【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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123話を投稿させて頂きます。

チョコミントアイスを食べた姫和ちゃんが「マズイ!!」と言わせた後にゴミ箱へと捨てさせるシーンをずっと前から書きたかったです。
    
     
   


人の境目

     

    

   

――――時は戻り、丹沢山での荒魂騒動が終結した後の刀剣類管理局仮野営所にある野戦病棟。

 

真希と寿々花は、丹沢山での荒魂騒動で受けた負傷により、野戦病棟に移送された治療中の部下達に労いの言葉を掛けるべく訪れていた。

 

「……あっ!真希隊長!!」

 

野戦病棟にあるベッドで寝ていた刀使が、真希の姿を見るや立ち上がろうとする。

 

「皆、起きなくて良い。寝たままで。」

 

しかし、真希は隊員達を不安にさせないよう笑顔を向けると同時に、寝たままで良いと手でサインを送ることで、療養中の刀使達をベッドの上に寝たままにさせていた。

 

「ケガは大丈夫か?」

 

頭に包帯を巻き、腕にギプスを装着している刀使は、何度も包帯を取り替えられているのか、彼女のトレイには血の付いた包帯が幾つもあった。

 

「ハイ!」

「危険な任務をよくこなしてくれた。腕のケガを治し、次も鞍馬流の華麗な『変化』の技を"仲間"達に見せてくれ。」

「……ハイ!真希隊長等が居られる原隊に戻るのが待ち遠しいです!!」

 

しかし、腕にギプスを装着している彼女は身体の至る所に包帯を巻くほど負傷しているにも関わらず、大きな声で元気良く真希に返答していた。

理由は、大会二連覇を成し遂げ、今も第一席で活躍中の真希に、自分が鞍馬流の遣い手であることを憶えてもらっているということに感激し、負傷しているにも関わらず直ぐに原隊に戻りたいと本気で思っていたからである。

 

「困難に恐れず、今も立ち向かおうとするその姿勢は物語に出てくる英雄そのものだ。君という英雄を部下に持てて誇りに思う。……今は英気を養い、怪我を治すことに専念しろ。」

「ハイ!!」

 

真希は頭に包帯を巻いている彼女に「君という英雄を部下に持てて誇りに思う。」といった声援を送ると、寿々花と共に他に負傷している刀使の元へと向かう。

 

「具合いはどうかな?」

「自分は足をやられましたが、一刻も早い原隊復帰を望みます。」

「……君は小野派一刀流の真っ向から切り伏せる力強い技に僕の"仲間"も頼りにしていると聞いているが、それには足腰の力が重要だ。だからこそ、今は英気を養い、怪我をした足を治せ。」

 

この刀使が療養中なのは、写シを剥がされたところを犬型の荒魂に足を噛まれたからである。一時は、荒魂が動物を食べるという習性から、野生動物にある寄生虫やら菌が犬型の荒魂の歯に付いていることもあるため、その菌の毒によって足を切断しなければならない事態になるかもしれないと思われたが、治療が上手く行き、足を切断せずに済んだのであった。

 

そのことを踏まえながら、先ずは治療に専念するようにと真希はベッドに横たわる刀使に言っていた。

 

「ありがとうございます!必ずや復帰して、仲間達のために一層の奮闘をします!!」

「ああ、素晴らしい闘争心だ。……私としても早い復帰を期待するが、無理はするな。無理をして、また病院のお世話になるのは嫌だろう?」

「……分かりました!!」

 

真希の「無理をして、また病院のお世話になるのは嫌だろう?」というジョークに野戦病棟のお世話になっている刀使達等はドッと笑いを漏らしてしまう。その光景に、真希も刀使達等も緊張が解れていくのであった。…………しかし、

 

「嫌だ!もうイヤ!!……寝ても覚めても赤子の声が聴こえる。……助けて、助けてよ、ママ、パパ!!」

 

何処にも負傷していない刀使が居た。

 

「……彼女は何ですの?ケガをしておりませんけど?」

「彼女はストレスによる戦闘神経症です。ずっとこの調子で、食事にも手を付けません。」

 

