【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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119話を投稿させて頂きます。
   
   
   


ソフィアの写シ

    

     

 

――――とある遠い北の国にて、浮浪児達が居た。

 

その浮浪児達の仲間の一人である少女は、帰る家という物も家族と思える者も居なかった。

その少女が家族と思えない者が居る家に帰ったとしても、アルコール依存症から抜け出せない親と名乗る存在から殴られるか、外に放り出されるかだけだった。

それ故に、少女は自分と同じ境遇に居る仲間、ストリートチルドレンとも呼ばれている浮浪児達の元へと向かうしかなかった。少女にとって、其処しか暖かいと思える場所が無かったからである。

 

……しかし、その少女と仲間達は街の人間からは同じ人間としてではなく、穢れた汚物のように見られるのが関の山だった。それどころか、街から消えて欲しいとすら思われていた。

 

理由は少女でも分かっている。

 

少女が行う児童売春や仲間達がマフィアから受ける麻薬売買が原因だと分かっていた。

……しかし、少女の仲間達である浮浪児達は親が死別したか、親から逃げ出した子供達の集まりでしかなかったため、直ぐに生活苦から犯罪行為といったものに手を染めるしか生きることができなかくなったのである。

 

そんな冷たい視線と寒空の中に居た少女ではあったが、地下構内の一画を勝手に占拠した場所で仲間達と共に過ごす日々は、少女にとって親と名乗る怪物と共に過ごすよりも尊い幸福と呼べるものであった。

 

「「「おねーちゃん達、お仕事おつかれさまー。」」」

「みんなー。元気にしてたー。」

 

無論、少女が児童買春を行う理由は共に地下構内の一画の中で送る年少の者達に物を恵むためであり、自分の欲しい物のために身体を安く売っている訳ではなかった。

 

少女は、年少の者達から"おねーちゃん"と呼ばれているが直接的な血縁関係は無い。無いが、この地下構内の中で共に過ごすことで育まれた固い絆で結ばれたものから生じた関係なのだ。

 

……そして、年少の者達が"おねーちゃん"と呼ぶ存在は一人だけではなかった。その年少の子供達に声を掛けている"おねーちゃん"と呼ばれている存在は、少女よりも年上で、マフィアに面倒を見てもらっているギャングに所属する彼氏が居た。

 

「おねーちゃん。僕達も稼いで来たよ!」

 

動いているのは少女達だけでなく、年少の者達もゴミを拾ってジャンクショップに換金する等を行って僅かばかりの資金を得ていた。

 

「ただいまー。みんな元気かー?」

「「「おにーちゃん!!」」」

 

そして、この地下構内に住む子供達は年少の子供と少女と"おねーちゃん"と呼ばれる者達以外に"おにーちゃん"と呼ばれている少女よりも年上の者が何名か居た。この"おにーちゃん"と呼ばれている彼等もまた、この地下構内で少女達と共に生活する浮浪児達であり、この辺り一帯を牛耳るマフィアに援助してもらっているギャングでもあった。

そんな"おにーちゃん"と呼ばれている少年達の稼ぎは、麻薬利権で勢力を増しているマフィアの仕事を手伝って得たものである。

 

そんな子供達が寄り添って生きる理由は、この国は下から数える方が早いくらいの発展途上国であり、ヨーロッパで2番目に貧しい国なため、大人のホームレスもそれなりに居た。

 

そのため、子供一人では大人に太刀打ちできないので徒党を組んで対処しようということで集まったのだが、いつしか子供達の間に強固な絆が生まれていったのである。そんな状況下であれば、

 

「おかえり、待ってたわ。」

「ただいま、ソフィア。」

 

少女と年少の子供達が"おねーちゃん"と呼ぶ者に、彼氏と呼べる存在が一人居てもおかしなことではなかった。

 

そして、少女と年下の子供達が"おねーちゃん"と慕う者の名前は"ソフィア"であった――――。

 

 

 

 

 

 

 

少女にとって、この地下構内での日々は野草だけのスープ、拾ったパンくずを千切って細々と食べる。……それでも飢えている少女やソフィアとおにーちゃん達はシンナーや拾ったタバコで飢えを誤魔化して、年少の子供達に少しでもご飯を分け与えていたのである。

そんな理由もあって、年少の子供達はソフィアとおにーちゃん達を慕っていたし、この地下構内から離れなかった。

 

