【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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118話を投稿させて頂きます。

"国"や"社会"について考える時期に差し迫っているなぁ……。
   
   


小さな可能性

    

    

    

――――タキリヒメの陣営はソフィアの部隊に対して、劣勢を強いられていた。

理由は、市ヶ谷を警備していた部隊の中で一線級の米村 孝子と小川 聡美の部隊が、丹沢山周辺に突如現れた荒魂の群れに対処する特別遊撃隊の支援に出払っていたため、警備の人員に手練れが居ないという非常に手薄な状態であったこと、ソフィアが率いる刀使の部隊の隊員は全員ノロを体内に入れることで荒魂の力を自分のものにして強化された冥加刀使となっていたうえ、変革派の者や折神 朱音体制に不満を持つ者もヘリや近代兵器で支援していたことで市ヶ谷を警備していた部隊よりも多いうえ、人員の数と兵の質の差の点で負けていたので、劣勢を強いられていたのである。

 

「タキリヒメ様、お逃げ下さい。我等は劣勢でございます!!」

「……うむ。援軍は?」

「自衛隊が即応部隊とヘリを用意しているとのことです!しかし、間に合うかどうか分かりかねますので……。」

「急げ。…敵は待ってくれんぞ。」

「しかし!」

「急げ!!」

「……はい!!」

 

タキリヒメは大典太を携えながら、市ヶ谷に居る部下にそう命じると、その部下はバタバタとヘリポートへと向かうのであった。

タキリヒメが市ヶ谷から離れなかった理由は、荒魂であるタキリヒメが人間を盾に逃げれば、荒魂は人間を見捨てるものだと言われ、国民への支持を失いかねないがために"逃げる"という選択肢が採れなかった。

 

「……そういう訳だ。行くぞ、美弥。」

「うん。目の前にある霧を打ち払いに行こう!」

 

部下の報告を聞いたタキリヒメは、美弥に覚悟を促すべく「良いか。」と尋ねるが、美弥は既に覚悟を決めていたのか二つ返事でタキリヒメに協力することを述べていた。

 

しかし、タキリヒメは内心、自衛隊の援護は期待できないだろうと内心思っていた。

 

恐らく、丹沢山周辺で起きた荒魂騒動はソフィア達が市ヶ谷の警護を手薄にするべく、その荒魂を陽動として利用したのだろうと看過していた。……していたが、市ヶ谷の警護の刀使を丹沢山周辺で起きた荒魂騒動に対処する刀使達の増援として送らなければ、荒魂に対する警戒心とタキリヒメに対する疑念が再燃される可能性が有るため、市ヶ谷に居る刀使を丹沢山へと送らなければならなかった……。

 

故に、タキリヒメはこの市ヶ谷の襲撃の主演は自分とソフィアであり、脚本を書いたのは真希や朱音ではなく、その補佐をする寿々花か、もしくは防衛省の陸将補である甲斐であると踏んでいた。

 

……となると、自衛隊の援軍が来ない可能性が高かった。

 

そうであるなら、市ヶ谷を放棄して逃げるのが先決であろうが、自らの本城を放棄し、敵に明け渡した大将の声に耳を傾ける者は少なくなる可能性があるうえ、荒魂であるタキリヒメが人間である市ヶ谷の者を見捨てて逃げたということが広まれば、今の国民の高い支持を失い、二度と高い支持を得ることができなくなる公算が高かった。

そういった考えもあって、市ヶ谷から逃げるという選択肢を捨てたタキリヒメであるが、本当の理由は世界の全てを支配し、目の前に在る霧を斬り祓うことを行うと決めたタキリヒメのプライドが、敵を目前にして逃げるという選択肢を取るのが許せなかった。というのが本音である。

 

そのためタキリヒメは、ソフィア達に背中を向け、市ヶ谷から逃れることを放棄した。

 

「……これが最後の戦いになるやもしれん、気を引き締めよ。」

 

そこまで考えたタキリヒメは、美弥にこの戦いが自分にとって最後になるかもしれないから、気を引き締めろと言うのであった。

 

「……何だよそれ、私と一緒に居てくれるって約束したじゃん。戦う前からそんな弱気じゃ、目の前に居る敵にも、アンタが挑もうとしてる世界にも勝てないだろ!私のことを忘れないでよ!!」

「!……そうだな。その通りだ。」

 

しかし、気を引き締めろと言ったタキリヒメは逆に美弥から叱咤激励をされる形となり、その美弥の一言からタキリヒメはハッとなると、美弥の言う通り、挑む前から負けを認めるのはこれから霧を祓いに行く者としては相応しくないと気持ちを入れ替えるのであった。

