【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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121話を投稿させて頂きます。


御刀とは――――
神性を帯びた稀少金属・珠鋼を精錬して作り出された日本刀。隠世と呼ばれる異世界より、様々な超常の力を引き出し、もたらすが、それは刀使にしかできない。荒魂に対抗できる唯一の武器でもある。

――――アニメ公式ホームページより。

    
    


御刀

    

    

    

――――一方、タキリヒメと美弥は。

 

「ゼェー、ハァー、どんだけ居るんだよコイツラ!!地味に強いし!!」

「……恐らく、ノロを取り込んで強くなっておるのだろう。」

 

美弥は、タキリヒメが特訓を施してくれたお陰か、肩で息をしながらもどうにか冥加刀使を三人ほどではあるが倒していた。

しかし、それとは対称的にタキリヒメは美弥よりも倍の数の冥加刀使を倒しているにも関わらず、疲れを見せることもなく平然と立っていたのだから、やはりタキリヒメは大荒魂の片割れであり、それ相応に強いのだろうと、美弥は改めて思っていたのであった。

 

(やっぱ、強いな。……私はこの人と並び立てるほどにならなきゃいけないよな。)

 

私はこの人の臣下となった。ならば、それに相応しいだけの実力を持たなければならないと美弥は思うのであった。

そして、タキリヒメと共に歩むこの時間が永遠に終わらなければ良いのにとも思っていた。

 

……だが、その時間も終わりが見えてきていた。

何故なら、美弥の目の前には、イチキシマヒメから借りたのか数珠丸恒次を持つソフィアとその部下である冥加刀使が数名居たからである。

 

「……タキリヒメ、あれ。」

「ああ、総大将自らお出ましとは……我も人のことは言えんがバカなのか、そうでないのか。最後の最後までよく分からん奴だ。」

 

タキリヒメは、ソフィアのことを最後までよく分からない人間だったと評しながらも、強敵に出逢えたことに対する喜びなのか、笑みを浮かべていた。

 

「美弥よ、怖いか?」

「ううん、タキリヒメが命じるなら、どんな霧も斬り祓ってやる気分だよ。」

 

美弥の言葉を聞いたタキリヒメは、この者は恐らく自分を守るためなら、命すら投げ出すだろうと悟った。

 

『……あの、タキリヒメさん!………美弥のこと、お願いしますね。』

 

タキリヒメはそこまで考えたせいか、ふいに美弥の友人である内里 歩の言っていた言葉を思い出してしまっていた。

友達のことを頼むと言われたことを……。

 

「おう、ソフィアという者よ!少し我の臣下と話すことがある!!暫し待てい!!」

 

それ故に、タキリヒメはソフィアに少し待てと言うのであった。

 

「隊長、そんな話に乗る必要ありません。今すぐ攻撃の命令を。」

「待て。」

 

その声に冥加刀使は、タキリヒメを討ち取れと命じて欲しいとソフィアに催促する。しかし、ソフィアは不思議なことに「待て。」と命じるのであった。

……ソフィアが「待て。」と命じた理由は、傍らに居る刀使を臣下と呼ぶタキリヒメの言葉に引っ掛かり、あの傍らに居て臣下と呼ばれることに不服そうな顔をしない綾小路の制服を着た刀使と大荒魂であるタキリヒメとの関係がどのような物なのか興味を抱いたからであった。そのため、

 

「分かった!手向けの言葉を掛ける時間はくれてやろう!!」

 

ソフィアは、タキリヒメと美弥に話す時間を与えると述べるのであった。

 

「……そういえばな、美弥よ。」

 

そうしてタキリヒメは美弥の名を呼ぶと、美弥をこちらに振り向かせていた。

 

「お主は我の臣下となった訳だが、その際に何も与えることしていなかったな。」

 

するとタキリヒメは三日月宗近を隠世から取り出すと、美弥に改めて問うのであった。

 

「唯一の、……いや、初めて臣下となったお主にその証明として、これを渡そう。…三日月宗近だ。」

 

タキリヒメはそう言うと、美弥に初めて臣下の証として、三日月宗近を美弥に下賜したのであった。

 

