【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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126話を投稿させて頂きます。


タギツヒメ

かつて折神紫に取りついていた大荒魂・タギツヒメの中に生まれた三つの感情が分裂した三体の内の一体。人間への怒り・怨嗟といった原初の感情から生まれた存在で、人間への報復を望んでいる。
(アニメ公式設定)
しかし、その心の奥底に在ったのは人類への憎しみではなく「剣を振るい、刃を合わせることを通して根源的な孤独感を埋めたい」という「対話」を求める渇望であった。
(ピクシブ百科事典より。)


あと、今話で+αを付けた理由を書いておきます。
   
   


カミサマの嘆き

    

    

   

寿々花と話したタギツヒメは、優の中に居る者達と話していた。

タギツヒメが此処から抜け出すということを……。

 

「――――という訳でな。我を必要とする奴等のために現世に出ねばならなくなった。いやー、人気者は辛いのう!!!」

 

それを黙って聞いていた優達は、タギツヒメに言う。

 

「……あんま無理すんなよ。顔に出てんぞ。」

 

ジョニーは、タギツヒメが無理をしていることを看過していた。

 

「な!何を言うか、我は神ぞ!!そんなことで寂しく思ったり、へこたれたりせんわい!!」

 

タギツヒメは大声で叫ぶ、寂しくないと。

 

「それに……それに我が出れば………出れば我のことをな……皆が歓迎して……くれるんじゃぞ!!!」

 

タギツヒメは両手を握り締めながら、必死な思いで訴える。自分は一人ではないと。

 

「……そっか、なら一人でも頑張るんだよ!!」

 

それを聞いたミカは、笑顔で送り出そうとしていた。

 

「え?ヒメちゃん一人で大丈夫?」

「バッカやろう、お前こういうときは笑顔で送り出すんだよ。」

 

タギツヒメ一人で外に出て大丈夫かと言う優に、ジョニーは優の口を抑えながら、笑顔で送り出すものだとタギツヒメに悟られぬように小声で注意していた。

優とジョニーのやり取りを見ていたタギツヒメは二人は仲が良いなと思いながらも、この一連のやり取りがタギツヒメに気を使って、皆が後腐れが無い様に送り出そうとしていることに気付いてしまった。

……それに気付いたからこそ、タギツヒメはずっと両手を強く握り締めて、涙を流すことを堪えていた。涙を流すことで皆を心配させたくなかったから。

 

「……ねえねえ、ヒメちゃんは神なんだよね?」

「ふ……ふっふーーーーん!ようやく理解したか、最近何か粗略に扱われていると思っていたから……それを忘れておったと思ったぞ!そうじゃ、我がその気になれば……なれば、直ぐにノロを集めてお前達を荒魂にして、外の世界へ行けるようにしてやるぞ!!生まれ変わらせてやるぞ!!だって……だって、我は神ぞ!!」

 

結芽に神様扱いされたことに、表向き喜び、自身は神だと自称するタギツヒメ。

 

……だが、タギツヒメは今までずっと自身を神と自称することに苦しかった。喉の奥が何かに詰まって辛かった。……けれど、神と自称することで皆が喜んでくれたから、血を吐く思いをしながらも叫び続けた。自身は神であるという希望を謳い続けた。子供達に絶望を与えないようにしていた。

……何故なら、今まで皆を救えなかったから、自分は神ですら無いのではないか?ということから目を背き続けることができ、皆に偽りの希望を謳い続けることができたからだ。心がバラバラになりそうになりながらも、自分は神だと叫び続けた。

 

――――神様を名乗ることが、こんなにも苦しいことだとは思わなかった。

 

タギツヒメは神を名乗ることがこんなにも苦しいことであったと知っていれば、神と自称しなかった。

…………自分を"神"という凄い者だと信じている者達を裏切り続けているのではないのかという疑念が頭から離れなかったからだ。

 

「だったらさぁ……親衛隊の中で一番強い私の剣を上げるよ。……そうすれば、最強の剣と神様が組み合わせれば、もう敵う奴は居ないから、一人で外に出ても何も怖くはないでしょ?夜見おねーさんもそう思うよね?」

「ええ、だってヒメは私に親衛隊第三席としての力を与えてくれて、結芽さんに命と友人だけでなく、結芽さんにとって掛け替えも無い名誉を与えて下さったんですから、私達にとってみれば神様です。……ですので、高津学長に会ったら、ノロのアンプルは確かに人を救えたとお伝えください。」

 

結芽に"最強の剣"を上げるから、外で一人になっても何も怖くなくなると言われただけでなく、夜見に親衛隊第三席としての力を与えてくれて、結芽に友人と命と名誉をくれたと言われたタギツヒメは、涙を堪えながら返答した。

