【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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116話を投稿させて頂きます。

奥田美和子氏の『ぼくが生きていたこと』を聴きながら書いてました。
    
   


荒魂の力を頼った刀使

   

   

   

――――優が夜見をノロごと自身の体内へと吸収したとき、麻薬とノロによって侵された肉体という枷を失った夜見は魂だけの状態とも言うべき者になったため、荒魂を体内に受け入れる前の髪の色である黒髪となり、麻薬で精神が侵される前の姿でタギツヒメ達の居る場所へと向かうことができた。

そして、優の中へ向かったことで夜見はタギツヒメだけでなく、結芽と再会することができた。

 

『……夜見おねーさん。』

『……見ないでください。』

 

しかし、夜見は目の前に居る結芽から逃れるように膝を抱え込んで蹲っていた。

 

『……私は……私は裏切り者ですから。』

 

夜見はソフィア達の甘言に乗って、真希と寿々花を虚偽の罪状で捕まえる工作の手助けをしたこともそうだが、丹沢山周辺でノロの力を暴走させ暴れたこと、何よりもソフィア達を手助けした結果として結芽を放置し、心身を摩耗させ、最終的には結芽を“荒魂の力を頼った刀使”として悪名を広めてしまったことに罪悪感を強く感じ、目の前に居る結芽から逃れるように膝を抱え込んで蹲っていた。

 

『燕さん、私は獅童さん此花さんを裏切っただけでなく、貴女にまで"荒魂の力を頼った刀使"という汚名を被せてしまったんです。』

 

夜見は告げる。真希と寿々花を裏切っただけでなく、結芽の名を汚すことをしてしまったと。

 

『……それに、私は本来なら刀使にすらなれない落ちこぼれだったんです。本来なら親衛隊に入ることすら許されないんです。いや、刀使と名乗ることすら許されない。……ですから、本当は貴女達に会う度に何度も騙していた酷い女なんです。』

『……それは!……その。』

 

結芽はどうすべきか悩んだ。やっと会えた夜見に何を言えば良いのか分からなかったからである。

しかし、そんな悩む結芽の手を温かい手が包んでくれた。

 

『あ、あのさ。……手が震えてたからさ。』

 

結芽に気のあるジョニーが結芽の手を掴んでくれたのだ。

 

そしてジョニーは、緊張しているのかしどろもどろになりながら「手が震えていたから」と手を握ってくれた理由を語ってくれたのであった。

 

そして結芽は、後ろを振り返ると気付いた。……私を認めてくれたミカやニキータ、それにタギツヒメが居たことを思い出すことができた。

 

(……そうだよ。探してたものは、すぐ近くに在ったんだよ。かっこつける必要なんてなかったよ。)

 

結芽はそう思うことで、自分が夜見に向けて何を言えば良いのか自然と分かったような気さえした。

 

……だから、夜見にこの言葉を贈らなければならなかった。

 

『夜見おねーさん。』

 

後ろを支えてくれるタギツヒメ達といった人と荒魂とか生まれに関係なく友人と呼べる者が居たからこそ言える言葉。……それを紡ぐ。それを謡う。

 

『何言ってるの!……私はそんなもの気にしていないよ!』

『……でも、私は貴女を……。』

 

あなたが私にくれたもの、あなたが私にもたらしてくれたもの、その全てを吐き出すように謡う。

 

『夜見おねーさん間違っているよ。いつも思っていた私が欲しかった物は…夜見おねーさんが思っている物じゃないよ……。』

 

結芽は答える。

本当に自分が求め欲したものを、自分の意志で、己の想いのままに、ノロを受け入れたあのときから何一つ変わらない答えを自らの声に乗せて出した。

 

『……夜見おねーさんが……ううん、みんなが私のために"荒魂の力を頼った刀使"にして私を……もっともっと私をすごくしてくれたから、誰も真似できないことをさせてくれたから……みんなの記憶に私のことを“荒魂の力を頼った刀使”として焼き付けることができたんだ!!』

 

涙を堪えるため、拳を強く握り締めながら結芽は答えた。

 

『もうみんな私のことを“荒魂の力を頼った刀使”として憶えていてくれているんだよ!!』

 