『……ずっと、此処に居たい。』

 

誰が言ったのかは分からなかったが、ソフィアも、年少の子供達も、おにーちゃん達も、少女も、いや地下構内の一画を勝手に占拠する子供達は皆そう思っていた。

 

家に帰ったとしても家族と名乗る存在にぶたれるし、そもそも家族が居なかったり、母親が貧困から逃れるべく別の男の元へと逃げ出していて孤児となっていたり、もしくは親戚から厄介者扱いされるのであれば、家に帰りたくないと思うものである。

 

確かに、ある者は家に帰れば暖かい寝床に食事を得られるかもしれない。

この地下構内には野草だけのスープにパンくず、もしくは残飯を細々と食べて飢えを凌ぐしかなかったが、其処にしかない幸せというものが確かにあった。

 

「ソフィアおねーちゃん、……それ。」

「ああ、うん。貰ったんだ。」

 

指輪を付けているソフィアを見た少女が、それは誰から貰った物なのかを尋ねていた。

すると、ソフィアは嬉しそうに彼氏から貰った物であると語るのであった。

 

この地下構内は良い物を食べられないし、安全な寝床とも言えない酷い場所かもしれない。……だが、そんな場所でも愛を育むこともできるし、僅かばかりだが幸福を掴むことはできるのだ。

 

――――幼い童心を持つ者達は、この地下構内の一画を勝手に占拠していた浮浪児達は皆本気でそれを信じていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

――――本気で信じていたのだ。

 

その数日後、地下構内に居た浮浪児達は面倒を見てもらっているマフィアとは別のマフィアとそれに雇われた別の浮浪児のグループに襲撃され、追い詰められていた。

マフィアがソフィア達の居るグループを追い詰めていた理由は、当の別のマフィアとの麻薬売買の際に発生したトラブルの報復としてソフィア達を抹殺しようとしていたのだ。

……いや、その麻薬売買の仕事を与え、今まで面倒を見てもらったマフィアもそれが望みだったのかもしれない。彼等も面倒を見ている浮浪児達を殺されたという口実を以って、麻薬売買の取引相手であった別のマフィアを潰そうと画策していた節があったのだ。そうすることで別のマフィアの支配している区域を乗っ取ろうとしていたのか、それともソフィア達の居る地下構内を奪うために行ったのかは、最早過去の話である以上知る由もない。

 

とはいえ、ソフィア達が居るグループは、マフィアと別のグループの子供達よりも数自体が少なかったがために、おにーちゃん達は前に出て全滅しており、簡単に劣勢となっていたのだ。

 

「みんな、此処に隠れているんだよ!!」

 

ソフィアに言われ、隠し部屋に隠れることにした少女と年少の子供達。

……だが、10名程居た年少の子供達は今は3人しか居ないこと、ソフィアの彼氏だった少年が居ないこと、そして銃の音が近付いてくるため、少女と年少の子供達は震え始めるのであった。

 

「……大丈夫、大丈夫だから。」

 

少女と年少の子供達が震えていることに気付いたソフィアが、優しく抱きしめ、頭をなでることで少女と年少の子供達は震えが治まって行った。

 

「お願いね。」

 

少女と年少の子供達の震えが完全に治まると、ソフィアは抱きしめることを辞め、一言「お願いね。」と隠し部屋の中に居る子供達の中では年上の少女に頼むと、少女と年少の子供達を隠し部屋の中へ隠すのであった。そうすることで、少女と年少の子供達は隠れることができたが、ソフィアは外に出たままであり、その外ではドタドタと騒がしく動く音が隠し部屋に居た少女には聴こえたため、少女は不安になり、どうにか外の様子を伺おうと周りを見たら、小さな穴が有った。

 

そのため少女はソフィア気になったため、外の様子をその小さな穴から伺おうとするのであった。すると、ソフィアと少年二名がお互いに拳銃を向け合っていた。その次の瞬間、何かがパンパンと炸裂する音がしたと共にソフィアと少年二人の身体と服は朱く染まり、立つ力を失ったのかドサリと地に倒れ伏していた。

 

少年二人は即死だったのか、倒れたまま動くことは無かった。しかし、ソフィアは、

 

「――――!――――!!」

 