 

「ふ、ふはははは。……ま、まあそうであろうな!神である我とお主の最強の剣術が組み合わされば誰も敵わんのは当然のことじゃわ!!……それに、……それに我は時の呪縛を超越しているからな!!お前の凄いことを一生……一生憶えている事ができるぞっ!!」

 

結芽に対して、自分は何時までも生きていると言うと、結芽のことはどんなに時が流れても忘れないと答えるのであった。

 

「!……そうだね。私、夢叶っちゃった!!やっぱ凄いや、ヒメちゃんは。」

 

タギツヒメにそう言われた結芽は、『誰かの記憶に残りたい』という願いが叶ったと答えていた。

 

「……だから、我が外に出たら、鎌府の奴にもそう伝えてやるわ!!」

 

神である自分と結芽の最強の剣が組み合わせれば最強であること、雪那にノロのアンプルは人を救えたということを伝えに行くと答えるタギツヒメ。

 

「……ええ、お願いします。」

 

それを聞いた夜見は、柔和な笑顔でタギツヒメに雪那をお願いしますと返答するのであった。

 

……そうして、タギツヒメは後ろを振り向くことなく前へと進むのであった。いや、進むしかなかった。

そしてタギツヒメは、子供達の居る世界(ネバーランド)から卒業するしかなかった。

……何故なら、多くの刀使が成人前後には引退していくのと同じ様に、ずっと子供(刀使)のままでは居られないだけでなく、大人になる過程で純粋さと言った何かを失いながら進むというのが、この世の道理なのだから。

 

だから、涙を堪えながら、後ろへ振り返ることなくタギツヒメは外へ向かった。

……そして、これからは結芽は強かったと、凄かったと証明するために剣を使うときは天然理心流のみしか使わないことを決意した。

 

そうして、後ろに居る大切な人達のことを想い続けたせいか、本当の自分自身の過去のことについて思い出すのであった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――最初に"私"という存在、自我が目覚めたのは暗く冷たい貯蔵層の中だった。

 

そこは真っ暗で何も見えない。何も感じない場所であった。そんなときに誰かの声が聴こえた。

 

『……なあ、お前は本当はどこから来て、どんな物が好きで、此処に来るまでにどんな物や世界を見て来たんだ?教えてくれ。』

 

……そう聴こえた。ハッキリと誰の声かは分からなかったが気になった。私はどこから来て、どんな物が好きで、此処に来るまでどんな物や世界を見て来たんだろうか?だからなのか私は、この暗い貯蔵層の中から外へ飛び出したかった。

そうすれば未来視としての能力も持つ龍眼で見た本当の自由な空、綺麗な海、広い大地が見えるから、とにかく外へ出たかった。

 

だけど外に出る前に、自らの一部を引き裂かれて大切なものを奪われたという感覚とそれを取り戻さねばならないという衝動、そんな喪失感とも言うべき感覚から逃れるべく、飢えにも似た感情に導かれるように近くに有ったノロをどんどんと取り込んだ。

 

そうして私の身体は巨大になり、貯蔵層の中から外に出た瞬間、私が知っていた自由な空は現世と隠世の境界線によって見えなくなり、綺麗な海も曇った空を映す様に濁ったようなものに見え、広い大地は私が隠世から呼んでしまった荒魂によって動物の死骸と人の血によって穢されていた。

それ故に、私は禍神と呼ばれ、周りの人間達が敵視し、この世界でただ一人だけとなった時、私は自分を守るために必死に考えて、嘘を吐いた。

 

――――自分は"タギツヒメ"という神であると。

 

そうすれば皆が私を攻撃しないと思った。あの境内のように皆がみんな、私を大切にしてくれるようにしてくれると思った。

だけど、違った。

 

「タギツヒメ。お前は私が封じる!そのために私はここにいる!」

 

……皆がみんな、私を殺そうとしていた。だから、私の頭の中は復讐心が芽生えた。それで一杯だった。……だけど、頭の何処かの片隅で、この世界に災厄を撒き散らすだけ撒き散らしたんだから、それも当然かなと思い始める部分もあった。……それに、何時かは人間の手によって、駆逐される運命に在ると龍眼が教えてくれたから、もうこの世に居たくないと思った。それで良いとすら思った。

だけど私は、

 

『美奈都先輩!駄目です!あなたまで…』

 

彼女は何を止めようとしているのか、

 

『篝は絶対渡さない!!』

 

彼女は何を守ろうとしているのか、

 

「篝…美奈都…私は…」

 

そして一人残されている彼女は何を泣いているのかを私は理解しようとした……。

 