「三日月宗近は天下五剣の中で最も美しいとされる太刀と云われる代物である。なればこそ、この現世を統べることになる我と並び立つと宣言したお主に与える。……美弥、この美しい太刀を前に霞むことなく励み、常に精進せよ。」

 

それだけでなく、この美しい太刀に劣らぬように精進し続けろと激励を送っていた。

そして、タキリヒメが手にしてから、刀使と荒魂の血を吸ったことのない三日月宗近を美弥に渡せて良かったと。

 

「先ずは臣下となったお主に命を下す。……生きろ、美弥。そちの友人にお主のことを頼むと請われた以上、荒魂と人間が共存する社会を形成し、この世の全てを統べる我がその願いを無下にする訳にはいかん。……そして、我の後に続くであろう人の姿をした荒魂達に語り聞かせてくれ。我の生き様を。この現世に彷徨うことがないようにな。」

 

それを聞いた美弥は、涙を必死に堪えながら静かに聞くと、その思いに応えんと返すのであった。

 

「ありがとうタキリヒメ。……なら、刀が一本だけでは様になんないから、私の剣を使って、……この現世で荒魂と人間が共存する社会を形成するタキリヒメが片手しか御刀を持っていないのは、恰好がつかないでしょう?」

 

そして美弥は、タキリヒメに対して自身が愛用していた無銘の御刀を差し出すのであった。

 

「これで……必ず勝て!!」

 

それだけでなく、美弥はタキリヒメに勝利を得て、自分の元に帰って来て欲しいと飾り気も無く、愚直なままに述べるのであった。

 

「……そうか、我にこの刀を授けるか。荒魂である我は唯一御刀のみを恐れていたが、こうして扱うと刀というのは何かを斬り刻んだり、何かを断つだけの物ではないのだな。……こうして、我とお主を紡いでおるのだからな。」

 

タキリヒメのこの一言を切欠に、タキリヒメが持つ御刀は荒魂や人を斬るだけの物ではなくなり、また荒魂であるタキリヒメが恐れる物でもなくなったのである。

それと同時に、タキリヒメと美弥の関係は、人々に災いをもたらす荒魂とその荒魂を祓う刀使という関係以上のものを荒魂を斬る唯一の武器と言われた御刀で紡いで行ったのである。

 

「……最後に、お主に渡した三日月宗近が刀使を一人も斬っておらんで良かった。」

 

美弥にも聞こえない声量でタキリヒメは己の気持ちを漏らすのであった。聞こえなかった美弥は「えっ?」と聞き直すためにタキリヒメの顔を見るが、タキリヒメのその顔は、歯を剥き出しにしてニカッと子供の様な無邪気な笑顔をしていた。……その笑顔を見た美弥は、もう何も心配することはないとでも言っている様に思えた。そのため、

 

「……タキリヒメ、必ず勝って人と荒魂が共存する社会を創ろう!!」

 

美弥は、ソフィアの方へと向かって行くタキリヒメを激励することしかできなかった。

それを聞いたタキリヒメは、

 

(……お前は、尚も我を信じてくれるのか。)

 

自身がこの国を支配したい理由が、弱者救済や経世済民を建前にして支配者となり、この国を玩具の様に好き勝手にしたかっただけと本音を述べたにも関わらず、その弱者救済や経世済民という建前をタキリヒメが行おうとしていると美弥は本気で信じていたのだ。

 

(……まあ、あの場で言えば、違うように捉えられるだろうな。)

 

そういえば、自身がこの国を支配したい本当の理由を述べたときはソフィアが攻めて来るかもしれないときであったから、美弥はタキリヒメが自分だけを逃そうとしていたと感じてしまったのかもしれない。

 

(全く、こうなると、本当に建前を本当のことにしなくてはならんではないか……馬鹿者。)

 

何時の間にやら、ヘッポコ三流刀使だと思っていた美弥が、自分の本心をこうも変えさせてしまう程に成長するとは思わなかった。

 

それ故にタキリヒメは、臣下となった美弥の願いを叶えるべく、この戦いに勝とうと意気込むのであった。

それ故にタキリヒメは、刀使や荒魂を斬ったことがある御刀を渡すのは美弥に相応しくない。だからこそ、最期になる前に相応しい刀を渡せたことが良かったと思うのであった。

 