獣の様な呻き声を上げながら、手を使ってでも必死に立ち上がろうとしていた。このときのソフィアは何を言っていたのか、少女と年少の子供達には分からなかったが、恐らくソフィア自身も何を言っているのか分からなかっただろう。

 

その人とは思えぬ声に反応したのか、スーツ姿の大人達。マフィアの人間らしき人が入って来たことを少女は目に入り、瀕死のソフィアもそのことに気付くのであった。

 

「――――!!――――!!」

 

人とは思えぬ声を上げ、それだけでなく人とは思えぬ形相をしながら、隠し部屋に隠した少女と年少の子供達を守るためなのか、拳銃を乱射しながら大人達に向かって走るソフィア。

……しかし、マフィアの大人達は非情にも成人前の少女であるソフィアに向けて機関銃を乱射していた。

 

大人達の機関銃の乱射を一身に受けたソフィアは、服を血という朱い水で染め上げ、口から血を多く吹き出し、そして頭に銃弾を受けたのか目玉が吹き飛ぶと、立ち上がることすら出来ぬまま、呻き声を上げるだけであった。それを見た大人達は、トドメと言わんばかりに呻き声を上げるソフィアの頭目掛けて何度も撃っていた。

 

そうして、頭が半分吹き飛ばされ、血で朱く染め上がったソフィアを、少女は震えながら、大人達に見つかって殺されないように息を殺しながら見ていた。

 

だが、少女は撃たれて血を噴き出しながらも戦うソフィアを見て、自分達を守るために獣のような声を上げて戦うソフィアを見て、そして朱い血で染め上げられた物言わぬ骸となったソフィアを見て……何故だか、そのソフィアの姿が美しいとすら思えてしまった。

 

しかし、大人達はソフィアが指輪をしていることに気付いて、それをソフィアの指から抜くと、自らの懐に入れるのであった。

それを見た少女は、それはソフィアの彼氏がソフィアに渡した物だから盗るなと言って、飛び出しそうになる衝動に駆られるが、少女と年少の子供達は殺される恐怖に震え、足が竦むと飛び出すことすらできなかった。

 

そして、それを見ていた子供達は、力が有る者は人を殺しても、尊厳すらも何もかも奪っても、何をしても許されるのだと理解し、覚えてしまった。

 

 

こうして、少女と年少の子供三人は、姉のように慕っていたソフィアと仲間達さえも。自分達の居場所すらも失ってしまうのであった――――。

 

 

 

 

 

 

 

住む場所を失った少女は、マフィアから逃れるために生き残りの年少の子供達である三名と別れることになった。

それだけでなく、少女は酷く匂ううえ、衛生環境も悪いが、思い出が詰まった場所である地下講内から離れなければならなかった。

 

しかし少女は、いつかあの地下構内に帰るために生きようと思った。だからこそ、この残酷な世界が放つ日々を生きるためには金を得る必要があった。

……そのため少女は、今まで自分の身体を売ることで路銀を得るしか知らなかった。いや、その方法しか知らなかったのだ。

 

だが、地下構内という居場所を失った少女にとって、相手をした男性からの感謝の言葉をもらっただけで、ソフィアを見捨てた自分を肯定してくれたと、良い事をしたと思うようになり、承認欲求が満たされていくのが分かった。……そんな思いを抱いたせいか、自分の価値を見つけるのは案外簡単なことではないかと錯覚するほどに心地良かった。

それだけでなく、顔が良かったお陰で少女は少女趣味を持つ金持ちの男に見受けされるのであった。

 

そうして金持ちの男に面倒を見てもらっている内に、悪阻を起こしたことでお腹の中に赤ちゃんができたことが分かると、少女は嗤っていた。

 

これで一人では無くなると、孤独では無くなると、こんな自分にも大切に思える者ができたと思った。

お腹の中に赤子ができた少女は、

 

「女の子だったら良いな。」

 

と思い、女の子だったら『ソフィア』と名付けようと無邪気に思っていた。

 

……だが、栄養不足だったせいか、その少女にとって大切なものは赤い血と共に流されていき、永遠に失ってしまうのであった。

しかし、その事実を知った金持ちの男が、少女の健康状態を診るために来た闇医者の居る病院の中で呟いた一言を少女は聞き逃さなかった。

 

「高い毒を買った意味はあった。」

 

金持ちの男の言葉で少女は全てを悟った。

 