今まで傍に夜見や親衛隊の皆が居てくれたから、私の剣術を使って勝ってくれた優が居てくれたから、手を握ってくれるジョニーが居てくれたから、私の剣術が強かったと認めてくれたミカが居てくれたから、紫に取り憑いていた大荒魂が怖がっていることに気付いたニキータが居てくれたから、仲間だと認めてくれたタギツヒメが居てくれたから、私の中に居る荒魂が今まで命を紡いでくれたから少しの間だけ生きることができてタギツヒメといった友人達に恵まれ、それだけでなく夜見や相楽学長といった支えてくれた人が居たから……もうパパやママに会えない一人ぼっちの子供じゃなくなったから強く言える。

 

今の結芽にとってみれば、今までの夜見の行動は、掛け替えの無い友人と、自らが欲した人の記憶に焼き付けたいという願いも、何もかも全てを与えてくれる結果となって終わったのだと力強く答えた。

 

『それを私は何一つ悪い事だって思わない!今の私は言えるよ!!』

 

昔の私なら「私、戦いに荒魂なんて1ミリも使ってないもん!これはぜーんぶ私の実力なの!」と荒魂の力を使ったことを否定しただろう。自分一人の力であると吹聴したであろう。

だけど、そんな些末なことなど、今はどうでもいいようにすら感じる。いや、むしろ過去の私は何て浅慮だったのだろうと恥ずかしさと後悔すら感じるようになり、結芽は夜見だけでなく、タギツヒメ達にも向けてこう答えるのであった。

 

もう“荒魂の力に頼った刀使”であることを否定したくないと。

 

否定してしまえば、こんな私でも友人となってくれたタギツヒメ達を否定してしまうことになるから、否定したくなかった。

 

『みんなが居てくれたから、私は"荒魂の力を頼った刀使"として、みんなが私のことを憶えてくれたんだよ!!だから、私はそれでいいんだよ!!私がいつも…本当に望んでいたことは憶えていてくれていれば、それで……それで良いんだよ!!』

 

結芽は強く吼えた。

 

「憶えていてくれさえいればそれで良いんだよ。」という言葉を出すだけで、心から力が溢れていき、結芽は力強く吼えることができた。

 

今の結芽にとってみれば"荒魂の力を頼った刀使"という渾名は、自分が望んでいた、みんなが憶えていてくれることを叶えてくれるものだと。

……だからこそ結芽は答える。結芽にとって"荒魂の力を頼った刀使"というのは不名誉なことではなく、自分自身が最も望んだことをみんながくれるようにしてくれたものだと。

 

だからこそ結芽は、夜見だけでなく、後ろに居るタギツヒメ達にも自分が望んだものは手に入り、救われたのだと力強く答えたのであった。

 

『……燕さん。』

『だって私は、折神家親衛隊第四席の燕 結芽で、親衛隊の中でも一番強いんだもん!!だったら、私も"荒魂の力を頼った刀使"の中でも、今一番強い夜見おねーさんよりも強い刀使にならなきゃダメだよね!!』

 

自分は親衛隊最強と名乗っている以上、“荒魂の力を頼った刀使”の中でも最も強い夜見よりも強くならなくてはならないと、結芽は無垢な子供の様に齒を剥き出しにした笑顔で、夜見に向かってピースサインをするのであった。

 

結芽の"荒魂の力を頼った刀使"も等しく刀使であるという言葉を聞いた夜見は、瞳から雫が頬を伝い、零れ落ちていったことに気付かなかった。それだけ夢中になるほど結芽の言葉を聞いてしまっていたから。

……何故なら、私を刀使にしてくれたのは高津学長であり、もう一度刀使にしてくれたのは目の前に居る結芽だけなのだから、それだけに心が惹かれ、感動したのだ。

 

――――ノロを体内に入れること。

 

それは醜く歪んでいて、茨だらけで、人の節理として外れた道であることは理解していた。……だが、夜見はそれでも辞めなかった。

落ちこぼれの私に力を与えてくれた高津学長に少しでも恩を返したかった。この冥加刀使の研究で壊れてしまった高津学長を無視することはできなかった。

 

だからこそ、私はこの冥加刀使の力を使って証明したかったのだ。……どのように証明したかったのかは分からないし、形すら見えなかったが、それに向かって進んでいた。

 

だが、高津学長が行っていたことは間違いではないと、今ならハッキリと言える。

 