そして、自分に目的を与えてくれた市井の人達、自分を支えてくれた議員達、最期まで共に居てくれた美弥といった人達に逢えて良かったと。

 

「待たせたのう。……供の者と共に斬り掛かるか?」

「いいえ、私と貴女の一騎打ちです。」

「総大将同士の決闘など好まんと思うていたが。……案外、そういった部分も有ったのだな。」

「ええ、自分でも驚くほどに。……そして、荒魂である貴女に相応しい相手足らんと、私も冥加刀使となっております。」

 

美弥との話しを終わらせたタキリヒメはソフィアに近付くと、ソフィアに己の部下と共に一斉に斬り掛かるのかと尋ねると、ソフィアは自身もノロを身体に入れることで身体能力を強化した冥加刀使となっていると答えていた。

 

「これで私は貴女と同じ土俵に立てたと言えます。」

 

ソフィアが冥加刀使になったのは、自身の信条に添っただけにしか過ぎないのだが、どんなに人間を従えようとも、結局はお前は荒魂でしかないのだとタキリヒメを煽るために同じ土俵に立てたと述べたのであった。

 

「ふふん、我に合わせたというのか。妙なことにこだわるが、そんなお前が気付かなかったのか?お前が我を斬ればどうなるか。……荒魂を倒すためとはいえ、お前達は防衛省の市ヶ谷基地を攻撃したのだ。政府がお前達を逃すことはなく、直ぐに報復するだろう。それにだ、この国の国民から強い支持を得ている我を斬れば、お前達を支持する者は居なくなるぞ?」

 

しかし、タキリヒメはソフィアが起こした決起の問題点を指摘していた。

それは、ソフィアが国民から強い支持を受けているタキリヒメを斬れば、ソフィア側には国民から支持を得られないため、その隙を突く形で、この国の政府はソフィア達の行動を批判し、糾弾することは間違いないうえ、その国民と政府の支持が無い状態で兵の質と戦力差が大きく開いている刀剣類管理局と自衛隊の合同部隊を相手にせねばならなくなる。そうなれば、勝ち目は無いため、このままソフィアがタキリヒメを斬ってイチキシマヒメに取り込ませても、次の戦う相手となる刀剣類管理局と自衛隊の合同部隊を相手に勝ち目は無いと話すのであった。

 

「……それでこの私が踏み留まると?自分が“ソフィア”になったときから、この生き方を私は辞めることはありません。今からでも、その者に渡した三日月宗近を取りに行けば宜しいのでは?それなら、臆病風に吹かれたあなたでも戦う気が少しは起きるでしょう?」

 

だが、ソフィアはタキリヒメの問い掛けを命乞いと捉え、表情は笑みを浮かべたまま、タキリヒメに対して憎悪の炎を燃やすのであった。

臆病風に吹かれたのかと。羊に成り果てたのかと……。

 

「お前に命乞いが通じるとは思わんよ。……それにだ、今の我は三日月宗近よりも価値の有る物を手にしておるぞ。本体である荒魂から受け継いだ有名な大典太光世と今は無名ではあるが人の子である美弥から一振りの無銘の御刀を譲り受けておる。……この二振りの御刀を持ち扱うことができるのは、人も荒魂も生まれも関係無く等しく統べる我が持つに最も相応しいであろう!?」

 

ソフィアに臆病風に吹かれたのなら、美弥に渡した三日月宗近を取りに戻って、万全な状態で戦えるようにすれば、臆病風に吹かれたお前でも戦えるだろうと挑発されたタキリヒメは、自身の本体であるヒルコミタマから取った大典太光世と今は無名だが何時かは大成を成す人の子である美弥から渡された無銘の御刀を持つことで、人も荒魂も統べる者として相応しい姿になったとソフィアに返答することで、敵に背を向ける意志は無いと力強く答えるのであった。それと同時に、

 