お腹の中の赤ちゃんは、目の前の男に殺されたも同然であった。それどころか、この金持ちの男は高い毒を少女の命すら気にせず使ったところから少女が死んだとしても気にも留めなかったのだろう。

いや、むしろこの少女趣味を持つ金持ちの男は、少女を殺すことで別の少女を見受けしようと考えていたのかもしれない。

 

しかし、少女の不幸はそれだけでなかった。

 

高い毒で無理矢理に墮胎させられたことで、少女は子供が産めない身体とされてしまった。

少女が子供を産めない身体となったことを知った金持ちの男は大いに喜んでいた。……これで、遊んだとしても子供が産まれることはないと喜んでいた。

 

…………これが『生きてさえいれば幸せだ。』と言うことなのだろうかと少女は絶望していた。

 

 

――――その後、お腹に宿した赤子の命を平然と奪った金持ちの男とは一緒に居られなかった少女は、夜に金目の物を盗むだけ盗んでから逃げ出した。

 

何処へ逃げれば良いのか分からなかったが、とにかく走った。走って走って足が動ける内に走れるだけ走った。

そのときばかりは出口の無い迷宮に迷い込んだかのような気持ちを少女は抱いてしまう。

 

――――もう子供も産めない未来の無い身体に何が残っているのだろうか。

 

そう考えただけで、少女は死を選ぼうと考えた。……だが、死ぬなら、仲間達と過ごしたあの地下構内の中で死にたいと考え、少女の足は自然と地下構内のあった処へと向かっていた。

 

そうして少女は、生き残った仲間達や死んだ仲間達との再開を夢見て、その仲間達と一緒に、ささやかな幸せの中で生きていたかった。

少女はそんな夢を幻影を見ながら、少女は地下構内が在った所の近くにどうにか行けたのであった。

 

だが、其処に見知った地下構内は無く、既に地下構内は改装工事を受け、形を変えられており、その上に地下構内のために造られた鉄の塔、建造物が建っていたうえ、その建造物のために作られた店が多く並んでいた。

 

後に知ったことだが、地下構内の形を変えたのは自分達の世話をしてくれたマフィア達であり、そのマフィア達が金持ち達から資金を得るために、地下構内の改築、その上に遊技場やら住宅やらを建てたのだ。……恐らく、マフィア達がソフィア達を殺したのも、それが目的だったのだろう。

 

この国は腐敗官僚が多く居て、金持ち達から金を貰ったマフィアや警官といった者が清掃部隊となり、その清掃部隊が金持ち達の要望通りに浮浪児達を処分しているということがまかり通るほどに腐った国なのである。

 

自分達は親族にすら要らない子扱いされたり、親から逃げ出した子供達であり、浮浪児なのだ。マフィア達にとって、庇護する者が居ない浮浪児達を処分するのは、実に簡単なことだったのだろう。

 

こうして、少女は暖かい過去をくれた地下構内と暖かい未来を約束してくれる赤ちゃんを産めない身体にされてしまった。

 

……つまり、少女は過去も未来も失ってしまった。

 

その事実だけで充分だった。少女の心を壊すには充分だった。身も心もボロボロになるには充分であった。

 

そんなときに街を彷徨い、物陰に隠れて暖を取っていたとき、少女達の笑い声が聴こえた。

 

その笑い声と共に話す内容はあの店が上手いだの、あの店は愉しいだのといった他愛の無い話しであったが、3人の少女達が言う店は自分達を退かして出来た店であることに楽しそうに話す姿を見て、少女は憤りを感じていた。

 

……それだけでなく、ある一人の少女の名前が癇に障ったのだ。

 

「ねーソフィア?どこ行く?」

 

3人の少女達の一人の名前がソフィアだったことである。

 

自分が姉と慕っていたソフィアは、地下構内の利権を得るために其処に居る浮浪児を排除したかったマフィア達に殺害されたのだ。にも関わらず、その居場所を奪った店のことを語りながら、幸せそうに同年代の子供達と話す同じ名前の綺麗な服を着るソフィアが居るということが恨めしかった。

同じ星の上で生きている同じ名前の同じ人間であるのに、何故それだけの差ができてしまったのか少女には分からなかった。少女は、その事実だけで生まれ育ちが違うだけでこうも差が出るものなのかと嘆いた。理不尽だ。不公平だ……そんなのおかしいじゃないかと強く心の中で訴えていた。

 