 

そしてタキリヒメは美弥の一言が切欠となって、今日死ぬかもしれないという気持ちから、この戦いに勝利するという気持ちとなり、奮起したのである。

 

(……あのヘッポコ三流刀使だと思っていた者が、我に叱咤激励を贈るほどにまで成長するとは。)

 

内心タキリヒメは、当初美弥のことを道を間違えて遭難したり、イノシシやヘビぐらいで驚く程の小心者という全く当てにもならないヘッポコ三流刀使だと思っていた。だが、今や私を叱咤激励し、奮起を起こさせるほどまで成長したのだから全くもって驚かせるものだと、つい思ってしまったのであった。

 

『ハイハイ。そーゆーのはいいから、タキリヒメって呼ぶね。』

『ブフッ……いや、知らないなら、知らないって言いなよ?』

 

……思ってしまったせいか、タキリヒメは美弥との思い出を思い出すと、そういえばコイツは荒魂である我に物怖じしなかったこと。

 

『この世の支配者になりたいアンタが最後に一人だけじゃ、刀使を一人も味方に付けていないままじゃ様にならないし、それにアンタ、外に出たときから思ってたけど何するか分からないから私も付いて行ってあげるって言っているんだよ!!』

 

それだけでなく、コイツは現世に在る全てを支配しようとする我と張り合おうとしていたこと。

 

それらを思い出したタキリヒメは、そういえばコイツ……美弥は我を他の者のように特別視したり、特段へりくだったりする訳でもなく、対等に接したり、張り合おうとしていたということを思い出すのであった。

 

そうしてタキリヒメは、美弥の言葉と行動が切欠となって、"人の可能性"というものを信じてみたくなったのか、今まで目を覆っていた物を自ら外すのであった。

 

「臣下となったお主の期待には応えねば、この現世を支配するタキリヒメである我らしくない。では美弥よ、此処に来た不届き者を軽くひねり倒しに行くとするか!」

「うん。なら見せてみてよ、私の目の前で!!」

 

そして、覆う物が無くなったタキリヒメの目に初めて映ったものは、瞳を輝かせ、何が遭ってもタキリヒメと共に歩み、共に夢を叶えようと奮闘してくれる臣下……いや、美弥の姿が映ったのである。その美弥の姿を見たタキリヒメは、この者が共に、傍に居ればどんなことでも成し遂げられるような気が不思議と思えたのである。

 

そして、自らの瞳で初めて見た美弥の姿は、どれ程の時が過ぎようとも自らの記憶から消えることはないだろうとタキリヒメは強く思うのであった。

 

だからこそ、タキリヒメは理解した。……人間と荒魂の間に新たな可能性が生じ始めていることを。その新たな可能性の力を以ってすれば、どんなことでも成し遂げられると信じて見たくなった。

故に、タキリヒメは自らが最初に述べたこの世界の支配者となるべく使った方便である"人類と荒魂が共存する社会"は、今では本気でそれが叶うのではないかと思えてしまう程に、美弥が魅せてくれた新たな可能性の力を信じて見たくなったのである。

 

(……全く、人の可能性を失うには惜しいと判断してしまう。)

 

思い通りに行かないかもしれない。人も荒魂も酷な道へと向かわせてしまうかもしれない。けれど、後悔はしたくないから、タキリヒメと美弥は強烈に残酷な世界に、たった二人の荒魂と刀使は立ち向かうべく戦場へと向かうのであった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方のソフィア達は、夜見を丹沢山にて囮にしたことで防備が手薄となったこと、手薄となった市ヶ谷基地の警備の増援として来たことを告げることで易々と基地内に入り込むことに成功し、その後は部隊を複数に分けて、ヘリポート等を確保することで敵の増援とヘリでの逃走を阻んでいたため、強襲作戦はほぼ成功したかのように思えた。

それだけでなく、ノロを体内に入れることで強化された冥加刀使にS装備を着用させることで強大となった兵の質が、市ヶ谷基地の警備として残っている二線級の刀使と自衛隊員達を圧倒していることもあって、ソフィア達は市ヶ谷に居るタキリヒメ達との戦いを優位に進めていた。……だが、彼女達にも懸念すべきことがあった。

 

それは、時間を掛け過ぎることで、自衛隊と刀剣類管理局の増援が来ることである。

そうなれば、タキリヒメとの戦闘で疲弊したところを敵の増援部隊に突かれる形となり、容易く形成を逆転される可能性が高かったため、時間はソフィア達の味方ではなかったのである。