今まで孤独だった結芽が、同年代の友人と荒魂すらも替えようが無い友人と呼ぶだけに留まらず、荒魂の力を頼ることは不名誉なことではないとハッキリと言うその姿は、本当に幸せそうに答えていたのだ。だから私もハッキリと言えるのだ。

 

(相楽学長。高津学長。……燕さんはきっと幸福でした。無念はあったでしょう。それでも彼女は舞台に立つことができました。そして彼女と私はかけがえのないものを手に入れましたよ。……高津学長。学長が行ったことは確かに今……目の前の人を救いましたよ。)

 

高津学長が行ったノロと人体の融合の研究は、"荒魂の力を頼った刀使"である結芽と、今の私を救ってくれたと本心から言えるのだから――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――夜見との戦闘が終わり、夜見ごとノロとして吸収した優は、夜見と結芽の会話を聴き、笑みを浮かべながら立っているだけだった。

 

……そして、歩と可奈美達が見ていた優と夜見の死闘の終着点は、夜見は優に倒され、そして夜見は優に吸収されることで、後に残ったのは右腕が無く、口の周りと身体が紅い鮮血で染まった姿で静かに笑みを浮かべ、ただ嗤う顔をしていた優の姿。

 

その優の威容な姿に誰もが口を噤み、誰もが人外であるかの様な視線を向け、恐怖を抱くのであった。

そんな中で、紫は冷静に優にあることを問うのであった。

 

「自我を保てるか?それを抑え込めればこれで終わりだ。」

「だいじょうぶー。」

 

脳内麻薬を多く分泌させたことで酩酊状態となっている優は、紫の問いに対して妙に間延びした返答をしていた。

 

「……もし、できそうにないなら私に言え。私と共に隠世の果てに行こう。それで全てを終わらせることができる。」

「うーん、じゃあさ、今それやろうー。」

 

紫の隠世の果てへ行こうという誘いを二つ返事で今、この場でやろうと返答していた。

その威容な行動に違和感を感じた紫は、

 

「……いや、まだ耐えられるなら今すぐ行う必要はない。隠世に行けばもう可奈美達にも会えないし、隠世に居る荒魂に怖い思いをしたくはないだろう?」

 

隠世の果てに行けば、可奈美達にもう会えないこと、怖い荒魂が沢山居ると諭すことで踏み止まらせようとする。

 

「ユウ!」

「…帰ろう。優。」

 

紫だけでなく、エレンと沙耶香もどうにか引き留めようと自分なりの言い方で優を止めようとする。

 

「おい、ねねと俺はまだお前に借りを返せてない。だから無茶を承知で言う。……帰るぞ。」

 

それだけでなく薫も、ねねを理由にしてでも、何が何でも優を引き留めようとしていた。

 

「えー、でもー、」

 

しかし、優はそんなこと気にしていないのか、紫達にこう返答するのであった。

 

「今、すっごくすっごく気分が良いんだー。何て言うかー、今テレビで出てるヒーローにも魔法少女にもなれる様な気がするんだー。だから、この気分のままで居られたらどんなことでも出来る気がするー!」

 

右腕を失い、怪しげな笑みを浮かべる優は、脳内麻薬を多く分泌したことで多大な多幸感に包まれており、言動が怪しいうえ、不気味な笑みを浮かべつつ述べていた。

 

どんな相手であろうとも命を燃やすことも失うことも賭すことも奪うことも懸けることも捨てることも弄ぶことも断つことも何もかも……全てを行うことが出来ると強い確信を持ちながら、そして嗤いながら優は薫と沙耶香に対して返答したのである。

 

そして優は、この何もかも出来ると思える心地良さのままでいれば、テレビに“写る”(“映る”が伝わりやすいが、優は何故かこっちの方が語呂が良いと思ってしまった。)魔法少女にも特撮物に出てくるヒーローになれる様な気さえしたのだ。

……そのうえ、この気分のままで隠世の果てまで行けば、ずっと隠していた昔から悩んでいた欠けた心が埋まり、満たされる様な気さえしたのだ。

 

だからこそ、優は簡単に、何の戸惑いもなく、隠世の果てへ行こうと答えるのであった。

 

「ねぇ。」

 

しかし、今まで聞いたことの無い可奈美の声を聞いた紫と舞衣達は一斉に可奈美の方へと振り向く。

 

「今の優ちゃん、強い?」

「可奈美ちゃん……?」

 