寿々花がケガをしていないにも関わらず、野戦病棟のベッドを一つ使っていることに訝しんでいるように見せていた。そうして、衛生科の医務官からの戦闘神経症の説明を聞き終えるや否や、

 

「この臆病者がっ、精神病を装っていれば任務から逃れられとでも思っていたか!!」

 

一歩足を踏み出し、戦闘神経症の彼女に対して、鉄拳を一つお見舞いしていた。

 

「仲間は貴女の代わりに傷付いているんですのよ!!今直ぐ部隊に戻りなさいっ!戻らない場合は機動車に括りつけて弾除けとして使い切って差し上げましょうかッ!!!どうなんですのッ!!!?」

 

尚も彼女を殴打しようとしている寿々花を止めようと、衛生科の人間が抑えていた。

 

「寿々花隊長!お止めください!!」

「戦えないのでしたらっ!!せめて戦える者の肉壁になるか弾除けになってお役に立ちなさいッ!!!」

 

そうして、パニックが起こるが、

 

「止めろッ!寿々花っ!!」

 

真希が大声で怒鳴ると野戦病棟はシンと静かになるのであった。

 

「……医務官。彼女は殴打された。別の病棟へ移すべきだ。」

「ハッ?……ハイ!!」

「それと寿々花、外で頭を冷やしてこい。僕も後で外に出る。……皆は治療を専念するように。」

 

それだけ言うと、真希と寿々花は外に出ると、医務官等は真希の指示通りに神経症の彼女を別の病棟に移すのであった。

 

 

 

――――野戦病棟の外で真希と寿々花は言い争っていた。

 

「全く、他に手はあるだろうに。」

「ですが、それが最善の方法であると思いますわ。」

「……君だけ悪役じゃないか?」

 

そう、野戦病棟にて起きた一騒動は、赤子の荒魂との戦闘の影響によって戦闘精神病となった彼女達を隔離すると同時に恐怖が周りの者に伝染しないようにすることで、戦闘精神病の人間が増えないようにしていたのである。

 

「私だけ悪役ではないと?」

「……そうだな。僕も『英雄』だとか、『期待している。』とか言って、彼女達を死地に追いやろうとしている死神だな。」

「それに、『仲間のため』という絆も利用しましたものね。」

 

それだけでなく、真希が"仲間"という言葉を強調して話すことで『女の友情』を利用して戦場から逃げないようにしたり、負傷を怪我と言い換えることで大したことではないと彼女達に思い込ませることで早期の原隊復帰を真希と寿々花は狙っていたのである。

 

「……だったら僕の指示を聞いてもらおう。それでも刀使を辞めたいと希望する者は叶えてやれ。部隊から離れた刀使が所有していた御刀はその次に適合率が高く、中等部の者を優先的に譲渡。」

「……何故、中等部の者に優先的に譲渡するんですの?」

「年若い方が適合率が高いというのもあるが、新型S装備は若い脳の方が直ぐ習熟するそうだ。」

 

つまり、真希は戦力の減衰を理由に新型S装備の追加とそれに直ぐ習熟した兵の確保を優先的にするということであった。

 

「ああ、なるほど。つまりは、新型S装備を当てにすると。」

「……こうなれば、致し方あるまい。」

「分かりました。そのように報告しておきます。」

「頼んだ。」

 

こうして、真希と寿々花は新型S装備の追加発注を申請する。

そして、真希の報告書を見た刀剣類管理局本部は戦力の減衰による荒魂事件の対応力の低下が露見することによって、国民からの支持を失うことを恐れたのか、それとも真希達に戦力が集中していくのを恐れ、曲解したのか、追加発注された新型S装備は中等部の戦力の早期拡大を目的とする理由で伍箇伝全体に配備されることが決定された。

……つまりは、綾小路側も新型S装備を得ることができ、変革派とソフィア達の手に渡ることになってしまったのだった。

 

それだけでなく、寿々花が精神病患者に暴行を加えたことが問題視され、一定期間の停職処分を受けることとなった。

 