 

「静、タキリヒメは外に出たか?」

 

そのため、今回の市ヶ谷基地にヘリで強襲し、タキリヒメを確保するという作戦にイチキシマヒメと融合することができた静を参加させる必要があり、上空に旋回するヘリの上から監視させていた。

 

「た、隊長!今の所見当たりませんっ!!」

 

ソフィアの通信に、タキリヒメが外に居ないか見ていた静が上擦った声で応答していた。

そして、荒魂と融合する力を持たない静がイチキシマヒメと融合できたのには理由があり、それは、市ヶ谷の襲撃に参加する前のことであった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――時を遡ること、市ヶ谷の襲撃に参加する前に静は、イチキシマヒメと話していた。

 

「……イチ子ちゃんどう?見つけられた?」

「ダメだ。此奴等は"愛"に耐えられず死んだ。」

 

静とイチキシマヒメは、その後も人知れず他者に電流や水を使った暴行を加え続けるという凶行を繰り返していた。

その凶行に及ぶ相手は決まって、不法入国したホームレスや就労先から逃げ、行方知らずとなった外国人不法就労者をターゲットにし、最終的に荒魂に襲われたという形で処理しているため、足が中々付かなかった。

 

それだけでなく、外国人労働者がこの5年間で延べ2万6千人程失踪しているということと、関東を中心に荒魂事件が増加したという現状も合わさって、失踪している最中か失踪した先に荒魂に襲われて死亡したものと見られたり、それだけでなく下手に捜査すれば外国人差別だの何だのと騒がれるために警察といった捜査機関は及び腰となり、静とイチキシマヒメの凶行は、結果として警察にも気付かれなかったのである。

 

そうして、今日も静が捕らえた外国人をイチキシマヒメが"躾"と称した暴力で更生させようとしたが、子供がおもちゃの人形を力加減が分からずに壊してしまうのと同様に、暴力の加減が分からない静とイチキシマヒメによって皆死んでしまっていた。

 

「うーん。やっぱり、私は不出来な娘だなぁ……。まともにお母さんやお父さんが出来た100%成功する"躾"もできないなんてね。」

 

静の言葉を聞いたイチキシマヒメは、チクリと胸に痛みが広がったが、それでも自身の存在を肯定してくれた静に、今までの"躾"のやり方は間違っていなかったと証明したいがために、静の"躾"を望む形で成功させたかったが、更生することもなく死んでしまったことで静をガッカリさせたことを悔やんでいた。

 

「……済まない。私が下手だったのだろう。」

「ああゴメン。イチ子ちゃんは悪くないよ。……悪いのは私、お母さんやお父さんみたいに上手く出来ない私が悪いんだから。」

 

そのため、イチキシマヒメは自分が不出来だったからこそ失敗したのだと話すのだが、静は暗い表情を浮かべながらイチキシマヒメに謝罪するのであった。

人を躾けることすらも満足に出来ない自分を恥じて……。

 

「…………静。」

 

悲しそうにする静を見たイチキシマヒメは、どうすれば良いのか悩んでいた。

 

ここ最近は、拷問の様な"躾"に耐えられる者が居なかったため、自身の存在を肯定してくれた静を喜ばせたかったイチキシマヒメはどうすべきか悩んでいたが、イチキシマヒメはあることに気付き、静に提案するのであった。

 

「一人一人手間を掛けてやっているからこそ上手くいかんのだ!ならば、隠世の門を開けることで隠世に居る荒魂を大量に出現させ、人と荒魂の争いを激化させることで、静の言う痛みという"躾"を乗り越える者を見つけ、手っ取り早く静の考えは正しかったと証明しよう!」

 

それは、隠世の門を開くことで、隠世の中に居る荒魂を解放させることによって現世に荒魂を大量に出現させ、人と荒魂との争いを激化させることであった。そうすることで、厳しい環境下に居ても生きて更生する人間が一人でも現れることで、静の"躾"という考えを肯定させ、静を喜ばせることができるかもしれないと考え、イチキシマヒメは静に隠世の門を開けることを提案したのであった。

 

……成功する可能性は限りなく低いが、その僅かな可能性に賭けるしかなかった。

 

「えっ!?そんなことできるの!!?」

「うむ。大荒魂である我は、広域に及ぶ荒魂への支配力、隠世への高い干渉力を有する故、隠世の門を開けることもできる。そうすれば、人と荒魂は互いに傷付くかもしれんが、それを体感することで静の考えに理解する者が増えるかもしれん。」

