がろうとするが力が入らず、立ち上がることすらままならなかった。
そして、可奈美を救うためか、夜見へ突っ込んで行く。
……しかし、嘗ての強力な荒魂の姿に戻ったとはいえ、珠鋼搭載型のS装備を身に纏った夜見に敵う訳が無く一方的に斬られるだけであった。
「…ねね……ねね!……もういい……もう逃げろ!!」
薫の叫びは、願いは届くことはなく、嘗ての強大な荒魂の姿へと戻ったねねであったが、珠鋼搭載型のS装備と荒魂の力で強化された夜見に敵う訳も無く、一方的に打ちのめされた後、薫と夜見の間を遮るように倒れていた。そして、息も絶え絶えなのか、ねねの息遣いが薫の耳にも届いていた。
「くそ……ねね!!」
ねねを助けようと必死で立ち上がろうとするが、足に力が入らない。
「あああ荒魂をオヲ殲滅……します。」
夜見はねねのことを荒魂と言って、討伐しようと御刀を左手に持ち替えると振り被っていた。
――――そして、夜見は振り下ろすものの、夜見の御刀はねねに届くことは無かった。
ニッカリ青江がそれを遮ったからである。
そして、優の姿を見た夜見は警戒したのか、後ろへ飛び下がるのであった。
神様の授かり物=赤子
禍神=荒魂
御刀=神性を帯びた刀
刀使=神薙ぎの巫女