「……だが、処分を受けたら、解っているな?」

「ええ、第二席としての職務は果たします。」

 

……しかし、停職処分を受けることは寿々花の計算の内であったことは誰も気付くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――時は戻り、タキリヒメがイチキシマヒメを取り込んだ静にノロの塊として吸収されたその一週間後、薫達は。

 

「……というわけで、都筑区に現れた荒魂の討伐を完了。ノロも回収しまシタ。」

 

エレンと薫は刀剣類管理局本部にて、都筑区に現れた荒魂討伐任務の報告を紗南と朱音に行っていた。

 

「怪我人無し、装備の損傷も軽傷デス。…以上、報告終わりマス。」

「そうか。……ご苦労だった。」

 

エレンからの報告を聞き終えた本部長の紗南は、ご苦労だったと労いの言葉を掛ける。

紗南から労いの言葉を掛けられたエレンは、紗南に対して一礼して退室しようとすると、入室してから紗南と対面することなく不満を表しているのかそっぽを向いたままの薫に気付いた。

 

「………薫?」

 

エレンの言葉の後に、薫は無言で紗南に目線を合わせるのであった。

 

「……。」

「……何だ?もう下がって良いぞ?」

「他に言うことは無いのか?」

「労いの言葉なら、さっき掛けただろう?……特別手当や休暇なら「違うっ!!」」

 

薫の「他に言うことは無いのか?」という言葉に、紗南は特別手当や休暇の申請なら受けないと言ってはぐらかそうとするが、薫は机を『バンッ!』と音が鳴る程に力強く叩いて否定するのであった。

 

「違う!市ヶ谷が襲撃されて、もう1週間だぞ!その間、俺達の任務といえば通常の荒魂討伐ばかりってのはどういうことだ?もう当たりぐらいは付けてるんだろ!?」

「どうした?いつになく仕事熱心じゃないか?」

 

夜見を改造し、丹沢山周辺に一騒動を起こし、その鎮圧のために大部隊を向かわせた隙に市ヶ谷を襲撃した連中の目途は付いているのだろうと紗南に直談判する薫。その薫に紗南は珍しく仕事熱心だと言って、はぐらかそうとする。

 

「……こっちは優があんな状態。それだけでなく、ねねもエレンもやられたんだ。……借りは返さんと、俺の気が済まん。」

「ねー!!」

「連中の居場所、当たりぐらいはついてんだろ?」

 

仕事熱心だと言われた薫は、その理由を述べるのであった。

優は病室から出られないほどに衰弱。それだけでなく、夜見もねねもエレンも、そして可奈美達が傷付いた落とし前を付けなければ、納得が行かないと話し、薫は紗南にソフィア達の居所を詰問していた。

 

「……情報なら入り次第伝える。」

 

紗南は、薫から視線を外しながらそう答える。

 

紗南がこう述べた理由は、現在の刀剣類管理局の状態は、先程薫が言っていた通りに一大戦力である優が戦闘を行える状態ではないうえ、丹沢山周辺で現れた荒魂討伐に参加した刀使の中には赤子の姿と声に似ていることで赤子を殺すという疑似体験をさせるかのように造られたとしか思えない赤子の荒魂、逃げ遅れた登山客が赤子の荒魂に取り憑かれたことにより荒魂化した人間と対峙したため、心的外傷が深刻な者が少なからず現れ始めたことにより、部隊の再編と作戦に参加した者達の心的ケアといっただけでなく、丹沢山周辺にもう赤子の荒魂とそれに釣られた荒魂が居ないかを真希と寿々花の両名が休みなしに観察及び、部隊の再編制の事務もしていたため、綾小路にとても向かえる状況ではなかった。

 

「……そうか、じゃあ優にあんな症状出たのは知っててやったのか?」

「……それはこちらも想定外だったと伝えておこう。」

 

しかし、それを聞いた薫は、紗南に優のことを尋ねると優のことについては想定外であったと紗南は薫を視線に入れながら答えるのであった。……そのため、薫は紗南を問い詰めるように紗南のことをジッと睨むのであった。すると、一刻ほどの静寂が辺りを包む。