……だから少女は、その理不尽に抗いたかった。親と境遇だけで全てが決まる世界を呪った。

そうして少女は心の中にある憤りと衝動のままに身体が動いたと思った瞬間、綺麗な服を着ていたソフィアを含めた3人の少女は頭から血を流して息絶えていた。

 

その後、三人の少女達が持っていた僅かばかりの金品を奪って、金に換えた後は直ぐに街を出た。

そうして少女は学んだ。……人から物を奪えると。全てを奪う権利が発生すると。

 

しかし、僅かばかりの金で生きていられるほど甘くはなかった。

遠い街の汚い自分には不釣り合いの綺麗な道の上で飢え死にそうになったとき、

 

「君?大丈夫かね?」

 

織田防衛事務次官に出会ったのである。

 

その際の彼は少女に優しく接してくれたのだ。……理由は、刀使という存在に彼の国は守られているため、年若い少女は出来る限り助けているとか、大災厄で死んだ人達への贖罪とかそんな話をしてくれたと少女は記憶に残っていた。そうして、食べ物や水を恵んでくれた織田防衛事務次官に少女はこう述べるのであった。

 

「……だったら私、その刀使になりたいな。」

 

少女は刀使という存在に惹かれた。その超常とも言える力が欲しかったから、その力を持っていたら地下構内で共に暮らしていたソフィアがマフィアに殺されることはなかった筈だから。

気に食わない者から全てを奪うことができると考えたから。

 

故に少女がそう述べると、織田防衛事務次官は驚いた顔をして何故?と尋ねるのであった。

 

「……だって私、両親が居なくて、大人達に子供を産めない身体にされて、未来が無いからせめて誰かのために役に立ちたいな。」

 

少女は、この男がこういった話に弱いことを理解し、両親が居ないと嘘を吐いて、自分達がマフィアの手伝いをしたことや強盗殺人に手を染めていたことを伏せて、悪い大人達の欲望のせいで子供を産めない身体にされたと話すのであった。

それを聞いた織田防衛事務次官は「そうか。」と応えると、

 

「だが、危ない目に遭うぞ?」

「良いよ、それで一人でも助けることができたら。」

「それに、日本語とか日本という国だけでなくたくさん学ばなければならないぞ?」

「良いよ、辛い事はたくさんあったけど、それぐらいなら頑張れるような気がするから。」

 

少女の決意を聞いた織田防衛事務次官は、これ以上は少女の意志を変えることは無理だろうと判断すると、少女に名前を尋ねた。

 

「そんなに刀使になりたいなら、先ずは君の名前を教えてくれないか?」

 

織田防衛事務次官に名前を尋ねられた少女は、思わず本名を名乗りそうになったが、ふとあることを思い至るとある名前を名乗るのであった。

 

「私の名前は………ソフィアって言います。」

 

地下構内で共に生きていて、姉のように慕い、私のために死んで逝ったソフィア。

自身のお腹の中に居たが、大人の黒い欲望のせいで、殺されてしまったソフィア。

そして、妬みから始まって殺し、殺した人間は全てを奪う権利があると教えてくれたソフィア。

 

少女は過去も未来も無い空っぽの人間は、自分の身代わりとなって死んだソフィアや産まれてくる筈であった赤子のソフィア、自分が殺したソフィアの身代わりとして生きて行こうとした。

そうすれば、何もない自分が生きるより、彼女達の代わりとして生きていけるような気がした。殺人も、奪うことも、奪われることも何でもできるような気がした。

 

例え私が殺されたとしても、殺した人間が私を、ソフィアを奪って生きて行くのだから、死すらも恐れなくなるような気がした。

 

これからは、この強烈に残酷な世界と共に強く生きて行かなければならないのだ。

これからは、弱い少女の名も存在自体も捨てて、私を守るために獣のように戦ったソフィア、大人に殺されてこの世を恨んでいるであろう私のお腹の中に居たソフィア、私に殺されてこの世の理不尽さを嘆いているであろうソフィアになろうとした。

 

それだけでなく、この残酷で理不尽な世界に対して、復讐を行うに相応しい名でなくてはならない。

 

――――こうして、名を明かさなかった少女は"ソフィア"の写し身のように、いや刀使となる少女は少女達の写シとして生きることを決意するのであった。

     

     

    




    
   
次回もソフィア嬢の過去の続き。
    
   

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