そして、可奈美は尋ねる。今の優は強いかと。

そして、その内容に驚く舞衣。しかし、それだけで何をしようとしているのか、舞衣はある程度分かってしまった。

 

「強いよね?だってあれほど強かった夜見さんを倒しちゃう程だもん。……ねぇ、手合わせお願いできないかな?」

 

そして、可奈美は提案する。右腕を失い、満身創痍に近い状態の実の弟と手合わせをしたいと。

 

「馬鹿かお前!?」

「カナミン!いくらなんでも……。」

 

その可奈美の提案に非難の言葉を投げつけるエレンと薫。

右腕を失う程の満身創痍な状態である優と手合わせする前に、先に治療が必要だろうと考えたからである。

 

「空気…読めなさすぎかな。でも、こんな強い優ちゃんと試合できるのは今しかないと思って。……だって、もう居なくなっちゃうんでしょ?」

「カナミン!!」

 

可奈美の優の居なくなる発言に、流石のエレンも非難の声を上げるのであった。

だが、可奈美は優が居なくなることを述べたとき、口元を歪ませながら述べていたため、本心ではなく、かなり無理をして言っていることに舞衣以外の誰も気付かなかった。

 

可奈美は、違う自分を装うことについてはかなり得意であったから、出来た芸当であった。

 

「……本当の事言うね。私あれからかなり強くなっちゃって、もう誰に勝っても"強い刀使"になれる気がしないんだよ。……だから、今の優ちゃんは誰よりも“強い”よね?探していた物は近くに有ったから……だから、手伝ってよ。」

「カナミン、もういいデス!本気で怒りますよ!!」

 

口元を歪ませ、無理をする可奈美は更に述べる。優が興味を引くであろう語句(フレーズ)を、嘗て約束した時に使った言葉である"強い刀使"を使って、引き留めようとした。

しかし、可奈美の過去と本心を知らないエレンは、本気で怒って、可奈美と優の姉弟同士での斬り合いを止めようとしていた。

 

「いいよー。そういう約束してくれたもんねー。」

 

だが、そんなエレンの気持ちを知ってか知らずか、優は二つ返事で可奈美の誘いを満面の笑顔で承諾していた。

 

「それで"強い刀使"になれて、僕達を救ってくれるなら別にいいよー。」

「うん、それで高いところを登れるような気がするから……全力で、思いっきり来て。」

 

可奈美の言葉と共に、優はニッカリ青江を構えると、可奈美も千鳥を構え始める。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!二人ともおかしいデス!!」

「止めないでよー。……これは可奈ねーちゃんが決めたことなんだから。」

 

可奈美と優が本気で手合わせしようとしていることに動揺が隠せないエレン。

無論、可奈美は本気で優を斬り殺そうとしている訳ではなく、負けた場合は、“強い刀使”になれなかったから、今も手伝ってほしいと言って引き留めようとしていたし、もしも可奈美が勝ったとしても、優も強くなって“強い刀使”になる様に手伝って欲しいと言って、引き留めようとしていた。

 

つまり、可奈美は勝っても負けても、優を引き留めるために手合わせを行おうとしていた。

 

熱くなる可奈美とエレン達とは対照的に、冷静に優と可奈美の二人を客観視していた姫和はふと二人の共通点を考えてしまった。

 

(……ああ、そうか、この二人は。)

 

 

姫和や舞衣といった友人には、共に逃亡劇を繰り広げるのも躊躇しない程の行動力を見せるが、その反面「じゃあ利用すれば良い。」と宣うほどの冷たさを併せ持つ可奈美。

 

タギツヒメといった信用している人間には優しく接するが、その反面、敵と認識した者にはいかなる手段を持ってしても排除するというほどの冷たさを併せ持つ優。

 

故に、両者は優しくて友達思いなのだが、その反面冷たくて自分本位。

 

 

可奈美と優は、そういう二人だったのだ。そういった部分は姉弟であるから似たのだろうか?そして、そういう二人だったからなのだろうか?私が二人に此処まで振り回されるのは……。と思い始める姫和。

 

「今まで一人で戦っていないから、ヒメちゃんと結芽おねーちゃんの力を使っても問題無いよね?それに、写シはまだ張れるの?」

「問題ないよ。……それは優ちゃんが築いた物だもの。私とはやり方が違うだけ。」

 

そうして、優は龍眼を使って、可奈美に打ちかかろうとするが、

 

(……アレ?どう打ち込んでも、打ち返される?)