 

「……チッ。」

 

しかし、薫は舌打ちをすると無言のまま紗南から離れると、エレンも紗南に向かって一礼をしてから、薫の後に続く形で、紗南と朱音が居る作戦室から退室して行くのであった。

 

「焦りを感じてるのでしょうね。彼女達も、私達と同じように……。」

「お恥ずかしい限りです。……タキリヒメを取り込んだということは残りのイチキシマヒメも奴等の手の内にあり、綾小路も市ヶ谷の基地を襲撃された政府も不気味なほどに何の動きも見せないのは、やはり……。」

「……不気味、ですね。」

 

紗南としては、綾小路の刀使達が市ヶ谷基地を襲撃したという報告を美弥から聞いており、その報告を以って綾小路を政府も糾弾すると思われていたが、官房長官も現総理も待機命令のみしか下さなかったこと、綾小路側も何の行動も起こさなかったことに朱音と同じくある種の不気味さを感じていた。

 

「……とはいえ、こちらの現状も芳しくないというのが事実ではあります。」

「衛藤さんと十条さん、それに優くんと丹沢山に出動した隊員達のことでしょうか?」

「ええ……。」

 

朱音の言葉に、紗南は可奈美達と優のことについて思い出していた――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――病室にて、舞衣達のことを憶えていない優がどのような状態かを可奈美達は、フリードマンから直接話しを訊いていた。

 

「フリードマンさん!何で優ちゃんは舞衣ちゃん達のことを……!」

「……それには、先ず優くんはスレイドが行った研究……タギツヒメが言うには、タギツヒメとの融合だけでなく、投薬や暗示によって戦闘能力を上げていたというタギツヒメの話は憶えているかい?」

 

今現在の優の状態について、可奈美に詰問されたフリードマンは優がタギツヒメと融合できたのはスレイドの研究の成果であり、それだけでなく、投薬や暗示によって殺人に対する抵抗力を無くすことで戦闘能力の向上を図っていたとタギツヒメが話していたことをフリードマンは先ず説明していた。

 

「しかし、しかしだ。……もしも、この暗示と投薬の目的が戦闘能力の向上だけでなく大荒魂でもあり、純度の高いノロの塊でもあるタギツヒメを入れるために必要な措置であったとするならば、どう思う?」

 

だが、今回起きた優の症例から発覚したこと、スレイドが行った投薬と暗示は殺人に対する抵抗力を無くすためだけではなく、実はタギツヒメという大荒魂を入れるために必要な措置であったのではないかと話していた。

 

「つまり、どういうことなんですか!!」

 

それを聞いた可奈美は、どういうことかとフリードマンに詰め寄るのであった。

 

「……それを説明するには先ず、人体にノロを入れると負の影響が大きいことは知っているね?」

 

フリードマンの話を聞いていた可奈美は、丹沢山にて強化された夜見の姿を思い出すと、力強く頷くのであった。

 

「無論、それだけでなく荒魂の力や龍眼といった超常の能力の制御。異物が入ったことによる身体への拒否反応といった人体への悪影響もある。それらの問題点を改善するために投薬や暗示によって抑える必要があったんだろうね。……つまりは、タギツヒメを入れることによって生ずる人体への悪影響を抑えるための投薬量しか優くんには投与してなかったんだ。」

「……それって、つまり。」

「……今回も丹沢山で現れた荒魂を討伐し、優くんはそれらを吸収した。それで薬や暗示でどうにか抑えていたバランスが一気に崩れてしまったんだろうね。」

 

フリードマンの説明を聞いた可奈美は、4ケ月前の鎌倉での出来事にて紫に取り憑いていた大荒魂のノロの大部分を吸い取っただけでなく、夜見の体内に有るノロも取り込んだことで、投薬や暗示によって抑えていた許容量を越えてしまい、荒魂の制御ができなくなったのだろうということを理解した。

 