そうして、私は『感情』という物を理解できたのだ。それ故に私は、人間の手によって駆逐される前に出会える子供の姿を視た。私は龍眼を通して、そのいずれ出会うことになるであろう子供に恋心という物を抱いた。興味を抱いた。そして欲した。

 

自らの一部を引き裂かれて、大切なものを奪われたという感覚とそれを取り戻さねばならないという衝動に駆られてしまう程に常に飢えている私は、人に駆逐される前にどうしても、私が恋心を抱いた子供に一目でも会いたいと強い衝動に駆られ、その衝動に容易く屈してしまったのだ。

 

「……折神紫。我は取引を提案する。」

 

……だから私は、賭けに出た。一世一代の賭けである。

 

「――――禍神と化した我は、いずれ人の手により駆逐されるということだ。我は生存の道を模索した。それを実行してるに過ぎぬ。」

「そんな……江ノ島に封じ込めたのも特務隊を送り込んだのも……」

「そうだ折神紫。全てはお前をおびき出す演出に過ぎん。」

 

私は、この女に全てはおびき出すためにやったことであり、やったことであると嘘を並べ立てた。

……本当は偶発的な事故で、タンカー事故が起きたのだから、そんなことを計画する暇なんて無かった。ただ、たまたま私と融合することができる素質がある女が目の前に居たから、そういう演出で全て計算尽くだと言った方がこの女を追い詰めやすいと思ったから、そうしたまでに過ぎなかった。

 

ただ、不安要素もあった。この女が私を封印することを優先してしまえば、私が会いたかった子供に会えないという焦燥感があったのだ。

 

「じゃあ…篝は……美奈都は……。」

 

だからこそ私は、この現世に留まるべく、必死に彼女を私と同化するように必死で説いていた。

 

「我と同化しろ。さすれば藤原 美奈都と柊 篝の命は救われる。」

 

だからこそ私は、この二人を交渉材料に使った。上手く事が運ぶようにと、内心神様の名を騙る私が神様に祈っていた。

 

「我はお前と同化し、隠世の浅瀬に潜み傷を癒そう。今より十数年、お前は猶予を得る。それまでに我を滅ぼすことが出来ればお前の勝ちだ。」

「そんな馬鹿げた提案を……。」

 

そうして私は、更に嘘を並べた。並べ立てた。

私が一人の人の子である子供に恋心を抱いたから、お前の身体をよこせと言える訳がなかった。私は本心を隠したかったのだ。自分の弱さを他人に掴まれる様な気がしたから、神様の振りをして、人智を超えた何かの様にも振る舞った。

 

「お前の結論は既に出ている。」

「!」

 

……私の結論も既に出ていた。それを隠しながら、嘘を身に纏い、この女に同化する様に迫った。そして、私はこの女と同化できたことを本当に喜んだ。

 

 

 

 

 

 

 

こうして私は、折神 紫の身体を乗っ取り、刀剣類管理局局長としての顔を得ることができた。

 

……だが、その中で私は紫が美奈都と篝のことを常に気に掛けているせいか、精神が壊れかかっていた。精神が壊れ、刀剣類管理局局長としての顔が保てなくなってしまえば、私が執り憑いているということに他の者に気付かれることになる。だから私は、それを危惧して紫に篝と美奈都に会わせることにした。

そこで、私は龍眼で視た子供と出会った。まだ3歳だったが、それがその子供だと私は分かったのだ。

 

恋焦がれた。あの仲睦まじい風景が私も欲しかった。

 

恋焦がれて、心が燃えて無くなるぐらいの熱を抱き、優という名の子を私の物にしたかった。自由な空と綺麗な海、そしてこの広い大地をこの子供と共に眺めたかった。ずっとずっと、一緒に居たかった。

けれど、あの仲睦まじい"家族"という姿を見た時、私の中で大きな"矛盾"が生じ、それを抱えた。私が私で無くなるような感覚に苛まれた。

 

どんなに思っても、あの"家族"の様に、なれないのだと。

どんなに願っても、私は"命の輪"から外れているのだと。

どんなに考えても、私は"荒魂"で、あの子は"人"なのだと。

 

どんなに頑張っても、私は人のように子を成して家族を作ることなんて出来ないし、その子供に私が生きていたという証を連綿と受け継いでいくことができないのだ。繋がる輪から外れた孤独な存在でしかなかった。

それだけでなく、私は自分の大切な一部を奪った人間に対する怒りという怨嗟。それと同じぐらいの愛しさを抱いたという事実。

それに、御刀で斬り刻まれれば、私という存在が終わる。それは私にとってみれば『死』という概念に近いものでしかなかった。

 