「な~るほど。他人を傷付けたり、痛みを感じさせることで更生させるってことだね。イチ子ちゃん賢いね!」

「フフフ、褒めるな褒めるな。」

 

イチキシマヒメの隠世の扉を開ける提案に、静は喜色満面の表情を浮かべ、イチキシマヒメを褒めるのであった。それにイチキシマヒメは、静が喜んだこと、そして自身の存在を肯定してくれた静に褒められたことに、つい破顔してしまうイチキシマヒメ。

 

「……だがな。隠世の門を開けるには我の力だけでは無理だ。それには、我が多くのノロを取り込んで、20年前の大災厄当時の力まで引き出せるようにしなくてはならん。故に、我はタキリヒメを取り込まなくてはならないのだが、我のみの力では勝てるかどうか……。」

「う~ん、そうか。そればかりは勝手に出来ないしねぇ。」

「……そこで提案なのだが、静よ、お前の力を貸して欲しい。……いや、我の力をお前に託したい。」

「?……私もそんな強い刀使じゃないけど、それで勝てるの?」

 

隠世の門を開けるためには、タキリヒメを取り込む必要があり、そのためには刀使である静と融合すべきである理由をイチキシマヒメは述べ始めた。

 

「確かに、荒魂同士の結合など足し算に過ぎん。……だが、刀使と荒魂の融合はある種の化学反応を引き起こし、力は乗算となるのだ。その乗算の力でタキリヒメを倒そうということなのだ。……しかし、」

 

しかし、破顔していたイチキシマヒメは次の言葉を紡がねばならないことを思い出すと、辛そうな表情をするのであった。

 

「しかしな、我は大荒魂ゆえ、静はその力を常に制御せねばならん。その際、激しい苦痛とノロを求める飢えと渇き、龍眼によって人を殺める光景を眺め続けねばならん。……そんな苦痛を紫は、20年間も耐え続けていたが、結局は難しそうであった。それを常人が耐えられるかどうか。」

 

静がイチキシマヒメと融合すれば、激しい苦痛とノロを求める飢えと渇き、それだけでなく未来視の能力を持つ龍眼によって人を殺害する光景を常に目にすることで精神の疲弊が著しくなるため、イチキシマヒメと融合すれば心身の疲弊は大きいと話すのであった。

 

「うーん、イチ子ちゃんも苦痛を感じるの?」

「……我は何の苦痛も感じることはない。」

 

静にイチキシマヒメも同様の苦痛を味わうのか?と尋ねられたイチキシマヒメは、自身は苦痛を感じることはないと申し訳なさそうに答えるのであった。理由は、苦痛を感じるのは静だけであるということを提案したことで、責められるのではと危惧したからだが……。

 

「……それの何が問題なの?」

 

当の静は、イチキシマヒメを責めるどころか、何が問題なのかと尋ねるのであった。

 

「い、いや、お主のみが苦痛に耐え凌がなければならんのだぞ?……それで良いのか?」

「いやだなぁ、イチ子ちゃん。私はいつもこう思っているよ。」

 

それに対してイチキシマヒメは、苦痛に耐え忍ばなければならないと忠告するが、静は至って普通にこう返答するのであった。

 

「"痛み"は神様がもたらしてくれた最高の贈り物だよ?」

 

静にとって、ノロを求める渇きや飢え、人殺しを体感することによる精神の疲弊といった苦痛など、神が与えた最高の贈り物でしかないと。

 

「……お母さんとお父さんが私を殴ったり蹴った後に、ゴハン抜きをされたとき、飢えて苦しくて辛くて辛くて生きてるのか死んでるのかよく分からないときがあったんだ。…そのとき、私の身体に"痛み"が這いずり回ったの。……そのときに、私は生きてる!生きてるんだって分かったの!だから私は神様に生きていて欲しいと言われたような気がしたんだ!!だから、私は神様にも愛されているんだ!!って思えたんだ。……だから、痛みは神様がくれた最高のギフトなんだよ!!」

 

故に、痛みや飢えを与えられても辛くはないと興奮気味に答えていた。

そのため、静はスレイド博士の協力により、イチキシマヒメと融合することができたのであった――――。

 

 

 

 

 

――――時は戻り、イチキシマヒメと融合した静は、タキリヒメの気配を感じることができるので、市ヶ谷基地周辺を旋回する上空のヘリから見ることで、タキリヒメが何処に居るかを監視することで、逃走しても追えるようにしていた。

 