「……それと、丹沢山で現れた荒魂を吸収する前の優くんに異常は無かったかい?例えば、いつも飲んでいる飲料に加える砂糖の量が急に増えたとか。」

 

姫和はそれを聞いて、思い出していた。

 

『……うん、何だか。お砂糖の量を増やさないと味が、……ううん、何でもない。やっぱり、良くないことかな?』

 

……最近、いや、鎌倉での出来事の後の優は、自分が飲む紅茶に入れる砂糖の量が確かに増えていた。

既にあの時から、身体が壊れ始めていたのだ。

 

「………。」

 

それに気付いた姫和は、呆然としていた。

……結局、自分は何一つ気付いてやれなかったことに。

 

「フリードマンさん!治せないんですか!?」

 

悲しんでいる可奈美の様子を見た舞衣は、どうにか一筋の希望を見出したく、優を治す手段は無いかと尋ねるのであった。

 

「……残念だが、今の我々にはスレイド以上に人体と荒魂の融合に関して精通した人は居ないんだ。だから荒魂に対する苦痛を抑える投薬の量を少しでも間違えれば、優くんの寿命は大きく削られ、生きていられる時間が減り、味覚障害、記憶障害も進行するかもしれない。だから、下手に手を加えることができないんだ。」

 

つまり、今のフリードマンや刀剣類管理局では、荒魂と人体の融合に関する研究がスレイドよりも劣るため、下手に投薬で抑えることができなかった。……それ故に、打つ手が無かった。

 

「だが記憶を失った理由は恐らく、丹沢山でも自身の身体のノロの侵食率を上げたことが大きな要因だろう。……調べてみたら、脳の部分までノロが侵食していたんだ。」

 

先程の夜見との戦闘で、優は脳内麻薬を多く分泌させるために体内にあるノロを脳まで侵食させたことが原因であるのだが、フリードマンは優のそういった心理まで読み解けなかった。だが、フリードマンの言う通り、優は自身の脳までノロを侵食させたことで脳の記憶領域に障害が発生し、可奈美と姫和以外の人間のことを忘れてしまったのである。

 

「それと、自身の身体の中に有るノロを更に侵食させたせいか、更に荒魂化が進んだことでねねと同じように胃袋が隠世に繋がってしまったんだ。……今の優くんは点滴で直接注入するしか栄養補給が出来ない。」

 

更に優は、足が動かなくなり、記憶障害が出ただけでなく胃袋が隠世と繋がってしまったことによって点滴でしか栄養補給が出来ないようになってしまったのである。

……点滴による栄養補給は微々たるものである。そうなれば、優はやつれていく一方なのだ。

 

「何とか……なんとかならないんですか!?」

 

姫和は俯きながら、叫ぶようにフリードマンに詰問する。

もうチョコミントアイスを美味しいと言ってくれないかもしれない。そうなれば、優との繋がりが無くなり、自分は孤独になるかのような気がしたから、姫和はフリードマンに詰問した。

 

「……先程も言った通り、適切な投薬量を入れれば症状を抑えられるかもしれないけど、それでも薬を入れていることには変わりないから、寿命を減らすことになる。僕としては勧めることはできない。……可能な限り心身のストレスを与えないこと、ぐらいしか無いだろうね。」

 

フリードマンの無慈悲な宣告に、可奈美達は閉口し、刻が止まったのではないかと思える程に静かとなるのであった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――対策も取れぬまま、その数日後。目の下にクマができていた姫和は、監視カメラが映すテレビ画面から眠っている優のことを見つめていた。

 

見つめていた理由は、姫和が優に好物のチョコミントアイスを贈ったときのことを思い出していたからであるからか、そのことばかり考え込んでいた。

 

……それと、今の優の状態を鑑みてか、今は可奈美と姫和だけでなく、現場に居合わせた歩も面会が可能となるほどに監視が緩くなっていた。

 

このことに、姫和はコロコロと変わるものだと、この行為自体が刀剣類管理局が混乱している証拠だな。と刀剣類管理局に対して憤慨はしていたが、管理局や政府の本当の狙いはソフィアとの戦いを想定して、戦力を確保せねばならない時期であったからこそ、可奈美と姫和に優との面会が可能な様に取り計らったのだが、そのことに可奈美と姫和はまだ気付いてさえいなかった。