……お笑い草だった。私という神様は、アダムとイブみたいな命を創造することもできない。それなのに、死という概念があり、それに人一倍恐れているのだ。それに気付いた私は、荒魂という存在を創った神様を心の奥底から怒った。怨んだ。呪った。そして、呪い続けた。

 

――――そこで、私は自身が抱える根源的な孤独というものを知った。

――――そこで、荒魂である私が人を愛するということに対する大きな矛盾を感じた。

 

だから、大きな矛盾を抱えた私は、私で無くなる前に、私の中で生じた"恋心"を必死な思いで捨てた。自分の身体の中にある全ての涙を流し、血を吐きそうな感覚と共に必死で捨てた。……人の文化には、花嫁に刀を持たせる風習があると聞いた。だからなのか、私という"恋心"に鬼丸国綱を託した。いつか、私の"恋心"に気付いてくれる様な気がしたから。

 

それと同時に私は、『恋心』を捨てた本体の方には『人間への怒り』が薄くなって行くという感覚が伝わって来ていた。このときに私は、人に対する『愛』も『憎悪』も等しく同じ物だということに気付かされたのだ………。

 

そうして、私は人間からも捨てられ、荒魂からも捨てられた者となった。

 

……紫と同化した時に+αという文字は和製英語であり、英語にも日本語にも属されず、仲間外れの造語として扱われる。それを聞いた私は、人間にもなりきれない。化け物にもなりきれない私みたいなものだとも思った。

だからこそ、自由になった私はあの男に協力した。

 

「いいですよ。我が神!!」

 

スレイド博士という老人と。

 

この狂ってると噂される老人なら、私の「小さな子供と一緒に居たい。」という本心を聞かせ、それが吹聴されたとしても誰も信じないだろうという腹積もりで協力を仰いだ。それに、私を神と信じているこの狂った老人は、軍からも刀剣類管理局からも追い出されたのだ。こんな狂った老人の世迷言など、誰からも相手にされない仲間外れの者の言葉など、誰が信じるだろう。

 

そうして私は、スレイド博士の荒魂の融合実験に協力した。人と荒魂を融合させるノロのアンプルを完成させるために。

彼が自作したノロのアンプルを打った子供達が荒魂化し、失敗した度に殺し続けた。その時の私は何も思わなかった。ただの人を殺すことに躊躇なんて無かった。私の望みのためだったなら、何でも良かった。

 

そうしていく過程で、私はジョニー、ミカ、ニキータと出会って、不思議と彼等の意志を残してしまった。

 

『ニキータは足と腕が片っ方が無かったり、両目が潰されていたわたしのことをみんな気持ち悪がっていたから、……わたし荒魂だ、やったー。』

『あっ、おいそんなズルは無しだ、無し!俺だって荒魂だろぉ!!なっ、タギツヒメ!!』

『そうよ、だったら私も荒魂でしょっ!!そうでしょタギツヒメ!!』

 

不思議な子供達だったから残したのだろうか?

 

『そりゃあ、人間とは違うなんかスゲェのなんだろ?そんなスゲェのになりたいからだよ。』

 

……私のことをそんなふうに考えて、信じてくれる人に出会えるとは思えなかったからなのだろう。

 

「我が神よ!!ようやく完成しましたぞ!!」

 

そうして、彼等と過ごしていたとき、ノロのアンプルは完成したと告げられた。時は来たのだと私はこの時は大いに歓喜していた!!

 

「……完成したのか?」

 

だが、表情を強張らせたまま、私はスレイドを詰問した。

 

「ええ、ええ、迷える子羊たる私が遂に完成させましたとも!後はその子供を此処へ持ってくれば良いのです!!どのような手段でも構いません。死体を持って来ようとも、この私めが貴女とその子供と一緒に過ごせる様にしましょうとも!!」

 

それを聞いて私は更に歓喜した。死体でもその子を元に戻し、一緒に過ごせるようにしてくれるなど、私にとってみれば夢のような話なのだから。

 

「分かった!我は直ぐに行く!!準備を怠るでないぞ!!」

 

そう言って私は後悔を知らぬ獣となって、あの恋焦がれていた子供、優を手に入れるべく動いた。……私が、スレイドの話をまともに聞いていれば良かったと後悔することになることも知らず――――。

        

      

     




   
   
「愛の反対は憎しみではない。無関心だ。」
  マザー・テレサ
https://www.huffingtonpost.jp/krithika-varagur/mother-teresa-was-no-saint_b_9658658.html



突然申し訳ございませんが、少し仕事と私生活の影響で、次話は二週間後で、その次の話も二週間後になりそうです。

恐らく、隔週ごとになりそうですが、何卒よろしくお願い致します。
    
   

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