「……隊長!!今、最っ高に気分と心地が良いですよぉーーー!!」

 

今回の市ヶ谷基地の強襲に参加したヘリの操縦士は、突然奇声を上げた静に驚くのであった。

このヘリの操縦士は、綾小路の管轄内に起きた荒魂災害事件によく参加していた機動隊員であり、どちらかと言うと朱音よりも紫を支持していた。

理由は、紫は荒魂による被害を最小限に抑え、世論の評価を上げた実績だけでなく、他国との協力の元に次々と新技術を開発させたという成果から、今のゴタゴタしている朱音局長代理よりも強く支持していたことと、二十年前の大災厄の元となった大荒魂の片割れであるタキリヒメを今の政府と刀剣類管理局が隠匿と保護をしていたことに義憤を感じ、今回の決起に参加したという経歴の持ち主であった。

 

……そのため、静にタキリヒメと同じ大荒魂であるイチキシマヒメが融合しており、その融合した際に生ずる苦痛に喜び、興奮して異様な行動を起こしているということを知らないヘリの操縦士は、静のことを訝しむものの、決起に参加した理由を思い出すと、考えを改めて特段気にしないようにするのであった。

 

それに、今回の決起は大荒魂であるタキリヒメに反発する血気に逸る刀使達だけでなく、二十年前の大災厄にて家族を失った者を持つ元STT隊員や旧折神 紫派の人間も参加していた。

二十年前の大災厄に出現した大荒魂の片割れであるタキリヒメを隠匿していたこともそうだが、そのタキリヒメに迎合しつつある今の社会に対しても強い義憤を感じており、彼等はヘリの操縦や銃といった近代兵器による支援を行っていた。

 

そんな彼等を今更見捨てることは出来ないし、何よりもタキリヒメが荒魂であることを忘れ、そのタキリヒメに迎合しつつある今の社会に二十年前の大災厄を含めた今まで荒魂災害の犠牲となった刀使と隊員達……被災した無辜の国民に報いるために、この狂った社会に一発だけでも打ち込もうとしていた。

 

……ヘリの操縦士は、それを思い出すと今更もう戻れないのだと実感していた。

 

この歪んだ社会に一発でも打ち込まない限りは……。

 

「たいちょー!タキリヒメを見つけましたーーー!!」

 

……その願いが叶ったのか、イチキシマヒメを取り込んだ静がタキリヒメが居る所を見つけ、ソフィア達に報告するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――だが、ブレイクスルーとなる事態が産まれたこの社会に住む者の誰もが気付くことはない。……いや、技術が発達し、豊かさが当然の享受であり、その恩恵に預かれないのは努力不足であり、自己責任と囁けば、それで解決される社会に居れば気付かないものなのだろう。

 

ノロは融合することで脳のようなものを形成し高度な知能を有しするようになり、その過程で感情が芽生えて荒魂となる。そして、全ての荒魂が最初に抱く感情は喪失感である。この餓えにも似た喪失感を埋めるためにノロは本能的に結合を求め、結合を繰り返すことで知能が発達すると喪失感は怒りに変化するのである。

 

 

この国は、この社会は、その喪失感から生じた怒りから暴れる怪物を荒魂であると説いている。

 

 

……ならば、この社会から爪弾きにされたという喪失感から生じた怒りで国会周辺で暴れた者達も、自分達を見捨てたこの社会に喪失感を感じて決起に参加した者達も、嘗て小学校に乱入し殺傷事件を起こした者も、東京都千代田区外神田区で起きた通り魔事件を起こした者も、見方を変えれば、

 

 

人の容をした“荒魂”である。

 

 

そして、この世は社会的、心理的に孤立された者の怒り。破滅的な喪失や外部のきっかけによる義憤。そういった魂や怨嗟の声が集まり、やがて“荒魂”が増え続けることで起こる“大災厄”に対して、社会はどう在るべきであろうか?そして、そういった"荒魂"達を討伐し、排除するだけの社会は終わりを迎え、どう向き合うべきか、どう立ち向かうべきかを模索するべき時ではなかろうか?

 

――――そのことに、今は誰も見向きもしないのだから。

    

    

    




    
   
悲しみというものは単独ではやってこない、 必ず大挙して押し寄せてくる。
――――シェイクスピア


喪失感から生じた怒りで暴れるのは何も“荒魂”だけじゃないんですよね……。悲しいことに。
そんな“荒魂”が跳梁することになるであろう社会は、今後は如何様に変化すべきであろうか?

あと、次回はソフィア嬢の過去の予定。
   
   
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