「それにだ。タキリヒメとして言いたいことは全て言ったつもりだ!後は霧を斬り祓う者として、困難から逃げることなく立ち向かうことで"タキリヒメ"という名は永遠に語り継がれることで遺り続け、我の名が悠久の時を経ても古ぼけた写真のように色褪せることは無いのだ!!……そうすることで、我は人も荒魂も支配するだけでなく、全ての荒魂が唯一恐れる死を恐れることなくなり、ただ一心に自らの大望に突き進むことができるのだ!それだけで我は死の概念すらも超越し、自らの死を支配することができ、我は万全な状態でお前に挑むことができるということだ!!」

 

上記の理由を述べると、タキリヒメは自らの死を恐れることなく自らの死を支配下に置くことで、万全な状態で以ってソフィアに戦いを挑むことができると豪語するのであった。

 

「……なるほど。何も考えずに行動した訳ではないそうですね。」

「そうであろう?……であればだ。我が軍門に降るのであれば、今までのことはチャラにしてやるぞ。どうだ?我に付く気はないか?我はお前とその部下達を全てを迎え入れようと思っておる。」

 

タキリヒメは自らの生命を脅かしているソフィアを前にして、市ヶ谷を攻撃したことを不問にし、しかも部隊長のままにするという好待遇を以って、自分の部下にならないか?とスカウトとされたため、ソフィアはタキリヒメの余りの破天荒ぶりに、予想外の行動に思わず高笑いしてしまった。

 

「アハハハハ!……私は貴女を此処まで追い詰めた張本人なんですよ?怒ったり、罵ったりしてくると思いましたが、まさか私を部下にしたいと言ってくるとは思いも寄りませんでした。」

「当たり前であろう?我はこの国を統べる者だぞ。我はお前と初めて会ったときに武力ではなく言葉で心服させるのが、霧に迷う者を導くと宣言したタキリヒメが行うべきことであると述べたであろう?だからこそ、そのためならば臣下になりたい者は誰でも臣下として我が幕閣に加えようといつも思っておるのだ!!!」

 

高笑いをするソフィアに、決起に参加した冥加刀使は困惑の表情を浮かべるのであった。

もしかしたら、ソフィアは投降を決意するのではないかと。

 

「……ですが、その申し出を断らせて頂きます。私が求める物は栄誉でも地位でもありませんので。それに、私は同士と呼べる者は居りますが、友と呼べる者はもうこの世には居ませんし、彼等以外に作る気もありません。」

 

しかし、冥加刀使の杞憂はソフィアがタキリヒメの申し出を断ることで終わり、そのことに安堵するのであった。

 

「……ですが、私が“ソフィア”と名乗る前に出逢っていれば、その申し出を受け入れたかもしれませんが。」

 

ただ、ソフィアはタキリヒメにもしも自分が“ソフィア”と名乗る前であれば、タキリヒメの部下として働いていたと賛辞を送るのであった。

 

「そうか。己を貫くか……それだけで充分だ。」

 

タキリヒメはソフィアにそう述べると背中を見せ、ソフィアと一騎打ちをするために距離を空けるのであった。

だが、ソフィアの部下である冥加刀使達は背中を見せたタキリヒメに斬り掛かろうとするが、

 

「手を出すな!」

 

とソフィアに止められたため、冥加刀使達はタキリヒメに攻撃することを止めるのであった。

 

「……彼女は一騎打ちの申し出を受け入れてくれた。だからこそ、アレは私の手で直接倒さねばならないのだ!」

 

ソフィアにそう強く釘を打たれた冥加刀使等は構えを解くと、事の趨勢を見守ることにしたのであった。

だが、この社会を力によって変革したいと強く願っているソフィアとって、この国を支配することで絶対の秩序を創ろうとしているタキリヒメは越えねばならない存在でもあった。

 

「……では、刀使と共に歩むタキリヒメ様を相手にするのは、荒魂の力を求めたこの私がお相手致します。」

 

ソフィアはそう言った瞬間に、迅移を使ってタキリヒメに斬り掛かって来たため、タキリヒメはソフィアの刃を両手に持つ二つの刀で受け止めると、刃同士の金属の音を鳴らすのであった――――。

    

    

    




    
    
一応、この小説内では。

鬼丸国綱=タギツヒメ
三日月宗近、大典太=タキリヒメ
数珠丸恒次=イチキシマヒメ

というふうに所持しておりました。
 
    
    

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