 

どのように打ち掛かっても、打ち返されて負けることに優は動揺していた。

 

その理由は、右腕を失っていることで攻撃手段が狭まっていることも起因していたが、可奈美は優に“強い刀使”を理由にして立ち会いを所望したことで、純粋な剣術のみの戦いに誘導したこと、脳内麻薬を多く分泌したことで酩酊状態となったことで思考の幅が狭くなったこと、そして結芽から受け継いだ天然理心流の戦い方が非常に攻撃性が高いという特性を考え、優を“先に仕掛ける”という意識へと誘導させ、龍眼を以てしても突破口が見えないことから余計に“先に仕掛けて突破口を開かなければならない。”という意識へと固定化させることに成功した。

 

優に“先に仕掛ける”という意識へと誘導すると同時にその意識を固定化させ、純粋な剣術勝負へと持ち込んだうえ、剣術においては14年間も研鑽を積んで来た可奈美の方が一枚上手であり、そのうえ、可奈美の得意な戦法が後の先を取ることであり、可奈美と優の勝負は今のところは可奈美が優勢であった。

 

例えば、優が純粋な剣術に拘らず、近代兵器や対刀使用の矢を使うことが出来れば話が変わるが、可奈美の“手合わせ”という申し出を受けた優は剣術のみで戦わなければならならなかったため、使うことが出来なかった。

それにもし、剣以外の攻撃で仕留めてしまえば、周りの人間に非難されそうだと優は思っていたため、使うべきではないと判断していたために使えなかった。

 

(……打ち込んでたら、分かるかなー?)

 

とはいえ、時間だけが過ぎ去るのは得策ではないと優は判断すると、優は突破口を探るために斬り掛かり、可奈美の千鳥と優が持つニッカリ青江がぶつかり、剣戟の音を響かせる。

 

(………あれ?)

 

しかし、優は可奈美に続けて斬り掛かることが出来なかった。

何故なら、優の視界が突然グニャリとなると、意識が混濁し、力が抜けると同時に倒れたからである。

 

「――――優ちゃん!?―――」

 

意識が混濁しているせいか、優は上手く聞き取れなかったが、可奈美が自分の名前を呼ぶ声だけはハッキリと聞こえていた。

 

どうやら、自分は意識を失い倒れてしまったのだと優は気付くが、何故か立ち上がることも、意識を保つことも難しかった。

そうして、優は可奈美以外の声も、よく聞こえなかったし、誰が言ったか判然としないまま、それに返事をする力も、声も出せなかった。

 

「――――。――――!?」

 

それだけでなく、通信機越しのトーマスの声が聞こえていたが、何を言っているのか判然としなかった。

そして、後に聞いて分かったことだが、拘束されていた和樹は、折れた腕が内出血していたらしく、その内出血していた腕の中に蝶の荒魂を召喚することで腕関節の中を破裂させて右腕を無理矢理引きちぎると、次は足関節の中を破裂させて左膝を無理矢理引きちぎることで結束バンドで拘束されていた両手両足を解放させると同時に、蝶の荒魂を使って逃げられてしまったということを伝える通信であったが、力を失い、気を失いかけていた優には何を言っているのか聞こえなかった。

 

『真希さん!』

「寿々花!……救護ヘリをくれ!!」

 

そのうえ、悪いことは続けて起こる物なのか、通信機越しから聴こえてくる次の寿々花の言葉に真希は強く反応してしまう。

 

『市ヶ谷が……綾小路の刀使達に襲撃されました。』

 

タキリヒメの居る市ヶ谷に、ソフィアが率いる綾小路の刀使達が襲撃をしたからである。

 

そして優も感じていた。自分達のネバーランドは、シンデレラの12時の鐘が鳴り響くと同時に魔法が解けるように、崩れかかっていることを強く感じることができた。

 

 

 

ピーターパンは、親からはぐれた"子供"をネバーランドへと連れて行くものである。

そして刀使は、成人前の学生ばかりなのだから、"子供"でもある。

 

――――ならば、優はもうネバーランドに住むピーターパンではなくなるのだ。

     

    

    




    
    
「折神紫親衛隊第四席燕 結芽。四席って言っても一番強いけどね。」
――――燕 結芽 享年12歳


……何故、荒魂の力を頼ることが良くないことなの?
    
       
   
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