 

とはいえ、姫和はどんな形であれども、優の近くに行けることに喜び、チョコミントアイスを持って向かって行った時のことを思い出していた――――。

 

 

 

 

 

 

姫和がチョコミントアイスを持って行ったのは、フリードマンの説明から優が苦しんでいることを聞き、優に好物を与えることでその辛さを緩和させたかったのだが、本音は優が自分と同じ物を美味しいと言ってくれたことに"繋がり"を感じ、その"繋がり"を失いたくないがために持って行っただけであった。

 

『優!持って来たぞ!チョコミントアイスだ!!』

 

息を切らしながら、姫和は優にチョコミントアイスを持って来たと述べるのであった。

 

『ホント?ありがとー!』

 

そうして、優にチョコミントアイスが入った箱を渡し、優はそれを開けると、姫和が用意したチョコミントアイスを頬張るのであった。

 

その様を見て、高めの物を買って良かったと心から思うのであった。

姫和は、優が味覚障害気味であることに気付いて、少しでも美味しいと思わせたいがために高めの物を購入したのである。そうして、優が美味しいと言ってくれれば、優は人間であると強く証明することができ、私との“繋がり”はタギツヒメよりも強固だと、妄執地味た行動を執るのであった。

 

『ぐっ……ゴフ!!』

 

……しかし、その思いは優が吐いてしまったことで虚しく、そして儚く散っていってしまうのであった。

 

『ゆ……優!大丈夫か!?』

 

それを見た姫和は、優に何があったのか尋ねる。

 

『……ねえ、おねーちゃん。僕はおかしくなったのかな?……大好きだったチョコミントアイスが鉄の味しかしないんだ……。』

 

優のチョコミントアイスが鉄の味しかしないという発言に、優の味覚障害はチョコミントアイスの味でも鉄の味しかしない程に進行していることに、今更気付くのであった。

そのため、姫和は優が食べたチョコミントアイスを一口食べると、味の感想を述べるのであった。

 

『……ウッ、ゲホゲホ!!……これは確かにマズイな!店にクレームを付けないと!!』

 

姫和は一口食べるだけで、この高かったチョコミントアイスの味を味わえた。

……今まで食べた物よりも美味しかった。

 

美味しかったが言えなかった。……優が傷付くから、優はおかしくないと言いたかったから美味しかったチョコミントアイスをゴミ箱に捨てた。

 

多分、そのまま食べても胸が痛み、喉が詰まる思いをするだけなのだから、もう食べる気にもならなかった。

……好物のチョコミントアイスであったにも関わらず。今まで食べたチョコミントアイスよりも美味しかったにも関わらずにである。

 

『……うっ、ゲェホゲホ!……確かに、これは開発者に、製造者にクレームだな!!優はおかしくないぞ!!』

 

そのため、姫和は優を傷付けまいと、このチョコミントアイスが不味いだけだと言って、優はおかしくないと述べるのであった。

 

(……そうだ。そうだそうだ!チョコミントアイスはマズかったんだ!無駄にス~ッとしてて、歯磨き粉みたいな味で……そんな美味しい物じゃなかった。それが普通だ。可奈美も言っていたから間違いじゃない!)

 

姫和は自らの好物を偽っていた。それが普通なのだと。歯磨き粉みたいな味が上手いという奴がおかしいのだと。

 

 

 

姫和は自身の好物の存在を否定してでも、認めたくはなかった。

優がまともな人間ではなくなったことを………。

    

    

   




    
    
現在の優くんの状態。


右肩から右腕が、切除したせいで失っている。
記憶障害は舞衣達や様々な記憶を忘れるぐらいまで進行。
味覚障害もチョコミントアイスの味が何も感じないくらい進行。
点滴以外でしか栄養補給が出来ない。
脳の障害によるものか、歩くことすらもままならない。
   
    
    
    

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